近未来SF「El hoyo」*ゴヤ賞2020 ⑫2020年01月14日 14:31

         El hoyo」はシッチェス映画祭2019のグランプリ作品

 

  

   

★シネアスト紹介に時間が取られ作品紹介がストップしていました。ガルデル・ガステル=ウルティアのデビュー作El hoyoは、新人監督賞・オリジナル脚本賞・特殊効果賞の3カテゴリーにノミネートされました。タイトルの意味は地中に掘られたズバリ<>ですが、唯の穴ではなくエゴイズムの穴のようです。ホラー、SF、スリラーなどジャンル分けを拒否している風ですが一応近未来SFです。トロント映画祭ミッドナイト・マッドネス部門でワールドプレミア、観客賞受賞を皮切りに、シッチェス映画祭2019の作品賞・新人監督賞・ビジュアル効果賞・観客賞の4冠を制覇した。ゴヤ賞の他、結果待ちのスペイン映画賞のうち、フェロス賞、ガウディ賞にもノミネートされています。Netflix配信決定の記事に接し、やれ嬉しやと思いきや、よく読むとアジア諸国は除外されているのでした。

 

       

    (作品賞のトロフィーを手にした監督とスタッフ、シッチェス映画祭2019ガラ)

 

ガルデル・ガステル=ウルティアは、1974年ビルバオ生れの監督、脚本家、製作者。カテゴリー新人監督賞で触れたように短編2作を撮っている。このカテゴリーには『列車旅行のすすめ』のアリッツ・モレノもいるので予想は難しいが彼もサンセバスティアン生れとバスク出身、ベレン・フネスとサルバドール・シモーがバルセロナだから、若いシネアストはマドリード派以外から輩出しているようだ。

 

★ガステル=ウルティア監督がシッチェス映画祭で語ったところによれば、構想から4年掛かったが、撮影には「6週間しかかけられなかった」と語っている。「この映画の目論見は、愛情をもって額面通り以上に観客を誘導することなんです。主人公ゴーレンが陥っている事柄にどうやって対処するか、私たちのエゴイズムや無関心を他人の苦しみのほうへ観客を誘導させたいと思っている。人間であることは、あくまで個人的な意見ですが、ある種不幸なことなのです。この映画は泣き続け求め続けるエゴのボールの誕生に抗して闘うことについて語っています」と監督。

 

        

   (作品賞以下3つのトロフィーを手にしたガステル=ウルティア、シッチェスFF2019

 

 

 El hoyo(英題The Platform

製作:Basque Films / Mr. Miyagi Films / Plataforma La Película AIE

監督:ガルデル・ガステル=ウルティア

脚本:ダビ・デソラ、ペドロ・リベロ

撮影:ジョン・D・ドミンゲス

音楽:アランサス・カジェハ

編集:エレナ・ルイス、アリッツ・スビリャガ

美術:アセギニェ・ウリゴイティア

特殊効果&視覚効果:イニャキ・マダリアガ、マリオ・カンポイ、イレネ・リオ

製作者:カルロス・フアレス、ラケル・ぺレア、アンヘレス・エルナンデス、他

 

データ:製作国スペイン、スペイン語、2019年、SF、ファンタジー・スリラー、ホラー、94分、公開スペイン118日、映画館上映後Netflix配信が決定(アジアは除く)

 

映画祭・受賞歴:トロント映画祭2019ミッドナイト・マッドネス部門」でワールドプレミア、観客賞受賞、シッチェス映画祭2019の作品賞・新人監督賞・ビジュアル効果賞・観客賞受賞、トリノ映画祭2019脚本賞受賞。以下はノミネーション、ゴヤ賞2020新人監督賞・オリジナル脚本賞・特殊効果賞、フェロス賞2020作品賞・監督賞・脚本賞・助演女優賞(アントニア・サン・フアン)、予告編賞(ラウル・ロペス)、ポスター賞(エドゥアルド・ガルシア)、ガウディ賞2020脚本賞・視覚効果賞・作品賞(カタルーニャ語以外部門)など。

 

キャスト:イバン・マサゲー(ゴーレン)、ソリオン・エギレオル(トリマガシ)、アントニア・サン・フアン(イモギリ)、エミリオ・ブアレ(バアラト)、アレクサンドラ・マサングカイ(ミハル)、マリオ・パルド(バアラトの友人)、エリック・ゴーデ(ブランバング氏)、ほか囚人、レストラン支配人、料理人など多数

 

ストーリー:近未来のある刑務所舞台、一人の男ゴーレンが真ん中に巨大な穴が開いているコンクリートの部屋で目覚めると、見知らぬ男が一緒だった。ベテランの囚人トリマガシである。地下に掘られた穴は垂直に何階にも分割され、ここはレベル18のようだ。床は階下の天井であり、天井は上階の床でもある。レベル0の居住者が社会的強者、彼らが食べ残した料理が順々に下りてくるが、止まっているのは2分だけ、猛スピードで食べなくてはならない。自分のレベルまで毎日ご馳走が下りてくることは期待できないからスピードが求められる。運次第でレベルを変えることもできるが、個々の違いを乗り越えて団結しなければ、今や正気をたもつことはできない。社会的不平等とエゴイズムむき出しの不正行為、団結と連帯が語られる。

  

          

 

        エゴイズムの穴――社会的不平等についての薄暗いメタファー

 

★インパクトのある予告編を見ただけで食欲が失せてしまうでしょうか。かなり政治的なメッセージが読み取れます。近未来がバラ色でないことは判っているが、今より富の不正な分配が進み、社会的不平等が促進されるとするなら、ばらばらに分断された個人のミッションは何か。最下位が見えない分割されたコンパートメントは、閉所恐怖症に陥りかねない。カナダのヴィンチェンゾ・ナタリが国際映画祭で数々の作品・監督賞を受賞したSFスリラーCube97『キューブ』)を思い起こさせるようなシーンが頻出するようです。本作もシッチェス映画祭1998の作品賞を受賞しています。本邦では公開後テレビ放映(吹替)もされた。

 

       

   (主役イバン・マサゲーとソリオン・エギレオル、シッチェス映画祭のフォトコール)

   

    

          (料理を貪り食う同階の住人トリガマシ、映画から)

 

イバン・マサゲー(バルセロナ1976)は、2000TVシリーズでデビューした俳優。ゴヤ賞関連ではノミネーションもありません。しかしTVシリーズでは主役を演じるほど人気がある。ギレルモ・デル・トロが「批評家からも観客からも受け入れられた初めての作品」と語った『パンズ・ラビリンス』06)でセルジ・ロペス扮する冷酷無比なビダル大尉に抵抗するマキの兵士エル・タルタ役で出演している。その特徴ある鼻ですぐ分かる。他にダビ&アレックス・パストル兄弟のSFスリラー『ラスト・デイズ』13)でホセ・コロナドやキム・グティエレスと共演している。TVシリーズのコメディGym Tony1416回)では、下町のジムのオーナー、トニー役でお茶の間の人気者になった。

 

  

                     (ゴーレン役イバン・マサゲー、映画から)

 

     

 (エル・タルタに扮したイバン・マサゲーとセルジ・ロペス、『パンズ・ラビリンス』から)

 

★アルモドバルの『オール・アバウト・マイ・マザー』99)で、女性に性転換した男性を演じて多くのファンの心を掴んだ、アントニア・サン・フアンが出演する。1961年グランカナリア島ラス・パルマス生れの女優、監督、脚本家。2本の長編、5本のショートを監督している。うち2005年のディエゴ・ポスティゴと共同で撮り、自身も主演したLa China20分)がNYシティ短編映画祭(外国語映画部門)作品賞、パルマ・スプリング短編映画祭で審査員賞を受賞したほか、メディナ映画祭では女優賞を受賞した。ゴヤ賞関連では『オール・アバウト・マイ・マザー』で新人賞にノミネートされ、俳優ユニオンでは助演女優賞を受賞している。劇場公開作品では、ラモン・サラサールの『靴に恋して』02)がある。他イバン・マサゲー主演のTVシリーズ「Gym Tony」(1415110話)に出演して、ジムの受付、メンテナンス責任者、同時に清掃員と三面六臂の大活躍。非常に頭の回転の速い女優で、ゴヤ賞の総合司会者を務めたことがある。

   

        

                      (イモギリ役のアントニア・サン・フアン)

 

     

    (名演技を披露したアントニア、『オール・アバウト・マイ・マザー』から)

 

 (短編La China」のポスター

  

   

★オリジナル脚本賞ノミネーションのダビ・デソラ(バルセロナ1971ペドロ・リベロ(ビルバオ1969のキャリアは、オリジナル脚本賞でご紹介しています。 

カテゴリー「オリジナル脚本賞」の記事は、コチラ20191226