第34回ゴヤ賞2020授賞式*落穂ひろい ⑯ ― 2020年01月29日 10:08
アルモドバルの<Gloria>の夕べだったゴヤ賞2020授賞式
(イルミネーションで彩られた会場の正面玄関前)
★初のマラガ開催となった今年の授賞式、会場となったホセ・マリア・マルティン・カルペナ・スポーツジムは、小雨が降ったり止んだりのあいにくの空模様でした。それでも会場前に馳せつけたファンは、赤絨毯に降り立つシネアストたちを辛抱強く出迎えました。「Dolor y gloria」の一団が到着したときは一段と大きな歓声が上がりました。アルモドバル兄弟にペネロペ・クルス、少し遅れてマラガ名誉市民の称号をもつアントニオ・バンデラスと現在のパートナーであるニコール・ケンプルさん、そして製作者エステル・ガルシアに付き添われたフリエタ・セラノなどが到着しました。終わってみれば、作品・監督・オリジナル脚本・オリジナル作曲・主演男優・助演女優・編集と7冠を制したのでした。
(赤絨毯でのフォトコール、ノラ・ナバスやレオナルド・スバラグリアの姿も)
★会場はマラガ市のスポーツ・センターですから、中央に競技スペースがあり、その周囲を360度取り囲むように階段状の客席が埋めています。ちょっと分かりにくく足場が悪いという印象でした。84歳で新人女優賞受賞という記録を打ち立てたベネディクタ・サンチェスは、案内係にエスコートされて登壇しましたし、より高齢の助演女優賞受賞者フリエタ・セラノが履いていたのは、なんと白いスニーカーでした。しかしドレスより素敵だったと称賛されました。
(オープニング前の内部)
★会場を魅了したのは、いつもそうですがゴヤ栄誉賞受賞の瞬間ですが、今宵はマラガの天才少女と謳われたペパ・フローレス<マリソル>の出席はありませんでした。マラガで悠々自適の生活をパートナーと過ごしておりますが、最初から出席は危ぶまれていました。何しろ35年前の1985年に銀幕を去った女優で歌手ですから、受賞の報に接して一番驚いたのが本人だったでしょう。マラガ開催でなければ受賞はあり得なかったでしょう。フラメンコ界の大御所だった故アントニオ・ガデスとの間に生まれた三姉妹マリア・エステベス、タマラ・ガデス、セリア・フローレスが登場、代理でゴヤ胸像を受け取りました。マリソルの出演作が映し出される大画面をバックに、「La canción de Marisol」をアマイア・ロメロが情感豊かに熱唱、長女の女優マリアは涙を抑えることができずアマイアと抱き合っていました。三女の歌手セリアも「Estando contigo」を歌うため舞台に上がりました。タマラは芸能界とは関係なく心理学者だそうです。
*ペパ・フローレス<マリソル>のキャリア紹介は、コチラ⇒2019年12月13日
(アマイアと抱き合う長女マリア)
★60年代、70年代のフランコ政権時代を駆け抜けた女優にゴヤ栄誉賞が贈られ、感無量の方もいたことでしょう。長いオベーションのあいだ三人姉妹は涙を堪えていました。マリア・エステベスが「私たちの母親は、30年前に銀幕から去ることを決心しました。そして永遠にスクリーンから姿を消しました。そして今宵よみがえりました。エモーショナルな、素晴らしい賞を下さったアカデミーに最大級の感謝をいたします。私たちはとても誇りに思います・・・親愛なるペピータ、このゴヤ栄誉賞はあなたのものです」と感謝の辞を述べました。
(涙にぬれるマリソルの娘たち、セリア、タマラ、マリア)
★プレゼンターが登場しただけで受賞者の発表前にトロフィーの行方が分かってしまう例が少なからずありました。例えば作品賞はマリサ・パレデスとホセ・コロナド、パレデスは『オール・アバウト・マイ・マザー』の主演者、監督賞はアンヘラ・モリーナとペネロペ・クルス、二人は『抱擁のかけら』で母娘を演じています。オリジナル脚本賞は、スペイン映画アカデミー会長を任期半ばで突然辞任、社会労働党サパテロ政権時代の文化相(2009~11)に転身した、アンヘレス・ゴンサレス=シンデと、受賞者アルモドバルの親友、TV 評論家にして作家、モード界のエキスパートであるボブ・ポフ(本名ロベルト・エンリケス)でした。昨年3月に多発性硬化症を公にしておりましたが、病状が進行しているのかゴンサレス=シンデ氏がしっかりとボブ・ポフと腕を組んで支えていました。
(作品賞のプレゼンター、人気の衰えないマリサ・パレデスとホセ・コロナド)
(監督賞のプレゼンター、老いても美貌のアンヘラ・モリーナ、ペネロペ・クルス)
(脚本賞のプレゼンター、アンヘレス・ゴンサレス=シンデとボブ・ポフ、
両人は脚色賞のプレゼンターも務め、最もアイロニーに富んだプレゼンターだった由)
★助演女優賞のフリエタ・セラノ(バルセロナ1933)が87歳とは数えるまで分かりませんでしたが、新人女優賞のベネディクタ・サンチェスのほうが年上に見えました。ゴヤ賞受賞は初、助演にノミネートはアルモドバルの『神経衰弱ぎりぎりの女たち』とグラシア・ケレヘタの「Cuando vuelvas a mi lado」で、今回が三度目の正直となった。スタッフのなかでも特に監督に対して「再会して私にもたらされた役柄はとても深遠なもので、個人的体験としても多くの思い出が残った」とスピーチした。好評だったドレスはファビナ・フィリピのデザイン、それより素晴らしかったのが白のスニーカー、とても87歳には見えない若々しさでした。
(ドレスの下からスニーカーが見える)
★最高齢記録を作った新人女優賞のベネディクタ・サンチェス(ルゴ1935)のスピーチは、会場を幸せに包んだ。「人生は驚きに満ちています。これ(受賞)がその一つです。大勢の人々に、私の娘や孫たちにこのゴヤを捧げます」と。何を話せばいいのか途中でスピーチにつまると「どなたか助けてください」と応援の声をあげていました。実に可愛らしい女性なのでした。母語はガリシア語なのでしょう。ドレスはアドルフォ・ドミンゲスのデザインだそうです。昨年は『誰もが愛しいチャンピオン』出演で新人男優賞を受賞した視力10%という視覚障碍者ヘスス・ビダル(今年も出席)が素晴らしいスピーチをしたことを思い出したことでした。ゴヤ賞を受賞したことで入った情報によると、17歳で結婚、夫とブラジルに移民、リオデジャネイロの書店で働きながらカメラマンとしても15年間働いたようです。娘さんがオーデションを受けるよう勧めて会場に連れて行ってくたことが幸運を呼び寄せた。受賞者が一堂に会するフォトコールでは、アルモドバルからも祝福のベソをうけました。本当に人生は幾つになっても驚きに満ちています。
(会場を幸せにしてくれたベネディクタ、ブラボー!)
(アルモドバルから祝福を受けるベネディクタ)
★マラガ出身の歌手パブロ・アルボランが熱唱する「Sobreviviré」にも会場は酔いました。今は亡きマンサニータが1999年にリリースしたヒット曲が流れました。パブロ・アルボラン自身も、フェルナンド・ゴンサレス・モリーナの『ヤシの木に降る雪』で、ルカス・ビダルと一緒にゴヤ賞2016のオリジナル歌曲賞を受賞しています。アルフォンソ・アルバセテとダビ・メンケスが1999年に撮った同タイトルの「Sobreviviré」は、若い頃のエンマ・スアレスとフアン・ディエゴ・ボトーが主演したラブコメです。マラガ色の強いガラですね。
(聴衆を沸かせたパブロ・アルボラン)
★主演女優賞、主演男優賞以下ののトレビアは次回に。
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