アルベルト・セラ、ロカルノ映画祭で金豹賞に輝く2013年08月25日 14:18

★スペインの受賞者としては初めての快挙。受賞作は彼の長編7作目になる“Historia de la meva mort”2013、西仏合作、原題はカタルーニャ語です(西題“Historia de mi muerte”、英題“Story of My Death”)。7作も撮っているのに日本には紹介されていないけど、シネマニアの間ではコアなファンが多い。ロカルノは実験的な映画にシフトしている映画祭だと思うが、日本での受賞者が小林政宏の『愛の予感』(2007)だと聞けば納得していただけるかな。本作の前評判は★★★★☆と上々で受賞の予感がありました。

★プロットの前にAlbert Serraの経歴をちょっと。1975年カタルーニャ州ジローナ県のバニョラス生れ。1992年バルセロナ・オリンピックの際にバニョラス湖が漕艇競技の会場になったところ。バルセロナ大学では哲学と比較文学を専攻。“Crespia, the Film not the Village”(2002)でデビュー。第2作“Honour of the Knights (Quixotic)”(2006、西題“Honor de cavalleria”、つまり騎士物語ドン・キホーテがテーマ。こちらは2007年『カイエ・デュ・シネマ』のベストテン入りを果たしました。最も話題になったのが“El cant dels ocells”(2008、英題“Bard Song”、西題“El canto de los pajaros”)、カンヌがワールド・プレミア、受賞こそしなかったがロカルノのコンペにも選ばれた。だから今回受賞の下地は出来ていたのかもしれない。また2009年から始まった「ガウディ賞」の最優秀作品賞にも選ばれたのでした。

★ストーリー:18世紀のヴェネツィア人、女性遍歴によって知られるジャコモ・カサノヴァの人生最後の日々が語られる。合理主義者のカサノヴァが新しい召使を雇い、放蕩の限りを尽くした18世紀風のシャトーを後に旅に出る。永遠のパワーをもつドラキュラ伯爵のロマン主義的、暴力的、秘教的な新しい力に直面してカサノヴァのハイソサエティな世界は破綻する。抽象的で哲学的な要素がミックスされたプロットのようですね。カサノヴァの旅は148分にもおよぶ長尺なもの、勿論タイトルはカサノヴァの『我が生涯の物語』(“Histoire de Ma Vie”邦題『カサノヴァ回想録』)に合わせたのでしょうね。

★セラによると、18世紀の合理主義的な啓蒙運動の時代は、合理主義的な考えが幅を利かしている今のヨーロッパ社会に似ているという。ヨーロッパはますますドラキュラ的な暗い方向に向かって行くと感じるとも。こういう大賞を貰うと次回作は、「行儀がよくなって高額な大作になりがちだけど、皆さんご心配なく、次回作はこれ以上にクレイジーなものになるはずだから」ですと。
(写真:金豹を手にしたアルベルト・セラ)

新喜劇の旗手ダニエル・サンチェス・アレバロ2013年08月25日 14:27

★ジャンルとしてスペインのコメディは成功例が多い。彼の場合、名前よりデビュー作『漆黒のような深い青』(2006)とか、近くは第3作『マルティナの住む町』(2011)を撮った監督と言ったほうが分かりやすいかもしれない。二つともラテンビートで上映され、2作目となる『デブたち』も「2009スペイン映画祭」で紹介されたから、かなり幸運な人です。第1作はゴヤ賞新人監督賞受賞を筆頭に、国内のマラガに止まらず世界の映画祭ヴェネチア、シカゴ、ストックフォルム、トゥールーズと、高い評価を受けた作品でした。

★次回作は、“Paracuellos”というカルロス・ヒメネスの人気コミックの映画化がアナウンスされていましたが違いました。製作もヒット作を量産しているフェルナンド・ボバイラが責任者のMad Produccionesに決定していたのにね。コミックはスペインでも下降線を描いていますから頓挫したのかもしれません。

★第4作となる“La gran familia espanol”(英題“Family United”)の本国公開が9月13日と目前に迫り話題になっています。負け組5人兄弟(一人は欝病、もう一人は身体障害者、ほかの一人は知恵遅れ・・・)のミクロな世界を描きながら、今やEUのお荷物となっているスペインの、嘘でかためた社会が抱えるマクロな問題にメスを入れているようです。彼自身16年間も精神分析を受けている思惑の人だから、書くことで克服しようとしたようです。1970年生れということは年齢的に難しい時期に差しかかっているのかもしれません。背景にはハリウッドの古典、ブロードウェイでもロングランしたスタンリー・ドーネンの『掠奪された七人の花嫁』(1954)への目配せがあるということです。

★キャストは、今年4月惜しくも鬼籍入りしたビガス・ルナの『女が男を捨てるとき』(2006)やイシアル・ボジャインの“Katmandu”で主役を演じたベロニカ・エチェギ(カトマンズ入りしての過酷な条件下の撮影にカルチャーショックを受けた由)。ビガス・ルナのは日本ではクソミソだったが理解されにくいのが残念です。こちらは劇場未公開作品ですが、2012年セルバンテス文化センター土曜映画会で上映されました。男性陣は監督が「義兄ちゃん」と呼んで義兄弟同然のアントニオ・デ・ラ・トーレ(4作オール出演)、『デブたち』以外出演したキム・グティエレス、今年スクリーンで見られたら嬉しい映画の一つ。
(写真:ダニエル・サンチェス・アレバロ)