J・A・バヨナの新作「怪物はささやく」*トロント映画祭ガラコレクション2016年08月02日 18:37

          第41回トロント映画祭201698日から18日まで

 

フアン・アントニオ・バヨナの新作A Monster Calls(仮題「怪物はささやく」米=西)が、サンセバスチャン映画祭に先駆けて開催される「トロント国際映画祭2016」でワールド・プレミアされることが発表になりました。本映画祭は非コンペティションですから審査員はおりません。「ガラコレクション」(19本)の中から選ばれた観客賞が事実上のグランプリとなります。米国に近い地の利をうけて本映画祭の人気度がオスカー賞に繋がることも多く、その後を左右することもあります。バヨナ監督の前作『インポッシブル』(2012)もトロントがワールド・プレミアでした。ガラコレクションにはこれ1作だけ、見落としがあるかもしれませんが、ラテンアメリカ諸国の作品は見当たりませんでした。

 

   

          (モンスターとコナー少年、“A Monster Calls”から)

 

シガニー・ウィーバーがサンセバスチャン映画祭2016の「栄誉賞」受賞の記事をアップしたばかりですが、トロントなら近くですからプロモーションに駆けつけるのではないか。栄誉賞の授賞式は本作上映の921日ですから日にち的には可能です。

シガニー・ウィーバー「栄誉賞」受賞の記事は、コチラ⇒2016722

 

★「スペシャル・プレゼンテーション」(49作)に、当ブログのカンヌ映画祭2016「監督週間」でもご紹介した、パブロ・ラライン“Neruda(仮題「ネルーダ」チリ=アルゼンチン=西=仏)が選ばれています。もう1本がヴェルナー・ヘルツォークSalt and Fire(独=米=仏=メキシコ)、英語映画ですが製作国にメキシコが参加、「ネルーダ」にも出演しているガエル・ガルシア・ベルナルが重要な役柄で出演しています。

Neruda”の監督・キャスト・物語の紹介記事は、コチラ⇒2016516

 

   

             (ネルーダになったルイス・ニエッコ)

 

ベネチア映画祭2016のノミネーションも発表され、こちらにもパブロ・ララインの新作Jackie(「ジャッキー」)がノミネートされていました。ナタリー・ポートマンがジャクリーンを演じます。他にピーター・サースガードがロバート・ケネディ、キャスパー・フィリップ(Caspar Phillipson)がジョン・F・ケネディになるようで、結構ソックリさんです。彼は1971年デンマーク生れの舞台俳優、主にミュージカルで活躍している。デンマークではハリウッド進出が話題になっているようです。英語映画ですからいずれ公開されるでしょう。

 

       

          (キャスパー・フィリップとナタリー・ポートマン)


グアダラハラ映画祭2016*ロベルト・スネイデルの新作2016年03月22日 13:37

        『命を燃やして』の監督作品“Me estás matando, Susana

 

グアダラハラ映画祭2016に出品されたコメディMe estás matando, Susana、次のゴールデン・グローブ賞の候補になったので前回ほんの少しだけ記事にいたしました。ロベルト・スネイデル監督は当ブログ初登場ですが、アンヘレス・マストレッタのベストセラー小説の映画化Arráncame la vidaがラテンビート2009『命を燃やして』2008)の邦題で上映された折り来日しています。新作は約30年前に刊行されたホセ・アグスティンの小説Ciudades desiertas1982)に触発され、タイトルを変更して製作された。ランダムハウス社が映画公開に合わせて再刊しようとしていることについて、「タイトルを変えたのに、どうしてなのか分からない。出版社がどういう形態で出すか決まっていない」とスネイデル監督。製作発表時の2013年には原題のままでしたので、混乱することなく相乗作用を発揮できるのではないか。原作者にしてみれば大いに歓迎したいことでもある。刊行当時から映画化したかったが、他の製作会社が権利を持っていてできなかった。「そこが手放したので今回可能になった」とグアダラハラFFで語っている。 

    

       

            (Me estás matando, Susana”のポスター)

 

     Me estás matando, Susana2016(“Deserted Cities”)

製作:Cuévano Films / La Banda Films

監督・脚本・製作:ロベルト・スネイデル

脚本(共同):ルイス・カマラ、原作:ホセ・アグスティン“Ciudades desiertas

音楽:ビクトル・エルナンデス

撮影:アントニオ・カルバチェ

編集:アレスカ・フェレーロ

製作者:エリザベス・ハルビス、ダビ・フィリップ・メディナ

データ:メキシコ=スペイン=ブラジル=カナダ合作、スペイン語、2016年、102分、ブラック・コメディ、ジェンダー、マチスモ、フェミニズム。グアダラハラ映画祭2016コンペティション正式出品、公開メキシコ201655

 

キャスト:ガエル・ガルシア・ベルナル(エリヒオ)、ベロニカ・エチェギ(スサナ)、Jadyn・ウォン(アルタグラシア)、ダニエル・ヒメネス・カチョ(編集者)、イルセ・サラス(アンドレア)、アシュリー・ヒンショウ(イレーネ)、アンドレス・アルメイダ(アドリアン)、アダム・Hurtig 他

 

解説:カリスマ的な俳優エリヒオと前途有望な作家スサナは夫婦の危機を迎えていた。ある朝のこと、エリヒオが目覚めると妻のスサナが忽然と消えていた。スサナは自由に執筆できる時間が欲しかったし、夫との関係をこれ以上続けることにも疑問を感じ始めていた。一方、自分が捨てられたことを知ったマッチョなエリヒオは、妻が奨学金を貰って米国アイオワ州の町で若い作家向けのプログラムに参加していることを突き止めた。やがてエリヒオも人生の愛を回復させようとグリンゴの国を目指して北に出発する。

 

ロベルト・スネイデルのキャリアとフィルモグラフィー

ロベルト・スネイデルRobberto Sneider1962年メキシコ・シティ生れ、監督、製作者、脚本家。フロリダの大学進学予備校で学んだ後のち帰国、イベロアメリカ大学でコミュニケーション科学を専攻、後アメリカン・フィルム・インスティテュートで学ぶ。1980年代は主にドキュメンタリーを撮っていた。21年前の1995年、Dos crimenesで長編映画デビュー、メキシコのアカデミー賞アリエル賞新人監督賞を受賞した。ホルヘ・イバルグェンゴイティアの同名小説の映画化、ダミアン・アルカサル主演、ホセ・カルロス・ルイス、ペドロ・アルメンダリス、ドロレス・エレンディアなどが共演した話題作。第2作目Arrancame la vida08『命を燃やして』)、第3作目が本作である。

 

 

      (ロベルト・スネイデル監督)

 

20年間に3本という寡作な監督だが、1999年に製作会社「La Banda Films」を設立、プロデューサーの仕事は多数。日本でも公開されたジュリー・テイモアの『フリーダ』02、英語)の製作を手がけている。製作者を兼ねたサルマ・ハエックの執念が実ったフリーダだった。画家リベラにアルフレッド・モリーナ、メキシコに亡命していたトロツキーにジェフリー・ラッシュ、画家シケイロスにアントニオ・バンデラスが扮するなどの豪華版だった。

 

       

             (サルマ・ハエックの『フリーダ』から)

 

         マッチョな男の「感情教育」メキシコ編

 

ホセ・アグスティンの原作を「メキシコで女性の社会的自由を称揚したアンチマチスモの最初の小説」と評したのは、スペイン語圏でもっとも権威のある文学賞の一つセルバンテス賞受賞者のエレナ・ポニアトウスカだった。原作の主人公はスサナだったが、映画では焦点をエリヒオに変えている。スネイデルはエリヒオの人格も小説より少し軽めにしたと語っている。何しろ30年以上前の小説だからメキシコも米国も状況の変化が著しい。合法的にしろ不法にしろメキシコ人の米国移住は増え続けているし、男と女の関係も変化している。原作者もそのことをよく理解していて、「映画化を許可したら、どのように料理されてもクレームは付けない。小説と映画は別の芸術だから」、「既に監督と一緒に鑑賞したが、とても満足している。メキシコ・シティで公開されたら映画館で観たい」とも語っている。

 

 

                 (原作のポスター)

 

★ボヘミアンのマッチョなメキシコ男性に扮したガエル・ガルシア・ベルナル、メキシコでの長編劇映画の撮影は、なんと2008年のカルロス・キュアロンの『ルドandクルシ』(監督)以来とか。確かに英語映画が多いし、当ブログ紹介の『NO』(パブロ・ラライン)はチリ映画、『ザ・タイガー救世主伝説』(“Ardor”パブロ・ヘンドリック)はアルゼンチン映画、ミシオネス州の熱帯雨林が撮影地だった。堪能な英語のほかフランス語、ポルトガル語もまあまあできるから海外からのオファーが多くなるのも当然です。米国のTVコメディ・シリーズMozart in the Jungle”出演でゴールデン・グローブ賞主演男優賞を受賞したばかりです。スネイデル監督は、「私だけでなく他の監督も語っていることだが、ガエルの上手さには驚いている。単に求められたことを満たすだけでは満足せず、役柄を可能な限り深く掘り下げている」と感心している。物語の中心をエリヒオに変えた一因かもしれない。どうやらマッチョなメキシコ男の「感情教育」が語られるようです。

 

★スサナ役のベロニカ・エチェギ:日本ではガエルほどメジャーでないのでご紹介すると、1983年マドリード生れ。日本公開作品はスペインを舞台に繰り広げられるアメリカ映画『シャドー・チェイサー』(2012)だけでしょうか。スペイン語映画ではビガス・ルナの『女が男を捨てるとき』(06Yo soy la Juani”)、アントニオ・エルナンデス『誰かが見ている』(07El menor de los males”)、エドゥアルド・チャペロ=ジャクソン『アナザーワールド VERVO』(11Verbo”)などがDVD発売になっています。Yo soy la Juaniでゴヤ賞新人女優賞の候補になって一躍注目を集めた。今は亡きビガス・ルナに可愛がられた女優の一人です。邦題を『女が男を捨てるとき』と刺激的にしたのは、如何にも売らんかな主義です。イシアル・ボリャインのKatmandú, un espejo en el cielo12)でゴヤ賞主演女優賞にノミネートされた。実話を映画化したもので、カトマンズで行われた撮影は過酷なもので、実際怪我もしたと語っている。きちんと自己主張できるスサナのような役柄にはぴったりかもしれない。

 

     

       (ベロニカ・エチェギとガエル・ガルシア・ベルナル、映画から)

 

★このようなロマンチック・コメディで重要なのは脇役陣、メキシコを代表する大物役者ダニエル・ヒメネス・カチョを筆頭に、イルセ・サラス(アロンソ・ルイスパラシオスの『グエロス』)、アシュリー・ヒンショウSF映画『クロニクル』)、カナダのホラー映画『デバッグ』出演のJadyn・ウォンなど国際色も豊かである。かなり先の話になりますが、例年10月開催のラテンビートを期待したいところです。

  

グアダラハラ映画祭2016*作品賞はコロンビアの新星フェリペ・ゲレーロ2016年03月19日 21:21

        ドキュメンタリー監督の“Oscuro animal”が独占

 

1月下旬から12日間にわたって開催されるオランダのロッテルダム映画祭2016がワールド・プレミアでした。フェリペ・ゲレーロはコロンビアの監督ですが、数年前からアルゼンチンで編集者として活躍、現在はブエノスアイレス在住、本作Oscuro animalはアルゼンチン、オランダ、ドイツとの合作。彼は長編劇映画こそ初監督ですが、既に高い評価を受けたドキュメンタリー“Corta”(2012)や短編“Nelsa”(2014)を発表しています。ロッテルダム映画祭には他にパラグアイのパブロ・ラマルの第1作“La última tierra”と、ブラジルの若手マリリア・ホーシャ(ローシャ)の“A cidade onde envelheco”が出品されていました。

 

         

             (“Oscuro animal”のポスター)

 

      Oscuro animal2016

製作:Viking Film / Sutor Kolonko / Gema Films / Mutokino

監督・脚本:フェリペ・ゲレーロ

撮影:フェルナンド・ロケットLockett

データ:製作国コロンビア=アルゼンチン=オランダ=ドイツ、スペイン語、2016年、予算約58万ドル、テーマはコロンビア内戦が熾烈だった1990年代のビオレンシア、マチスモ、私設軍隊の恐怖など。

映画祭・受賞歴:ロッテルダム映画祭2016正式出品(129日上映)、グアダラハラ映画祭2016イベロアメリカ作品賞・監督賞・撮影賞・女優賞(下記の3女優が分けあった)を受賞。

キャストマルメイダ・ソト(ロシオ)、ルイサ・ビデス・ガリアノ(ネルサ)、ホセリン・メネセス(ラ・モナ)

 

     

                (映画のシーンから)

 

解説:コロンビアの総ての世代にはびこっている暴力「ラ・ビオレンシア」についての物語。ここではコロンビア内戦で暴力の犠牲者になった3人の女性が登場する。それぞれ異なった動機で、武力衝突で土地を奪われた犠牲者として、私設軍隊パラミリタリーの殺人的猛威や普遍的なマチスモを逃れて、大量殺戮や無差別的な不正行為の恐怖から国内難民として都会に逃れて行く女性たちの物語。内戦が沈静化した現在でも知られることもなく深い傷跡を抱えたままの人生、しかしささやかな希望をもって立ち上がろうとする女性たちの物語でもある。

 

     

                 (映画のシーンから)

 

フェリペ・ゲレーロFelipe Guerrero1975年コロンビア生れ、監督、編集、脚本、製作。1995年ボゴタのCine y Fotografía de la Escuela de Cine Unitecで科学技術者の学位を得る。4年後ローマの映画撮影実験センターCSCで編集資格修了証書を取得し、映画界には編集者として出発している。東京国際映画祭2014で上映された同胞オスカル・ルイス・ナビアの『ロス・ホンゴス』(2014)や“El vuelco del cangrejo”(2009)の編集に携わっている。

『ロス・ホンゴス』の記事は、コチラ⇒20141116

 

★監督としては1999年短編Medellínでデビュー、Duende2002)はローマのドキュメンタリー・フェスティバルで審査員佳作賞を受けた。2006年コロンビアの映画振興基金FDCを受けたドキュメンタリーParaísoで、各国際映画祭、マルセーユで特別メンション、バルセロナで実験ドキュメンタリー賞ほか、翌年コロンビア文化省からドキュメンタリー国民賞栄誉メンションを受けている。上記のCortaもコロンビアの FDCを受けて製作されたドキュメンタリー。ロッテルダムFFに出品され、同映画祭のヒューバート・バルス基金も獲得した。続いて国際映画祭マルセーユ、ブエノスアイレス、ロカルノで上映、スペインのMargenes映画祭では審査員特別メンションを受賞している。コロンビアの FDCの他、IBERMEDIAプロジェクト基金も受けている。

 

★短編Nelsaは、カルタヘナ短編映画祭上映、ボゴタ短編映画祭では女優賞・編集賞ポスター賞を受賞した。本作もコロンビアの FDCを受けて製作され、コロンビア政府の経済的援助が成果を生んでいる。このことについてはコロンビア映画躍進を語るおりに当グログでは度々触れてきております。東京国際映画祭2015上映のセサル・アウグスト・アセベドの『土と影』(カンヌFFカメラ・ドール他4賞受賞)、カンヌ映画祭のチロ・ゲーラの『大河の抱擁』(アカデミー賞外国語映画賞ノミネーション)も同基金を受けて製作されました。詳細は以下の関連記事をご参照ください。

セサル・アウグスト・アセベドの『土と影』に関する記事は、コチラ⇒20151031

カンヌ映画祭2015出品のコロンビア映画の記事は、コチラ⇒2015519527

チロ・ゲーラ『大河の抱擁』の記事は、コチラ⇒2015524

 

★「ビオレンシアの意味はここコロンビアでは複雑で一言では説明できない。映画では3人の女性たちに語ってもらった」と監督。しかしセリフは極力おさえた。重要なのはセルバの自然音に語らせることだったからだそうです。このテーマで撮ろうとしたきっかけは、国際アムネスティやヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書を読んで刺激されたこと。現在難民となって国内を流浪している人々に直接インタビューも行った。結果的には観客に多くの痛みを与える辛い仕事になった。しかしスクリーンで語られたことは、コロンビアの1980年代、90年代に実際に起こっていた苦しみであったとロッテルダムで語っていました。

 

   

   (プレス会見でインタビューを受けるゲレーロ監督、ロッテルダム映画祭2016にて)

 

★最優秀撮影賞受賞のフェルナンド・ロケットは、ドキュメンタリー映画を数多く手掛けている撮影監督。劇映画としては、マティアス・ピニェイロ(1982、ブエノスアイレス)とタッグを組み、代表作“Viola”(2012)他、“Todos mienten”(09)、“La princesa de Francia”(14)などアルゼンチン映画を撮っている。

 

 

    (撮影監督フェルナンド・ロケットの映像美)

 

3人の女優賞受賞者のうちマルメイダ・ソトは、『土と影』で嫁のエスペランサを演じた女優、唯一人のプロの女優として起用されていました。ルイサ・ビデス・ガリアノホセリン・メネセスは、IMDbによれば今回が初出演のようです。

 

    

   (最優秀女優賞のトロフィーを手にしたホセリン・メネセス、グアダラハラ映画祭)

 

    *グアダラハラ映画祭の他の受賞作・受賞者

La 4a. Compañía(メキシコ):共同監督アミル・ガルバン&バネッサ・アレオラ、初監督賞、審査員特別賞、男優賞にアドリアン・ラドロン、次のゴールデン・グローブ賞候補に推薦されることが決定された。また本映画祭と並行して行われるプレスが選ぶ「ゲレーロ賞」も受賞した。

 

             

               (“La 4a. Compañía”から)

 

El charro de Toluquilla(メキシコ):監督ホセ・ビリャロボス、最優秀ドキュメンタリー賞。メキシコ映画黄金期のイコンの一人、歌手で俳優のペドロ・インファンテ(191757)の人生を辿るドキュメンタリー。自ら操縦する自家用飛行機事故で死亡、39歳という若さであった。エイズのキャリアであったことが現在では分かっている。1957年ベルリン映画祭出品の“Tizoc”で男優銀熊賞を受賞している。

 

Me estas matando, Susana(メキシコ=スペイン=ブラジル=カナダ合作):監督ロベルト・スネイデル。ホセ・アグスティンの小説の映画化。ガエル・ガルシア・ベルナルとベロニカ・エチェギ出演のコメディ。“La 4a. Compañía”同様、次のゴールデン・グローブ賞候補に推薦されることが決定された。スネイデル監督は、『命を燃やして』がラテンビート2009で上映されたさい来日している。

 

トロント映画祭2015*ホナス・キュアロンFIPRESCIを受賞2015年09月25日 22:47

         父親は『ゼロ・グラビティ』のアルフォンソ・キュアロン

 

★年々注目を集めるようになった「トロント映画祭TIFF」も40回を数えた。米国の隣りということで地の利もいいので集客力も凄い。審査員を設定せず、つまり観客賞が最高賞です。ここでの受賞はオスカーにも繋がるから一石二鳥というわけです。2008年以来の受賞作7作のうち6作がノミネートされ、内3作がオスカー像を手にした。例えば、2008年の『スラムドッグ$ミリオネア』、2010年の『英国王のスピーチ』、2013年の『それでも夜は明ける』の3作です。これらのデータから、1994年以来TIFFディレクターとCEOを兼ねるピアーズ・ハンドリングは、「国際映画祭として重要性が増し関心を示してもらえることに誇りに感じています」と。さて今年の受賞作“Room”は果たしてどうでしょうか。

 


          (キュアロン父子、『ゼロ・グラビティ』のころの写真)

 

★スペイン語映画の目ぼしいサプライズは、ホナス・キュアロンの長編第2DesiertoFIPRESCI国際映画批評家連盟賞を受賞したことです。1981年、アルフォンソ・キュアロンを父にメキシコ・シティに生れる。監督、脚本家、プロデューサー、フィルム編集、俳優と何でもこなす。長編デビュー作はAño uña2007)、このときの主演女優Eireann Harperと同じ年に結婚している。『ゼロ・グラビティ』の脚本を父と共同執筆、本作には父も製作者の一人に名を連ねている。親の七光りは大いに利用すべしです。

 


データ:メキシコ=フランス合作、スペイン語・英語、2015年、製作(Esperanto Kino / Itaca Films 他)、94分、トロント映画祭(913日)がワールド・プレミア、ロンドン映画祭(1014日)正式出品が決定している。

 

★物語はメキシコから米国へ徒歩での国境越え、いわゆる不法移民がテーマ、主役にガエル・ガルシア・ベルナルを迎えることができた。不法移民のテーマは過去にもあるし多分未来にも途絶えることなく選ばれると思います。それぞれ切り口は異なっても過去のことではなく、目下進行中のテーマだからです。急遽会場に駆けつけたガエル・ガルシア・ベルナル、「1時間前に到着したばかりで、まだふらふらです。しかしここに来られて最高です。この映画はこれからも息長く記憶に残るだろうと思います。移民問題は熟知してる人、それほどでもない人の違いはあっても、皆が知っている焦眉の急だからです。経済的あるいは治安の悪さと理由はいろいろですが、好き好んで国境越えをしているわけではない」とコメント。「どうか移民たちが生活できますように!」と立ち去り際に叫んでいた由。重いテーマですね。

 


   (当日駆けつけてきたGG・ベルナルと喜びのスピーチをする J・キュアロン監督)

 

★その他、ベネチア映画祭監督賞受賞作品、パブロ・トラペロの“El clan「ザ・クラン」が審査員特別メンションを受賞、いわゆる佳作です。この映画についてはベネチア映画祭で記事にしています。


「ザ・クラン」の記事は、コチラ⇒2015年08月07921


マリア・リポルの新作*モントリオール映画祭観客賞受賞作2014年12月18日 18:04

★マリア・リポルのRastros de sándalo (西≂インド≂仏)については、モントリオール映画祭「フォーカス・オン・ワールド・シネマ」部門で上映、観客賞を受賞した折りにごく簡単にストーリーをご紹介しました(コチラ⇒201496)。言語がカタルーニャ語と英語ということで、当ブログには該当しない作品ですが、バジャドリード映画祭Seminciでも上映され話題になったことや、監督並びに原作者アンナ・ソレル・ポントの紹介も兼ねて記事にしました。11月下旬バルセロナ、アリカンテ、マドリードでプレミア上映された後、1128日にスペインで公開、字幕入り上映ではなく吹替えのようです。

 


      Rastros de sándalo”(Traces of Sandalwood

製作Natixis Coficine / Pontas /

監督:マリア・リポル

脚本・プロデューサー・原作:アンナ・ソレル・ポント

音楽:Zeita Montes ゼイタ・モンテス/シモン・スミス

撮影:ラケル・フェルナンデス・ヌニェス

美術:アンナ・プジョル・タウラー

編集:イレーネ・ブレクア

プロデューサー(共同):リカルド・ドミンゴ(西)/マルク・ド・Gouvenain(仏)

データ:スペイン≂インド≂フランス、カタルーニャ語/英語、201495分、同名小説の映画化、撮影地:ムンバイ、ハイデラバード、バルセロナなど、製作費:約180万ユーロ、20141128日スペイン公開、同118日インド・インディペンデント映画祭上映

 

キャスト:ナンディタ・ダス(姉ミナ)、アイナ・クロテット(妹シータ、パウラ)、Naby Dakhil(プラカッシュ)、Subodh Maskara(サンジャイ)、Godeliv Van den Brandt(ニッキ)他

 

ストーリー:母親の死によって、無理やり引き離されたインドの姉妹の物語。30年の時が流れ、今では姉ミナはボリウッド映画の大スターになっている。別れたとき幼かった妹シータのことが片時も頭から離れない。一方、今ではパウラと呼ばれているシータは、自分が養女であることも知らずに、生物学者としてバルセロナで暮らしている。姉の突然のバルセロナ到着は、インドの記憶がないパウラの世界を激しく揺さぶることになる。パウラはインドからの若い移民プラカッシュの助けを借りてアイデンティティ探しの旅に出ることになる。自分が何者であるか知らずに生きることはできるのか、二人の再会はやがて彼女たち自身の内面を探る旅となるだろう。

 

                

            (ムンバイで暮らしていたころの姉妹)

 

★ストーリーは日常を淡々と語る方法で進行するが、さりげなさの中に複雑な感情を織り混ぜ、唯のロマンティック・メロドラマという非難から救い出している。エル・パイス紙のコラムニスト、ハビエル・オカーニャによると、それはリポル監督の素晴らしい撮影技法が甘美なメロドラマ的な欠点を覆い隠しているからだという。また完全なフィクションでありながら、原作者でもある脚本家ソレル・ポントが、インドの伝統文化を守りながらバルセロナで暮らす移民たちの家族の現実をきちんと描いたからだという。そういう緻密な取材がモントリオールの観客を感動させたのかもしれない。有名女優になった姉が、はるばるムンバイからバルセロナに生き別れの妹を探しにくるという、少し突飛なストーリーでありながら、浮足立っていないということでしょうか。オール女性スタッフとは言えないが、殆どが女性という珍しい布陣にも注目したい。

 

                  

             (姉ミナ役のナンディタ・ダス)

 

★“Rastres de sándal”は、比較的低予算で製作されたにしては良質のメロドラマと高評価です。アンナ・ソレル・ポントとAsha Miróが共同執筆したカタルーニャ語の同名小説(2007年刊)の映画化。ムンバイとバルセロナが舞台となり、撮影もインド、バルセロナと3週間ずつ、予算の関係でそれ以上の日数は掛けられなかったとエグゼクティブ・プロデューサーでもあるソレル・ポントは語っている。製作費180万ユーロのうち、バルセロナ自治州政府から7000ユーロの助成金を受けた。それっぽちと言うなかれ、そのお蔭でプロフェッショナルなスクリプト・エディター、コラル・クルスと契約できたとも語っている。

 

★この映画は、リポルの映画というよりソレル・ポントの映画の感が深い。文末の経歴を読んでいただければ、彼女の熱意のほどが分かります。スペインの映画界は男性優位で女性は低く見られてる。これは多くの女性シネアストの一致した声です。カンヌも似たようなものだが、ハリウッドはもっとヒドイ、女優は使い捨てが当たり前ですから。彼女によると「86回を数えるオスカー賞で、女性の監督賞受賞者は『ハート・ロッカー』(2009)のキャスリン・ビグロー唯一人しかいない」と。この第82回アカデミー賞は元夫婦対決として話題になった年、ジェームズ・キャメロンの3D『アバター』が涙を飲んだ授賞式でした。キャスリン・ビグローは、リポルと同じアメリカン・フィルム・インスティチュートAFIで学んでいますね。

 

★姉にナンディタ・ダスNandita Das1969デリー生れ)、妹に“Elisa K”(2010)で主役のエリサを演じたアイナ・クロテットAina Clotetが演じています。ナンディタは役柄と同じボリウッド映画の大スターですが、アイナ・クロテットは金髪のカタルーニャ人、それでも監督はアイナに拘った。当時、彼女はロスの舞台に立っていたのでEメールでやり取りした。監督は「この役はアイナ以外に考えていない」と口説き落としたようです。 それからアイナの猛勉強が始まった。「生物学から養子縁組の制度まで勉強して、撮影に入るまでにマックスの準備をして臨んだ」と語っています。

   

                            

             (妹パウラのアイナ・クロテット)

 

*キャリアとフィルモグラフィー*

マリア・リポルMaria Ripoll1965年バルセロナ生れ、監督、脚本家。ロスアンジェルス・カリフォルニア大学UCLAで演技指導と脚本作法を学んだ後、ロスのアメリカン・フィルム・インスティチュートAFI1967設立)で演出を学ぶ。在籍中の1993年に撮った短編“Kill me later”が、ドイルのオーバーハウゼン映画祭で観客賞を受賞、以後アメリカで映画やテレビの仕事をする。1998年、ロンドンで撮影したコメディ、長編デビュー作となる“The Man with Rain in His Shoes”(Lluvia en los zapatos)が話題になる。2001年、ロスで撮影したロマンティック・コメディ“Tortilla Soup”(英語・西語)、2003年の第3Utopía”は『ユートピア/未来を変えろ。の邦題で公開された。「私の映画では、有名でない俳優を起用することが重要」と語っていたのですが、当時人気絶頂だった『炎のレクイエム』のレオナルド・スバラグリアと『アナとオットー』のナイワ・ニムリが出演した映画でした。

 


スペインが製作国ということもあるのか一番評価の高いのが、第4作“Tu vida en 65 minutos”(2006)。アルベルト・エスピノサ(1973年バルセロナ生れ)の有名な同名戯曲の映画化、「自分が撮れるなんて信じられない」と語っていたリポル監督、映画のキイ・ポイントは、<><>という重いテーマでした。主役はハビエル・ペレイラ、ロドリーゴ・ソロゴジェンの“Stocholm”でゴヤ賞2014の新人男優賞を受賞しましたが、当時はまだ「有名でない俳優」でした。第5作目が本作です。第6作となるラブ・コメディAhora o nuncaが来年の完成を目指して撮影中、来年のゴヤ賞ガラの総合司会者ダニ・ロビラと『解放者ボリバル』で薄命のボリバル夫人を演じたマリア・バルベルデが夫婦役、クララ・ラゴも脇役で出演します。

 

       

     (左から、バルベルデ、ロビラ、ラゴ 進行中の“Ahora o nunca”)

 

アンナ・ソレル・ポントAnna Soler-Pont 1968年バルセロナ生れ、作家、脚本家、プロデューサー。バルセロナ大学でアラビア哲学を学ぶかたわら、出版社で校正の仕事、編集、翻訳などに携わる。199110月、カイロに1ヵ月滞在、尊敬するノーベル賞作家ナギーブ・マフフーズ(191120061988年受賞)と知り合うことができた。エジプトの多くの女性作家たちと知己を得て、彼女たちからヨーロッパへの作品紹介の翻訳を依頼される。バルセロナに帰国すると作家や編集者とのコネクションを求めて、異なった文化の橋渡しに尽力する。

 


19925月、24歳のとき自ら文学仲介業の代理店ポンタスPontas を設立する。パリ、アムステルダム、フランクフルトなどのブック・フェアに参加して、アフリカ、アラブ、アジアの無名の女性作家の作品紹介及び販売に努める。ポンタスは映画やテレビのようなオーディオビジュアルな媒体にも進出して、アニメーションも製作している。これらのビジネス全てを独学で学んだというからその才能とバイタリティには舌を巻く。1992年には、バルセロナからトルコ、クルディスタン、イラン、パキスタンを通ってインドのニューデリーまで車で走破した。これが本作にも大いに役立っている。現在は文学と映画の橋渡しの仕事に力を注いでいる。

 

作品:“Cuentos y leyendas de Africa”(プラネタ社アフリカの短編のアンソロジー

   Rastros de sándalo”(2007プラネタ社アシャ・ミロとの共著、本作の原作

 

 

モントリオール2014*受賞結果⑦2014年09月06日 11:20

モントリオール映画祭2014*受賞結果

★今年は日本映画も審査員特別グランプリに『ふしぎな岬の物語』、監督賞に呉美保(『そこのみにて光輝く』)が受賞するなどダブル・オメデタなモントリオールでした。

 

           (左から、呉監督、吉永小百合、ウルキサ監督)

 

★さてスペイン語映画では、メキシコが賞を独り占めした感のあるモントリオールでしたが、現地はガエル・ガルシア・ベルナル離婚報道のほうが大きかったでしょうか。昨今では結婚も容易ではなくなりましたが、もっと大変なのは長続きさせることですね。

 

★ワールド・コンペティション部門

Obediencia perfecta ルイス・ウルキサがグランプリグラウベル・ローシャ賞のダブル受賞。監督自身も驚いたろうと思いますが、まさか、まさかの受賞でした。最優秀ラテンアメリカ映画に特化したグラウベル・ローシャ賞には一番近いかな、と予想していましたがグランプリとはね。審査委員長セルジョ・カステリット以下の審査員一同に感謝()。作品紹介は最近アップしたばかりです。

⇒コチラ、モントリオール映画祭⑤ 

                       (受賞を喜ぶルイス・ウルキサ監督)

 

ファースト・フィルム部門

Gonzálezクリスティアン・ディアス・パルドが金賞を受賞。

 

Los bañistas”マックス・スニノが国際批評家連盟賞FIPRESCI)を受賞。

 

(一番右側がマックス・スニノ監督)

 

両作品とも⇒コチラ、モントリオール映画祭③にアップ。

 

★今回ご紹介できなかったのがフォーカス・オン・ワールド・シネマ部門、観客賞受賞のマリア・リポルのRastres de sándal(西≂インド)やダニエル・アギーレのInvestigación policialなど、スペイン語映画は10本ほどノミネートされていました。

 

            (マリア・リポル監督)

 

Rastres de sándalの言語はカタルーニャ語と英語です。マリア・リポルは、Utopíaが『ユートピア/未来を変えろ。』(2003)の邦題で公開、DVDも発売されています。当時人気絶頂だった『炎のレクイエム』のレオナルド・スバラグリアと『アナとオットー』のナイワ・ニムリが出演した映画です。受賞作はAsha MiróAnna Soler Pontが共同執筆したカタルーニャ語の同名小説(2007年刊)の映画化のようです。子供のときインドで生き別れになってしまった姉妹、インドで有名になった女優の姉と養女となってバルセロナに住んでる妹の物語。ボンベイとバルセロナが舞台になり、姉にNandita Das1969デリー生れ)、妹にElisa K2010)で主役のエリサを演じたアイナ・クロテットが扮しています。 

                                (映画のワンシーンから)

 

モントリオール映画祭2014*ノミネーション⑥2014年09月04日 12:00

★最後がペルー映画、サイコ・スリラーの要素をもつ政治サスペンス、ジャーナリストのリカルド・ウセダのMuerte en el Pentagonitoに着想を得て製作された。共同監督の二人はともに本作がデビュー作。話題の焦点は、新人監督より主役を演じたベテラン俳優‘Cachin’ことカルロス・アルカンタラにあるようです。ショーマンとしてテレビ界で活躍しています。

 

   ワールド・コンペティション部門(続き)

Perro GuardiánGuard Dogペルー Bacha Caravedo & Chinón Higashionna 監督

製作Señor Z

製作者マピ・ヒメネスロレナ・ウガルテチェ

監督:バチャ・カラベド/チノン・ヒガシオンナ

脚本:バチャ・カラベド

撮影:フェルガン・チャベス・フェレール

音楽:パウチ・ササキ

データ:ペルー、スペイン語、2014、ジャンル(スリラー、陰謀、犯罪)、ペルー内戦、パラミリタール(私設軍隊)、2012年ペルー文化省から企画賞として18万ドルが贈られた。モントリオール映画祭2014ワールド・コンペ正式出品(823日上映)、88分、ペルー公開201494

 


キャストカルロス・アルカンタラ(シカリオのペロ)、レイナルド・アレナス(アポストル)、マイラ・ゴニィ(ミラグロス)、ラモン・ガルシア(パドリーノ)、ミゲル・イサ(メンディエタ)、フアン・マヌエル・オチョア(オルメーニョ)、ナンシー・カバグナリ、フリア・ルイス、サンドロ・カルデロン、オズワルド・ブラボ、ホセ・メディナ他

 

ストーリー2001年リマ、反テロの闘争時代に人権侵害の廉で服役していた軍人と市民が、「軍人恩赦法」により釈放された。パラミリタール(私設軍隊)の元メンバーだったペロもその恩恵を受けた。今はある民兵軍組織のシカリオとして暗殺を請け負っている。部屋に閉じこもり上層部からの指令を実行するだけの日々を送っている。ある指令が「キリストの戦士」という教会に彼を導いていく。祈りと叫びのなかでカルトの指導者アポストルに出会うが、彼はペロの何かを嗅ぎつけているようだ。ペロはそこで出会ったミラグロスという娘に惹きつけられていく。任務をキャンセルしたペロは、教会に足しげく通い静かにミラグロスを見守っている。それまで冷酷なシカリオに徹していたペロも次第に任務を苦痛に思うようになっていった。暗殺には正当な根拠が必要ではないのか、彼の武器は神の剣に変わろうとしていた。

 

 
           (ペロに扮したカルロス・アルカンタラ)

★ペルー内戦後のリマが舞台、ファースト・フィルム部門のLa hora azul(アロンソ・クエトの同名小説の映画化)で触れましたように(⇒コチラ モントリオール映画祭④)、ペルーも長期間内戦に苦しみました。主人公ペロはパラミリタールという政府軍並みの軍事力を備えた私設軍隊のもとメンバー、恩赦で娑婆に戻っても結局彼にできるのはシカリオしかない。リマの工業地区のアパートの一室に閉じこもり機密の指令を待つ。

「俺は背中にも目がある」と武器を通してしか自分を語れない男に扮するのがカルロス・アルカンタラ、ショーマンとしても人気があり、テレビ・インタビューでも若い二人の監督より彼に質問が集中しています。「前から映画化されたら演ってみたい役だった。願いが叶って嬉しい」と語るアルカンタラ、更に「主人公役でモントリオールに行けるのは、それだけで賞を貰ったようなもの。仕事に対する批評や意見が私の進むべき正しい道を教えてくれるから、それも受賞と同じです。ノミネーションされている作品が他に20作ほどあるけれど、男優賞を受賞することを夢見ている。もし叶ったら飛行機に乗ってすっ飛んで帰ってくるよ」とインタビューに語っています

既に発表になっており、中国のヤオ・アンリェンの手に渡ってしまいました)

 

              

                       (ピエロに扮したショーマンのアルカンタラ)

 

★「キリストの戦士」と呼ばれる教会の指導者アポストルは、<キリスト再来>のメッセージをもたらすために神から選ばれた一種の救世主と感じている。冷静沈着、堂々としてエネルギッシュに響く声は伝道者として申し分がない。あたかも忠実な戦士のごとく士気を鼓舞する。「暗殺者は疑問を持たずに発砲する。しかし正義の人はまず何故かと理由を知りたく思う」ものだ。もう一人の重要登場人物に扮するのがレイナルド・アレナス(レイナルドのスペルが1字違うが、訳すと『夜になるまえに』のキューバ作家と同名になってしまう)。1944年生れ、1984年、フェデリコ・ガルシア・ウルタドのTupac Amaruで映画デビュー、ルイス・リョサのSniper1993、米国合作)のカシケ役で出演。リョサ監督はノーベル賞作家バルガス=リョサの従兄弟、彼の『ヤギの祝宴』を映画化した(2006、ラテンビート2006で上映)。

 

             

 ミラグロス、一人前の女性に近づきつつある16歳。「時々体のなかにサタンがいるようで怖くなる。しかし聖霊がいるように感じるときは素晴らしい」と語るミラグロス。泣いたと思えば直ぐ笑い、優しさも簡単に残酷さに豹変する。心の中に矛盾を抱えて生きている。彼女が本当に望むことをやり続けるには、過失、宗教的罪、狂信的行為に包まれたキリスト教の現世で生きていかねばならない。マイラ・ゴニィは、2007TVドラ・シリーズに出演後、サンドロ・ベントゥラのEl Buen Pedro2012)で映画デビュー、本作が2本目の新人。

 


パドリーノ、リマの中心街で小さなペルー料理店を経営し、ミラグロスを育てている。「キリストの戦士」のナンバー2、この組織を動かしている。必要あれば、しばしばアポストルの代理人を務めている。ラモン・ガルシアは、フランシスコ・ロンバルディのLa ciudad y los perros1985)、ルイス・リョサFire on the Amazon1993、ペルー≂米国)、アルベルト・ドゥランAlias ’La Gringo’1991、ペルー≂スペイン他)などに出演。

 


メンディエタ、敵を圧倒する仕事のため今もペロと接触している。彼は武器を使わない書斎派の軍人、「恩赦は継続するだろうが、これはショーみたいなものだからほうっておくさ」。ミゲル・イサは、リマ出身、La ciudad y los perrosがデビュー作、ミゲル・バレダ≂デルガドの Y si te vi, no me acuerdoYVムービー1999、ペルー≂独)、ダニエル・ロドリゲスEl acuarelista2008)とファブリツィオ・アギーレTarata2009)の2作では主役を演じている。タラタは中流階級以上が住んでいる通りの名前、内戦でテロリストの攻撃を受け崩壊していく家族の肖像が描かる。 


★監督紹介:これがまだ詳細が分からない。バチャ・カラベド Bacha Caravedoは、監督・脚本家、短編Papapa2000)とLos herederos2005)を撮っている。チノン・ヒガシオンナChinón Higashionnaは正真正銘のデビュー作、名前と風貌から類推して沖縄の東恩納出身の日系ペルー人のようです。

 

    (左がヒガシオンナ監督、カラベド監督)

★音楽担当のパウチ・ササキ Pauchi Sasakiも日系ペルー人、28歳と若いヴァイオリニスト、ニューヨーク他海外で学んでいる。東京にも来日しているようです。予告編からですが、これがなかなかいい。 


既に授賞式(91日)があり、本ブログにアップした作品がグランプリを含めて3作も受賞しました。次回は少しお祝いをして、モントリオールは閉幕します。

モントリオール映画祭2014*ノミネーション⑤2014年09月01日 15:22

★順序が逆になりましたが、ワールド・コンペティションには長編2本(メキシコ、ペルー)、短編3本(メキシコ)と、メキシコが目立つのが、今年のモントリオールです。審査員長セルジョ・カステリット、審査員の一人にアナ・トレント(スペイン)が参加しています。

 

  ワールド・コンペティション部門

Obediencia perfectaPerfect Obedienceメキシコ、ルイス・ウルキサ監督

製作:AstilleroFilmsEquipmente & Film Design

プロデューサー:ダニエル・ビルマン・リプステイン(代表作にカルロス・カレーラの『アマロ神父の罪』2002)、ルルデス・ガルシア、ヘオルヒナ・テラン他

監督・脚本:ルイス・ウルキサ(エルネスト・アルコセール著Perversidadからの着想)

撮影:セルゲイ ・サルディバル・タナカ(ロドリーゴ・プラのDesierto adentro2008

音楽:アレハンドロ・Giacoman(カルロス・カレーラのLa mujer de Benjamin1991

編集:ホルヘ・マカヤ

 

キャスト:フアン・マヌエル・ベルナル(アンヘル・デ・ラ・クルス神父)、セバスチャン・アギーレ(少年期のフリアン/サクラメント・サントス)、アルフォンソ・エレーラ(成人サクラメント・サントス)、フアン・イグナシオ・アランダ(ガラビス神父)、ルイス・エルネスト・フランコ(ロブレス神父)、フアン・カルロス・コロモ、アレハンドロ・デ・オジャス、ダゴベルト・ガマ、クラウデッテ・マイジェ他

  


データ:メキシコ、スペイン語、201499分、撮影地:ベラクルスとメヒコ州(メキシコシティの北側にある州)、映倫区分:メキシコD-1515歳以上)、メキシコ映画協会IMCINEInstituto Mexicano de Cinematografia)の支援を受けた。メキシコ公開201451日(約800のコピーが製作された)

 

ストーリー:カトリックの神学生サクラメント・サントス(フリアン) は、新しく設立された修道会Los Cruzados de Cristo(キリストの十字軍)で教育をうけることになる。そこでは神学生に<完全なる服従>Obediencia perfecta)が求められる。フリアンは設立者のアンヘル・デ・ラ・クルス神父を信頼し、アンヘル神父も彼を愛するようになる。教会内部で秘かに行われていた聖職者によるスキャンダラスな少年愛、長年にわたって事実を隠蔽しつづけたバチカン、人間が犯す暗部についてのフィルム。

 

「私も8年間神学生だった」

*ルイス・ウルキサ・モンドラゴン Luiz Urquiza Mondrasonは、メキシコの監督、本作が長編デビュー作ですが、プロデューサーやプロダクション・マネジャーのキャリアは長い。最新作としては、本作のプロデューサーの一人ルルデス・ガルシアと携わったアントニオ・セラーノ監督のMorelos2012)、同監督のHidalgo-La historia jamás contada2010)などがある。本作を撮った理由として、「17年前にマルシアル・マシエルの未成年者性的虐待のニュースを知った。自分もかつて17歳までの8年間神学校で暮らした経験があり、知らないわけではなかったが、アルコセールのPerversidadを読んで映画化の準備を始めた」と動機の一つに挙げています。「以前からこのテーマで撮るアイデアは潜在的にあって、宗教者のおぞましい少年愛に警鐘を鳴らしたい」意図で製作した。

 

21世紀に入ってから顕在化した聖職者による少年愛をバチカンも認めざるを得なくなった。本作はメキシコのプラネタ社から刊行されたエルネスト・アルコセールのPerversidad2007、邪悪という意味)に着想を得て製作されたフィクション。タイトルは同書の Obediencia perfecta 章から採用された。アンヘル神父のモデルとなったマルシアル・マシエルMarcial MacielMM、ミチョアカン1920~フロリダ2008、)は、1951年にカトリック信徒団Legión de Cristo/Legionarios de Cristo(映画ではLos Cruzados de Cristo)を設立した聖職者。

 (監督、アルコセール、ベルナル)

 

★教会内部で行われていた少年愛による性的虐待の告発状が、1990年代に既にバチカンに届けられていた。しかしMMの庇護者であった当時の教皇ヨハネ・パウロ二世(19782005)は事実を黙認した。かつてヨハネ・パウロ二世はMMの要請で3回(197919901993)メキシコを訪問している(メキシコが最初の訪問国)。しかしベネディクト十六世に変わった20065月、バチカンはMMの神学生の性的虐待と複数の子供の父子関係を認めて、「祈りと苦行」を公に行うことを禁じた(つまり退任)。国連の児童権利委員会もバチカンが黙認していたことを非難した。2008130日、フロリダで失意と非難の嵐のなかで87歳の生涯を閉じた。死後の2009年、あるスペイン女性が父親はMMと明らかにし、翌年Legión de Cristoも未成年者性的虐待を認め、設立者MMとの関係を断ち切った。

 

                   (ヨハネ・パウロ二世の祝福を受けるMM2004

 

マシエルの伝記映画ではない

★作家エルネスト・アルコセールは裏の取れた事実のみを執筆したと言明していますが、映画はあくまでフィクションです。素材はMMから採られていても、彼の伝記映画ではありません。教会内部で行われていた聖職者の少年愛は、教区民の信頼を裏切る行為のため論争を引き起こすテーマと言えます。カルロス・カレーラの『アマロ神父の罪』は、本国では上映中止になったことは記憶に新しい。映画では少年愛に止まらず複数の女性との関係、富と権力に執着した人間として描かれている。ウルキサ監督も「この映画は子供たちを性的に誘惑し、権力をほしいままにして財産を築いた司祭の物語、象徴的なケースがMMだった」と語っています。「センセーショナルなスキャンダルとして描きたくなかった。シネアストとしての興味は、少年たちの信頼につけ込んで、どのようにして彼らの愛を勝ち取ったのか」その過程にあると語っています。

 

沈黙の時ではない

★主人公のアンヘル・デ・ラ・クルス神父を演じたフアン・マヌエル・ベルナルは、「この物語はきちんと語る必要がある。やっと俎上にのせる時がやっと来た、黙っていられないことだよ」と語っています。「撮影に入る前に、少年愛をテーマにした映画は見たくなかった。代わりにフェリーニ、ロッセリーニ、パゾリーニなど、イタリアのクラシック映画をたくさん見て、それがとても参考になった」とも。更にMMの餌食になった犠牲者たちとも実際に会って話を聞いた。彼によれば、「時代背景は196070年代に設定されている。当時、神の国へ導く人として神父の占める位置は、家族の中でかなり大きかったと思う。そういう信頼を裏切って、複数の女性との間に子供までもうけており、権力と富に執着した、いわば二重生活を送っていた人物」。主人公アンヘル神父の「やったことはまったくひどい話だが、映画の中では複雑な主人公を裁くことはしていない」

 

★名誉枢機卿フアン・サンドバル・イニィゲスによると、「マシエルの行為についてはバチカン内にも強い非難の声があった。MMは精神病質者で統合失調症を患っている二重人格だった」と、2010年のインタビューに答えています。ちょっとやり切れない話です。

 

「とても怖かった」

★サクラメント・サントス役でデビューしたセバスチャン・アギーレ(14歳)は、「とても怖かった」と一言。監督によると、「テーマが分かると両親が出演を渋って難航した。結果約2000人の子供たちをオーデションで見た。美少年というだけではダメ、内面的なテーマを理解できる子供、更に両親も理解できることが必要だった」。撮影はボイコットを懸念して秘密裏に行われ、常にセバスチャンの両親を立ち合わせた。中には両親の立会いなしのシーンもあって、そのときは精神科医の応援を受けたということです。

 

(サクラメント・サントスとアンヘル神父)

 

★最初自分のできる限界を超えていると思ったが、「シナリオを読んで・・・そんなにどぎついとは思えなかった。自分を試してみたくなって・・・今では映画に出演した経験はとてもよかった」とセバスチャン。短編映画出演の経験はあるが、主役の長編は初めて、舞台出演もあるというから全くのズブの素人ではない。しかし既に20世紀中ごろのような神学校は珍しくなっているし、教会が家庭に占める位置も小さくなっているから、セバスチャンには全てが新しい体験、たくさんの出演者に囲まれて大型カメラの前に立つのは恐怖心を感じても当然です。

 

真実に近づく第一歩になるか?

MMの告発状をバチカンに送ったLegionarios de Cristo8人の元神父の一人ホセ・バルバのように今でもバチカンの責任を求め続けている人もいる反面、教会はかなりのダメージをうけるし、この映画に疑問を呈する人もいる。どの世界にも善と悪は存在する、この映画が真実に迫るとしても、すべての独身者が男色ではない。聖職者の妻帯を認めることが解決法になるのかどうかも含めて、今後論争は避けられない。


モントリオール映画祭2014*ノミネーション④2014年08月23日 17:34

★最後にペルー映画のご紹介、2005年に刊行されたアロンソ・クエトの同名小説La hora azulの映画化、同年エラルデ賞を受賞した作家自身もカメオ出演したという熱の入れようです。テロ・グループのセンデロ・ルミノソとペルー政府の対立をめぐる骨太な小説です。切り口は異なりますが、198090年代に吹き荒れたペルー内戦の傷跡をテーマにしたクラウディア・リョサの『悲しみのミルク』(2009)を思い出させます。

アナグラマ社(バルセロナ)の創業者エラルデの名を冠した文学賞。原作は、「青い時」とか「青い時間」というタイトルで紹介されていますが未訳です。ロベルト・ボラーニョも1998年に『野生の探偵たち』で受賞しており⇒コチラで紹介

 

ファースト・フィルム部門(続き)

La hora azulThe Blue Hour)ペルー、Evelyne Pégot-Ogier 監督・脚本、201490

助監督:ホルヘ・プラド(“Koko”)、スクリプト:Nury Isasi 製作:Panda Films(ペル   ー)、プロデューサー:グスタボ・サンチェス、フランク・ペレス・ガルランド他、撮影:ロベルト・マセダ、照明:フリオ・ペレス、美術:セシリア・エレーラ、衣装:エリザベス・ベルナル

 

キャスト:ジョヴァンニ・チッチャCiccia(アドリアン・オルマチェ)、ジャクリン・バスケス(ミリアム)、ロザンナ・フェルナンデス≂マルドナド(アドリアン妻クラウディア)、アウロラ・アランダ(アドリアン秘書ジェニー)、ルーチョ・カセレス(ルベーン)、ハイディ・カセレス(ビルマ・アグルト)他 

                  

            (ロザンナ・フェルナンデス≂マルドナドとジョヴァンニ・チッチャ)

 

ストーリー:アドリアンは体面を重んじる成功した中年の弁護士、理想的な家族と暮らしている。それも過去の暗い秘密が明るみに出るまでのこと、というのはセンデロ・ルミノソが猛威を振るった内戦時代に政府軍の指揮官であった父親オルマチェの残虐行為を知ってしまったからだ。テロリストだけでなく彼らの支持者を含めて拷問、特に女性はレイプされ消されていった。ある日のこと、部下たちがしょびいてきた美しい娘ミリアムに一目惚れした指揮官は、娘を保護し捕虜として兵舎に留めておくが、このアヤクーチョの生き残りのミリアムは逃亡してしまう。このミステリアスな女性の存在がアドリアンの人生を脅かすようになる。彼女こそ父親が犯した残虐行為の唯一の目撃者であるからだ。やっと彼女を見つけ出したアドリアンに口を閉ざし続けるミリアムだが・・・

 

  
    (ミリアムとアドリアン、映画のシーンから)

 

★テーマはクエトによれば「探求」、父と息子の関係、父は国家の代表として、息子は成功したリッチな弁護士としてミリアムに会い共に魅了される。母と息子の関係、息子は母と一体化している。魅力的な妻はどうなる? センデロ・ルミノソのテロリスト、バイオレンス、神への信仰、マイナイの聖女信仰、そして死などが語られる。

 

監督紹介Evelyne Pégot-Ogier(エブリン・ペゴト・オジェ?)はペルーの監督、脚本家。目下詳細が入手できませんが、スタッフにペルー・カトリカ大学PUCP**の卒業生が多いことから、本校のオーディオビジュアル情報科で学んだのかもしれない。「この映画は1990年代末のリマに設定した物語で、私にとってはテロリズムの映画ではありません。背景は内戦時代にアヤクーチョで生き抜いたミリアムとアドリアンの父親の過去を辿りますが、それは画布にしかすぎません」と語っています。「小説がとても気に入り、クエトにコンタクトをとると、映画化を承知してもらえた。個人的には最近父親を亡くしており、これも重要な動機の一つです」とインタビューに答えています。この物語が「探求と和解」を描いたという点で作家と監督は一致しており、これが二人を結びつけたようです。El vestido17分)がカンヌ映画祭2008の短編部門で上映され、これはYouTube で見ることができます。

**PUCPPontificia Universidad Católica del Perú):1917年設立のペルー初の私立大学、首都リマにあり、私立名門校の一つ。撮影監督のロベルト・マセダ、照明のフリオ・ペレスなどが学んでおり、彼らの参加がクエトの小説の映画化を可能にしたと言われている。

  

(撮影中の監督)

                          
100%ドラマに違いありませんが、残虐行為はテロリストだけでなく、政府軍も無辜の民を殺戮したということです。20135月上旬から6週間かけてリマとアヤクーチョでPUCPも協力して撮影された。ロベルト・マセダは「主人公の瞑想的な気質をカメラに収めることが技術的に最も難しかった」と述べている。また監督以下、このプロジェクトは協力的でよく纏まっていて仕事は上手く運んだとも。撮影は一日で12時間に及んだから照明係のフリオ・ペレスは大変だったらしい。

 

アロンソ・クエトAlonso Cueto1954年リマ生れ)は、弁護士アドリアンの依頼人としてカメオ出演、「少し恥ずかしかったよ」と。かなりの映画ファンで「映画を見るのは人生の一部、セットの中にいるときはとても興味深かった。もっとも以前、フランシスコ・ロンバルディが私のGrandes miradas2003)をMariposa Negra2006)のタイトルで映画化したときセットを訪れたことがあった。監督については「出来栄えに満足している。彼女は感受性がつよくインテリジェンスに優れている。脚本を読ませてもらって、小説をよく理解していることが分かった」とベタ褒め。リマを訪れた人がよく口にするように、「リマは金持ちと貧しい人が交錯しながら暮らしている都会」とも語っておりました。

 

 

                       (自作の映画化について語るアロンソ・クエト)

モントリオール映画祭2014*ノミネーション③2014年08月21日 17:13

★今年はメキシコが元気で2本ノミネート、「ワールド・コンペティション部門」にもルイス・ウルキサ・モンドラゴン、短編部門には3本もノミネートされています。

 

   ファースト・フィルム部門(続)

Los bañistasOpen Cageメキシコ、マックス・スニノ監督・脚本・製作)
  2014コメディ

共同脚本:ソフィア・エスピノサ、撮影:ダリエラ・ルドロウ、音楽:セバスチャン・スニノ 

音響:アシエル・ゴンサレス、編集:ヨアメ・エスカミラ、製作:Casas Productoras他 

プロデューサー:グロリア・カラスコ他

キャスト:フアン・カルロス・コロンボ(マルティン)、ソフィア・エスピノサ(フラビア)、ハロルド・トーレス(セバスチャン)、スサナ・サラサール(エルバ)、アルマンド・エスピティア(ペドロ)他 


ストーリー:経済が麻痺状態に陥り、そのせいで周囲の状況は道徳的貧困さえきたしている。甘やかされて育ったティーンエイジャーのフラビアは、アーティスト希望だが大学受験に失敗、挫折感を味わっている。そんなとき彼女は、自分とは正反対の堅物、大人の隣人マルティンと知り合いになる。初めはぶつかり合って上手くいきそうには思われなかったが・・・

 

(フラビア役のソフィア・エスピノサ、映画のシーン)

 

監督紹介マックス・スニノ Max Zuninoはウルグアイ生れ、子供のときにメキシコに移住してきた。監督、脚本家、プロデューサー。情報科学技術科を卒業後、キューバのサン・アントニオ・デ・ロス・バニョスの映画&テレビのコースで学ぶ。短編Recuerdo del mar2005)、本作が第29グアダラハラ国際映画祭FICG29)「イベロアメリカ・コンペティション部門」に正式出品、長編フィクションGuerrero de la PrensaPress Warrior 賞を受賞する。

 

        (左から、カラスコ、コロンボ、監督、ソフィア、FICG29にて)

 

ソフィア・エスピノサはマリサ・SistachLa niña en la piedra2006)で翌年のアリエル賞女優賞にノミネートされている。フアン・カルロス・コロンボは、ギジェルモ・デル・トロの『クロノス』(1993)やルイス・エストラーダのLa ley de Herodes1999)に出演、多くの国際映画祭で数々の賞に輝いた作品、本作でアリエル賞にもノミネートされたベテラン俳優。ペドロ役のアルマンド・エスピティアはアマ・エスカランテの『エリ』で主役エリを演じた俳優です。

 

 

Gonálezメキシコ、クリスチャン・ディアス・パルド(監督・脚本)
   2013、スリラー、102分、
メキシコ公開6

共同脚本:フェルナンド・デル・ラソ、撮影:フアン・パブロ・ラミレス、
 音楽:ガロ・ドゥラン、
編集:レオン・フェリペ・ゴンサレス、
 プロデューサー:ラウラ・ピノ、ハロルド・トーレス、
製作:FOPROCINEChacal Filmes

 

キャスト:ハロルド・トーレス(ゴンサレス)、カルロス・バルデム(エリアス牧師)、オルガ・セグラ(ベトサベ)、ガストン・ピーターソン(パブロ)他

 


ストーリー:平凡な若者ゴンサレスは長らく失業中であり、借金に苦しんでいる。大都会の片隅にある賃貸アパートに住んでおり、母親を養わねばならないが、心配をかけたくないので失業を隠している。ゴンサレス同様ここで暮らす多くの人が借金を抱えており、解雇されれば返済は滞り借金は増え続けるだけである。ゴンサレスはある教会付属のコール・センターで交換手の職を得る。仕事は主イエス・キリストの名において、彼より貧しい<隣人>からカネを毟るとることであった。このインチキ宗教のトップはブラジル人のエリアス牧師でかき集めたお布施を洗浄している。現代のペテン師は本当の<神性>とは程遠い典型的な社会の害虫だった。お金を生みだす簡単な方法を発見した無神論者のゴンサレスは、この汚いシステムに急降下していく。

 

*監督紹介クリスティアン・ディアス・パルドChristian Diaz Pardoは、監督・脚本家・製作者。11モレリア国際映画祭FICM201310月下旬開催)正式出品、第6回メキシコ映画祭FCM2013)で批評家賞を受賞した。短編Los esquimales y el cometa2005、モノクロ、
8分)、Antes del desierto2010、カラー、16分)。

 

クリスチャン・ディアス・パルド、メキシコ映画祭にて

 

★貧者の信仰を利用して大金を溜めこみ権力をほしいままにしている宗教活動家の問題についての映画である。ディアス・パルド監督によると、最初は同僚の女性から、ある宗派の教会をテーマにしたドキュメンタリーが提案された。調査を始めてみると、どうもドキュメンタリーは制約が多く難しいことが分かり、つまり撮影を断られたのでフィクションに変更したようです。暗部を描くわけだから当たり前ですよね。トーレスによって演じられたゴンサレスの人物造形はとても複雑で難しかった。孤立無援の社会に幻滅したただのワルにはしたくなかった。同時に大衆を魅了し、彼と接することで人々が一体感を持てるような人格にしたかった。またカフカの『変身』を自由に翻案して、心理的な色調の強いスリラーになっているということです。キャスティングはトーレスと一緒に選んだ。 


ハロルド・トーレスは、Los bañistasにも出演していますが、カルロス・キュアロン(クアロン)の『ルドとクルシ』(2008)、キャリー・フクナガの『闇の列車、光の旅』(09)に脇役で出演、リゴベルト・ペレスカノの話題作Norteado2009)で主役アンドレスを射止めた。翌年のアリエル賞主演男優賞にノミネートされている。豊かな北を目指すという『闇の列車、光の旅』と同じテーマながら、より現実に近い印象を受ける。かねてから知り合いであったバルデムにエリアス牧師役を打診したのがトーレスだった。

 

カルロス・バルデムは、メキシコ映画出演は3本目だそうで、トーレスからのオファーを即座にOKした由。ブラジルに4年間過ごした経験のあるバルデムはポルトガル語に堪能、ポルトニョル(ポルトガル風スペイン語)で教区民にミサを説教する。バルデムは「メキシコは良きにつけ悪しきにつけダイナミックな社会、伝統をもち端正な美しさも凄まじさも兼ね揃えている。自分にとっては魅力的、撮影中はごきげんだった。この手の教会の裏側を炙りだす物語は、資金の集め方、マネーロンダリングの枠組みなど興味は尽きない。メキシコだけでなくスペインもその他のヨーロッパ諸国もやってること」と語っています。

 

オルガ・セグラは製作者・女優とやり手の才媛、メキシコ・シティ生れだがパナマで育った。Jesse BagetCellmatesで映画デビュー、Omar YnigoのコメディMalcelo2012)など。ガストン・ピーターソンは、メキシコ版“Marcelino Pan y Vino”(2010)のパピージャ神父役で出演している。