アメナバル始動*新作のテーマはウナムノとスペイン内戦2018年06月01日 14:13

         14年ぶりスペイン語で撮る「Mientras dure la guerra

 

★年明け2日に新作をアナウンスしていたアレハンドロ・アメナバルが、去る528日、サラマンカ市のプラサ・マジョールでクランクインしました。新作のタイトルはMientras dure la guerra哲学者、著作家ミゲル・デ・ウナムノの最晩年、1936717日スペイン内戦勃発から彼の死の1231日までの6か月が描かれる。主な製作はフェルナンド・ボバイラと彼の制作会社MOD ProduccionesMovistar+Himenoptero、ほかICAAの援助を受けている。MODは過去に『アレクサンドリア』(09)や「Regression」(15、未公開)などアメナバル作品を手掛けている。製作資金638万ユーロ、うち昨年10月に140万を受け取っている。サラマンカ、トレド、マドリード、チンチョン、バスクなど、期間は8週間の予定。

 

     

 (1936年当時を再現するため植木鉢を設置したプラサ・マジョールを散策するアメナバル)

 

★発表時にはキャスト陣は伏せられていましたが、主人公のウナムノに同じバスク出身のカラ・エレハルデ、彼に対立するフランコ将軍の友人にして陸軍将官ホセ・ミリャン・アストライエドゥアルド・フェルナンデス、ほかフランコ総統にサンティ・プレゴナタリエ・ポサ、、パトリシア・ロペスインマ・クエバスルイス・ベルメホなどが共演する。過去にアメナバル映画に出演したキャストは起用しない方針の監督、オール初出演となります。カラ・エレハルデはコメディ「オーチョ・アペジード」シリーズ、イシアル・ボリャインの『ザ・ウォーター・ウォー』、古くはフリオ・メデムの『バカス』『赤いリス』ほか、当ブログでも何度もご登場願っているベテラン、対するエドゥアルド・フェルナンデスも演技は折り紙付き、『スモーク・アンド・ミラーズ』『エル・ニーニョ』『ブラック・ブレッド』などあくの強い役柄が多い。

 

     

   (ウナムノに扮したカラ・エレハルデ)

 

         

                     (カラ・エレハルデとミゲル・デ・ウナムノ)

  

2004年の『海を飛ぶ夢』以来14年ぶりにスペイン語で撮ることになったアメナバル、「このプロジェクトは特別です。と言うのも言語が長いあいだ撮っていなかったスペイン語だからです。スペインの過去の歴史に基づいているにもかかわらず、現在について語っています。スペイン内戦が始まったばかりの、軍人と文学者をめぐる二つの世界の一致と対立について語ります」とテーマを語っている。「ほかの作品ではクランクインする前はよく眠れないのですが、今回はかなり良く睡眠がとれています。多分スペイン語で撮るからだと思います。この変化でからだの調子もいい。矛盾しているようだが、今作は穏やかとは言えないテーマだからです」と撮影前のインタビューに応えていた。

 

        

     (アメナバル監督とウナムノ役のカラ・エレハルデ、サラマンカで撮影開始)

 

19361012日、サラマンカ大学講堂でのミゲル・デ・ウナムノとミリャン・アストライの対決がクライマックスの一つと予想されます。ミリャン・アストライ18791954)は、1920年、フランコ将軍の指揮のもとにスペイン外人部隊(Legión Española)を設立した(異説もある)。スペイン・モロッコ戦争(192026)で右目と左腕を失っている。アメナバルは、外人部隊の退役軍人から「ウナムノとの対決については(ミリャン・アストライ)将軍の回顧録を読み、真実に基づいて語ること」という警告をうけている。つまり名誉を損なうような映画なら裁判に訴えるというわけです。「そんな脅しに屈服するようなアメナバルではない」というのが大方の予想です。二人とも鬼籍入りして半世紀以上も経つわけですが、ことスペイン内戦に関する限り、「ついこのあいだ終わったばかりの戦争」なのでしょう。スペインで「先の大戦」とは第二次世界大戦ではなくスペイン内戦を指すことに変わりない。

 

(フランコ総統とミリャン・アストライ)

    

 

    

 (フランコ総統のサンティ・プレゴ、ミリャン・アストライのエドゥアルド・フェルナンデス)

 

★まだ撮影が始まったばかりですが外野はかなり熱くなっているようです。アメナバルは「ウナムノは魅力的な人物、何に対しても妥協しない。言ったこと考えたことを練り上げる。そして修正し、撤回する・・・だからドラマ作りの観点からいえば金ですね」と語っている。やはり矛盾に満ちた哲学者に魅せられているようです。スペインではコメディが主流で、ドラマを撮るのは困難、『アレクサンドリア』が興行的に失敗だったことをまだ覚えているけれど、挑戦したいということです。ウナムノに「カラ・エレハルデ起用が意外と受け取られているが、彼はもう大した役者です。彼も脚本を気に入ってくれた。私は彼の演技や役作りが観客をきっと魅了するだろうことを確信している」と。

 

  

 (撮影風景、アメナバル監督)

 

            

                     (黒い帽子をかぶった白髭の老人がウナムノ役のカラ・エレハルデ)

  

★脚本は2年前に完成していたそうで、アレハンドロ・エルナンデスとの共同執筆です。脚本家エルナンデスはキューバ出身、2000年にスペインに亡命した才能流出組の一人、マヌエル・マルティン・クエンカの『カニバル』(15、監督との共同執筆)や「El autor」(17)、スペイン史のキイポイントとなるフィリピン割譲を余儀なくされた1898年を描いたサルバドル・カルボの「1898Los últimos de Filipinas」(16)などを手掛けており、作品は当ブログでご紹介しています。

 

★ウナムノのビオピックとしてマヌエル・メンチョンLa isla del viento2016)があり、こちらのウナムノにはホセ・ルイス・ゴメスが扮した。架空の人物も登場させたフィクション性の高い映画ですが、同じサラマンカ大学講堂での「19361012日の論争」が一つの山場になっており、哲学者のいる。当ブログでは、映画紹介のほか、ミゲル・デ・ウナムノの経歴、ミリャン・アストライとの対決などを紹介しております。

La isra del viento」の紹介記事は、コチラ20161211

 

 

   

           (ホセ・ルイス・ゴメスが扮したウナムノ)


「金のメダル」2018はディエゴ・ガラン*映画批評家、監督2018年06月04日 17:15

    「賞賛に値するきキャリアとスペイン映画に対するたゆまぬ支え」を讃えて

 

★去る426日、スペイン映画アカデミーは「賞賛に値するきキャリアとスペイン映画に対するたゆまぬ支え」を讃えて、2018年の金のメダル」受賞者にディエゴ・ガランDiego Galán Fernándezを選んだ。2010年には同アカデミーによって「アルフォンソ・サンチェス賞」を受賞している。ベルリナーレ、マンハイム、ウエスカ、カンヌ(カメラドール)など、各映画祭の審査員も務めている。 

     

         (2010年「アルフォンソ・サンチェス賞」の授賞式にて)

 

1946年モロッコのタンジール生れ、映画批評家、ジャーナリスト、映画監督、TVドキュメンタリー、サンセバスチャン映画祭のディレクターを2度にわたって(19868919952000)手掛けている。二十歳前に故郷を後にしてマドリードに移り住む。最初から映画を目指していたわけではなく、数社の会計の仕事のかたわらマドリードの演劇グループの俳優としての仕事も両立させていた。しかし映画に出会い、たちまちその魅力の虜となって、映画一筋の人生を歩み始めることになった。

 

      

        (映画批評家、監督、ジャーナリストのディエゴ・ガラン)

 

1966年サン・アントン校の旧友たちとシネ・クラブJAASAJuventudes de Antiguos Alumnos del Colegio San Antn)を立ち上げる。1967年から廃刊になる1971年まで「Nuestro Cine」誌に映画批評を執筆する。その後、スペインでも権威のある週刊誌「Triunfo」(1981年閉刊)、1980年から「エル・パイス」紙での映画批評を執筆していたが、5年後にサンセバスチャン映画祭の顧問、続いてディレクトール就任を機会にエル・パイスの執筆を辞退する。

 

1971年、ペドロ・オレアが監督したTVプログラム「10 melodías vascas」や「Tan lejos, tan cerca」、ホセフィーナ・モリーナの「Durero, la búsqueda de la identidad」などで助監督の経験を積んだ後、1972年「Apunte sobre Ana」で短編デビュー、同年ホセ・ルイス・ボラウ2000年、金のメダル受賞)のプロデュースで「El mundo dentro de tres días」、1976カルメロ・ベルナオラ2002年、金のメダル受賞)の音楽で「Tu amiga Marilyn」、1978アンパロ・ソレル・レアル主演で「Una tarde con Dorita Amor」など、70年代は短編を発表している。しかし短編作家が自分の目的ではないと決心、1978TVシリーズ「Memorias del cine español」(ドキュメンタリー14話)の脚本、監督を手掛けている。

 

★代表的なTVシリーズでは、1992年から翌年にかけて放映された「Queridos cómicos」(ドキュメンタリー22話)、2011年の「Una historia de Zinemaldia」(ドキュメンタリー15話)がある。2005年「Pablo G. del Amo」(ドキュメンタリー)は、サンセバスチャン映画祭のサバルテギ部門で上映された後、一般公開された。パナマで開催された第1回イベロアメリカ・プラチナ賞2014で唯一スペインが受賞したドキュメンタリーCon la pata quebrada13)は、カンヌ映画祭2013に正式出品され、ゴヤ賞ノミネーション、トゥリア賞受賞作。スペイン映画に現れた女性像を総括している。続いて撮ったドキュメンタリーManda huevosは、反対に1930年代から2016年の現代までに登場した男性像を熟考したもの、サンセバスチャン映画祭2016のコンペティション外で上映された。

 

     

    (Con la pata quebrada」のポスターを背にしたディエゴ・ガラン

   

 

     

(第1回イベロアメリカ・プラチナ賞授賞式にて)

 

        

            (Con la pata quebrada」でカンヌ・クラシックの賞状を披露する)  

 

      

 (Manda huevos」の語り手カルメン・マチと、サンセバスチャン映画祭フォトコールにて)

 

代表的な著作書

1978年「18 españoles de posguerra」(フェルナンド・ララとの共著)

1984年「Fernando Fernán Gómez, ese señor tan pelirrojo」(フェルナンド・F=ゴメスについて)

1990年「Diez palabras sobre Berlanga」(ガルシア・ベルランガについて)

1992年「15 mensajes a Fernando Rey」(フェルナンド・レイについて)

2002年「50 años de rodaje」(サンセバスチャン映画祭50年の歩み)

2006年「Pilar Miró, nadie me enseñó a vivir」(ピラール・ミロについて)

 

金のメダル」は1991年から始まったスペインのシネアストに贈られる栄誉賞です。選考母体はスペイン映画アカデミー、対象者は監督、俳優、脚本家、製作者、音楽家、撮影監督などすべて、毎年1人(たまに2人)が4月中にアナウンスされ、授賞式は11月です。第1回の受賞者は、ヨーロッパへ回帰したルイス・ブニュエル映画、『哀しみのトリスターナ』『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』、遺作となった『欲望のあいまいな対象』でお馴染みのフェルナンド・レイ、今作の共演者アンヘラ・モリーナも、2013年度の受賞者です。ほかアナ・ベレン95)、サラ・モンティエル97)、コンチャ・ベラスコ03)、ジェラルディン・チャップリン06)、マリベル・ベルドゥ08)、カルメン・マウラ09)、ロサ・マリア・サルダ10)など受賞者に女優が多かった。

 

★最近の受賞者

2014年 アントン・ガルシア・アブリル(作曲家)

2015年 アイタナ・サンチェス=ヒホン(女優)&フアン・ディエゴ(俳優)

    コチラ201508011120

2016年 サンティアゴ・セグラ(俳優・監督)、コチラ201606111123

2017年 ホセ・サルセド(映画編集者)

2018年 ディエゴ・ガラン・フェルナンデス


『モルタデロとフィレモン』のハビエル・フェセル*「Campeones」が大ヒット2018年06月12日 16:24

          主人公は知的障害をもつ10人のバスケットボール選手たち

   

     

★『モルタデロとフィレモン』のハビエル・フェセルが、Campeonesで長編コメディに戻ってきました。主人公は初出演の10人の知的障害者と、『マーシュランド』や「El autor」で、ゴヤ賞の主演男優賞を2回受賞したハビエル・グティエレス、本作の演技で3回目の受賞も夢ではない。46日の封切り以来、9週目にして興行成績1600万ユーロ、観客動員数は既に270万人を突破、今なお快進撃を続行中。この記録を超えるのは、2014年公開されたエミリオ・マルティネス=ラサロの大ヒット作「オーチョ・アペジードス・バスコス」だけということで、公開以来トップ3をキープしている。

 

 Campeones(「Champions」)2018

製作:Morena Films / Movistar+ / Pelicula Pendelton(以上スペイン)/ Realizaciones Sol S.A.(メキシコ)

監督:ハビエル・フェセル

脚本:ダビ・マルケス、ハビエル・フェセル

撮影:チェチュ・グラフ

編集:ロベルト・ボラド、ハビエル・フェセル

音楽:ラファエル・アルナウ、歌曲「Este es el momento」演奏Coque Malla

キャスティング:ホルヘ・ガレオン

美術:ハビエル・フェルナンデス

衣装デザイン:アナ・マルティネス・フェセル

メイクアップ&ヘアー:エリ・アダネス(チーフ)、ペドロ・ラウル・デ・ディエゴ(特殊メイク)、リュイス・ソリアノ(ヘアー)

製作者:ルイス・マンソ、アルバロ・ロンゴリア、ガブリエル・アリアス=サルガド

 

データ:製作国スペイン=メキシコ、スペイン語、2018年、コメディ・ドラマ、124分&118分、製作資金約450万ユーロ、撮影地マドリード、ウエルバ、撮影期間約9週間、配給元ユニバーサル・ピクチャー(スペイン)、公開マドリード限定43日、スペイン公開46日、メキシコ518日、フランス66日、ドイツ726

 

キャスト:ハビエル・グティエレス(マルコ・モンテス)、フアン・マルガジョ(フリオ)、アテネア・マタ(ソニア)、ルイサ・ガバサ(アンパロ)、ダニエル・フレイレ(カラスコサ)、ルイス・ベルメホ(ソニアの同僚)、(他「ロス・アミーゴス」の選手として)セルヒオ・オルモ、フリオ・フェルナンデス、ヘスス・ラゴ、ホセ・デ・ルナ、グロリア・ラモス、フラン・フエンテス、ヘスス・ビダル、ステファン・ロペス、アルベルト・ニエト・フェランデス、ロベルト・チンチジャ、ほか対戦チーム「ロス・エナノス」の選手多数、ハビエル・フェセルも新聞記者役で出演している。

  

   

物語:マルコ・モンテスはスペイン・バスケット・ナショナルリーグのチームABCの副監督である。マナーが悪く横柄なことから他のコーチとは上手くいってない。プロとしてのキャリアも人間的にも多くの問題を抱えこんでお先真っ暗である。むしゃくしゃして飲酒運転、あげくの果てに事故ってしまい解雇されてしまった。裁判官は懲らしめの罰金として2年間の服役か、または90日間の奉仕活動「ロス・アミーゴス」という知的障害者のバスケットボール・チームの監督のどちらかを選択するよう言い渡した。後者を選んだマルコにとってこんな罰則は好みではなかったが、やがてこの奇妙なチームの面々から、学ぶべき事柄の多さに気づいていく。彼らの病気のイメージからは程遠い、率直で独立心の強い、肩ひじ張らずに生きていく姿に我が人生を見つめ直していく。

 

         「フツウ」の定義、「幸せ」の定義、誰が決めるの?

 

ハビエル・フェセルと言えば『モルタデロとフィレモン』(03)、古くからのファンなら『ミラクル・ぺティント』(98)、あるいは未公開ながらラテンビート上映の『カミーノ』(08)、短編ドキュメンタリー『ビンタと素晴らしきアイディア』(04)が、スペイン新進作家5人のオムニバス映画「En el mundo a cada rato」(邦題『世界でいつも・・・』ユニセフ制作)に採用され上映されました。『カミーノ』はゴヤ賞2009の作品・監督・脚本賞以下6冠制覇の話題作でした。ラテンビート上映時に来日、Q&Aでの飾らない人柄から多くのファンを獲得しました。1985年暮に14歳という短い生涯を閉じたアレクシア・ゴンサレス=バロスの実話にインスピレーションを受けて製作されたフィクションでしたが、家族が敬虔なオプス・デイの信者だったことから、後々訴訟問題に発展、監督は長らく長編から遠ざかっておりました。

 

2014年アニメーションMortadelo y Filemon contra Jimmy el Cachondo以外は、すべて短編(11作)で、うちBienvenidos28分)がアルカラ・デ・エナレス短編映画祭2015の観客賞を受賞、ほか国際映画祭での受賞が相次ぎました。もう長編ドラマは撮らないのかと気になっていたところでした。『カミーノ』から10年の歳月が流れた昨年11月に、監督がTV番組に宣伝を兼ねて出演、「3月公開」をアナウンスしました。ファンが心待ちにしていた結果が、この興行成績にストレートに出ているようです。コメディCampeonesは、上記したように目下快進撃を続けています。映画祭、DVD、あるいは公開を期待しても良さそうです。

 

   

             

        (新作をプレゼンするフェセル監督とグティエレス)

 

★予告編からも充分面白さが伝わってきますが、本作のテーマの一つが、「フツウ」の定義、「幸せ」の定義、障害を大いに楽しもうという視点が観客を虜にしている。エル・パイスによると、成功の秘密は3つあるという。一番目は、スペインで興行成績がよい映画は民放テレビ局がお膳立てした映画が多いが、本作は該当しない。二番目は、知名度のある俳優はマルコ・モンテス役のハビエル・グティエレス唯一人、それ以外は知的障害のあるアマチュアたち、三番目は、テーマの切り取り方、人間的にもコーチとしても、社会的信用が失墜したダメ男マルコが主人公、ハビエル・グティエレスの魅力が大きいようです。7歳以下は保護者同伴だが、なかには子供に分からないジョークもある由、しかし全く問題ではないそうで、子供たちは楽しんでいると家族連れは口を揃える。

 

      

                     (チャンピオンの表彰台に立つ監督&選手一同)

   

      

(ロス・アミーゴスの選手に演技を指示するフェセル監督)

 

★フェセル監督曰く「私たちはキャスト選定の段階で、実際の知的障害者を起用すべきか、あるいは役者に演じてもらうほうがよいか事前に決めていなかった。しかしオーディション初日に、彼らが発する誠実さと信頼性に出会ってしまった」ので彼らに出演依頼をしたようです。「私は根っからの楽観主義者なんだ、それに最初から登場人物たちの能力が観客と繋がっていると信仰のように確信していたんですよ」「私は若者たちのエモーショナルな知性や人生を大いに楽しんじゃおうという考え方に魅了された」「何が何だか分からない感情に満たされ泣いたり笑ったりしているうちに、幸せな2時間が過ぎてしまう」エトセトラ、ということです。笑う門には福来る、つかの間の幸せでも充分ですから浸りたい。

 

    

          (ハビエル・グティエレスと「ロス・アミーゴス」)

 

★まだ先の話ですが、2009年『カミーノ』を上映してくれたラテンビートが今年15周年を迎えるそうです。アグスティン・アルモドバルをゲストに開催された第1回、当初は「ヒスパニックビート」でした。2回目が開催されるかどうか危ぶみましたが、どっこい15年間続いているのでした。ということで今年の目玉に「チャンピオン」は打ってつけではないでしょうか。他に2018年興行成績トップ3の一つ、アレックス・デ・ラ・イグレシアのシリアス・コメディPerfectos desconocidosもスクリーンで鑑賞したい。

 

 

 

  *劇場公開映画*

ミシェル・フランコLas hijas de Abril『母という名の女』の邦題でスケジュールが決定しました。劇場は『父の秘密』や『ある終焉』を公開したユーロスペース2018616日(土)~です。カンヌ映画祭2017「ある視点」部門の審査員賞受賞作品。

 

    

カルラ・シモンのデビュー作Verano 1993『悲しみに、こんにちは』の邦題で、同じユーロスペースで7月下旬公開です(日時は未定)。以前ラテンビートで『夏、1993』として上映予定だった映画です。まったくの的外れとまで言わないが、どうしてこんな陳腐な邦題にしたのか理解に苦しむ。ゴヤ賞2018新人監督賞受賞作品。

 

     

Perfectos desconocidos」の紹介記事は、コチラ20171217

Las hijas de Abril」の紹介記事は、コチラ20170508

El verano 1993」の主な紹介記事は、コチラ20170222

第60回アリエル賞2018*結果発表2018年06月15日 18:34

   「私たち(の国)は病んでいます。どうか早く健康になりますように」とアマ・エスカランテ

 

    

★第60回を迎えたアリエル賞2018(メキシコ映画アカデミーAMACC)の標語はNo somxs tres, somos todxs(我々は3人ではない、みんな一緒です)、これは去る319日に行方不明になったメディオス・オーディオビジュアルス大学の3人の学生の追悼というか連帯を込めたスローガンです。マフィアと警察と政治家が三位一体のようなメキシコでは、一般人が日常的に暴力や生命の危険に晒されている現状がうかがい知れます。3人だけでなく過去に起きた全ての誘拐拉致被害者を追悼しているようです。2018年の監督賞を受賞したアマ・エスカランテは「私たち(の国)は病んでいます。どうか早く健康になりますように」とスピーチしました。

(結果発表、メキシコ6月5日)

 

       

     (「No somxs tres, somos todxs」のスローガンが掲げられた授賞式会場)

 

★授賞式のハイライト最高賞の作品賞は、エルネスト・コントレラス1969、ベラクルス)のSueños en otro idiomaが受賞、他オリジナル脚本賞、オリジナル音楽賞、撮影賞などトータル6冠に輝きました。彼はアリエル賞を主催するAMACC会長201711月就任したばかりです(任期は2年、201910月まで)。

 

          

          (AMACC会長エルネスト・コントレラス、授賞式にて)

 

★監督賞以下、編集賞、助演女優賞、特殊効果賞など5冠がアマ・エスカランテLa región salvaje『触手』の邦題で、短期間(20183月)ながら公開された作品。本邦では『サングレ』『よそ者』『エリ』と、カンヌやベネチアで評価されたこともあって比較的認知度のある監督でしょうか。当ブログ紹介作品は、イベロアメリカ映画賞を受賞したセバスティアン・レリオ『ナチュラルウーマン』、アナ・バレリアが新人女優賞を受賞したミシェル・フランコ『母という名の女』、ドキュメンタリー賞を受賞したエベラルド・ゴンサレス「La libertad del diablo」の4作品です。

 

『よそ者』の紹介記事は、コチラ20131010

『エリ』の紹介記事は、コチラ20131008

La región salvaje」(『触手』)の紹介記事は、コチラ20160804

『ナチュラルウーマン』の紹介記事は、コチラ20180316

『母という名の女』の紹介記事は、コチラ20170508

 

 主な受賞結果

◎作品賞

 Sueños en otro idioma」 エルネスト・コントレラス

 

   

◎監督賞

 アマ・エスカランテ La región salvaje『触手』) 

 

    

◎男優賞

 エリヒオ・メレンデス(「Sueños en otro idioma」)

 

 

◎女優賞

 カリナ・ヒディGidi (Los adioses

   


  

◎長編ドキュメンタリー賞

 La libertad del diablo」 (監督エベラルド・ゴンサレス

 

   

◎新人男優賞

 フアン・ラモン・ロペス (Vuelven

 

  

◎新人女優賞

 アナ・バレリア・べセリル (Las hijas de Abril」 邦題『母という名の女』) 

 

   

◎イベロアメリカ映画賞

 『ナチュラルウーマン』 (監督セバスティアン・レリオ)

  

 

  (製作者フアン・デ・ディオス・ララインと主演のダニエラ・ベガ)

 

◎撮影賞

 トナティウ・マルティネス (「Sueños en otro idioma」)

 


   

◎オペラ・プリマ(初監督作品)賞

 El vigilante (監督ディエゴ・ロス

 

 

◎編集賞

 フェルナンダ・デ・ラ・ペサJacob Secher Schulsingaer (「La región salvaje」)

 

  

 フェルナンダ・デ・ラ・ペサ

  

◎特殊効果賞

 ホセ・マヌエル・マルティネス (「La región salvaje」)

 

   

◎視覚効果賞

 Peter Hjorth (「La región salvaje」)

 

◎オリジナル脚本賞

 カルロス・コントレラス (「Sueños en otro idioma」)

 

   

◎美術デザイン賞

 アントニオ・モニョイエロ (El elegido

 カルロス・ハケス (La habitación

 

◎メイクアップ賞

 アダム・ソリェル (「Vuelven」)

 

    

◎衣装賞

 マリエステラ・フェルナンデスガブリエラ・ディアケ (「La habitación」)

 

 

     マリエステラ・フェルナンデス

     

◎助演男優賞

 アンドレス・アルメイダ (Tiempo compartido

 

     

◎助演女優賞

 ベルナルダ・トゥルエバ (「La región salvaje」)

 

     

◎短編アニメーション賞

 Cerulia (監督ソフィア・カリージョ

 

    

◎短編映画賞

 Oasis (監督アレハンドロ・スノ

 

  

◎短編ドキュメンタリー賞

 La muñeca tetona (監督ディエゴ・エンリケ・オソルノアレハンドロ・アルドレテ) 

 

   

◎録音賞

 エンリケ・グレイネルパブロ・タメスライムンド・バジェステロス 

(「Sueños en otro idioma」)

   

   

◎オリジナル音楽賞

 アンドレス・サンチェス・マエル (「Sueños en otro idioma」)

 

   

◎脇役男優賞(coactuación

 ミゲル・ロダルテ (「Sueños en otro idioma」)

 

   

◎脇役女優賞(coactuación

 ベロニカ・トゥサンToussaint (Oso Polar

 

      

「金のアリエル」(栄誉賞)

 Queta Lavat (メキシコの女優)

 

      

 Toni Khun (スウェーデン出身メキシコの撮影監督)

 

 

    

★フォトは入手できたものです。

 

『日曜日の憂鬱』 ラモン・サラサールの新作*ネットフリックス2018年06月21日 12:37

            母と娘の対決はスシ・サンチェスとバルバラ・レニーの女優対決

 

     

★ベルリン映画祭2018「パノラマ」部門に正式出品されたラモン・サラサールの第4作目La enfermedad del domingo(「Sunday's Illness」)が、『日曜日の憂鬱』という若干ズレた邦題で資金を提供したネットフリックスに登場いたしました。三大映画祭のうち大カンヌは別として、ベルリナーレやベネチアはNetflixを排除していません。観て元気がでる映画ではありませんが、デビュー作『靴に恋して』同様シネマニア向きです。母娘に扮したスシ・サンチェスバルバラ・レニーの女優対決映画でしょうか。以下に既に紹介しているデータを再構成してアップしておきます。

La enfermedad del domingo」の内容、監督キャリア紹介記事は、コチラ20180222

 

La enfermedad del domingo(「Sunday's Illness」)

製作:Zeta Cinema / ON Cinema / ICEC(文化事業カタルーニャ協会)/

     ICOInstituto de Credito Oficial/ICAA / TVE / TV3 / Netflix

監督・脚本:ラモン・サラサール

撮影:リカルド・デ・グラシア

音楽:ニコ・カサル

編集:テレサ・フォント

キャスティング:アナ・サインス・トラパガ、パトリシア・アルバレス・デ・ミランダ

衣装デザイン:クララ・ビルバオ

特殊効果:エンリク・マシプ

視覚効果:イニャキ・ビルバオ、ビクトル・パラシオス・ロペス、パブロ・ロマン、

     クーロ・ムニョス、他

製作者:ラファエル・ロペス・マンサナラ(エグゼクティブ)、フランシスコ・ラモス

 

データ:製作国スペイン、スペイン語・フランス語、2018年、113分、ドラマ、撮影地バルセロナ、ベルリン映画祭2018パノラマ部門上映220日、ナント・スペイン映画祭フリオ・ベルネ賞、観客賞受賞、スペイン公開223日、Netflix本邦放映 6

 

キャスト:バルバラ・レニー(キアラ)、スシ・サンチェス(母アナベル)、ミゲル・アンヘル・ソラ(アナベルの夫ベルナベ)、グレタ・フェルナンデス(ベルナベの娘グレタ)、フレッド・アデニス(トビアス)、ブルナ・ゴンサレス(少女時代のキアラ)、リシャール・ボーランジェ(アナベルの先夫マチュー)、デイビット・カメノス(若いときのマチュー)、Abdelatif Hwidar(町の青年)、マヌエル・カスティーリョ、カルラ・リナレス、イバン・モラレス、ほか牝犬ナターシャ

   

プロット8歳のときに母親アナベルに捨てられたキアラの物語。35年後、キアラは変わった願い事をもって、今は実業家の妻となった母親のもとを訪れてくる。理由を明らかにしないまま、10日間だけ一緒に過ごしてほしいという。罪の意識を押し込めていたアナベルは、娘との関係修復ができるかもしれないと思って受け入れる。しかし、キアラには隠された重大な秘密があったのである。ある日曜日の午後、キアラに起こったことが、あたかも不治の病いのように人生を左右する。アナベルは決して元の自分に戻れない、彼女の人生でもっとも難しい決断に直面するだろう。長い不在の重み、無視されてきた存在の軽さ、地下を流れる水脈が突然湧き出すような罪の意識、決して消えることのない心の傷、生きることと死ぬことの意味が語られる。母娘は記憶している過去へと旅立つ。                              (文責:管理人)

 

          短編「El domingo」をベースにした許しと和解

 

A: 前回触れたように、2017年の短編El domingo12分)が本作のベースになっています。キアラと父親が森の中の湖にピクニックに出かける。しかしママは一緒に行かない。帰宅するとママの姿がない。キアラは窓辺に立ってママの帰りを待ち続ける。出演はキアラの少女時代を演じたブルナ・ゴンサレスと父親役のデイビット・カメノスの二人だけです。ブルナ=キアラが付けているイヤリングをバルバラ=キアラも付けて登場する。不服従で外さなかったのではなく理由があったのです。

B: 多分家出した母親が置いていったイヤリング、アナベルなら一目で我が娘とわかる。スタッフはすべて『日曜日の憂鬱』のメンバーが手掛けており、二人は本作ではキアラが母親に見せるスライドの中だけに登場する。母娘はそれぞれ記憶している過去へ遡っていく。後述するがリカルド・デ・グラシアのカメラは注目に値する。

 

    

 (キアラが規則を無視して外さなかったイヤリングを付けた少女キアラ、短編El domingo

 

A: キアラの奇妙な要求「10日間一緒に過ごすこと」の謎は、半ばあたりから観客も気づく。お金は要らないと言うわけですから最初からうすうす気づくのですが、自分の予想を認めたくない。

B: 観客は辛さから逃げながら見ている。しかし、具体的には最後の瞬間まで分かりません。許しと和解は避けがたく用意されているのですが、歩み寄るには或る残酷な決断が必要なのです。

 

A: 二人の女優対決映画と先述しましたが、実際に母娘を演じたスシ・サンチェスバルバラ・レニーの一騎打ちでした。ほかはその他大勢と言っていい(笑)。来年2月のゴヤ賞ノミネーションが視野に入ってきました。

B: 「その他大勢」の一人、霊園で働いている飾り気のない、キアラの数少ない理解者として登場するトビアス役のフレッド・アデニスが好印象を残した。

  

    

 (撮影合間に談笑する、フレッド・アデニスとバルバラ・レニー、キアラの愛犬ナターシャ)

 

A: アデニスとベルナベの娘役グレタ・フェルナンデスは、イサキ・ラクエスタ&イサ・カンポの『記憶の行方』(「La próxima piel16Netflix)に出演している。二人ともカタルーニャ語ができることもあってバルセロナ派の監督に起用されている。グレタはセスク・ゲイの「Ficció」で長編デビュー、『しあわせな人生の選択』(「Truman)にもチョイ役で出演していた。

 

      

       (義母の過去を初めて聞かされるグレタ、グレタ・フェルナンデス)

 

B: フェルナンド・E・ソラナス作品やカルロス・サウラの『タンゴ』(98)などに出演したミゲル・アンヘル・ソラが、アナベルの現在の夫役で渋い演技を見せている。

A: アルゼンチン出身ですがスペイン映画の出演も多い。アルゼンチンの有名な映画賞マルティン・フィエロ賞を2回受賞しているほか、舞台でも活躍している実力者。フランスからアナベルの先夫マチュー役にリシャール・ボーランジェを起用、キャスト陣は国際色豊かです。

 

B: 本作と『記憶の行方』の導入部分は似てますね。ツララが融けていくシーンが音楽なしで延々と流れる。両作とも全体に音楽が控えめなぶん映像に集中することになる。

A: 音楽については後述するとして、マラガ映画祭2016の監督賞受賞作品です。カタルーニャ語映画でオリジナル題は「La propera pell」、作家性の強い、結末が予測できないスリラーでした。こちらもピレネーを挟んだスペインとフランスが舞台でした。

 

        「あまりに多くのことを求めすぎた」ことへの代償

 

B: ストーリーに戻ると、冒頭のシーンはピレネーの山間らしく樹間に湖が見える。映像は写真のように動かず無音である。祠のような大穴のある樹幹が何かを象徴するかのように立っている。若い女性が現れ穴の奥を覗く、これが主役の一人キアラであることが間もなく分かる。

A: この穴は伏線になっていて、後に母親アナベラの夢の中に現れる。湖も何回か現れ、謎解きの鍵であることが暗示される。シーンは変わって鏡に囲まれたきらびやかな豪邸の広間を流行のドレスを身に纏った女性がこちらに向かって闊歩してくる。ハイヒールの留め金が外れたのか突然転びそうになる。伏線、悪夢、鏡、悪い予感など、不穏な幕開けです。

 

       

            (樹幹の大きい穴を覗き込むキアラ)

 

B: 冒頭で二人の女性の生き方が対照的に描かれるが、最初はことさら不愛想に、無関心や冷淡さが支配している。なぜ母親は娘を置いて失踪したのか、なぜ娘は風変わりな願いを携えて、35年ぶりに唐突に母親に会いに来たのか、娘はどこに住んでいるのか、謎のまま映画は進行する。

A: 復讐か和解か、キアラの敵意のある眼差しは、時には優しさにあふれ、陰と陽が交互にやってくる。謎を秘めたまま不安定に揺れ動く娘、罪の意識を引きずってはいるが早く合理的に解決したい母、歩み寄るには何が必要か模索する。日曜日の午後、派手な化粧をして出ていったまま戻ってこない。それ以来、娘は窓辺に立って母を待ち続ける。娘にとって母の長い不在の重さは、打ち捨てられた存在の軽さに繋がる。

 

B: 母親が消えた8歳から溜め込んできた怒りが「お母さんにとって私は存在しない」というセリフになってほとばしる。「木登りが大好きだった」という娘のセリフから、帰宅する母親を遠くからでも見つけられるという思いが伝わってくる。ウソをつくことが精神安定剤だった。

A: アナベラは母よりも女性を優先させた。キアラが死んだことにしたマチューとの邂逅シーンで「あまりに多くのことを求めすぎた」と語ることになる。二人の青春は1960年代末、先の見えないベトナム戦争にアメリカのみならず世界の若者が反旗を翻し、大人の権威が否定された時代でした。

 

B: アナベラもマチューも辛い記憶を封印して生きてきた。「遠ざけないと生きるのに邪魔になる思い出がある」と、今は再婚してパリで暮らしているマチュー。

A: 記憶はどこかに押し込められているだけで消えてしまったわけではない。しかし辛い過去の思い出も作り直すことはできる。楽しかった子供の頃のフィルムを切り貼りして、別の物語を作ってキアラは生きてきた。

 

         

     (光の当て方が美しかった、スライドを見ながら過去の自分と向き合う母娘)

 

B: 全体的に音楽が入るシーンは少なく、だからアナベラがママ・キャスのバラード「私の小さな夢」の曲に合わせて踊るシーンにはっとする。外にいると思っていたキアラが部屋の隅にいて、踊っている母を見詰めて笑っている。そして「楽しそうでよかった」というセリフが入る。

A: 緊張が一瞬ほどけるシーン、「私の小さな夢」は1968年発売のヒット曲、アナベラの青春はこの時代だったわけです。ママ・キャスは絶頂期の32歳のとき心臓発作で亡くなったが、父親を明かさない娘がいたことも話題になった。時代設定のためだけに選曲したのではなさそうです。

 

B: 1968年当時、アナベラがマチューと暮らしていただろうフランスでは、怒れる若者が起こした「五月革命」が吹き荒れた時代でもあった。キアラが母親を連れ帰った家は、ピレネー山脈の山間の村のようです。今はキアラが愛犬のナターシャと住んでいるが、35年前は親子三人で暮らしていた。

A: フランス側のバスクでしょうか。「ラ・ロッシュの先は迷うから危険」という村人のセリフから、レジオン的にはヌーヴェル=アキテーヌ地域圏かなと思います。実際そこで撮影したかどうか分かりませんし、この地名に何か意味があるのかどうかも分かりません。

 

          キアラは「キアラ・マストロヤンニ」から取られた名前

 

B: キアラというイタリアの名前を付けた理由は「イタリアのナントカという苗字は忘れたが、その俳優の娘から取った」とアナベル。それでマルチェロ・マストロヤンニとカトリーヌ・ドヌーヴの娘キアラ・マストロヤンニから取られたと分かる。

A: フランスの女優キアラ・マストロヤンニのこと。二人の初顔合せはフェリーニの『ひきしお』(71)で、正式には結婚しませんでしたが、娘は1972年生れです。ですからキアラ誕生はそれ以降となり、現在は2016年頃の設定になっているようです。多分マチューとアナベルも籍は入れなかった設定でしょうね。アナベルが消えてしまう一つの理由が映画をやりたいからでした。

 

B: 残された娘はやれ切れない。情緒不安定、起伏の激しい人格を演じるのにバルバラ・レニーは適役です。非日常的な雰囲気をつくるのが得意です。

A: スシ・サンチェスは、もっと上背があると思っていましたが、意外でした。バルセロナの豪邸では大柄に見えましたが、だんだん小さくなっていくように見えた。その落差が印象的でした。来年の話で早すぎますすが、二人ともゴヤ賞2019女優賞ノミネートは確実ですね。

 

     

                        (自宅の客間を闊歩するアナベル)

 

B: ゴヤ賞ついでに撮影監督リカルド・デ・グラシア1972年、マドリード)について触れると、こちらもゴヤ賞ノミネートは間違いないのではないか。心に残るシーンが多かった。

A: サラサール監督の第2作、コメディ・ミュージカル20 centimetros、第310.000 noches en ninguna parteほか、本作のベースになった短編El domingoも手掛けています。ほかの監督では、アレックス・ピナの「KAMIKAZE」(14)、IMDbによればTVシリーズでも活躍している。

                

   (山の斜面を急降下するアナベルとキアラ)

    

B: 冒頭のシーンから惹きつけられます。特に後半、母に抱かれたキアラが雪の積もった山の斜面に敷かれたレールを急降下してくるシーン、ジェットコースターに乗れない人は汗が出る。前方にカメラを積んで撮影したようです。

A: 夜の遊園地で回転木馬がゆっくり回る光のシーン、二人でスライドを見るシーン、最後の静謐な湖のシーン。ただ美しいだけでなく、カメラの目は二人の女優の演技を引き立たせようと周到に向けられている。総じて会話が少ない本作では、俳優の目の演技が要求されるからカメラの果たす役目は大きい。

B: 映像美という言葉では括れない。カメラが映画の質を高めていると感じました。

 

      

       (撮影中のサラサール監督と撮影監督リカルド・デ・グラシア)

 

 

  主要キャスト紹介     

バルバラ・レニーは、『マジカル・ガール』(14、カルロス・ベルムト)以来日本に紹介された映画、例えば『インビジブル・ゲスト悪魔の証明』(16、オリオル・パウロ)、『家族のように』(17、ディエゴ・レルマン)と、問題を抱えこんだ女性役が多い。サラサール作品に初出演、本作で着るダサい衣装でもその美しさは際立つ。彼女の普段着、母親アナベルの豪華な衣装は、母娘の対照的な生き方を表している。

バルバラ・レニーのキャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ2015年0327

 

    

         (35年ぶりに対面する母と娘、バルセロナの豪邸)

 

スシ・サンチェス1955、バレンシア)は、今まで脇役専門でトータル70作にも及ぶ。本作では8歳になる娘を残して自由になろうと過去を封印して別の人生を歩んでいる母親役に挑んだ。日本初登場は今は亡きビセンテ・アランダの『女王フアナ』(01、俳優組合賞助演女優賞ノミネート)のイサベル女王役か。他にもアランダの『カルメン』(04)、ベルリン映画祭2009金熊賞を受賞したクラウディア・リョサの『悲しみのミルク』(スペイン映画祭09)、ベニト・サンブラノの『スリーピング・ボイス~沈黙の叫び』(11)、アルモドバル作品では『私が、生きる肌』(11、俳優組合賞助演女優賞ノミネート)、『アイム・ソー・エキサイテッド!』(13)、『ジュリエッタ』など、セスク・ゲイの『しあわせな人生の選択』(16)でも脇役に徹していた。『日曜日の憂鬱』で主役に初挑戦、ほかにサラサール作品では、『靴に恋して』以下、「10.000 noches en ninguna parte」(12)でゴヤ賞助演女優賞にノミネートされた他、俳優組合賞助演女優賞を受賞した。TVシリーズは勿論のこと舞台女優としても活躍、演劇賞としては最高のマックス賞2014の助演女優賞を受賞している。

 

        

      (本当の願いを母に告げる娘、スシ・サンチェスとバルバラ・レニー)

 

 

  監督フィルモグラフィー

ラモン・サラサールRamón Salazarは、1973年マラガ生れの監督、脚本家、俳優。アンダルシア出身だがバルセロナでの仕事が多い。1999年に撮った短編Hongosが、短編映画祭として有名なアルカラ・デ・エナーレスとバルセロナ短編映画祭で観客賞を受賞した。長編デビュー作Piedrasがベルリン映画祭2002に正式出品され、ゴヤ賞2003新人監督賞にもノミネートされたことで、邦題『靴に恋して』として公開された。200520 centimetrosは、ロカルノ映画祭に正式出品、マラガ映画祭批評家賞、マイアミ・ゲイ&レスビアン映画祭スペシャル審査員賞などを受賞した。201310.000 noches en ninguna parteはセビーリャ(ヨーロッパ)映画祭でアセカン賞を受賞している。2017年の短編El domingo12分)、2018年のLa enfermedad del domingo」が『日曜日の憂鬱』の邦題でNetflixに登場した。