新人監督賞ノミネーション”Techo y comida”*ゴヤ賞2016ノミネーション ⑦ ― 2016年01月16日 11:48
混戦が予想されるカテゴリー「新人監督賞」は誰の手に?
★マラガ映画祭2015でデビューした3作品、サンセバスチャン映画祭上映1作品がノミネーションされている。以下の通り:
1)ダニエル・グスマン“A cambio de nada”マラガFF コチラ⇒4月12日にアップ
2)フアン・ミゲル・デル・カスティジョ“Techo y comida” 同上
3)レティシア・ドレラ“Requisitos para ser una persona normal”同上
4)ダニ・デ・ラ・トーレ“El desconocido”サンセバスチャンFFベロドロモ部門
『暴走車 ランナウェイ・カー』の邦題で2015年秋に劇場公開済み
★フアン・ミゲル・デル・カスティジョの“Techo y comida”はマラガでも評価の高かった作品だが、当ブログでは主役のナタリア・デ・モリーナが女優賞を受賞したことを記事にしただけでした。先日発表されたフォルケ賞2016女優賞を受賞したので、ゴヤ賞は3カテゴリーですが、まずこちらからご紹介致します。

(ポスター)
*フアン・ミゲル・デル・カスティジョJuan Miguel del Castello:監督、脚本家、編集者。カタルーニャ映像研究センターで映画監督としての実技を、後ヘレスで映像の上級技術を学ぶ。多くの短編はさまざまな映画祭で40にも及ぶ賞を貰っている。中でも35ミリで撮った“ROSARIO”(2005、14分)の評価は高く、15に上る賞を受賞した。またCanal Sur TVで放映されたTVシリーズ“Curso Dandalú”には監督と製作者を兼ね、YouTubeでの視聴者は200万回に及ぶ。さらに同局の“Taxí”や“La respuesta está en la hitoria”では編集を担当した。ビデオクリック多数、現在はアンダルシア評議会の養成学校で映画編集やポストプロダクションの養成にあたっている。長編第2作の脚本を執筆中。

(フアン・ミゲル・デル・カスティジョ、マラガ映画祭で)
“Techo y comida”2015
製作:Diversa Audiovisual
監督・脚本・編賞:フアン・ミゲル・デル・カスティジョ
音楽:ミゲル・カラバンテ・マンサノ、ダニエル・キニョネス・ペルレロ
撮影:マヌエル・モンテロ、ロドリーゴ・レセンデ
美術:パコ・カルデナス、アマンダ・ロマン
衣装デザイン:エレナ・イスキエルド、アルバ・セラ
メイクアップ&ヘアー:ラウラ・ムン
プロダクション・マネージメント:ヘルマン・ガルシア、イシドレ・モンレアル
録音:フェラン・スアレス
製作者:ヘルマン・ガルシア、アルフレッド・サンタパウ
データ:スペイン、スペイン語、2015年、90分、撮影ヘレス・デ・フロンテラ、配給元A Contracorriente Films、Sherlock Films、マドリードとバルセロナでプレミア上映11月3日、スペイン公開(限定)2015年12月4日
受賞歴:映画賞ノミネーション:マラガ映画祭2015正式出品、観客賞・女優賞、フォルケ賞2016女優賞受賞。フェロス賞作品賞・女優賞、ガウディ賞女優賞、ゴヤ賞新人監督賞・主演女優賞、オリジナル歌曲賞にノミネーション、いずれも発表結果待ちです。
キャスト:ナタリア・デ・モリーナ(ロシオ)、ハイメ・ロペス(息子アドリアン)、マリアナ・コルデロ(マリア)、メルセデス・オジョス(アントニア)、ガスパル・カムプサノ(アルフォンソ)、モンセ・トレンテ、ナタリア・ロイグ、マヌエル・タジャフェ(ナチョ)、ビダル・サンチョ、他
*ゴチック体はゴヤ賞2016にノミネーションされたカテゴリー

(デ・モリーナ、監督、ハイメ・ロペス、公開決定のプレス会見、2015年10月12日)
プロット:2012年のヘレス・デ・フロンテラ、無職のシングル・マザー、ロシオと8歳になる息子アドリアンの物語。アパートの家賃は数カ月前から滞っている。家主からは立ち退きを執拗に責め立てられているが仕事が見つからない。孤立無援の孤独のなかで、アドリアンの養育権さえ剥奪されてしまうかもしれない。屈辱と恐怖と闘っているロシオとアドリアンの人生に好転の萌しはない。この心を打つ物語は、優しさと厳しさが撚りあい、心地よくないが避けて通れない問題をテーマにしている。福祉国家を標榜する国家のシステムの不備と不名誉を暴露している。

(広告板を背負って働くサンドイッチマンのロシオ、映画から)
★タイトルの“Techo y comida”「雨露を凌ぐ家と食事」から大体のメインテーマが透けて見えてくる。2012年はスペインが国家存亡の危機にあり、ギリシャやポルトガル同様EUのお荷物だった時期、現在でも若者の失業率50パーセントは依然として変わらない。身軽な独身者は海外に仕事を求めてスーツケース1個で脱出していった。「堅実すぎる」と嫌っていたドイツにさえ活路を開くべく出掛けて行ったのだ。リアリズムで押し進む本作は、息苦しさを感じさせるから「この苛酷さは観客には耐えられないだろう」という大方の見方を裏切って、マラガでは観客賞を受賞した。観客と批評家の乖離がここでも明瞭になった。

(母子に戻って熱いチュッチュ、公開決定のプレス会見で)
★成功の鍵は、ロシオを演じたナタリア・デ・モリーナの力演にも負っているが、不安をいたずらに煽るトレメンディスモを避けたことも功を奏しているということです。マラガは国際映画祭ではなくスペイン語映画に特化しており、次の世代を担う若手監督の登竜門的役割を果たしている。そんなことが国内の若い観客を惹きつけている。勿論、映画そっちのけで赤絨毯に登場するセレブ俳優とのツーショットをスマホにおさめたい通称「映画祭のネズミ」も多いが、サンセバスチャンなどより観客層は若い。政治的メッセージをストレートに投げかけてくる映画は、近年のスペイン映画にはなかったこともよかったかもしれない。最高賞「金のジャスミン賞」を受賞したダニエル・グスマンの“A cambio de nada”も同じようなテーマを扱っていた。
*ナタリア・デ・モリーナは「主演女優賞」でご紹介します。
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