『しあわせな人生の選択』の主役は「トルーマン」*セスク・ゲイの新作 ― 2017年08月04日 17:27
「命は時間」だと実感するエモーショナルな4日間
★「トルーマン」のタイトルで紹介してきたセスク・ゲイの ”Truman” が『しあわせな人生の選択』という邦題で公開されています。当ブログでは、マイナーなスペイン語映画を公開してくれるだけで感謝、邦題のつけ方に難癖をつけるなどのゼイタクは慎もうと控えておりますが、これはあまりに凡庸すぎて残念です。もっともこれから岩波ホールで公開されるアルゼンチン映画『笑う故郷』ほどではありませんが。下手の考え休むに似たり、こねくり回さずそのまま「トルーマン」とカタカナにしておけばよかったのです。トルーマンはただの犬ではないのですから。「命は時間」だと実感するエモーショナルな4日間が語られる。若干ネタバレしております。ご注意ください。
*「トルーマン」の作品紹介、監督フィルモグラフィー、主演キャストの記事は、
*ゴヤ賞2016、作品賞以下5冠受賞の記事は、コチラ⇒2016年02月12日
(プレゼンター、バルガス=リョサから脚本賞の胸像を受け取る、ゴヤ賞2016ガラ)
★ストーリーは公式サイトに譲るとして、3人と1匹の主役の他の登場人物を少し補足しておきます。群集劇ではありませんが、主役級の俳優が脇を固めていることが分かります。出演作品はできるだけ邦題の付いた映画から選びましたので代表作というわけではありません。セスク・ゲイの映画なら脇役でも出たいという演技派を揃えられたことも成功のカギだったと思います。
*主なキャスト
リカルド・ダリン:舞台俳優フリアン(『瞳の奥の秘密』『XXY』『人生スイッチ』他)
ハビエル・カマラ:カナダの教授トマス(『トーク・トゥ・ハー』
『「僕の戦争」を探して』)
ドロレス・フォンシ:フリアンの従妹パウラ(『パウリーナ』
『ブエノスアイレスの夜』他)
トロイロ:フリアンの老犬トルーマン、犬種はブルマスティフ
エドゥアルド・フェルナンデス:旧友ルイス(『スモーク・アンド・ミラーズ』
『イン・ザ・シティ』)
アレックス・ブレンデミュール:獣医(『イン・ザ・シティ』『ワコルダ』
『ペインレス』)
ペドロ・カサブランク:フリアンの主治医(『時間切れの愛』”B, la película”)
ホセ・ルイス・ゴメス:プロデューサー(『抱擁のかけら』『ベラスケスの女官たち』)
ハビエル・グティエレス:葬儀社顧問(『マーシュランド』
『オリーブの樹は呼んでいる』)
エルビラ・ミンゲス:フリアン元妻グロリア(『時間切れの愛』
『暴走車ランナウェイ・カー』)
オリオル・プラ:フリアン息子ニコ、アムステルバムに留学中(“No sé decir adiós”)
ナタリエ・ポサ:トルーマン里親候補1(『不遇』『ジュリエッタ』“No sé decir adiós”)
アガタ・ロカ:トルーマン里親候補2(『フリアよみがえり少女』”Ficció”)
スシ・サンチェス:トルーマン里親候補3(『悲しみのミルク』『ジュリエッタ』)
シルビア・アバスカル:ルイスの新妻モニカ(『マイ・マザー・ライクス・ウーマン』)
フランセスク・オレーリャ:レストランにいた俳優
アナ・グラシア:レストランにいた女優
キラ・ミロー:舞台女優、フリアンの相手役
(上段左からナタリエ・ポサとアガタ・ロカ、エドゥアルド・フェルナンデス、
ハビエル・グティエレス 下段スシ・サンチェス、エルビラ・ミンゲス、キラ・ミロー)
★セスク・ゲイ映画が「劇場公開されるのは初めて」と聞いて驚くファンもいるかと思いますが、長編第2作“Krámpack”が『ニコとダニの夏』という邦題でテレビ放映されています。作品紹介のおり、既に監督キャリアもアップいたしましたが、主なフィルモグラフィーを改めてコンパクトに再構成しておきます。
★セスク・ゲイFrancesc Gay i Puig:1967年バルセロナ生れ、監督、脚本家、戯曲家。バルセロナの市立視聴覚学校EMAVで映画を学ぶ。1998年長編映画“Hotel Room”(アルゼンチンのダニエル・ギメルベルグとの共同)でデビュー。2000年ロマンチック・コメディ“Krámpack”(『ニコとダニの夏』)で一躍脚光を浴びる。性愛に目覚めかけた男女4人の一夏の物語。ゴヤ賞2001新人監督賞・脚色賞にノミネートされた。サンセバスチャン映画祭2000セバスチャン賞、トゥリア賞、カタルーニャ作品賞、バレンシア映画祭初監督作品賞などを受賞。
★日本でも話題になった第3作“En la ciudad”(03)は、『イン・ザ・シティ』の邦題でセルバンテス文化センターで上映された。セスク・ゲイの得意とする群像劇(スペインでは合唱劇)の形式をとったドラマ。無関係だった複数の登場人物が絡みあって進行するが、最後に1本に繋がっていく。それぞれ人格造形がくっきり描き分けられていたが、サンセバスチャン映画祭でもゴヤ賞でも監督賞・脚本賞もノミネーションどまり、監督お気に入りのエドゥアルド・フェルナンデスが唯一助演男優賞を受賞しただけに終わった。
★2012年のコメディ群集劇“Una pistola en cada mano”は、ゴヤ賞2013では、前評判にもかかわらず助演女優賞がノミネートされただけでした。カンデラ・ペーニャが受賞するにはしましたが、映画アカデミー執行部の候補者選考の不透明さや見識が批判されました。「トルーマン」出演のリカルド・ダリン、ハビエル・カマラ、エドゥアルド・フェルナンデスの他、ルイス・トサール、エドゥアルド・ノリエガ、レオナルド・スバラグリア、ジョルディ・モリャ、アルベルト・サン・フアン、この40代になった男8人が人生の岐路に直面して右往左往するコメディ。それぞれに絡んでくる女性陣にペーニャの他、レオノル・ワトリング、カジェタナ・ギジェン・クエルボ、クララ・セグラ、シルビア・アブリルなどがいる。ゴヤ賞では無視されたが、ガウディ賞(カタルーニャ語以外の部門)では、脚本賞、助演男優(フェルナンデス)、助演女優(ペーニャ)ほか4賞を受賞した。撮影中にダリンとカマラを主役にした新作を構想しており、完成したのが「トルーマン」でした。
(悩める男8人衆、“Una pistola en cada mano”ポスターから)
★その他は以下の通り。2004“Canciones de amor y de droga”監督、ミュージカル。2006“Ficció / Ficción”監督・脚本・録音、ドラマ。2009“V.O.S.” 監督・脚本、コメディ。私生活では、女優アガタ・ロカと結婚、一男一女がいる。
「誠実」のメタファーとして登場するトルーマン
A: フリアンの愛犬トルーマンが映画の進行役、「誠実」のメタファーとして登場する。邦題はどう付けてもいい決りだが、タイトルはいわば映画の顔だから原題を尊重しなくてはいけない。
B: 監督も「トルーマン」というタイトルに拘っていましたからね。
A: 50代にして不本意にも人生のカウントダウンが始まってしまった男の悲劇が語られるのだが、「トルーマン」にはそういう重さを吹き飛ばす軽やかさがあった。観客には辛辣なユーモアやエレガントな肌触りのセリフから、ほろ苦いコメディを楽しんでもらいたいと思っていたに違いありません。
B: 観客もちゃんと反応して、ときどき笑い声が聞こえてきました。後戻りのできない病いや死がテーマなのにね。
(撮影中も一緒に暮らしたリカルド・ダリンとトロイロ)
A: フリアンがトマスと再会して真っ先にしたことはトルーマンの獣医を訪ねること。フリアンの一番の気がかりは、自分亡き後の足腰の弱った老犬の処遇です。今まで通りの幸せを得られる新しい安住の家を探さねばならない。犬だって大切な人を失えば、喪失感を覚えるに違いない。
B: まず獣医役のアレックス・ブレンデミュールを登場させる。フリアンの具体的な質問に戸惑いながらも丁寧に接する獣医役。出番はこのシーンだけでした。
(獣医に質問するフリアン、聞き役に徹するトマス)
A: 翌日は里親候補第1号の家にトルーマンを連れていく。一人息子が犬を飼いたがっているレズビアン夫婦の家庭です。そして現れるのがナタリエ・ポサとアガタ・ロカ、トルーマンに導かれて冒頭部分で登場する人物です。
B: 本作ではさりげなく挿入されますが、まだスペインで養子縁組の権利を含んだ同性婚が認められなかった時代に撮られた『イン・ザ・シティ』の一つのテーマが同性婚問題でした。(*2005年7月3日発効)
A: 自分には二人の息子がいる。一人はアムステルバムに留学中のニコ、もう一人がトルーマンだと、フリアンに言わせている。フリアンとの別れが近いことを一番よく理解していたのがトルーマンだったのではないか。それが最後のシーンで見られるわけですが、伏線が何か所も張られていました。
B: 観客が望んだような里親に引き取られることが暗示されている。トマスと歩かせたり、里親候補のみならずトマスにも、トルーマンの好物やら癖を聞かせたりする。
A: ダメ押しは「別れを言いたくないから、見送りに空港には行かない」です。ああ、トルーマンを連れてやってくるのね(笑)。
B スクリーンに現れるとつい身を乗り出してしまうのがハビエル・グティエレス、最近『マーシュランド』や『オリーブの樹は呼んでいる』、『クリミナル・プラン~』などが公開されて認知度も高くなってきたようです。
A: 葬儀社のコンサルタントに扮したが、この人もカメレオン俳優です。コミカルな役からアウトロー役まで危なげない。セスク・ゲイ映画は初めてかもしれない。反対にほとんどの監督作品に出演しているのがエドゥアルド・フェルナンデス、本作では友人のフリアンに女房を寝取られたコキュ役でした。
(本人の葬儀とは思わず相談にのるコンサルタント役ハビエル・グティエレス)
動のフリアンVS 静のトマスのタイトルマッチ
B: フリアンは品行方正な男ではなく、どちらかというと行き当たりばったりに人生を送ってきたから懐具合も良くない。このコキュ事件で友人どころか妻まで失ってしまう。
A: 少し高慢で、気はいいが壊れやすく、皮肉屋ときてる。しかしどうも憎めない。ダリンにぴったりの人格造形です。誰でもやれる役ではない。そして彼の賢い元妻役がエルビラ・ミンゲスです。息子ニコの母親でもある。
B: 道路に繋がれていたトルーマンを偶然目にしてフリアンと邂逅する。トルーマンが呼び寄せたわけです。突然会いに行ったアムステルダムでは、本当の理由をとうとう言えなかったフリアンも、母親を通じて息子が既に知っていたことを初めてここで聞かされる。
A: 自分の病状を知らないと思っていた息子が、実は熟知していて父親と最後のハグを交わしたことを観客も理解するシーンです。このエルビラ・ミンゲスは、テレドラ『情熱のシーラ』でシーラの母親になった女優です。出番は3話と少なかったが存在感がありました。
B: ニコ役のオリオル・プラは、繊細な役柄で既に何作か出ていますが、評価はこれからです。
A: ダリンの動と反対にカマラの静の演技が光りました。二人の演技合戦が見ものでしたが、監督は早口で喋りまくる役が多いカマラに今回は沈黙を求めた。そしてダリンにアルゼンチン弁でまくしたてる役を振った。過去の出演作品『トーク・トゥ・ハー』や『あなたになら言える秘密のこと』などは、セリフは多くなかったかもしれない。
B: カマラは普段は立て板に水ですね(笑)。本作では目で演技しなければならなかった。トマスは寡黙で控えめ、寛大で寛容で気前もいい。アルゼンチン男の魅力に惹きつけられて、遠いカナダから別れにやってきた。
A: 男の友情をめぐる映画だが、再会前の二人の関係はほとんど語られない。どうしてこんなに気前がいいのか、少し現実離れしすぎじゃないかなどと、観客はあれこれ類推しながら観ることになる。
B: わざと語らなかった。笑わせ、泣かせ、ほろ苦いコメディを観ているのかと錯覚させ、すかさず示唆に富むセリフを割り込ませて考えさせる。
A: コメディとドラマを行ったり来たりさせながら観客を巻き込んだことが成功のカギです。最後には尊厳死まで踏み込んでしまうからドキッとする。監督が死というテーマの扉を開けた最初の作品かもしれない。
従妹パウラが受け入れられない死と怒り
B: フリアン同様、アルゼンチンから移住してきた従妹パウラのドロレス・フォンシ、フリアンの病状を逐一トマスに知らせていた。自分一人では治療を断念したフリアンを支えきれなくなっていた。
A: 過去にトマスと何らかの関係があったのではないかと感じさせる役。夫サンティアゴ・ミトレの『パウリーナ』で自分の信じる道を突き進む意志の強い女性を好演した。役柄的にはそれに近いかもしれないが、ダリンとうまくやれるアルゼンチン女優として選ばれたようです。
B: ダリンとなら誰でもうまくやれますよ。不思議な包容力があるから。最近パートナーと別れたので、フリアン亡き後に故郷に戻ることも考えている。移住先で根を張る難しさが暗示される。
A: 無情にも時間だけは刻々と流れていき、里親も決まらないのにトマスの帰国が迫ってくる。三人は別れの夕べを迎えることになる。その席でフリアンが漏らした尊厳死に単純で怒りっぽいパウラは爆発してしまう。このシーンにも考えさせられました。
B: 自分ならどんな道を選ぶだろうか。まだスペインでも尊厳死はタブー視されているテーマ。
A: フリアンには容赦なく迫ってくる死を座して待つことは敗北、屈辱に思える。しかし誰もフリアンの痛みを共有できない。その夜、トマスとパウラのベッドシーンが挿入され、やや唐突に感じた人もいたかもしれない。しかし死と生は性に繋がっているから自然だったとも言えます。
痛みと敗北の共有は誰にも強制できない
B: 無条件の友情で結ばれていても、最終的には痛みと敗北は共有できない。
A: または共有を強制できないと言い換えてもいい。テーマは大きく括れば、自由へのオマージュということです。他人と共有できない死を、何時、どのようにして受け入れるか。個人的な自由の選択はどこまで許されるのか。やがて誰にも訪れてくる問題です。
B: 舞台はカナダで始まり、マドリードからアムステルダムへ、再びマドリードに戻る。スタッフもキャストもバルセロナ出身が多いのに、なぜマドリードにしたのでしょうか。
A: 理由は簡単らしく、二人の主人公がマドリードに家作をもっていたからだと監督。
B: リカルド・ダリンとドロレス・フォンシは、ここでは従兄妹になりますが、次回作の ”La cordillera”(“The Summit”)では、父親と娘になります。
A: カンヌ映画祭2017「ある視点」部門に正式出品されました。
*『パウリーナ』の紹介記事は、コチラ⇒2015年05月21日
*ミトレ監督の新作 ”La cordillera” の紹介記事は、コチラ⇒2017年05月18日
ベネチア映画祭2017*パブロ・エスコバルの伝記映画 ― 2017年08月09日 17:02
今年のコンペティション部門にスペイン語映画はゼロ!
★サンセバスチャン映画祭のオフィシャル・セレクション15作も発表になりましたが、まず先発のベネチア映画祭の紹介から。と言っても今年のノミネーション21作の中に、スペイン、ポルトガルを含むイベロアメリカからは1作も選ばれませんでした。イタリアの映画祭なのにハリウッドやフランス映画が幅を利かせるようになって偏りが顕著になったベネチア映画祭、しかし国際映画祭ですから文句は言えません。ご紹介の手間が省け、これでサンセバスチャンに集中できると拗ねています。こちらローカルの映画祭には『カニバル』のマヌエル・マルティン・クエンカやバスク語で撮った『フラワーズ』のジョン・ガラーニョが今度は脚本を担当したアイトル・アレギと組んで戻ってきます。やはり言語はバスク語です。
★というわけでコンペティション外で上映される「エスコバル」と、第32回「批評家週間」にエントリーされた、ナタリアGaragiolaのデビュー作 ”Temporada de caza” をアップいたします。
★折にふれ、ご紹介してきたフェルナンド・レオン・デ・アラノアの“Escobar”が英題 ”Loving Pablo” でワールド・プレミアされることになりました。メデジン・カルテルの麻薬王パブロ・エスコバルのビオピック。ハビエル・バルデムがエスコバル、その愛人ビルヒニア・バジェッホにペネロペ・クルスと、夫婦揃って出演、久々のスペイン語映画である。この伝説的なコロンビアの麻薬王を主人公にした映画やTVシリーズは、虚実ごちゃまぜで多数製作されています。そのせいで実像は分かりにくくなっていますが、本作もバジェッホの回想録の映画化なので、犯罪ドラマと考えたほうがいいかもしれません。どちらにしろ二人とも権力、名声、お金大好き人間、愛でつながったとしても共犯関係にあった悪党同士、監督がフェルナンド・レオンでなければ食指は動きません。バルデムはアメナバルの『海を飛ぶ夢』でもラモン・サンペドロのそっくりさんになりましたが、エスコバルにも上手く化けました。
(エスコバルとバジェッホに扮した、ハビエル・バルデムとペネロペ・クルス)
★“Escobar”は、コロンビアのメデジン・カルテルの麻薬王パブロ・エスコバル(1949~93)の伝記映画。エスコバルの1980年代の愛人、ジャーナリスト、ニュースキャスター、モデル、女優、作家、など幾つもの顔をもつ、当時のコロンビアきっての大スター、ビルヒニア・バジェッホ・ガルシア(1949)の回想録“Amando a Pablo, odiando a Escobar”(“Loving Pablo, Hating Escobar” 2007年刊)の映画化。1983年、メデジンでエスコバルのインタビューをしたのが馴れ初めの始まり。たちまち恋に落ちたと称しているが、互いに持ちつ持たれつの利害関係にあり、後に麻薬密売人パブロ・エスコバルの逃亡幇助のためコロンビア国家警察の捜索を攪乱した廉で、特捜隊ウーゴ・アギラル大佐らによって告発されている。
★この回想録にはコロンビアの歴代大統領のうち、アルフォンソ・ロペス・ミケルセン(1974~78)、エルネスト・サンペール(1994~98)、アルバロ・ウリベ(2002~10)についての言及があり、映画が触れているかどうか興味があります。ウリベ大統領は、麻薬密売人パブロ・エスコバルとは全く面識がなかったことを繰り返し断言している。しかし回想録では、1983年6月14日、FARCに拉致殺害された父親アルベルト・ウリベの遺体を引き取るために用意されたヘリコプターは、パブロ・エスコバルによって提供されたものだとある。
(フェルナンド・レオン・デ・アラノア監督)
★パブロの妻ナタリア・ビクトリア・エナオも美人の才媛、夫の悪事を支えたことは、ネットフリックス・オリジナルTVシリーズ『ナルコス』(2015~17、コロンビア・米国)に詳細に描かれています。フィクションですが、実名で登場する人、仮名でもすぐ同定できる人物などいろいろです。エスコバルにワグナー・モウラ(20話)、妻タタにパウリナ・ガイタン(19話)、父親にアルフレッド・カストロ(1話)、母親にパウリナ・ガルシア(15話)、ビルヒニア・バジェッホVirginia Vallejoはバレリア・ベレスValeria Velezと同じVVで登場し(11話)、ステファニー・シグマンが演じました。
★他にもカリ・カルテルの密売人にアルベルト・アンマン、ダミアン・アルカサル、パブロの手下にディエゴ・カターニョなど、コロンビアだけでなく、スペイン、ブラジル、メキシコ、チリ、米国などの有名俳優が勢揃いしております。主人公はメデジンで捜査するアメリカ麻薬捜査局のハビエル・ペーニャ(21話、ペドロ・パスカル)と実在の麻薬捜査官スティーブ・マーフィー(20話、ボイド・ホルブルック)です。この犯罪ドラマは一応エスコバルの死をもってメデジン編は終了、次はカリ・カルテルに舞台を移すようです。
(エスコバル一家には一男一女があり、パブロ亡き後はアルゼンチンに亡命した)
(エスコバルをインタビューするビルヒニア・バジェッホ)
★コンペティション外ですが、多分来年劇場公開になると思います。その折に改めてアップしたいと考えています。次回は、アルゼンチンのナタリア・Garagiolaのデビュー作 ”Temporada de caza” (亜米独仏カタール合作)をご紹介したい。
「批評家週間」にアルゼンチン映画*ベネチア映画祭2017ノミネーション ― 2017年08月12日 11:56
ナタリア・ガラジオラの長編デビュー作 “Temporada de caza”
★最近国際映画祭での活躍が目覚ましいのが若手女性監督のデビュー作です。「国際批評家週間」コンペティション部門に選ばれた “Temporada de caza” も1982年生れという若いナタリア・ガラジオラの長編デビュー作。ベネチアの「批評家週間」は新人登竜門的な役割らしく、今年の7作品もすべて第1回作品のようです。昨年はコロンビアのフアン・セバスチャン・メサのデビュー作“Los nadie”(“The Nobody”)が観客賞を受賞しています。都会でストリート・チルドレンとして暮らす5人兄妹の愛と憎しみが語られる映画でしたが、この “Temporada de caza” はアルゼンチン南部パタゴニアの森が舞台です。
“Temporada de caza”(“Hunting Season”)2017 アルゼンチン
製作:Rei Cine (アルゼンチン) / Les Films de L’Etranger (仏) / Augenschein Filmproduktion (独) / Gamechanger Films (米) / 協賛INCAA
監督・脚本:ナタリア・ガラジオラ(ガラジョーラ?)
撮影:フェルナンド・ロケット
編集:ゴンサロ・トバル
美術:マリナ・ラッジオ
メイクアップ&ヘアー:ネストル・ブルゴス
助監督:ブルノ・ロベルティ
製作者:ベンハミン・ドメネク、サンティアゴ・ガリェリ、マティアス・ロベダ、
ゴンサロ・トバル、他共同プロデューサー多数
データ:製作国アルゼンチン・米・仏・独・カタール、スペイン語、2017年、ドラマ、100分。撮影期間2015年から翌年にかけてサン・マルティン・デ・ロス・アンデスで撮影された。資金提供、トゥールーズ映画祭ラテンアメリカ映画基金、ドイツのワールド・シネマ基金より3万ユーロ、他ロッテルダムやトリノ・フィルム・ラボのサポートを受けています。第74回ベネチア映画祭「国際批評家週間」正式出品された。アルゼンチン公開9月14日予定。
キャスト:ヘルマン・パラシオス(父親エルネスト)、ラウタロ・ベットニ(息子ナウエル)、ボイ・オルミ、リタ・パウルス、ピラール・ベニテス・ビバルト、他
プロット:母親が急死したとき、ナウエルはブエノスアイレスの高校を終了する間際だった。別の家族と暮らす父親には、息子が18歳になるまでの3か月間の養育義務があった。二人は10年間も会っていなかったが一緒に暮らすことになる。父エルネストは、パタゴニアのサン・マルティン・デ・ロス・アンデスの山間の村で腕利きのハンターとして尊敬を集めていた。怒りをため込み心の荒んだナウエルのパタゴニアへの旅が始まる。自然が人間を支配する新しい環境に直面しながら、ナウエルは殺すことと同じように愛することの力を学ぶことになるだろう。
厳しいパタゴニアの風景をバックに対立する父と息子
★日本でパタゴニアと言えば氷河ツアーが人気のようだが、人間よりグアナコのような動物のほうが多い。舞台となるサン・マルティン・デ・ロス・アンデスもラニン国立公園がツアーに組み込まれるようになっている。「南米のスイス」と称されるバリローチェが舞台になったのは、ルシア・プエンソの心理サスペンス『ワコルダ』(『見知らぬ医師』DVD)でした。また詳細はアップしませんでしたが、今年のマラガ映画祭2017に正式出品されたマルティン・オダラの “Nieve negra” もパタゴニアが舞台、リカルド・ダリン扮する主人公は人里離れた山奥の掘立小屋に一人で暮らしている。父親が亡くなり遺産相続のため長らく会うこともなかった弟が妻を伴ってスペインから戻ってくる。この弟にレオナルド・スバラグリアが扮した。相続をめぐって対立する兄弟の暗い過去が直ちに表面化していくサスペンス。“Temporada de caza” のプロットを読んで真っ先に思い出したのが今作でした。
★ラテンアメリカ映画に特徴的なのが、何かを契機にA点からB点に移動して対立が起きる物語です。たいてい “Nieve negra” や “Temporada de caza” のように家族の死が多く、「シネ・エスパニョーラ2017」で短期上映されたイスラエル・アドリアン・カエタノの『キリング・ファミリー 殺し合う一家』も音信不通だった母親と弟の死がきっかけでした。二人に掛けられていたという僅かな死亡保険金欲しさにブエノスアイレスから北部のラパチトに移動して殺人事件に巻き込まれるストーリーでした。
★父エルネストを演じたヘルマン・パラシオスは、1963年ブエノスアイレス生れ。ルシア・プエンソの『XXY』(07)に、リカルド・ダリン扮する主人公の友人医師ラミロとして登場していました。TVシリーズでの出演が多い。息子ナウエル役のラウタロ・ベットニは本作が初出演のようです。ピラール・ベニテス・ビバルトは、“Yeguas y cotorras” に出演している。
(パタゴニアの風景をバックにした父と子、映画から)
★製作者のベンハミン・ドメネク、サンティアゴ・ガリェリ、マティアス・ロベダ、ゴンサロ・トバル、撮影監督のフェルナンド・ロケットは、共に “Yeguas y cotorras” に参画している。特にゴンサロ・トバルは、“Temporada de caza” で編集も担当しています。1981年生れの監督、脚本家、製作者、長編デビュー作 “Villegas” がカンヌ映画祭2012のカメラドールにノミネートされたほか、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭BAFICIのアルゼンチン映画コラムニスト連合賞ACCA他を受賞している。映画後進国の南米においては、アルゼンチンは飛びぬけて輩出している。
(左から、ゴンサロ・トバル、監督、サンティアゴ・マルティ、マイアミFF 2016にて)
*監督キャリア&フィルモグラフィー*
★ナタリア・ガラジオラNatalia Garagiola:1982年ブエノスアイレス生れ、監督、脚本家。祖先はイタリア系移民だが、一応英語発音でカタカナ表記した(ガラジョーラかもしれない)。映画大学卒業後、2014年にスペインのメネンデス・ペラヨ国際大学(視聴覚研究財団)のシナリオ科の博士課程終了。短編がカンヌ映画祭に出品されていることもあり、若手監督として注目されている。
2011年 “Rincón de López”(短編11分)脚本、BAFICI出品
2012年 “Yeguas y cotorras” (短編30分)カンヌ映画祭2012「批評家週間」短編部門出品
2014年 “Nordic Factory” (フィンランド、デンマーク製作)監督6人のオムニバス
2014年 “Sundays”(16分)共同監督、脚本、カンヌ映画祭2014「監督週間」短編部門出品
2017年 “Temporada de caza” 省略
* “Yeguas y cotorras” は、YouTube(英語字幕)で鑑賞できます。
追記:『狩りの季節』の邦題で Netflix 配信されました。
上映作品の一部がアナウンスされました*ラテンビート2017 ① ― 2017年08月14日 08:23
パブロ・ラライン、カルラ・シモン、エドゥアルド・カサノバ・・・
★8月14日現在で7作品が発表されただけですが、そのうち当ブログでピックアップしたパブロ・ララインの ”Neruda” とカルラ・シモンの ”Verano 1993”(カタルーニャ語題Estiu 1993)の2作、ゴヤ賞2017でご紹介したかったエドゥアルド・カサノバの “Pieles” が含まれていました。
★パブロ・ララインの「ネルーダ」は、公開が以前から予告されており、この度『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』という邦題で11月11日に公開が決定しています(新宿シネマカリテ、恵比寿ガーデン・シネマ)。従って宣伝を兼ねた先行上映になりますね。既にカンヌ映画祭2016の「監督週間」にノミネーションされた折りに、監督紹介、スタッフ、キャスト、プロットなど詳細を記事にしておりますので、ラテンビートでは割愛します。
*「ネルーダ」の記事は、コチラ⇒2016年5月16日
★カルラ・シモンの ”Verano 1993”(西題)のオリジナル・タイトルは ”Estiu 1993”、ベルリン映画祭、マラガ映画祭などの折に、ラテンビートを意識してその都度ご紹介してきましたが、今回新しいニュースを補足して再構成いたします。監督自身の少女時代が語られます。こちらは『夏、1993』と邦題もすっきり、余計な副題からも救われています。変更しないことを切に願っております。
* ”Verano 1993” の主な記事は、コチラ⇒2017年2月22日
★エドゥアルド・カサノバのデビュー作 “Pieles” は、ラテンビートでは『スキン』で上映される。しかし本作は既にネットフリックスで『あなたに触らせて』の邦題で放映されているから、新たに字幕を入れ替えて上映するということでしょうか。スクリーン鑑賞が後になるということに時代の変化を感じています。ベルリン映画祭2017パノラマ部門、マラガ映画祭セクション・オフィシアル部門での話題作。理不尽な暴力が痛々しいメロドラマに変化するという、社会批判を込めた辛口コメディ、ダーク・ファンタジー、とにかくスペインにアンファン・テリブルが誕生した。アレックス・デ・ラ・イグレシアとカロリナ・バング夫婦が、カサノバの才能に惚れ込んで製作した。本作については改めてアップいたします。
(エドゥアルド・カサノバとアレックス・デ・ラ・イグレシア)
★カルロス・サウラの ”Jota de Saura” は、いずれ公開されるでしょうし、解説の必要はないでしょう。
サンセバスチャン映画祭2017*オフィシャル・セレクション発表 ① ― 2017年08月15日 17:55
TVシリーズ “La peste” がオフィシャル・セレクションに初登場!
(第65回サンセバスチャン映画祭2017のポスター)
★オフィシャル・セレクション(セクション・オフィシアル)は、現在12作品がアナウンスされていますが追加される予定です。しかし目下検討中なのか追加発表はありません。スペイン映画は4作品とアナウンスされているのですが現在のところ3作品です。コンペティション外に2作品、特別上映1作品のトータル6作品です。その他スペイン語映画では、アルゼンチンからディエゴ・レルマンの “Una especie de familia” がエントリーされています。
★話題になっているのがコンペティション外とはいえ、金貝賞を競うオフィシャル・セレクションにアルベルト・ロドリゲスの TVシリーズ “La peste” が選ばれていることです。これは本映画祭では初めてのこと、映画祭も変化を余儀なくされているということでしょうか。テレビでは2018年に放映されるようで、IMDbでは第6話までがアナウンスされており、その第1話と第2話が上映される予定。
以下、タイトルと監督名をアップして、個別に作品紹介をしていくつもりです。
*オフィシャル・セレクション正式出品*
“El autor” スペイン=メキシコ、監督:マヌエル・マルティン・クエンカ、スペイン語
“Handia” スペイン、監督:ジョン・ガラーニョ&アイトル・アレギ、バスク語
“Life and Nothing More” (“La vida y nada más”)スペイン=米国、
監督:アントニオ・メンデス・エスパルサ、英語
“Una especie de familia” アルゼンチン=ブラジル=ポルトガル=フランス、
監督:ディエゴ・レルマン、スペイン語
*コンペティション外*
“La peste” スペイン、監督:アルベルト・ロドリゲス、スペイン語 TVシリーズ(第1~2話)
“Marrowbone” (“El secreto de Marrowbone”)スペイン、監督:セルヒオ・G・サンチェス、英語
*特別上映*
“Morir” スペイン、監督:フェルナンド・フランコ、スペイン語
★ラテンアメリカ諸国の作品を集めた「ホライズンズ・ラティノ」部門は、まだ作品の一部が発表になっているだけです。まだ選考途中の部門が多く、発表になったらアップいたします。
(「ホライズンズ・ラティノ」部門のポスター)
『あなたに触らせて』あるいは『スキン』*ラテンビート2017 ② ― 2017年08月20日 15:39
末恐ろしいエドゥアルド・カサノバのデビュー作
(ピンクのシャツで全員集合)
★エドゥアルド・カサノバのデビュー作 “Pieles”(“Skins”)は、ラテンビートでは英題の『スキン』ですが、ネットフリックスで『あなたに触らせて』として既に放映されています。ネットフリックスの邦題は本作に限らずオリジナル・タイトルに辿りつけないものがが多く、これも御多分に漏れずです。セリフの一部から採用しているのですが・・・。ネットフリックスの資金援助とアレックス・デ・ラ・イグレシアとカロリナ・バングの制作会社Pokeepsie Films、キコ・マルティネスのNadie es Perfectoの後押しで、1年半という新人には考えられない短期間で完成できた作品。新プラットフォームの出現でスクリーン鑑賞が後になるというのも、時代の流れでしょうか。なおカロリナ・バングはプロデュースだけでなく精神科医役として特別出演しています。
★ベルリン映画祭2017パノラマ部門、マラガ映画祭正式出品の話題作。デフォルメされた身体のせいで理不尽に加えられる暴力が最後に痛々しいメロドラマに変化するという、社会批判を込めた辛口コメディ、ダーク・ファンタジー。好きな人は涙、受けつけない人は苦虫、どちらにしろウトウトできない。
“Pieles”(“Skins”)『スキン』(または『あなたに触らせて』)2017
製作:Nadie es Perfecto / Pokeepsie Films / Pieles Producciones A.I.E.
協賛The Other Side Films
監督・脚本:エドゥアルド・カサノバ
撮影:ホセ・アントニオ・ムニョス・モリナ(モノ・ムニョス)
編集:フアンフェル・アンドレス
音楽:アンヘル・ラモス
録音:アレックス・マライス
録音デザイン:ダビ・ロドリゲス
美術・プロダクションデザイン:イドイア・エステバン
メイク&ヘアー:ローラ・ゴメス(メイク主任)、オスカル・デル・モンテ(特殊メイク)
ヘスス・ジル(ヘアー)
衣装デザイン:カロリナ・ガリアナ
キャスティング:ピラール・モヤ、ホセ・セルケダ
プロダクション・マネジャー:ホセ・ルイス・ヒメネス、他
助監督:パブロ・アティエンサ
製作者:キコ・マルティネス、カロリナ・バング、アレックス・デ・ラ・イグレシア、他
視覚効果:Free your mindo
データ:スペイン、スペイン語、2017年、コメディ、ダーク・ファンタジー、77分、ベルリン映画祭2017パノラマ部門出品、マラガ映画祭2017セクション・オフィシアル出品(ヤング審査員特別賞受賞)、ビルバオ・ファンタジー映画祭上映。配給ネットフリックス190ヵ国放映、スペイン公開6月9日、ラテンビート2017予定。
プロット:普通とは異なった身体のため迫害を受ける、サマンサ、ラウラ、アナ、バネッサ、イツィアルを中心に、周りには理解してもらえない願望をもつ、クリスティアン、エルネスト、シモン、後天的に顔面に酷い火傷を負い再生手術を願っているギリェなどを絡ませて、「普通とは何か」を問いかけた異色のダーク・ファンタジー。人は「普通」を選択して生まれることはできない。しかし人生をどう生きるかの選択権は他人ではなく、彼ら自身がもっている。ピンクとパープルに彩られたスクリーンから放たれる暴力と痛み、愛と悲しみ、美と金銭、父と娘あるいは母と息子の断絶、苦悩をもって生れてくる人々にも未来はあるのか。
キャスト:
アナ・ポルボロサ:消化器官が反対になったサマンサ(“Eat My Shit”『アイーダ』)
マカレナ・ゴメス:両眼欠損の娼婦ラウラ(『トガリネズミの巣穴』『スガラムルディの魔女』)
カンデラ・ペーニャ:顔面変形片目のアナ(『時間切れの愛』『オール・アバウト・マイ・マザー』)
エロイ・コスタ:身体完全同一性障害、人魚になりたいクリスティアン(TV”Centro mrdico”)
ジョン・コルタジャレナ:顔面火傷を負ったギリェ(米『シングル・マン』TV”Quantico”)
セクン・デ・ラ・ロサ:異形愛好家エルネスト(『クローズド・バル』 “Ansiedad”)
アナ・マリア・アヤラ:軟骨無形成症のバネッサ
ホアキン・クリメント:バネッサの父アレクシス(『クローズド・バル』)
カルメン・マチ:クリスティアンの母クラウディア(『クローズド・バル』『ペーパーバード』『アイーダ』)
アントニオ・デュラン’モリス’:クリスティアンの父シモン(『プリズン211』『月曜日にひなたぼっこ』)
イツィアル・カストロ:肥満症のイツィアル(『ブランカニエベス』『Rec3』“Eat My Shit”)
アドルフォ・フェルナンデス:(『トーク・トゥ・ハー』)
マリア・ヘスス・オジョス:エルネストの母?(『スガラムルディの魔女』『ペーパーバード』)
アルベルト・ラング:(『トガリネズミの巣穴』『グラン・ノーチェ』)
ハビエル・ボダロ:街のチンピラ(『デビルズ・バックボーン』)
ミケル・ゴドイ:2017年の娼館のアシスタント
特別出演
カロリナ・バング:精神科医(『気狂いピエロの決闘』)
ルシア・デ・ラ・フエンテ
マラ・バジェステロ:2000年の娼館経営者(『アイーダ』)
*監督キャリア&フィルモグラフィ*
★エドゥアルド・カサノバEduardo Casanova:1991年3月マドリード生れの26歳、俳優、監督、脚本家。人気TVシリーズ ”Aída”「アイーダ」(05~14)に子役としてデビュー、たちまちブレークして232話に出演した。他、アレックス・デ・ラ・イグレシアの『刺さった男』や『グラン・ノーチェ!最高の大晦日』、アントニア・サン・フアンの “Del lado del verano” などに脇役として出演している。
(「アイーダ」に出演していた頃のカサノバ、ダビ・カスティリョ、アナ・ポルボロサ)
★監督・脚本家としては、2011年ゾンビ映画 “Ansiedad”(Anxiety)で監督デューを果たす。この短編にはアナ・ポルボロサとセクン・デ・ラ・ロサを起用している。短編8編のうち、2014年の凄まじいメロドラマ “La hora del baño”(17分)にはマカレナ・ゴメス、2015年の“Eat My Shit” には再びアナ・ポルボロサが出演、長編 “Pieles”『スキン』のベースになっている。他に2016年にホセ・ルイス・デ・マダリアガをフィデル・カストロ役に起用して “Fidel”(5分)を撮る。短期間だがハバナのサン・アントニオ・デ・ロス・バニョスの映画学校でビデオクリップの制作を学んでいる。カサノバによるとキューバや独裁者たちや紛争対立に興味があるようです。「アイーダ」での役名は偶然にもフィデル・マルティネスだった。
("Eat My Shit"のイツィアル・カストロ、監督、アナ・ポルボロサ)
(エドゥアルド・カサノバ、ベルリン映画祭2017にて)
冒頭から度肝をぬくマラ・バジェステロの怪演
A: 物語はドール・ハウスのようにピンクに彩られた「愛の館」から始まる。マラ・バジェステロ扮する娼館の女主人は、「本能は変えられない」と客のシモンを諭す。先ず彼女の風体に度肝をぬかれる。シモンは妻クラウディアが無事男の子を出産したことを確認すると妻子の前から姿を消す。この男の子がクリスティアンです。この親子がグループ1。
B: クリスティアンは身体完全同一性障害BIIDという実際にある病気にかかっている。四肢のどれかが不必要と感じる病気です。彼の場合は両足がいらない、人魚のようになりたいと思っている。彼のメインカラーはパープルである。このピンクとパープルが一種のメタファーになっている。
(「本能は変えられない」とシモンを諭す娼館のマダム)
A: このプロローグには作品全体のテーマが網羅されている。娼館マダムのマラ・バジェステロの風体にも混乱させられるが、その病的な理念「美とノーマルが支配する無慈悲な社会秩序を支えているマヤカシ」を静かに告発している。
B: 深い政治的な映画であることがすぐ分かるプロローグ。ただ苦しむために生まれてくるかのような人々の存在が現実にある。
(人魚になりたいクリスティアンのエロイ・コスタ)
(息子の葬儀に17年ぶりに邂逅する、クラウディアのカルメン・マチとシモン)
A: シモンは身体的に普通でない女性が好きなことを恥じている。女主人が紹介するのが目が欠損している当時11歳というラウラにたじろぐが、ラウラに魅せられてしまう。シモンはラウラに2個のダイヤの目をプレゼントする。シモンにはアントニオ・デュラン’モリス’、ラウラには『トガリネズミの巣穴』のマカレナ・ゴメスが扮した。
B: ラウラのメインカラーはピンク、時代は17年後の2017年にワープして本当のドラマが始まる。
A: ラウラに肥満症のイツィアルが絡んでグループ2となる。イツィアル・カストロは、カサノバ監督のお気に入りで短編 “Eat My Shit”(15)にも出演している。
(シモンからダイヤの目をもらったラウラ)
(ラウラのダイヤを盗んだイツィアル)
B: この短編を取り込んで、サマンサを中心にしたグループ3に発展させた。サマンサのメインカラーはパープルです。
A: サマンサ役のアナ・ポルボロサが長短編どちらにも同じ役で出演している。消化器官が反対、つまり顔に肛門、お尻に口とかなりグロテスクだが、ポルボロサの美しさが勝っています。カサノバ監督とポルボロサは人気TVシリーズ「アイーダ」の子役時代からの親友、彼女のほうが2歳年上です。サマンサは外では人々の哄笑とチンピラの理不尽な暴力に屈している。なおかつ家では父親の見当はずれの過保護に疲れはて、悲しみのなかで生きている。
B: サマンサに倒産寸前の食堂経営者イツィアル、BIID患者のクリスティアンが絡んで、最終的にはエルネストに出会うことになる。
外見は手術によって変えられる―悪は自分の中にある
A: エルネストは外見が奇形でないと愛を感じられないシモンと同系列の人間。片目がふさがり頬が垂れ下がっているアナを愛している。母親はそんな息子を受け入れられない。エルネストはアナと一緒に暮らそうと家を出るが、賢いアナはエルネストが愛しているのは ”Solo me quieres por mi físico” 外見であって内面ではないと拒絶する。
B: 外見は手術によって変えられる。アナが愛しているのは、顔面頭部全体が大火傷でケロイドになってしまっているギリェだ。これがグループ4で、アナのメインカラーはピンクです。
(アナのカンデラ・ペーニャ)
(監督とエルネスト役のセクン・デ・ラ・ロサ)
A: しかしギリェは偶然手に入れたお金をネコババして再生手術を受け、終局的にはアナを裏切る。アナもやっと自立を決意する。エルネストはアナのときはピンク、サマンサに遭遇してからは、パープルに変わる。相手に流される人物という意味か。
(ギリェを演じたジョン・コルタジャレナ)
B: ギリェが愛していたのは美青年だった頃の自分自身だった。聡明なアナも見抜けなかった。アナ役のオファーをよく受けたと思いませんか。監督もカンデラ・ペーニャのような有名女優が引き受けてくれたことに感激していました。
A: 彼女はインタビューで、「エドゥアルドにはショックを受けた。こんな脚本今までに読んだことなかったし、比較にならない才能です。私の女優人生でも後にも先にもこんな役は来ないと思う」とベタ褒めでした。ラウラとアナの特殊メイクを担当したのがオスカル・デル・モンテ、2時間ぐらいかかるので、ヘアーも同時にしたようです。タイトルが「スキン」だから、常にスキン、スキン、スキンとみんなで唱えていたと、責任者のローラ・ゴメスは語っていた。冒頭に出てくる娼館マダムのヌードの意味もこれで解けます。
本当の家族を求めるバネッサ、娘の幸せより金銭を求める父親
B: 低身長のバネッサは軟骨無形成症という病気をもって生まれてきた。今はピンクーという着ぐるみキャラクターとしてテレビに出演、子供たちの人気者になっている。しかし欲に目のくらんだプロダクション・オーナーと父親に酷使され続けている。
A: 体外受精で目下妊娠しているから胎児のためにも番組を下りたい。しかし娘の幸せより金銭を愛する父親は断固反対する。こんな父親は本当の家族とは言えない。このバネッサと父親、札束で頬を叩くようなオーナーが最後のグループ5です。ここにギリェが絡んだことでアナは目が覚める。
B: このグループの社会批判がもっとも分かりやすい。バネッサのメインカラーはピンクです。
(ピンクーの着ぐるみを着せられるバネッサ)
A: この映画のメタファーは差別と不公正だと思いますが、こういう形で見せられると悪は自分の中にあると考えさせられます。
B: 固定観念にとらわれていますが、普通とは一体何かです。
A: 「常に母親という存在や先天的奇形に取りつかれている」という監督は、登場人物たちは自分の目的を手に入れるために乗り越えねばならない壁として先天的奇形を利用していると言う。肌に触れたい登場人物には目を取りのぞく(ラウラ)、あるいはキスをしたい登場人物には口を取り去ってしまう(サマンサ)ように造形した。
B: スクリーンがパステルカラーに支配されているとのはどうしてかという質問には、「なぜ、ピンク色かだって? いけないかい? 僕の家はピンク色なんだよ」と答えている。
A: 建築物がピンク色ではおかしいという固定観念に囚われている。
B: 影響を受けた監督としてスウェーデンのロイ・アンダーソンとブランドン・クローネンバーグを挙げていますが。
A: アンダーソン監督の『散歩する惑星』はカンヌ映画祭2000の審査員賞、『さよなら、人類』はベネチア映画祭2014の金獅子賞、本作は東京国際映画祭ではオリジナルの直訳「実存を省みる枝の上の鳩」といタイトルで上映された。シュールなブラック・ユーモアに富み、不思議な登場人物が次々に現れる恐ろしい作品。クローネンバーグはデヴィッド・クローネンバーグの息子、近未来サスペンス『アンチヴァイラル』(12)が公開されている。これまたSFとはいえ恐ろしい作品、今作を見た人は『スキン』のあるシーンに「あれッ」と思うかもしれない。カサノバ監督の第2作が待たれます。
ニューディレクターズ部門13作*サンセバスチャン映画祭2017 ② ― 2017年08月23日 11:45
スペイン語映画はドキュメンタリーを含む4作品
★スペインでも観光地バルセロナと近郊の都市を標的にしたテロがあり犠牲者が出ました。映画も政治と密接な関係がありますから、今年のサンセバスチャン映画祭が案じられます。ラインナップ13作品のうちアジアからも台湾、中国、韓国から各1作品、フィリピンからは2作品も選ばれてい。スペイン語映画からは、スペイン、コロンビア=アルゼンチン、チリ=スペイン=アルゼンチン、アルゼンチンの4作品です。各作品の内容並びに監督紹介は別途にアップする予定です。
★スペイン語映画の4作は、以下の通り:
◎Alberto García-Alix. La línea de sombra スペイン、ドキュメンタリー、
監督ニコラス・コンバロ
解説:スペインの写真家アルベルト・ガルシア=アリックス(1956年)の足跡と作品を描いたドキュメンタリー。ニコラス・コンバロは、1979年ラ・コルーニャ生れのアーティスト。
◎Matar a Jesús コロンビア=アルゼンチン、フィクション、監督ラウラ・モラ
解説・プロット:22歳の大学生パウラは大好きだった父親を殺害されてしまった。父親はメデジンの公立大学で政治科学の教授をしていた。離れたところからだが、犯人が猛スピードで走り去るモーターバイクが見えたが、パウラにはどうしてこんなことが起きてしまったのか理解できなかった。事件の2ヵ月後のクリスマスに、父親を殺害した若いヘススと偶然通りですれ違った・・・
*ラウラ・モラは、メデジン生れの36歳、監督、脚本家、製作者。2006年 “Brotherhood” で短編 デビュー、TVシリーズ『パブロ・エスコバル 悪魔に守られた男』(2012、2話)を監督する。本作は2002年に父親を殺害された実体験がもとになっている。サンセバスチャン映画祭の総指揮者ホセ・ルイス・レボルディノスが、試写後2時間で即決したという力作。
◎Princesita チリ=スペイン=アルゼンチン、フィクション、監督マリアリー・リバス
解説・プロット:12歳になるタマラは、地の果てチリ南部で暮らしている。タマラはあるカルト的集団のカリスマ的指導者ミゲルを崇拝している。しかし夏、彼女が初潮を迎えたらミゲルとのあいだに聖なる子供をもつというミッションを与えられる。タマラは自分が望んでいたものとはかけ離れた現実に直面していることに気づく。彼女の不服従は少女から女性に成長するなかで暴力に向きを変え、思いもかけないかたちで、自由を獲得するだろう。
*マリアリー・リバスの長編第2作、サンセバスチャン映画祭2015「Cine En Construcción」参加作品。チリ南部で実際に起きた事件にインスピレーションをうけて製作された。
◎Tigre アルゼンチン、フィクション
監督シルビナ・シュニッセル(Schnicer)・シュリーマン&ウリセス・ポラ・グアルディオラ
解説・プロット:65歳になったリナは、長いあいだ顧みなかった昔の家に、過去を取り戻し、家を建て直し、息子ファクンドとの関係も修復したいと帰ってきた。ここデルタ・デル・ティグレの奥深くにある島の家で息子を育て、人生の多くの時間を過ごしたのだ。息子もデルタを出てしまってずっと会っていない。やがて母と息子は再会するが、すべてが変わってしまったことに気づくだろう。デルタの時はゆっくり流れ、全ての人を包み込みながら混乱させる。スクリーンにさまざまな風景、活発な島の子供たちが現れるのを目にするだろう。
*シルビナ・シュニッセル・シュリーマンはブエノスアイレス生れ、ウリセス・ポラ・グアルディオラはカタルーニャ出身だが現在はブエノスアイレスに在住している。共に初監督作品。デルタで4週間撮影したそうだが、次々に現れるデルタの自然も主人公の一人とか。過去にヴィゴ・モーテンセンが一卵性双生児の兄弟に扮したアナ・ピターバーグの『偽りの人生』(12)の舞台も、ここデルタ・デル・ティグレだった。
ホライズンズ・ラティノ部門12作*サンセバスチャン映画祭2017 ③ ― 2017年08月24日 14:12
ベルリン、カンヌ、ベネチアなどに重なるラインナップ
★ラテンビートに関係の深い作品群がこの「ホライズンズ・ラティノ」、製作国がラテンアメリカに特化している部門です。12作品で決定のようです。取りあえず映画の原題、監督名、製作国を列挙しておきます。12作中半分の6作がカンヌ映画祭などで既にアップ済みです。サンセバスチャンは9月末と三大映画祭後の開催ということもあって、なかなかワールド・プレミア作品を選ぶのは難しい。また今年目立ったのが、サンセバスチャン映画祭2015~16の「Cine en Construcción」部門に参加した作品が7作もあったことでした。この部門の受賞者には、副賞として35,000ユーロの賞金が与えられます。
1)Una mujer fantástica 監督セバスティアン・レリオ チリ=ドイツ=スペイン=米国
ベルリン映画祭2017銀熊脚本賞、テディー賞ほか受賞作品、トロント映画祭2017出品
*内容&監督キャリア紹介は、コチラ⇒2017年1月26日/2月22日
2)La familia 監督グスタボ・ロンドン・コルドバ ベネズエラ=チリ=ノルウェー
カンヌ映画祭2017「批評家週間」正式出品
「Cine en Construcción 30」参加作品
*内容&監督キャリア紹介は、コチラ⇒2017年4月28日
3)La novia del desierto 監督セシリア・アタン&バレリア・ピバト アルゼンチン=チリ
カンヌ映画祭2017「ある視点」正式出品
「Cine en Construcción 31」参加作品
*内容&監督キャリア紹介は、コチラ⇒2017年5月14日
4)Las hijas de Abril ミシェル・フランコ メキシコ
カンヌ映画祭2017「ある視点」審査員賞受賞作品
*内容&監督キャリア紹介は、コチラ⇒2017年5月8日/5月26日 他
5)Los perros マルセラ・サイド チリ=フランス
カンヌ映画祭2017「批評家週間」正式出品
「Cine en Construcción 31」参加作品
*内容&監督キャリア紹介は、コチラ⇒2017年5月1日
6)Temporada de caza ナタリア・ガラジオラ アルゼンチン 監督
ベネチア映画祭2017「国際批評家週間」正式出品
「Cine en Construcción 31」参加作品
*内容&監督キャリア紹介は、コチラ⇒2017年8月12日
*以上6作は新たなアップは割愛いたします。
7)Al desierto 監督ウリセス・ロセル アルゼンチン=チリ
8)Arábia / Araby 監督アフォンソ・ウチョア&ジョアン・ドゥアン ブラジル
9)Cocote ネルソン・カルロス・デ・ロス・サントス・アリアス
ドミニカ共和=アルゼンチン=ドイツ=カタール 長編初監督作品
10)La educación del rey 監督サンティアゴ・エステベス アルゼンチン=スペイン
「Cine en Construcción 30」参加作品 長編初監督作品
11)Las olas アドリアン・ビニエス ウルグアイ=アルゼンチン
「Cine en Construcción 30」参加作品
12)Medea アレクサンドラ・ラティシェフ コスタリカ=アルゼンチン=チリ
「Cine en Construcción 30」参加作品 長編初監督作品
★ナンバー(7)以降は、何作可能か分かりませんが、賞に絡みそうな作品からプロット、監督紹介を予定しています。今年のラインナップは粒ぞろいの印象、エントリー(8)番のブラジル映画 Arábia / Araby は、年初開催のロッテルダム映画祭で話題になって以来、既に世界各地の映画祭で上映されて受賞もしています。予告編からも「これは・・・」と思わせる凄さがあります。多分何かの賞に絡むでしょう。エントリー(11)番 Las olas のアドリアン・ビニエスは、アルゼンチン出身ですが現在はウルグアイで活動しています。ラテンビート2010で『大男の秘め事』が上映されている監督の長編3作目です。
アントニオ・バンデラス「国民映画賞2017」受賞*その他いろいろ ― 2017年08月25日 14:06
バンデラスがサンセバスチャン映画祭にやってくる
★「国民映画賞」の授賞式は、サンセバスチャン映画祭で行われるのが恒例、アントニオ・バンデラスが久しぶりにサンセバスチャンにやってきます。昨年はアンヘラ・モリーナで盛り上がりましたが、なかには2015年のフェルナンド・トゥルエバのように「今更もらっても・・・」と受賞をごねる監督もいたりして、受賞者の選考は難しい。今回も「もう上げちゃうの、どうして?」と疑問を呈するシネアストもいるようでした。今年の1月26日に心筋梗塞で倒れ、その後ジュネーブの有名な心臓外科病院で3本のステント手術を受けており、健康不安というトラブルを抱えるようになっています。
(心臓手術後のアントニオ・バンデラス、2017年4月)
★2015年には最年少の受賞者としてゴヤ栄誉賞をもらったばかり、2008年にはサンセバスチャン映画祭の栄誉賞ドノスティア賞、2004年金のメダル、シッチェス映画祭2014栄誉賞、マラガ映画祭2017では名誉金のビスナガ賞、イベロアメリカ・プラチナ賞2015の栄誉賞などなど、海外も含めて50代にして数々の栄誉賞に輝いています。まだ受賞歴のないゴヤ賞主演男優賞あるいは助演男優賞が待たれるところです。
*ゴヤ賞2015栄誉賞の記事は、コチラ⇒2014年11月5日
*マラガ映画祭2017名誉金のビスナガ賞の記事は、コチラ⇒2017年4月1日
アカデミー賞2018外国語映画賞のスペイン代表は・・・
★先日、アカデミー賞2018外国語映画賞のスペイン代表候補3作がスペイン映画アカデミー会長イボンヌ・ブレイクの口から発表になりました。今年の話題作、カルラ・シモンのデビュー作 “Verano 1993”(ラテンビート2017の邦題『夏、1993』)、パブロ・ベルヘルの第3作コメディ “Abracadabra” (仮題「アブラカダブラ」)、サルバドル・カルボの戦争歴史物 “1898, Los ultimos de Filipinas” 以上3作に絞られました。カルラ・シモンの “Verano 1993” は、オデッサ映画祭2017のインターナショナル部門の作品賞を受賞したばかり、ヨーロッパ映画賞2017の候補に選ばれています。
(カルラ・シモンの “Verano 1993”)
(パブロ・ベルヘルの “Abracadabra”)
(サルバドル・カルボの “1898, Los ultimos de Filipinas”)
* “Verano 1993” の紹介記事は、コチラ⇒2017年2月22日
* “Abracadabra” の紹介記事は、コチラ⇒2017年7月5日
* “1898, Los ultimos de Filipinas” の紹介記事は、コチラ⇒2017年1月5日
ヨーロッパ映画賞2017にスペインから3作が残りました
★ヨーロッパ映画賞エントリー51作が発表になりました。うちスペインからは次の3作が選ばれています。スペイン映画界に多大な貢献をしているフアン・アントニオ・バヨナの『怪物はささやく』(劇場公開になっています)、ラウル・アレバロの『物静かな男の復讐』(Netflix放映)、カルラ・シモンの『夏、1993』(ラテンビート2017上映予定)の3作です。51作のなかから、11月4日開催のセビーリャ・ヨーロッパ映画祭でノミネーションが正式に確定します。1国1作品が恒例ですから選ばれるとしてもどれか1作です。授賞式は例年通り12月9日にベルリンで行われます。
(フアン・アントニオ・バヨナ『怪物はささやく』)
(ラウル・アレバロの『物静かな男の復讐』)
脇役に徹した個性派女優テレレ・パベス逝く ― 2017年08月29日 10:46
去る8月11日、脳溢血のためマドリードのラ・パス病院で死去
★訃報記事は気が重い。特に大好きだったテレレ・パベスとなると尚更です。TVを含めると100本近くの映画に出演しておきながら、ゴヤ賞助演女優賞を受賞したのが2014年、アレックス・デ・ラ・イグレシアの『スガラムルディの魔女』(13)だった。テレレ・パベスTerele Pávez(本名Teresa Marta Ruiz Penella)は、政治家ラモン・ルイス・アロンソを父に、芸術一家だったマグダレナ・ペネリャ・シルバを母として、1939年7月29日ビルバオで生れたが、育ったのはマドリードでした。四人姉妹の末っ子、うち二人の姉エンマ・パネリャ(1931~2007)とエリサ・モンテス(1934)も女優。姉たちの影響で女優の道に進み、3人揃って出演した映画が1作だけあるようだ。女優エンマ・オソレス(エリサの娘)の叔母にあたる。
★1973年、編集者ホセ・ベニト・アリケ(2008年没)との間に息子が誕生したが、テレレは父子の認知を望まず、シングル・マザーの道を選んで、自分の父姓ルイスを取ってカロロ・ルイスCarolo Ruiz とした。母子関係はいつも良好とは言えなかったそうだが、没後カロロは涙の会見をした。同年生れのピラール・バルデムと共に、女性シネアストの地位向上にも尽力したテレレ・パベスだったが、去る8月11日、脳溢血のためマドリードのラ・パス病院で死去、8月13日、遺体はエル・エスコリアルの火葬場で荼毘に付された。写真下はマドリードのホテル・リッツで行われたゴヤ賞2017の前夜祭のような会合に出席した母子、彼女はマリナ・セレセスキーの “La puerta abierta” で6度目の助演女優賞にノミネートされていた。
(息子カロロ・ルイスに寄り添うテレレ・パベス、2017年1月)
★60年に及ぶ長い女優人生だったが、一度も主役を演じたことがなかった。しかし20世紀スペインでもっとも愛され尊敬された監督と称されたガルシア・ベルランガ、『無垢なる聖者』のマリオ・カムス、『セレスティーナ』のヘラルド・ベラ、ビセンテ・アランダ、ビガス・ルナ、そして1995年のホラー・コメディ『ビースト 獣の日』出演以来、アレックス・デ・ラ・イグレシアのお気に入りとなった。映画デビューはガルシア・ベルランガ(1921~2010)の辛口コメディ“Novio a la vista”(1954「一見、恋人」仮題)、1959年、ベルランガがプロデュースして、ヘスス・フランコが監督したコメディ “Tenemos 18 años” に姉エリサの夫になるアントニオ・アロンソなどと共演した。その他マヌエル・バスケス・モンタルバンの陰謀小説を映画化したビガス・ルナの “Tatuaje”(1979「刺青」仮題)などがある。
(左から、パコ・ラバル、テレレ・パベス、アルフレッド・ランダ、『無垢なる聖者』から)
★出演作で一番評価が高いのが、マリオ・カムスの『無垢なる聖者』(“Los santos inocentes”1984)、アルフレッド・ランダが演じた主人公の妻レグラに扮した。ミゲル・デリーベスの同名小説の映画化、1960年代のスペイン農民のレクイエムです。これは20世紀スペイン映画史に残る名画、パベスの最高傑作と言ってもいいでしょう。残念ながらまだゴヤ賞は始まっていませんでした。アンヘラ・モリーナやフアン・ディエゴと共演したゴンサロ・エラルデの “Laura, del cielo llega la noche”(1987)で第2回目のゴヤ賞に初ノミネート、翌年も続いてノミネートされたが受賞できなかった。ビセンテ・アランダの「エル・ルーテ」の続編、”El Lute II: mañana seré libre”(1988)に起用された。
(演技が絶賛された『セレスティーナ』から)
★そのほかゴヤ賞関連では、ヘラルド・ベラの『セレスティーナ』(96)の演技が認められてゴヤ賞確実と言われながらノミネーションさえされなかった。しかし1997年サン・ジョルディ賞を受賞した。3回目のノミネーションがアレックス・デ・ラ・イグレシアの『13みんなのしあわせ』(00)だが、カルメン・マウラが主演、エミリオ・グティエレス・カバが助演を受賞したものの、テレレは受賞できなかった。4回目の『気狂いピエロの決闘』も空振り、アレックス映画のマスコット的女優となった『スガラムルディの魔女』(13)で宿願を果たした。カルメン・マウラ扮する人食い魔女のリーダーの母親マリチェを怪演した。これは「三度目の正直」ではなく「五度目」でした。今年2017もマリナ・セレセスキーの “La puerta abierta”(16)で認知症の母親役を演じて6度目のノミネーションを受けた。ゴヤ賞ノミネーションはすべて助演女優賞です。
(魔女マリチェに扮した『スガラムルディの魔女』から)
(涙、涙のゴヤ賞2014助演女優賞の授賞式にて)
★アッレクス・デ・ラ・イグレシアがゴヤ賞1996監督賞を受賞した『ビースト、獣の日』に初出演したあとも、上記以外に『マカロニ・ウエスタン800発の銃弾』(02)『グラン・ノーチェ!最高の大晦日』(15)『クローズド・バル』(17)などに起用されている。
(左から、カロリナ・バング、カルメン・マウラ、デ・ラ・イグレシア、テレレ・パベス)
★テレレ・パベスを理解するのに避けて通れないのが父ラモン・ルイス・アロンソとの関係である。父はガルシア・ロルカ殺害に深く関与したことで告発され、テレレや姉二人ともにその重荷を背負って生きてきた。父親は内戦勃発の1936年、ヒル・ロブレス率いるスペイン独立右翼連合CEDA所属の元国会議員としてグラナダでは有名だった。アカ嫌いのルイス・アロンソは、グラナダのファランヘ党のリーダーとして幅を利かせていたという。ロルカ逮捕には関与したが、8月18日のロルカ銃殺には立ちあっていなかった。ダブリン出身だが1978年からスペインに移り住み国籍まで取った、ロルカ研究の第一人者イアン・ギブソンの著書に、逮捕の経過が詳細に書かれている*。こういう事情を知らなかった若い舞台演出家が「ベルナルダ・アルバの家」のオファーをしたことがあったようです。時とともに内戦の悲劇も風化していくということでしょうか。
*Federico García Lorca: A Life, ロンドン、Faber and Faber, 1989(1997年に翻訳書が出版)
★三人姉妹は集団的敵意の重圧に苦しみ、一時期父姓のルイスを省いていた。親の負債を子供がどれだけ負うべきかという是非はともかく、充分苦しんだという。私たち三人姉妹は「父親を恥じてRuizを省いていたが、もうすんだこと、父親としてはいい人だったのよ」とテレレは語っていたそうです。父親はフランコ総統が1975年12月に亡くなり後ろ盾を失ったことで不安を感じ、ラスベガスに移住していた三女マリア・フリア(1937~2017)を頼って数週間後にはアメリカに渡り、3年後の1978年に死去した。
★テレレを陶片追放から救い出してくれたのがデ・ラ・イグレシアだった。周囲の重圧をはねのける真摯な態度、傷つきやすさ、誠実さ、誰にも真似できない強烈な個性、それは彼女自身が編み出した演技だった。割り当てられた人物になりきる能力がずば抜けていた。「泣くべき時に泣き、どんな状況にも対応できた。モンスターだったよ」と『セレスティーナ』のベラ監督。トレードマークのような大胆なマスカラをつけ、しわがれ声をあちらで響かせていることだろう。
*“Novio a la vista”の記事は、コチラ⇒2015年6月21日
*『無垢なる聖者』の記事は、コチラ⇒2014年3月10日・11日
*『スガラムルディの魔女』の記事は、コチラ⇒2014年10月18日
* “La puerta abierta” の記事は、コチラ⇒2017年1月12日
*ガルシア・ロルカの死についての記事は、コチラ⇒2015年9月11日
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