エミリオ・アラゴンの新作は残念ながら英語2014年05月17日 15:28

★エミリオ・アラゴンのデビュー作『ペーパーバード幸せは翼にのって』(2010)は、ラテンビート2010のオープニング上映作品、翌年には公開もされました(20118月)。ラテンビートには出演者のカルメン・マチ(女優賞受賞)と一緒に来日してくれました。招待ゲストの少なかった年で、映画祭を盛り上げようと二人で奮闘、偉ぶることなく気軽にファンとの写真撮影にも応じてくれ、好印象を残していきました。 


そして監督以上に素晴らしかったのがスクリーンの最後のほうに現れたピエロの‘Miliki’(監督の父親)、スペインで一番愛されていたピエロでしたが、本作を最後に201283歳の誕生日まもなく旅立ちました。サーカスのピエロ、アコーディオン奏者、歌手、エレガントな教養人でもありました。この映画は市民戦争をバックにした「アラゴン家のサガ」のようなものです。監督もこれを撮らないことには前に進めないと話しておりました。‘Miliki’の子供時代を演じたロジェール・プリンセプ(『永遠のこどもたち』)は言うに及ばず、役者がとにかく上手い。こんなに生き生きしたイマノル・アリアスやリュイス(ルイス)・オマールを見るのは初めてだし、ダンスがこんなに上手いなんて知りませんでした。

 

(写真:在りし日の「ミリキ」ことエミリオ・アラゴン・ベルムデス)

 

★監督もボードビリアンですからダンスは達者です。ゴヤ賞2011では、アラゴンは新人監督賞とオリジナル歌曲賞にノミネートされました。監督以前に、作曲家、脚本家、俳優、ミュージシャン、司会者、オーディオビジュアルの製作会社グロボメディアGlobomediaの設立者、テレビ局ラ・セクスタLa Sexta の名誉会長でもあった(200613)。いったい何が本職なのか分からないマルチ人間です。エミリオ・アラゴンの名で通っていますが、デビュー時(1977)には‘Miliki’の息子ミリキートMilikito の愛称で親しまれていました。父親、叔父、従兄弟の4人組でテレビ界で活躍していた。グロボメディアは新作のスペイン側製作社の一つ、テレドラ・シリーズのヒット作を手掛けており、なかで長寿テレドラAidaは成功作、カルメン・マチが主人公のアイーダを演じ、それが『ペーパーバード』出演にも繋がっている。(写真:カルメン・マチ)

 


1959416日、キューバのハバナ生れ。1959年の元旦にキューバで何があったかというとキューバ革命、まだ生れていませんでしたが。ベネズエラ、アルゼンチンなどラテンアメリカ諸国を巡って、フランコ末期の1972年にアラゴン一家は帰国しています。アメリカのサフォーク=ボストン大学の歴史科、芸術科博士課程修了、マドリード高等音楽学校のピアノ科で学び、ボストンのニューイングランド音楽学校の作曲、管弦楽指揮科修了。

 


★さて、第2作目となる新作のオリジナル・タイトルはA Night in Old Mexico2013)です。先週59日にスペイン語題Una noche en el viejo Méxicoで公開されました。スペイン=米国合作、言語は英語ですから本ブログの範疇外なんですが、エミリオ・アラゴンの第2作を待っていたということでご紹介いたします。

製作国:スペイン=米国、言語:英語、ウエスタン、製作(共同)VT FilmsGlobomedia Cine他、製作費:約200万ドル、103分、撮影地:テキサスのブラウンビル 


プロット:牧場と土地を強制的に手放さざるを得なくなったテキサス男レッド・ボビーと、知り合ったばかりの20代の孫ギャリーの物語。祖父ちゃんと孫は二人それぞれの夢を抱いて、馬ではなく車でオールド・メキシコを目指して冒険の旅に出る決心をする。ある夜、メキシコの宿泊所で出会ったスリッパーのパティーに二人はぞっこんになる。バラ色の人生が開けるかもと期待するが、暗い影をもつ用心棒パナマという人物が絡んできて・・・。サイテイの状況から抜け出したい祖父ちゃん、さしあたりプータローをしていた孫の一種のロードムービーだが、生き残ることの価値についての、自分の最期は自分で選ぶ権利についての物語。

 

             (写真:孫を好演したジェレミーと気難しい祖父ちゃんデュヴァル)

 

★レッドを演じるのがロバート・デュヴァル、ギャリーは『戦火の馬』(2011)のジェレミー・アーヴァイン、パティーに『コレラの時代の愛』(2007)のコロンビア出身のアンジー・セペダ、パナマに『第211号監房』(2009)のルイス・トサルなど、キャストはアメリカとスペインが半々、スタッフも半々だそうです。気難しいオスカー俳優(『テンダー・マーシー』1983未公開)のデュヴァルを起用しての本作の評価は概ねニュートラルです。

 

(写真:左からトサール、アンジー・セペダ、監督)

 

★若いアラゴン監督にとって『ゴッドファーザー』や『地獄の黙示録』などコッポラの映画に出ているベテランとタッグを組むのは、気骨の折れることだったにちがいない。監督によれば、初顔合わせで「これは相性がよくないな、一緒にやるのは厳しい」と感じたそうで、デュヴァルも同じように思ったらしい。デュヴァルはプロダクションとの日程の行き違いで会う前から不機嫌だったらしい。実際始めてみると不測の事態が起こり、年齢のせいか(19311月生れ)、暑さのせいか、疲れのせいか怒りっぽくなり、何日も不機嫌が続いた。例えば「映画の山場の一つレッドがピストルを頭に当てて引き金を引くシーンがある(YouTube予告編で見られる)。デュヴァルがカウボーイ・ハットを脱ぐのを忘れているので、これ以上は丁寧に出来ないというほど穏やかに撮り直しを要求したのに怒ってしまって」と監督。彼のような映画のムシみたいな役者の舵取りは難しい。瞬間湯沸かし器みたいな老人は多いよね。(写真:撮影現場で話し合うデュヴァルと監督)

 


★撮影はテキサス州の最南端の都市ブラウンビル、国境の町ですね。住民はヒスパニックが大半で白人は北部に固まって住んでいる、いわゆる「英語も通じるアメリカ」の一つだそうです。これも監督には大変だったようです。「見知らぬ他国だし、意思疎通は英語だし、どうやったら上手く機能するのか分からなかった。(前作は自分の家族の歴史だったが)これは私のキャリアの中でも飛躍が必要だった、自分が抱えている恐怖にも向き合わねばならなかった」と、インタビューに答えています。撮影も俳優とのコンタクトもスムーズではなかった印象、こういうギクシャクが作品に現れているのかもしれません。

 

★脚本はベテランのウイリアム(ビル)・ウィットリフ。アンソニー・ポプキンスとブラッド・ピットが親子を演じた『レジェンド・オブ・フォール/果てしなき想い』(1994)の共同執筆者。脚本についてはスペイン側の評判はよろしくない。滑り出しはいいのに、終わり三分の一がよくないそうです。じゃつまらないかというと、結構面白いと、どっちなの。エル・パイスのコラムニストのハビエル・オカーニャによると、映画の「流れはよどみなく、時には心地よく楽しめる。しかし心を揺さぶられるというほどじゃない。まるでサム・ペキンパーやドン・シーゲルやロバート・アルドリッチが撮る代わりに、『遥かなる大地へ』を撮ったロン・ハワードが監督した」ウエスタンだ。つまり面白くないということかね。アメリカとスペインでは今にも消え入りそうな黄昏のウエスタン物でも、面白さの感じ方が一味違うのではないか。どうして土地を失ったのか、肥大化している土地開発会社に対する政治的なメッセージがあるのかないのか、ギャングが登場する背景に麻薬密輸が絡んでいるのかなど、やはり見なきゃ分からない。

 

(写真:用心棒パナマに扮したルイス・トサル)

 

★スペインでは3月に開催された第17回マラガ映画祭で上映され、アメリカではテキサス州の州都オースティンで開催された「サウス・バイ・サウスウエスト映画祭」がプレミアでした。こちらは観客の受けは良かったようです。賞味期限の切れたカウボーイでも、レッドのようなクレイジーな老人は好ましいキャラクターなのだということでしょうか。この映画祭については、マラガ映画祭作品賞を受賞したカルロス・マルケス=マルセの10.000 KMの記事でご紹介しました。コチラ411日)

 

★第1作から5年近く開いています、エミリオ・アラゴンは映画監督ですか?「まだメダルが充分でないことくらい分かっています。・・・ずっと危機が続いていて今後どうするか考えていましたが、映画と音楽が好きだから、書いて、撮って、作曲したいと映画に戻ってきた、時間はもう無駄にできない」、もし可能なら中国で撮れたらと考えているそうです。そうそう、本作は今年のゴヤ賞のオリジナル作曲賞と同歌曲賞にノミネートされたんですが、やはり受賞したいですよね。