ダニエル・サンチェス・アレバロの新作*サンセバスチャン映画祭2019 ㉒ ― 2019年09月21日 07:24
新作「Diecisiete」はセクション・オフィシアルのコンペティション外で上映

★ダニエル・サンチェス・アレバロ(マドリード1970)の6年ぶりの新作「Diecisiete」は、スペイン映画としてはNetflixオリジナル作品第4作目となる。2018年9月クランクインした折にざっと紹介しておきましたが、コンペティション外とはいえセクション・オフィシアルで上映が決まりました。サンセバスチャン映画祭はNetflix作品を排除しない方針、ただしセクション・オフィシアル部門でNetflixオリジナル作品が上映されるのは、本作が初めてということです。映画祭終了後の10月4日からスペイン限定ですが劇場公開もされ、同月18日にNetflixのストリーミング配信開始がアナウンスされています。
*「Diecisiete」の作品&監督キャリアの記事は、コチラ⇒2018年10月29日

(左から、ナチョ・サンチェス、監督、ビエル・モントロ、SSIFF 2019の発表会、7月19日)
「Diecisiete」
製作:Atípica Films / Netflix(スペイン)
監督:ダニエル・サンチェス・アレバロ
脚本:ダニエル・サンチェス・アレバロ、アラセリ・サンチェス
音楽:フリオ・デ・ラ・ロサ
撮影:セルジ・ビラノバ
編集:ミゲル・サンス・エステソ
キャスティング:アナ・サインス・トラパガ、パトリシア・アルバレス・デ・ミランダ
衣装デザイン:アルベルト・バルカルセル
メイクアップ&ヘアー:アナ・ロペス=プイグセルベル(メイク)、ベレン・ロペス=プイグセルベル(ヘアー)、マリア・マヌエラ・クルス(メイク)
プロダクション・マネージメント:アリシア・ユベロ、イバン・ベンフメア⋍レイ
視覚効果:アナ・ルビオ、クリスティナ・マテオ、他
製作者:ホセ・アントニオ・フェレス、クリスティナ・サザーランド
データ:製作国スペイン、スペイン語、2019年、ドラマ、サンセバスチャン映画祭2019コンペティション部門外、スペイン限定公開10月4日、Netflixストリーミング配信開始10月18日
キャスト:ビエル・モントロ(エクトル)、ナチョ・サンチェス(兄イスマエル)、ロラ・コルドン(祖母クカ)、カンディド・ウランガ(司祭)、イチャソ・アラナ(エステル)、ホルヘ・カブレラ(センター教官)、チャニ・マルティン(従兄弟イグナシオ)、イニャゴ・アランブル(ラモン)、マメン・ドウチ(裁判官)、カロリナ・クレメンテ(従姉妹ロサ)、アーロン・ポラス(パイサノ)、ハビエル・シフリアン(自動車解体業者)、ダニエル・フステル(ガソリンスタンド員)、パチ・サンタマリア、他
ストーリー:17歳になるエクトルが少年センターに入所して2年が経つ。動物を利用して社会復帰を目指すセラピーに参加する。そこでエクトルと同じように内気で打ち解けない犬オベハと出会い、離れられない関係を結ぶようになる。ところがある日、オベハが姿を消してしまう。飼い主にもらわれていったからだ。エクトルは悲しみに暮れ、彼を探しにセンター逃亡を決心する。このようにして、兄イスマエル、祖母クカ、1匹の犬、1頭の雌牛などを巻き込んで予想外の旅が始まることになる。カンタブリアの景色をバックにしたロード・トリップ。

(性格が対照的な兄弟、イスマエルとエクトル)
★エクトルは祖母クカが入所している養護施設に潜んでいたのを探しに来た兄イスマエルに発見される。早くセンターに戻らなければ少年でいられなくなる、というのは18歳の誕生日目前だったからだ。「17歳」というタイトルには意味があったわけです。今回、フランコ時代から数々のTVシリーズに出演していたロラ・コルドンが祖母役として共演するのも話題の一つです。また主役級の2匹の犬は前もって調教されていたのではなく、家庭で飼われていたということです。性格が対照的な二人の兄弟が旅をするカンタブリアの風景、登場する動物たちの魅力も見逃せない。

(登場する1頭の雌牛というのはこれか?)
★主役エクトルを演じるビエル・モントロは、2009年短編「Angeles sin cielo」でデビュー、TVシリーズに出演していた2014年、アンドレ・クルス・シライワの「L'altra frontera」(「La otra frontera」)でアドリアナ・ヒルと母子を演じた。アルゼンチンとの合作、マルティン・オダラ『黒い雪』(17)で主役のレオナルド・スバラグリアの少年時代を演じ、妹との近親相姦という役柄と彫りの深い風貌から強い印象を残した。その他、代表作はペドロ・B・アブレウのコメディ「Blue Rai」、ダニ・ロビラがスペイン版スーパーマンになったコメディ「Superlópez」(18)にも小さい役だが出演している。評価はこれからです。

(エクトルと「僕の犬オベハ」、映画から)

(国営TV局のインタビューを受ける、監督とビエル・モントロ、2018年10月)
★イスマエルを演じるナチョ・サンチェス(アビラ1992)は、本作が長編映画初出演だが、演劇界の最高賞といわれるマックス賞の主演男優賞を「Iván y los Perros」(2018)のイバン役で受賞している。本作は、Hattie Naylor が書いたロシアのドッグ・ボーイとして知られるイヴァン・ミシュコブの実話 ”Ivan and the Dogs” を舞台化したもので、2017年にイギリスで映画化されている。4歳で親に捨てられ6歳で保護されるまで野犬と暮らしていた少年の痛ましい記憶を語る独り芝居。サンチェスは受賞当時は弱冠25歳、最年少の受賞者だった。他にTVシリーズ「El ministerio del tiempo」(16、2話)、「La zona」(17、1話)、「La catedral del mar」(18、1話)、本作はNetflixで『海のカテドラル』として配信された。

(独り芝居「Iván y los Perros」のナチョ・サンチェス)

(第21回マックス賞の授賞式のナチョ、2018年6月18日)
★6年ぶりの長編ということは、そのあいだ監督は何をしていたのか。第2作目となる ”La isla de Alice”(2015年刊)というスリラー小説を書いていた。8万部も売れたそうで、賞は逃したが第64回プラネタ賞の最終候補にもなった。監督と脚本家を兼ねるのは昨今では珍しくないが、作家となるとそう多くはない。何はともあれ映画界に戻ってくれたのは喜ばしい。
★フィルモグラフィー紹介は前回の記事とダブるが、脚本家として10年のキャリアを積んだ後、長編デビューした『漆黒のような深い青』(06)がゴヤ賞新人監督賞を受賞した後の躍進は目覚ましいものがあった。『デブたち』(09)、『マルティナの住む街』(11)、「La gran familia española」(13)、そして沈黙した。やっと5作目「Diecisiete」が登場した。もともと脚本家としてTVシリーズ「Farmacia de guardia」(95、4話)で出発しており、デビュー作まではTVシリーズの脚本を執筆しながら短編を撮っていた。なかにはゴヤ賞短編映画賞ノミネーション、オスカー賞プレセレクション、「La culpa del alpinista」のようにベネチア映画祭2004コンペティションに選ばれた短編もある。秋開催のラテンビートに来日したこともあり、本邦でもお馴染みの監督といえる。
★スクリーンでは観られないが、Netflix 配信が始まったら続きをアップしたい。ダニエル・サンチェス・アレバロ映画の常連さん、義兄弟の契りを結んだアントニオ・デ・ラ・トーレ、ほかラウル・アレバロ、キム・グティエレス、インマ・クエスタなどが登場しない新作が待ち遠しい。
追記:Netflixでは、邦題『SEVENTEEN セブンティーン』で配信開始されました。
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