アンドレス・ウッドの新作 『蜘蛛』 鑑賞記*ラテンビート2019 ⑭ ― 2019年12月01日 17:49
「1972年はそんなに遠い昔ではありません」とアンドレス・ウッド監督

★サンセバスチャン映画祭SSIFF 2019「ホライズンズ・ラティノ部門」で作品・監督・キャスト紹介はアップ済みですが、今回ラテンビートで実際に『蜘蛛』(原題「Araña」チリ・アルゼンチン・ブラジル、105分)を観て、「1972年はそんなに遠い昔ではありません」とアンドレス・ウッド監督が語っていたことが納得できました。また主役のイネス役にチリ人ではなく、スペインのマリア・バルベルデと、アルゼンチンのメルセデス・モランを起用したには何か訳があるのかと考えさせられました。監督はスペイン公開(11月22日)に合わせて来西、エル・パイス紙以下多くのメディアからインタビューを受けていました。スペイン人は40年という長きにわたって独裁政権を体験しているので、興味深いテーマだったようです。この年月はピノチェト独裁の倍になりますから、観客の受け止め方も世代によって違いがあるようでした。 (管理人10月16日鑑賞)
*「Araña」の紹介記事は、コチラ⇒2019年08月16日
主なキャスト:イネス(マリア・バルベルデ&メルセデス・モラン)、フスト(ガブリエル・ウルスア&フェリペ・アルマス)、ヘラルド(ペドロ・フォンテーヌ&マルセロ・アロンソ)
ストーリー:1970年代初頭のチリ、イネス、夫フスト、友人ヘラルドの3人は、1971年11月成立したサルバドル・アジェンデ政権の打倒を旗印にした国粋主義的な極右グループ「祖国と自由」のメンバーだった。イネスをめぐる危険な三角関係のもつれや裏切りにより3人は袂を分かつことになる。40年後、ねじけた社会正義のため復讐に燃えるヘラルドが起こしたセンセーショナルな事件により、安穏を満喫していたイネスとフストは、社会的名声と豊かさを脅かされることになる。ブルジョア階級のエリート子息たちが、自分たちの特権を守るために陰で画策した闇が語られる。(105分)
「私の国チリは、今でも過去の亡霊が彷徨っている国です」
A: 東京会場第2週目の最初に観た作品、長尺ではありませんでしたが体力が要求される映画でした。南米の「優等生」と言われるチリでは、10月6日に発表された30ペソ(約4.5円)の地下鉄運賃値上げをきっかけにした反政府デモで混乱していました。しかし値上げはきっかけでしかなく、国内の所得格差、高い失業率、年金・教育などに関する政策に関する国民の異議申し立てでした。
B: デモ隊を抑え込もうとして、軍部隊を出動させ、夕方から早朝までの外出禁止令を出したことが、国民にピノチェト時代を思い起こさせたようですね。混乱の鎮静化を図ったことが反対に国民の怒りを買ってしまった。
A: 結果、サンティアゴで開催されるはずだった「APEC」の首脳会談と地球温暖化対策会議「COP25」を、ピニェラ大統領は断念せざるを得ませんでした。監督が本作製作の意図を「私たちは民主主義を失うことへの恐怖をもち続けています」と述べているのと相通じるものがあります。
B: 70年代当時、監督も含めて若者だった世代は納得できないことでも声をあげることをしなかった。しかし今の若者は、「連帯して抗議の意思表示として払わない」と決めてデモを始めた。
A: 公開に先立って来西した折り、「私たちの頭の中は、目の前にニンジンをぶら下げられて走る馬のようでしたが、突然のごとく蜂起して政府を当惑させた」と、チリ国民が起した反政府デモについて語っていた。
B: ウッドの新作『蜘蛛』は、チリの政治システムの不名誉となった過去の泥まみれの恥を説明するのに役に立ちそうです。

(自作を語るアンドレス・ウッド監督、2019年11月20日マドリードにて)
A: イネスたちが所属していた極右グループ<祖国と自由>は、ピノチェト将軍の軍事クーデタが成功した2日後の9月13日にあっさり解散した。何故かというと軍事クーデタのお蔭でブルジョア階級がアジェンデ政権成立前に持っていた有利な権益を回復することができたからです。
B: 彼らはどんな犠牲を払ってでもエリート階級の特権を回復させたかった。安物パイのエンパナーダと赤ワインではなく、高級ウィスキーとキャビアのある生活が必要だった。
A: 彼らのテロリズムや破壊活動が、<ウィスキーとキャビア革命>と言われる所以です。
B: この<祖国と自由>の起源は、リーダーのパブロ・ロドリゲス・グレスが1970年9月10日に結成、翌年4月1日に、社会主義政策を掲げるサルバドル・アジェンデ現政権打倒のためテロリズムと破壊活動を選択したファシストのグループです。
A: 資金は南米の赤化を食い止めたい米CIAからもらっていた。映画の登場人物のモデルは同定できるメンバーもいるようですがフィクションです。クーデタ成功後はピノチェト政権内で活動、民主化後も勿論親玉が裁かれなかったのだから罪は帳消し、今日でも現役で活躍している人もいる。

(形が蜘蛛に似ている祖国と自由のマーク)
B: グループのリーダー的な女性として登場させたイネスのモデルになった人もいますが、お化粧がほどこされているのは当然です。
A: イネスを演じたマリア・バルベルデ(マドリード1987)のキャリアは、作品紹介記事に戻っていただくとして、映画デビューは2003年15歳でしたから結構長い芸歴です。イネスは1970年当時22歳ぐらいに設定されており大分若返りしたことになります。夫フストはかなり年上の28歳、ヘラルドが23歳ということでした。

(イネスとフスト役のガブリエル・ウルスア、背後に祖国と自由のポスター)
B: サンセバスチャン映画祭にはウッド監督の姿は見かけませんでしたが、映画祭開催前にチリでは公開されており、普通このようなケースは賞に絡まない。
A: 赤絨毯を踏んだのはベルベルデと2017年2月に結婚したばかりのベネズエラの指揮者グスタボ・ドゥダメルでした。彼は再婚、2015年に<和解できない意見の相違>で離婚したばかりでした。彼については、その天才ぶりがつとに有名、紹介不要でしょうか。
B: 彼女にとってイネスのような役柄は難しかったのではないですか。
A: 同じスペイン語でもチリ弁独特の訛りがあり、「よく聞き取れないから字幕を入れて」と冗談が言われる。先ず「役作りよりチリのアクセントを学んだ。役作りでもっとも難しかったのは複雑なイネスの人格で、イネスを理解するために自分自身を捨て、イネスを裁かないようにした」と語っていました。

(アツアツぶりを披露したバルベルデとドゥダメルのカップル、SSIFF 2019にて)
B: 名声とお金をほしいままにしている40年後のイネスを演じたメルセデス・モラン(サン・ルイス1955)は、昨年のLBFF、アナ・カッツの『夢のフロリアノポリス』でお馴染みになっている。
A: 冒頭から権勢をほしいままに振る舞う女性実業家を演じて貫禄をしめしていた。40年前に消えたはずのヘラルドが突然現れ、現在の地位を脅かすようになる。孫はともかく息子とは上手くいっていない。過去の秘密を共有する夫は、今や役立たずになっている。
B: むしろ重荷になっている。しかし築いた裏の人脈がものを言う。

(ヘラルド出現に動揺するイネス役のメルセデス・モラン)
A: チリはピノチェトの後、21世紀に入ってからは中道左派のラゴス大統領の後を受けて当選したバチェレが2006年から10年まで、中道右派のピニェラが2010年から14年まで、第2期バチェレが2014年から18年まで、再び第2期ピニェラという具合に左派と右派が交代で政権を執っている。
B: 40年後というのは中道右派である第1期のピニェラ政権時代に相当します。
A: そういう時代背景を知って本作を観ると、イネスの画策が成功するのも分かりやすくなる。2006年12月に死去したピノチェトの葬式を、その年の3月に就任したばかりのバチェレ大統領は国葬にすることを断固拒否したが、陸軍による葬式は認めざるを得なかった。
B: 葬式には極右グループ<祖国と自由>の元メンバーも参列したということでした。チリとはそういう国です。
A: 上述したラゴス大統領は、1987年12月にピノチェトの軍政継続を問う国民投票を実施した立役者の一人です。いわゆる「イエス」か「ノー」選挙です。
B: それをテーマにしてパブロ・ララインが製作したのが『NO』(12)でした。ガエル・ガルシア・ベルナルが出演したこともあって、ラテンビート上映後公開もされた。
A: 『NO』はララインの「ピノチェト政権三部作」の最終編でした。彼の父親はチリでは有名な保守派の大物政治家、母親は第1期ピニェラ政権の閣僚を務めている。つまりラライン一族はチリ富裕層に属している。
B: 40年後のヘラルドを演じたマルセロ・アロンソはチリの俳優、彼は3人の中で唯一エリート階級に属していない登場人物でした。自分たちの手はなるたけ汚さずにすませたいブルジョアの子息たちに利用される役目。
A: 『トニー・マネロ』や『ザ・クラブ』、『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』などラライン映画の常連です。狂気の目が印象的でしたが、実際にこういう立ち位置のメンバーがいたのかどうか。

(40年間持続しつづけていた復讐と狂気の人、ヘラルド役のマルセロ・アロンソ)
B: チリ映画の躍進は目覚ましいものがありますが、才能流失は今も昔も続いている。経済格差にも拘わらず不寛容な社会が続いている。
A: アンドレス・ウッドの久々の長編映画ですが、本作を手掛ける前の数年間はプロデューサーとしてTVドラマシリーズ「Mary y Mike」(18、メアリとマイク)を製作していた。ピノチェト時代に組織されたDINA(チリの国家情報局)のエリート諜報員マリアナ・カジェハスと元CIAスパイの米国人マイケル・タウンリーという実在した夫婦の物語でした。

(「Mary y Mike」のポスター)
B: 反ピノチェト派の殺害を子供も暮らしていた自宅の隠し部屋で遂行したという大胆不敵なカップルだった。ウッド監督は『マチュカ―僕らの革命―』(04)だけでなく軍事政権時代に拘っている監督。
A: このTVドラマも『蜘蛛』同様、独裁政権側の視点から描いている。ベルリン映画祭2018「ドラマ・シリーズ・デイ」で上映された。チリのTVドラマがベルリンで紹介される第1号でした。
*「Mary y Mike」の紹介記事は、コチラ⇒2018年03月04日

(『マチュカ―僕らと革命―』 のポスター)
B: チリで起こっていることは多くの要因が重なっている。過去の影が今日でも浮遊していることがチリを分かりにくくさせている。チリの独裁政権を糾弾し続けているパトリシア・グスマンの『光のノスタルジア』(10)『真珠のボタン』(15)も忘れるわけにいきません。
A: 才能流失組の大物、老いを感じさせないドキュメンタリー作家グスマンの最新作「La Cordillera de los sueños」は、カンヌ映画祭2019で特別上映された。ウッド監督が「気をつけて、政治的ライバルを見誤ることは重大な誤りです。私たちはピノチェトの知性を軽視しました。それは間違いでした」と警告したことを忘れないでおこう。
第7回フェロス賞2020*ノミネーション発表 ― 2019年12月02日 17:44
アルモドバルの「Dolor y gloria」が最多の10部門ノミネート

★去る11月29日、第7回フェロス賞2020のノミネーション発表がありました。昨年は12月に入ってからの発表でしたが若干早まりました。授賞式は2020年1月16日マドリードのアルコベンダス、総合司会は女優のマリア・エルバスです。選考母体はAICE(スペイン映画ジャーナリスト協会)と米ゴールデン・グローブ賞に性格が似ています。ゴヤ賞とはカテゴリーの種類が異なり、映画とTVシリーズ、フィクション部門もドラマとコメディに分かれるなどの違いがあります。ノミネーションは映画のみにして、結果は Netflix などでTVシリーズを観る機会も最近増えているのでアップしたい。

(AICE会長のマリア・ゲーラと女優のグレタ・フェルナンデス)
★アルモドバルの「Dolor y gloria」が最多の10個、数と受賞は必ずしも一致しませんが、今回は一致する予感がします。アントニオ・バンデラスの主演男優賞受賞ももう決りでしょうか。東京国際映画祭とラテンビートで上映されているアリッツ・モレノの『列車旅行のすすめ』の7個にも驚かされました。

(アントニオ・バンデラス、「Dolor y gloria」から)
*映画*(11カテゴリー)
◎作品賞(ドラマ部門6作)
Dolor y gloria El Primer Deseo AIE / El Deseo DASLU (10個)
El hoyo(The Platform) Basque Films (6個)
La trinchera infinita Irusoin / La Claqueta / Manny Films / Moriarti Produkzioak(6個)
Lo que arde Miramemira, SL / Kowalski Filma / 4 a 4 Productions / Tarantura Luxemburgo
『ファイアー・ウィル・カム』(5個)
Los días que vendrán Avalon PC / Lastor Media SL
Quien a hierro mata Vaca Films / Atresmedia Cine, SLU
◎作品賞(コメディ部門5作)
Diecisiete Atípica Films 監督:ダニエル・サンチェス・アレバロ『SEVENTEEN セブンティーン』
El incríble finde menguante Montreux Entertainment / Trepamuros Producciones
Litus A Contracorriente Films / SL AlamoPASL / Neón Producciones SL
監督:ダニエル・デ・ラ・オルデン
Lo dejo cuando quiera Telecinco Cinemas, SAU / Mod Pictures, Mod Producciones, SL
Ventajas de viajar en tren Morena Films / Señor y Señora, SL 『列車旅行のすすめ』(7個)
◎監督賞
ペドロ・アルモドバル 「Dolor y gloria」
ジョン・ガラーニョ、ホセ・マリ・ゴエナガ、アイトル・アレギ 「La trinchera infinita」
ガルデル・ガステル⋍ウルティア 「El hoyo(The Platform)」
オリベル・ラシェ 『ファイアー・ウィル・カム』
アリッツ・モレノ 『列車旅行のすすめ』
◎主演女優賞
ピラール・カストロ 『列車旅行のすすめ』
ベレン・クエスタ 「La trinchera infinita」
グレタ・フェルナンデス 「La hija de un ladrón」 監督:ベレン・フネス
マルタ・ニエト 「Madre」 監督:ロドリゴ・ソロゴジェン
マリア・ロドリゲス・ソト 「Los días que vendrán」 監督:カルロス・マルケス=マルセ
◎主演男優賞
アントニオ・バンデラス 「Dolor y gloria」
アントニオ・デ・ラ・トーレ 「La trinchera infinita」
カラ・エレハルデ 『戦争のさなかで』(4個)
ルイス・トサール 「Quien a hierro mata」 監督:パコ・プラサ
ダビ・ベルダゲル 「Los días que vendrán」
◎助演女優賞
ペネロペ・クルス 「Dolor y gloria」
モナ・マルティネス 「Adiós」
ライア・マルル 「La inocencia」
アントニア・サン・フアン 「El hoyo(The Platform)」
フリエタ・セラノ 「Dolor y gloria」
◎助演男優賞
エンリク・アウケル 「Quien a hierro mata」
アシエル・エチェアンディア 「Dolor y gloria」
エドゥアルド・フェルナンデス 『戦争のさなかで』
キム・グティエレス 『列車旅行のすすめ』
レオナルド・スバラグリア 「Dolor y gloria」
◎脚本賞
ペドロ・アルモドバル 「Dolor y gloria」
ダビ・デソラ&ペドロ・リベロ 「El hoyo(The Platform)」
ホセ・マリ・ゴエナガ&ルイソ・ベルデホ 「La trinchera infinita」
オリベル・ラシェ&サンティアゴ・フィリョル 『ファイアー・ウィル・カム』
ハビエル・グジョン 『列車旅行のすすめ』
◎オリジナル音楽賞
セルティア・モンテス 「Adiós」
アルトゥーロ・カルデルス 「Buñuel en el laberinto de las tortugas」
アルベルト・イグレシアス 「Dolor y gloria」
パスカル・ゲーニュ 「La trinchera infinita」
アレハンドロ・アメナバル 『戦争のさなかで』
クリストバル・タピア・デ・ベエル 『列車旅行のすすめ』
◎予告編賞
ミゲル・アンヘル・トゥルドゥ 「Adiós」
ホルヘ・ルエンゴ 「Dolor y gloria」
ラウル・ロペス 「El hoyo(The Platform)」
マルコス・フロレス 『ファイアー・ウィル・カム』
ラファ・マルティネス 『戦争のさなかで』
◎ポスター賞
ミゲル・ナビア 「El crack cero」
エドゥアルド・ガルシア 「El hoyo(The Platform)」
ラウラ・レナウ 『8月のエバ』 監督:ホナス・トゥルエバ
アイトル・エラスキン&カルロス・イダルゴ 『ファイアー・ウィル・カム』
ホセ・アンヘル・ペーニャ 『列車旅行のすすめ』
★以上11カテゴリーです。最多のアルモドバルの新作は同じカテゴリーに複数でノミネートされているのでそれを差し引くと8部門です。それにしても多い。いずれにしろ来年には公開されるでしょう。作品賞(ドラマ)の中で当ブログで記事にしなかったのに6個もノミネートされたガルデル・ガステル⋍ウルティアの「El hoyo(The Platform)」は、ホラー・スリラー、SF映画のようでトロント映画祭の「ミッドナイト・マッドネス」で観客賞を受賞、続くシッチェス映画祭で作品賞を受賞しました。ノミネートされている予告編を見ただけでも興味が惹かれる。アントニア・サン・フアンの怪演に久しぶりに対面しました。これも本邦上陸するでしょう。

(「El hoyo(The Platform)」のポスター)
★TVシリーズ(6カテゴリー)は、Netflix で配信されている『パキータ・サラス』や『ペーパー・ハウス』が、今年も候補に挙がっています。結果発表後、受賞作品だけアップします。
コロンビア映画 『猿』 鑑賞記*ラテンビート2019 ⑮ ― 2019年12月06日 17:35
アレハンドロ・ランデスの第3作目『猿』――背景はコロンビア内戦

★アレハンドロ・ランデスの第3作目『猿』は、年初に開催されるサンダンス映画祭2019「ワールド・シネマ・ドラマ」部門で審査員特別賞を受賞して以来、国内外の映画祭にノミネートされ作品賞または観客賞などのトロフィーを手にしている。当ブログではサンセバスチャン映画祭SSIFF「ホライズンズ・ラティノ」部門にノミネートされた折り、原題「Monos」で監督及び作品紹介をしております。製作国はコロンビアの他、アルゼンチン、オランダ、デンマーク、スウェーデン、独、ウルグアイ、米の8ヵ国。第92回米アカデミー賞国際長編映画賞、ゴヤ賞2020イベロアメリカ映画賞のコロンビア代表作品。
*「Monos」のオリジナル・タイトルでの紹介記事は、コチラ⇒2019年08月21日

(アレハンドロ・ランデス監督)
主なキャスト:ジュリアンヌ・ニコルソン(ドクター、サラ・ワトソン)、モイセス・アリアス(パタグランデ、ビッグフット)、フリアン・ヒラルド(ロボ、ウルフ)、ソフィア・ブエナベントゥラ(ランボー)、カレン・キンテロ(レイデイ、レディ)、ラウラ・カストリジョン(スエカ、スウェーデン人)、デイビー・ルエダ(ピトゥフォ)、パウル・クビデス(ペロ、ドッグ)、スネイデル・カストロ(ブーンブーン)、ウィルソン・サラサール(伝令、メッセンジャー)、ホルヘ・ラモン(金探索者)、バレリア・ディアナ・ソロモノフ(ジャーナリスト)、他
ストーリー:一見すると夏のキャンプ場のように見える険しい山の頂上、武装した8人の若者ゲリラ兵のグループ「ロス・モノス」が、私設軍隊パラミリタールの軍曹の監視のもと共同生活を送っている。彼らのミッションは唯一つ、人質として拉致されてきたアメリカ人ドクター、サラ・ワトソン逃亡の見張りをすることである。この危険なミッションが始まると、メンバー間の信頼は揺らぎ始め、疑心暗鬼が芽生え、次第にサバイバルゲームの様相を呈してくる。(102分)
自国の内戦を描く――『蠅の王』にインスパイアーされて
A: アレハンドロ・ランデスはサンパウロ生れ(1980)ですが、父親はエクアドル出身、母親がコロンビア人ということです。コロンビア公開(8月15日)時に監督自身が語ったところによると「戦争映画はベトナムは米国が、アフリカはフランスが撮っているが、自分たちはコロンビアの戦争をコロンビア人の視点で作る必然性があった」と語っていました。
B: コロンビアの戦争というのは、20世紀後半から半世紀以上も吹き荒れたコロンビア内戦のこと、南米で最も危険なビオレンシアの国と言われた内戦のことです。
A: この内戦は、反政府勢力コロンビア革命軍FARC誕生の1966年から和平合意の2016年11月までの約半世紀を指しますが、麻薬密売が資金源だったことで麻薬戦争とも言われています。現在でも500万人という国内難民が存在しているという。
B: 丁度ノーベル賞の季節ですから触れますと、和平合意に尽力したことでサントス大統領が2016年のノーベル平和賞を受賞した。随分昔のように感じますが、ついこないだのことです。
A: ラテンビート上映後、フランシス・フォード・コッポラの『地獄の黙示録』の原作となったジョセフ・コンラッドの『闇の奥』(1902刊)を思い出したとツイートしている方がおられました。しかしコンラッドの原作にあるような「心の闇」は皆無とは言わないが希薄だったように思いました。
B: 社会と隔絶された山奥、登場人物を若者グループにするなど、舞台装置はウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』(1954刊)を思い起こさせた。しかし少年たちは飛行機事故をきっかけに偶然太平洋上の無人島でサバイバルゲームを余儀なくされるわけで、そもそもの発想が異なる。
A: 対立や裏切り、一見民主的に見えるリーダーの選出法、殺人機械になるための訓練など、閉塞された空間にいる人間の暗部を描いている点は同じです。あちらは豚の生首、こちらは乳牛シャキーラと異なるけど。(笑)
B: 大切な乳牛の世話もできない幼稚さ愚かさ、それが引き金になってリーダーのロボ(フリアン・ヒラルド)の自殺、伝令(ウィルソン・サラサール)への保身の嘘が始りで、グループは崩壊への道を歩むことになる。
A: ナンバー2のパタグランデ(モイセス・アリアス)の出番、リーダーを2人設定したのも小説と似ています。監督は影響を認めつつも「インスパイアーされた」と語っている。以前から「若者を主役にして戦闘やメロドラマを盛り込んだ目眩を起こさせるようなセンセショーナルな作品を探していた。私たちの映画にはあまり観想的ではなくてもアドレナリンは注入したかった。ジャンル的には戦闘とアクションを取り込んで、観客は正当性には駆られないだろうから、皮膚がピリピリするようなものにしたかった」とランデス監督は語っていた。
B: 目眩は別としてアドレナリンはどくどくだった。メロドラマというのはリーダーのロボ(ウルフ)とレディ(カレン・キンテロ)の結婚、ウルフ亡き後のランボーとの性愛などですか。

(新リーダーになるパタグランデ役のモイセス・アリアス)

(レディ役のカレン・キンテロ)
A: ランボーを演じた丸刈りのソフィア・ブエナベントゥラは映画初出演、まだ大学生とのこと。男性に偽装しているレズビアンか、両性具有なのか映画からはよく分からなかった。ベルリン映画祭パノラマ部門で上映されたとき受賞はならなかったがLGBTを扱った映画に贈られる「テディー賞」の対象作品だった。サンセバスチャン映画祭では同じ性格の賞「セバスチャン賞」を受賞している。
B: ブエナベントゥラは、ニューポート・ビーチ映画祭で審査員女優賞を受賞している。8人の中で心の闇を抱えている複雑な役柄を演じて、記憶に残るコマンドだった。彼女のように戦闘に疑問を感じる逃亡者は当然いたわけで、拾われた金探索者の家族とテレビを見るシーンが印象的だった。この家族のように紛争に巻き込まれた犠牲者はあまたいたわけで、その象徴として登場させていた。

(ランボー役のソフィア・ブエナベントゥラ)

(左から、ウィルソン・サラサール、モイセス・アリアス、ランデス監督、
ソフィア・ブエナベントゥラ、ベルリン映画祭2019のフォトコールから)
A: 人質の米人サラ・ワトソンの救出劇は、2008年のヘリコプター使用のイングリッド・ベタンクールと3人のアメリカ人救出劇を彷彿とさせた。FARC側の短波通信網に偽の情報を流して混乱させ救出を成功させた。国土はブラジルに次いで広く、多くが険しい山岳やアマゾンのジャングル地帯、有効なのは短波通信だけでした。
B: パタグランデたちが従っている自分たちには顔の見えない指令機関からの独立を宣言する。通信手段のラジオを破壊して通信網を遮断するが、それが命取りになる。戦闘部隊は細分化され小型化され、彼らのように消滅していった。
脚本を読んだ瞬間に魅せられコロンビアにやって来た――J.ウルフ撮影監督
A: 映画はコロンビア中央部のクンディナマルカ県、アンデス山系東部に位置する標高4020メートルのパラマ・デ・チンガサ頂上の雲の上から始まり、カメラはジャングルの奥深く移動する。冒頭で二つの舞台でドラマが展開することを観客に知らせる見事な導入でした。ジャスパー・ウルフの映像は批評家のみならず観客をも魅了した。
B: その厳しさ険しさから現地に撮影隊が入ったのは初めてだそうです。


A: ゲリラ兵の掩蔽壕があるパラモ・デ・チンガサは美しく別世界のようであったが、荒々しく寒く、天候は気まぐれで、目まぐるしく晴、雨、霧の繰り返し、反対にサマナ・ノルテ川のジャングル地帯は高温多湿で蒸し暑く、流れも早かったとウルフは語っています。
B: スエカ(ラウラ・カストリジョン)と彼女の監視下に置かれた人質ドクター(ジュリアンヌ・ニコルソン)が激流の中で争うシーンから想像できます。

(人質サラ・ワトソン役のジュリアンヌ・ニコルソン)
A: あのシーンの「視覚的なインパクトは象徴的な力から得られます」とウルフは語っている。かなりの急流で演じるほうも残酷な条件だったろうと思います。


(視覚的なインパクトのあった水中シーンから)
B: コロンビア人ではなくオランダ人の撮影監督ということですが、キャリアとかランデス監督との接点は?
A: 生年は検索できませんでしたが、アムステルダム大学(1994~96)とオランダ映画アカデミー(1997~01)で撮影を学んでいますから1970年代後半の生れでしょうか。本作がニューポート・ビーチFFで審査員撮影賞を受賞していますが、既にオランダ映画祭2011でポーランド出身ですがオランダで活躍しているUrszula Antoniakの「Code Blue」でゴールデンCalf賞を受賞している。二人の接点は、同じ年のワールド・シネマ・アムステルダムにランデス監督が出品した長編劇映画としてはデビュー作になる「Porfirio」が、審査員賞を受賞している。
B: あくまで憶測の域を出ませんね。脚本を読んだ瞬間に魅せられて、ジャスパー・ウルフは即座にコロンビアへの旅を決心したと語っています。ランデスがあらかじめ準備したショットリストを土台にして進行し、「私たちは大胆で、怖れ知らず」だったとも。
A: 最初に考えていたステディカムの使用を再考して、構図も厳格に、俳優にできるだけ近づき彼らの目や体から放射されるエネルギーを吸収することに専念した。
B: 山頂のシーンでは、広角シネマスコープで撮影しており、暗い場所での撮影ではレンズの絞りを調整していた。これからの活躍が楽しみな撮影監督でした。

(山頂で戦闘訓練をする8人のコマンドと伝令のウィルソン・サラサール)
若いゲリラ兵の視点と感情で描いた主観的な戦争寓話
A: 極寒の地の厳しささのなかで、武器を持たされ軍事訓練を受ける若者のグループは、ついこの間までコロンビアに吹き荒れていた内戦のドラマ化と容易に結びつく。
B: あくまでフィクション、監督の主観的な戦争寓話として提出されている。
A: 音楽のミカ・レビはロンドン生れ。ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭BAFICI でオリジナル音楽賞を受賞している。パブロ・ララインの『ジャッキー ファーストレディ 最後の使命』を手掛けており、バイオリニストでもある。
B: ベルリン映画祭にはスタッフも大勢参加しており、監督を含めて4人のプロデューサー、編集も手掛けるベテランのフェルナンド・エプスタイン、長編デビューのサンティアゴ・サパタ、本作デビューのクリスティナ・ランデス、などがフォトコールされていた。

A: これからも受賞歴が追加されていくでしょう。ゴヤ賞2020もポルトガルを含めてイベロアメリカ映画賞部門の各国代表作品は出揃いましたが、現在のところ最終候補は発表されておりません。今年は例年より早まって、1月25日(土)マラガ開催、総合司会は昨年と同じシルビア・アブリル&アンドレウ・ブエナフエンテのカップルがアナウンスされています。
訂正:12月2日ノミネーションが発表になっていました。ラテンビート上映からは、『猿』と『蜘蛛』が入りました。次回全体をアップします。
追加情報:2021年10月30日『MONOS 猿と呼ばれし者たち』の邦題で公開されました。
第34回ゴヤ賞2020*ノミネーション発表 ① ― 2019年12月09日 11:14
ノミネーション最多はアメナバルの『戦争のさなかで』の17個

★去る12月2日、第34回ゴヤ賞2020のノミネーション(28部門)の発表がありました。授賞式が例年よりⅰ週間早い1月25日(土)、それに連れてノミネーション発表も早まりました。開催地はアンダルシアのマラガ、昨年のセビーリャに続いてマドリード以外の都市で開催されます。ノミネーション発表は、俳優のエレナ・アナヤとミゲル・エランにより、スペイン映画アカデミーの本部で行われました。スペイン映画の対象作品は146作(ドラマ88作、ドキュメンタリー55作、アニメーション3作)、イベロアメリカ映画は15作、ヨーロッパ映画は53作、短編映画35作、うち56作が監督第1作でした。授賞式の総合司会は昨年に引き続き、シルビア・アブリルとアンドレウ・ブエナフエンテのコメディアン・カップルが仕切ります。

(ノミネーション・プレゼンターのエレナ・アナヤとミゲル・エラン)

(書記エバ・サンス、M・ロペスエラン、映画アカデミー会長マリアノ・バロッソ、E・アナヤ)
★ノミネーション最多は、アメナバルの『戦争のさなかで』の17カテゴリー、続いてアルモドバルの「Dolor y gloria」の16個、アイトル・アレギ、ジョン・ガラーニョ、ホセ・マリ・ゴエナガの「La trinchera infinita」の15個が続いています。数の多寡だけでは占えませんが、この3作が中心になって展開されるものと思います。ラテンビートで上映された、オリベル・ラシェの『ファイアー・ウィル・カム』も作品・監督・新人女優・撮影賞の4カテゴリー、アリッツ・モレノの『列車旅行のすすめ』も新人監督・脚色・美術・メイク&ヘアー賞の4カテゴリーにノミネートされています。数ではアメナバルが優位ですが、下馬評ではどうやらアルモドバル優位ということです。兄弟揃ってノミネーション発表に出席するのは珍しい。映画アカデミーとぎくしゃくしていた時代には、自作がノミネートされていても授賞式を欠席していた監督でした。

(揃って会場に現れたアルモドバル兄弟の珍しいツーショット、12月2日)
★ラテンビート絡みでは、アンドレス・ウッドの『蜘蛛』(チリ)とアレハンドロ・ランデスの『猿』(コロンビア)が生き残り、他はフォルケ賞にも選ばれていたセバスティアン・ボレンステインの「La odisea de los giles」(アルゼンチン)、意外だったのがマラガ映画祭2019で初登場したアントネジャ・スダサシの「El despertar de las hormigas」(コスタリカ)でした。コスタリカ大学でオーディオビジュアル製作を専攻、スペイン語の他イタリア語、英語、ドイツ語が堪能、2017年にベルリン映画祭のタレント養成に参加して本作を撮ったそうです。ベルリンFF、マラガFF、シアトルFFに正式出品した。
第34回ゴヤ賞ノミネーション(28部門、★は紹介記事をアップしている作品)
◎作品賞(作品賞のみ5ノミネート)
「Dolor y gloria」★
「Intemperie」★
「La trinchera infinita」★
「Lo que arde」(『ファイアー・ウィル・カム』)★
「Mientras dure la guerra」(『戦争のさなかで』)★

◎監督賞
ペドロ・アルモドバル(「Dolor y gloria」)
アイトル・アレギ、ジョン・ガラーニョ、ホセ・マリ・ゴエナガ(「La trinchera infinita」)
オリベル・ラシェ(『ファイアー・ウィル・カム』)
アレハンドロ・アメナバル(『戦争のさなかで』)
◎新人監督賞
サルバドール・シモー(「Buñuel en el laberinto de las tortugas」)
ガルデル・ガステル=ウルティア (「El hoyo」)★
ベレン・フネス(「La hija de un ladrón」)★
アリッツ・モレノ(「Ventajas de viajar en tren」『列車旅行のすすめ』)★
◎オリジナル脚本賞
ペドロ・アルモドバル(「Dolor y gloria」)
ダビ・デソラ&ペドロ・リベロ(「El hoyo」)
ホセ・マリ・ゴエナガ&ルイソ・ベルデホ(「La trinchera infinita」)
アレハンドロ・アメナバル&アレハンドロ・エルナンデス(『戦争のさなかで』)
◎脚色賞
エリヒオ・モンテロ&サルバドール・シモー(「Buñuel en el laberinto de las tortugas」)
ベニト・サンブラノ、ダニエル・レモン、パブロ・レモン(「Intemperie」監督サンブラノ)
イサベル・ペーニャ&ロドリゴ・ソロゴジェン(「Madre」監督ロドリゴ・ソロゴジェン)
ハビエル・グジョン(『列車旅行のすすめ』)
◎オリジナル作曲賞
アルトゥーロ・カルデルス(「Buñuel en el laberinto de las tortugas」)
アルベルト・イグレシアス(「Dolor y gloria」)
パスカル・ゲーニュ(「La trinchera infinita」)
アレハンドロ・アメナバル(『戦争のさなかで』)
◎オリジナル歌曲賞
「Intemperie」ハビエル・ルイバル(「Intemperie」)
「Invisible」カロリネ・ペルネル、Jussi Llmari Karvinen、Justin Tranter(「Klaus」)
「Allli en la arena」トニ・M.ミル(「La inocencia」監督パロマ・フアネス)★
「Nana de las dos lunas」セリヒオ・デ・ラ・プエンテ(「La noche de las dos lunas」)
◎主演男優賞
アントニオ・バンデラス(「Dolor y gloria」)
アントニオ・デ・ラ・トーレ(「La trinchera infinita」)
カラ・エレハルデ(『戦争のさなかで』)
ルイス・トサール(「Quien a hierro mata」)

◎主演女優賞
ペネロペ・クルス(「Dolor y gloria」)
グレタ・フェルナンデス(「La hija de un ladrón」)★
ベレン・クエスタ(「La trinchera infinita」)
マルタ・ニエト(「Madre」)監督ロドリゴ・ソロゴジェン

◎助演男優賞
アシエル・エチェアンディア(「Dolor y gloria」)
レオナルド・スバラグリア(「Dolor y gloria」)
ルイス・カジェホ(「Intemperie」)
エドゥアルド・フェルナンデス(『戦争のさなかで』)
◎助演女優賞
モナ・マルティネス(「Adiós」監督パコ・カベサス)
ナタリア・デ・モリーナ(「Adiós」)
フリエタ・セラノ(「Dolor y gloria」)
ナタリエ・ポサ(『戦争のさなかで』)
◎新人男優賞
ナチョ・サンチェス(「Diecisiete」『SEVENTEENセブンティーン』Netflix)★
監督ダニエル・サンチェス・アレバロ
ビセンテ・ベルガラ(「La trinchera infinita」)
サンティ・プレゴ(『戦争のさなかで』)
エンリク・アウケル(「Quien a hierro mata」)
◎新人女優賞
ピラール・ゴメス(「Adiós」)
カルメ・アルファト(「La inocencia」監督ルシア・アレマニー)★
ベネディクタ・サンチェス(『ファイアー・ウィル・カム』)
アイノア・サンタマリア(『戦争のさなかで』)
◎プロダクション賞
トニ・ノベリャ(「Dolor y gloria」)
マノロ・リモン(「Intemperie」)
アンデル・システィアガ(「La trinchera infinita」)
カルラ・ぺレス・デ・アルベニス(『戦争のさなかで』)
◎撮影賞
ホセ・ルイス・アルカイネ(「Dolor y gloria」)
ハビ・アギレ・エラウソ(「La trinchera infinita」)
マウロ・エルセ(『ファイアー・ウィル・カム』)
アレックス・カタラン(『戦争のさなかで』)
◎編集賞
テレサ・フォント(「Dolor y gloria」)
ラウレント・ドゥフレチェ&ラウル・ロペス(「La trinchera infinita」)
アルベルト・デル・カンポ(「Madre」)
カロリナ・マルティネス・ウルビナ(『戦争のさなかで』)
◎美術賞
アンション(アンチョン)・ゴメス(「Dolor y gloria」)
ペペ・ドミンゲス(「La trinchera infinita」)
フアン・ペドロ・デ・ガスパー(『戦争のさなかで』)
ミケル・セラーノ(『列車旅行のすすめ』)
◎衣装デザイン賞
パオラ・トレス(「Dolor y gloria」)
ロウルデス・フエンテス&サイオア・ララ(「La trinchera infinita」)
ソニア・グランデ(『戦争のさなかで』)
アルベルト・バルカルセル(「Paradise Hills」監督アリス・Waddington)
◎メイク&ヘアー賞
アナ・ロサノ、セルヒオ・ぺレス・ベルベル、モンセ・リベ(「Dolor y gloria」)
ヨランダ・ピニャ、フェリックス・テレノ、ナチョ・ディアス(「La trinchera infinita」)
アナ・ロペス⋍プイグセルベル、ベレン・ロペス・プイグセルベル、ナチョ・ディアス
(『戦争のさなかで』)
カルメレ・ソレル&オルガ・クルス(『列車旅行のすすめ』)
◎録音賞
セルヒオ・ブルマン、ペラヨ・グティエレス、マルク・オルツ(「Dolor y gloria」)
イニャーキ・ディエス、アラスネ・アメストイ、サンティ・サルバドール他
(「La trinchera infinita」)
アイトル・べレンゲル&ガブリエル・グティエレス(『戦争のさなかで』)
ダビ・マチャード、ガブリエル・グティエレス、ヤスミナ・プラデラス
(「Quien a hierro mata」)
◎特殊効果賞
「El hoyo」
「La trinchera infinita」
『戦争のさなかで』
「Perdiendo el Este」
◎アニメーション賞
「Buñuel en el laberinto de las tortugas」監督サルバドール・シモー
「Elcanoy Magallanes: la primera vuelta al mundo」監督アンヘル・アロンソ
「Klaus」監督セルヒオ・パブロス
◎ドキュメンタリー賞
「Ara Malikian una vida entre las cuerdas」監督ナタ・モレノ
「Aute retrato」監督ガイスカ・ウレスティ
「El cuadro」監督アンドレス・サンス
「Historias de nuestro cine」監督アナ・ぺレス⋍ロレンテ&アントニオ・レシネス
◎イベロアメリカ映画賞
「Araña」『蜘蛛』監督アンドレス・ウッド(チリ)★
「El despertar de las hormigas」監督アントネジャ・スダサシ(コスタリカ)
「La odisea de los giles」監督セバスティアン・ボレンステイン(アルゼンチン)★
「Monos」『猿』監督アレハンドロ・ランデス(コロンビア)★
◎ヨーロッパ映画賞
「Border」『ボーダー 二つの世界』 監督アリ・アバッシ(スウェーデン)
「Les Misérabbles」『レ・ミゼラブル』 監督ラジ・リLadj Ly(フランス)
「Portrait of a Lady on Fire」 監督セリーヌ・シアマ(フランス)
「Yesterday」 監督ダニー-・ボイル(イギリス)
◎短編映画賞
「El nadador」
「Foreigner」
「Maras」
「Suc de Sindria」
「Xiao Xian」
◎短編ドキュメンタリー賞
「2001 destellos en la oscuridad」
「El infierno」
「El sueño europeo: Serbia」
「Nuestra vida como niños refugiados en Europa」
◎短編アニメーション賞
「El árbol de las almas perdidad」
「Homomaquia」
「Madrid 2120」
「Muedra」
★短編はタイトルだけにしました。主なカテゴリーごとに気になる作品、俳優などを少しずつアップしたいと思います。次回は作品賞でノーマークだったベニト・サンブラノの「Intemperie」から。スリラー仕立てのウエスタン、ルイス・トサール、ハイメ・ロペス、助演男優賞ノミネートのルイス・カジェホなどがクレジットされています。
ゴヤ栄誉賞はペパ・フローレス<マリソル>に*ゴヤ賞2020 ② ― 2019年12月13日 14:46
ゴヤ栄誉賞2020はマラゲーニャの女優&歌手、ペパ・フローレスに

(ペパ・フローレス、マリオ・カムスの「Los días del pasado」から)
★ゴヤ栄誉賞は10月下旬に発表になっておりましたが、ノミネーション発表に合わせてアップしようと思いながら忘れてしまいました。次回はベニト・サンブラノの「Intemperie」と予告しましたが栄誉賞に変更します。本名のペパ・フローレスより天才少女マリソルのほうで親しまれている、1948年マラガ生れのマラゲーニャの女優&歌手が受賞します。ブロンドの髪、青い目の美少女、歌えて踊れる天才子役として60年代のミュージカル・コメディを牽引しました。70年代には大人の女優として、フアン・アントニオ・バルデム、マリオ・カムス、カルロス・サウラなどスペイン映画史に名を残す監督に起用されました。
★「忘れられない彼女の演技、一般大衆から最も愛され記憶に残る女優の一人」が授賞理由でした。彼女のように35年前の1985年に銀幕引退した俳優が受賞するのは珍しくことです。2020年のガラ開催地がマラガということも関係しているのかもしれません。日本ではCDが入手しやすいことから女優というより歌手のほうが有名でしょうか。受賞のニュースを聞いて「認められたことは非常に光栄です、映画アカデミーに感謝の言葉と共に、これからの我が国の映画発展を願っております」とコメントしました。

★小さい頃から歌とフラメンコの才能を発揮、姉弟で「合唱と踊り」のグループを結成してTVE出演、1959年マドリードで製作者のマヌエル・ホセ・ゴヤネス・マルティネスの目に留まり、ルイス・ルシア監督のミュージカル・コメディ「Un rayo de luz」の主役に抜擢された。ベネチア映画祭1960で、いきなり最優秀児童女優賞を12歳で受賞、これがマリソル神話の始りでした。日本では1967年『太陽は泣かない』の邦題で公開さている。アメリカの人気TV番組「エド・サリバン・ショー」にも出演、ルシア監督の「Ha llegado un ángel」(61)、「Tómbola」(62)、「Las cuatro bodas de Marisol」(67)、「Solos los dos」(68)などに出演している。10代半ばは出ずっぱり、強度のストレスと疲労から15歳で胃潰瘍に罹り、映画界を去るつもりだったと語っている。

(デビュー作「Un rayo de luz」のポスター)
★ルイス・ルシア監督作品以外では、フェルナンド・パラシオスの「Marisol rumbo a Rio」(63)、オードリー・ヘップバーンと結婚していた時期(1954~68)もある、アメリカの俳優、プロデューサー、監督メル・ファーラーがスペイン語で撮ったミュージカル・コメディ「Cabriola」(65)、ハイメ・デ・アルミリャンのデビュー作「Carola de dia, Carola de noche」(69)などで主役を演じている。

(ハイメ・デ・アルミリャンの「Carola de dia, Carola de noche」)
★70年代に入ってからは、フアン・アントニオ・バルデムのホラー・ミステリー「La corrupción de Chris Miller」(72)にジーン・セバーグと姉妹を演じた。1973年には最後のミュージカル映画となる、エウヘニオ・マルティンの「La chica del Molino Rojo」で、今度は俳優出演のメル・ファーラーと共演した。彼の父親がキューバ出身ということもありスペイン語ができた。

(ペパ・フローレスとジーン・セバーグ、「La corrupción de Chris Miller」から)
★マリオ・カムスの「Los días del pasado」(78)がカルロヴィ・ヴァリ映画祭に出品、彼女に初となる女優賞をもたらした。まだ正式に結婚していなかったが、1973年以来パートナーだったフラメンコ界の大御所アントニオ・ガデスと共演したドラマ。フローレスはアンダルシア生れの教師役で、ガデス扮する反フランコのマキのメンバーと出会うことで、孤独と恐怖の日々を生きることになる物語、終焉期を迎えていたとはいえ未だフランコ存命時代の映画だった。


(フローレスとガデス、「Los días del pasado」から)
★その後ガデスとは、カルロス・サウラのフラメンコ三部作と言われるドキュメンタリー仕立ての『血の婚礼』(81)、『カルメン』(83)の2作で共演している。1983年にマリソルを引退、1985年にはフアン・カーニョの「Caso serrado」を最後に銀幕から引退した。本作には当時実力を発揮し始めた、同郷のアントニオ・バンデラスが脇役で共演している(彼はマラガの名誉市民です)。しばらくTVミニ・シリーズ、舞台に出演したり、アルバム制作はつづけるも、現在は三番目の夫であるイタリア出身のマッシモ・ステッキーニと悠々自適の生活を満喫している。

(最後の出演となった「Caso serrado」のペパ・フローレス)
★私生活について触れると、最初の結婚は1969年5月、カルロス・ゴヤネス(製作者マヌエル・ホセ・ゴヤネスの息子)と教会で挙式、上手くいかず1972年に別居に至ったが、正式に離婚が成立したのは1975年だった。別居中の1973年から、何回も来日しているフラメンコ界の大御所アントニオ・ガデスがパートナーとなり、3人の娘が生まれ(マリア74、タマラ76、セリア81)ている。それぞれ女優、心理学者、歌手として活躍している。正式に再婚したのは1982年10月、キューバに赴いてフィデル・カストロとアリシア・アロンソの立会で市民婚でした。二人は政治的にはスペイン共産党の支持者、マルキシズムを理想としており、キューバ革命に賛同していた。彼女はフランコ総統から授与された金の記念プレートもキューバに寄付している。しかしこの結婚も1986年に破局して、ガデスとの離婚を機に政党との関係も断った。

(3人の娘を連れたフローレスとガデス)
★現在は3人目の11歳年下というイタリア人、マッシモ・ステッキーニとマラガで静かに暮らしている。年の差など無関係の由、30年前にピザ専門店で知り合い、それ以来一緒に暮らしている。栄誉賞受賞でもカムバックはないそうですが、当然でしょ。

(最近のマッシモ・ステッキーニとフローレス)
作品賞はアルモドバルVSアメナバル*ゴヤ賞2020 ③ ― 2019年12月15日 12:31
ほぼアルモドバルの「Dolor y gloria」に決まりか?

★作品賞はアルモドバルVSアメナバルの様相を呈していますが、ほぼアルモドバルに決まりかと思っています。しかしゴヤ賞はスペイン映画アカデミー会員の投票で決まるので、会員の好き嫌いも加味されるから予想は控えたい。ゴヤ賞は作品賞枠だけノミネーションが5作、既に紹介している3作を除いて、ノーマークだったベニト・サンブラノの「Intemperie」、紹介不足だったバスクのトリオ監督アイトル・アレギ、ジョン・ガラーニョ、ホセ・マリ・ゴエナガの「La trinchera infinita」の順でアップしたい。
◎最優秀作品賞(5作)
Dolor y gloria(16カテゴリー)
El Primer Deseo AIE / El Deseo DASLU
*作品紹介は、コチラ⇒2019年04月22日

Intemperie(5カテゴリー)
Morena Films / Movistar+ / TVE / Aralan Filma / Ukbar Filmes
*作品紹介は、コチラ⇒2019年12月17日

La trinchera infinita(15カテゴリー)
Irusoin / La Claqueta / Manny Films / Moriarti Produkzioak
*作品紹介は、コチラ⇒2019年12月20日

Lo que arde『ファイアー・ウィル・カム』(4カテゴリー)
Miramemira, SL / Kowalski Filma / 4 a 4 Productions / Tarantura Luxemburgo
*作品紹介は、コチラ⇒2019年04月28日/05月29日/11月21日

Mientras dure la guerra『戦争のさなかで』(17カテゴリー)
Fernando Bovaira
*作品紹介は、コチラ⇒2018年06月01日/2019年09月27日/2019年11月26日

★去る12月12日マドリード、アルモドバルは映画の脚本になった ”Dolor y gloria”(Reservoir Books)の出版記者会見をしました。大勢のファンで会場は満員、ジャーナリストからの質問に長時間にわたって答えたようです。自分にとって「書くということは書き直すこと。一般に人は書くことで考えるが、自分は書き直すことだ」と語った。また「監督というのはフラストレーションの塊りだ」とも。ボブ・ポプは本名ロベルト・エンリケス、TV評論家、作家、コラムニスト、モード界のエキスパートなど多才、今年3月自身が多発性硬化症であることを明らかにしている。

(ボブ・ポプと自著 ”Dolor y gloria” を手にしたアルモドバル、12月12日)
ベニト・サンブラノの「Intemperie」*ゴヤ賞2020 ④ ― 2019年12月17日 17:10
ノーマークだったベニト・サンブラノの「Intemperie」

★ベニト・サンブラノの「Intemperie」は、恣意的に映画祭出品をしなかったということで、ノーマークでした。唯一出品したのがバジャドリード映画祭、スペインではSEMINCI*の愛称で親しまれている映画祭、スペイン開催の映画祭としては遅く10月下旬、当ブログでも年によって紹介したりしなかったりの映画祭ですが、サンセバスチャン映画祭に次ぐ老舗の歴史ある映画祭です(第64回)。今年のラテンビートで上映されたブラジル映画、カリン・アイヌーズの『見えざる人生』が銀のスパイク賞、FIPRESCI、二人の主演女優が最優秀女優賞を受賞しています。「Intemperie」は本賞からは外れましたが金のブログ賞を受賞していました。ゴヤ賞ノミネーション5カテゴリー(作品、脚色、歌曲、助演男優ルイス・カジェホ、プロダクション賞)
*SEMINCI:La Semana Internacional de Cine de Valladolid(バジャドリード映画祭インターナショナル週間)

(現地入りしたスタッフとキャスト陣、中央の2人がサンブラノ監督と
撮影時より背が伸びた少年役のハイメ・ロペス、SEMINCIフォトコール)
「Intemperie」(「Out in the Open」)
製作:Morena Films / Movistar+ / TVE / Aralan Filma / Ukbar Filmes
監督:ベニト・サンブラノ
脚本:パブロ・レモン、ダニエル・レモン、B・サンブラノ、(原作ヘスス・カラスコ)
編集:ナチョ・ルイス・カピジャス
撮影:パウ・エステベ・ビルバ
音楽:ミケル・サラス、歌曲ハビエル・ルイバル
美術:クルー・ガラバル
キャスティング:ミレラ・フアレス
メイク&ヘアー:ルベン・サモス、ラファエル・モラ
プロダクション:マノロ・リモン
製作者:ペドロ・ウリオル、フアン・ゴルドン、(エグゼクティブ)ピラール・ベニト
データ:製作国スペイン=ポルトガル、スペイン語、2019年、スリラー、103分、ヘスス・カラスコの同名小説の映画化、撮影地グラナダの地方オルセ、ガレラなどの砂漠地帯、撮影期間2018年7月から8月。スペイン公開2019年11月22日
映画祭・受賞歴:バジャドリード映画祭2019セクション・オフィシアルのオープニング(10月19日)作品、金のブログ賞受賞。ゴヤ賞2020作品、脚色、オリジナル歌曲(ハビエル・ルビアル)、助演男優(ルイス・カジェホ)、プロダクション(マノロ・リモン)の5カテゴリーにノミネーション。
キャスト:ルイス・トサール(ヤギ飼いモーロ)、ルイス・カジェホ(農園主カパタス)、ハイメ・ロペス(少年)、ビセンテ・ロメロ(農園主の手下エル・トリアナ)、アドリアナ・カルバーニョ(同エル・ポルトゲス)、フアンホ・ペレス・ジュステ(同エル・セゴビア)、カンディド・ウランガ(同エル・ビエホ)、マノロ・カロ(身体障害者)、モナ・マルティネス、ミゲル・フロール・デ・リマ、ヨイマ・バルデス、マリア・アルフォンサ・ロッソ、フアナン・ルンブレラス(エル・パドレ)、カルロス・カブラ(バスの運転手)他
ストーリー:スペイン内戦終結後の1946年、アンダルシアのある村から命がけで逃げ出した少年の物語。彼を探している男たちの叫び声を聞きながら過酷な平原の奥深く迷い込む。飢えと渇きの地獄から少年を救い出したのは、物静かな一人のヤギ飼いだった。追っ手の農園主や取巻きたちのリベンジが始まる。逃亡の理由は定かではないが、いずれ観客は知ることになるだろう。
★時代背景の1946年は、スペイン内戦が終結して7年後になる。当時のスペインは貧しく、特に南部のアンダルシアやポルトガルと国境を接するエストレマドゥーラ地方はひどかった。親が口減らしのため我が子を売ることもあり、まだ3度の食事もままならぬ時代の物語である。ブニュエルが1933年に撮った『糧なき土地』(本邦公開1977年)と同じようだったと言われる。名無しの少年(ハイメ・ロペス)が逃亡する理由もやがて分かってくるのだが、スリラーなのでストーリーを詳しく書くとネタバレになる。
★少年を救ったヤギ飼い役のルイス・トサールは養父代わりになり、農園主や手下の追っ手と対決する。彼はモロッコ戦争と内戦を生き延びてきた物静かな男だが、農園主たちに怯むことなく少年を守ってやる。このような筋書からはあまり魅力は感じられないが、作品賞5作の1つに選ばれたからにはそれなりの隠し玉がなければならない。

(一緒に旅をする少年とヤギ飼い)
★スペイン公開後にエル・パイスの週刊誌「セマナル」のインタビュー記事では「自分自身が激怒するシーンを楽しんだ」、4歳と4ヵ月の2人の子供の父親となって「プロとして新しい感性を受け入れている」、当時12歳だった少年役ハイメ・ロペスへ向けるにじみ出るような優しい眼差しについて聞かれると「意識していなかったが、もしかしたらそのせいかもしれない。自分が父親になる前から父親役を演じてきたが、個人としても俳優としても感性は変わっている」と応じていた。人は親になって初めて恐怖を感じるというのは本当です。これは経験してみて初めて分かることでしょう。

(ルス・サンチェス・メリャドのインタビューを受けるルイス・トサール)
★外観は同じでも内面は別ということです。トサールを『花嫁のきた村』(99)で主役に初めて抜擢した監督、イシアル・ボリャインは「トサールは好みでハンサムにも醜男にも見える優れた役者」と評しているが、彼に『テイク・マイ・アイズ』(03)で最初のゴヤ主演男優賞を彼にもたらした監督です。続いてダニエル・モンソンの『第211号監房』(09)で2度目のゴヤ主演男優賞を受賞した際、一番喜んでくれたのもボリャイン監督、彼の内面をよく知る監督のトサール評だけに意味がある。
★予告編から見えてくるのは、善玉と悪玉がはっきりしていることからウエスタン風でもあり、牧草を求めてヤギ連れで旅をするので、一種のロードムービーでもあるようです。ルイス・トサールは、今回のゴヤ賞では今年公開された映画3本が絡んでいる。本作「Intemperie」のヤギ飼い役、新人監督賞ノミネートのアリッツ・モレノの『列車旅行のすすめ』のパラノイア患者マルティン役、パコ・プラサのスリラー「Quien a hierro mata」の3本で、3作とも主役を演じている。なかで最後のガリシア海岸を舞台に麻薬密売を絡ませた復讐劇に看護師役マリオで主演男優賞にノミネートされている。主役と脇役の2本は珍しくないが、3本とも主役というのは初めてでしょうか。ただ主演男優賞はアントニオ・バンデラスが先頭を走っている。しかし本作はNetflixとか、ミニ映画祭上映が期待できそうです。
★農園主に扮するルイス・カジェホ(1970)は、名脇役として存在感のある役者だが、ラウル・アレバロのデビュー作『物静かな男の復讐』(16)では、共演のアントニオ・デ・ラ・トーレと揃って主演男優賞にノミネートされている。今回は極め付きの悪玉の農園主カパタスで助演男優賞にノミネートされているので、キャリア紹介はそちらに回します。デ・ラ・トーレは「La trinchera infinita」で主演男優賞にノミネートされている。

(農園主役ルイス・カジェホ、映画から)
★ベニト・サンブラノ監督(セビーリャ1965)のキャリア紹介は、長編第3作目『スリーピング・ボイス~沈黙の叫び~』(11)が公開された折りに紹介記事をアップしています。彼は非常に寡作な監督で、短編、ドキュメンタリーを含めないと新作が長編4作目です。S撮影は「ひたすら暑さとの闘いだった」と監督。今回は共同執筆者パブロ&ダニエル・レモン兄弟と脚色賞にノミネートされています。原作者へスス・カラスコの同名小説の映画化、2016年ヨーロッパ文学賞受賞作品です。監督によると「レモン兄弟の助けなしには映画化できなかった」と語っている。
*『スリーピング・ボイス~沈黙の叫び~』の記事は、コチラ⇒2015年05月09日

(監督とトサール、公開前のプレス会見、2019年11月20日)

(ルイス・トサール、監督、ハイメ・ロペス、ルイス・カジェホ、同上)
★パブロ・レモン(マドリード1977)は脚本家、監督、戯曲家。レモン兄弟はマラガ映画祭2011で金のビスナガ賞を受賞した、Max Lemckeの「Cinco metros cuadrados」で二人揃って銀のビスナガ脚本賞を受賞している。同監督の「Casual Day」(07)ではシネマ・ライターズ・サークル賞2009で脚本賞を受賞している。他には別々に執筆しており、パブロはリノ・エスカレラの『さよならが言えなくて』(16、監督との共同執筆)、自身が監督した短編を執筆しているほか、どちらかというと戯曲家として演劇畑での活躍が主力です。

★ダニエル・レモン(マドリード1983)は脚本家、監督、戯曲家。兄パブロとの共同執筆以外では、自ら監督した短編「Koala」(12)と同「Los Carpatos」(15)などを手掛けている。戯曲第1作「Mulador」が2014年ロペ・デ・ベガ賞、続く第2作「Diablo」がカルデロン・デ・ラ・バルカ賞を受賞しており、兄同様戯曲家として活躍している。

バスクのトリオ監督が描く 「La trinchera infinita」 *ゴヤ賞2020 ⑤ ― 2019年12月20日 12:25
沈黙と恐怖、孤独との闘い――トポの33年間に及ぶ闇への旅

★バスク出身のアイトル・アレギ、ジョン・ガラーニョ、ホセ・マリ・ゴエナガのトリオ監督の「La trinchera infinita」は、サンセバスチャン映画祭SSIEEのセクション・オフィシアル部門でプレミアされた。SSIFFで監督賞(銀貝賞)・脚本賞(審査員賞)・FIPRESCIの3冠と他にシネマルディア・フェロス賞、バスク・フィルム賞、バスク脚本賞などを取りましたので、ゴヤ作品賞ノミネートは想定内のことでした。予想通りゴヤ賞2020は、作品賞含めて3番目に多い15カテゴリーにノミネートされました。SSIFFで簡単に紹介しましたが、まだ予告編も見られない段階の情報でしたので、加筆訂正して紹介いたします。

(監督賞のトロフィーを手にしたアレギと、ゴエナガ、ガラーニョの3監督)

(左から、ホセ・マリ・ゴエナガ、ベレン・クエスタ、アイトル・アレギ、アントニオ・デ・ラ・トーレ、ビセンテ・ベルガラ、ジョン・ガラーニョ、SSIFFフォトコール)
★トリオ監督が脚光を浴びたのは、バスク語映画『フラワーズ』(14)が、SSIFFのセクション・オフィシアルに初めて登場したときでした。SSIFFはバスク自治州で開催されるのに、それまでバスク語映画がノミネートされることはなかった。続いて『アルツォの巨人』(17)、そしてスペイン語で撮った3作目が「La trinchera infinita」です。というわけでバスク語を解さないアントニオ・デ・ラ・トーレがトポのイヒニオ、その妻ロサにベレン・クエスタが扮しました。主演の2人は、それぞれ主演男優賞、主演女優賞にノミネートされています。因みにトポtopo の第一義はモグラのことですが、比喩として弱視者やスパイを指します。しかしスペイン現代史では40年近くに及ぶフランコ政権時代、自宅に隠れ住んでいた共和派支持者のことを指します。フィクションですが歴史に基づいた歴史ドラマです。
*『フラワーズ』の作品紹介は、コチラ⇒2014年11月09日
*『アルツォの巨人』の作品紹介は、コチラ⇒2017年09月06日
「La trinchera infinita」
製作:Irusoin / La Claqueta / Trinchera Films / Moriarti Produkzioak /
Manny Films
監督:アイトル・アレギ、ジョン・ガラーニョ、ホセ・マリ・ゴエナガ
脚本:ホセ・マリ・ゴエナガ、ルイソ・ベルデホ
撮影:ハビエル・アギーレ
音楽:パスカル・ゲーニュ
編集:ラウル・ロペス、Laurent Dufreche
プロダクション・デザイン美術:ペペ・ドミンゲス・デル・オルモ
プロダクション・マネージャー:アンデル・システィアガ
衣装デザイン:ロウルデス・フエンテス、サイオア・ララ
メイク&ヘアー:ヨランダ・ピーニャ、フェリックス・テレロ、ナチョ・ディアス
録音:イニャーキ・ディエス、アラスネ・アメストイ、シャンティ・サルバドール、
ナチョ・ロヨ=ビリャノバ
特殊効果:ジョン・セラノ、ダビ・エラス
製作者:ハビエル・ペルソサ、オルモ・フィゲレド・ゴンサレス=ケベド、イニャキ・ゴメス、ミゲル・メネンデス・デ・スビジャガ、イニェゴ・オベソ、Birgit Kemner
(以上12カテゴリーすべてでノミネートされています)
データ:製作国スペイン=フランス、スペイン語、2019年、歴史ドラマ、147分、撮影地アンダルシアのウエルバ県イゲラ・デ・ラ・シエラ、2018年5月7日~9月2日。スペイン公開2019年10月31日
映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2019セクション・オフィシアル部門、監督賞(銀貝賞)・脚本賞(審査員賞)・FIPRESCI 受賞、その他シネマルディア・フェロス賞、バスク・フィルム賞、バスク脚本賞などを受賞。フォルケ賞2020作品・女優・男優賞3ノミネーション、フェロス賞2020作品・監督賞含めて6ノミネーション、ゴヤ賞2020作品・監督賞含めて15ノミネーション。
キャスト:アントニオ・デ・ラ・トーレ(イヒニオ・ブランコ)、ベレン・クエスタ(妻ロサ)、ビセンテ・ベルガラ(隣人ゴンサロ)、ホセ・マヌエル・ポガ(ロドリゴ)、エミリオ・パラシオス(ハイメ)、アドリアン・フェルナンデス(ハイメ少年)、ナチョ・フォルテス(エンリケ)、マルコ・カセレス(フアン)、ホアキン・ゴメス(イヒニオの父)、エスペランサ・グアルダド(マリ・カルメン)、アントニオ・ロメロ(フェデ)、スカル・コラレス(ダミアン)、エンリケ・アセンホ(エミリオ)、アルトゥーロ・バルガス(郵便配達人)、エステファニア・ルエダ(イサベル)、カルロス・ベルナルディノ(ファランヘ党員)、他治安警備隊など多数。
(ゴチック体がノミネートされたキャスト)
ストーリー:1936年アンダルシアの小さな村、イヒニオとロサが結婚して間もなくスペイン内戦が勃発した。イヒニオは兄弟の死が彼のせいだと思っている隣人ゴンサロの密告により捕らえられる。他の囚人たちと刑務所にトラックで移動中、脱出のチャンスが訪れる。彼は家に逃げ帰ることができたが、身に危険が差し迫ってくる。妻ロサの協力を得て、彼は一時的な隠れ場所として自宅の中に穴を掘って身を潜めようと決心する。起りうる報復への恐怖、互いに相手を思いやりながら、陽の光が届かない、沈黙と恐怖の監禁生活は33年間の長きに及ぶだろう。

(和気藹々のデ・ラ・トーレ、クエスタ、ベルガラ、SSIFFフォトコール9月22日)
★3人の監督が、故郷のバスクを離れてスペイン語で撮った初めての映画となる。撮影はアンダルシアのウエルバ県イゲラ・デ・ラ・シエラを選んだ。2018年の人口が1293人しかいない、赤茶色の瓦屋根、白い壁というアンダルシアの典型的な村です。スペインの田舎では時間が止まったような村は珍しくないが、映画はここで1936年から始まる残忍で不幸な物語、現実に存在したトポたちのでっち上げでない物語を撮ったわけです。
★今回、脚本も手掛けたホセ・マリ・ゴエナガが、SSIFFで語ったところによると「きっかけはドキュメンタリー「30 años de oscuridad」(11、マヌエル・H・マルティン)を観たことだ」という。実写とアニメを組み合わせた作品でASECANのドキュメンタリー賞を受賞している。それまでトポたちの存在を知らなかった。それでトポに関する著作を読みあさった。しかし同じテーマを扱ったフェルナンド・フェルナン・ゴメスの「Mambrú se fue a la guerra」(86)やホセ・ルイス・クエルダの「Los girasoles ciegos」(08)は思い出さなかったという。この発言にはちょっとびっくりです。前者は主役も演じたフェルナン・ゴメスが第1回ゴヤ賞1987の主演男優賞を受賞した作品だし、後者はトポにコメディ出演が多いハビエル・カマラ、妻にマリベル・ベルドゥが扮し、ゴヤ賞2009では名脚本家としてその死を惜しまれたラファエル・アスコナと監督が脚色賞を受賞した話題作だったからです。

(「30 años de oscuridad」のポスター)

(ハビエル・カマラとマリベル・ベルドゥ、「Los girasoles ciegos」から)
★国と国が戦う戦争とは違って、親子、兄弟姉妹、親戚、友人が敵味方に分かれる内戦ほど厳しいものはない。これは作品賞にノミネートされている、アメナバルの『戦争のさなかで』でも触れたことでした。
穴の奥から、板壁の隙間から、トポの目を通して人生を見る
★内戦の勝利者の報復、政治的イデオロギーを共有した仲間の大半は、彼のように生きのびることは叶わなかった。人間を最悪にする隣人の密告により調べもなく、即殺害された。イヒニオが生きのびられたのは、妻ロサの献身的、自己犠牲的な、無条件の愛があったからです。エル・パイスの辛口批評家カルロス・ボジェロは「年月の経過に伴う絶望、未亡人であるはずの女性に対するハゲタカどものセクハラ、夫が妻を服従させるモラル的な圧迫」について語っている。ベレン・クエスタは28歳から60歳までを演じたわけで、今回の主演女優賞ノミネートは納得がいく。ロス・ハビのミュージカル『ホーリー・キャンプ!』やパコ・レオンのラブ・コメディ『KIKI~愛のトライ&エラー』などでキャリア紹介はしておりますが、主演女優賞は彼女かグレタ・フェルナンデスと予想しておりますので、そちらで別途アップします。

(ベレン・クエスタとアントニオ・デ・ラ・トーレ、映画から)
★主人公イヒニオは、最初は穴の奥から、それから板壁の隙間からトポの目を通して人生を見る、結局のところ観客も彼の視点で見ることになる。アントニオ・デ・ラ・トーレは体重を15キロ増やして撮影に臨んだという。監禁状態のトポは、行動を制限されるので一般に太ったという。彼はダニエル・サンチェス・アレバロの『デブたち』で30キロ増量を果たしている。主演男優賞にノミネートされているが、昨年ロドリゴ・ソロゴジェンの「El reino」で宿願を果たしているから受賞はなさそう。それに今年はバンデラスだね。


(板壁の隙間から覗くデ・ラ・トーレ、映画から)
★隣人ゴンサロ役のビセンテ・ベルガラは、助演男優賞の枠でアップする予定。本作はフィクションであるが、トポは現実に存在したから、でっち上げのフィクションではない。147分という長尺の映画が、どこまで観客を引き込めるか。
監督賞を占う*ゴヤ賞2020 ⑤ ― 2019年12月22日 16:23
火花を散らすアルモドバルとアメナバル

★例年特別のことがなければ、監督賞は作品賞と重なる。今年は「Intemperie」のベニト・サンブラノが落ちて、上記の残り4作の監督たちがノミネートされた。「Dolor y gloria」のペドロ・アルモドバルと『戦争のさなかで』のアレハンドロ・アメナバルの一騎打ちのようです。バスク出身の3人の監督のうち「La trinchera infinita」で中心になったのがアイトル・アレギとジョン・ガラーニョ、ホセ・マリ・ゴエナガは主に脚本に集中したようです。サンセバスチャン映画祭では3人揃って監督賞を受賞したが、柳の下の泥鰌となるか。第3作『ファイアー・ウィル・カム』が初のゴヤ賞ノミネーションとなるオリベル・ラシェは、新人監督賞枠の可能性もあったはずだが違った。芯の強さを表に出すことなく実に淡々としているが、好機を窺っているかもしれない。
★アルモドバルの監督賞は『オール・アバウト・マイ・マザー』(99)と『ボルベール<帰郷>』(06)の2作しか受賞していない。爆発的な人気をよんだ『神経衰弱気味の女たち』(88)もオリジナル脚本賞を受賞しただけで、監督賞は逃した。国際映画祭での受賞歴は他の監督の追随を許さないが、ことゴヤ賞となると事情が異なる。スタッフやキャストにゴヤ胸像をたくさんプレゼントしているが、自身は以上の3個しか貰っていない。新作は勿論フィクションですが、バンデラス扮する主人公イコール監督自身、よくここまでさらけ出した、という話題作、かなり露出度の高い作品ということです。今までと違った意気込みを感じます。

(共にオスカー賞の監督、アルモドバルとアメナバル)
★対するアメナバルの監督賞は、新人監督賞の『テシス 次に私が殺される』(95)、続いて『アザーズ』(01)、『海を飛ぶ夢』(04)の3作、オリジナル脚本賞の4個とオリジナル作曲賞を含めると8個になります。しかし『アレキサンドリア』(09)のオリジナル脚本賞以来、英語映画を撮っていたせいか十年ほどノミネーションそのものからも遠ざかっている。久々のノミネーション、サンセバスチャン映画祭の借りを返したいところです。
◎最優秀監督賞
ペドロ・アルモドバル 映画「Dolor y gloria」
*関連記事は、コチラ⇒2019年04月22日

(ベネチア映画祭2019栄誉金獅子賞のトロフィーを手に、9月7日ガラにて)
アイトル・アレギ、ジョン・ガラーニョ、ホセ・マリ・ゴエナガ 映画「La trinchera infinita」
*関連記事は、コチラ⇒2019年12月20日
*アイトル・アレギのキャリア紹介は、コチラ⇒2017年09月06日
*ジョン・ガラーニョ&ホセ・マリ・ゴエナガのキャリア紹介は、コチラ⇒2014年11月09日

(左から、ジョン・ガラーニョ、ホセ・マリ・ゴエナガ、アイトル・アレギ)
オリベル・ラシェ 映画『ファイアー・ウィル・カム』
*関連記事は、コチラ⇒2019年04月28日
*オリベル・ラシェのキャリア紹介は、コチラ⇒2016年05月22日


新人監督賞に女性監督がノミネーション*ゴヤ賞2020 ⑥ ― 2019年12月24日 15:56
ベレン・フネスのデビュー作「La hija de un ladorón」
★新人監督賞にはラテンビートと東京国際映画祭で上映された『列車旅行のすすめ』(「Ventajes de viajar en tren」)のアリッツ・モレノがノミネートされている他、サンセバスチャン映画祭でグレタ・フェルナンデスに女優賞をもたらした「La hija de un ladorón」のベレン・フネス、アニメーション「Buñuel en el laberinto de las tortugas」のサルバドール・シモー、近未来SF映画「El hoyo」のガルデル・ガステル⋍ウルティアと、誰が受賞しても納得のいくカテゴリーです。予想が難しいだけに面白いのですが、今回のようにアニメーション作家が候補になるのは珍しいケースです。
★ガルデル・ガステル⋍ウルティアのデビュー作「El hoyo」は、予告編からしても異様な雰囲気、アリッツ・モレノの『列車旅行のすすめ』も相当可笑しな映画でしたが、こちらもフツウの登場人物がゼロ、厳しい階級社会らしくこんな近未来なら長生きなど御免をこうむりたい。2作ともシッチェス映画祭2019でプレミアされた。
◎新人監督賞
サルバドール・シモー 映画「Buñuel en el laberinto de las tortugas」
スペイン=オランダ=ドイツ、2018
〇アニメーション映画部門の他、脚色賞・オリジナル作曲賞の4 部門ノミネート。
〇サルバドール・シモー(バルセロナ1975)は、アニメーター、視覚効果、短編監督としての実績があり、スペイン語の長編監督としてはデビュー作。2018年製作だが、スペインではマラガ映画祭2019でプレミアされ、ASECAN 賞を受賞、ヨーロッパ映画賞2019アニメーション賞を受賞した。
〇フェルミン・ソリスの同名コミック「Buñuel en el laberinto de las tortugas」(2009発表)の映画化、ハリウッドからスペインに帰国した1932年に、ルイス・ブニュエルが撮ったドキュメンタリー「Las Hurdes (Tierra sin pan)」(1933、邦題『糧なき土地』)の製作秘話が語られる。『糧なき土地』の実写とアニメーション。ブニュエルのボイスはホルヘ・ウソン。
別途に作品紹介の予定。

(サルバドール・シモー、ヨーロッパ映画賞アニメーション賞受賞、12月7日)

ガルデル・ガステル⋍ウルティア 映画「El hoyo」(The Platform)スペイン、2019
〇オリジナル脚本賞・特殊効果賞を含めて3 部門ノミネート。
〇ガルデル・ガステル=ウルティア(ビルバオ1974)は、製作者、脚本家、2本の短編を撮っている。今回本作で長編映画デビューを果たした。ホラー、スリラー、近未来SF映画とジャンル分けが難しい。トロント映画祭の「ミッドナイト・マッドネス」でワールドプレミア、観客賞受賞、続くシッチェス映画祭で作品・視覚効果・新人監督・観客の4賞を受賞した。別途に作品紹介の予定。
*作品紹介は、コチラ⇒2020年01月14日

(ガルデル・ガステル⋍ウルティア、シッチェス映画祭フォトコールにて)

ベレン・フネス 映画「La hija de un ladorón」スペイン、2019
〇女優賞(ベルタ・フェルナンデス)を含めて2 部門ノミネート。
〇ベレン・フネス(バルセロナ1984)は、脚本家、監督。助監督歴が長く、2015年短編「Sara a la fuga」がマラガ映画祭短編賞、2017年同「La inutil」がメディア映画祭脚本賞を受賞している。今回長編デビュー作ながらサンセバスチャン映画祭セクション・オフィシアルにノミネートされた。バジャドリード映画祭SEMINCIではドゥニア・アヤソ賞を受賞した。11月29日スペイン公開。
〇エドゥアルド・フェルナンデスとグレタ・フェルナンデスの実の父娘が、ドラマでも窃盗犯で常に刑務所暮らしの父親、年の離れた弟の面倒と若くして子持ちになって苦労する娘を演じている。別途に作品紹介の予定。

(ベレン・フネス、スペイン公開前のマドリード、11月28日)

アリッツ・モレノ 映画「Ventajes de viajar en tren」(『列車旅行のすすめ』)西=仏、2019
〇脚色賞・美術賞・メイク&ヘアー賞を含めて4 部門ノミネート。
〇アリッツ・モレノ(サンセバスティアン1980)は、監督、脚本、編集、製作、撮影と何でもこなす。シッチェス映画祭コンペティション部門正式出品、ラテンビート、東京国際映画祭で上映され、後者には監督と原作者アントニオ・オフレド・ウトリジャが来日、Q&Aで会場を沸かせた。既に作品紹介をアップしています。
*作品紹介は、コチラ⇒2019年10月14日/11月15日

(映画の舞台となったゴミ山の前のアリッツ・モレノ)

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