ブラック・コメディ”Quatretondeta”*マラガ映画祭2016 ④2016年04月22日 18:16

      コンペティション第2弾“Quatretondeta”って何のこと?

 

  

ポル・ロドリゲスのデビュー作Quatretondetaは、スペイン人が大好きなブラック・コメディ。ホセ・サクリスタン、ライア・マルル、セルジ・ロペス、フリアン・ビジャグラン、大物ベテランと中堅演技派3人が一つのお棺を取り合ってクアトレトンデタ村を目指してアリカンテへ、果たして辿り着けるのでしょうか。「Quatretondeta」(マップはCuatretondeta)は、アリカンテ州の北部、セタ谷の切り立った岩山に取り囲まれた小さな村の名前です。ウィキペディアによると、1602年にはモリスコ(レコンキスタ以後キリスト教に改宗してスペインに留まったモーロ人)の40家族が暮らしていたとある。現在の人口わずか138人という死ぬほど静かな村です。しかし気候のよい季節には山歩きのハイカーの拠点になっているとか。

 

    

           (こんな感じの村です。観光案内のサイトから)

 

    Quatretondeta” 2016

製作:Arcadia Motion Pictures / Noodles Production / Afrodita Audiovisual /

共同製作TVE & TV3、協賛 ICAA & ICEC

監督・脚本:ポル・ロドリゲス

音楽:Joan Valent

撮影:カルレス・グシ

データ:スペイン、カタルーニャ語、2016年、92分、コメディ、撮影地クアトレトンデタを含むアリカンテほか、マラガ映画祭2016正式出品、429日上映、アメリカ公開が予定されている。

 

キャスト:ホセ・サクリスタン(トマス)、ライア・マルル(ドラ)、セルジ・ロペス(ヘノベス)、フリアン・ビジャグラン(イニャキ)、ロベルト・フェランディス(サクリスタンのスタントマン)、マリアノ・フェレ(同)、ハビエル・ホルダ(同)、アルムデナ・クリメント(村長の妻)、他

 

解説:妻に死なれて埋葬地に奔走する老トマスの物語。亡骸はアリカンテの内陸部にあるクアトレトンデタ村に埋葬して欲しいという妻の願いを叶えてやりたいトマス。一方、妻の親族は故郷のパリに埋葬したいと遺体を渡さない。そこで遺体を密かに盗み出そうと決心、クアトレトンデタに向かうが、なにせ老人のことゆえ記憶が定かでなく道に迷ってしまう。パリで暮らしていた妻の娘ドラはできる限り早く母親をパリに連れて帰りたいとやってきたが遺体が見当たらない。この義理の娘は冷酷なうえ計算高く、母親所有の財産を手に入れようとしていた。ドラは仕方なく一風変わった葬儀屋イニャキとヘノベスを巻き込んで、追いつ追われつの追跡劇が始まった。到着してみればクアトレトンデタ村はフィエスタの最中、果たして遺体はどちらの手に渡るのでしょうか。

 

★長い人世では時には忘れることが幸せな場合もありますが、日を追うごとに記憶力が減退していくのは辛いことです。如何に記憶を保ち、曖昧になった記憶をよみがえらせることに時間を費やすことになる。最初のタイトルは“Camino a casa”(カタルーニャ語“Cami a casa”)だったようです。これも悪くないが平凡、Quatretondetaのほうが興味を唆られる。IMDbではカタルーニャ語となっているが、予告編ではスペイン語だった。マラガではどういうかたちで上映されるのだろうか。最初、架空の村かと思っていましたが、オリーブの木に囲まれた観光地のようです。山歩き愛好家には人気の場所、ホテルなど宿泊施設もある。映画に出てくるモーロ人のフィエスタにはプータも出張してくる(笑)。

 

 
 (モーロ人の衣装を着て祭りに参加したトマスとイニャキたち、“Quatretondeta”から)

 

★監督紹介:ポル・ロドリゲスPol Rodriguezは、監督、脚本家。正確な出身地・生年は検索できなかったが、1997年に映画の世界で仕事を始めたとあるので、1970年代と推測します。本作が長編デビュー作品ですが、キャリアを調べると、実に長い助監督時代を経てきています。テレドラ、ドキュメンタリーを含めて35作品に上るから最近の若い監督としては珍しいタイプかもしれない。なかで公開、映画祭上映作品として、ホセ・ルイス・ゲリンの『シルビアのいる街で』07)、クラウディア・リョサの『悲しみのミルク』09)、アグスティ・ビリャロンガの『ブラック・ブレッド』10)などが挙げられる。

 

         

                (ポル・ロドリゲス監督)

 

★最近ではリュイス・ミニャロのStella cadente14)、美術・衣装デザインのカテゴリーでガウディ賞を受賞した作品や、昨年のマラガ映画祭に正式出品されたバーニー・エリオットのスリラーLa deudaOliver’s Deal2014、西=米=ペルー)でも助監督を務めた。何かの賞に絡むかと期待して紹介記事を書きましたが、監督がアメリカ人、オリジナル版が英語というハンディキャップのせいか無冠でした。他にもスペイン人以外の監督とのコラボがあるように、若い監督は国籍にはこだわらない。

La deuda”(“Oliver’s Deal”)の記事は、コチラ⇒2015419

 

  主なキャストのプロフィール

ホセ・サクリスタン1937年チンチョン生れ。当ブログには度々登場してもらっていますが、最近の活躍をコンパクトにまとめると、名画の誉れ高いマリオ・カムスの『蜂の巣』(82)出演をはじめとして、オールドファンには忘れがたい作品に名脇役としてその長い芸歴を誇っています。最近ではカルロス・ベルムトの『マジカル・ガール』(14)にバルバラ・レニー扮する本当のマジカル・ガールに翻弄される数学教師を演じました。一時舞台に専念してスクリーンから遠ざかっておりましたが、復帰して撮ったタビ・トゥルエバのMadrid 198711)が評価され「フォルケ賞2013最優秀男優賞、ハビエル・レボージョのブラック・コメディEl muerto y ser feliz12)でサンセバスチャン映画祭2012銀貝男優賞とゴヤ賞2013主演男優賞を受賞、さらにはマラガ映画祭2014レトロスペクティブ賞を受賞するなど受賞ラッシュが続いており、現在では銀幕でひっぱりダコです。

ゴヤ賞・フォルケ賞の関連記事は、コチラ⇒2013818

レトロスペクティブ賞の関連記事は、コチラ⇒201447

 

       

     (ホセ・サクリスタン、右側がセルジ・ロペス、“Quatretondeta”から)

 

ライア・マルルは、1973年バルセロナ生れ、代表作はサルバドル・ガルシア・ルイスのMensaka98)、アントニオ・エルナンデスのLisboa99)、セルジ・ロペスと共演している。翌年ミゲル・エルモソのFugitivasでゴヤ賞新人女優賞を受賞して女優としての地位を確立した。つづいてイシアル・ボリャインの『テイク・マイ・アイズ』03)でゴヤ賞主演女優賞、シネマ・ライターズ・サークル女優賞、フォトグラマス・デ・プラタ賞以下、数えきれない賞を受賞した。再びサルバドル・ガルシア・ルイスのLas voces de la noche03)でヒロインに抜擢された。ヤニス・スマラグディスのEl Greco07)、エル・グレコがギリシャ人だったこともあり、テッサロニキ映画祭では観客賞、作品賞以下賞を総なめにし、ガウディ賞ノミネーション、ゴヤ賞では衣装デザイン賞を受賞するなどした話題作。前述したビリャロンガの『ブラック・ブレッド』など。ここしばらくTVドラ出演が多く、本作でカムバックしたようです。監督との接点は『ブラック・ブレッド』でしょうか。

 

     

            (ライア・マルル、“Quatretondeta”から)

 

セルジ・ロペスは、なんといってもギレルモ・デル・トロの『パンズ・ラビリンス』06)の憎っくきビダル大尉でしょうか。1965年バルセロナ近郊生れ、本格的な演技はフランスのジャック・ルコック演劇学校で学んだ。フランス語ができ、デビューはマニュエル・ポワリエのLa petite amie d’Antonio92)でいきなり主役のアントニオに起用された。したがって最初の頃はフランス映画出演が多く、ドミニク・モル監督の『ハリー、見知らぬ友人』でセザール賞2000主演男優賞を受賞しているほど。フランソワ・オゾンのファンタジー『リッキー』09)など。スペイン語映画では、『パンズ・ラビリンス』のあと、イサベル・コイシェの『ナイト・トーキョー・デイ』09)、『ブラック・ブレッド』、ダニエル・モンソンの『エル・ニーニョ』14)などでしょうか。いかつい顔から悪役、シリアスドラマ、コメディとこなして演技の幅は広い。

 

      

            (セルジ・ロペス、“Quatretondeta”から)

 

フリアン・ビジャグランは、1973年カディス生れ、ダニエル・サンチェス・アレバロのデビュー作『漆黒のような深い青』06)が日本発登場でしょうか。フェリックス・ビスカレットのBajo las estrellas07)、ナチョ・ビガロンドのExtraterrestre11)、アルベルト・ロドリゲスのGrupo 7の演技が認められ、ゴヤ賞2013助演男優賞、スペイン俳優組合賞助演男優賞を受賞した。ビガロンドの『ブラック・ハッカー』14)は、イライジャ・ウッドが主演だったからか、テーマが今日的だったかで直ぐ公開された。横道に逸れるがビガロンド監督は、デビュー作となったサスペンス『タイム・クライムス』以来、コアなファンがいるようです。前回紹介したコルド・セラの「ゲルニカ」にも出演している。

 

   

    (フリアン・ビジャグラン、後ろ向きがサクリスタン、“Quatretondeta”から)

 

★撮影監督のカルレス・グシは、『テイク・マイ・アイズ』、『エル・ニーニョ』、『プリズン211』など手がけているベテラン。本作はロードムービーの要素もあるから、上映を待ち焦がれているファンも多いのではないか。予告編の面白さから判断するに、必ず賞に絡むのではないか。

 

★次回はイネス・パリスのコメディ“La noche que mi madre mató mi padre”の予定。