アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、黒澤明賞*東京国際映画祭2022 ⑦2022年11月01日 11:47

        アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ――黒澤明賞受賞と記者会見

   

      

       (黒澤明賞のトロフィーを手にしたアレハンドロ・G・イニャリトゥ)

 

1029日、14年ぶりに復活した「黒澤明賞」の授賞式が帝国ホテルであり、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ深田晃司の両監督が受賞しました。当ブログ関連記事として前者イニャリトゥ監督の記者会見(YouTube)も合わせてアップしておきます。TIFFに詳しい記事が掲載されております。

 

★イニャリトゥ監督のキャリア&フィルモグラフィーは既に紹介済みなので割愛します。当映画祭との関りは、デビュー作『アモーレス・ぺロス』99)が第13TIFF 2000でグランプリ & 監督賞の2冠を制したときから始まった。まだ本部が渋谷のオーチャードホールにあった頃、映画館から観客の足が遠のき始め映画祭も深刻な岐路に立たされていた時代でした。幸運だったのは既にカンヌ映画祭併催の「批評家週間」でグランプリを受賞、下馬評でも先頭を走っていたから、ほぼ予想通りの受賞でした。第1話の主役、期待のガエル・ガルシア・ベルナルの来日はなかったものの、第3話の主役エミリオ・エチェバリアを迎えることができた。審査委員長が『ブリキの太鼓』(79)でパルムドールを受賞したフォルカー・シュレンドルフだったことも幸いしたかもしれない。2009年には、今度は自らがコンペティション部門の審査委員長を務めるために来日した。

 

★記者会見の監督によると、黒澤映画では『羅生門』は『アモーレス・ぺロス』に、『生きる』はBIUTIFUL ビューティフル』に、『七人の侍』『乱』は『レヴェナント 蘇えりし者』に大きな影響を与えたと語っていた。詳しくはTIFFのイベントレポート、トーク(45分)がアップされている。

 

     

        (黒澤監督〈愛〉を熱弁するアレハンドロ・G・イニャリトゥ)

 

★ガラ・セレクション上映となった『バルド、偽りの記録と一握りの真実』は、第79回ベネチア映画祭のコンペティション部門にノミネートされたほか、第70回サンセバスチャン映画祭ペルラス部門、第20回の節目をむかえたモレリア映画祭(1022日~29日)のオープニング作品に選ばれている。それぞれ合間をぬって監督以下キャスト&スタッフが現地を訪れている。監督は日程がTIFFと重なっていたモレリアFFのオープニングを済まして東京入りしたようです。

『バルド、偽りの記録と一握りの真実』の作品紹介は、コチラ20220908

   

     

     (監督、ヒメネス・カチョ以下出演者と。サンセバスチャン映画祭2022

 

★自伝的な要素を含む最新作のタイトルに使用したバルドは、「チベット仏教用語で自分のアイデンティティの置き場がない」という意味の由、また「バイオグラフィというものを信用していない、嘘や偽善的な内容が含まれていたりして、結局、真実とは何かという問いになる」。また「記憶には真実が抜け落ちるからだ」と、もっともな返答でした。記憶は当てになりません、記憶しておきたくないものは忘れる、または別の話に塗り替えてしまうということでしょう。「フィクションにすることで真実をより昇華でき、高みに持っていけるし、隠れているものを炙り出せる。現実と空想の垣根を漂う作品であり、内省的な作品になった」と語っている。

 

★製作で大切なことは「キャスティングを間違えないこと、形容詞ではなく動詞で考えること、俳優と共通言語をもつこと」と答えていました。また観客へのサジェスチョンには、「個人的な視点で撮っていますが、普遍的なテーマ、例えば父性、喪失感、愛、不確実性を描いていて、これはワカモレのような映画です」ということでした。「メキシコと日本は遠く離れていますが、私は日本文化、文学や音楽に親近感をもっていて、坂本龍一さんの音楽は私の人生のサウンドトラックのようなものです。『レヴェナント』で仕事ができて光栄に思いました」と。文学では松尾芭蕉、三島由紀夫、村上春樹、監督では小津、溝口、エトセトラ、の名を挙げていました。

  

ワカモレはアボカドをメインに唐辛子、トマト、タマネギ、コリアンダーに塩レモンを加えて作られたメキシコ料理のサルサの一種、トルティーヤチップスと一緒に食べることが多く、語源はナワトル語でワカ(アボカド)モレ(ソース)。

 

★ワカモレ映画『バルド、偽りの記録と一握りの真実』は、劇場公開後、1216日からNetflixで配信が開始されます。