第38回ゴヤ賞2024授賞式はバジャドリード開催*スペイン情報2023年04月03日 17:43

      ゴヤ賞ガラは来年もマドリードを離れて初のバジャドリード開催が決定

    

   

(映画アカデミー会長メンデス≂レイテとバジャドリード市長オスカル・プエンテ)

 

330日午前、スペイン映画アカデミーは、次二回のゴヤ賞授賞式の開催地を発表しました。2024年はスペイン北西部の県都バジャドリード、2025年はアンダルシアの観光都市グラナダです。これは前例のないことで、2018年を最後に当分はマドリードには戻ってこないことになりました。最近の開催地は、セビーリャ(20232019)、マラガ(20222020)の各2回、バレンシア(2021)でした。第38回となるバジャドリードは224(土)、会場はマジョール広場に近い3000人以上収容できる見本市のホールで開催される。グラナダは2月後半というだけで未定です。

      


            (プレス会見、映画アカデミー本部)

 

★誘致合戦に勝ち抜くための工作が多々あるわけで、バジャドリード開催になった決め手の一つが、フェルナンド・メンデス≂レイテ会長によると、映画祭の老舗として毎年10月下旬に開催される「バジャドリード映画祭の実績」の評価があげられた。一般的には、SEMINCIとして親しまれている映画祭で、サンセバスチャン映画祭に継ぐ歴史ある国際映画祭、昨年67回を開催したばかりです。2007年の12AVEという新幹線も開通して、マドリードから約50分のバジャドリードは、「マドリードにいるようなもの」だそうですが、ただ2月末では気温が低く寒いかもしれない。

 

★開催にはホールだけでなく、ゲスト、スタッフ、その他の出席者を含むガラのために訪れる旅行者の宿泊施設、ホテルの準備も必要、熱意だけでは勝利できない。3ヵ所のパビリオンがあり、ガラ後のパーティー会場、フォトコールができるプレス、レッドカーペットのパティオなどなど。ガラ開催にこれほど申し分のない場所はそんなに多くないでしょうか。歴史的建造物、例えばバジャドリード大聖堂(カテドラル)、サンパブロ教会、国立彫刻美術館、スペイン現代美術館など学問の都市でもあり、観光スポットがたくさんある。 

      

       

 

★バジャドリード市長オスカル・プエンテは、「経済的な出費は重いが、より多くのリターンが期待できます。私は今朝列車でやってきて、セビーリャが手にした経済的なインパクトある数字に接しました。それは驚くべきもでした」と語った。2025年の開催地、グラナダ市長フランシスコ・クエンカはテレマティクスを通じて「グラナダ中心地近くの市議会場で開催される」と述べ、「未来志向で、グラナダの組織力を世界に示したい」とコメントした。両市長ともPSEO社会労働党に属し、地方選挙が目前の528日と差し迫っており、どうやら目玉イベントを密かに模索しているようです。                                                 


アグスティ・ビリャロンガ逝く*闇と光の世界を生きる2023年04月14日 18:39

              映画への情熱を手引きした郵便配達人の父親

 

        

   

★去る122日の明け方、アグスティ・ビリャロンガが突然別れを告げました。カタルーニャ映画アカデミーは「今朝、映画監督のアグスティ・ビリャロンガは、私たちをバルセロナに残して、愛する家族や友人に見守られて旅立ちました。彼の才能、感性、豊かな愛に満ちた包容力、そして数々の映画は永遠に残るでしょう」と報じた。彼が人生の最後の2年間闘ってきた癌は、スペインの支配的な傾向に逆らって、ユニークな作品を作り続けた、この並外れた映画人を連れ去りました。1週間の緩和ケアの後、バルセロナで69歳の生涯を閉じたということですから、突然ではなかったわけです。当ブログで紹介した「El ventre del mar」がマラガ映画祭2021で作品賞以下6冠を制したときには、既に闘病中だったことになります。

 

★訃報のアップは本当に気が重い。特に彼のように早すぎる死は猶更です。ガウディ賞の受賞者としてバルセロナ派を牽引してきただけにその死は惜しまれてなりません。ガウディ賞は毎年アップしていたわけではありませんが、今年は気が滅入ってアップする気になれませんでした。なにしろ旅立ちは、第15回ガウディ賞授賞式の当日でした。ガラはビリャロンガ逝くの追悼式のようだったということでした。因みに受賞結果は、発表を待つまでもなく作品賞はカタルーニャ語部門がカルラ・シモンの「Alcarràs、カタルーニャ語以外の部門はゴヤ賞ではノミネートさえされなかったアルベルト・セラの『パシフィクション』と、下馬評通りの結果でした

     

     

       (在りし日のビリャロンガ、サンセバスチャン映画祭2010)

 

★ビリャロンガと言えば、カタルーニャ語映画が初めてゴヤ賞を受賞した「Pa negre」(2010Pan negro」)でしょうか。本作はラテンビート映画祭2011で上映され、翌年『ブラック・ブレッド』の邦題で公開されました。ゴヤ賞では作品賞を含めて9部門を制覇、彼自身も監督賞と脚本賞の2冠、ガウディ賞は13冠とほぼ総なめ状態でした。その他サンジョルディ賞、トゥリア賞、フォトグラマス・デ・プラタ賞、アリエル賞(イベロアメリカ部門)作品賞などを受賞しています。

まだ当ブログは存在しておらず、目下休眠中のCabinaさんブログに、テーマ、監督キャリア&キャスト紹介などをコメントとして投稿しています。(コチラ20110303日)

   

   

 (受賞スピーチをするビリャロンガ、監督・脚本賞を受賞したゴヤ賞2011から)

 

195334日、パルマ・デ・マジョルカ生れ、監督、脚本家、俳優。スペイン内戦時に15歳で戦線に引きずり込まれた父親から映画への情熱を植え付けられた。カタルーニャの操り人形師の家系に生まれた父親は、後にパルマに定住して郵便配達員として働いていた。彼は映画に情熱を注ぎ息子アグスティを映画の世界に導きました。父親の影響を受けた息子はデッサン、マッチ箱、懐中電灯を使って手作りの映写機を作ったほど映画に熱中した。

 

★監督が「El ventre del mar」のプロモーションの過程で語ったところによると、「14歳で映画監督になる決心をして、ローマの映画学校のロベルト・ロッセリーニに手紙を書いた。彼の学校に本当に入りたかったのです。しかし若すぎるという理由で拒否されました」。彼らはまず大学を卒業すべきだと返事してきた。イエズス会の中学校を終了していた十代のアグスティはやや失望しパルマを出ることにした。バルセロナ自治大学で美術史を専攻して学位を取り、その後バルセロナの公立舞台芸術学校である演劇研究所 Institut del Teatre に入学、舞台美術を学んだ。当時を振り返って「今は彼(ロッセリーニ)の映画はあまり好きではありません。若いころには理解できなかったパゾリーニに情熱を注いでいます」と、またイングマール・ベルイマン映画にも言及し、彼は「私に多くの足跡を残した」と同じインタビューに答えている。

   

     

        (「El ventre del mar」のカタルーニャ語版ポスター)

 

 

    俳優としてキャリアをスタートさせたヌリア・エスペルトとの出会い

 

★キャリアをスタートさせて間もなく、ビクトル・ガルシアと出会い、女優で演出家のヌリア・エスペルトが設立した劇団に俳優として入る。ガルシア・ロルカの『イェルマ』ツアーに参加、ヨーロッパ、アメリカを巡業する。帰国後映画俳優としてホセ・ラモン・ララスの「El fin de la inocencia」(77)、フアン・ホセ・ポルトの「El último guateque」(78)、ホセ・アントニオ・デ・ラ・ロマの「Perros callejeros II」(79)などに出演する。しかし1982年、製作者のぺポン・コロミナスが彼を監督業に引き戻した。というのも彼は既に短編3作を撮っていたのである。

 

★そして誕生したのが、長編デビュー作「Tras el cristal」(86110分)である。ギュンター・マイスナー、マリサ・パレデス、ダビ・スストを起用したホラー・サスペンス。ベルリン映画祭で上映され、ムルシア・スペイン映画週間で初監督に与えられるオペラ・プリマ賞を受賞、ほかサンジョルディ賞1988のオペラ・プリマ賞も受賞した。第2作となるSFファンタジー「El niño de la runa」はカンヌ映画祭1989コンペティション部門にノミネートされ、翌年のゴヤ賞オリジナル脚本賞を受賞、監督賞にノミネートされた。キャストはマリベル・マルティンやルチア・ボゼーのようなベテラン女優を軸に、前作出演のギュンター・マイスナーやダビ・スストを起用している。本邦では1992『月の子ども』の邦題で公開された。

       

     

            (公開された『月の子ども』のポスター)

 

★メルセ・ロドレダの小説 La mort de primavera の映画化を模索したが、製作者を見つけることができなかった。1997年、マリア・バランコを主役に据え、テレレ・パベスやルス・ガブリエルで脇を固めたホラー「99.9」は、モントリオール、トロント、ローマ、各映画祭で上映されシッチェス映画祭に正式出品された。撮影を手がけたハビエル・アギレサロベが撮影賞、彼はヨーロッパ・ファンタジー映画に贈られる銀のメリエス賞を受賞した。続いて現れたのが同性愛をテーマにした「El mar」(邦題『海へ還る日』)である。カタルーニャ語を採用、生れ故郷マジョルカで撮られた本作はベルリン映画祭2000に出品され、新しく設けられた独立系映画に与えられるマンフレッド・ザルツベルガー賞を受賞して、認知度は国際的になった。ザルツベルガーはテディ賞生みの親の一人、20世紀ドイツのLGBT運動の推進者である。本作で映画デビューした、後の『ブラック・ブレッド』や「El ventre del mar」に出演したロジェール・カザマジョールとの出会いがあった。

El mar」の作品紹介、ロジェール・カザマジョールのフィルモグラフィー&キャリア紹介は、コチラ20210624

    

    

       (カザマジョールを配した『海へ還る日』のポスター)

 

2002年、サンセバスチャン映画祭を驚かせた「Aro Tolbukhin (en la mente del asesino)」(メキシコとの合作)は、メキシカン・ヌーベルバーグと称された偽造ドキュメンタリーである。アイザック=ピエール・ラシネ、リディア・ジマーマンとの共同監督、翌年のアリエル賞を作品賞以下全カテゴリーにノミネートされるも作品賞には及ばなかった。しかし脚本賞を含む7冠を制し、時間の経過とともにファンを増やしていった。ハンガリーの船乗りで連続殺人犯アロ・トロブキンがグアテマラに逃亡し捕らえられ銃殺刑になるまでを描き、彼の犯罪の背後にある「殺人者の心のなか」の闇に迫った。実際のドキュメンタリー映像を広範囲に使用しているが、これはドラマであってドキュメンタリーではない。本作は後にラテンビート映画祭に統一された第1回「ヒスパニックビート2004」に、『アロ・トルブキン―殺人の記憶』として上映されている。

 

          『ブラック・ブレッド』がルールを変えた

 

★海外での評価と人気はあってもスペイン全体に届いたとは言えなかった。彼はしばらく映画を離れカタルーニャTV映画「Després de la pluja」(07After the Rain」)やTVシリーズのドキュメンタリーを手がけている。何作か映画製作を模索していたが、いずれも財政的な支援が得られなかったようだ。2010年、一部の批判的な評価を覆した『ブラック・ブレッド』(フランスとの合作)が到着した。


★本作はエミリ・テシドール19322012)の同名小説 Pa negre を軸に、彼の2冊の小説をベースにして映画化されたダークミステリーである。内戦後のカタルーニャの小さな町に起きた不可解な事件を軸に、1940年代を生きた少年アンドレウに焦点を当て、真実を求める過程で過去の亡霊に出会うなかで自分のセクシュアリティに目覚める。少年は嘘と欺瞞に満ちた大人たちを許すことなくモンスターに変貌していく。マドリード派が優勢なゴヤ賞も14部門ノミネート、作品賞を含む9冠に輝いた。ゴヤ賞2011年のライバル作品は、ロドリゴ・コルテスの『リミット』、イシアル・ボリャインの『ザ・ウォーター・ウォー』、アレックス・デ・ラ・イグレシアの『気狂いピエロの決闘』と誰が受賞してもおかしくない豊作の年、いずれも公開されている。ガウディ賞は13冠、プレミアされたサンセバスチャン映画祭では、少年の母親に扮したノラ・ナバスが女優賞を受賞した。

    

           

         (少年アンドレウを配したオリジナル・ポスター)

      

     

 (左から、アグスティ・ビリャロンガ、ロドリゴ・コルテス、イシアル・ボリャイン、

      アレックス・デ・ラ・イグレシア、ゴヤ賞2011ノミネートの4監督

 

★サンセバスチャン映画祭2012でプレミアされたTVミニシリーズ「Carta a Eva」(2話)を製作、翌年放映された。アルゼンチンのエバ・ペロンのヨーロッパ・ツアーをめぐるドラマである。エバにはアルゼンチンのフリエタ・カルディナルが主演、フランコ総統にヘスス・カステジョン、ほかアナ・トレント、カルメン・マウラ、ノラ・ナバスなどスペインサイドが出演している。2015年の「El rey de La Habana」は、ラテンビート2015『ザ・キング・オブ・ハバナ』の邦題で上映された折、当ブログで作品紹介をしています。ペドロ・フアン・グティエレスの不穏な同名小説の映画化。亡命することなくキューバに止まり、故国の悲惨を弾劾しつづけている作家、詩人、ジャーナリスト、。

『ザ・キング・オブ・ハバナ』の原作者&作品紹介は、

  コチラ20150917同年1024

   

  

 

★中編ドキュメンタリー「El testament de la Rosa」(16、仮題「ロザの遺言」45分)は、女優ロザ・ノベル(バルセロナ1953-2015)が癌で亡くなる直前をカメラに収めたドキュメンタリー。既に視力を失っていた女優の最後の作品(コルム・トビンの「El testament de la Maria」)になるであろう舞台リハーサルをモノクロで追っている。結果的には亡くなってしまったのでブランカ・ポルテーリョが演じた。本作には監督自身と『海へ還る日』や『ブラック・ブレッド』の製作者イソナ・パッソラ、脚本家エドゥアルド・メンドサ、テレビでの活躍が多い女優フランセスカ・ピニョンが出演している。バジャドリード映画祭2016でプレミアされた。

        

     

             (ブランカ・ポルテーリョと監督)

 

2017年、時代背景を1937年のスペイン内戦中のアラゴン戦線にした「Incerta glòria」は、ジョアン・サレスの同名小説の映画化、ゴヤ賞では脚色賞に共同執筆のコラル・クルスとノミネート、ガウディ賞はキャスト陣、技術部門のスタッフにトロフィーを多数もたらしたが、監督自身は無冠に終わった。2019年にはアンドレス・ビセンテ・ゴメスがプロデュースした「Nacido rey」(言語は英語「Born a King」)が公開された。サウジアラビアの偉大な君主として知られるファイサル国王(190675)のビオピックである。監督は「私は映画が大好きで、お金目当てではありません。本作はアラブ諸国で撮影されましたが、経済的なもの以外の魅力も加えました。本題に無関係な話を差し挟むような依頼は受けておりません」と語っている。

  

      

 

2021年の「El ventre del mar」がマラガ映画祭2021に正式出品され、上述したように金のビスナガ作品賞を含む6冠を制した(金のビスナガ作品賞・監督・脚本・撮影・音楽・男優賞)。作品紹介は簡単ですがアップ済みです。イタリアの作家アレッサンドロ・バリッコが実話に基づいて書いた小説 Océano mar にインスパイアーされて製作されている。本作に「20年間取りくんできた」ということです。遺作となったスシ・サンチェスを主役に起用したコメディ「Loli Tormenta」(23)は、先月末に公開された。本作については別個に紹介したい。

El ventre del mar」の作品紹介、マラガFFガ授賞式の様子は、

  コチラ20210509同年0618

         

         

       (銀のビスナガ監督賞を受賞、マラガFF2021 授賞式)

 

★生涯を通じて演技者としても活躍していたが、最後の作品はルーマニアのコルネリュ・ポルンボイュの「La gomera」出演で、冷徹なマフィアに扮した。ルーマニア、フランス、ドイツなどの合作映画だが、原題の「ラ・ゴメラ」はカナリア諸島の島名から採られている。カンヌ映画祭2019に出品され、今回は演技者としてカンヌを訪れた。2021年に『ホイッスラーズ 誓いの口笛』の邦題でWOWOWで放映され、プライムビデオでも配信されている。

 

★変わり者が多いスペインでも独特の作風をもつ監督として駆け抜けたビリャロンガですが、晩年「私のスタイルにとても近い人を見つけることはできませんが、今日では私は変わり者 bicho raro ではないと思います。ただ自分にできることをするだけです」と、フィルモグラフィーを振り返って語っている。彼は比較的早い段階で性的マイノリティを公表していたが、こどものときから「人と違うこと」に敏感だった。その内なる世界は『ブラック・ブレッド』の少年アンドレウや『海へ還る日』の青年に投影されている。

 

上記以外の受賞歴

2001年、カタルーニャ自治州の文化省が選考母体のカタルーニャ映画国民賞を受賞した。前年に国際的な活躍をした人に贈られる賞、映画のほか文学・音楽など各分野から原則1年に1人選ばれる。彼の場合は2000年の『海へ還る日』の成功によるものと思われる。

2011年、スペイン文化省が選考母体の映画国民賞を受賞、2010年の『ブラック・ブレッド』が評価されたことによる。

2012年、ゲイ-レスボ映画と舞台芸術国際フェスティバル栄誉賞、カタルーニャ・ラテンアメリカ映画祭ジョルディ・ダウダ賞などを受賞した。

2021121日、芸術功労金のメダルを受賞、国王フェリペ6世、レティシア王妃列席のもと授与された。

   

       

    (左から一人おいて、国王フェリペ6世、王妃レティシア、ビリャロンガ、

     背後に控えているのがミケル・イセタ教育・文化・スポーツ大臣)


ビリャロンガの遺作「Loli tormenta」*母へのオマージュ2023年04月22日 18:45

       アグスティ・ビリャロンガを偲ぶ会に集まった仲間たち

 

★330日、バルセロナのカタルーニャ・フィルモテカでアグスティ・ビリャロンガを偲ぶ会がもたれました。遺作となった監督初のコメディ「Loli tormenta」の公開前日にチョモン・ホールで開催され、家族、友人、仲間が思い思いに故人の思い出を語りました。カタルーニャ自治州政府の文化大臣ナタリア・ガリガ、カタルーニャ映画アカデミー会長ジュディス・コレルも出席して開催された。コレル会長はフレンドリーでいつも周りを笑顔にしたアグスティについて「若いころはとてもハンサムだったのですよ」と、映画館に掲げられていた「Tras el cristal」の看板の写真に見とれて追突事故を起こした逸話を語った。

    

      

              (アグスティ・ビリャロンガ)

 

★女優ロザ・ノベルが癌に倒れる直前を記録した中編ドキュメンタリー「El testament de la Rosa」(1546分、仮題「ロザの遺言」)が上映されました。フィルモテカ館長エステベ・リアンバウが本作上映を選んだ理由について口火を切りました。本作は「病気との闘い」という側面と、長靴を履いたまま死ぬ、つまり「殉職する、または戦死する」という側面があり、「元気づけるものではありませんが、今宵にふさわしいと考えた。それは『El testament de la Rosa』がアグスティでもあるからです」と語った。デビュー作「Tras el cristal」(88)を選ぶこともできたが、目下デジタル化の過程にあり、新しいものは別の機会に上映されるようです。

 

           

                (El testament de la Rosa」のロザ・ノベル

 

★ビリャロンガの妹パウラ・ビリャロンガは、大の映画ファンで息子を映画界に手引きした兄妹の父親、デビュー作公開を目前にして亡くなった父親からの手紙を披露した。『ブラック・ブレッド』TV映画Després de la pluja」出演の女優マリナ・ガテル、映画監督のロザ・ベルジェス、撮影監督ジョセップ・マリア・シビトやジャウメ・ペラカウラ、「El ventre del mar」や遺作の音楽を手がけた作曲家マルクスJGRは、監督が「まだ去っておらず、次の映画に私を呼ぶだろう」と語った。1978年にバルセロナの公立舞台芸術学校である演劇研究所でアグスティと一緒に学んだ2人のクラスメート、エウラリア・ゴマとセスク・ムレトは、ビリャロンガは「たちまち頭角をあらわした」とスピーチした。

   

 

        ぶっつけ本番で撮影された、残された時間との闘い

 

★前置きが長くなりました。遺作「Loli tormenta」の作品紹介と主役ロリを演じたスシ・サンチェスのインタビュー記事を交えてアップします。既に癌に冒されていた監督に残された時間は僅かでしたが、皆にさよならを言う前にどうしても完成させたかった。監督は化学療法を一時中断して撮影に臨んでおり、健康状態は最悪だった。死後公開となった本作は、これまでの作品とは想像もできないほどの甘酸っぱい家族コメディで、去る331日封切られました。本作は娘が亡くなって、血縁関係のない2人の男の孫を育てることになったアルツハイマーの兆候が現れ始めたハッスルお祖母さんの物語です。

   

         

 

 Loli tormenta」(「3.000 obstáculos」)2023

製作:3000 obstáculos A.I.E. / Crea SGR / Irusoin / Vilaüt Films / Film Factory Entertainment 協賛カタルーニャ自治州文化省 / ICAA / RTVE / TV3 / Movistar+、他

監督:アグスティ・ビリャロンガ

脚本:アグスティ・ビリャロンガ、マリオ・トレシーリャス

音楽:マルクスJGR

撮影:ジョセップ・マリア・シビト

編集:ベルナト・アラゴネス

キャスティング:イレネ・ロケ、(アシスタント)カルメン・ロペス・フランコ

プロダクション・デザイン:スザンナ・フェルナンデス、ジョルディ・ベラ

衣装デザイン:パウ・アウリ

メイクアップ&ヘアー:(ヘアー)クリスティナ・カパロス、(メイク)アルマ・カザル

製作者:フェルナンド・ラロンド、アリアドナ・ドット、ハビエル・ベルソサ、トノ・フォルゲラ、アンデル・サガルドイ、アンデル・バリナガ≂レメンテリア、(エグゼクティブ)マルタ・バルド

 

データ:製作国スペイン、スペイン語、2023年、コメディドラマ、94分、撮影地バルセロナの各地、2022年夏。配給キャラメル・フィルムズ、ユープラネット・ピクチャーズ、国際販売フィルム・ファクトリー、 公開スペイン2023331

 

キャスト:スシ・サンチェス(ロラ、ロリ)、ジョエル・ガルベス(孫ロベルト)、モル・ゴム(孫エドガー)、シャビ・サエス、ペパ・チャロ(ロッシおばさん)、セルソ・ブガーリョ(銀行家の父親トマス)、フェルナンド・エステソ(ラモンおじさん)、メテオラ・フォンタナ(ピラール)、カルメン・ロペス・フランコ(受付係)、ブランカ・スタル・オリベラ(トラム乗客)、マリア・アングラダ・セリャレス(リネト)、ほか

 

ストーリー:現代的で少し混沌が始まっているロラは、数年前に亡くなった娘の子供エドガーとロベルトを引き取ります。3人はバルセロナの郊外にある質素な家に住んでおり、彼らの静かな生活が劇的に変化すると疑うものは何もありません。ロラにアルツハイマー病の進行が顕著になってきますが、再び引き離されて里親に預けられることを望まない孫たちは、周りに病気の進行を隠すための素晴らしい創意工夫と溢れるファンタジーを凝らして世話をします。孫が祖母を世話するという逆転が起きてしまいます。元アスリートとして名声を博したロラは、陸上競技会出場のロベルトのように3000障害物レースに出場することになるでしょう。エキサイティングで謙虚な甘酸っぱい家族コメディ。

    

      

                     (左から、ロベルト、ロラ、エドガー) 

 

★デビュー作Tras el cristal」の公開直前に死去したという監督の父親は、15歳でスペイン内戦に引きずり込まれたという。その後血縁関係のないパルマでお針子をしていたロラ叔母さんに引き取られている。彼女がロリの人格造形に何か投影されているのだろうか。また監督より1年前に亡くなったという母親もアルツハイマー病だったことから、母親へのオマージュの側面もあるようです。老齢、死、アルツハイマー病、移民問題、エネルギー貧困、不動産投機、社会から孤立した人々など盛りだくさんな社会批判が盛り込まれている。しかし遊び心があり、あかるさに満ちた、いたずらっぽい作品に仕上がっているようです。その多くは主役ロラを演じたスシ・サンチェス(バレンシア1955)に負っている。彼女はラモン・サラサール『日曜日の憂鬱』でゴヤ賞2019主演女優賞、アラウダ・ルイス・デ・アスアの「Cinco lobitos」で助演女優賞を受賞したばかりです。現在スペイン映画アカデミー副会長です。

    

       

       (ゴヤ賞助演女優賞のスシ・サンチェス、ゴヤ賞2023ガラ)

   

 

        「ロリは考えない」従って「あなたも考えない」と監督

 

★以下の記事は、バルセロナに本部をおく「ラ・バングアルディア」紙との電話インタビューの抜粋です(43日)。サンチェスはクラウディア・レイニッケの「Reinas」の撮影でペルーからマドリードに戻ってきたばかりでした。

Q: 本作出演の経緯についての質問(女優はビリャロンガ作品は初出演)。

A: 以前から彼と一緒に仕事をしたいと夢見ていました。その贈り物が幸運にも届きましたが、彼の健康状態はひどいものでした。不平を言いませんでしたが、彼のような苦しみを見るのは辛かった。撮っている作品はコメディですから、監督の苦しみから切り離すのが困難でした。気温が40度、狭い部屋での撮影、リハーサルをする時間がなく、アグスティはそのことを私に詫びました。私たちに「ノー」はなく、常に「イエス」、その場でキャラクターを作りました。しかし、私はこの経験から多くを学んだのです。

 

Q: 監督とはどのように出会ったのですか。

A: 監督は次の映画(本作のこと)の主役が病気で出演できなくなり、代わりを緊急に見つける必要があった。共通の友人が私に会いに行くよう勧めたので、バルセロナのD'A映画祭上映の「Cinco lobitos」を見に来ました。少し話し合った後、私は彼に都合のつく時間があるから待ってほしいと言いました。脚本を読んで一緒に彼と旅をしたかったのです。今まで自分が演じてきた役柄とかけ離れていましたが、コミックのような役柄をした経験もあり、(ロリは)私を大いに魅了しました。二人の間に発見もあり、私は任せることにしたのです。

 

Q: 祖母役が多くなっていますが、主人公に最も惹かれたところは何でしょうか。

A: 幾つになったら、私の番になる(笑)。シェイクスピアからジュリエット役をもらえるとは思いません。もっともシニア版ならあり得ますが! ロリの魅力は、人生を前進させる能力です。ロリは「考えない女性」です。それは純粋な衝動であり、前進する生存本能です。スポーツと人生の挑戦を乗り切ることには似ているところがあり、人生への愛や物事の純粋さに対する大きな能力に惹かれました。彼女がいかに正直で、子供たちを心から世話していたか、実際ロリは闘士なのです。そして重要なのはアグスティが生きていた瞬間だったということです。

   

             

           (撮影中の監督とサンチェス、2022年盛夏)

 

Q: あなたの人生でロリと同じくらい多くの困難に直面したでしょうか。

A: もちろん皆さんと同じです。人生は誰にとっても次々に問題が降りかかります。ロリは考えずに先に進みます。それはその瞬間を生きるよう私に教えてくれました。誰にとっても教訓だと思います。

 

            監督が私たちに伝えたかったこと

 

Q: 本作はアルツハイマー病がテーマの一つになっています。

A: アルツハイマー病はすべてにおいて異なります。私はアルモドバルの『ジュリエッタ』でアルツハイマー病の女性をやりましたが、本作とは別のタイプでした。私の母親は人生の最後の3年間をホームにいましたので以前からこの病気の知識がありました。ホームで出会うアルツハイマー病の症例はそれぞれ違っておりました。監督の母親も患っていたので、彼の見解が大いに役立ちました。私たちの身近にある病気であり、これについて話したかった。一方には役に立たない要素としての老人ドラマや子供ドラマがあり、それは社会が私たちをそのように見ているからです。なぜなら高齢者はもはや成果を生み出せない、子供はまだ生み出していないからです。これについては否定したい、ここでは何が起こるかはユーモアで語られます。コメディの要素を加えたドラマです。まだ完成版を観ておりませんが、光の扱いは明るく、アグスティが指示したトーンも明るいものでした。彼は人生がもつ価値について希望に満ちたかたちで語りました。それが彼の伝えたかったことなのです。 

 

Q: ベテランと新人をミックスしたキャスト陣についての質問。

A: アグスティは仲間のプロの俳優を呼びました。フェルナンド(・エステソ、ラモンおじさん)とは既に仕事をしていて、彼らは友達でした。一方子供たちはカメラの前に立つのは初体験で集中させるのが難しかった。しかし私とは最初から馬が合いました。私は二人に登場人物の名前で呼ぼうと提案しました。私のことをスシ以外のヤヤ(おばあちゃん)、ロリ、アブ(祖母abuela)など好きに呼んでいいと彼らに伝えました。まるでゲームのようでした。

    

        

      (ラモンおじさん役のフェルナンド・エステソ、フレームから)

 

Q: あなたはロリと同じようにアスリートでしたか。

A: まさか! 若いころは陸上競技が好きでしたが、最近はスポーツをしておりません。最後にやったのが卓球です(笑)。

    

       

              (ゴールのテープを切るロリ)

   

Q: 監督とお別れができたかどうかの質問。

A: 撮影終了後、中断していた化学療法を再開していたマドリードで会いました。フィルム編集はほぼ終わっていて、完成して直ぐ亡くなりました。それは信じられないほどの努力でした。私はマドリードで別れを告げました。彼に感謝し抱擁しました。私の演技がどうだったかより、彼の状態が心配でした。撮影中は楽しい時間を過ごせました。彼は生き生きとして、物事をじっくり説明し、模範を示し、皆を巻き込んでしまいました。

 

★ラ・バングアルディア紙以外のインタビュー記事も何紙か読みましたが、なかでこれが一番纏まっておりました。冒頭のシーンで祖母と孫が一緒に歌うバスクの子守歌「Cinco lobitos」が流れるようですが、上述したようにサンチェスは、同じ名前の映画「Cinco lobitos」に祖母役で出演していました。偶然の結果そうなったということです。脚本は映画より前に書かれたもので、サンチェスは「脚本を読んだとき偶然以上の前兆のようなものを感じた」と語っています。    

 

★共同執筆者のマリオ・トレシーリャス(バルセロナ1971)が、本作をベースにしたコミック版 Loli tormanta を上梓、330日に書店の棚に並びました。彼は作家兼脚本家、またテコンドーのフライ級元チャンピオン、バルセロナ県サン・クガのスペインチームのメンバーでした。その後、広告ディレクター、映画とコミックの脚本家など幾つもの職業を経て、4年間「エル・ペリオディコ」のコラムニストでした。2008年、世界中の子供たちと一緒にアニメーションを制作するプロジェクト「PDA-films」を設立、国際コンペティションでも受賞しています。2009年、グラフィックノベル Santo Cristo2010 El hijo2015 DreamTeam は現在フランスで映画化が検討されているということです。2019年には El original が出版された。

    

         

              (Loli tormantaの表紙

 

キャスト紹介フェルナンド・エステソは、ビリャロンガの「Incerta glòria」に出演、どちらかというと映画より脇役としてTV出演が多い。2017年アルフレッド・コントレラスの「Luces」で刑事役を演じ、ラティノ賞2018男優賞を受賞した。盟友ビリャロンガとカルロス・サウラを立て続けに失い、ゴヤ賞短編ドキュメンタリー賞のプレゼンターを務めた折には、あちらの二人に向けて「もう直ぐそちらに行くから、映画撮るなら私の役も忘れないでくれよ」と語りかけた。

 

★もう一人のベテランセルソ・ブガーリョ(ガリシアのポンテベドラ1947)の一番知名度のある映画はアメナバルの『海を飛ぶ夢』でしょうか。彼は主人公の父親役でゴヤ賞2005助演男優賞を受賞した。他にフェルナンド・レオン・デ・アラノアの『月曜日にひなたぼっこ』や「El buen patrón」、ホセ・ルイス・クエルダの『蝶の舌』、マヌエル・ウエルガの『サルバドールの朝』など、字幕入りで見られる映画に出演している。

    

           

       (父親トマス役のセルソ・ブガーリョとスシ・サンチェス)

 

★女優陣では、ロッシおばさん役のぺパ・チャロ(マドリード1977)は、ビリャロンガの『アロ・トルブキン』、TVムービー「Carta a Eva」に出演している。ピラール役のメテオラ・フォンタナ(ベローナ1958)は、『ハウス・オブ・フラワーズ:ザ・ムービー』(Netflix)、『バルド』など。今回女優とキャスティングを掛け持ちしているカルメン・ロペス・フランコはキャスティングに軸足をおいているようです。

      

          

     (スシ・サンチェス、ペパ・チャロ、後方フェルナンド・エステソ)

   

カタルーニャとバスクの仲間が参加した本作が、いずれ本邦でも鑑賞できることを願っています。アグスティ、あなたがいなくなっても、他の人があなたの映画を守ります。じゃ、またね。 


ビクトル・エリセの新作「Cerrar los ojos」、カンヌ映画祭でプレミア2023年04月26日 17:20

 エリセの新作「Cerrar los ojos」がカンヌ・プルミェールにノミネート

        

              

    (今年のメインビジュアルはカトリーヌ・ドヌーヴ、1968年の『別離』から)

 

★カンヌの季節が巡ってきました。第76回となるカンヌは昨年に続いて5月開催です(516日~27日)。今年はスペイン語映画はコンペティション部門には見当たりません。しかし2021年に新設された「カンヌ・プルミェール」部門にビクトル・エリセCerrar los ojos」が選ばれました。このセクションには前年ロドリゴ・ソロゴジェンの『ザ・ビースト』が出品されていました。本作については昨年アウトラインを紹介しています。日本からは北野武6年ぶりとなる本能寺の変をテーマにした『首(KUBI)』(秋公開予定)が選ばれているように、コンペティション枠には漏れたが、そうかといって新人枠の「ある視点」部門にも該当しない、しかしどうしても落とせないベテラン監督の作品が選ばれるということです。エリセ82歳、北野76歳、老いても元気なのが嬉しい。

    

      

        (撮影中のエリセ監督、ホセ・コロナド、マノロ・ソロ)

 

★ノミネート発表は現在も進行中らしく、424日に追加作品の発表がありました。なかにカンヌ・プルミェール部門に、『触手』以来沈黙していたメキシコのアマ・エスカランテの「Perdidos en la noche」と『約束の地』が公開されたアルゼンチンのリサンドロ・アロンソの「Eureka」が含まれていました。

       

★「ある視点」には、アルゼンチンのロドリゴ・モレノ1972)の「Los delincuentes / The Delinquents」(アルゼンチン・ブラジル・ルクセンブルク・チリ)、カンヌは初参加ですがベルリン映画祭他での受賞歴をもつ中堅監督、脚本家。2006年の「El custodio」はベルリンFFでアルフレッド・バウアーを受賞、サンセバスチャン映画祭ホライズンズ・ラティノ部門スペシャルメンション、他ボゴタ、ハバナ、グアダラハラ、リマ各映画祭で監督賞を受賞している。もう一人がチリのフェリペ・ガルベス(サンティアゴ1983)の長編デビュー作「Los colonos / Les colons / The Settlers」(チリ・アルゼンチン・オランダ・フランス・デンマーク)の2作です。短編「Rapaz」(18)は、カンヌ映画祭併催の「批評家週間」に正式出品されている。他に「Silencio en la sala」(09)、既に短編で実績を残している若手監督、フィルム編集者である。

   

             

     

 (上段ロドリゴ・モレノ、下段フェリペ・ガルベス)

 

★短編部門には、ペドロ・アルモドバルの短編「Strange Way of Life / Extraña forma de vida」(スペイン、30分)が選ばれています。アルモドバルの映画に出ることが夢だったというチリ出身のペドロ・パスカルとイーサン・ホーク主演のネオウエスタン、監督2作目となる英語劇。制作は監督自身の制作会社エル・デセオとファッションブランドのサンローラン・プロダクション、ということで衣装デザインはアンソニー・ヴァカレロによるサンローランが手掛ける。映画界に乗り出したようです。

 

★撮影監督はホセ・ルイス・アルカイネでアルメリアの砂漠で撮影されました。音楽は14作も監督とタッグを組んでいるアルベルト・イグレシアス、アルモドバル映画の常連さんが担当します。お互いに愛し合っている7人の男性が出てくる奇妙なウエスタンだそうです。タイトル「奇妙な生き方」はポルトガルのファドの女王アマリア・ロドリゲスの「Uma estranha forma de vida」から採られている。

     

        

           (イーサン・ホーク、監督、ペドロ・パスカル)

 

★纏まった情報が入手でき次第、追加作品も含めて別途アップを予定しています。エリセ監督の新作は昨年ご紹介していますが、キャストも出揃いましたので、改めて加筆します。何しろ30年ぶりの長編4作目ですから公開を期待してアップしたい。『ミツバチのささやき』の少女、アナ・トレントもクレジットされています。

Cerrar los ojos」の紹介記事は、コチラ20220715

 

ビクトル・エリセの長編4作目「Cerrar los ojos」*カンヌ映画祭20232023年04月29日 10:13

         カンヌに間に合ったエリセ監督30年ぶりの新作「Cerrar los ojos

 

★長編4作目となるビクトル・エリセの「Cerrar los ojos」については、昨年7月に大まかな作品紹介をしておりましたが、秘密裏に制作しているということで、まだIMDbもアップされておらず、キャスト陣も撮影中に謎の失踪をする俳優役のホセ・コロナド、映画監督役のヒネス・ガルシア・ミリャン、立ち位置が分からないマリア・レオンの3人しかアナウンスされておりませんでした(最終的には監督役はマノロ・ソロが演じる)。カンヌを視野に入れて進行中ということでしたが、凝り性の監督ゆえ完成できるかどうか明確でなかったので、映画祭の芸術監督であるティエリー・フレモーの気配りも大変だったようです。パルムドールを競うコンペティション部門でなく、2021年新設されたカンヌ・プルミェール部門になったのが残念と言えば残念です。以下に1992年の『マルメロの陽光』後のエリセ監督のフィルモグラフィー、共同執筆者は『悪人に平穏なし』でゴヤ賞を受賞しているミシェル・ガスタンビデ、主演のホセ・コロナド、ヒネス・ガルシア・ミリャンの紹介などしています。

Cerrar los ojos」の記事紹介は、コチラ20220715

ビクトル・エリセのフィルモグラフィー紹介は、コチラ20220725  

 

         

 

  「Cerrar los ojos」(映画祭タイトル「Fermer les yeux」「Close Your Eyes」)

製作:Tandem Films / Pecado Films / La mirada del adiós AIE / Pampa Films /   Nautilus Films  協賛 R TVE / Movistar/ Canal Sur / ICAA /  EiTB Euskal Irrati   Telebista /マドリード共同体 / アンダルシア評議会

監督:ビクトル・エリセ

脚本:ビクトル・エリセ、ミシェル・ガスタンビデ

撮影:バレンティン・アルバレス

音楽:フェデリコ・フシド

編集:アスセン・マルチェナ

美術:クル・ガラバル

音響:イバン・マリン、(ポストプロダクション)フアン・フェロ

キャスティング:ピラール・モヤ

衣装デザイン:エレナ・サンチス

製作者:クリスティナ・スマラガ、ホセ・アルバ、(エグゼクティブ)オディレ・アントニオ≂バエス

 

データ:製作国スペイン=アルゼンチン、スペイン語、2023年、ドラマ、撮影地グラナダのカステル・デ・フェロ、アルメリア、アストゥリアス、マドリード、クランクイン202210月。配給スペインはアバロン、国際はフィルム・ファクトリー独占配給

 

キャスト:ホセ・コロナド(失踪した俳優フリオ・アレナス)、マノロ・ソロ(ミゲル・ガライ監督)、ヒネス・ガルシア・ミリャン、アナ・トレント、マリア・レオン、ソレダード・ビジャミル、ジョセップ・マリア・ポウ、ペトラ・マルティネス、マリオ・パルド、フアン・マルガージョ、エレナ・ミケル、フェルナンド・ウスタロス(バニョス刑事)、他

     

  

    (上段左から、監督、ホセ・コロナド、ソレダード・ビジャミル、

     下段左から、マリア・レオン、アナ・トレント、マノロ・ソロ)

 

ストーリー90年代活躍していたスペインの俳優フリオ・アレナスは、映画の撮影中に忽然と姿を消します。彼の遺体は発見されませんでしたが、警察は彼が海沿いの崖で事故にあったと結論づけます。30年もの後、謎を掘り起こすテレビ番組の結果として彼は現代に戻ってきます。彼の親友でもあるミゲル・ガライ監督が撮影した最後のシーンがスクープされます。未完成の映画の始まりと終わり。

 

★製作はタンデム・フィルムズ(パブロ・E・ボッシ)を介してラ・ミラダ・デル・アディオスのクリスティナ・スマラガがメインになり、アンダルシアのペカド・フィルムズのホセ・アルバオディレ・アントニオ≂バエス、アルゼンチンのパンパ・フィルムズ、エリセ自身の制作会社ノーチラス・フィルムズが手掛けている。協賛は上記の通りですが数の多さに驚きました。

 

★主人公は、3年の年月をかけたプロジェクトが資金の関係で頓挫して、世界から引きこもった監督自身の分身とみなすこともできるわけです。ならば自分自身を克服するためのリベンジが必要ではないでしょうか。詳細は分かりませんが、マノロ・ソロがエリセの特殊なバージョンを演じるようなので、興味がそそられます。他に『海を飛ぶ夢』で神父役のジョセップ・マリア・ポウ、『だれもが愛しいチャンピオン』でソーシャルセンターの責任者を演じたフアン・マルガージョのベテラン演技派が脇を固めています。

 

★女性陣はオール立ち位置が目下分かりませんが、『スリーピング・ボイス~沈黙の叫び~』のマリア・レオン、アルゼンチンからは『瞳の奥の秘密』や『偽りの人生』のソレダード・ビジャミル、『マリアの旅』でフェロス主演女優賞を受賞したペトラ・マルティネス、彼女はマルガージョと結婚しており、別れていなければ夫婦で出演していることになる。そしてアナ・トレントのクレジットは、私たちを彼女の子供時代に引き戻し、『ミツバチのささやき』の美しいシーンを思い出させる。

   

            

            (撮影中のエリセ監督とアナ・トレント)