アルモドバルのカンヌ*カンヌ映画祭2017 ⑪ ― 2017年06月01日 18:18
「民主的で友好的だった審査員」とアルモドバル
★パルム・ドールにスウェーデンのリューベン・オストルンドの「スクエア」を選んだカンヌ映画祭も終了、同時に審査委員長という重責を負ったペドロ・アルモドバルのカンヌも終わりました。彼自身はフランスのロバン・カンピヨの第3作目「120ビーツ・パー・ミニット」(グランプリ、国際批評家連盟賞、他)に票を入れたが、「民主的な方法で」審査員たちが選んだのは「スクエア」だった。「自分は9分の1でしかない」とプレス会見で語っていた。投票権は1人1票だったということです。委員長を含めて審査員はパオロ・ソレンティーノ、マーレン・アデ、ジェシカ・チャステイン、ウイル・スミス、ファン・ビンピン、アニエス・ジャウイ、パク・チャヌク、ガブリエル・ヤレドの9人でした。映画の「最初から最後まで英雄たちに感動した。翌日の各紙もパルマ・ドールを予想していたが、審査員が選んだのは・・・」違ったということです。

(パルム・ドールのリューベン・オストルンド)

(「120ビーツ・パー・ミニット」のポスター)
★審査員は「映画に対する見解はそれぞれ異なっていたが、友好的で、互いに敬意を払って審査に臨んだ」というわけで、血しぶきは上がらなかったらしい。そうはいっても個人的にはカンピヨにやりたかったようです。「私のようなLGTB*の人も、そうでない人も関係なく、カンピヨは多くの人命を救った本物の英雄たちの物語を語ってくれた」・・・「多くの観客がカンピヨの映画を気に入ってくれると思うし、あらゆる場所で成功することを確信している」とも。下の字幕入り写真は、このときの発言部分、プレス会見の前半は英語、後半はスペイン語で、前半部分はスペイン語字幕入りだった。後方の女性は英語があまり得意でない監督のための助け舟的通訳者のようです。
*レズビアン、ゲイ、性転換者、バイセクシアルの頭文字。

(授賞式後のプレス会見に臨むアルモドバル)
★既に内容紹介の記事が出回っておりますが、まだエイズが治療薬が分からない未知の病気だった1990年代初めのパリが舞台、対エイズの活動家グループ「アクト・アップ」の活動を追った群集劇。握手だけで感染するという噂がまことしやかに流れ、世界を恐怖に陥れた時代でした。ロバン・カンピヨ監督は、ローラン・カンテのパルム・ドール受賞作『パリ20区、僕たちのクラス』(08)の脚本家としてカンヌに登場しているが、監督としては第3作目となる本作が初めて。作りが『パリ20区~』に似ている印象を受けます。デビュー作「Les revenants」(04)はフランス映画祭2006で上映後、『奇跡の朝』の邦題で公開、第2作「Eastern Boys」(13)は、『イースタン・ボーイズ』の邦題でアンスティチュ・フランセ東京映画祭で上映された。

(グランプリ受賞で登壇したロバン・カンピヨ)
★第4回イベロアメリカ・プラチナ賞のノミネーション発表が昨日31日(水)にありました。もうそんな季節かと暗澹たる思いです。時間は恐ろしい。2017年は7月22日、マドリードで開催されます。
第4回イベロアメリカ・プラチナ賞2017*ノミネーション発表 ― 2017年06月05日 14:31
「オスカーに匹敵する」賞とケイト・デル・カスティージョがノミネーション発表

★先月31日(水)、ハリウッド映画の中心地ロスアンゼルス(ビバリーヒルトン・ホテル)でイベロアメリカ・プラチナ賞2017のノミネーション発表がありました。ビバリーヒルトンは、例年オスカー賞候補者の昼食会やゴールデン・グローブ賞のガラが開催されるホテル、それでケイト・デル・カスティージョの開会の辞が「オスカーに匹敵する」云々になったようです。デル・カスティージョ(女優1969メキシコ・シティ、現ロス在住)、その他、エドワード・ジェームズ・オルモス(俳優1947ロス)、アンジー・セペダ(女優1974カルタヘナ、現マドリード在住)、ミゲル・アンヘル・シルベストレ(俳優1982カステジョン)の4人(写真中央はCNNの司会者フアン・カルロス・アルシニエガス)が各カテゴリーのノミネーション発表を行った。今年の授賞式会場は、7月22日(土)、マドリードの屋内競技場カハ・マヒカCaja Mágicaで開催される。ここは2020年のオリンピック誘致ではテニス会場になるはずだった。スポーツだけでなく音楽祭なども開催されている。

(左から、エドワード・ジェームズ・オルモス、ケイト・デル・カスティージョ、一人置いて
アンジー・セペダ、ミゲル・アンヘル・シルベストレ)
★最多ノミネーションは、フアン・アントニオ・バヨナの『怪物はささやく』の7個(監督・美術・録音・撮影・編集・オリジナル音楽・価値ある映画と教育)、ただしメインの作品賞には、オリジナル版が英語作品だったため、「言語はスペイン語・ポルトガル語」という条件を満たせず該当外となった。続くパブロ・ララインの「ネルーダ」が5個(2017秋公開が予定されているが、邦題は未定)、ロレンソ・ビガスの『彼方から』、ガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーンの『名誉市民』、アルモドバルの『ジュリエッタ』、アルベルト・ロドリゲスの『スモーク・アンド・ミラーズ』、セルソ・ガルシアの「La delgada línea amarilla」の4個でした。当ブログではセルソ・ガルシア作品以外は既にアップ済み。なお写真掲載は1カテゴリー1個に絞った。

(最多ノミネーション7個の『怪物はささやく』)
主要カテゴリーのノミネーション
◎作品賞(ドラマ部門)
「Aquarius」(ブラジル)クレベール・メンドンサ・フィリオ監督
『名誉市民』(アルゼンチン・スペイン)ガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーン監督
『スモーク・アンド・ミラーズ』(スペイン)アルベルト・ロドリゲス監督
『ジュリエッタ』(スペイン)ペドロ・アルモドバル監督
「ネルーダ」(チリ・アルゼンチン・スペイン)パブロ・ラライン監督

◎監督賞
フアン・アントニオ・バヨナ『怪物はささやく』(スペイン)
クレベール・メンドンサ・フィリオ「Aquarius」(ブラジル)
ガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーン『名誉市民』(アルゼンチン・スペイン)
パブロ・ラライン「ネルーダ」(チリ・アルゼンチン・スペイン)
ペドロ・アルモドバル『ジュリエッタ』(スペイン)

◎脚本賞
アルベルト・ロドリゲス&ラファエル・コボス『スモーク・アンド・ミラーズ』(スペイン)
アンドレス・ドゥプラット『名誉市民』(アルゼンチン、スペイン)
セルソ・ガルシア「La delgada línea amarilla」(メキシコ)
ギジェルモ・カルデロン「ネルーダ」(チリ・アルゼンチン・スペイン)
パベル・ヒロウド&アレハンドロ・ブルゲス他「El acompañante」(キューバ、ベネズエラ、
コロンビア)

◎女優賞
アンジー・セペダ「La semilla del silencio」(コロンビア)
エンマ・スアレス『ジュリエッタ』(スペイン)
フアナ・アコスタ「Anna」(コロンビア・フランス)ジャック・トゥールモンド・ビダル監督
ナタリア・オレイロ「Gilda, no me arrepiento de este amor」(アルゼンチン)
ロレナ・ムニョス監督
ソニア・ブラガ「Aquarius」(ブラジル)

◎男優賞
アルフレッド・カストロ『彼方から』(ベネズエラ、チリ)
ダミアン・カサレス「La delgada línea amarilla」(メキシコ)
エドゥアルド・フェルナンデス『スモーク・アンド・ミラーズ』(スペイン)
ルイス・ニェッコ「ネルーダ」(チリ・アルゼンチン・スペイン)
オスカル・マルティネス『名誉市民』(アルゼンチン、スペイン)

◎オペラ・プリマ(第1回監督作品、ドラマ部門)
『彼方から』(ベネズエラ、チリ)ロレンソ・ビガス
「La delgada línea amarilla」(メキシコ)セルソ・ガルシア
「Rara」(アルゼンチン、チリ)ペパ・サン・マルティン
「Viejo calavera」(ボリビア)キロ・ルッソ
『物静かな男の復讐』(スペイン)ラウル・アレバロ

(ペパ・サン・マルティンの「Rara」)
★女優賞ノミネートのナタリア・オレイロは、ウルグアイで開催された第3回目の総合司会者、ウルグアイ出身ですが主にアルゼンチンで活躍している(『ワコルダ』)。「Gilda, no me arrepiento de este amor」は1996年交通事故死したアルゼンチンの歌姫ヒルダのビオピック。ソニア・ブラガは第1回プラチナ賞2014の栄誉賞受賞者、「Aquarius」はカンヌ映画祭2016正式出品を皮切りに世界各地の映画祭巡りをした。アンジー・セペダは、今回ノミネーション発表をしたコロンビア出身の女優だが、本拠地をマドリードに移している。ノミネーション発表をした先輩ケイト・デル・カスティージョとは親友同士だそうです。フアナ・アコスタが出演した「Anna」(西語・仏語)は、ゴヤ賞2017のイベロアメリカ映画部門にノミネートされた。2015年製作とやや古い。フアナ・アコスタはエルネスト・アルテリオと結婚、スペイン映画出演も多く、当ブログ登場も多いほうか。エンマ・スアレス他、男優賞ノミネートの紹介は不要ですね。

★その他のカテゴリーとして、オリジナル音楽、撮影、美術、録音、ドキュメンタリー、アニメーション、シリーズのテレビドラマその他がありますが割愛、受賞結果はアップいたします。
◎EGEDA (Entidad de Gestión de Derechos de los Productores Audiovisuales) とFIPCA(Federación Iberoamericana de Productores Cinematográficos y Audiovisuales) が主催します。いわゆる視聴覚製作に携わる人々の権利を守るための管理交渉団体です。EGEDAは1990年創設、活動は1993年から。スペイン、チリ、コロンビア、US、ペルー、ウルグアイ他などが参加しております。
アリエル賞2017*ノミネーション発表 ― 2017年06月09日 12:13
メキシコ版アカデミー賞、作品賞候補にドキュメンタリーも

★アリエル賞2016の結果発表は5月中だったが、今年は7月11日ということです。昨年の授賞式は『選ばれし少女たち』の監督ダビ・パブロスが両手に花でしたが、今年も同じような結果でしょうか。ざっと見た限りですが、ノミネーションは昨年12月の「イベロアメリカ・フェニックス賞」、11月開催の「ロス・カボス映画祭」受賞作品などと、当然ですがダブっているようです。最優秀作品賞ノミネーションには、公開、映画祭上映、ネットフリックスと、既に日本語字幕入り作品も交じっています。カテゴリーの数が多く、監督賞・脚本賞などはダブるので、最優秀作品賞とイベロアメリカ映画賞だけアップしておきます。ゴチック体は当ブログで扱った作品です。

(最優秀作品賞ノミネーションの7作品)
◎最優秀作品賞(メキシコ)
『夜を彩るショーガール』◎(Bellas de noche)ドキュメンタリー
監督マリア・ホセ・クエバス
『彼方から』◎(ベネズエラ合作)監督ロレンソ・ビガス
『ノー・エスケープ自由への国境』(フランス合作)監督ホナス・キュアロン
「Tempestad」ドキュメンタリー、監督タティアナ・ウエソ
「Me estás matando, Susana」監督ロベルト・スネイデル
「La 4a compañía」◎(スペイン合作)
監督アミル・ガルバン・セルベラ&ミッチ・バネッサ・アレオラ
「El sueño del Mara'akame」◎ 監督フェデリコ・Cecchetti
◎印はデビュー作
★マリア・ホセ・クエバスの『夜を彩るショーガール』は、カンヌ映画祭で物議をかもしたネットフリックスで放映されている作品、ディスコ全盛期の1970年代から80年代にかけて活躍した5人のショーガールvedette(リン・メイ、ワンダ・セウス、プリンセサ・ジャマル、ロッシー・メンドサ、オルガ・ブレースキン)の数奇な人生を語るドキュメンタリー。ショー場面が続く前半よりオール60歳代になった後半が胸を打つ。彼女たちの栄光と転落がホンネで語られるからです。vedette というのはフランス語起源のバラエティーショーのセックス・シンボル的な女性スター、踊れて歌えて演技もできるアーティスト。モレリア映画祭2016メキシコ・ドキュメンタリー賞、ロス・カボス映画祭、パナマ映画祭などで受賞している。本作はドキュメンタリー部門でもノミネートされている。

★アミル・ガルバン・セルベラ&ミッチ・バネッサ・アレオラの「La 4a compañía」は、最多の20カテゴリーでノミネートされている。本作についてはミシェル・フランコの「Las hijas de Abril」に出演していたエルナン・メンドサの紹介記事で少しだけ触れています。両監督のデビュー作。

★タティアナ・ウエソの「Tempestad」は8部門ノミネーション、分類はドキュメンタリーだがドラマでもある。監督はこの二つのジャンルは区別できないと語っている。暴力が処罰されることのないメキシコ、二人の犠牲者の物語。ミリアムは人身売買の濡れ衣を着せられて収監中、アデラは移動サーカスで働いている。闇が支配する世界への旅は同時に自由への旅でもある。一種のロードムービー。ベルリン映画祭2016フォーラム部門上映で高い評価を受け、12月開催の「フェニックス賞」ではドキュメンタリー賞やエルネスト・パルドの素晴らしい映像が撮影賞などを受賞している。『夜を彩るショーガール』同様、本作もドキュメンタリー部門でノミネートされている。審査員の評価は高いと思います。

★「El sueño del Mara'akame」はフェデリコ・Cecchettiの長編第1作、タイトルのMara'akameはウイチョル族のシャーマンを指すようです。オースティン映画祭観客賞とスペシャル・メンション、モレリア映画祭第1回・2回作品賞受賞、シカゴ映画祭他で上映されている。今年のアリエル賞は新人監督が目立つ印象です。4作とも第1回監督賞にノミネートされている。

*『彼方から』の紹介記事は、コチラ⇒2016年9月30日
*『ノー・エスケープ自由への国境』は、コチラ⇒2017年4月23日
*「Me estás matando, Susana」は、コチラ⇒2016年3月22日
*「La 4a companía」は、コチラ⇒2017年5月8日
◎イベロアメリカ映画賞
「Anna」(フランス、コロンビア)監督ジャック・トゥールモンド・ビダル
「Sin muertos no hay carraval」(エクアドル、メキシコ、ドイツ)
監督セバスティアン・コルデロ
『名誉市民』(アルゼンチン、スペイン)監督ガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーン
追記:公開邦題『笑う故郷』として岩波ホールで9月16日から
『物静かな男の復讐』(スペイン)監督ラウル・アレバロ
『セカンド マザー』(ブラジル)監督アナ・ミュイラート
★「Anna」は、ゴヤ賞2017のイベロアメリカ映画賞ノミネート、これから発表になる第4回イベロアメリカ・プラチナ賞には主演のフアナ・アコスタが候補者となっている。映画賞、映画祭で目にするが受賞にまで至らない。「Sin muertos no hay carnaval」は、セバスティアン・コルデロが生れ故郷エクアドルで撮った話題作、いつかご紹介したいと思っている映画の一つ。


★アナ・ミュイラートの長編第4作目『セカンドマザー』(Que Horas Ela Volta?)は、英題「The Second Mother」の片仮名起こし、東海地方で展開しているコロナシネマワールドでのみ上映される「メ~シネマ」作品として今年1月公開された。ミュイラート監督は1964年サンパウロ生れの53歳、サンパウロ大学で映画を学ぶ。脚本家としてキャリアを出発させた。主にテレビ界での活躍が目立っていたが、短編中編を手掛けた後、2002年「Durval Discos」で長編デビューを果たす。日本ではカオ・アンブルゲールの『1970、忘れられない夏』(2006シネフィル・イマジカ放映、当時ハンバーガーと表記された)や『シングー』(2011ラテンビート2012)の脚本家の一人として紹介されているが、もっと注目されていい監督の一人。またベテラン女優のヘジーナ・カゼRegina Caseが母親役を演じているのも見逃せない。レジーナ・ケースという英語読みがあり、ポルトガル語はスペイン語以上に人名表記が定まっていない。古い話だが、アンドルッシャ・ワッディントンの佳作『エゥ・トゥ・エリス』(東京国際映画祭2000上映)で日本初登場、これは『私の小さな楽園』の邦題で公開された。

ピラール・バルデムが輝いた夕べ*祝AISGE設立15周年 ― 2017年06月13日 16:06
「母は引退を望まない、私たちも続投を望んでいる」とバルデム3兄弟
★6月5日(月)、AISGE*設立15周年祭がマドリードのCirco Price劇場**で行われた。どうしてピラール・バルデムがヒロインだったのかと言えば、AISGE設立時からの功労者、なおかつ現理事長でもあるからです。2013年から肺気腫を病み、当夜も左手に酸素ボンベをぶら下げての登壇、15周年のお祝いは、結局ピラールへのオマージュとして開催されたようなわけでした。3人の子供(カルロス、モニカ、ハビエル)と二人のお嫁さん(ペネロペ・クルス、セシリア・Gessa)ほか、参加者はビクトル・マヌエルとアナ・ベレン夫妻、ミゲル・リオス、ジョアン・マヌエル・セラ、アシエル・エチェアンディア、ロッシ・デ・パルマ、ゴヤ・トレド、アイタナ・サンチェス=ヒホン・・・などなど総勢1300人ほどが参集、他にペドロ・アルモドバル、アントニオ・バンデラス、コンチャ・ベラスコ、カルメン・マチなどからビデオで祝辞が届けられた。

(左から、登壇したバルデム一家、ハビエル、モニカ、ピラール、カルロス)
*AISGE:Artistas, Intérpretes, Sociedad de Gestiónの略、映画と舞台の俳優、声優、舞踊家、監督など、スペインのアーティストすべての権利を守るための交渉団体。2002年設立、執行部は25名、理事長の任期は4年、選挙によって選ばれる。しかし2003年以来ピラール・バルデムが連続して再選されており、常に二番手になりやすい女性アーティストの地位向上に尽力している。
**Circo Price:トーマス・プライス(アイルランド出身)が1853年設立したプライス・サーカス曲馬団が前身、スペインには1880年に来西した。1970年閉鎖した劇場跡に、マドリード市議会の肝煎りで文化施設として、2007年リニューアル・オープンした。所在地ロンダ・デ・アトーチャ、2000人収容、音楽会などイベントが開催されている。

(1列中央席のピラールと家族、フィエスタ会場にて)
★ピラール・バルデムPilar Bardem、1939年3月14日、セビーリャ生れの78歳、映画81本、舞台43本、テレビ・シリーズ31本、まさに女優一筋の人生を歩んでいる。故アントニオ・バルデム(『恐怖の逢びき』)は実兄。ゴヤ賞は、1995年、アグスティン・ディアス・ヤネスの「Nadie hablará de nosotras cuando hayamos muerto」で助演女優賞受賞、2004年、ホセ・ルイス・ガルシア・サンチェスの「María querida」で主演女優賞ノミネートの2回だけと少ない。徹底したフランコ嫌い、物言う反戦女優としても有名。2013年以来健康不安を抱えているが、まだ「引退」したわけではない。「私がすぐ死ぬことを子供たちは望んでいないし、私も第三共和制を見るまでは死ねない」とスピーチ、現在の立憲君主制は勿論気に入らない。というわけで死神は当分お呼びでない。しかし、前日打ち合わせのために母親と会ったハビエルによると、「まるでマイク・タイソンと闘った後のようだった」と冗談めかして語っている。3時間に及んだというフィエスタの夕べは、バルデム家の女家長には結構激務だったのではないでしょうか。

(「・・・第三共和制を見るまでは・・・」とスピーチするピラール、左はモニカ)
★下の写真は当夜のハイライトの一つ、コミック・トリオ「Tricicle」***の演技、毛糸の帽子とピエロの付け鼻がトレードマーク。4人なのはピラールの息子が飛び入り出演しているからだそうです(右端の赤い帽子がハビエル)。彼はアシエル・エチェアンディア(ビルバオ出身の歌手、俳優、「La novia」「Ma ma」)がイタリアの「あまい囁きParole parole」を歌ったときにはボンゴを叩いた。ミゲル・リオス、ビクトル・マヌエルとアナ・ベレンの左翼カップルも「見て、見て・・・なんてピラールは素敵なの・・!」と歌で呼びかけた。バルデム一家にとって一生涯忘れられない感激の一夜となった。

(コミック・トリオ「Tricicle」とハビエル・バルデム)

(ボンゴを叩くハビエル、「あまい囁き」を熱唱するアシエル・エチェアンディア)

(ビクトル・マヌエル、アナ・ベレン、ミゲル・リオス)
***バルセロナ演劇研究所の3人の学生が、1979年バルセロナで結成したコミック・トリオ。モンティー・パイソン、ローワン・アトキンソン、またはMr.ビーンの流れを汲むパントマイムが得意。舞台出演が主だがテレビや映画にも出演している。
『笑う故郷』の邦題で『名誉市民』が近日公開*アルゼンチン・コメディ ― 2017年06月18日 15:17
やっと公開日がアナウンスされましたが・・・

★アルゼンチンのガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーンの監督コンビが撮った”El ciudadano ilustre”の公開日がアナウンスされました。昨年ラテンビートと東京国際映画祭と共催で上映されたときは、オリジナル・タイトルの「名誉市民」だったのが、どういうわけかこんな邦題になってしまった。タイトルは自由に付けてよい決りだが、わざわざ改悪する必要があったのだろうか、なにか裏事情があるのかと腑に落ちない。本作はオスカル・マルティネス扮するノーベル賞作家ダニエルを、「名誉」市民と考えるか、はたまた「不名誉」市民と考えるかにオチがあるのではないか。映画によっては原題をそのまま邦題にするとチンプンカンプンのケースもあるから一概に言えないが、本作はそれに該当しない。「笑う故郷」ではネタバレもいいとこだと思うが、まあいいや。オスカル・マルティネスがベネチア映画祭2016の男優賞を受賞した。

(オスカル・マルティネス、ベネチア映画祭2016にて)
★当ブログでは『名誉市民』のタイトルで記事にしております。改めて内容紹介はしませんが、メタファー満載、いたるところに伏線が張り巡らされ、最後にどんでん返しが用意されています。個人的には『ル・コルビュジエの家』の奇抜さ面白さに軍配を挙げますが、こちらも幾通りにも楽しめる映画です。
*内容・監督・キャスト紹介の記事は、コチラ⇒2016年10月13日
*ラテンビート鑑賞後の記事は、コチラ⇒2016年10月23日
◎岩波ホール、2017年9月16日(土)~ (タイム・テーブルはまだアップされておりません)
「トルーマン」ではなく『しあわせな人生の選択』で一足先に公開

★その他のお薦め映画の一つが、セスク・ゲイの”Truman”です。本作は『しあわせな人生の選択』の邦題で、一足先に公開されます。当ブログでは「トルーマン」で内容紹介をアップしております。「しあわせな・・・」とか「・・・の選択」など、過去に幾つもあったような邦題ですが、あまりに平凡すぎて何をか言わんやです。トルーマンはリカルド・ダリン扮するフリアンの愛犬の名前、この老犬トロイロは撮影中ダリンと一緒に暮らしていた。撮影後まもなくして死んでしまい、フリアンと同じく心優しいダリンの涙はなかなか乾きませんでした。というわけでサンセバスチャン映画祭2015で赤絨毯を歩いたときダリンが連れていた犬は、トロイロ(トルーマン)のムスメだった。トロイロは自閉症の子供と遊べるよう特別に訓練されたブルマスティフ犬、ダリンの友犬でした。誰でもいつかは人生に「さよなら」しなければなりません。未来の時間が残り少なくなったとき、人間は何を考えるのだろうか、というエモーショナルなお話です。

(ダリンとカマラ、トロイロのムスメ、サンセバスチャン映画祭2015にて)
★当ブログでは「トルーマン」のタイトルで紹介しております。サンセバスチャン映画祭2015では、リカルド・ダリンと友人トマス役のカメレオン俳優ハビエル・カマラが男優賞(銀貝賞)を二人で分け合いました。この異色の組み合わせが成功のカギの一つでしょうか。翌年のゴヤ賞2016では、作品賞、監督賞、脚本賞、男優賞、助演男優賞の5冠を制し、その他ガウディ賞4冠など受賞歴多数。
*作品内容、監督キャリア、キャストの主な紹介記事は、コチラ⇒2016年1月9日
*ゴヤ賞2016の受賞結果の記事は、コチラ⇒2016年2月12日
◎ヒューマントラストシネマ有楽町/恵比寿ガーデンシネマ
2017年7月1日(土)~ (特別鑑賞券発売中)
"No sé decir adiós" リノ・エスカレラのデビュー作*気になる俳優たち ― 2017年06月25日 12:16
「さよなら」のタイミング―どうしようもない別れについての物語
★マラガ映画祭2017以来ずっとアップしたいと思いながら後回しになっていたリノ・エスカレラのデビュー作 “No sé decir adiós” のご紹介。審査員特別賞、脚本賞、女優賞(ナタリエ・ポサ)、助演男優賞(フアン・ディエゴ)、審査員スペシャル・メンション他を受賞しながら紹介を怠っていました。監督紹介はさておき、キャストの顔ぶれは地味ですが、視点を変えればこれほど豪華な演技派揃いも珍しいといえます。末期ガンの父親にフアン・ディエゴ、意見の異なる二人の姉妹にナタリエ・ポサとロラ・ドゥエニャス、脇を固めるのがミキ・エスパルベ、パウ・ドゥラ、オリオル・プラ、エミリオ・パラシオスなど。

(左から、エミリオ・パラシオス、監督、ナタリエ・ポサ、フアン・ディエゴ、マラガ映画祭)
★今年のスペイン映画の珠玉の一編という高い評価を受けていますが、マラガ映画祭は春開催ということもあって、翌年2月のゴヤ賞まで大分時間があくので不利になります。しかし本作は残ると踏んでいますが予想通りになるでしょうか。単なる死についての物語でも、末期ガンについての物語でもないところが評価されているらしく、表面的には父と娘二人の話に見えながら、私たち自身の話でもあるようです。過去にあった家族の確執は直接スクリーンでは語られないが、それは必要なかったからだと監督、お互い傷を負っているということで十分であるということです。したがって観客はそれぞれ想像力を要求されるわけで、観客によって印象が変わるということかもしれません。

(ポスター左から、ナタリエ・ポサ、フアン・ディエゴ、ロラ・ドゥエニャス)
“No sé decir adiós”(“Can't Say Goodbye”)2017
製作:Lolita Films / White Leaf Producciones
監督・脚本・製作者:リノ・エスカレラ
脚本(共)・製作者:パブロ・レモン
音楽:パブロ・トルヒーリョ
撮影:サンティアゴ・ラカRacaj
編集:ミゲル・ドブラド
美術:ファニー・エスピネテEspinet
キャスティング:トヌチャ・ビダル
メイクアップ・ヘアー:アンナ・ロシリョ
プロダクション・マネージメント:ダミアン・パリス、マムエル・サンチェス・リャマス
製作者:ロサ・ガルシア・メレノ、セルジイ・モレノ、(エグゼクティブ)ダミアン・パリス
データ:スペイン、スペイン語・カタルーニャ語、2017年、ドラマ、96分、製作資金約600.000ユーロ、撮影地アルメリア、バルセロナ、ジローナ、期間4週間、公開スペイン5月18日
映画祭・映画賞:マラガ映画祭2017正式出品、審査員特別賞、脚本賞、女優賞、助演男優賞、審査員スペシャル・メンション他受賞
キャスト:ナタリエ・ポサ(カルラ)、フアン・ディエゴ(父ホセ・ルイス)、ロラ・ドゥエニャス(ブランカ)、ミキ・エスパルベ(セルジ)、パウ・ドゥラ(ナチョ)、オリオル・プラ(ココ)、マルク・マルティネス(マルセロ)、ノア・フォンタナルス(イレネ)、エミリオ・パラシオス(ダニ)、グレタ・フェルナンデス(グロリア)、ハビ・サエス(医師)、セサル・バンデラ(看護師)、ブルノ・セビーリャ(看護師)他
プロット:人生のエピローグは、早かれ遅かれ誰にも訪れる。しかし「どうして今なの?」「どうして私の父親なの?」、まだ娘には心の準備ができていない。バルセロナで暮らすカルラは、数年前故郷アルメリアを後にして以来帰っていない。姉妹のブランカから突然電話で父ホセ・ルイスの末期ガンを知らされる。カルラは子供時代を過ごした家に飛んで帰ってくる。医師団は父の余命が数か月であると家族の希望を打ち砕くが、カルラには到底受け入れられない。失われた時を取り戻すかのように、バルセロナで治療を受けさせようと決心して準備に着手する。父は自分を取りまく状況を知らないでいたい。父に寄り添ってきたブランカは、現実を直視できないカルラと対立する。より現実的なブランカの目には、コカインを手放せないカルラが現実逃避をしているとしかうつらない。どうしようもない別れに解決策は存在しない。ただいたずらに時間だけが走り去っていくだけである。
痛みを前にして身を守るメカニズム
★42歳というリノ・エスカレラ監督の長編デビュー作。脚本推敲に7年の歳月を掛けたという。コンビで脚本を執筆したパブロ・レモンとは2009年に出会った。ちょうど短編 ”Elena quiere”(07、19分)が完成した後で次作の構想を模索していた時期だったという。Max Lemckeの ”Casual Day” を見て脚本がとても良かったので接触した。同作はフアン・ディエゴやルイス・トサールが出演した話題作、2008年のシネマ・ライターズ・サークル賞の作品・監督・脚本・主演男優・助演男優の5冠を受賞している。「最初の構想は肉体的な病に冒されている父と精神的な病をもつ娘の話だった。それをこのように膨らませてくれたのはパブロのお蔭です。自分一人では到底できなかった」と語っている。「パブロはスペインの優れた脚本家の一人」と篤い信頼を寄せている。

(左から、パブロ・レモン、リノ・エスカレラ、プレス会見にて)
*シネヨーロッパのインタビューを要約すると、「アルメリアを舞台にしたのは、製作費が節約できること以外に、以前短編を撮って気に入っていたからだが、この小さな町は登場人物の家族にぴったりの美しい景色だったことです。カタルーニャのスタッフたちも受け入れてくれて、他にバルセロナやジローナでも撮影した。意思疎通が難しい家族は現在では珍しくないこと、そういうテーマを掘り下げることに関心があったことが根底にある」と語っていた。この家族が特殊なケースではなく、どこの家族も抱えている問題が観客に受け入れられたのではないか。2002年に短編デビュー、過去に5編ほど手掛けている。うち前出の ”Elena quiere” がアルメリア短編映画祭、イベロアメリカ短編映画祭に正式出品、後者でビクトル・クラビホが男優賞を受賞した。同作はYouTubeで鑑賞できる。
★カルラを演じたナタリエ・ポサ(1972、マドリード)は、「彼女は深い傷を抱えて自己否定のなかで生きている。窒息しそうな自分を仕事に追いやり、コカインやアルコールで麻酔をかけている」と分析している。問題は父親の病気にあるのではなく彼女自身の中にある、ということでしょうか。ナタリエ自身も8年前に父親をガンで見送っている。「脚本を読むなり眩暈がした。自分が体験したことが書かれていたからです」と語っている。突然の死で「さよなら」の準備ができていなかったが、本作に出演したことでもう一度「さよなら」の過程を体験したようです。現実にある病院で本物の医者や患者に囲まれて撮影された。「脚本は完璧でコンマ一つ変えなかった」とナタリエ。「私のような年齢になって、自分の経験やパッションが生かされるような類まれな美しい脚本にめぐり合えることは滅多にあることではありません」と、幸運なめぐりあわせをかみしめている。これがハリウッドなら女性の40代は90歳の老婆です。

(セルジ役のミキ・エスパルベ、カルラ役のナタリエ・ポサ、映画から)
*テレビ界で活躍の後“El otro lado de la cama”(02)で映画デビュー、マルティン・クエンカの“La flaquesa del bolchevique”に出演。ゴヤ賞ノミネートはダビ・セラーノの“Días de fútbol”(03)で助演女優賞、マヌエル・マルティン・クエンカの“Malas temporadas”(05『不遇』)で主演女優賞、マリアノ・バロソの“Todas las mujeres”(13)で助演女優賞があるが受賞はない。守りに入らない演技派女優です。すべて未公開なのが残念です。 最近アルモドバルの『ジュリエッタ』、来月公開のセスク・ゲイの『しあわせな人生の選択』などに脇役で出演している。前述したように “No sé decir adiós” で銀のビスナガ女優賞を受賞した。
★ブランカ役のロラ・ドゥエニャス(1971、バルセロナ)は、診断の結果を受け入れ、父亡き後の心の準備を始める。カルラとは正反対のリアクションを起こす。カルラのように都会に逃げ出さず、小さな町に止まって父を見守ってきたブランカには、カルラの知らない辛い人生があった。日本デビューは群集劇『靴に恋して』の他、代表作としてアメナバルの『海を飛ぶ夢』とアントニオ・ナアロ他の ”Yo, también” でゴヤ賞主演女優賞を2回受賞している。アルモドバル作品として『トーク・トゥ・ハー』『ボルベール』『抱擁のかけら』など他多数。アルモドバル作品の出演が多いことから、ナタリエ・ポサより認知度は高いようです。

(父ホセ・ルイス、カルラ、ブランカ、映画から)
★父親ホセ・ルイス役のフアン・ディエゴ(1942、セビーリャ)は、「私たち出演者は、生と死と愛の脚本を前にしていた。これは言わば現実を超越している映画です。私にとって一番重要なことはただ語ることではなく、どのように語るかです。だって死はいつかは誰にも訪れてくるからね」と語っています。当ブログでは、フアン・ディエゴについては贔屓俳優として度々登場させています。
*マラガ映画祭2014、及びキャリア紹介は、コチラ⇒2014年4月21日/4月11日
*スペイン映画アカデミー「金のメダル」受賞の記事は、コチラ⇒2015年8月1日

(父親役のフアン・ディエゴ)
★来年のゴヤ賞2018に絡みそうなこと、お気に入りの俳優が出演しているということでご紹介いたしました。なおIMDbのコメント欄に “Todo saldrá bien” のパクリという酷評が載っていますが、これはヴィム・ヴェンダースの3D映画『誰のせいでもない』(“Every Thing Will Be Fine” スペイン題 “Todo saldrá bien”)とは別の作品です。2016年に公開されたヘスス・ポンセ作品(ここでは父親でなく母親)です。予告編を一見した印象では似ていると感じました。
サルバドル・ダリと妹の確執を描いた"Miss Dali"*ベントゥラ・ポンス新作 ― 2017年06月29日 11:52
画家サルバドル、妻ガラ、妹アンナ・マリアの確執を描いた現代版「ギリシャ悲劇」
★ダリの「娘」を主張するピラル・アベルさんの申立てにより、「マドリード裁判所、DNA鑑定のためサルバドル・ダリの遺体掘り起しを命令」(6月26日)には、さすがのダリも彼の世でびっくりしていることでしょう。当然、ダリ財団が掘り起し阻止を上訴する意向ですから、泥仕合が続きますね。これとは全く関係ありませんが、ベントゥラ・ポンスの新作 “Miss Dali”(2017、90分)がクランクアップ、秋にはスペイン公開がアナウンスされました。ダリの4歳下の妹アンナ・マリア(1908~89)を主人公に画家との長年にわたる確執を描いた現代版「ギリシャ悲劇」です。今年の3月27日に、ダリ家の別荘があるカダケスでクランクイン、本格的には5月29日から6月にかけて撮影された。画家が滞在したニューヨークは、雰囲気が似ているジローナ県で行われたようです。物語は1920年代から兄妹が亡くなる1989年までが語られる。

★サルバドル・ダリ(1904~89、フィゲラス)自身についての著作や映画は、既に幾つも存在していますが、その妹についてはそれほど知られていません。主人公ミス・ダリを演じる英国女優シアン・フィリップス(1933、ウェールズ、『デューン砂の惑星』)でさえ「脚本が届くまでダリに妹がいるなんて知りませんでした。しかしカダケスに来てみて、それとなく疑問が解けたように感じました」。構想4年、本作執筆のため自伝を含め23冊のダリ関連本を読んだというポンス監督も、同じ小さな町に40年間も住みながら口を利かず他人同然だったという兄妹の壮絶な関係に現代版「ギリシャ悲劇」を感じたようです。クレア・ブルーム(1931、ロンドン、『英国王のスピーチ』)が演じたアンナ・マリアの親友マギーだけが実在の人物ではなくフィクションだそうです。アンナ・マリアが一時期英国に留学していたとき知り合った友人に想定したようです。ということで英国のベテラン女優二人が主役に起用されました。

(アンナ・マリア役のシアン・フィリップスとマギー役のクレア・ブルーム)

(ダリ家が夏の別荘として所有していたジローナ県カダケスで撮影中の二人)
★アンナ・マリアは画家、その友人たちロルカやブニュエルの最初のミューズであり親友だったという。もともと夢見がちな少女だったというアンナ・マリアの幸せな青春時代は市民戦争でもろくも終わりを告げました。フランコ軍のスパイという容疑をかけられ誤って逮捕、収監、拷問を受けたトラウマが尾を引いていたこと、ポール・エリュアールと妻ガラがカダケスに現れ、ダリとガラの距離が急速に狭まったこと、ガラが夫を捨て画家のもとに走ったことなどが重なって拍車がかかったようです。謎に包まれた義姉ガラへの根深い嫉妬心は広く知られたことであるが、彼女の出現で兄の寵愛を失った打撃は大きかったようです。映画ではどのように描かれるのでしょうか。40年間フィゲラスで暮らしながら絶交状態だったという兄妹、アンナ・マリアは兄が1989年鬼籍入りした数か月後に後を追うように旅立った。

(芸術家たちのミューズだった頃の画家とアンナ・マリア、1920年代)

★詳しいキャストの全体像が見えてきていませんが、若い頃のアンナ・マリアをミランダ・ガスが、少女時代をベルタ・カスタニェ、エミリア・ポメスをポンス映画の常連メルセ・ポンスなど、過去にポンス映画の出演者が占めています。本作の言語はカタルーニャ語と英語ということで、バルセロナ派がキャストの大方を占めています。エミリア・ポメスは、アンナ・マリアの世話をしていた女性で生存しています。ダリの芸術作品やカダケスにあるEs Llané Granの別荘を相続しています。この夏の別荘にはロルカが1925年から3年間続けて訪れていました。当時の詩人のミューズがアンナ・マリアだったと言われています。

(ロルカとダリ、カダケスの夏の別荘、1927年夏)

(左から、エミリア・ポメス役のメルセ・ポンス、シアン・フィリップス、映画から)
★他にアナウンスされている男性キャストのうち、サルバドル・ダリを演じるエクトル・ビダレス、ガルシア・ロルカ(キム・アビラ)やルイス・ブニュエル(アルベルト・フェレイロ)、ポール・エリュアール(ティモシー・コーデュクス)など、妻ガラを誰が演じるのか気になりますが、まだIMDbにはアップされておりません。今回はアウトラインだけのご紹介です。

(クレア・ブルーム、監督、シアン・フィリップス)
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