アリエル賞2014*ケマダ=ディエス9部門制覇2014年06月05日 19:12

★アリエル賞はメキシコのアカデミー賞ですが、第56回というからゴヤ賞の倍の歴史をもっている。国際的な評価とは一味違った独自の選択をすることが多いです。今年はノミネートが『エリ』14部門)とLa jaula de oro(同)の2作品に集中していて発表前から白けていたのですが、なんと『エリ』はアマ・エスカランテの監督賞だけ、後者が作品賞を筆頭に9部門制覇という結果になりました。 


La jaula de oroもカンヌ映画祭「ある視点」部門ある才能賞受賞、チリのビーニャ・デル・マル賞、アルゼンチンのマル・デル・プラタ賞、カルロヴィ・ヴァリ映画祭を皮きりに、チューリッヒ(作品賞他)、ワルシャワ、シカゴ(新人監督賞)、サンパウロ(スペシャル・メンション他)、リマ(審査員賞他)、サンセバスチャン、モレリア(新人監督・批評家・観客賞)、ムンバイ(作品賞)、ハバナなど数えきれない国際映画祭に出品され受賞しましたからイチャモンつける気はないのですが、個人的にはゴヤ賞を含めて一極集中は歓迎できない。9部門制覇にはグアダラハラ映画祭を抜いてメキシコで最も権威ある映画祭と言われるようになったモレリアで観客賞を受賞したことが今回の受賞に繋がったと推測致します。これで合計50賞になるとか(!)。

 

★『エリ』は当ブログでも何回も紹介していて飽きていましたが(笑)、メキシコのアカデミー会員も「『エリ』は沢山貰ったから、もういいかな」と考えたのか、または蓋を開けたらこうなっちゃったと思っているのか。サンセバスチャン映画祭の監督銀貝賞を貰ったフェルナンド・エインビッケのClub Sándwichはノミネートからして3部門と少なかったのですが無冠に終わりました。La jaula de oroはゴヤ賞「イベロアメリカ」部門にノミネートされた折り、若干ご紹介いたしましたが(コチラ115日)、アリエル賞9部門受賞となれば改めて紹介しておいたほうがいいでしょうか。監督の辿ってきた辛い人生と表裏一体になっていると思うから。マリア・ホセ・セッコの詩的な映像に撮影監督賞受賞は納得ですが、アマチュアの二人の若者が男優賞と助演男優賞を受賞したのには驚きました。

 

   La jaula de oroThe Golden Cage”“The Golden Dream

★データ:メキシコ=西=グアテマラ、言語:スペイン語・英語、撮影地:グアテマラ、メキシコ

2013年、102

製作共同):Animal de Luz Films / Kinemascope Films / Machete Producciones
            (作品賞受賞

監督:ディエゴ・ケマダ≂ディエス(オペラ・プリマ賞受賞/デビュー作に与えられる監督賞)

脚本:ディエゴ・ケマダ≂ディエス、ヒブラン・ポルテラ、ルシア・カレーラス (受賞)

撮影監督:マリア・ホセ・セッコ (受賞)

編集:パロマ・ロペス、フェリペ・ゴメス (受賞)

録音:マティアス・バルベイス 他 (受賞)

オリジナル音楽:レオナルド・ヘイブルム 他 (受賞)

 

キャスト:ブランドン・ロペス(フアン、男優賞受賞)/ロドルフォ・ドミンゲス(チャウク、助演男優賞受賞)/カレン・マルティネス(サラ)/カルロス・チャホン(サムエル)/エクトル・タウイテ(グレゴリオ)/リカルド・エスケラ(ビタミナ)/ルイス・アルベルティ(山刀を持った男)他

 

プロット:グアテマラのスラム街に暮らすティーンエイジャーのフアン、サラ、サムエルの三人は、よりよい生活を求めて豊かな「北」アメリカを目指す旅に出る。途中メキシコでチアパス出身の先住民チャウクに出会うが、彼はスペイン語が分からない。彼らは貨物列車「ビースト号」で、線路を徒歩で、困難に出会いながらも友情を深めていく。愛と連帯を通して痛みや恐怖や社会的不正義と闘いながら、夢見がちなフアンは本当の辛さが何であるかを知ることになる。ここでは友情や愛だけでなく、決断、出会い、言語の違いも語られる。

 

         (写真:左からフアン、男の子に変装したサラ、チャウク)

 

ディエゴ・ケマダ≂ディエス Diego Quemada-Diez 1969年、カスティーリャ・レオン州のブルゴス生れ、監督、脚本家、撮影監督、プロデューサー。アメリカン・フィルム・インスティテュートの演出&撮影科で学ぶ。卒業制作A Table Is a Table2001、短編、スペイン語題Una mesa es una mesa)は、アメリカン・ソサエティ・オブ・シネマトグラファーの撮影技術賞を受賞した。2006年に 2作として短編ドキュメンタリーI Wont to Be a Pilot(“Yo quiero ser piloto”)をケニアで撮る。貧しい12歳の少年オモンディはパイロットになることが夢である。純然たるドキュメンタリーというよりドキュメンタリー・ドラマ。本作はクリーブランド国際映画祭(オハイオ州)の短編ドキュメンタリー賞を受賞、ロサンゼルス、サンパウロ、カナリア諸島映画祭などでドキュメンタリー賞を受賞する。同年第3作として短編ドキュメンタリーLa morenaを撮る。メキシコでは最大の商港都市マサトランの市街地で貧しさから売春をして生きる女性を描く。長編デビュー作La jaula de oroに繋がる将来を描けない若者がテーマであることが分かる。

1967年に映画芸術の遺産保護と前進を目的に設立された。現在ロサンゼルスにある映画テレビ研究センターは、映画の演出や製作技能の教育機関となっている。テレンス・マリック(1967入学)、デヴィッド・リンチ(1971同)などが学んでおり、ケマダ≂ディエスも入学の動機として二人の名を挙げている。 


ケマダ≂ディエスはスペイン系メキシコの監督

★スペインの、メキシコの、スペイン系メキシコの監督、と紹介はまちまちですが、メキシコに来て約20年近くなり10年前に既に帰化しているというから正確にはスペイン系メキシコの監督です。1990年代後半にメキシコやグアテマラをたびたび訪れていたという母親が死去したのを機にスペインを離れたようですが年数にズレがある。ゴヤ賞2014「イベロアメリカ」部門にノミネートされたときのインタビューでは「17年前にスペインを離れ、最初はポーランドに行った」と語っている(1996年になる)。ある人から「イサベル・コイシェがThings I Never Told You1996、スペイン語題Cosas que nunca te dije**)をアメリカのオレゴン州で撮っていてカメラマン助手を探している。やる気があるなら便宜を図る」と言われてアメリカ行きを決めた。ケン・ローチの『カルラの歌』のカメラマン助手、その後は撮影監督のもと撮影技師としてフェルナンド・メイレーレス、アレハンドロ・ゴンサーレス・イニャリトゥ、オリバー・ストーン、スパイク・リーなどの映画に参画している。40歳を過ぎてからの長編デビューであるが、スタッフに実力ある顔ぶれを揃えられたことからも、その映画歴の長さが推しはかれます。

**ヒスパニック・ビート映画祭2004(後ラテンビートに統一)で『あなたに言えなかったこと』の邦題で上映された。 


不法移民だった監督が撮った不法移民の映画 

★先ほどのインタビュー記事の続きで、出国の理由としてスペインに映画を学ぶ学校がなかったことを挙げております。なかったわけではないが***、アメリカン・フィルム・インスティテュートのように映画をプラクティカルに学ぶ学校がなかったいう意味でしょう。他に夢だけをトランクにいっぱい詰めて、英語も喋れず星条旗の国の身分証明書もなくアメリカに入国したこと、これが「不法移民だった監督が撮った不法移民の映画」といわれる所以です。アメリカン・フィルム・インスティテュートに入るため倹約の日々であったこと、メキシコにくることになったきっかけが『MISS BALA / 銃弾』(2011、ラテンビート上映)のヘラルド・ナランホとの出会いであったことなど、たくさんエピソードを語っていますが、今回はアリエル賞受賞がテーマですから後に回すことにします。

***スペインの国立の映画学校としては、1947年に設立された国立映画研究所Instituto de Investigaciones y Experiencias CinematograficasIIEC)があり、後に国立映画学校Escuela Oficial de CinematografiaEOC)に改組された(1962年)。本校も1990年に29年間の活動を終え、トータルで約1500人の学生が卒業、スペイン映画界で活躍中のシネアスト(物故者を含めて)の多くはここで学んでいる。現在はマドリードのコンプルテンセ大学に発展吸収されています。バルセロナにもカタルーニャ映画センターがあり、メキシコからも学びにきております。

 

 類似映画は『闇の列車、光の旅』

★グアテマラを出発した三人は離れ離れになってしまい、フアンとチャウクの二人の旅になる。彼らはアメリカの大地に果たして立つことができるのか。ハリウッド映画じゃないからアルフォンソ・キュアロンの『ゼロ・グラビティ』のように無事地球に帰還できるかどうか。物語は第3La morenaの舞台となった港湾都市マサトランや麻薬カルテルの本拠地シナロアで2003年から収集し始めた600以上の証言から構成されている。事実に基づくドキュメンタリー・ドラマ(ドキュドラマdocudrama)であり、過去の類似作品としてはキャリー・フクナガの『闇の列車、光の旅』が挙げられます(コチラ20131110日)。

 

(写真:撮影中の監督、後方が二人の主人公)

★ドキュメンタリー手法を取り入れた撮影は特に評価が高く、列車内の映像もどうやって撮影したのか興味がもたれています。毎年、中米やメキシコからのアメリカへ押し寄せる不法移民40万人は尋常な数字ではないし、摘発して母国に送還する方法では本当の解決策にならない。監督も「私たちの喜びが現実にある悲惨や苦しみの中から生れたことは、人生のパラドックスです。夢を叶えるために強奪や暴力や殺人まで犯して、このルートを通らねばならないことを為政者に問いたい」と受賞インタビューで語っています。エンリケ・ペーニャ・ニエト大統領が出演俳優たちに「おめでとう」をツイッターしたそうです。ちゃんと見てくれたのかしらん。

 

★ティーンエイジャーたち四人は初出演、脇をプロの俳優が固めている。男優賞受賞のブランドン・ロペス(フアン)は、グアテマラのバリオで行ったオーデションでスカウトされた。「僕の夢は有名になることだった、この映画に出演したことで僕の夢は叶い、ここに立っている」と受賞の挨拶。チャウクに扮したロドルフォ・ドミンゲスは自分の母語ツォツィルtzotzil語しか解さなかったようで、監督も「撮影は困難を極めた」とカンヌで語っていました。カンヌでは場違いのところに連れて来られて気後れしているようだったが、アリエルでは別人のように見えます。ドミンゲスのスカウトの経緯は分からなかった。(ウィキペディアによれば、ツォツィル語はマヤ語の仲間で、話者人口はメキシコのチアパス、タバスコ、ユカタン他、グアテマラ、ホンジュラス、ベリースに35万人いるそうです。) 

                    (写真:トロフィーを手にしたブランドン・ロペス)

 

(写真:トロフィーを手にしたロドルフォ・ドミンゲス)

 

★今年のアリエル賞は、『ゼロ・グラビティ』でメキシコ初のオスカー監督となったアルフォンソ・キュアロンを風刺する言葉が発せられたようです。プレゼンターも「メキシコの映画には殆ど寄与していない、なぜなら成層圏にいるんだから」と皮肉ったようですが、これはハリウッド映画なのですから大人げないという印象をもちました。背景にはキュアロンの映画そのものより上流出身とかハリウッドでの成功に対するヤッカミがあるのでしょうね。アルモドバルが『オール・アバウト・マイ・マザー』でアカデミー賞を受賞したときのスペイン人の反応に似ているかな。ケマダ≂ディエス監督も「キュアロンやデル・トロは南から北へ移動したけど、私は北から南へ逆のルートを辿っている」と冗談言ってましたが、人のことはどうでもよいです。

 

マヌエル・マルティン・クエンカの『不遇』*セルバンテス土曜映画会2014年06月11日 13:55

6月のセルバンテス文化センター土曜映画会は、マヌエル・マルティン・クエンカのMalas temporadas(セルバンテス邦題『不遇』、英語字幕付)です。サンセバスチャン映画祭2005に正式出品されセバスチャン賞受賞、翌年ナタリエ・ポサがゴヤ賞主演女優賞にノミネートされた映画。マヌエル・マルティン・クエンカ監督については、新作Canibalが「トロント映画祭2013」(コチラ201398)や「ゴヤ賞2014」の候補になった折りにご紹介しております(201411226)。5月に一般公開(邦題『カニバル』)、スペイン映画としては電光石火の早業です。ゴヤ賞ノミネート5作品賞のうちでは一番乗りですが、ホラー映画じゃないのですよ。一方こちら『不遇』は、2005年と古く一般公開はないと思いますのでテーマに踏み込んでいます。ご注意ください! 

    Malas temporadasHard Times

製作Iberrota Films / Golem Distribucion

監督:マヌエル・マルティン・クエンカ

脚本:マヌエル・マルティン・クエンカ&アレハンドロ・エルナンデス

撮影:ダビ・カレテロ

音楽:ペドロ・バルバディリョ

                              (左から、カマラ、ポサ、監督、ポドロサ、ワトリング サンセバスチャンにて)

キャスト:ハビエル・カマラ(ミケル)、ナタリエ・ポサ(アナ)、Eman Xor Oña(カルロス)、ゴンサロ・ポドロサ(アナの14歳の息子ゴンサロ)、レオノール・ワトリング(ラウラ)、フェルナンド・エチェバリア(ラウラの夫ファブレ)、ペレ・アルキリュエ(パスクアル)他

 

*データ:スペイン、2005年、スペイン語、ジャンル:ドラマ、移民、撮影地マドリード、115

*受賞&ノミネート:マルティン・クエンカ(サンセバスチャン映画祭2005セバスチャン賞/サンタ・バルバラ映画祭Visionary 賞受賞他)、ハビエル・カマラ(フォトグラマ・デ・プラタ2006男優賞/スペイン俳優連盟2006主演男優賞ノミネート)、ナタリエ・ポサ(ゴヤ賞2006/スペイン俳優連盟2006主演女優賞ノミネート他)、レオノール・ワトリング(フォトグラマ・デ・プラタ2006女優賞ノミネート)

 

ストーリー:マドリードの中心街で暮らすミケルとアナとカルロスの物語。生徒の全員が答案用紙に集中している、いや一人だけ白紙のまま窓越しに揺れる樹々を眺めている、アナの息子ゴンサロだ。アナは移民援助のNGOで他人の不幸にかまけて息子や自分を置き去りにして働いている。現実を生きていない亡命キューバ人のカルロスはアナのかつての恋人、カルロスの今の愛人ラウラは事故で両足不随、無償の愛をラウラに捧げている夫のファブレ、6年の刑期を終えてたった今マドリードに戻ってきたミケルは同房だったパスクアルと話し合わねばと考えている。彼の生きがいはチェス、物静かな謎に満ちたミケルはカルロスと偶然同じアパートの住人になる。第二のチャンスを求めて都会を彷徨する群集劇。唯一の解決策は進むべき道を見なおすこと、それは予期しないかたちでやってくるだろう。 (文責:管理人)

 

風景から人物へ

マルティン・クエンカの映画は「風景に始まりやがて登場人物に移動していく」と言われるように、背景が重要な役目をしている。本作でもホームに佇むアナ、バラハス空港で飛行機が着陸するのを見上げているカルロス、出所して荒涼とした一本道を歩いてくるミケル、三人は別々の風景から現れ、やがてカルロスを接着剤にして結びつく。この映画はロバート・アルトマンが編み出したという群集劇、スペインでは合唱劇(pelicula coral)と言われている。セスク・ガイのEn la ciudad2003)がよく引き合いに出されるが、必ず主軸となる人物の存在がある。本作では主軸の三人が冒頭の数分で鮮明になり、登場する人物の多さにも拘わらず、風景と一体化して他と交わることがない。

 

★室内の描写も重要で、ミケルが6年振りに帰宅するアパートの描写から彼の過去が少しずつ明らかになっていく。男の子がチェスをやっている写真、大小二つのトロフィー、198710月セビーリャで開催されたチェスの世界選手権のポスターなどが映し出される。しかしどんな罪で収監されたのか、どうしてパスクアルを追い回すのか直ぐには分からない謎の人物がミケル。分かるのは葉巻が好きなこと(これがカルロスに繋がっていく)、チェスに情熱をもっていること、収監が彼を別の人間に変えたことだ。カマラの細い鼻、すがるような同時に脅すような目、黒いひげに蔽われた唇、演技なのか地でやってるのか不思議な気分になってくる。彼を初めて起用した監督は、「日を追うごとに彼の真摯な演技に打たれた」と語っている。

 


因みにこのひげはイサベル・コイシェの『あなたになら言える秘密のこと』(2005)で気に入って本作にも採用したとか。演技に完璧を求めるタイプだがメソッドに縛られない、どんな役柄でも地かなと思わせるカメレオン俳優、「ゴヤ賞2014」ダビ・トゥルエバの新作で念願の主演男優賞を受賞した。もう一人のカメレオン俳優アントニオ・デ・ラ・トーレといい勝負、マルティン・クエンカは新作『カニバル』で彼を主役に抜擢、彼の隠れた才能を引き出した。

 

自己欺瞞が再生を阻んでいる

★カルロス(Eman Xor Oña)は現実を生きていない。心を開かないでずっと逃げつづけている。亡命キューバ人にとって同国人は敵か味方か見極めねばならない、がっしりした肩に鎧を着け身構えている。危険な密売に関わっている、生き残るためにそうしている。壁にパイロットの制服を身に着けた写真を飾っており、過去の自分から抜け出せない。5年前キューバからスペインに来た、これは事実だろうが、嘘でかためた自己欺瞞の人がカルロス、愛と憎しみでラウラと寝ているのだが、いずれ終りがあることを知っているからだ。マイアミから一本の電話が掛かってくる、航空学校の教師の仕事があるという、果たしてチャンスを掴むことができるのだろうか。自己欺瞞はテーマの一つか。(写真:孤独に耐えるカルロス)

 

 

カルロスを亡命キューバ人にしたのは、共同脚本家アレハンドロ・エルナンデスが同国人だからでしょう。監督はドキュメンタリーEl juego de Cubaで既にコンビを組んでいます(フィルモグラフィー参照)。カルロスには2000年にスペインに移住したというエルナンデスが投影されているように思います。キューバ革命を外から見る、現在のキューバ、キューバ人に対する想いがカルロスや友人のセリフに垣間見える。群集劇では登場人物のなかに自分を発見できるのだが、カルロスと自分を重ねられる人は少ないでしょう。私たちは亡命者ではないからだ。キャリアは昨年のラテンビートで再上映されたフェルナンド・トゥルエバのアニメ『チコとリタ』(2011)のチコのボイス、エルネスト・ダラナス**の『壊れた神々』(2008、ラテンビート2009)、リゴベルト・ロペスのRoble de Olor2004)でデビュー以来、キューバ映画に多く出演している。

 

 目は口ほどに物を言う

★本作で言葉以上に重要なのが≪視線≫である。過去の経緯が省かれているうえ、セリフが少ないので片時もスクリーンから目が離せない。監督によると、この目の演技ができる俳優を選んだという。その一人が、アナの引きこもり息子ゴンサロのゴンサロ・ポドロサ、本作でデビューした。起用した条件が神秘性と目の演技力の二つ、この二つの素質は役者として欠かせないからだ。本作で重要なのは言葉でなく目に語らせることだったから。ゴンサロに何がしたいか誰も尋ねてくれない。母親アナの問題は息子の危険信号をキャッチできないほど他人の問題にエネルギッシュに没頭していること、それが人生で最も重要だと考えていること。アナの問題が一番深刻、なぜなら自分や家族を顧みないことが問題だと思っていないからだ。息子の突然の引きこもりにバランスを失い歯車は逆回転を始めてしまう。アナは初めて自分と息子に目を向ける。カルロスに導かれたミケルとゴンサロは、チェスを仲立ちに再生できるのだろうか。

 

アナ役のナタリエ・ポサ Nathalie Pozaは、1972年マドリード生れ。テレビ界で活躍の後El otro lado de la cama2002で映画デビュー、マルティン・クエンカのLa flaquesa del bolcheviqueに出演。ゴヤ賞はダビ・セラーノのDías de fútbol2003)で助演女優賞、マヌエル・マルティン・クエンカのMalas temporadas2005)で主演女優賞、マリアノ・バロソのTodas las mujeres2013)で助演女優賞にノミネートされている実力派。アナと同じように力惜しみしない、守りに入らない女優です。監督も彼女と出会えたことは「贈り物だった」と語っています。バロソの新作Todas las mujeresが紹介されるといいのですが、すべて未公開です。 

 
                       (写真:アナに扮したナタリエ・ポサ)

★ラウラを演じたレオノール・ワトリングも目の演技ができる強固な意志をもっている女優。我儘な王女のように振舞い、同時にそういう自分を蔑み痛めつけている。愛していないが一緒に暮らす夫ファブレと生きるしか仕方がないのか。彼女は歌手としても有名ですが、本作でも事故前のビデオ映像のなかで彼女の歌を聴くことができます。アルモドバルやアレックス・デ・ラ・イグレシアの映画でお馴染みですが、美人に溺れず、必要ならヌードも辞さない潔い勇気ある女優、カンデラ・ペーニャと一脈通じるところがある。 

                                   (写真:ラウラに扮したレオノール・ワトリング)


★ミケルより早く娑婆に戻ったパスクアルは早く過去を葬りたい。ミケルとは二度と接触したくないのに執拗に追ってくる。あそこで起こったことはすべて消し去りたい、新しい人生が始まっているのだから割り込んでこないで欲しい。しかし彼の心は恐怖に慄いている。彼の鋭い視線、どすの利いた太い声、強さのなかに脆さを隠しているパスクアル役にペレ・アルキリュエはぴったりです。
 

                       (写真:パスクアルとミケル)

*ペレ・アルキリュエPere Arquilluéは、1967年バルセロナ生れ。テレビでデビューしたこともあってTVドラのシリーズ出演が主です。それに脇役が多いから出演本数のわりには馴染みがない俳優。日本紹介はよく調べてないが、カルロス・サウラの『サロメ』(2002)で監督に扮した1本だけかもしれない。未公開ではセスク・ガイのEn la ciudad、フェルナンド・レオン・デ・アラノアのPrincesas2005)、最近ではナチョ・G・ベリリャのQue se mueran los feos2010)など、評価の高い作品に出演している。

 

監督紹介&主なフィルモグラフィー

マヌエル・マルティン・クエンカManuel Martin Cuenca1964年アンダルシアのアルメリア生れ。グラナダ大学の文献学、マドリードのコンプルテンセ大学で情報科学を専攻。


2001年製作のドキュメンタリーEl juego de Cuba2001The Cuban Game)がマラガ映画祭ドキュメンタリー部門銀のジャスミン賞」、ニューヨーク映画祭2003ベスト・ドキュメンタリー「金のリンゴ賞」を受賞した。キューバの国民的スポーツ「ベースボール」を通して、米国との相関関係、小さな島国に起きている矛盾のなかでキューバ革命を生きている国民、選手の成功と失敗が語られる。ホルヘ・ペルゴリア、ルイス・アルベルト・ガルシア他出演。共同脚本はアレハンドロ・エルナンデス、ナレーターはメルセデス・サンピエトロと豪華版(アリスタラインLugares comunes2002、ピラール・ミローEl pájaro de la felicidad1993などが代表作)。 


○長編第1La flaquesa del bolchevique2003The Weakness of the Bolshevik)はアンジェ・ヨーロピアン・ファースト・フィルム映画祭2004(仏)で観客賞を受賞、ゴヤ賞2004では脚色賞をロレンソ・シルバと共にノミネートされた。ロレンソ・シルバの小説の映画化。「欲求不満を抱えたビジネスマン(ルイス・トサール)と聡明な美少女(マリア・バルベルデ、デビュー作)に突然襲いかかる悲劇」。他にナタリエ・ポサ、ルベン・オチャンディアノ。

 


2Malas temporadas略)

 

3La mita de Oscar2010Half of Oscar)は、マイアミ映画祭2011スペシャル・メンションを受賞した。トロント、ハバナ、ヒホンなどの国際映画祭に出品された。「一人暮らしのオスカル(ロドリゴ・サエンス・デ・エレディア)は、アルメリアの製塩所のガードマン、帰宅して最初にすることは空の郵便受けを見ることだ。ある日この単調な日常がアルツハイマーの祖父の死で破られる。パリ暮らしの妹(ベロニカ・エチェギ)とは2年も会っていない。知らせを受けて恋人とやってきた妹とオスカルには口に出せない秘密があるのだ」。他にアントニオ・デ・ラ・トーレ、マヌエル・マルティネス・ロカほか。共同脚本はアレハンドロ・エルナンデス、撮影監督ラファエル・デ・ラ・ウスの評価が高く、アルメリアのカボ・デ・ガタ(猫岬)で撮影された風景は、物言わぬ登場人物の一人である。


4Caníbal2013『カニバル』)は、ウンベルト・アレナルの短編を自由に翻案して映画化したサイコ・スリラー。(公開中につき省略)

 

アレハンドロ・エルナンデス Alejandro Hernandez 1970年ハバナ生れ、作家、脚本家、プロデューサー。18歳のときアンゴラ戦争に戦場ジャーナリストとして従軍する。1996年、処女作“La Milla”をキューバと米国で出版、第2作“Algún demonio”(2007)、第3作“Oro ciego”(2009)。2000年よりスペイン在住、カルロス三世大学で教鞭をとる。日本で紹介された作品はベニト・サンブラノの『ハバナ・ブルース』(2005、ラテンビート上映)、『カニバル』、未公開ではLa mita de Oscar、マリアノ・バロソのLo mejor de Eva2011)、Todas las mujeres2013)など。

 

**Eman Xor Oñaは出演しておりませんが、エルネスト・ダラナスの最新作Conductaは、マラガ映画祭2014ラテンアメリカ部門のグランプリ作品、キューバICAICの資金で今年製作された唯一の作品です。ちょっとアレナスの名作『苺とチョコレート』にテーマが似ています。マラガ映画祭2014でもご紹介しておりますが、「Marysolさんブログ」で紹介されております。

 

 

ロドリーゴ・ソロゴイェンの”Stockholm”2014年06月17日 11:41

★ロドリーゴ・ソロゴイェンの5年振りとなる新作Stockholmは、マラガ映画祭2013の正式出品映画です。デビュー作8 citasがマラガ映画祭2008で紹介されて以来テレビに戻っていた。新作は監督賞、共同脚本執筆のイサベル・ペーニャと新人脚本賞、アウラ・ガリードが女優賞と3賞を制覇しました。これが快進撃の始まりでしたが、高い評価にも拘わらず配給元が見つからず「映画祭だけの映画」の陰口も聞こえてきて、今もってスペインでさえ未公開です。もっとも彼と同じ世代は映画館に足を向けないのですが。

 


★本ブログではアウラ・ガリードについては新年の挨拶とゴヤ賞2014予想記事の主演女優賞の項113日)、監督と新人男優賞を受賞したハビエル・ペレイラについては新人監督賞・新人男優賞の項114日)でご紹介しています。最近ルーマニアのトランシルバニア映画祭でグランプリを受賞したこと、低予算(6万ユーロ!)でも映画製作が可能であること、ネットでの資金集めなど、大資本に頼らないで危機を乗り越えようとしている若手監督にエールを送りたいと改めてアップいたします。

 

ルーマニアのトランシルバニアで2002年にスタートした比較的新しい国際映画祭。東京国際映画祭と同じように若手育成を目的にデビュー作から2作目までの監督がコンペティション対象者。ルーマニアは初代大統領のチャウシェスクの独裁政権が24年間も続き、ルーマニア革命で1989年末に銃殺刑に処されたことは世界が知ってることです。映画後進国といってもよいかと思いますが、カンヌ映画祭2007のパルムドールを受賞したクリスチャン・ムンジウの『4ヶ月、3週と2日』など近年の躍進は目覚ましく、ラテンアメリカ諸国からもサンダンスやロッテルダム映画祭と同じように本映画祭の応募が増えてきています。2012年のスペイン語映画では、ドミンガ・ソトマジョール・カステージョのデビュー作『木曜から日曜まで』(チリ≂オランダ、東京国際FF上映邦題)の撮影監督バルバラ・アルバレスが撮影賞を受賞、『ウイスキー』や『幸せパズル』を撮っているベテラン。監督はロッテルダムのタイガー賞を受賞しています。2013年ではアドリアン・サバのEl limpiador(ペルー)が国際批評家連盟賞、アナ・ゲバラ&レティシア・ホルヘのTanta agua(ウルグアイ≂メキシコ他)が審査員特別賞を受賞、前者は1回イベロアメリカ・プラチナ賞男優賞部門にビクトル・プラダがノミネートされた優れた作品です(417UP)。

 

   Stockholm

製作: Caballo Films / Tourmalet Films

監督・脚本:ロドリーゴ・ソロゴイェン

脚本(共同):イサベル・ペーニャ

撮影:アレハンドロ・デ・パブロ

編集:アルベルト・デル・カンポ

 

キャスト:アウラ・ガリード(彼女)/ハビエル・ペレイラ(彼)/ロレナ・マテオ/
          ヘスス・カバ

データ:スペイン、スペイン語、2013年、撮影地マドリード・撮影期間13日間、90分       

受賞歴&ノミネート:マラガ映画祭2013(上記参照)/ゴヤ賞2014新人男優賞ハビエル・ペレイラ受賞、新人監督賞&主演女優賞アウラ・ガリードがノミネート/シネマ・ライターズ・サークル賞2014新人監督賞・女優賞・新人男優賞受賞及び作品賞・撮影賞・編集賞・脚本賞ノミネート/マイアミ映画祭20141作品コンペ部門出品/Feroz 2014作品賞受賞/サン・ジョルディ賞スペイン女優賞受賞、トランシルバニア映画祭グランプリ、主演の二人がパフォーマンス賞を受賞、その他モントリオール、トゥールーズ、ワルシャワ、モンペリエ、セルビア、ベルグラード各映画祭に正式出品された。

                    (写真:マラガ映画祭2013でのペレイラ、監督、ガリード)

 

プロット:ディスコで初めて会った<><彼女>の恋の行方。突然声をかけられた女は警戒して男になかなか心を開かない。恋に落ちてしまった男は諦めきれず<夜の廃墟>マドリード散策に誘い、やっとベッドに辿りつく。翌日<>は自分の想っていたような<彼女>でなかったことに気づく、何が起きたのか? ディスコで、しつこくなく感じも良い男に突然愛を告白されて一夜を過ごす。翌日<彼女>は自分が考えていたような<>でなかったことに気づく、何が起きたのか?

 

   キャリア&フィルモグラフィー

ロドリーゴ・ソロゴイェン(ソロゴジェン)Rodrigo Sorogoyen 1981年マドリード生れ、監督・脚本家・プロデューサー。マドリードの大学で歴史学の学士号を取得、大学の学業とオーディオビジュアルの勉強の両立を目指して映画アカデミーで学ぶ。その間3本の短編を制作して卒業。2004ECAMの映画脚本科に入り、並行してテレドラ の脚本執筆を始める。最終学年にペリス・ロマノとの共同脚本と監督のチャンスが訪れる。それが上記のデビュー作8 citasであり高い評価を受ける。本作にはフェルナンド・テヘロ、ベレン・ルエダ、ベロニカ・エチェギ、ラウル・アレバロ、ハビエル・ペレイラも出演しており、かなりの収益を上げることができた。

ECAMEscuela de Cinematografía y del Audiovisual de la Comunidad de Madridの頭文字。マドリード市が若手育成のためにスポンサーになっている。

 


その後テレビに復帰、代表作は<ローコスト>で制作したImpares2008)、Pecera de Eva2010)、Frágiles2012)など。テレドラの仕事はとても勉強になったと語っている。2012年よりStockholmの準備に入り、今回の数々の受賞を手にした。現在3作のプロジェクトが動き出しており、2015年の完成を目指して進行中である。その一つが脚本をダニエル・レモンと共同執筆しているEl presenteであり、資金が集まることを願っている。いずれバイオレンスをテーマに推理物を撮りたい。

 

「ボーイ・ミーツ・ガール」

★タイトルの<ストックホルム>って何のことですか。いわゆる「ストックホルム・シンドローム」のことでしょう。セルフ・マインドコントロール、恐怖と生存本能に基づく自己欺瞞的心理操作です。同じタイトルの映画が他にもあるのは、ちょっと興味の惹かれるタイトルだからでしょう。本作では危険な大都会の夜が醸しだすミステリアスな顔と、朝のまぶしい光線に守られた日常が対照的に映し出される。夜のあいだは無理して隠していた<彼女>の内面の問題がはっきりしてくる。数時間前には恋する男であった<>の唯一つの願いは、女が自分の視界から消えること。男は誘惑ゲームを終わりにしたいが、女は暫くつづけてもいい。「ボーイ・ミーツ・ガール」の行方はどうなるのか。 


★「二人の人間がどうやって関係を結ぶのかというテーマで映画を作りたかった」と監督。現代の若者はどうやって男と女の関係を築くのか、どこで、どのように始めるのか、ということですね。本能的な暴力が常に存在するなかで、「関係が上手くいかなくなったとき、素晴らしいのは嘘で言い逃れができたとき」とも語っている。大人の世界に入る条件は嘘をつけることだ。ここでは真実は語られず、話せば話すほど不自然さが明らかになる。

 

新しい試みwebでの資金調達の呼びかけ

★「本作はホントにミニチュアな映画です。13日間で撮影、製作費はトータルで6万ユーロでした。でも僕たちの映画の成功を信じてくれた多くの人々の支えで完成させることができました」。どういうことかと言うと、脚本を携えて次々とプロダクションの門を叩いてまわったが、脚本は突き返された。どうしても諦めきれず、「それなら自分たちで立ち上げよう」、そうしてweb verkami で資金協力を呼びかけた。40日間で8000ユーロ、最終的には13000ユーロという満足いく額になった。約300人の出資者が最少で5ユーロから最多2000ユーロと、塵も積もればナントヤラですね。お金がないから映画が作れないと嘆くだけが能ではありません。

 

★映画産業に携わっている関係者の間でディベートが盛んだそうですが、採用してくれるプロダクションがあるならそれに越したことはない。「この方法を何度も繰り返したいとは思わない」し、「スペインでは自分の世代は映画館に行かない人が多い。映画が広がるには配給会社が見つかることだが、できればテレビで放映してもらえるといい」と語っています。どの国でも配給システムは上手く機能しているとは思えないし、規模の大きいTVチャンネルが放映する映画は、かなり広範な人間を惹きつける必要がある。こういう地味な映画はその条件を満たせない。これからは「在来とは違う様式、例えばネット配信など、配給方法の新路線に順応していかねばならない」と考えているようです。

 

フェイスブックもツイッターもやらない

★日刊紙「ラ・ラソン」のインタビュアーから、自宅マンションを撮影場所にした理由を訊かれて、「僕たちは自己顕示欲の強い世代ですが、部屋を借りるお金がなかっただけで、本当は自宅での撮影は避けたかった」と語っています。フェイスブックもツイッターもやらないそうで、今時の若者にしては珍しい。

 

★キャストもスタッフも若く大体30代の半ばまで、「だからそれ以外の世代の人がどのように感じるかに関心があります」と監督。第1作がマラガで評価されたこともあって、第2作もマラガを意識していたようで、それはマラガの審査員は他と比べて若い監督に興味を示してくれるからだそうです。2014年の「金のジャスミン賞」もカルロス・マルケス≂マルセのデビュー作10.000KMでした(44UP)。

 

アウラ・ガリード Aura Garrido1989年マドリード生れ。父親は作曲家で指揮者、母親は画家、母方の祖母と叔母はオペラ歌手だったという芸術一家の出身。4歳からピアノ、5歳でバレエ、女優の道をまっしぐらに歩んできた。TVドラ・シリーズDe repente, los Gómez2009)でデビュー、映画初出演のフアナ・マシアスのPlanes para mañana2010)でゴヤ賞2011の新人女優賞にノミネート、他マラガ映画祭助演女優賞とスパニッシュ・シネマ・ムルシア・ウイークでパコ・ラバル賞を受賞している。ハビエル・ルイス・カルデラのPromoción fantasma2012)は『ゴースト・スクール』の邦題で、「スクリーム・フェスト・スペイン2013」ミニ映画祭で上映された。オリオル・パウロのEl cuerpo2012、邦題『ロスト・ボディ』)にも出演、本作での演技が認められ「ビルバオ・ファンタスティック映画祭2013」で新人に与えられるFantrobia賞を受賞。Stockholmは上記の通り。

 


ハビエル・ペレイラ Javier Pereira Collado1981年マドリード生れ。まだ32歳だが20作近い長編に出演、TVドラ、短編を含めると40本を超える。短編に出たのが16歳、テレビ界が17歳だから納得の本数か。子供のときから俳優を天職と考え、14歳でクリスティナ・ロタの演劇学校に入学して演技を学んだ。彼女は夫ディエゴ・フェルナンド・ボトーとアルゼンチンの軍事独裁を逃れて、1978年にスペインに亡命してきた女優にして舞台演出家、マリア・ボトー、フアン・ディエゴ・ボトー姉弟の母親。 


長編に限ると、代表作は今世紀に入ってからでパブロ・マロのFrío sol de invierno2004)、マロ監督がゴヤ賞2005新人監督賞を受賞した話題作、ヘラルド・エレーロのHeroína2005、マリア・リポルのTu vida en 65 minutos2006)で主役のダニを演じた。ソロゴイェンの8 citasにも参加、これが本作出演に繋がった。モンチョ・アルメンダリスのNo tengas miedo2011)、短編だがダニエル・サンチェス・アレバロのTraumalogía2007)の出演で成長したと言われ、Stockholm以降出演依頼が殺到している。サムエル・グティエレスのLa sangre de Wendy2014)、最新作はチェマ・ロドリーゲスのAnochece en la Indiaなど。2011年にはルベン・オチャンディアノが演出したチェーホフの『かもめ』で舞台に立った(舞台監督までしてるとは知りませんでした)。オチャンディアノとは、TVドラやアルメンダリスのNo tengas miedoで共演しています。彼はイシアル・ボジャインの『花嫁の来た村』(1999)で映画デビュー以来、『タパス』、『抱擁のかけら』、『ビューティフル』などでお馴染みになっていますが、ハビエル・ペレイラは多分まだ登場していないと思います。

              (写真:ゴヤ賞2014新人男優賞のトロフィーを手にしたペレイラ)

 

『プラテーロとわたし』のフアン・ラモン・ヒメネスの伝記映画2014年06月19日 17:37

★今年は『プラテーロとわたし』刊行100周年ということで、詩人フアン・ラモン・ヒメネス(18811958)の伝記映画が年末に公開されるようです。とは言っても今月クランクインしたばかりであくまで予定です。原題はLa luz con el tiempoに決定しており、監督はUna pasión singular2002でブラス・インファンテ Blas Infante の伝記映画を撮ったアントニオ・ゴンサロ1951年ラ・リオハ州の県都ログローニョ生れ、監督、脚本家、プロデューサー、映画界入りは俳優でした。 

       (左からAlex O’Dogherty、タマラ・アリアス、アルバレス=ノボア
        *セビーリャで始まった撮影シーンから)

 

6作となるUna pasión singularは、アンダルシア自由党初代党首ブラス・インファンテの伝記映画、フィクションです。現在でも「アンダルシアの父」と慕われている政治家、歴史学者、公証人といくつもの顔をもつアンダルシアのヒーロー、19367月、内戦勃発早々フランコ軍のセビーリャ占拠によって逮捕され、811日にセビーリャ郊外で銃殺刑に処された。同地に立派な記念碑が建立されている。本作は「ウエルバ・ラテンアメリカ映画祭2002」で観客賞を受賞しています。 

                   (観客賞のトロフィーを手にしたゴンサロ監督)

 

★ベニト・サンブラノの『ローサのぬくもり』の<犬と暮らす老人>を覚えていらっしゃいますか。賢い犬は覚えているが、老人のほうはちょっと・・・という方、今度は散文詩『プラテーロとわたし』の著者、ノーベル賞作家のフアン・ラモン・ヒメネスに扮します。カルロス・アルバレス=ノボアが抜擢された理由は晩年の作家に似ているから、まさかね。出会うなり恋に落ち一生涯愛し続けたという妻セノビア・カンプルビーにタマラ・アリアス、セノビアの兄弟ホセにAlex O’Dogherty、ヒメネスの若い時代(1740歳)をMarc Clotet、つまりアルバレス=ノボアは55歳から76歳で死去するまでを演じます。ということはフラッシュバックが多くなりそうです。他に『ローサのぬくもり』で共演したアナ・フェルナンデスもクレジットされています。彼女は、無責任なトラック運転手の子供も身ごもってしまう愚かな娘役でしたが、母ローサの死によって再生します。親は死ぬまで試されるという切ない映画でしたね。

 

     (アナ・フェルナンデスとアルバレス=ノボア*『ローサのぬくもり』から)

 

カルロス・アルバレス=ノボアCarlos Alvarez-Novoaは、『ローサのぬくもり』のカタログでは、セビーリャ生れと紹介されましたが、1940年ラ・フェルゲラ生れのアストゥリアスの人です。しかし30年以上前からセビーリャに住んでいますからセビーリャ人といってもいいかな。作家、舞台監督、俳優、並行して高校で文学教師もしている。法学、ロマンス語学専攻、イスパニア文献学のドクターの学位を取得している。<老人役>で東京国際FF1999の男優賞、ゴヤ賞2000で最高齢の新人男優賞を受賞した。ヒメネスについては「心気症を患い病弱で、思い込みの激しい、陰気で激しやすいエゴイスト・・・しかし一人の女性を愛し続けた感受性豊かな深い人格の持主、少し自分にも似ているところがあり、結局みんな彼に魅了され虜になってしまう」と語っている。というわけでヒメネス役にはぴったりというわけです。

 

★以前ある出版社が、同時代の作家や詩人についてヒメネスにインタビューした記事を読んだことがありますが、いくらなんでもここまであけすけに他人を貶せるかという内容で、全員が死去するまでお蔵入りにしたというものでした。その中にはロルカ、アントニオ・マチャード、ホルヘ・ギジエンなども含まれていました。1936年の内戦勃発で<あるミッション>を携えてスペインを出国して以来戻らなかったが(セノビアの故国プエルトリコで死去)、没後、遺骸は生れ故郷モゲールに二人とも埋葬された。 

     (ヒメネスの肖像が入った2000ペセタ紙幣、まだペセタだった1982年発行)

 

★『ローサのぬくもり』はオール・セビーリャでしたが、Marc Clotetはカタルーニャの出身です。セビーリャっ子のタマラ・アリアスTamara Arias1980生れ)はセノビア役について「最初から有利な条件のもとで始まりました。彼女が少女時代からアメリカ、キューバ、故国プエルトリコ各時代に渡って書き続けていた日記を読むことができたからです。そのほかフアン・ラモン、友人、知識人に宛てた書簡類には、彼女のイデオロギー、文学的趣向、矛盾も書かれていて特に役立ちました。彼女は実に自立心が強く、進取の気性に富み、自尊心の高い女性でした」とインタビューで語っていました。代表作はマリア・リポルのコメディTu vida en 65 minutos2006)ほか。演技の勉強のためロスに滞在しておりましたが、今回帰国してセノビア・カンプルビーに挑戦しています。

 

   (ソロゴイェンのStockholmで紹介したハビエル・ペレイラとタマラ・アリアス
    *
Tu vida en 65 minutosから)

 

★まだ未完成の映画、しかし激動の時代を生きた風変わりな詩人の生涯は興味ありますから、いずれ完成したらUPしたいと考えています。製作にはセノビア=フアン・ラモン・ヒメネス財団の資金援助を受けている。

 

アントニオ・バンデラス、故郷マラガに新居購入2014年06月21日 15:08

★離婚成立後アントニオ・バンデラスがしたことは、故郷マラガに新居を購入でした。アンジェリーナ・ジョリーやブリトニー・スピアーズなど大物セレブの離婚に実績をもつローラ・ワッサー弁護士のお蔭で、5000万ドルは下らないという資産も何とか決着がつくようです。メラニーがアルコールや薬物中毒の治療の入退院の度に危機説が流れましたが、これでとうとう終止符が打たれた格好です。演技がショウバイといわれる俳優といえどもオシドリ夫婦を長らく演ってるわけにはいかない、何事にも限界があるということです。メラニー曰く、「刑務所から出所したような自由を味わっている」と。2009年夏からユタ州のクリニックに入院して治療したお蔭で、アル中からも薬漬けからも解放されたとか、よかったですね。バンデラスは女好きに違いありませんが、メラニーほどあけすけなコメントはしませんでした。さぞかし天にも昇る気分を味わっているのではないかしらん。因みにオシドリは1年ごとに相手をかえる水鳥で、1年間は仲がいいそうです、聞きかじりですけど。

 

 (アルモドバルの『私が、生きる肌』(ゴヤ賞主演男優賞ノミネート)2012年授賞式での二人。     「私たちの間は上手くいっている、なにも問題はない」と離婚を否定していた)

 

★二人の縁結びの神様はフェルンド・トゥルエバの『あなたに逢いたくて』(Two Much1996)でした。だからかれこれ20年になるわけです。人気俳優同士の結婚で20年近くもったのは、二人とも見た目ほどバカじゃなかったということです。バンデラスは財テクにも長けていて不動産投資事業を展開、レストラン経営もしている。それで51億円も溜めたようです。離婚を決心したのは愛娘エステラ(ステラ)・デル・カルメンが来る9月に18歳になり大学に進学することを挙げています。これからは心おきなくマラガに帰郷できるし、長期滞在して母親孝行もできるというわけです(父親は数年前に亡くなっている。アンダルシア男は、マリア信仰とも関係あるのか概して母親孝行です)。

 

★今回購入した新居はマラガの中心地アルカサビーリャ通り沿いにあり、アルカサバ(イスラム時代の要塞)やローマ劇場に近く、ピカソ美術館(16世紀のブエナ・ビスタ宮殿を改修した美術館)も望める6階建て(日本風にいうと7階)の最上階のようです(写真下:バルコニーにアテネ風の柱が見える。目下改修工事中)。将来はマラガ美術館もできる中心地区、それより重要なのがマラガのセマナ・サンタの行列が通過する通りに面していること、この建て物の真下を通る。それで以前からこの地区に家を欲しがっており、離婚後いの一番にしたことがこの新居購入でした。

 


★バンデラスは毎年どんなに忙しい時でもセマナ・サンタには馳せつける。「出席すると約束したら必ず帰郷した」と友人たちは口を揃える。彼は大兄弟会連合Cofradias Fusionadasの会員、「悲しみと愛のマリアVirgen de Lágrimas y Favores」の聖櫃財産管理委員のことで、その一員としてセマナ・サンタには参加する。2011年、大兄弟会団体よりセマナ・サンタの開会の辞を述べる「プレゴネロpregonero」に任命された。この時はメラニーや娘も一緒に来マラガしている(写真下)。今年のセマナ・サンタには姿を見せなかったのでマラガの友人たちは「離婚は時間の問題」と感じたそうです。2013年にはメナMenaの信徒団よりマラガ名誉市民に指名されています。善き人、勤勉な働き者、国際的に活躍するマラガ人として尊敬に値する人に贈られる。スペインでの成功後ハリウッドに渡ってブレイク、一時期「ええっ、バンデラスってスペイン人だったの?」と揶揄されていましたが、ここマラガでは名士だったのです。

 

     (セマナ・サンタのプレゴネロに任命されたときの正装したバンデラス、
         メラニー、愛娘。201139日)

 

     (「十字架に架けられたキリスト像」を担ぐバンデラス、2011411日)

 

1990年代にマルベーリャにも住宅を購入している。しかし仕事の本拠地はアメリカ、現在住んでいるロスは暮らすには相応しい都市ではないので、いずれニューヨークに移住する由です。

 

 バンデラスの新作はLos 33の「スーパー・マリオ」

★スペイン語映画ではありませんが、メキシコのパトリシア・リヘンの新作Los 332014、米国≂チリ)に出演しています。アメリカ映画だから公開されるかもしれない。201085日にチリのサン・ホセ鉱山で起きた落盤事故を題材にして製作された。数字は地下700メートルのシェルターに69日間閉じ込められ無事生還した鉱夫の数。バンデラスは坑内の状況をビデオにおさめ地上に発信、ゲーム「スーパー・マリオ」の渾名をもらったマリオ・セプルベダに扮しています(似ていない)。

 

(「私たち33名は避難所で無事である」というメッセージを発信、
 これが本格的な救出活動の始まりだった)

 

★他にフランスの名花ジュリエット・ビノシュが鉱夫の姉(まったく似ていない)、スペインのガラン俳優マリオ・カサス、ソダーバーグの『チェ』で全然似ていないラウル・カストロになったブラジルのロドリゴ・サントロ、バンデラスの父親にマーティン・シーンと国際色豊かなキャスト陣です。撮影はチリとコロンビアの鉱山で行われたようですが、出演者には全員英語ができることが条件だったとか。リヘン監督は、『おなじ月の下で』(2007)がラテンビート2008で上映されたとき来日しました。 

    (写真:チリの首都サンチャゴのモネダ宮殿での製作発表会見、左から監督かな、
       バンデラス、
セバスチャン・ピニェロ大統領、ビノシェ、201421日)

 

★同じ実話に基づいてアントニオ・レシオがLos 33 de San José2010、チリ≂西)を撮っている。こちらはスペイン語でした。

 

ゴヤ賞2015新人女優賞はイングリッド・ガルシア≂ヨンソンで決まり?2014年06月26日 18:41

★まだ年後半が始まっていない段階で来年のゴヤ賞予想は早すぎますが、ハイメ・ロサーレスHermosa Juventudの主人公イングリッド・ガルシア=ヨンソンが注目を集めています。530日に封切られてから、「ゴヤ賞新人女優賞はイングリッド・ガルシア=ヨンソンで決まり」みたいな記事まで登場しました。カンヌ映画祭「ある視点」にノミネートされ、「エキュメニカル審査員賞スペシャル・メンション」を受賞した作品。既に二度にわたってUPしておりますが(54日・26日)、新しい記事も加えて再構成しておきます。まずは作品、監督紹介から。

 

(写真:笑みを絶やさないイングリッド、カンヌ映画祭にて)

 

    Hermosa JuventudBeautiful Youth

製作:Fresdeval Films /

監督:ハイメ・ロサーレス

脚本(共同):ハイメ・ロサーレス/エンリク・ルファス

撮影:パウ・エステベ・ビルバ

編集:ルシア・カサル

 

★キャスト:イングリッド・ガルシア・ヨンソン(ナタリア)/カルロス・ロドリゲス(カルロス)/インマ・ニエト(ナタリアの母ドロレス)/フェルナンド・バロナ(ラウル)/フアンマ・カルデロン(ペドロ)/特別出演トルベ

データ:スペイン、スペイン語・ドイツ語、2014年、撮影地マドリード(約5週間)、102

受賞歴:カンヌ「ある視点」正式出品、エキュメニカル審査員賞スペシャル・メンション受賞

 

★ストーリー:経済的危機から一向に抜け出せないでいる現代スペインが舞台、恋人カルロスとアマチュアのポルノ・ビデオ撮影を決心するナタリアの物語。二人は共に二十歳、美しいが運に見放されたナタリアに特別な野心はないが、生き延びるにはお金を稼がねばならない。ナタリアはカルロスの子を心ならずも身ごもっており、やがて二人は娘フリアの親になってしまう。ナタリアの両親は離婚、他に二人の姉妹もおり、母親はナタリアに援助できない。失業中のカルロスには体が不自由で世話を必要としている母親がいる。かなり厳しい現実に直面しているが、愛を語れないほど悲惨ではない。 

                    (写真:カルロスになるカルロス・ロドリゲス)

 

キャリア&フィルモグラフィー

★ハイメ・ロサーレスJaime Rosales 1970年バルセロナ生れ、監督、脚本家、製作者。同市のフランス系高校で学ぶ。経営学の学士号を取得している。映画はハバナの映画学校サンアントニオ・デ・ロス・バニョスで3年間学ぶ。その後オーストラリアに渡り、シドニーのAFTRSBEAustralian Film Television and Radio School Broadcasting Enterteinment)で学ぶ。影響を受けた監督としてフランスのロベール・ブレッソンと小津安二郎を上げています。

 

2003 Las horas del día カンヌ映画祭「監督週間」正式出品、国際映画批評家連盟賞を受賞。バルセロナ・フィルム賞(ガウディ賞の前身)、ブエノスアイレス映画祭特別審査員賞、トゥリア映画祭第1回作品賞などを受賞、ノミネート多数

2007  La soledad 『ソリチュード:孤独のかけら』 カンヌ「ある視点」正式出品、ゴヤ賞2008監督賞、トゥリア映画祭観客賞、サン・ジョルディ賞(スペイン語部門)など受賞。
(詳細コチラ

2008  Tiro en la cabeza  サンセバスチャン映画祭正式出品

2012  Sueño y silencio  カンヌ「監督週間」に正式出品

2014 Hermosa Juventud 省略

*他、1997年に 短編Virginia no dice mentira を発表、ビデオ・ドキュメンタリー、短編多数

 

★小さな町で衣料品店を営む物静かな青年の本当の姿を誰も知らない。異常な殺人者のアイデンティティを描いたLas horas del díaで鮮烈デビューして以来、ロサーレスは1作ごとにスタイルを変えている。第2作は、理不尽なバス爆弾テロで赤ん坊を失った母親の凄味のある静穏さを描いたLa soledad、第3作はETAのテロリストを主人公にした無声映画、これはドキュメンタリーの手法を使用したフィクションだが、テーマがテーマだけにサンセバスチャン映画祭は紛糾した。

 

(写真:主役のアレックス・ブレンデミュールLas horas del díaより)

 

★カンヌに持っていった第4Sueño y silencioはモノクロ、キャスト陣はアマチュアを起用した。二人の娘に恵まれ、パリで暮らす夫婦が夏のバカンスを過ごそうとエブロ川のデルタにやってくる。そして事故が起き突然長女を失ってしまう。夫婦のあいだに亀裂がはしり修復できそうにない。彼の映画には「死」が描かれることが多いが、それは「生」を際立たせるためのようです。構図の取り方は『ソリチュード:孤独のかけら』を受け継いでおり、ここでもドキュメンタリーの手法を多用、ラストシーンはモノクロを活かして素晴らしい。ブレッソンの影響を感じさせる作品。

 

 未来が描けないスペインの若者

5作目となる最新作はロサーレスによると、現代のスペインの若者には良くも悪くも未来が描けないという。「勿論、皆なが皆そうだとは言ってない、たくさんの青春があり、現実がある。そのなかで私たちは将来に行き詰まった状況を変えられずにいる、未来は黒一色に染め上げられている若者たちに焦点を当てた」。今年2月に撮影、3月にミキシングを終えたばかりでカンヌに間に合わせたという。「ほんとに小さな映画、若い人と一緒に仕事をして、自分は教師でもあり生徒でもあった」と語っています。「教えることは学ぶこと」は真理です。日本から見ると20代の失業率60%は想像できない。経験を積むチャンスがなければ、自らアクションを起こすしかない。スペインに伝統的にある移民、または豊かなドイツに出稼ぎに行くのも悪くないか。

 

   (写真:帰国後RNEスペイン国営ラジオのインタビューを受ける監督とイングリッド)

 

★「今現在、ここに存在している物語」を語りたいから、「公園や繁華街にいるたくさんの若者にインタビューして取材を重ねていった。まるでダイナミックなパズルを嵌めこむようにして脚本を組み立てた」と監督は語っています。彼らが一様に口にしたのが<お金>と失業のこと、交通費の高さ、賃金の安さ、どうやって節約するか、と話題はすぐお金の話に舞い戻っていく。スペインの若者は出口の見えない袋小路に迷い込んでいて、映画やファッションどころではないという現実だった。「政治的な映画をつくるつもりはなく、ただスペインの若者の現実を語りたいと思っただけ」、これが理解できないと日本の観客は多分登場人物のなかに入れないのではないか。

 

 今までのチームを入れ替えて

★ダルデンヌ兄弟、ケン・ローチ、アブデラティフ・ケシシュの映画が頭にあったというロサーレスは、「今までのチームをすっかり入れ替えて、若い人たちと撮影をした。私を惹きつけた若者の不確かな世界を通して、私を不安にさせていた何かと繋がろうとした」。映画のなかの若者も世界を自分たちに引き寄せるため、現実の活力を捕まえるため、より激しく、より美しくデリケートに、しかし真正面から挑んでいる。それがこの映画の強みである。若い観客は鏡に映った自分の姿と向き合うことになり、彼らが負った深い傷を発見することになる。

 

★プロの撮影監督が80%、残り20%の撮影をアマチュアに任せた、ポルノ映画の部分ですね。そのコントラストに興味が湧きます。前述したようにロサーレスは1作ごとに冒険するタイプ、ここではポルノ・ビデオ界の帝王ことトルベに協力を要請した。本名イグナシオ・アジェンデ・フェルナンデス(またはナチョ・アジェンデ)、1969年バスクのビスカヤ生れ、サンティアゴ・セグラの『トレンテ』(シリーズ234)で既に日本に紹介されています。

 

「スペインのアデル」

★「スペインのアデル・エグザルコプロス」と言われているのが、本作の主人公イングリッド・ガルシア・ヨンソン。アデル・エグザルコプロスとは、アブデラティフ・ケシシュの『アデル、ブルーは熱い色』のヒロインを演じた女優。2013年のカンヌ映画祭で監督と主演女優2人が壇上に、「パルムドールが3人の手に!」と話題になった。ケシシュはチュニジア出身のフランスの監督。ロサーレスも彼のことは頭にあったようですね。

 

長編映画の主役は初めてというイングリッド・ガルシア・ヨンソン Ingrid Garcia-Jonsson は、スウェーデンのシェレフテオ市生れのスウェーデン女優。しかし幼少時はセビーリャで育ち、のちマドリードに居を定めている。2006年から舞台俳優としてデビュー、映画はヘスス・プラサの短編 Manual for Bored Girls2011)でブロンドの少女役が初出演、代表作はマヌエル・バルトゥアルの長編Todos tus secretos2014)、アルバロ・ゴンサレスの短編 El jardinero2013)など。スペイン語の他、英語、仏語、勿論スウェーデン語ができる。(詳細はコチラ

 

★自分が「スペインのアデル」と言われているのは知らなかったようで、家族が記事を読んで教えてくれたそうです。映画のなかのナタリアとはうって変わってにこやかで冗談好きの女性。トルベと監督が一緒だったホーム用ポルノ・ビデオ撮影は、「寒くて尻込みした。トルベはずっと話し続けていて、本当に感じが良く、当たり前だが普通の人です」と。「映画のなかでヌードになることは、今日では珍しいことではなく、よく目にすることですよ」、確かにその通り、不必要なヌードもありますね。 

                   (写真:娘フリアをあやすナタリアのイングリッド)

 

 1ヵ月400ユーロで

★イングリッドとナタリアには共通していることがある、性格でなく状況のことだが。「1ヵ月400ユーロで暮らしているが、16歳のときからこの道に入り学んでいる」と語るイングリッドは、女優だけでなく製作助手をしながら映画の裏側をも学んでいる。マヌエル・バルトゥアルの長Todos tus secretosのようなローコストのプロダクションが手掛けた作品にも出演しているからだ。「時間が足りない。私の集中力を途切れさせないよう、ハイメ(監督)はスタッフが私に話しかけるのを禁じていた」とも。ロサーレスが好きな女優のタイプを知っているとも語っている。ロサーレスによると、「オーディションを受けに来て知り合ってナタリアに起用したのだが、磨きをかける必要がありそれで相当口論した。互いに憎みあいもしたが、結局彼女は私を求め、私も彼女が大好きだったのだ」と。「女優になるためには苦労しなきゃとは思わないが、この映画からは沢山のことを学んだ」ようです。

 

★来年のゴヤ賞新人女優賞を疑う人はいないと思うがと、記者が水を向けられると、「本気でそんなことが起こると思う?」と冗談めかしていたが、そうだといいね。とにかく雇用が不安定な若い世代に見て欲しいということです。

 

 『月曜日にひなたぼっこ』は・・・

★フェルナンド・レオンの『月曜日にひなたぼっこ』(2002)と本作が大きく異なるのが登場人物の世代。同じ流浪の民でも、あちらの失業者は概ね中年から退職間近のひと、一番若そうなハビエル・バルデムでも30代後半だった。こちらは若く見せようと白髪を染める必要がないかわり、働いてないので当然失業保険も貰えない。従って不要の烙印を押されてしまった熟練者としての誇りや失業の恐怖と疎外感を払いのけるために飲みつぶれるお金もない。共通するのは、普通の人々が、つまりちゃらんぽらんに生きているわけではないのに、お金がない、することがない、夢がない、息が詰まるような悲しみに向き合っていることだけ。

 

(写真:ルイス・トサールとハビエル・バルデム)

 

★日給10ユーロがポルノ・ビデオ出演に同意すれば1時間で300とか500ユーロとか貰える。これが信じられる状況だというから考えさせられます。ロサーレスの映画は好き嫌いがはっきり分かれるが、彼の独創性は常に俳優の自然な演技を引き出すことに長けていることです。第3Tiro en la cabezaにはついていけなかったが、本作は置いてきぼりをくわないのではないか。