是枝裕和監督、ドノスティア賞を受賞*サンセバスチャン映画祭2018 ① ― 2018年07月03日 06:44
アジア初の受賞者、パルムドールの威力は絶大?

★ちょっとびっくりしました。サンセバスチャン映画祭SIFFは9月下旬開催ですから、まだ先の話と思っていましたが、先月29日に「是枝監督ドノスティア賞受賞」の記事が目に飛び込んできました。ドノスティア賞はいわゆる栄誉賞または功労賞にあたり、SIFFの数ある賞のうちでも一番大きい賞です。例年だと8月から9月にかけて発表されるので、6月29日は異例の早さです。節目の年には複数選ばれ、昨年の第65回はフランスからアニエス・ヴァルダ、イタリアからモニカ・ベルッチ、ラテンアメリカ初の受賞者リカルド・ダリンの3人でした。今年もあと一人ぐらい増えるかもしれません。受賞者の多くはハリウッドで活躍しているシネアストです。第66回の開催期間は9月21日~29日です。
*ドノスティア賞2018受賞者の記事は、コチラ⇒2017年09月30日

(エル・パイス紙にはこんな是枝監督の写真が掲載されました)
★授与式の日程は未定ですが、ビクトリア・エウヘニア劇場でトロフィーが渡されます。当日には『万引き家族』が「Un asunto de familia」のスペイン語題で上映されるようです。スペイン語に<万引き>「買うふりをして店のものをそっと盗む」という単一単語はなく、直訳すると「家族のある商売」ぐらいでしょうか。商売も不正取引など汚いイメージの場合に使用する単語です。というわけでこの家族の商売がよからぬことであることが分かります。因みにフランス語題は「Une affaire de famille」、英語題は「Shoplifters」です。サンセバスチャン映画祭の第一報がこんな形で始まるのは、今後多分ないでしょう。
★サンセバスチャン映画祭での是枝映画は10本あり、第2作目『ワンダフルライフ』(98)がコンペティション部門に出品されたのを皮切りに、2006年『花よりもなほ』、2008年『歩いても歩いても』、2011年『奇跡』(脚本賞)ほか、サバルテギ特別上映で最近の5作(『そして父になる』『海街diary』など)が上映されています。この2本は観客賞も受賞している。スペインでも宮崎駿、河瀨直美などと同じように馴染みのある監督の一人です。
★是枝監督については受賞記事よりも「文科相の祝意を拒んだ」とか、「安倍首相が祝意を表さない」とか場外戦のほうが賑やかですが、封切り3週間で200万人はこれまた驚きです。パルムドールの威力は大したものです。「高がカンヌ、されどカンヌ」です。まだまだ記録は更新されることでしょう。
ミシェル・フランコ『母という名の女』*メキシコ映画 ― 2018年07月07日 13:36
ミシェル・フランコの『母という名の女』は「ある視点」の審査員賞受賞作品

★「カンヌのナイス・ガイ」と言われるミシェル・フランコは、2017年、「Las hijas de Abril」を携えて4度目のカンヌ入りを果たしました。過去にはデビュー作「Daniel & Ana」(09「監督週間」)、2作目『父の秘密』(12「ある視点」グランプリ)、3作目『或る終焉』(15「コンペティション部門」脚本賞)、4作目となる「Las hijas de Abril」は「ある視点」の審査員賞を受賞した。メキシコの若手監督としてノミネーションだけでも破格、受賞となれば尚更のこと異例中の椿事でした。メキシコの監督はカンヌに焦点を合わせている人は多くなく、他に4回出品はカルロス・レイガダス唯一人です。
★邦題のつけ方が難しい作品でしたが、『母という名の女』はどうでしょうか。オリジナル題の直訳「アブリルの娘たち」でよかったと思うのですが、これから公開予定のカルラ・シモンの『悲しみに、こんにちは』(「Verano 1993」)よりは余程まし、いずれにしろ英題の直訳「四月の娘」でなかったことを幸いとします。当ブログではカンヌ映画祭2017以降3回にわたって内容紹介をしておりますが、この度スクリーンで観てきましたので感想をアップいたします。以下は以前にアップしたデータに最近の情報を追加してコンパクトに纏めたものです。
「Las hijas de Abril」(「April's Daughter」)2017
製作:LUCIA FILMS / Trebol Stone 協賛EFICINE PRODUCCION
監督・脚本・編集・製作者:ミシェル・フランコ
撮影:イヴ・カープ
編集(共):ホルヘ・ワイズ
録音:マヌエル・ダノイ、フェデリコ・ゴンサレス・ホルダン、アルド・カンディア、パウリナ・ゴンサレス、チェマ・ラモス・ロア
美術:ミゲル・ラミレス
メイクアップ:ベロニカ・セフド
衣装デザイン:イブリン・ロブレス
音楽:ハビエル・ヌニョ
サウンドデザイン(音響):アレハンドロ・デ・イカサ
製作者:ロドルフォ・コバ、ダビ・ソナナ、ティム・ロス、ガブリエル・リプスタイン(以上エグゼクティブ)、ロレンソ・ビガス、モイセス・ソナナ、他
データ:製作国メキシコ、スペイン語、2017年、ドラマ、103分、撮影2016~17の2ヵ月、撮影地プエルト・バジャルタ、グアダラハラ、メキシコシティ。配給元Videocineビテオシネ。公開メキシコ2017年6月23日、日本2018年6月16日、ほかスペイン、オランダ、ギリシャ、インド、トルコ、台湾、ポルトガルなどで公開されている。
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2017「ある視点」審査員賞受賞。カルロヴィ・ヴァリ、エルサレム、メルボルン、トロント、チューリッヒ、釜山、ロンドン、タイペイ、パームスプリングス、各映画祭正式出品。第60回アリエル賞2018新人女優賞(アナ・バレリア・べセリル)、ディオサ・デ・プラタ2018脚本賞、メキシカン・シネマ・ジャーナリスト2018脚本賞・助演男優賞(エルナン・メンドサ)などを受賞、ノミネーション多数。
キャスト:エンマ・スアレス(アブリル)、アナ・バレリア・べセリル(バレリア)、ホアンナ・ラレキ(クララ)、エンリケ・アリソン(マテオ)、エルナン・メンドサ(マテオの父グレゴリオ)、イバン・コルテス(ホルヘ)、モニカ・デル・カルメン、ホセ・アンヘル・ガルシア、マリア・E・サンドバル(DIF職員)、他
プロット:17歳になるバレリアは妊娠7ヵ月、異父姉のクララとプエルト・バジャルタで暮らしている。クララはストレスからか肥満でふさぎ込みがちである。姉妹は離れて暮らしている母親アブリルとは長らく会っていない。バレリアは母親に妊娠を知られたくなかったのだが、クララは生まれてくる赤ん坊の父親マテオが同じ17歳であること、これからの経済的負担や育児という責任の重さから母に知らせようと決心する。アブリルは娘たちの力になりたいとやってくるが、どうしてバレリアが母親と距離をおきたかったのか、観客はすぐに理解することになるだろう。
4つの視点で描いた初めての映画
A: 母と娘たちの相克映画は掃いて捨てるほどはありませんが、結構あります。最近アップしたラモン・サラサールの『日曜日の憂鬱』、本作でアブリルを演じたエンマ・スアレスが主演したアルモドバルの『ジュリエッタ』もそうでした。
B: ジュリエッタとアブリルは、撮影時期が近いこともあって見た目も似ていますが、テーマは本質的に別のものです。母娘物を一度手掛けると、女は魔物というわけで男性監督はハマるらしい(笑)。「鬼母」もここまで徹底すると怖ろしさを通りこして却って滑稽で笑えます。

(マテオ、バレリア、クララ)
A: もしかしてコメディ?と茶化す人もありそう。フランコはユーモアの乏しい監督ですが、本作では人間の自己愛、狡さと滑稽さを描いていますから、視点をずらすと笑えます。いつもの手法ですが、特に本作は物語のバックを観客に極力知らせない工夫を凝らしているので気が抜けない。妹とボーイフレンドの喘ぎを聞きながら表情一つ変えずに料理をするクララ、こと終わって喉が渇いたのか、水飲みに大きなお腹を突き出しすっぽんぽんで現れるバレリア、続いて汗を光らせて現れたマテオはバレリアの差し出すゆで卵をぱくつく。この只ならぬシーンから観客は、これからの悲劇の到来を予感します。ダイニングの窓から太平洋が望めますが、ダイニングの3人は閉じ込められているように見える。そこで初めて「Las hijas de Abril」のタイトルが挿入される。
B: カンヌのインタビューで、今まで自分は「2つの視点で映画を撮ってきた、例えば『或る終焉』のように。しかし今作ではアブリル、バレリア、クララの母娘にマテオを加えて4つの視点で描いた」と語っていました。
A: 『父の秘密』も父と娘という2つの視点、『或る終焉』も多くの患者が出てきますが、看護師と患者という2つの視点でした。テーマがかなりきわどいこともありますが、「禁じられていることがもつ魅力から遠ざかるべきではないと考えている」とも語っていた。先輩監督カルロス・レイガダスと同じく「好きな人は好き、嫌いな人は嫌い」がはっきりする監督です。考えさせたり痛みを感じさせたりするのを嫌う観客は多く、何事も十人十色です。

(喘ぎを黙殺して料理をするクララ、冒頭シーンから)
B: クララのなげやり、バレリアの幼女のような厚かましさ、マテオの不甲斐なさなどが、どこからやって来るのか。母娘が離れて暮らしている理由、何年も会っていないというが3年なのか10年なのか、そもそも姉妹が何故メキシコでも屈指のリゾート地プエルト・バジャルタの別荘で暮らしているのかが判然としない。
A: まもなく現れる、フライトで疲れているという母親アブリルはどこから飛んで来たのか。観客に示される情報は、クララの押し殺したフラストレーション、バレリアの心と体の発達の不均衡、マテオの自信のない無責任ぶり、アブリルの見せかけの大袈裟な優しさ、明確なのはバレリアとマテオの年齢だけ。こうして物語は切れ切れの情報のまま観客を挑発してくる。

(アメリカやカナダからの観光客で人気のリゾート地、ハリスコ州のプエルト・バジャルタ)
手加減しない母性、男性のモラル的貧困
B: ストーリーの進行役は、最初にスクリーンに現れるクララですかね。仕掛け人は彼女です。ストレスから過食症気味の肥満体、20代後半か30歳ぐらいに見えるが、勿論実年齢は最後まで明かされない。クララとバレリアが異父姉妹であることも解説を読んでいないと分からない。
A: クララは母親に遠隔操作されているようだが、アブリルは自らをコントロールできずに太るに任せている自尊心の低いクララに苛々する。ストレスの原因が母親の自分にあるとは思っていない。クララを17歳で生んだ責任は娘のせいではないのに、青春を奪われたとクララを無意識に復讐している。
B: クララはクララで母親業を放棄したアブリルから妹の世話を押し付けられ、自分の青春を簒奪した母を恨んでいる。ボーイフレンドができないのも母と妹のせいだ。このまま老いてしまいたくない。バレリアは母親の「鬼面仏心」ではなく「仏面鬼心」を本能的に見抜いて警戒する。しかし今は母を利用して従順にするしかない。
A: 両親から勘当され経済力のない、みなしご同然になってしまったマテオにとって、姑とはいえアブリルに忠誠を誓えさえすれば、赤ん坊とも遊べ、やらしてくれないバレリアとは違ってセックスも処理してくれる。まさに後顧の憂いなく楽しく、居心地よく、責任を負わないですむ人生は捨てがたい。
B: 州都グアダラハラに住んでいるらしいバレリアの父親オスカルは、娘の援助を乞うアブリルに、面倒事はまっぴら御免と門前払いを食わす。
A: 自分を捨て若い女に走った憎い元夫の無責任ぶりに、アブリルの怒りが炸裂する。こうしてドラマはアブリルの欲望のまま暴走しはじめる。しかし引き金は、マテオの父親が息子の荷物をわざわざ別荘に運んできて「勘当した」と親の責任回避をしたことです。そのあと直ぐアブリルは元夫の家目指して車を走らせる。

(怒りを殺して元夫の家に向かうアブリル)
B: 両方の男親の無責任ぶりがアブリルの怒りに火を注いだ。この映画はセリフではなく、一見何でもないように見える行動を見逃さないようにと観客に要求する。
A: グレゴリオは孫を里子に出すことで厄介払いができると躊躇することなく書類にサインする。監督はメキシコ社会に蔓延するこのような男の無責任ぶり、ずる賢さに警鐘を鳴らしているようだ。男性たちの健全な社会化もテーマの一つでしょうか。麻薬密売、誘拐、殺人だけがメキシコの病いではなく、男性のモラルの低さこそ根源的な悪なのです。
老いの恐怖、不安を煽るような車の移動
B: 監督は「メキシコでは経済的に自立していない学業半ばの十代の妊娠は珍しくない。メキシコに限らずラテンアメリカ諸国の病根の一つです」とカンヌで語っていました。
A: 若くして子供を生むことは、たちまち老いが訪れることで、お金があってもアブリルが直面しているような老いの恐怖に晒される。20代はとっくの昔に過ぎているのに、過ぎた時間を受け入れることを拒み、娘はライバルとなる。母娘の相克の大きな理由の一つです。アブリルはパンフレットにあるような「怪物」ではなく、青春を楽しむこともなく、崩れかけた体形のまま一人で朽ち果てていくことの恐怖に怯えている女性ともいえます。
A: 全編を通じてまともに思える登場人物の一人が、かつてのアブリルの家政婦だったベロニカ、彼女の自然な生き方は救いです。もっともアブリルが孫カレンの里親に彼女を選ぶのは、「わたしはちゃんと責任を果たしている」という、元夫への当てつけでしょう。
B: アブリルはお金に不自由しているわけではないから、金銭的援助が目的で訪ねたのではなく、離婚しても父親の責任は免れないと言いに行った。
A: これは真っ当な意見です(笑)。フランコ映画では移動に車がしばしば登場しますが、どこに向かっているのか最初は分からない。さらにアブリルの運転ぶりは観客の不安をことさら煽る。『父の秘密』ではフォルクスワーゲンが使用されたが、今回の車種は何でしょうか。
B: この車はクララが仕事に使っていた車ですが、クララは母が来たことで得るものはなく失うものばかりです。最後に別荘の所有者が母親だと知らされて売却が提示されるから、当然住む家も失うわけですね。やはりとんでもない鬼母だ。
A: でも結果的には、クララは妹には復讐できたのではないか。バレリアは自分に嘘をつき母親とままごと遊びをした裏切り者マテオを許さない。今度は自分が嘘をついて罰する番だ。しかし赤ん坊を取り戻しても一寸先は闇、無一物のシングルマザーが辿る先は何処でしょうか。本作では各自それぞれが嘘をつく。嘘はついてもいいけど、せめて一つにしてください。
B: するとクララの傷が一番軽いのかな。図々しく居候しているマテオも追い出せたし、母親の完全犯罪も挫折した。これは人生をやり直すチャンスかもしれない。

(取り戻したカレンを呆然と抱きしめるバレリア、最後のタクシーのシーン)
A: ざらざら神経を逆なでするシーンが多いなかで、どれが記憶に残るかといえば、アブリルが興味を亡くした孫をカフェに置き去りにするシーンですね。圧巻でした。赤ん坊役は成長に合わせて双子も含めて4人だったそうですが、あのシーンの赤ん坊は演技しているのではなく本当に怖かったわけで、トラウマとして残らなければと思ってしまいました。
忽然と消えるアブリルは、邪悪で無慈悲な貪欲な女の典型
B: キャストに触れると、アブリル役のエンマ・スアレス(1964)の「仏面鬼心」の悪女ぶりはなかなかよかった。しかし、母親の祖国をスペインにした理由は何でしょうか。
A: バレリアが母親を探すシーンで、写真をかざしながら「スペイン人」を連呼するのですが、唐突で若干違和感を覚えた。最初から母親役はスペイン女性と決めていたらしい。うがった意見かもしれませんが、メキシコ人がかつての宗主国に抱くアンヴィヴァレンツな感情があるのかもしれない。アブリルの邪悪で無慈悲な貪欲さは、かつての宗主国スペインと重なっている?
B: バレリア役のアナ・バレリア・べセリル(1997)は、お腹のメイクに5時間もかかったそうですが、やはりお腹だけが大きい偽物妊婦でした。クララ役のホアンナ・ラレキは製作発表時よりかなり増量させられたのかたっぷりしていて驚いた。カンヌではまだ元に戻っていなかった。
A: パンフに未紹介ながら重要人物なのが、マテオの父親役エルナン・メンドサ、出番は少なくとも存在感のある俳優、『父の秘密』の主役を演じたベテラン。もう一人が家政婦役、多分モニカ・デル・カルメンだと思うのですが、IMDbのフルキャスト欄に記載がない。彼女はフランコと妹ビクトリアが共同監督した「A los ojos」(14)の主役、『父の秘密』にも教師役で出演しているほか、イニャリトゥの『バベル』(06)、マイケル・ロウの『うるう年の秘め事』(10)の主役、ガブリエル・リプスタインの「600 Millas」(15)などの話題作に多数出演している。
B: 気の毒な役柄でしたが、マテオ役のエンリケ・アリソン(1993)、甘いマスクで女性ファンを獲得できそうです。アブリルからバイクまで買ってもらって嬉しそうに乗り回していましたが。
A: 17歳役はいかにも厳しい。当然とはいえ少年ぽさが出せなかった。女優なら23歳でも17歳は演じられるが、これはキャスティングの責任です。機能不全で崩壊する家族にしても、年増の姑がまだ少年である婿と孫を加えて似非家族になるなど悲しすぎます。しかし、監督は誰のことも裁きません。そこがいいのです。

(バレリアに内緒でビールを楽しむマテオとアブリル、周到な準備に着手するアブリル)
会いたい監督は「ルイス・ブニュエル以外にあり得ない」とフランコ監督
B: 会いたい監督は「ルイス・ブニュエル以外にあり得ない」とブニュエルの影響を語っているからか、ブニュエル作品に結びつける批評が目に付きます。
A: ブニュエルのどの時代の作品が好みなのか具体的に知りませんが、メキシコ時代(1946~60)の『スサーナ』(50)の影響はあるでしょうね。人間の肉欲と嫉妬をテーマにしていた。こちらは母ではなく若く美しい性悪娘の話、女囚スサーナは刑務所を奇跡的に脱走、雨のなか大牧場に辿りつく。信心深い農場一家を騙して、エロティシズムを武器に農場主、その息子、牧童頭を次々と誘惑、愚かな男どもをいがみ合わせて居座る話。最後には天罰が下って塀の中に逆戻り、大農場は平穏を取り戻すのですが、果たして前と同じかどうかという物語。
B: スサーナは「邪悪で無慈悲な性悪女」の古典的原型です。こちらにはブニュエル流のユーモアが漂っていた。いったん農場主の家族は崩壊寸前になるのですが、最後にはスサーナに罰が下って大団円、観客は安心して映画館を後にできた。
A: 農場主の信仰心篤い妻が辛抱強く耐える姿がクララとダブった。メキシコ時代に合作を含めると20数本も撮れた理由は、彼の職人的な律義さだそうです。製作会社が決めた製作費と期間を守ったので量産できたようです。本作も20日間という短期間で撮影した。
B: スペイン映画はハリウッドに渡る前に撮ったドキュメンタリー『糧なき土地』(32)ぐらいですね。ヨーロッパに回帰してから撮った作品でも、すべてフランスやイタリアとの合作です。
A: 遺作となった『欲望のあいまいな対象』(77)もフランスとの合作、活躍期間がフランコ時代と重なり故国では撮れなかった。それが良かったのか悪かったのか分かりません。
B: フランコはメキシコでは数少ないミヒャエル・ハネケの影響が指摘される監督の一人です。今作ではベネズエラのロレンソ・ビガス監督が製作者として協力しました。カンヌにも同行していました。
A: ラテンアメリカに初めてベネチア映画祭の「金獅子賞」をもたらした『彼方から』(15)の監督、このときはフランコが製作者として参画していた。二人は作品の傾向は似ていないが親密、ビガスの新作「La caja」(ワーキングタイトル)の製作を手掛けている。メキシコのチワワ州で既に撮影に入っており、完成が待たれます。

(フランコとビガス、カンヌ映画祭2016授賞式にて)
B: ビガスは子供ときから恐怖映画やホラーに魅せられていたそうで、いずれホラー映画も撮る計画で、脚本を二人で執筆している。
A: フランコはホラーには興味がなく、再び『父の秘密』のような映画を構想しているそうです。ベネズエラとメキシコの社会環境は、カオス状態という点でよく似ており、『彼方から』はベネズエラの現実を描いているとも語っていた。次回作はティム・ロスと再びタッグを組むそうで、すると英語映画になるのでしょうか。
*ミシェル・フランコの主な関連記事*
*『母という名の女』の内容紹介記事は、コチラ⇒2017年05月08日
* カンヌ映画祭2017の監督と主役エンマ・スアレスについては、コチラ⇒2017年05月26日
* カンヌ映画祭2017「ある視点」部門の結果発表は、コチラ⇒2017年05月30日
*『父の秘密』紹介記事は、コチラ⇒2013年11月20日
*『或る終焉』監督フィルモグラフィー・紹介記事は、コチラ⇒2016年06月15日/06月18日
* ロレンソ・ビガスの『彼方から』の主な紹介記事は、コチラ⇒2016年09月30日
フアナ・アコスタ、エルネスト・アルテリオとの別居を公表 ― 2018年07月11日 11:35
15年間のパートナー関係を解消、噂通りになりました
★訃報よりまだいいのが離婚報道、2003年、フアナ・アコスタの一目惚れで始まったパートナー関係も、彼女の「私たちはこれまで素晴らしい関係でした。娘も授かり上手くいっておりましたが、今はそれぞれ別の人生を歩むことにしました。変わる時なんです」という宣言で15年の関係に終止符が打たれました。お相手はエルネスト・アルテリオ、二人の間には12歳になるロラというお嬢さんがおります。正式には結婚していないので離婚というのは正確ではありません。アルテリオの言い分は当然異なりますが藪の中、願わくば子供のためにも節度ある対応が望まれる。大分前から噂が先行していましたが「火のない所に煙は立たぬ」というわけで現実になりました。アルテリオの激やせが取り沙汰されていますが、これが原因ではないとアコスタ、憔悴しているのは男、3ヵ月前に或る若い男性とマドリード郊外の新居に移り元気いっぱいな女、時代は変わりました。

(フォトグラマス・デ・プラタ賞授賞式に出席していた二人、2017年2月、マドリード)
★二人が出会った2003年当時、アルテリオはそれなりの実績があったが、アコスタはスペインでは駆けだしでした。活躍するのは関係を結んからの2005年以降でした。イタリア映画『おとなの事情』のリメイク版、アレックス・デ・ラ・イグレシアの「Perfectos desconocidos」(17)で危機を迎えた夫婦役を演じましたが、実は撮影時にはすでにぎくしゃくしていたようです。「フアナは仕事の不満を家まで持ち込んで・・」とアルテリオ、アコスタが猪突猛進タイプなのは間違いありません。デ・ラ・イグレシア監督もいささか複雑な心境とか。以下に駆け足でキャリア紹介をしておきます。

(アコスタとアルテリオ、「Perfectos desconocidos」から)
★エルネスト・フェデリコ・アルテリオ・バカイコア(1970、ブエノスアイレス、47歳)は、ルイス・プエンソがアルゼンチンに初のオスカー賞をもたらした『オフィシャル・ストーリー』(85)に出演したエクトル・アルテリオが父親。ファーストネームのエルネストはチェ・ゲバラ、セカンドネームのフェデリコはガルシア・ロルカに因んでつけられたが、子供によっては迷惑なこともあるでしょう。ブエノスアイレス生れだが、政治的に左派だった両親が軍事独裁制を嫌い、1975年、家族でスペインに渡ったからスペインが長い。国籍は父親同様アルゼンチンでは珍しくない二重国籍です。アルゼンチン映画よりもスペイン映画やTVシリーズ出演が多い。
★1990年代からスペインのTVシリーズに出演、映画ではフェルナンド・コロモの「Los años bárbaros」(98)でゴヤ賞新人賞にノミネートされた。続いてダビ・セラノ・デ・ラ・ペーニャの「Días de fútbol」(03)でゴヤ賞主演賞にノミネートされたが逃した。この年に父親がゴヤ栄誉賞を受賞、女優の妹マレナと一緒にトロフィーを手渡した。そのほかスペイン俳優組合主演男優賞のノミネーションも受けた。2005年マルセロ・ピニェイロの話題作「El método」でシネマ・ライターズ・サークル賞(スペイン)助演男優賞ノミネートされた。アルゼンチン・西・ブラジル合作、実話に基づいた軍時独裁時代の地下潜伏生活を少年の視点で描いた「Infancia clandestina」(11)では、アルゼンチン映画アカデミー賞スール主演男優賞を受賞、シルバー・コンドル賞にもノミネートされ、グアダラハラ映画祭2013では男優賞を受賞するなど高い評価をえた。マラガ映画祭2015に正式出品されたアレホ・フラのデビュー作「Sexo fácil, películas tristes」で銀のビスナガ男優賞を受賞した。

(アルテリオ、ビスナガ男優賞を受賞した「Sexo fácil, peliculas tristes」から)
★父エクトル・アルテリオはカルロス・サウラの『カラスの飼育』(75)、『アントニエッタ』(82)、ハイメ・デ・アルミニャンの『エル・ニド』(80)などの名作に出演して、ゴヤ賞2003栄誉賞を受賞するなど、父を超えるのは容易でない。同じ世界で仕事をする場合には、メリットとデメリットが常に共存して、「七光り」も時には厳しいものがある。

(父エクトル・アルテリオと、2005年12月のツーショット)
★フアナ・アコスタ(1976、コロンビアのカリ、41歳)は、最初から女優を目指していたわけではなく、コロンビアで美術を学んでいた。しかし間もなく女優に志望変更、フアン・カルロス・コラッサ(アルゼンチン出身)が1990年にマドリードで開校した「コラッサ俳優養成所」に入学、演技を学ぶ。コロンビアとスペインの二重国籍者。1996年、コロンビアTVシリーズ「Mascarada」でデビュー、映画はリカルド・コラルの「Es mejor ser rico que pobre」(99)でデビュー、続いてラウル・ガルシアの話題作「Kalibre 35」(00、コロンビア)に出演、2000年ごろに軸足をスペインに移し、スペインTVシリーズに起用されるようになる。特に2002年4月から放映が開始された長寿TVシリーズ「Hospital Central」(~2012年12月)38話に出演して認知度を高めた。
★2005年、フアン・ビセンテ・コルドバ「A golpes」、エミリオ・マルティネス=ラサロ「Los 2 lados de la cama」(『ベッドサイド物語』)にアルテリオと共演、2006年ダビ・トゥルエバ「Bienvenido a casa」、2015年には、アンドレス・ルケ&サムエル・マルティン・マテオス「Tiempo sin aire」とジャック・トゥールモンド・ビダル「Anna」(コロンビア・仏)の2作に主演した。後者ではマコンド賞2016女優賞を受賞、イベロアメリカ・プラチナ賞2017女優賞ノミネーションと高評価だったが、『ナチュラルウーマン』のダニエラ・ベガの強力パンチに敗れた。

(アコスタ、「Anna」のポスター)
★最近では、ロジャー・グアルの「7 años」(16)がネットフリックスに登場している。アレックス・ブレンデミュール、パコ・レオン、フアン・パブロ・ラバ、マヌエル・モロンなどの芸達者とわたり合うサイコ・サスペンス、途中からフィナーレが見えてしまうのだが、それなりに最後まで楽しめた。最新作は脚本家セルジオ・バレホンのデビュー作、コメディ「Jefe」、既に7月6日封切られた。ゴヤ賞2017で作品賞を受賞した『物静かな男の復讐』に出演、主演男優賞にノミネートされたルイス・カジェホを翻弄する役どころです。

(フアナ・アコスタと上司のルイス・カジェホ、「Jefe」ポスター)
*「Tiempo sin aire」の紹介記事は、コチラ⇒2015年04月26日
*「Perfectos desconocidos」の紹介記事は、コチラ⇒2017年12月17日
第33回ゴヤ賞2019授賞式はセビーリャ開催に決定 ― 2018年07月12日 18:52
ガラ会場がマドリードを出てセビーリャ開催に決定
★マドリード以外の都市開催が既にアナウンスされておりましたが、このほどセビーリャ市長フアン・エスパダスを交えて、マリアノ・バロッソ新会長、ラファエル・ポルテラ副会長から正式に発表になりました(7月10日、セビーリャ)。マドリード以外での開催は今回が2度目、第1回は2000年のバルセロナだったそうです。2回ぐらいバルセロナで開催されていたと思っていましたが、まったく記憶は当てになりません。マドリード中心の映画祭開催を不満に思っている都市は多く、ゴヤ賞ガラも変化の時、バロッソ新会長は「スペイン映画界も他の分野、例えばサッカーのように戦略的な努力をすべき」と考えているようです。

(カテドラルをバックに、セビーリャ市長フアン・エスパダスとマリアノ・バロッソ会長)
★2018年のゴヤ授賞式は、栄誉賞マリサ・パレデス、作品賞・監督賞・脚本賞イサベル・コイシェ、新人監督賞カルラ・シモンと女性軍が気を吐いた年でした。2019年はどんな新戦略で臨むのか。シモン監督の『悲しみに、こんにちは』は間もなく公開されます。コイシェ監督の「The Bookshop」は配給会社も決り年内公開がアナウンスされていますが、その後どうなっているのか。

(「もっと女性にチャンスを」の扇子を手にした主演女優賞受賞者ナタリエ・ポサ)
★セビーリャは「セビーリャ&ヨーロッパ映画祭」が開催される都市、経験もあり足の便も悪くありませんから選ばれたのでしょうか。今年は第31回ヨーロッパ映画賞2018の開催地でもあり、ガラは12月15日です。
★総合司会者は、アンドリュー・ブエナフエンテ(タラゴナ、1965)とシルビア・アブリル(バルセロナ、1971)夫妻に変更ありません。

河瀨直美『Vision ビジョン』がノミネート*サンセバスチャン映画祭2018 ② ― 2018年07月16日 14:41
金貝賞を競うセクション・オフィシアルに7作品が発表になった

★第66回サンセバスチャン映画祭SSIFF 2018(9月21日~29日)のドノスティア賞(栄誉賞)に是枝裕和監督が選ばれたニュースに続いて、今度は河瀨直美の『ビジョン』がコンペティション部門に正式出品が決定した。目下はクレール・ドニ、キム・ジウン、バレリア・サルミエントなどの監督7作品が発表されただけですが、今後数週間のうちに全体像が発表になるようです。

(ロバート・パティンソン、クレール・ドニの「High Life」から)
★河瀨直美(奈良、1969)の最新作『Visionビジョン』は、すでに6月8日に全国ロードショーされております。奈良を舞台にジュリエット・ビノシュ、永瀬正敏、岩田剛典、夏木マリなどが出演している。シニア層が多い河瀨映画に、岩田剛典が起用されたことで若い女性層を取り込めるか。監督については今更ご紹介するまでもありませんが、SSIFFは2010年に続いて2回目、エントリー作品『玄牝 げんぴん』が国際映画批評家連盟賞Fipresciを受賞していますが、カンヌやベネチアでないので、日本ではあまり報道されませんでした。
★今回の目玉になるかもしれないのが、フランスのクレール・ドニ(パリ、1948)のSF「High Life」(独仏英ポーランド他)、ロバート・パティンソン、ジュリエット・ビノシュ、ミア・ゴスが出演している。ドニ監督は、『ショコラ』でデビュー、『美しき仕事』『パリ、18区、夜。』など、SSIFF は初ノミネーション、監督が近未来映画を手掛けるのは珍しい。ビノシュはセビーリャ・ヨーロッパ映画祭2017正式出品のロマンティックでないコメディ「Un sol interior」に続いての出演です。彼女はゴヤ賞2016に、イサベル・コイシェの「Nadie quiere la noche」で主演女優賞にノミネートされた折り来西して、関係者やファンの熱烈な歓迎を受けました。コイシェから「クレージーでぶっ飛んだ女優」と称賛されたビノシェ、彼女ほど偏見なく国境を越えて活躍する女優を他に知りません。今回2作品ノミネーションですから来サンセバスチャンを期待していいかもしれない。

(クレール・ドニとジュリエット・ビノシュ、第70回カンヌ映画祭)
★チリのバレリア・サルミエント(バルパライソ、1948)の「Le cahier noir / The Black Book」(仏ポルトガル)、カミロ・カステロ・ブランコの小説「Livro Negro de Padre Dinis」に着想を得て製作された。チリで哲学と映画を学んでいるが、ピノチェトの軍事クーデタ後の1974年にフランスに亡命して、以来フランス語で製作している。前回のノミネーションは約20年前の「Elle」(1995)、SSIFF 初登場は、1984年「ニューディレクターズ部門」にノミネートされた「Notre marriage / Mi boda contigo」(仏ポルトガル)で監督賞を受賞している。

★ベンハミン・ナイシュタット(ブエノスアイレス、1986)の長編3作目「Rojo」、軍事独裁が始まる直前の1970年代のアルゼンチンについて語る。ダリオ・グランディネッティ(『人生スイッチ』『ジュリエッタ』)、アンドレア・フリゲリオ、アルフレッド・カストロ(『ザ・クラブ』『彼方から』)が出演。ナイシュタット監督については、長編第2作「Historia del miedo」(アルゼンチン・ウルグアイ・独仏)が第64回ベルリン映画祭2014のコンペティション部門にノミネートされた折りキャリア紹介をしております*。彼も映画大学卒業後、フランスの「ル・フレノワ国立現代アートスタジオ」の奨学金を得て、2009年から2年間学んでいる。
*ベンハミン・ナイシュタットのキャリア紹介は、コチラ⇒2014年02月24日

(左から、監督、主役のジョナサン・ダ・ローザ他、ベルリン映画祭2014にて)
★他に韓国のキム・ジウン(ソウル、1964)の「La brigada del lobo」、押井守のアニメ『人狼 JIN-ROH』の韓国版らしい。オーストリアからMarkus Schleinzer(ウィーン、1971)の第2作「Angelo」、デビュー作「Michael」は、カンヌ映画祭2011に正式出品されている。キャスティング・ディレクターとしてのキャリアが長い。
★スイスからはサイモン・ジャケメ(Simon Jaquemet チューリッヒ、1978)の「Der unschuldige / The Innocent」、2014年の「ニューディレクターズ部門」に「Chrieg / War」がノミネートされている。スイスで使用される一種の方言スイスドイツ語映画です。以上ヨーロッパ3作、アジア2作、ラテンアメリカ2作、合計7作です。全体像が分かるまでには数週間かかるようです。字幕はスペイン語と英語入りと思いますが、詳細はいずれアップされます。
スペイン映画アカデミー名誉会長イボンヌ・ブレイク逝く ― 2018年07月20日 14:44
「Our duty」の言葉を残して、第15代映画アカデミー名誉会長ブレイク逝く

(常に笑みを絶やさなかったイボンヌ・ブレイク)
★残念なニュースですが、第15代スペイン映画アカデミー会長イボンヌ・ブレイク氏が、7月17日旅立ちました(享年78歳)。新年早々の1月3日、脳卒中でマドリードのラモン・カハル大学病院に緊急入院、以来ICUでの闘病生活を送っておりました。マンチェスター生れ(1940)ながらスペイン映画との関りは長く、4個もゴヤ賞を受賞している。国際的な服飾デザイナーとして『ニコライとアレクサンドラ』(71)でオスカー賞、『ロビンとマリリン』(76)、今は懐かしい『スーパーマン』(78)衣装の生みの親、国民映画賞受賞者、女性シネアストの地位向上など、その功績は数えきれません。生涯現役をモットーに、なり手のなかったスペイン映画アカデミー会長を引き受け、自己主張ばかり強いスペイン映画界を忍耐強く統率してきた女性だった。

(スーパーマンの衣装を着た今は亡きクリストファー・リーヴ)
★ブレイク会長を支えてきた現会長マリアノ・バロッソの回想によれば、ブレイク氏から事務所に呼ばれ「副会長就任の打診を受けたときは引き受ける気などさらさらなかった。何しろ断る理由は山ほどあったからね。ところが帰るときには何故か引き受けていたんだ。彼女は『私たちで引き受けましょう、マリアノ、そして英語でIt’s our duty』と言ったんだ」。「イボンヌは、ひたすら情熱的に良心、献身、寛容を実行した人だった。その素晴らしい才能、その視点の確実さ、微笑、ほろ苦いユーモア、常識的な考えについての機知にとんだ言葉は皆を和ませた」とバロッソ。アントニオ・レシノスとグラシア・ケレヘタが任期途中で投げ出した「スペイン映画アカデミー」という泥舟に乗らざるを得なかった経緯だった。スペイン語と込み入った話は英語で周りを説得して回った、この逞しさと優しさを兼ね備えたイギリス女性のお蔭で、シネアストのそれぞれが将来の映画について、「Our duty」とは何かについて、改めて考えることになったようだ。

(ゴヤ賞2017授賞式で挨拶するブレイク会長とバロッソ副会長)

(女性シネアストの機会均等に尽くしたブレイクと盟友アナ・ベレン)

(共にオスカー受賞者のブレイクとフェイ・ダナウェイ)

(『ロビンとマリリン』のヒロイン、オードリー・ヘプバーンの衣装を整えるブレイク)
*ブレイク名誉会長の関連記事*
*第15代映画アカデミー会長就任の記事は、コチラ⇒2016年10月29日/12月20日
*ブレイク会長緊急入院、キャリア紹介の記事は、コチラ⇒2018年01月09日
*第16代スペイン映画アカデミー執行部については、コチラ⇒2018年06月23日
ニューディレクターズ部門ノミネーション*サンセバスチャン映画祭2018 ③ ― 2018年07月21日 14:25
奥山大史のデビュー作『僕はイエス様が嫌い』を含め13作がノミネート

★ニューディレクターズ部門は、デビュー作または第2作目までが対象になるセクション、去る7月12日にノミネーション発表がありました。スペイン3作、アルゼンチンの2作ほか、日本、デンマーク、メキシコ、ルーマニア、コソボ、ロシア、スイス、ベトナム各1作ずつ13作品の上映が決定しました(追加があるかもしれない)。デビュー作8本、第2作が5本、受賞作には50,000ユーロの副賞とスペイン一般公開が保証されます。
★奥山大史(ヒロシ・オクヤマ、1996)の長編デビュー作『僕はイエス様が嫌い』(「Jesus」)がサンセバスチャン映画祭のニューディレクターズにノミネーションされた。22歳の若さでのノミネートは多分最年少でしょう。既に「映画comニュース」などで珍しく報道されています。今年は是枝裕和監督のドノスティア栄誉賞受賞があるせいかもしれません。奥山監督はサンセバスチャン入りを楽しみにしているようです。また2019年の劇場公開も決定しているようです。

★スペイン語映画は、スペイン、アルゼンチン、メキシコの合計6作です。長編は第1作か2作でも、短編ではそれなりの実績を残している新人監督ばかりです。ロラ・ドゥエニャスとアンナ・カスティージョが母娘を演じることで、既に話題になっている「Viaje al cuarto de una madre」のような映画もありますが、現段階では作品名と監督名だけ列挙しておきます。
◎ Oreina (Ciervo) スペイン、監督:Koldo Almandoz(サンセバスチャン、1973)

◎ Julia y el zorro アルゼンチン、
監督:Ines María Barrionuevo(アルゼンチンのコルドバ、1980)

◎ La camarista メキシコ・米国合作、監督:Lila Avilés(メキシコ、1982)

◎ Apuntes para una película de atracos スペイン、
監督:Elías León Siminiani(サンタンデール、1971)

◎ Para la guerra キューバ・アルゼンチン・スペイン合作、
監督:Francisco Marise (ラプラタ、1985)

◎ Viaje al cuarto de una madre スペイン・フランス合作、
監督:Celia Rico Clavellino(セビーリャ、1982)

金貝賞を争うセクション・オフィシアル*サンセバスチャン映画祭2018 ④ ― 2018年07月25日 11:43
金貝賞にイシアル・ボリャイン、イサキ・ラクエスタなどが参入!

★去る7月20日、サンセバスチャン映画祭SSIFFの総ディレクター、ホセ・ルイス・レボルディノス、コミュニケーション責任者ルス・ペレス・デ・アヌシタにより、イシアル・ボリャイン、イサキ・ラクエスタ、ロドリゴ・ソロゴジェン、カルロス・ベルムトなどベテラン勢が、金貝賞を競うコンペティション部門に参入することがアナウンスされました。他にコンペティション外、サバルテギ-タバカレラ、ペルラス、前回アップのニューディレクターズを含めて、スペインの制作会社が手掛ける作品はトータルで19作品となりました。まず金貝賞を争うセクション・オフィシアルにノミネートされた4作品の基本データのご紹介です。4作というのは例年通りの本数、4監督ともコンペティション部門には複数回登場、金貝賞受賞者も混じっております。
*セクション・オフィシアル(コンペティション)*
◎ El Reino 監督:ロドリゴ・ソロゴジェン(スペイン)
キャスト:アントニオ・デ・ラ・トーレ(マヌエル・ロペス・ビダル)、モニカ・ロペス、ホセ・マリア・ポウ、ナチョ・フレスネダ(パコ)、アナ・ワヘネル、バルバラ・レニー、ルイス・サエラ、フランシスコ・レイェス、マリア・デ・ナティ、パコ・レビリャ、ソニア・アルマルチャ、ダビ・ロレンテ、アンドレス・リマ、オスカル・デ・ラ・フエンテ・マヌエル
物語:マヌエル・ロペス・ビダルは、ある政党の自治州副書記官として影響力をもっており、国政への飛躍が期待されていた。しかし親友の一人パコと共に汚職の陰謀に巻き込まれ、秘密漏洩から生き残りをかけての悪のスパイラルに陥っていく・・・
監督紹介:ロドリゴ・ソロゴジェン(ソロゴイェン、マドリード、1981)のノミネーションは、2016年の長編3作目『ゴッド・セイブ・アス マドリード連続老女強盗殺人事件』(「Que Dios nos perdone」)に続いて2回目、脚本賞を受賞している(イサベル・ペーニャとの共同執筆)。ゴヤ賞2017では主役のロベルト・アラモが主演男優賞を受賞した。短編「Madre」でゴヤ賞2018短編映画賞を受賞、マラガ映画祭2018「マラガ才能賞 エロイ・デ・ラ・イグレシア」に早くも選ばれるなど活躍が目立っている。4作目となる「El Reino」は、前作にも主演したアントニオ・デ・ラ・トーレを起用、汚職に巻き込まれていく政治家を演じる。本作の脚本もイサベル・ペーニャとの共同執筆。
*トロント映画祭2018「コンテンポラリー・ワールド・シネマ」正式出品作品
*「Que Dios nos perdone」の作品紹介は、コチラ⇒2016年08月11日
* キャリア&フィルモグラフィーについては、コチラ⇒2018年03月26日
* 短編「Madre」については、コチラ⇒2018年02月10日

◎ Entre dos aguas (「Between Two Waters」) 監督:イサキ・ラクエスタ(スペイン)
キャスト:イスラエル・ゴメス・ロメロ(イスラ)、フランシスコ・ホセ・ゴメス・ロメロ(チェイト)
解説:イスラとチェイトのロマ兄弟の物語。イスラは麻薬密売の廉で刑に服している。一方チェイトは海兵隊に志願して入隊している。イスラが刑期を終えて出所、チェイトも長期のミッションを終えて、二人はサンフェルナンド島に戻ってきた。再会を果たした兄弟は、まだ二人が幼かったときに起きた父親の変死に思いを馳せる。果たして兄弟のわだかまりは回復できるのか。イスラは妻と娘たちとの関係を取り戻すために帰郷したのだが、スペインで最も失業率の高い地方でどのようにして人生を立て直そうとするのか。ラクエスタの『時間の伝説』から12年後、成人したイスラとチェイト兄弟の現在がゴメス・ロメロ兄弟によって演じられる。
監督紹介:イサキ・ラクエスタ(ジローナ、1975)のセクション・オフィシアル部門ノミネーションは、コンペティション外(2014「Murieron por encima de sus posibilidades」)を含めると3回目になる。今作は100%フィクションのコメディだったがあまり評価されなかった。初ノミネーションの「Los pasos dobles」(11)がいきなり金貝賞を受賞、今回の「Entre dos aguas」は、上述したように「La leyenda del tiempo」(06、『時間の伝説』)のその後が語られるようです。当ブログではマラガ映画祭2016に出品され、妻イサ・カンポと共同監督した『記憶の行方』(16、「La próxima piel」)を紹介しています。エンマ・スアレスにゴヤ賞2017助演女優賞をもたらした作品(邦題はNetflixによる)。
*『記憶の行方』の紹介記事、監督フィルモグラフィーは、コチラ⇒2016年04月29日

◎ Quién te cantará 監督:カルロス・ベルムト(スペイン、フランス)
キャスト:ナイワ・ニムリ(リラ・カッセン)、エバ・リョラチ(ビオレタ)、ナタリア・デ・モリナ(マルタ)、カルメ・エリアス、フリアン・ビリャグラン(ニコラス)、他
解説:リラ・カッセンは1990年代に最も成功をおさめたスペインの歌手だったが、突然謎を秘めたまま姿を消してしまった。10年後リラは華々しい舞台復帰の準備をしていたが、待ち望んだ期日の少し前に事故にあって記憶を失ってしまった。一方ビオレタは、関係がぎくしゃくしている娘マルタの意のままに操られており、辛い現実を逃れるためにできる唯一のことは、毎夜働いているカラオケでリラ・カッセンに変身することだった。ある日ビオレタは、リラ・カッセンがもとの彼女に戻れるように教えて欲しいという魅惑的な申し出を受ける。
監督紹介:カルロス・ベルムト(マドリード、1980)のノミネーションは、金貝賞受賞の第2作目『マジカル・ガール』(14「Magical girl」)に続いて2回目。異例の作品賞・監督賞のダブル受賞をうけ、授賞式では驚きとブーイングが同時におきたことは記憶に新しい。国際映画祭での数々の受賞歴を誇るが、ゴヤ賞2017では主演のバラバラ・レニーが主演女優賞を取っただけに終わった。新作は5年間銀幕から遠ざかっていたナイワ・ニムリをヒロインに迎えて撮った長編3作目、舞台復帰を目前に事故にあって記憶喪失になってしまう歌手の物語が語られる。
*トロント映画祭2018「コンテンポラリー・ワールド・シネマ」正式出品作品
*『マジカル・ガール』の作品紹介の記事は、コチラ⇒2015年1月21日
* 本邦公開の記事は、コチラ⇒2016年02月15日

追記:『シークレット・ヴォイス』の邦題で、2019年1月4日公開になりました。
◎ Yuli 監督:イシアル・ボリャイン(スペイン、キューバ、イギリス、ドイツ)
キャスト:カルロス・アコスタ、サンティアゴ・アルフォンソ、ケヴィン・マルティネス、エディソン・マヌエル・オルベラ、ラウラ・デ・ラ・ウス、他
解説:タイトルの「ユーリ」はカルロス・アコスタの父親ペドロが付けた綽名から採られており、アフリカの戦いの神様オグンの息子という意味ということです。英国ロイヤル・バレエ団で黒人として初めてプリンシパル・ダンサーになったカルロス・ユニオル・アコスタ(キューバ、1973)の「No Way Home」に触発されて製作されたビオピック。アコスタ本人が出演しているがフィクションです。他にキューバの俳優が数多く出演している。アコスタのキャリアについては日本語ウイキペディアで読める。
監督紹介:イシアル・ボリャイン(マドリード、1967)のノミネーションは3回目、初ノミネーション『テイク・マイ・アイズ』(03「Te doy mis ojos」)では主演のライア・マルルとルイス・トサールがそれぞれ女優賞、男優賞を受賞した。第2回目の「Mataharis」(07)はナイワ・ニムリを主役にしたコメディだったが無冠に終わった。最新作「Yuli」は、2016年の『オリーブの樹は呼んでいる』(「El olivo」)に続いて、夫君でもあるイギリスの脚本家ポール・ラバディが執筆している。
*「El olivo」の作品紹介、監督、脚本家紹介は、コチラ⇒2016年07月19日

★以上ノミネーション4作のリストです。開幕までに気になる作品を順次アップしたいが、次回はコンペティション外で上映されるエンリケ・ウルビス&ホルヘ・ドラドの「Gigantes」(スペイン)です。
セクション・オフィシアル-コンペティション外*サンセバスチャン映画祭2018⑤ ― 2018年07月29日 11:26
エンリケ・ウルビスのTVシリーズ「Gigantes」の先行上映
★昨年から始まった第2回TVシリーズの先行上映は、『悪人に平穏なし』(11)の成功の後、しばらく音沙汰のなかったエンリケ・ウルビスとホルヘ・ドラドの「Gigantes」(スペイン、全8話)に決定、今回もホセ・コロナドとタッグを組んでいます。コロナドは2017年4月に心臓の痛みを感じて緊急入院、冠状動脈のトラブルを取りのぞくステント手術を受けています。退院後、マヌエル・リバスのアイデアとなるTVシリーズ「Vivir sin permiso」(全14話、2017~18)に主演、4人の息子をもつガリシアの麻薬王に扮した。今回の「Gigantes」も3人の息子を麻薬の「巨人」に育て上げようとする父親役で、似たような設定が気に入りませんが、春から話題になっていたドラマです。管理人贔屓のウルビスとコロナドがタッグを組んだということでアップいたします。

(ウルビス監督とホセ・コロナド)

(左からホセ・コロナド、エリザベト・Gelabert、ダニエル・グラオ、ウルビス監督、
イサク・フェリス、カルロス・リブラド、7月20日、マドリードの映画アカデミー)
◎「Gigantes」(スペイン、全8話)エンリケ・ウルビス&ホルヘ・ドラド
キャスト:ホセ・コロナド(父親アブラハム・ゲレーロ)、イサク・フェリス(長男ダニエル)、ダニエル・グラオ(次男トマス)、カルロス・リブラド’Nene’(末子クレメンテ)、エリザベト・Gelabert、ヨランダ・トロシオ、ソフィア・オリア、マヌエル・ガンセド、他多数
解説:ゲレーロ家は数十年間、マドリードの暗黒街ラ・ラティナ地区でスペインからヨーロッパ諸国にコカインを流す麻薬取引網をコントロールしていた。しかし目下のファミリーは彼らにとって極めて重要な局面に立たされていた。長男ダニエルが15年の刑期を終えて出所してきたが、父アブラハムは病に伏していた。ダニエルは一家の然るべき地位を取り戻そうとするが、彼の知っていた世界はもはや存在していなかった。三男クレメンテの姿はなく、次男トマスが一家の大黒柱になっていたからだ。父親が三兄弟に施した教育は、生き残るためには手段を択ばず、モラルの限界を超えてでも檻の中の闘犬のように、<巨人>のごとく闘うことだった。兄弟の闘いの行くつく先は、兄弟間の愛と憎しみが語られるだろう。
★三兄弟は母親の愛を知らずに育った。モンスターのような麻薬密売人の父親は、兄弟を競わせてお金の稼ぎ方と暴力の使い方を教えてきた。長男ダニエル(イサク・フェリス)は後先を考えない衝動的な性格で、父親の姿を追って生きているのだが、父親のような人生は歩みたくないというジレンマを抱えている。三男クレメンテ(カルロス・リブラド’Nene’)は家業から抜け出したいとボクシングに熱中しており、ガールフレンドもファミリーと距離をおくことを願っている。次男トマス(ダニエル・グラオ)は謎めいているが、彼ら三人の共通項は満身傷だらけという点である。ダニエル・グラオは、アルモドバルの『ジュリエッタ』でヒロインの夫を演じた俳優、イサク・フェリスは、マラガ映画祭2018で「金のビスナガ賞」を受賞したエレナ・トラぺの「Las distancias」に出演しています。カルロス・リブラドは当ブログ初登場、ボクシングの練習シーンでムキムキの肉体を披露しています。

(左から、長男ダニエル、次男トマス、三男クレメンテ)

(左から、カルロス・リブラド’Nene’、イサク・フェリス、ダニエル・グラオ)

(リブラドに演技指導をするウルビス監督)
*監督&スタッフ*
★エンリケ・ウルビス(ビルバオ、1962)と、ホルヘ・ドラド(マドリード、1976)の共同監督作品、ウルビスが全8話、ドラドが3話を担当した。ホルヘ・ドラドは、アルモドバルの『トーク・トゥ・ハー』(02)や『バッド・エデュケーション』(09)、ギレルモ・デル・トロの『デビルズ・バックボーン』(01)などで長いこと助監督をつとめたあと、米国との合作で撮ったサイコスリラー「Anna」(英題「Mindscape」)が、シッチェス映画祭2013にエントリーされた。言語が英語だったことも幸いして『記憶探偵と鍵のかかった少女』の邦題で翌2014年公開された。DVDも発売されたからスリラーファンにはウルビスより認知度が高いかもしれない。
★プロジェクトチームのリーダーはウルビス監督だが、オリジナルな発案者は俳優のマヌエル・ガンセドだそうで、今回は脚本と製作の他、俳優としても出演(2話)している。脚本はミシェル・ガスタンビデ、ミゲル・バロッソ、マヌエル・ガンセド、ウルビス。ウルビス監督によると「前からの仕事仲間のマヌエルから、モビスター+が<Gigantes>と名付けた彼のアイディアを買ってくれ、それを私に監督して欲しいと言ってきた。そこでTVシリーズの脚本家ミゲル・バロッソに応援を依頼、オリジナル脚本の推敲に着手した。それからは目眩がしそうなトボガンに乗ってるようなもので、最終的にはいつも私の脚本を担当してくれるミシェル・ガスタンビデに参加してもらって完成させた」と経緯を語っている。
★撮影はウナックス・メンディア、前作『悪人に平穏なし』に続いての担当、他監督作品ではシッチェス映画祭2013のオープニング作品だったエウヘニオ・ミラの「Grand Piano」(『グランドピアノ 狙われた黒鍵』)、コルド・セラの「Gernika」(16)のほか、「Gran Hotel」(11~12)のようなTVシリーズを多く手掛けている。本作ではTV用のフォーマットで撮影、主にマドリードのラバピエス地区、ラ・ラティナ地区、アンダルシアのアルメリアでも撮影した。

(左に立っているのがアブラハム役のホセ・コロナドか。第1話の冒頭部分から)
*ウルビス&コロナド関連記事*
*『貸し金庫507』の紹介記事は、コチラ⇒2014年03月25日
* ホセ・コロナドのキャリア紹介は、コチラ⇒2014年03月20日/2017年04月17日
* コルド・セラの「Gernika」紹介記事は、コチラ⇒2016年04月20日


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