「批評家週間」結果発表、”Mimosas”がグランプリ*カンヌ映画祭2016 ⑦ ― 2016年05月22日 16:50
オリヴェル・ラセの“Mimosas”がグランプリ!
★もたもたしているうちにグランプリ受賞が決まってしまいました。「批評家週間」は「監督週間」と同じようにカンヌ映画祭とは別組織が運営している、いわゆるパラレル・セクションです。カンヌ本体と並行して開催されるので、一括りにしてカンヌです。作品数が7作と少ないこともあって本祭クロージング前に結果が発表される(今年は19日)。スペイン人監督としては3人目になります。1人目は『花嫁のきた村』(1999、シネフィル・イマジカ放映)のイシアル・ボリャイン、2人目は『ヒア・アンド・ゼア』(東京国際映画祭2012上映)のアントニオ・メンデス・エスパルサ、そして今回のグランプリ“Mimosas”のガリシア出身のオリベル・ラセです。下馬評では第2席に当たるヴィジョナリー賞を受賞したトルコのメフメト・ジャン・メルトールの“Albüm”(“Album de famille”)でした。多分審査委員長ヴァレリー・ドンゼッリ監督の好みが幸いしたのかもしれない。
★昨年のグランプリはアルゼンチンのサンティアゴ・ミトレの『パウリーナ』(ラテンビート上映)でした(彼は今年もシネフォンダシオン部門に出品、国際アート賞に当たるアトリエ賞を受賞したニュースが届いています。20日発表)。グランプリ受賞をジャンプ台にして活躍している監督には、ベルナルド・ベルトルッチを筆頭に、イニャリトゥ、ケン・ローチ、レオ・カラックス、ルシア・プエンソ、デル・トロ、ウォン・カーウァイ、ジャック・オディアール、フランソワ・オゾン・・・などが挙げられます。
(左から、監督と出演者たち)
“Mimosas”(“Las Mimosas”)2016
製作:Zeitum Films / La prod / Moon A Deal Films / Rouge International
監督・脚本:オリベル・ラセ(またはオリベル・ラシェ)
製作者:Lamia Chraibi / Julie Gayet / Felipe Lage 他
データ:製作国モロッコ=スペイン=フランス、言語アラビア語、2016年、93分、ロードムービー、カンヌ映画2016「批評家週間」がワールド・プレミア、上映5月16日、グランプリ受賞。モロッコ公開5月22日
キャスト:Said Agliサイード・アグリ(サイード)、Ahmed El Othmani アフマド・エル・オスマニ(アフマド)、Shakib Ben Omarシャキブ・ベン・オマール(シャキブ)、Hamido Farjadハミド・ファルジャド(長老Sheikhシェイク)、マルガリータ・アルボレス(長老の妻Noor)、Ahmed Hammoud アフマド・ハモウド(Nabil ナービル)、他
*アラビア語の読みが不正確なものはラテン文字転写を入れております。そちらを優先してください。
解説:モロッコの港湾都市タンジール、「タンジール・ガイド組合」の事務所は、カフェ〈ラス・ミモサスLas Mimosas〉の中にあり、リーダーがその日の仕事の配分をしているが、案内はあまり信用できない。若いシャキブにナービルと呼ばれるキャラバン隊の引率のミッションが与えられる。ナービル・キャラバン隊は以前にはアトラス山脈の切り立った頂上越えのエキスパートだった。彼は今スーフィー教徒の長老シェイクの夫婦を伴ってアトラス山脈を越えようとしていたが、長老は切り立った険しいアトラスの頂上で死んでしまう。しかし、安息の地シジルマサに埋葬して欲しいという長老の最後の願いを果たしたいと考えるナービルは、それが自分にかせられた運命だと気づく。そこでラス・ミモサスから送り込まれてきたシャキブの助けを受け入れ、急拵えのキャラバン隊は長老の遺骸を乗せてシジルマサへの道に再び出発する。
★これが出だしの部分ですが、シャキブの裏切り、キャラバンに同行していたサイードとアフマドが、道案内を申し出るが、長老の妻は疑いの目を向ける。ナービルもシャキブに一抹の不安を覚えるが受け入れざるを得ない。やがて彼らの無責任が、天使が惡魔に変貌するのを、観客は目撃するだろう。アトラス山脈はモロッコからチュニジアにかけて東西にのびる褶曲山脈、長さ2400キロ、モロッコでは標高3000mを超え雪が降る。シジルマサは、モロッコ南東部にあったベルベル人の都市、かつては金・銀・塩のサハラ交易で栄えたオアシス都市だったが、繰り返えされる内乱のため、1393年に消滅、現在は廃墟となっている。映画で語られるのは、スーフィー教文化、イスラム教の禁欲的、隠遁的、神秘主義、災難と宿命、天使と悪魔、奇跡と嘘、やはり「生と死」でしょう。たくさんの要素がカクテルのようにミックスされた、神秘的なロードムービー、または『オデュッセイア』を彷彿させる叙事詩でしょうか。
(雪のアトラス山脈、映画から)
★オリベル・ラセ Oliver Laxe は、1982年パリ生れ、ガリシアへ移民してきたガジェゴgallegoです。スペインでどのように呼ばれているか知りませんが、一応フランス生れですが上記のようにしました。ガリシア読みならオリベル・ラシェが近いと思います。2010年のカンヌ映画祭「監督週間」に出品したデビュー作“Todos vós sodes capitáns”(“Todos vosotros sois capitanes”/“You All Are Captains”2010,カラー&モノクロ、78分、スペイン語/アラビア語/フランス語)が、国際映画批評家連盟賞 FIPRESCIを受賞している。スペイン映画アカデミーが翌年のゴヤ賞新人監督賞にノミネーションしなかったことで一部からイチャモンがついた。それから6年ぶりに撮った第2作“Mimosas”が見事グランプリ、来年のゴヤ賞の行方が楽しみになってきた。もうデビュー作ではありませんから、〈新人監督賞〉というわけにはいきません。10年ほど前から毎年数カ月はモロッコで暮らしている由、今回の“Mimosas”はアラビア語です。
(本作撮影中のオリベル・ラセ監督)
★「どうしてこのように時間が掛かったのか」というプレスの質問には、「製作費が集まらなかったから」と簡単明瞭、「デビュー作は私一人で撮ったが、今回はチームを組んだので資金作りが大変だった。しかしこの受賞をチーム全員が私以上に喜んでくれた」と監督。「第3作目はガリシアが舞台です。今回の受賞で資金調達が可能になりました」、やはりこれがカンヌです。
(柔和な眼差しの奥に芯の強さを感じさせる監督)
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