イシアル・ボリャイン新作「オリーブの樹」*ブリュッセル映画祭観客賞受賞2016年07月19日 12:05

       世界に残された大樹の売買を背景にスペインの危機が語られる

 

     

イシアル・ボリャインの長編7作目となるEl olivoがブリュッセル映画祭の観客賞を受賞しました。今秋のラテンビート上映を期待して作品紹介をしたい。実にありふれたストーリーだが、ボリャイン映画はメッセージが明確である。「安っぽいメタファー」あるいは「既視感がある」などのマイナス評価を物ともしない強さが、観客の心を掴んでしまう。サンチャゴ・セグラの「トレンテ」シリーズやアメナバルの『アレクサンドリア』、またはJA・バヨナの『インポッシブル』のような大資本を使わずに、それなりの興行成績を上げている。つまり観客はこういう映画も必要としているということです。俳優を信頼してあまりリハーサルをしないタイプの監督、1シーン1ショットが好き、気配りがあって撮影が楽しいなどキャスト陣の好感度も高い。彼女自身も女優であるから俳優心理のメカニズムをよく知っているせいでしょうか。

El olivo”についての記事は、コチラ⇒2016221

 

    El olivo(“The Olive Tree”)2016 

製作:Morena Films / The Match Factory

監督:イシアル・ボリャイン

脚本:ポール・ラヴァティ

音楽:パスカル・ゲーニュ

撮影:セルジ・ガジャルド

美術:ライア・コレト、Anja Fromm(独)

衣装デザイン:フラン・クルス

メイク・ヘアー:マルセラ・バレト

キャスティング:ミレイア・フアレス

製作者:ペドロ・ウリオル(エグゼクティブ)、フアン・ゴードン、マイケル・ウェーバー、ほか

 

データ:製作国スペイン=ドイツ、言語スペイン語・ドイツ語・英語・フランス語、2016年、コメディ・ドラマ、100分、製作費420万ユーロ、撮影スペイン&ドイツ、公開スペイン56日、ギリシャ&イスラエル62日、フランス713日、ドイツ82日予定

映画祭・受賞歴:ブリュッセル映画祭観客賞受賞、シアトル映画際監督賞第2席、女優賞アナ・カスティージョ第3席。ほかマイアミ、シドニー、ミュンヘン、エジンバラ、各国際映画祭2016正式出品。

 

キャストアナ・カスティーリョ(アルマ)、ハビエル・グティエレス(叔父アルカチョファ)、ペプ・アンブロス(ボーイフレンド、ラファ)、マヌエル・クカラ(祖父ラモン)、イネス・ルイス(少女アルマ)、アイナ・レケナ(アルマの母)、ミゲル・アンヘル・アラドレン(ルイス)、カルメ・プラ(バネッサ)、アナ・イサベル・メナ(ソレ)、マリア・ロメロ(ウィキィ)、パウラ・ウセロ(アデリェ)、クリス・ブランコ(エストレーリャ)、パコ・マンサネド(ネルソン)、ほか多数

 

解説:樹齢2000年のオリーブの樹をめぐるアルマと祖父の物語。二十歳になるアルマはバレンシア州カステリョンの養鶏場で働いている。気掛かりなことは自分を可愛がってくれた祖父ラモンが口を利かなくなり、今では食事も摂らなくなってしまったことだ。思い当たるのは12年前、父親がレストランの開店資金のため、祖父が心から大切にしていた樹齢2000年のオリーブの樹を伐り倒して売ってしまったこと。ドイツの金融都市デュッセルドルフにあるエネルギー関連会社が所有しているという情報を得たアルマは、叔父アルカチョファとボーイフレンドのラファを巻き込んで、お金もないのにスペインからドイツに向けてトラックで出発、こうしてトンチンカンなゲームよろしく珍道中がはじまった。

 

         

           (オリーブの樹の下で、8歳のアルマと祖父ラモン)

 

    

      (オリーブの樹があった場所で失意の日々を送る祖父に寄り添うアルマ)

 

       アルマ・キホーテと二人のサンチョ・パンサ、アルカチョファとラファ

 

★本作はあくまでフィクションですが、ポール・ラヴァティによると、アルマとラモンのような祖父と孫にカステリョンで実際に出会ったのが執筆の始まりだったという。樹齢二千年というオリーブの樹は、かつてイベリア半島を占領したローマ人が植林したものだそうです。野外劇場や水道橋を建設しただけではなかったということ。しかし大樹でもオリーブの実の収穫とは正比例しないから効率は良くない。しかし生産高だけで悪者と決めつけていいのか、慣習や社会規範に従順であることが常に正しいとは限らない。時には非従順にも価値があるのではないかと語りかけている。

 

8メートル、10メートルの大樹が豊かなドイツに4万ユーロほどで買われていく。デュッセルドルフはノルトライン=ヴェスファーレン州の州都、約60万人と人口は多くないが、ドイツを代表する経済や芸術分野の中心都市である。経済危機のスペインとは対照的に豊かなドイツ、同じEU 域内でも経済の二極化は鮮明です。 

  

      (デュッセルドルフのエネルギー関連会社のホールにオブジェとして飾られていた)

 

★アルマと祖父の関係は愛で繋がっている。しかし12年前に伐り倒されたオリーブの樹を求めてドイツまでトラックで出かけるというのはあり得ない話です。監督は「ドン・キホーテ的な行動に走るリーダーのアルマ、アルマ・キホーテに従う二人の従者サンチョ・パンサが叔父アルカチョファとボーイフレンドのラファだ」と語っている。スペイン人が大好きな騎士道物語の別バージョンというわけです。

 

監督キャリア&フィルモグラフィー

イシアル・ボリャイン(ボジャイン)Icíar Bollaín Pérez-Minguez1967年マドリード生れ、、監督、脚本家、女優。父は航空学エンジニア、母は音楽教師、双子の姉妹がいる。マドリードのコンプルテンセ大学美術科に入学するも映画の道に進むべく途中で断念する。しかし趣味として絵筆は手放さない。1991年初頭、サンティアゴ・ガルシア・デ・レアニスやゴンサロ・タピアと制作会社「ラ・イグアナ」を設立する。『ザ・ウォーター・ウォー』10)に続いて本作の脚本を担当したポール・ラヴァティとは『大地と自由』95、ケン・ローチ)の撮影中に知り合って結婚、3児の母である。2014年からスコットランドのエジンバラに本拠地を移して、スペインと行ったり来たりして活動している。

 

  

 (樹齢千年のオリーブの樹の下のイシアル・ボリャイン、マドリード植物園にて)

 

★女優として出発、ビクトル・エリセの『エル・スール』83)に16歳でデビューを飾る。叔父フアン・セバスティアン・ボリャイン監督の“Las dos orillas”(86)、“Dime una mentira”(93)に出演する。代表作は、ケン・ローチの『大地と自由』だが、ほかにマヌエル・グティエレス・アラゴン“Malaventura”(89)、ゴヤ賞主演女優賞ノミネーションのホセ・ルイス・ボラウのLeo2000)、ジョゼ・サラマーゴの小説『石の筏』を映画化した『石の筏に乗って』02、シネフィル・イマジカ放映、オランダ・西・ポルトガル)、エクアドルのセバスティアン・コルデロの『激情』10、メキシコ・コロンビア)出演を最後に目下のところ女優業は休止している。ほかTVドラにも出演している。

 

   

            16歳の女優ボリャイン『エル・スール』から)

 

★監督デビューは「ラ・イグアナ」の製作で短編“Bajo, corazón”(93)、続いて“Los amigos del muerto”(94)を撮る。長編デビューは1995Hola, ¿ estás sola ?95、ゴヤ賞新人監督賞ノミネート)、『花嫁の来た村』99、ゴヤ賞脚本賞ノミネート、シネフィル・イマジカ放映)、ゴヤ賞監督・脚本賞を受賞した『テイク・マイ・アイズ』03)やアリエル賞イベロアメリカ作品賞受賞の『ザ・ウォーター・ウォー』10)など、本作含めて7作、ほかに長編ドキュメンタリーEn tierra extrana14)、NGO の仕事として“Aldeas Infantiles SOS”(12)や“La madre SOS”を撮って、社会に静かに質問を投げかけている。彼女の複眼的な視点は、当事者を決して糾弾しないところが魅力である。

ドキュメンタリー“En tierra extrana”の記事は、コチラ⇒2014124

 

主なスタッフ紹介

ポール・ラヴァティ(ラバーティ)、1957年インドのカルカッタ生れ、父はスコットランド、母はアイルランド出身、スコットランドの脚本家。ケン・ローチの脚本を8本手がけている。現地に赴いて執筆したニカラグア内戦をテーマに『カルラの歌』(96)で初めてタッグを組んだ。以来『やさしくキスをして』(04)、『この自由な世界で』(07)、カンヌ映画祭2006のパルムドール受賞の『麦の穂をゆらす風』、『エリックを探して』(09)、『ルート・アイリッシュ』(10)、『天使の分け前』(12)、『ジミー、野を駆ける伝説』(14)がある。妻イシアル・ボリャインの『ザ・ウォーター・ウォー』(10)の脚本も手がけている。14年間のスペイン暮らし、こよなくスペインの田舎の風土を愛している。それは母親が語ってくれたアイルランドの風土に似ており寛げるからだそうです。本作のアイデアもここから生まれた。

 

    

     (ポール・ラヴァティとイシアル・ボリャインのツーショット)

 

パスカル・ゲーニュ1958年すランスのカーン生れ、作曲家。現在はバスク自治州のサンセバスチャンで暮らしている。ボリャイン監督とは『花嫁の来た村』が最初の作品、エリセのドキュメンタリー『マルメロの陽光』(92)、ラモン・サラサール『靴に恋して』(02)、ダニエル・サンチェス・アルバロ『漆黒のような深い青』(06)と『デブたち』(08)、サルバドル・ガルシア・ルイス『砂の上の恋人たち』(03)、ジョン・ガラーニョ&ホセ・マリ・ゴエナガ『フラワーズ』(14)など公開、映画祭上映作品も多く、DVDなどで聴くことができる。

パスカル・ゲーニュの詳細は『フラワーズ』の記事で紹介、コチラ⇒2014119

   

    主なキャスト紹介

アナ・カスティーリョ1993年バルセロナ生れ、女優。映画、TV、舞台で活躍の22歳。7歳からバルセロナとマドリードで演技指導を受けている。2011年芸術高校卒業後、“Sant Joan Bosco Horta”でも学び、200511年まで音楽グループ「ep3」のメンバーと、早熟な才能の持ち主。長編映画デビューはエレナ・トラペの“Blog”(10)、ハビエル・ルイス・カルデラの『ゴースト・スクール』(12)、3作目となる本作でヒロインに抜擢された。テレビで出発している。本作については「カフェテリアで渡された脚本を読み始めたが感動して大泣きしてしまい、お店にいた人をびっくりさせてしまった」と語る。デビューした頃のボリャイン監督を彷彿させると評価も高い。脚本にキスの雨を降らせて奮闘した。本作出演が決まってから『エル・スール』を見たと語るが、生まれる10年前の作品(笑)。「女優になるべく生まれてきた、生まれつきのスター」と共演のハビエル・グティエレス、新たなスター誕生となるか。

 

 

 (デュッセルドルフに到着した主従三人組、アルカチョファとラファとアルマ)

 

★二人の従者サンチョ・パンサの一人、叔父アルカチョファのハビエル・グティエレスについては、アルベルト・ロドリゲスの『マーシュランド』14)でゴヤ賞2015男優賞受賞の折に詳細を紹介している。本作でサン・ジョルディ賞、サンセバスチャン銀貝賞、フォルケ賞、フェロス賞、シネマ・ライターズ・サークル賞と貰える賞の全てを独占した。またダニ・デ・ラ・トーレの『暴走車 ランナウェイ・カー』にも出番こそ少ないが重要な役を演じた。アルカチョファは本名ではなくアンティチョークのこと、渾名でしか登場しない。

『マーシュランド』(原題La isla mínia”)の記事は、コチラ⇒2015124

 

★もう一人の従者、同僚でアルマに恋しているラファ役ペプ・アンブロスは、本作が映画デビュー作。バルセロナ生れ、2010年バルセロナ演劇研究所の演劇科を卒業。2005年舞台俳優として出発、カタルーニャTVコメディ・シリーズ“Les coses grans”(20131621エピソード)にペプ役で出演、母語のカタルーニャ語の他、スペイン語、英語、フランス語ができる。舞台出演を主軸に映画出演にも意欲を示す。本作ではアルマが働く職場の同僚役、コメディアンとしての優れた才能を発揮したと高評価。「ラファの人格はとても複雑、セリフは少ないのに多くのことを語らねばならない役柄、これは自分にとって難しいことだった。自分の意見も言わずに、どうしてこんな羽目に巻き込まれてしまったのか、それを理解することだとイシアルが助け舟を出してくれた」とアンブロス。自分のデビュー作がボリャインやグティエレスのような素晴らしい才能たちとの出会いであった幸運をかみしめている。 

(ペプ・アンブロス)

       

 マヌエル・クカラ、監督とキャスティング担当のミレイア・フアレスが、トラクターから降りてきた彼に「同時に一目惚れして」祖父ラモン役に抜擢されたというズブのアマチュア。起用が誤算でなかったことは映画を見れば納得するとか。

 

 

  (左から、ラファ役ペプ・アンブロス、叔父アルカチョファ役ハビエル・グティエレス、

   ボリャイン監督、アルマ役アナ・カスティーリョ、祖父ラモン役マヌエル・クカラ)