『マジカル・ガール』がやっと公開*カルロス・ベルムト ― 2016年02月15日 13:42
マンガ・オタクが撮ったフィルム・ノワール
★前回「待ちくたびれました」と書いたカルロス・ベルムトの『マジカル・ガール』の劇場公開が1カ月をきりました。既に試写会で見たブロガーのネタバレ記事まであって、「ただで見て、それはないよ」です。映画祭上映こそ枚挙に暇がないが劇場公開は数カ国、日本はその数少ないうちの一つ、殆どが原題を使用しているがフランスでは“La niña de fuego”のタイトルで公開された。昨年ゴヤ賞ノミネーションの1月段階では製作費が半分も回収できていなかったが、次回作のためにも日本公開が少しでも寄与してくれることを願いたい(日本で新作を撮る噂あり)。
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(カルロス・ベルムト監督)
★原タイトル“Magical Girl”はサンセバスチャンの金貝賞・監督賞受賞作品でしたが、ゴヤ賞はバルバラ・レニーの主演女優賞1個でした。話題作ではあったがわざわざ映画館に足を運んで見る映画ではないと考えた観客が多かったということです。サンセバスチャンでも作品賞と監督賞をダブらせない方針を崩してまで両賞を受賞させたことに憤慨する向きもあり、それは製作者、監督とも承知のことだったと思います。スリラー好きなスペイン人でも二の足を踏んだようでした。2014年は空前のヒット作“Ocho apellidos vascos”、『エル・ニーニョ』や『マーシュランド』などに観客が押し寄せたことも原因かと思います。ヒロインのバルバラ・レニーのプロフィール、成功までの軌跡、作品データについては、既に詳しく記事にしております(コチラ⇒2015年1月21日、同年3月27日)。その他、日本公開公式サイトをご覧ください。
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(受賞スピーチをするバルバラ・レニー、背後はプレゼンターのフアン・ディエゴ)
★以下のフィルモグラフィーから分かるように脇役が多い。しかし傾向の異なる監督からオファーを受けており、歴史物からシリアス・ドラマ、コメディまでこなせるマルチ俳優である。アルモドバルの『私が、生きる肌』のチョイ役で合格点を貰ったようだが、新作“Julieta”のヒロイン起用は噂におわった。コメディ“Todas las canciones hablan de mí”の監督ホナス・トゥルエバ(1981マドリード、フェルナンド・トゥルエバの長男)と恋人同士だった。他にも噂はあったが現在は『マジカル・ガール』で共演したイスラエル・エレハルデが新恋人、昨年ゴールインしたようです。演劇との二足の草鞋派であるカップルは “Misántropo”やパスカル・ランバートの“La clausura del amor”の舞台に共に立っている。後者は「愛の関係を終わらせるためのレシピ」がテーマとか。演技の基礎を舞台で磨いている人が多いヨーロッパの俳優は、映画と演劇の両方を手放さない。アニマラリオAnimalario(1996設立)というマドリードに本拠をおく演劇集団のメンバー、アルベルト・サン・フアン、同じアルゼンチン出身のエルネスト・アウテリオなどが所属している。
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(レニーとエレハルデ、舞台“La clausura del amor”から)
*主なフィルモグラフィー*
2001“Más pena que gloria” ビクトル・ガルシア・レオン
2005“Obaba”モンチョ・アルメンダリス、ルルデス役でゴヤ賞2006新人女優賞ノミネート。
2007“Las 13 rosas”エミリオ・マルティネス≂ラサロ (スペイン内戦がテーマ)
2008“Todos los días son tuyos”ホセ・ルイス・グティエレス・アリアス
2009“Los condenados”イサキ・ラクエスタ(サン・ジョルディ映画賞で女優賞)
2010“Todas las canciones hablan de mí”ホナス・トゥルエバ(コメディ)
2011“La piel que habito”ペドロ・アルモドバル(『私が、生きる肌』の邦題で2012公開)
2012“Dictado”アントニオ・チャバリアス(『フリア、よみがえりの少女』の邦題で2012公開)
2012“Miel de naranjas”イマノル・ウリベ
2014“Stella cadente” リュイス・ミニャロ(サンセバスチャン「メイド・イン・スペイン」)
2014“El Niño”ダニエル・モンソン(『エル・ニーニョ』の邦題でラテンビート2014上映)
ゴヤ賞助演女優賞ノミネーション
2014“Magical Girl”カルロス・ベルムト、サンセバスチャン映画祭2014金貝賞・監督賞、ゴヤ賞主演女優賞、フォルケ賞女優賞、シネマ・ライターズ・サークル賞主演女優賞などを受賞(『マジカル・ガール』の邦題で2016年公開)
2014“Murieron por encima de sus posibilidades” イサキ・ラクエスタ(コメディ)
2015“El apóstata”フェデリコ・ベイロフ(ウルグアイ=西=仏)コメディ
2016“María (y los demás”ネリー・レゲラ
2016“Oro”アグスティン・ディアス・ヤネス
2016“Las furias”ミゲル・デル・アルコ
2016“Contratiempo”オリオル・パウロ
★“El apóstata”はスペインでは未公開、後は製作中です。殆どが主役ですから2015年はハードな1年だったことがわかります。“El apóstata”のフェデリコ・ベイロフ監督はウルグアイ出身、トロント映画祭でワールド・プレミア、サンセバスチャン映画祭で国際映画批評家連盟FIPRESCI賞、審査員スペシャル・メンションを受賞している。本作には最近映画を撮っていない『カマロン』の監督ハイメ・チャバリが神父役で出演している。アルモドバルの『マタドール』にも司祭役で出ていたが、風貌がぴったりです。国際的な映画祭には招待されるがスペインは未公開、故郷ウルグアイで10月公開されている。
★久しぶりにメガホンをとったアグスティン・ディアス・ヤネスの“Oro”には、オスカル・ハエナダやラウル・アレバロが共演している。まだ詳細は分からないが長編デビュー作『死んでしまったら私のことなんか誰も話さない』、『ウエルカム!ヘヴン』、『アラトリステ』、『4人の女』の監督、個人的にはかなり期待している。『アラトリステ』の原作者ペレス・レベルテの短編の映画化です。デビュー作でゴヤ賞1996の新人監督賞・脚本賞を受賞している。ビクトリア・アブリル、フェデリコ・ルッピ、ピラール・バルデムなどベテラン俳優の演技も素晴らしかった。
★新人監督ミゲル・デル・アルコの“Las furias”には、『マジカル・ガール』のホセ・サクリスタン、アルモドバル新作の“Julieta”のヒロイン、エンマ・スアレス、“Ocho apellidos vascos”のカルメン・マチ、アルベルト・サン・フアンがクレジットされている。『ロスト・ボデイ』のオリオル・パウロの“Contratiempo”には、マリオ・カサス、ホセ・コロナドが共演、どうやって時間を作っているのか凄まじいスケジュールです。これからの映画をあれこれご紹介しましたが、どれが日本の劇場まで辿り着けるかしらね。
涙は何処からうまれるのか
★少女時代はアルゼンチン訛りのせいでイジメにあって涙を流していたバルバラ、今は演技者として嬉し泣き、悔し泣きの涙を流さなければならない。下の写真はカメラマンの求めにしたがって完成したもの。「バルバラ、カメラの方を見て、顎を少し上げて、そうそういいね。じゃ唇を心もち開けて、髪に片手を入れてみて。とてもいい、顔を左に向けて、いいやそれでは向けすぎだよ、バルバラ。ああいいね、じゃ、泣けるかな・・」。こうして出来上がった写真です。涙を流すことができたかって?
![](http://aribaba39.asablo.jp/blog/img/2016/02/15/3f8b44.jpg)
(謎めいた美しさは何処からうまれるのか、バルバラ・レニー)
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