『苺とチョコレート』の続編?*フェルナンド・ぺレスの新作2017年03月08日 17:21

        トマス・グティエレス・アレアに捧げる―ディエゴのその後

 

★ディエゴとは、トマス・グティエレス・アレア『苺とチョコレート』の中で造形した主人公、ホルヘ・ぺルゴリアが演じた。こちらのディエゴは亡命許可証を入手して間もなく愛するキューバを後にするだろうアーティスト。片やフェルナンド・ぺレスの新作Últimos días en La Habanaの中のディエゴは、ハバナの古びたアパートのベッドに横たわっている。エイズに体をむしばまれ、もはや亡命の夢は潰えている。やつれたディエゴの傍らには同世代のミゲルが付き添っている。レストランの皿洗いをしながらアメリカへのビザが届くのを待っている。もはやイデオロギー論争にはうんざりした、ただ生き残りを賭けて暮らす庶民で溢れた「ハバナ」での「最後の日々」を性格の異なった二人の男は送っている。アレア監督の下で映画を学んだペレス監督が恩師に捧げる最新作。

 

   

   Últimos días en La Habana(「Last Days in Havana」)2016

製作:ICAIC (キューバ) / WANDA VISIÓN S.A. (スペイン) / Besa Films

監督・脚本:フェルナンド・ぺレス

脚本(共):アベル・ロドリゲス

撮影:ラウル・ペレス・ウレタ

編集:セルヒオ・サヌス

録音:エベリオ・マンフレッド・ガイ・サリナス

美術:セリア・レドン

製作者:ダニロ・レオン、ホセ・マリア・モラレス

 

データ:製作国キューバ=スペイン、スペイン語、2016年、ドラマ、93分、撮影地ハバナ

映画祭・受賞歴:第38回ハバナ映画祭2016審査員特別賞受賞(12月)、ベルリン映画祭2017ベルリナーレ・スペシャル部門出品(2月)、マラガ映画祭2017コンペティション正式出品(3月)、他

 

キャスト:ホルヘ・マルティネス(ディエゴ)、パトリシオ・ウード(ミゲル)、ガブリエラ・ラモン(ディエゴの姪)、クリスティアン・ヘスス、ジャイレネ・シエラ、コラリタ・ベロス、アナ・グロリア・ブドゥエン、カルメン・ソラル、他

 

プロット:現代のハバナを舞台に繰り広げられる友情と犠牲の物語。ディエゴはゲイの45歳、エイズに冒され、もはや夢を描くことができない。同世代のミゲルは「北」に脱出することを夢見て、来る日も来る日もアメリカの地図を眺めている。決して届くことのないビザを待ち続けて、レストランの皿洗いの仕事をこなしながら英語の独学に励んでいる。二人を取り巻く魅力溢れた人々がディエゴの部屋を訪れる。ある日、届くはずのないビザが届けられてくる。このただ事でない運命を前にして二人は突然岐路に立たされる。二人はどんな決断をするのだろうか。大きな変化が予感される小さな「島」を舞台に、友情、それに伴う犠牲、憂鬱、痛み、パッション、貧困、ユーモアに富んだダイヤローグが見る人を魅了する。

 

     

  (審査員特別賞のトロフィーを手に、監督とホルヘ・マルティネス、ハバナ映画祭2016

 

フェルナンド・ぺレス1944年ハバナ生れ)はキューバの監督、脚本家。既に何本か字幕入りで見ることができるが、2003年の異色の無声ドキュメンタリー『永遠のハバナ』(「Suite Habana」)しか公開されていない。1987年の長編デビュー作「Clandestino」が『危険に生きて』の邦題でキューバ映画祭2004で上映されているほか、『ハロー ヘミングウェイ』1990、東京国際映画祭上映)、『口笛高らかに』98NHKBS放映)も、20世紀のキューバ映画を特集したミニ映画祭などで何回か上映されている。そもそもキューバ映画は今世紀に入ってからは本数も少なく、かつての輝きを失っている。従ってキューバ映画祭を開催しようとすれば、いきおい20世紀の映画を選ぶことになる。キューバを舞台にしているが、例えばアグスティ・ビリャロンガの『ザ・キング・オブ・ハバナ』15、スペイン)やパディ・ブレスナックの『ビバ』15、アイルランド)などは、製作国も監督もキューバではない。当ブログで紹介したマリリン・ソラヤのVestido de novia14)、カルロス・レチュガのSanta & Andres16)などは公開はおろか映画祭上映さえ難しい。

 

                  (ハバナの中心街を歩くミゲル役のパトリシオ・ウード)


 

(ディエゴ役のホルヘ・マルティネスと姪役のガブリエラ・ラモス)

 

  

           (扇風機がないので常にうちわを動かしているディエゴとジャイレネ・シエラ)

 

★本作は長編映画8作目となる。製作者にホセ・マリア・モラレス、撮影監督にラウル・ペレス・ウレタなど長年映画作りを共にしてきた仲間とタッグを組んでいる。キャスト選考はかなり難航したとベルリンで語っていた。上記したようにベルリン映画祭のベルリナーレ・スペシャル部門での上映、因みにこのセクションではフェルナンド・トゥルエバのLa reina de España16、西)やアムネスティ国際映画賞受賞したメキシコのエベラルド・ゴンサレスのドキュメンタリーLa libertad del diabloもエントリーされていた)、これから始まるマラガ映画祭コンペ上映などで何らかの賞に絡めば、日本での知名度の高さ、または山形国際ドキュメンタリー映画祭2011の審査員としての来日などを勘案すれば、映画祭上映は期待できるのではないか。

 

 

             (フェルナンド・ぺレス監督)

 

★『永遠のハバナ』以降のフィルモグラフィー、2010José Martí: el ojo del canario2014La pared de las palabras2作、前者はキューバのどちら側からも尊敬されているホセ・マルティの物語、後者は進行性筋萎縮症になって書くことはおろか話すこともできなくなっていく息子とその家族、母親、兄弟、祖母との闘いの物語、原題の「言葉の壁」はそこからきている。息子に初めての起用となるホルヘ・ぺルゴリア、母親に『危険に生きて』や『口笛高らかに』出演のイサベル・サントスが扮した。監督によると実話にインスパイアーされて制作したということです。 

   

    (ホルヘ・ぺルゴリアとイサベル・サントス「La pared de las palabras」から)