セスク・ゲイの”Truman”*ゴヤ賞2016ノミネーション ⑤2016年01月09日 16:30

            トルーマンて誰のこと?

 

★目下、賞レースの先頭を走っているのがセスク・ゲイの“Truman”ではないかと思う。5作品の中で管理人が見たいのも本作、彼は国際的な評価は高いがゴヤ賞には縁が薄い。過去に監督賞ノミネーションこそ受けているが受賞は今もってない。イサベル・コイシェの“Nadie quiere la noche”のオリジナル版は英語、キャストもスペイン人は起用されていないから、受賞は難しいと思う。『あなたになら言える秘密のこと』の例があるから断言は控えたいが。同じく主演男優賞ノミネーションのリカルド・ダリンも受賞はなく、ノミネーション止まり、アルゼンチンという国境を超えた俳優、そろそろ受賞してもいいか。助演男優賞のハビエル・カマラはダビ・トゥルエバの“Vivir es fácil con los ojos cerrados”でゴヤ胸像を貰ったばかりだが、今回も一番近い距離にいると思う。予告編を見ただけでもダリンのリズムにあわせ、その上手さが際立っている。

 

          

           (トロイロを挟んでダリンとカマラ、ポスター)

 

       Truman2015

製作:BD Cine / Impossible Films / Trumanfilm / INCAA /

監督・脚本:セスク・ゲイ

脚本(共):トマス・アラガイ

編集:パブロ・バルビエリ・カレラ

音楽:ニコ・コタ、トティ・ソレル

撮影:アンドレウ・レベス

美術:ホリエン・ソントJorien Sont

衣装デザイン:アナ・グエル

メイクアップ・ヘアー:セルヒオ・ロペス、Karol Tornaria

プロダクション・デザイン:イレーネ・モンカダMontcada

プロダクション・マネージメント:イシドロ・テラサ、アルバロ・サンチェス・ブストス

プロデューサー:マルタ・エステバンディエゴ・ドゥブコブスキィDubcovsky

        ダニエル・ブルマン

 

データ:製作国スペイン=アルゼンチン、スペイン語、2015年、108分、ドラマティック・コメディ、製作費約380万ユーロ、公開アルゼンチン、スペイン、ウルグアイ、スイス(2015)、公開予定ドイツ、フランス、チリ、他

受賞歴・映画祭:サンセバスチャン映画祭2015(男優賞リカルド・ダリン、ハビエル・カマラ)受賞。ゴヤ賞2016(作品賞・監督賞を含む6カテゴリー)、フェロス賞2016(作品ドラマ部門、監督賞含む6カテゴリー)、フォルケ賞2016(作品賞を含む2カテゴリー)、ガウディ賞2016(スペイン語部門、作品賞・監督賞を含む11カテゴリー)各ノミネーション。トロント、チューリヒ、ロンドン、ワルシャワ、各映画祭2015に正式出品、他

 

キャストリカルド・ダリン(フリアン・主演男優)、ハビエル・カマラ(トマス・助演男優)、ドロレス・フォンシ(フリアン従妹パウラ)、エドゥアルド・フェルナンデス(ルイス)、トロイロ(トルーマン)、アレックス・ブレンデミュール(獣医)、ペドロ・カサブランク(医師)、ホセ・ルイス・ゴメス(プロデューサー)、エルビラ・ミンゲス(フリアンの元妻グロリア)、オリオル・プラ(フリアンの息子ニコ)、スシ・サンチェスアガタ・ロカシルビア・アバスカル、フランセスク・オレリャ、ハビエル・グティエレス(葬儀社の責任者)、他

 

プロット:竹馬の友フリアンとトマスの物語。長年カナダとスペインに別れて暮らしていた二人は、何十年ぶりかにマドリードで邂逅する。舞台俳優のフリアンは末期がんに冒されているが治療を断念している。彼はカナダで教師をしているトマスの思いがけない訪問を受ける。二人はフリアンの愛犬トルーマンと決して忘れることのできないエモーショナルな時を一緒に過ごすことになる。多分これが二人の最後の出会い、永遠の別れとなるだろう。二人はフリアンのアムステルダム留学中の一人息子に会うため突然日帰り旅行を敢行する。ブラック・ユーモアで綴る友情と死についての物語。                             (文責:管理人)

ゴチック体はゴヤ賞ノミネーションを受けたカテゴリー

 

 

   (最優秀男優「銀貝賞」のトロフィーを手にした二人、サンセバスチャン映画祭にて)

 

監督キャリア&主なフィルモグラフィー

セスク・ゲイFrancesc Gay I Puig1967年バルセロナ生れ、監督、脚本家。バルセロナの市立視聴覚学校EMAVで映画を学ぶ。1998年長編映画Hotel Room(アルゼンチンのダニエル・ギメルベルグとの共同)でデビュー。2000年ロマンチック・コメディKrámpackで一躍脚光を浴びる。性愛に目覚めかけた男女4人の一夏の物語。邦題『ニコとダニの夏』としてテレビ放映された。タイトルのKrámpackはニコとダニの造語、多分ドイツ語のKramPackをつなげたものか。意味はちょっと微妙です()。ゴヤ賞2001新人監督賞・脚色賞にノミネートされた他、サンセバスチャン映画祭2000セバスチャン賞、トゥリア賞、カタルーニャ作品賞、バレンシア映画祭2000初監督作品賞などを受賞した。

 

本作は長編第8作目に当たるが、日本で話題になった第3En la ciudadは、『イン・ザ・シティ』の邦題でセルバンテス文化センターで上映された。セスク・ゲイの得意とする、ロバート・アルトマン監督が生みの親と言われる群像劇(アンサンブル劇)の形式をとった映画(スペインでは合唱劇)。無関係だった複数の登場人物が最後には繋がっていく。本作では十数人が登場するにもかかわらず、それぞれ人格造形が見事でごっちゃにならない。しかしサンセバスチャンでもゴヤ賞2004でも監督賞・脚本賞のノミネーションに終わった。他にトゥリア賞、カタルーニャ作品賞を受賞した。キャスト陣ではエドゥアルド・フェルナンデスが助演男優賞を受賞した。

 

その他は以下の通り:

2004Canciones de amor y de droga”監督、ミュージカル

2006Ficció / Ficción監督・脚本・録音、ドラマ

2009V.O.S. 監督・脚本、コメディ

2012Una pistola en cada mano 監督・脚本、コメディ・ドラマ

 

    

        (セスク・ゲイ監督、第63回サンセバスチャン映画祭にて)

 

Una pistola en cada manoは高評価にもかかわらず、ゴヤ賞2013では助演女優賞にカンデラ・ペーニャがノミネートされただけ(結果は受賞)、アカデミー選考委員会はその不公平ぶりを批判された。選考は公平性が信条、ノミネートされなければ選べないというわけです。監督はスタッフ、キャストとも同じメンバーで撮るタイプです。カタルーニャ自治政府が選ぶ「映画国民賞」を受賞したFicció / Ficciónに出演した人で“Truman”と重なっているのが、エドゥアルド・フェルナンデス、ハビエル・カマラ、アガタ・ロカ、特にE・フェルナンデスは監督のお気に入り。共同脚本家のトマス・アラガイとは、“Krámpack”以来タッグを組んでいるし、プロデューサーのマルタ・エステバンも同じです。

 

★「ダリンのためのダリン映画」「こだまするメタファー」「語られているのは悲劇だが、監督は観客が微笑するのを諦めない」「悲劇をコメディに見事に移しかえた」「繊細で、微妙な変化、優しさに溢れているが、決して観客を操るようなことはしていない」「死の縁にいる人を描きながら、倫理や友情について語る素晴らしさ」「熱烈にドラマチックに輝き、そしてアイロニーに富んでいる」・・・スペイン各紙誌の批評です。大抵は意見が分かれるものですが、こぞってポジティブなのは近年なかったこと。多分、フリアンとニコの再会シーンでは、多くの観客の目が潤むのではないか。死が間近に迫っているとき、人間は何を考えるのだろうか。あるのは過去だけ、残された時間にやるべきことは何だろうか。

 

  トレビア

★「誠実」のメタファーとして登場するトルーマンを演じたトロイロは、自閉症の子供と遊べるよう特別に訓練された犬だったそうです。しかしリカルド・ダリンが「悲しいことに2ヶ月前に死んでしまった」とサンセバスチャン映画祭で吐露した。じゃあ映画祭の赤絨毯を一緒に歩いていた犬はトロイロじゃなかったの?「トロイロのムスメだ」とダリン。確かに色が少し違いますね。撮影中にダリンとトロイロの間には独特な関係が生み出されていたらしく、話しているうちに鼻を詰まらせてしまったようです。それが聞いていた人たちにも伝染して皆して「オオオゥー」。死亡の知らせを聞いて「1週間泣き暮らした・・だって素晴らしい友達だったのだ」とダリン。傍らの監督も「トロイロの演技指導はリカルド任せだった。彼はすごく犬の知識に詳しく、私の出る幕はなかった」と語っていた。ダリンという役者は不思議と悪口が聞こえてこない。犬にも好かれたようで、それは扱いがとても上手くトロイロをたちまち仲間にしてしまったという。

 

 

    (フリアンの愛犬トロイロの娘と一緒にダリンとカマラ、サンセバスチャンにて)

 

★昨年のカンヌ以来サンセバスチャンまで、サンティアゴ・ミトレの『パウリーナ』主演で話題をさらったドロレス・フォンシ、今回はノミネーションなしですが、まさにひっぱり凧の感があります。ガエル・ガルシア・ベルナルとの離婚後間もなくミトレと結婚、2000年にダニエル・ブルマンの『エスペランド・アル・メシアス』(東京国際FF)、マルセロ・ピニェイロの『炎のレクイエム』(ラテンビート)に脇役出演していたフォンシも、今や二児の母親となって逞しく成長した。

 

    

  (左から、J・カマラ、ドロレス・フォンシ、R・ダリン、監督、カンタブリア海を背にして)

 

★本作成立の経緯やキャスティングなどを語った監督インタビューは、何かの賞に絡んだらアップすることにし、次回は作品賞のうちカンヌFFで少しだけ紹介したフェルナンド・レオン・デ・アラノアの“Un día perfecto”(オリジナル版は英語“A Perfect Day”)です。

 

イサベラ・コイシェのNadie quiere la noche”の記事は、コチラ⇒201531

ダニエル・グスマンの“A cambio de nada の記事は、コチラ⇒2015412