「批評家週間」にアルゼンチン映画*ベネチア映画祭2017ノミネーション ― 2017年08月12日 11:56
ナタリア・ガラジオラの長編デビュー作 “Temporada de caza”
★最近国際映画祭での活躍が目覚ましいのが若手女性監督のデビュー作です。「国際批評家週間」コンペティション部門に選ばれた “Temporada de caza” も1982年生れという若いナタリア・ガラジオラの長編デビュー作。ベネチアの「批評家週間」は新人登竜門的な役割らしく、今年の7作品もすべて第1回作品のようです。昨年はコロンビアのフアン・セバスチャン・メサのデビュー作“Los nadie”(“The Nobody”)が観客賞を受賞しています。都会でストリート・チルドレンとして暮らす5人兄妹の愛と憎しみが語られる映画でしたが、この “Temporada de caza” はアルゼンチン南部パタゴニアの森が舞台です。
“Temporada de caza”(“Hunting Season”)2017 アルゼンチン
製作:Rei Cine (アルゼンチン) / Les Films de L’Etranger (仏) / Augenschein Filmproduktion (独) / Gamechanger Films (米) / 協賛INCAA
監督・脚本:ナタリア・ガラジオラ(ガラジョーラ?)
撮影:フェルナンド・ロケット
編集:ゴンサロ・トバル
美術:マリナ・ラッジオ
メイクアップ&ヘアー:ネストル・ブルゴス
助監督:ブルノ・ロベルティ
製作者:ベンハミン・ドメネク、サンティアゴ・ガリェリ、マティアス・ロベダ、
ゴンサロ・トバル、他共同プロデューサー多数
データ:製作国アルゼンチン・米・仏・独・カタール、スペイン語、2017年、ドラマ、100分。撮影期間2015年から翌年にかけてサン・マルティン・デ・ロス・アンデスで撮影された。資金提供、トゥールーズ映画祭ラテンアメリカ映画基金、ドイツのワールド・シネマ基金より3万ユーロ、他ロッテルダムやトリノ・フィルム・ラボのサポートを受けています。第74回ベネチア映画祭「国際批評家週間」正式出品された。アルゼンチン公開9月14日予定。
キャスト:ヘルマン・パラシオス(父親エルネスト)、ラウタロ・ベットニ(息子ナウエル)、ボイ・オルミ、リタ・パウルス、ピラール・ベニテス・ビバルト、他
プロット:母親が急死したとき、ナウエルはブエノスアイレスの高校を終了する間際だった。別の家族と暮らす父親には、息子が18歳になるまでの3か月間の養育義務があった。二人は10年間も会っていなかったが一緒に暮らすことになる。父エルネストは、パタゴニアのサン・マルティン・デ・ロス・アンデスの山間の村で腕利きのハンターとして尊敬を集めていた。怒りをため込み心の荒んだナウエルのパタゴニアへの旅が始まる。自然が人間を支配する新しい環境に直面しながら、ナウエルは殺すことと同じように愛することの力を学ぶことになるだろう。
厳しいパタゴニアの風景をバックに対立する父と息子
★日本でパタゴニアと言えば氷河ツアーが人気のようだが、人間よりグアナコのような動物のほうが多い。舞台となるサン・マルティン・デ・ロス・アンデスもラニン国立公園がツアーに組み込まれるようになっている。「南米のスイス」と称されるバリローチェが舞台になったのは、ルシア・プエンソの心理サスペンス『ワコルダ』(『見知らぬ医師』DVD)でした。また詳細はアップしませんでしたが、今年のマラガ映画祭2017に正式出品されたマルティン・オダラの “Nieve negra” もパタゴニアが舞台、リカルド・ダリン扮する主人公は人里離れた山奥の掘立小屋に一人で暮らしている。父親が亡くなり遺産相続のため長らく会うこともなかった弟が妻を伴ってスペインから戻ってくる。この弟にレオナルド・スバラグリアが扮した。相続をめぐって対立する兄弟の暗い過去が直ちに表面化していくサスペンス。“Temporada de caza” のプロットを読んで真っ先に思い出したのが今作でした。
★ラテンアメリカ映画に特徴的なのが、何かを契機にA点からB点に移動して対立が起きる物語です。たいてい “Nieve negra” や “Temporada de caza” のように家族の死が多く、「シネ・エスパニョーラ2017」で短期上映されたイスラエル・アドリアン・カエタノの『キリング・ファミリー 殺し合う一家』も音信不通だった母親と弟の死がきっかけでした。二人に掛けられていたという僅かな死亡保険金欲しさにブエノスアイレスから北部のラパチトに移動して殺人事件に巻き込まれるストーリーでした。
★父エルネストを演じたヘルマン・パラシオスは、1963年ブエノスアイレス生れ。ルシア・プエンソの『XXY』(07)に、リカルド・ダリン扮する主人公の友人医師ラミロとして登場していました。TVシリーズでの出演が多い。息子ナウエル役のラウタロ・ベットニは本作が初出演のようです。ピラール・ベニテス・ビバルトは、“Yeguas y cotorras” に出演している。
(パタゴニアの風景をバックにした父と子、映画から)
★製作者のベンハミン・ドメネク、サンティアゴ・ガリェリ、マティアス・ロベダ、ゴンサロ・トバル、撮影監督のフェルナンド・ロケットは、共に “Yeguas y cotorras” に参画している。特にゴンサロ・トバルは、“Temporada de caza” で編集も担当しています。1981年生れの監督、脚本家、製作者、長編デビュー作 “Villegas” がカンヌ映画祭2012のカメラドールにノミネートされたほか、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭BAFICIのアルゼンチン映画コラムニスト連合賞ACCA他を受賞している。映画後進国の南米においては、アルゼンチンは飛びぬけて輩出している。
(左から、ゴンサロ・トバル、監督、サンティアゴ・マルティ、マイアミFF 2016にて)
*監督キャリア&フィルモグラフィー*
★ナタリア・ガラジオラNatalia Garagiola:1982年ブエノスアイレス生れ、監督、脚本家。祖先はイタリア系移民だが、一応英語発音でカタカナ表記した(ガラジョーラかもしれない)。映画大学卒業後、2014年にスペインのメネンデス・ペラヨ国際大学(視聴覚研究財団)のシナリオ科の博士課程終了。短編がカンヌ映画祭に出品されていることもあり、若手監督として注目されている。
2011年 “Rincón de López”(短編11分)脚本、BAFICI出品
2012年 “Yeguas y cotorras” (短編30分)カンヌ映画祭2012「批評家週間」短編部門出品
2014年 “Nordic Factory” (フィンランド、デンマーク製作)監督6人のオムニバス
2014年 “Sundays”(16分)共同監督、脚本、カンヌ映画祭2014「監督週間」短編部門出品
2017年 “Temporada de caza” 省略
* “Yeguas y cotorras” は、YouTube(英語字幕)で鑑賞できます。
追記:『狩りの季節』の邦題で Netflix 配信されました。
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