ディエゴ・レルマンの第5作*サンセバスチャン映画祭2017 ⑤ ― 2017年09月03日 14:52
オフィシャル・セレクション第2弾、アルゼンチンからディエゴ・レルマン
★今年のオフィシャル・セレクションにノミネートされた4作は、スペイン語2作、バスク語、英語が各1作ずつと、例年とは少し様相が異なります。うちスペイン語はマヌエル・マルティン・クエンカの “El autor” とディエゴ・レルマンの ”Una especie de familia” の2作だけです。ディエゴ・レルマンは20代の半ばにモノクロで撮った第1作『ある日、突然。』(2002、”Tan de reoente”)で「鮮烈デビュー」したアルゼンチンの監督。レイトショーとはいえ劇場公開され、その奇抜なプロットに驚かされました。エントリーされた新作は第5作目になります。
★ラテンビート2017でも『家族のように』の邦題で上映が決定された。

”Una especie de familia”(“A Sort of Family”)2017
製作:El Campo Cine(アルゼンチン)/ Bossa Nova(ブラジル)/ 27 Films Production(独)/
Bellota Films(仏)/ Staron Films(ポーランド) 協賛INCAA
監督:ディエゴ・レルマン
脚本(共同):ディエゴ・レルマン、マリア・メイラ
撮影:ヴォイテク・スタロン
編集:アレハンドロ・Brodersohn
音楽:ホセ・ビリャロボス
キャスティング:マリア・ラウラ・ベルチ
美術:マルコス・ぺドロン
衣装デザイン:バレンティナ・バリ
メイクアップ:ナンシー・Marignac
プロダクション・マネジメント:エセキエル・ラボルダ、イネス・ベラ
製作者:ニコラス・Avruj(エグゼクティブ)、ディエゴ・レルマン、他多数
データ:アルゼンチン=ブラジル=ポーランド=フランス、スペイン語、2017年、90分、社会派スリラー、ロード・ムービー。撮影地カタマルカ州、ブエノスアイレス、ミシオネス州、2016年11月初旬クランクイン、12月末アップ。トロント映画祭2017コンテンポラリー・ワールド・シネマ部門上映9月8日、サンセバスチャン映画祭正式出品、アルゼンチン公開9月14日
キャスト:バルバラ・レニー(マレナ)、ダニエル・アラオス(ドクター・コスタス)、クラウディオ・トルカチル(マリアノ)、ヤニナ・アビラ(マルセラ)、パウラ・コーエン(ペルニア医師)、他
プロット:ブエノスアイレスの中流家庭で育った38歳になる女医マレナのロード・ムービー。ある日の午後、ドクター・コスタスから直ちにアルゼンチンの北部に出立するよう電話が掛かってくる。待ち望んでいた赤ん坊の誕生が差し迫っているというのだ。マレナは逡巡しながらも、この不確かな旅に出立しようと決心する。行く手にはたくさんの罠が仕掛けられており、赤ん坊によってもたらされる予想外の高い代価や、自分が望んだものを手に入れるための限界はどこまでかを常に自問自答しながら、法にかなった道徳的な障害に直面する。私たちも新しい人生に立ち向かうマレナと一緒に旅をすることになるだろう。
★エグゼクティブ・プロデューサーのニコラス・Avrujによると、マレナは最近娘を亡くし夫とも別れている。母親になりたいが養子縁組のシステムが複雑で望みを叶えられない、という設定にした。養子縁組制度の欠陥という社会的問題にサスペンスの要素をミックスさせたドラマのようです。ミシオネス・ビジュアルアート研究所とアルバ・ポセ病院の協力を受けて撮影された。ミシオネスは北西をパラグアイ、北と東をブラジルと接している、アルゼンチンでも2番目に小さい州、パラナ、ウルグアイ、イグアスという大河が流れていて、河や密林の風景も映画の主人公のようです。

(赤ん坊を求めてミシオネスにやってきたマレナ役のバルバラ・レニー、映画から)
★デビュー作『ある日、突然。』も前作 ”Refugiado” も一種のロード・ムービーでしたが、本作でもヒロインはブエノスアイレスから北部を目指して旅をする。このラテンアメリカ映画に特徴的な「移動」は、たいていひょんなきっかけで突然やってくる。エル・パイス紙の記事によると、同じく金貝賞を狙う、ギリシャのアレクサンドロス・アブラナスの “Love me Not” にテーマが類似しているという。あるカップルが若い移民女性を代理母として契約する。女性を彼らの瀟洒な別荘に招き、生活スタイルを教え楽しんでもらう。妻はある秘密を抱えているが表に出さない。夫が仕事に出かけた後、妻と女性は軽く飲んでドライブに出かける。翌朝、夫は妻が事故車のなかで焼死体となっていることを知らされる。大体こんな筋書です。両作に共通しているのは、これから生まれてくるはずの赤ん坊を待っていること、赤ん坊のメタファーに類似性があるようです。
★アレクサンドロス・アブラナス(1977、ラリッサ)は、第2作 “Miss Violence” が、ベネチア映画祭2013で監督賞(銀獅子賞)、フェデオラ賞(ヨーロッパ地中海映画)などを受賞している。ここでは深入りしませんが、“Miss Violence” もある秘密を抱えた少女の自殺をめぐる物語で、審査員や観客を魅了した。ディエゴ・レルマンと同世代の若手監督、ギリシャの次世代を担うだろう楽しみな監督です。“Love me Not” も賞に絡みそうな気がしますが、どうでしょうか。
◎キャスト
★マレナ役のバルバラ・レニーは、アルゼンチン育ちのスペイン女優、アルゼンチン弁を克服して、『私が、生きる肌』『マジカル・ガール』『エル・ニーニョ』などに出演、日本での知名度も高いほうかもしれません。抜群のスタイルを生かしてモデル、映画にとどまらず舞台にも意欲的に出演、二足の草鞋派です。
*バルバラ・レニーの主な紹介記事は、コチラ⇒2016年2月15日

(初めて赤ん坊を胸に抱くマレナ、映画から)
★ダニエル・アラオスは、1962年コルドバ生れ。ガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーンの監督コンビの第2作『ル・コルビュジエの家』(09)に初出演、不気味な隣りの男ビクトルに扮した俳優です。第3作 “Querida, voy acomprar cidarrillo y vuelvo”(11)にも起用された。新作『笑う故郷』には出演しておりませんが、間もなく公開されます。クラウディオ・トルカチルは、1975年ブエノスアイレス生れ、公開作品では、パブロ・ヘンドリックの ”El Ardor”(14)に出演しています。ガエル・ガルシア・ベルナルがシャーマンに扮してジャングルでの撮影に臨んだ映画、新大陸にはタイガーは棲息していないのですが、『ザ・タイガー 救世主伝説』とまったく意味不明の邦題で公開されました。
*『ザ・タイガー 救世主伝説』の記事は、コチラ⇒2015年12月18日

(打ち合わせをする製作者ニコラス・Avrujとダニエル・アラオス)
◎スタッフ
★ディエゴ・レルマン Diego Lermanは、1976年ブエノスアイレス生れ、監督、脚本家、製作者、舞台監督。産声を上げた3月24日が奇しくも軍事クーデタ勃発の日、これ以後7年間という長きに及ぶ軍事独裁時代の幕が揚がった日でした。彼の幼年時代はまさに軍事独裁時代とぴったり重なります。体制側に与し恩恵を満喫した家族も少なからずいたでしょうが、レルマンの家族はそうではなかった。ブエノスアイレス大学の映像音響デザイン科に入学、市立演劇芸術学校でドラマツルギーを学ぶ。またキューバのサン・アントニオ・デ・ロス・バーニョスの映画TV学校で編集技術を学んでいる。当ブログでは、カンヌ映画祭2014「監督週間」に第4作目 ”Refugiado” が選ばれたときに、キャリアとフィルモグラフィーの詳細を記事にしておりますが3年前になりますので、今回再構成して下記に付録としてアップしています。

(ディエゴ・レルマン監督)
★第4作から撮影を手掛けているヴォイテク・スタロンWojtek (Wojciech) Staron(ヴォイテクは男子名ボイチェフの愛称)は、1973年生れのポーランド人、主にドキュメンタリーで国際的に活躍している撮影監督です。なかでメキシコで脚本家として活躍しているアルゼンチンのパウラ・マルコヴィッチの長編デビュー作 “El premio” がベルリン映画祭2011にエントリーされ、スタロンは銀熊賞(芸術貢献賞の撮影賞)を受賞しています。自分の少女時代を送ったサン・クレメンテ・デル・トゥジュという湯治場を舞台に、軍事独裁時代を少女の目線で撮ったマルコビッチの自伝的要素の強い映画、アリエル賞も受賞している。

(銀熊賞のトロフィーを手にしたヴォイテク・スタロン、ベルリン映画祭2011)
◎付録:ディエゴ・レルマンの長編フィルモグラフィー
2002 Tan de repente (アルゼンチン)『ある日、突然。』監督・脚本・プロデューサー モノクロ
2006 Mientras tanto(アルゼンチン)英題 Meanwhile 監督・脚本
2010 La mirada invisible(アルゼンチン=仏=西)『隠れた瞳』監督・脚本・プロデューサー
2014 Refugiado (アルゼンチン=ポーランド=コロンビア=仏)監督・脚本・プロデューサー
2017 Una especie de familia 省略
*他に短編、TVドキュメンタリーを撮っている。
★第1作Tan de repente :ロカルノ映画祭銀豹賞、ハバナ映画祭金の珊瑚賞、ウエルバ・ラテンアメリカ映画祭銀のコロン賞、2003年にはニューヨーク・レズ&ゲイ映画祭でも受賞するなど多くの国際舞台で評価されました。まだ20代半ばという若さでしたが、計算されたプロットにはアメナバルのデビュー当時を思い出させました。ユーロに換算すると4万ユーロという低予算で製作された。
★第2作Mientras tanto :アルゼンチン映画批評家協会賞にValeria Bertuccelli が主演女優賞(銀のコンドル賞)、クラリン・エンターテインメント賞(映画部門)にもBertuccelli が女優賞、ルイス・シエンブロスキーが助演男優賞を受賞しましたが、レルマン自身はベネチア映画祭のベネチア作家賞にノミネートされただけでした。「アルゼンチンの『アモーレス・ペロス』版」と言われた作品。『僕と未来とブエノスアイレス』(04、公開06)のダニエル・ブルマンがプロデューサーの一人。
★第3作La mirada invisible :東京国際映画祭2010で『隠れた瞳』の邦題で上映された。映画祭では監督と主演女優フリエタ・シルベルベルクが来日しました。マルティン・コーハンのベストセラー小説“Ciencias Morales”(2007エライデ賞受賞作)にインスパイアーされての映画化。従ってタイトルも登場人物も小説とは異なり、特に結末が大きく違っていました。軍事独裁制末期1982年のブエノスアイレス、エリート養成の高等学校が舞台でしたが、国家主義的な熱狂、行方不明者、勿論フォークランド戦争は出てきませんが、この学校がアルゼンチン社会のアナロジーと考えると、その「見えない視線」に監視されていた社会の恐怖が伝わってくるという仕掛けがしてあった。彼の作品の中で軍事独裁が顕著に現れているのが本作です。かつてブエノスアイレスが「南米のパリ」と言われた頃に建築された建物が高等学校として採用され、それ自体が絵になっています。
★第4作 Refugiado:カンヌ映画祭2014「監督週間」にノミネーション。7歳のマティアスと母ラウラに起こったことが、マティアスの無垢な驚きの目を通して語られる。父ファビアンのドメスティック・バイオレンスDVを逃れて、身重の母とティトを連れた息子は安全な避難場所を求めて都会を彷徨い歩く。都会をぐるぐる廻るスリラー仕立てのロード・ムービー。

バスク語映画 "Handia"*サンセバスチャン映画祭2017 ⑥ ― 2017年09月06日 15:16
オフィシャル・セレクション第3弾『フラワーズ』の監督が再びやってくる
★世界の映画祭を駆け巡った『フラワーズ』(“Loreak” 14)の監督ジョン・ガラーニョと、その脚本を手掛けたアイトル・アレギが、19世紀ギプスコアに実在したスペイン一背の高い男ミケル・ホアキン・エレイセギ・アルテアガ(1818~61)にインスパイアーされて “Handia” を撮りました。本名よりもGigante de Altzo「アルツォの巨人」という綽名で知られている人物です。前作でジョン・ガラーニョと共同監督したホセ・マリ・ゴエナガは、脚本&エグゼクティブ・プロデューサーとして参画しています。バスク自治州のサンセバスチャンで開催される映画祭ですが、オフィシャル・セレクションに初めてノミネートされたバスク語映画が『フラワーズ』だった。

(ワーキング・タイトルのポスター)
“Handia”(ワーキング・タイトル“Aundiya”、英題 ”Giant”) 2017
製作:Irusoin / Kowaiski Films / Moriarti Produkzioak / 他
監督:アイトル・アレギ、ジョン・ガラーニョ
脚本:アイトル・アレギ、ジョン・ガラーニョ、ホセ・マリ・ゴエナガ、アンド二・デ・カルロス
音楽:パスカル・ゲーニュ
撮影:ハビエル・アギーレ
編集:ラウル・ロペス、Laurent Dufreche
キャスティング:ロイナス・ハウレギ
プロダクション・デザイン:ミケル・セラーノ
メイクアップ&ヘアー:オルガ・クルス、Ainhoa Eskisabel、アンヘラ・モレノ、他
衣装デザイン:サイオア・ララ
プロダクション・マネージメント:アンデル・システィアガ
製作者:ハビエル・ベルソサ、イニャキ・ゴメス、イニィゴ・オベソ、(エグゼクティブ)ホセ・マリ・ゴエナガ、フェルナンド・ラロンド、コルド・スアスア
データ:スペイン、バスク語(スペイン語を含む)、2017年、歴史ドラマ、製作資金約200万ユーロ、サンセバスチャン映画祭2017正式出品、スペイン公開10月20日予定
キャスト:エネコ・サガルドイ(ミゲル・ホアキン・エレイセギ)、ホセバ・ウサビアガ(兄マルティン・エレイセギ)、ラモン・アギーレ(父アントニオ・エレイセギ)、イニィゴ・アランブラ(興行主アルサドゥン)、アイア・クルセ(マリア)、イニィゴ・アスピタルテ(フェルナンド)、ほか
プロット:マルティンは、第一次カルリスタ戦争からギプスコアの集落で暮らす家族のもとに戻ってきた。そこで彼が目にしたものは、出征前には普通だった弟ホアキンの身長が見上げるばかりになっていたことだった。やがて人々がお金を払ってでも、地球上で最も背の高い男を見たがっていることに気づいた二人の兄弟は、野心とお金と名声を求めて、スペインのみならずヨーロッパじゅうを駆けめぐる旅に出立する。家族の運命は永遠に変わってしまうだろう。19世紀に実在した「アルツォの巨人」ことミケル・ホアキン・エレイセギの人生にインスパイアーされて製作された。

スペイン海軍の将軍に扮した巨人ミゲル・ホアキン・エレイセギ
★実際のミゲル・ホアキン・エレイセギ・アルテアガ(バスク語ではMikel Jokin Eleizegi Arteaga)は、1818年12月23日、ギプスコア県のアルツォ村で9人兄弟姉妹の4番目の男の子として生まれた。母親は彼が10歳のころに亡くなっている。20歳で先端巨人症を発症して死ぬまで身長が伸びつづけたということです。記録によると身長が227センチ、両手を広げると242センチ、靴のサイズは36センチだったという(身長には異説がある)。当時のヨーロッパでは最も背が高く「スペインの巨人」として、イサベル2世時代のスペイン、ルイ・フィリップ王時代のフランス、ビクトリア女王時代のイギリスなどを興行して回った。たいていトルコ風の服装、あるいはスペイン海軍の将軍の衣装を身に着けて舞台に立った。1961年11月20日、肺結核のため43歳で死亡、遺体は生れ故郷アルツォAltzoに埋葬されたが、コレクターの手で盗まれてしまっている。映画は史実に基づいているようですが、やはりフィクションでしょうか。

(スペイン海軍の将軍の衣装を着たミゲル・ホアキン)
◎キャスト
★兄弟を演じるエネコ・サガルドイ(1994)もホセバ・ウサビアガも初めての登場、二人ともバスク語TVシリーズ “Goenkale” に出演している。2000年から始まったコメディ長寿ドラマのようで、エネコ・サガルドイは本作で2012年にデビュー、翌年までに57話に出演している。身長が高いことは高いが227センチのミゲル・ホアキンをどうやって演じたのか興味が湧きます。二人ともバスク語の他、スペイン語、英語の映画に出演している。

(ミゲル・ホアキン・エレイセギ役のエネコ・サガルドイ、映画から)

(左端が兄マルティン役のホセバ・ウサビアガ、映画から)

★第一次カルリスタ戦争は1933年に勃発、1939年に一応終息しました。兄マルティンが復員してから物語は始まるから、時代背景は1940年代となります。イニィゴ・アランブラ扮するアルサドゥンは、実在したホセ・アントニオ・アルサドゥンというナバラ在住の男で、ホアキンを見世物にして金儲けしようと父親に掛け合った。なかなか目端の利いた男だったようです。父親役のラモン・アギーレ(1949生れ)は、フェルナンド・フランコがゴヤ賞2014新人監督賞を受賞した “La herida”(13)、公開されたアルモドバルの『ジュリエッタ』、イニャキ・ドロンソロの『クリミナル・プラン~』、ミヒャエル・ハネケの『愛、アムール』(2012パルム・ドール)などに出演しているベテラン。フェルナンド・フランコの新作 “Morir” が、今年の特別プロジェクションにエントリーされているので、時間的余裕があればアップしたい。

(映画の宣伝をするアルサドゥン役のアランブラ、ネパールのプーンヒル標高3310mにて)
◎スタッフ
★製作者は、ラテンビート、東京国際映画祭で上映された『フラワーズ』や ”80 egunean”(”For 80 Days”)に参画したスタッフで構成されており、唯一人エグゼクティブ・プロデューサーのコルド・スアスアが初参加、過去にはフェルナンド・フランコの “La herida”、マルティネス=ラサロのヒット作 “Ocho apellidos vascos”(14)、アメナバルの “Regresión”(15、未公開)などを手掛けている。プロダクション・マネージメントのアンデル・システィアガも初参加、過去にはアレックス・デ・ラ・イグレシア映画『13 みんなのしあわせ』『マカロニ・ウエスタン800発の銃弾』他を手掛けている。音楽はフランス出身、1990年からサンセバスチャンに在住しているパスカル・ゲーニュと同じです。監督キャリア&スタッフ紹介は『フラワーズ』にワープしてください。

(『フラワーズ』のポスター)
★前作の脚本を担当、本作で監督にまわったアイトル・アレギAitor Arregi は、ジョン・ガラーニョとの共同でドキュメンタリー ”Sahara Marathon”(04、55分)を撮っている。他にイニィゴ・ベラサテギとアドベンチャー・アニメーション ”Glup, una aventura sin desperdicio”(04、70分)、“Cristobal Molón”(06、70分)を共同で監督している。また本作では脚本と製作を担ったホセ・マリ・ゴエナガとドキュメンタリー “Lucio”(07、93分)を撮り、グアダラハラ映画祭のドキュメンタリー部門で作品賞を受賞している。

(ジョン・ガラーニョとアイトル・アレギ)

『ヒア・アンド・ゼア』の監督作品*サンセバスチャン映画祭2017 ⑦ ― 2017年09月10日 17:07
オフィシャル・セレクション第4弾、5年ぶりメンデス・エスパルサの新作
★アントニオ・メンデス・エスパルサが、新作 “Life And Nothing More” で5年ぶりにサンセバスチャンにやってきます。彼のデビュー作 “Aquí y allá” は『ヒア・アンド・ゼア』の邦題で、東京国際映画祭TIFF2012「ワールド・シネマ」で上映されました。スペインの若手監督ですが、もっぱら米国、メキシコで仕事をしています。前作はアマチュアを起用してフィクションともドキュメンタリーとも、両方をミックスさせたような作品でした。あるメキシコ移民がアメリカから故郷に戻ってくる。家族と再会した幸福感や安堵感が、時間がゆったり流れるなかで、やがて喪失感に変化していくさまをスペイン語とナワトル語で描いた。今回はフロリダを舞台にしての英語映画ですがマドリード生れの将来有望な若手ということでご紹介いたします。『ヒア・アンド・ゼア』がTIFFで上映されたときには、当ブログは存在していなかったので初登場です。

(英題ポスター、左から、ロバート、リィネシア、レジーナ)
“Life And Nothing More” (“La vida y nada más”)2017
製作:Aqui y alli Films
監督・脚本:アントニオ・メンデス・エスパルサ
撮影:バルブ・バラショユ(『ヒア・アンド・ゼア』)
編集:サンティアゴ・オビエド
美術・プロダクション・デザイナー:クラウディア・ゴンサレス
録音:ルイス・アルグエジェス
プロダクション・ディレクター:ララ・テヘラ
キャスティング:Ivo Huahua、サンティアゴ・オビエド
プロデューサー:ペドロ・エルナンデス・サントス(『ヒア・アンド・ゼア』『マジカル・ガール』)、アルバロ・ポルタネット・エルナンデス、アマデオ・エルナンデス・ブエノ
(エグゼクティブ)ポール・E・コーエン、ビクトル・ヌネス
データ:製作国スペイン=米国、英語、ドクフィクション、113分、撮影地フロリダ、2016年10月31日クランクイン、約6週間。製作資金50万ユーロ。トロント映画祭2017「コンテンポラリー・ワールド・シネマ」正式出品(9月8日ワールドプレミア)、サンセバスチャン映画祭セクション・オフィシアル部門出品。
キャスト:レジーナ・ウィリアムズ(母親)、アンドリュー・ブリーチングトン(長男14歳)、リィネシア・チェンバース(長女3歳)、ロバート・ウィリアムズ(ロバート)
プロット:シングルマザーのレジーナはフロリダ北部の町でウエイトレスをして2人の子供を育てている。町では日常的にいざこざが起きている。思春期を迎えたアンドリューは、現在のアメリカでアフリカ系アメリカ人としてのより良い生き方を模索している。レジーナは絶え間ない闘いを余儀なくされ、さらに息子の問題行動と周囲に溶け込む余裕のないことで社会との軋轢を深めていく。不在の父に会いたいというアンドリューの思いが、彼を危険な十字路に立たせることになる。

(スペイン語題ポスター)
多角的な視点で描いた長編デビュー作 “Aquí y allá”
★アントニオ・メンデス・エスパルサは、1976年マドリード生れ、監督、脚本、製作。マドリードのコンプルテンセ大学法学部卒、その後ロスアンゼルスに渡りUCLAで映画を学んだ後、さらにニューヨークのコロンビア大学映画制作マスターコースを終了。ここでメキシコ移民のペドロ・デ・ロス・サントスと知り合い、2009年、彼を主役にした短編 “Una y otra vez” を撮る。TVE短編コンクール賞、ロスアンゼルス映画祭短編作品賞、オスカー賞プレセレクションに選ばれるなど、受賞歴多数。現在はアメリカに仕事の本拠地をおいている。

(新作 “La vida y nada más” 撮影中のメンデス・エスパルサ監督)
★カンヌ映画祭2012「批評家週間」で長編デビュー作 “Aquí y allá”(スペイン=米国=メキシコ)がグランプリを受賞したときは36歳、資金不足から監督、脚本、製作と何でもこなした。本作の主人公にも “Una y otra vez” のペドロ・デ・ロス・サントスを起用、ペドロの妻テレサも実際の奥さん、ただし2人の娘さんは別人です。当時「彼や彼の家族、友人、隣人との出会いと応援がなかったらこの映画は生まれなかった」と監督は語っている。彼自身は舞台となるメキシコに住んだことはなく、キャスティングはペドロを通じて知り合った移民たち、聞き書き、ドキュメンタリーの手法を採用したが、あくまでもフィクションである。上記したように故郷のゲレーロの山村に戻った当座は、妻も依然と変わりなく温かく迎えてくれ、幸福感と安堵感に満たされるが、あまりの静寂さにやがて喪失感に襲われるようになる推移がゆったりと描かれていた。バルブ・バラショユ撮影監督の映像美、アメリカから見たメキシコ、メキシコから見たアメリカ、という二つの視点が光った作品。

(デビュー作『ヒア・アンド・ゼア』のポスター)

(緑に囲まれた山間を親子4人で散策、映像が素晴らしかった)
アフリカ系アメリカ人に対する社会的不公正と人種差別、父親の不在
★第89回アカデミー賞作品賞受賞の『ムーンライト』を例に持ち出すまでもなく、アフリカ系アメリカ人の差別をテーにした映画は枚挙に暇がありません。勿論、メインテーマはそれぞれ違いますが、どうしてもステレオタイプ的な描かれ方になりがちです。それを避けるには『ラビング 愛という名前のふたり』のように実話をベースにすることが多い。5年ぶりとなる長編2作目 “Life And Nothing More” は、大きく括ると、いわゆるドクフィクションdocuficciónというジャンルに属している。ドキュメンタリーの父と言われるロバート・フラハティの『モアナ』に始まり、他作品では、ルキノ・ヴィスコンティの『揺れる大地』、ポルトガルのペドロ・コスタの『ヴァンダの部屋』、同名小説がベースになっていますが、フェルナンド・メイレレスの『シティ・オブ・ゴッド』などを挙げることができます。
★前作『ヒア・アンド・ゼア』同様ノンプロの俳優を起用、撮影はアメリカ大統領選挙中の熱気に包まれたフロリダで、10月31日にクランクインした。製作者のペドロ・エルナンデス・サントスは、「不確実な空気を取り込むには、これ以上の好機はないからだ」と語っている。掛け持ちで仕事に追われて不安定な母親レジーナと口達者なロバートとの会話も自然なアドリブの部分があり、それが非常にエモーショナルなものを呼び起こしたと監督。子供たちの父親は刑務所に収監中だが、14歳になるアンドリューは会いたいと思っている。しかしそれは母親から禁じられており、本作でも父親の不在がキイポイントの一つになっているようだ。特権と組織全体的な人種差別が複雑に入り組んでいるアメリカ社会の今が語られる。


*追記:東京国際映画祭2017「ワールド・フォーカス」部門に『ライフ・アンド・ナッシング・モア』の邦題で上映されます。
金獅子賞はギレルモ・デル・トロの手に*ベネチア映画祭2017 ③ ― 2017年09月11日 15:10
金獅子賞はメキシコのギレルモ・デル・トロが受賞
★先週土曜日(現地時間)に授賞式があり、金獅子賞はメキシコのギレルモ・デル・トロの ”The Shape of Water”(「ザ・シェイプ・オブ・ウォーター」)が受賞しました。製作国はアメリカ、言語は英語、オスカーを狙えるスタートラインに立ちました。時代背景は冷戦時代の1963年ですが、勿論現在のトランプ政権下のアメリカを反響させていますね。ある政府機関の秘密研究所で清掃員をしている孤独な唖者エリサが、カプセルに入れられて搬入されてきた半漁人に恋をするという一風変わったおとぎ話。または隠された政治的メッセージが込められたSF仕立ての寓話ということです。エリサに英国の演技派サリー・ホーキンス(『ハッピー・ゴー・ラッキー』)、半漁人にデル・トロ映画の常連さん、凝り性のダグ・ジョーンズが扮する。『パンズ・ラビリンス』で迷宮の番人パンになった俳優。

(金獅子賞のトロフィーを手にして、ギレルモ・デル・トロ)
★水に形はないわけですから「水のかたち」というタイトルからして意味深です。水は入れられた容器で自由に変化する。アマゾン川で捕獲されたという半漁人と言葉を発しないエリサとの恋、水は恋のメタファーか、「私たちの重要なミッションは、愛の存在を信じること」です。どうやら愛の物語のようです。現在52歳、痩せたとはいえ130キロはある巨体から発せられる言葉に皮肉は感じられない。「すべての語り手に言えることだが、何か違ったことをしたいときにはリスクを覚悟するという、人生にはそういう瞬間があるんです」と監督。メキシコに金獅子賞をもたらした最初の監督でしょうか。本作は10作目になる。スペインでは、2018年1月、”La forma del agua” のタイトルで公開が決定しています。

(エリサと半漁人、映画から)
「国際批評家週間」の作品賞にナタリア・グラジオラのデビュー作
★ベネチア映画祭併催の「国際批評家週間」の最優秀作品賞に、アルゼンチンのナタリア・グラジオラの長編デビュー作 “Temporada de caza” が受賞しました。パタゴニアを舞台にした父と息子の物語です。ベネチアだけでなく、サンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ」部門にもノミネートされており、その他、シカゴ、ハンブルク各映画祭にも出品されることが決まっています。

(ポスターを背にナタリア・グラジオラ監督、リド島にて、2017年9月7日)
★「上映が終わると凄いオベーションで、みんな感激して泣いてしまいました。全員ナーバスになって、人々のエネルギーに押されて・・・何しろこんなに大勢の観客の前で上映するのは初めてだったし・・・」と、手応えは充分感じていたようです。最後のガラまで残っていたのは「私と母と代母だけで、あとはブエノスアイレスに戻ってしまった」とホテル・エクセルシオールでインタビューに応じていた。映画祭期間中は代金が3倍ぐらいに跳ね上がるから、最後までいるのは相当潤沢なクルーでないと無理ですね。何しろリド島なんて不便だもんね。
★息子ナウエル役を「見つけるまでに300人ぐらい面接した。ラウタロを一目見て、この子にする、と即決した。これが正解だったの、彼しかいなかった」と監督。こういう出会いが重要、「デビュー作というのは何につけ困難を伴いますが、ヘルマン・パラシオス(父親役)とボイ・オルミが出演を快諾してくれたことが大きかった」、運も実力のうちです。既に監督キャリアを含めた作品紹介をしております。次回作は女医を主人公にしたドラマとか。

アドリアン・ビニエスの第3作 "Las olas" *サンセバスチャン映画祭2017 ⑧ ― 2017年09月13日 17:24
「ホライズンズ・ラティノ」にアドリアン・ビニエスの第3作
★アドリアン・ビニエスは、ベルリン映画祭2009でデビュー作 “Gigante” がいきなり銀熊賞、新人監督賞、さらにはアルフレッド・バウアー賞のトリプル受賞、一躍ベルリンの寵児となった監督。ラテンビート2010で『大男の秘め事』の邦題で上映されました。今回ノミネーションされた “Las olas” は、昨年の「Cine en Construcción 30」出品作品、エントリーされた6作のうち4作が今年の「ホライズンズ・ラティノ」にノミネートされています。仕事に疲れ果てた中年男アルフォンソが海の中で出会う過去がメランコリックに語られる。「Cine en Construcción」は、ラテンアメリカ諸国の映画振興のために年2回開催され、第30回が2016年9月のサンセバスチャン映画祭、第31回が2017年3月のトゥールーズ映画祭に出品された作品。
“Las olas” (“The Waves”)2017
製作:Mutante Cine(ウルグアイ)/ El Campo Cine(アルゼンチン)
監督・脚本・音楽:アドリアン・ビニエス
撮影:ニコラス・ソト、ヘルマン・レオン
編集:パブロ・リエラ、フェルナンド・エプステイン(『ウィスキー』)
録音:フランシスコ・リッジ、マルティン・スカグリア
助監督:サンティアゴ・トゥレルTurell
製作者:アグスティナ・チアリノ、ニコラス・Avruj
データ:ウルグアイ=アルゼンチン、スペイン語、2017年、ドラマ、87分、撮影地モンテビデオ、2016年3月クランクイン、「Cine en Construcción 30」参加作品、サンセバスチャン映画祭2017「ホライズンズ・ラティノ」正式出品、ウルグアイ公開2018年前期予定。
キャスト:アルフォンソ・Tort(アルフォンソ)、フリエタ・ジルベルベルグ、カルロス・リサルディ、ファビアナ・チャルロ、ビクトリア・ホルヘ、他
プロット:アルフォンソは疲れはてる仕事が終わるとビーチに出かける。海に潜って泳ぐ。海から浮き上がると、5年前に家族と一緒に夏を過ごした別のビーチにいることと気づく。これが素晴らしい旅の始まりだった。彼の人生に沿ってさまざまな夏休み、湯治場がメモランダムに出現する。両親と過ごした子供時代、別れた妻と過ごした神秘的な島、友達と一緒のティーンエージャー時代、マレーシアの海賊ごっこ、2年続けて同じ場所でそれぞれ別の恋人とキャンプしたことが、ノスタルジックにメランコリックに彼の孤独が語られる。

(ビーチに向かうアルフォンソ?)
ノスタルジーとアナクロニズムが横溢する中年男の孤独
★テイスト的には『大男の秘め事』に近いが、デビュー作にあったスリリングな緊張感は薄れている印象です。アドリアン・ビニエスは、ブエノスアイレス生れのアルゼンチン人ですが、ウルグアイのモンテビデオを本拠地にしている。小国ウルグアイの映画市場はアルゼンチンとは比較にならないほど小さく、彼のようなシネアストは珍しい。本作は上記したように「Cine en Construcción 30」の参加作品、その時のストーリーとは若干違っているようです。「素晴らしい旅の始まり」は、アルフォンソが11歳の子供のときで、両親が岸辺から彼に戻ってくるよう呼んでいるシーンだった。アルフォンソは監督と同世代の38歳から40歳、時代は1985年から2012年に設定されている。大人の体形と変わらないアルフォンソが子供を演じるわけで、そのアンバランスが可笑しみを醸しだしているのでしょうか。
★アドリアン・ビニエスAdrian Biniezは、1974年ブエノスアイレス州のレメディオス・デ・エスカラダ生れ、監督、脚本家、俳優、現在はウルグアイのモンテビデオ在住。2006年、短編デビュー作 “8 horas” でブエノスアイレス国際インディペンデントSAFICIで1等賞を取る。『大男の秘め事』がベルリン映画祭2009銀熊賞・新人監督賞・アルフレッド・バウアー賞を受賞、他サンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ」の作品賞を受賞した。サッカー選手をテーマにした長編第2作 “El 5 de Talleres” が、ベネチア映画祭2014「第11回ベネチア・デイズ」部門で上映、他ロッテルダム、ヒホン、マル・デル・プラタ、トライベッカ、各映画祭に出品された。第3作目が本作である。俳優としては初めて公開されたウルグアイ映画としても話題を呼んだ『ウィスキー』(04、フアン・パブロ・レベージャ&パプロ・ストール)などに脇役で出演している。

(アドリアン・ビニエス監督)

(アグスティナ・チアリノ、監督、ニコラス・Avruj、「Cine en Construcción 30」にて)
★キャストのうちアルフォンソ役のアルフォンソ・Tortは、2001年『ウィスキー』の監督コンビのデビュー作 “25 Watts” で初出演、モンテビデオの3人のストリート・ヤンガーの1日を描いたもの、若者の1人を演じた。『ウィスキー』にもベルボーイ役で出演、イスラエル・アドリアン・カエタノの “Crónica de una fuga”(06アルゼンチン)、主役を演じた”Capital (Todo el mundo va a Buenos Aiires)”(07アルゼンチン)、他ビニエス監督の “El 5 de Talleres” にも出ている。今作には今度共演するアルゼンチンのフリエタ・ジルベルベルグも出演している。ジルベルベルグは、『ニーニャ・サンタ』でデビュー、ディエゴ・レルマンの『隠された瞳』、ダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』、ダニエル・ブルマンの “El rey del Once” などで当ブログに登場しています。カルロス・リサルディとファビアナ・チャルロは、『大男の秘め事』に出演している。監督は同じメンバーを起用するタイプなのかもしれない。

(監督は親友だと語る、アルフォンソ・Tort、2015年5月)


(フリエタ・ジルベルベルグ、“El 5 de Talleres” から)
*『人生スイッチ』の記事は、コチラ⇒2015年7月29日
* “El rey del Once” の記事は、コチラ⇒2016年8月29日
サンティアゴ・エステベスのデビュー作*サンセバスチャン映画祭2017 ⑨ ― 2017年09月17日 10:00
「ホライズンズ・ラティノ」はアルゼンチン映画が花ざかり
★ラテンアメリカ諸国に関していえば、アルゼンチンは映画先進国、今年もノミネーション12作のうち4作、合作を含めると半数以上の7作になります。サンティアゴ・エステベスの長編デビュー作 “La educación del Rey” は、「Cine en Construcción 30」(サンセバスチャン映画祭SSIFF2016)の受賞、他に「Cine en Construcción 30」では「CACI-Ibermedia TV」賞*も受賞しています。定年退職したばかりの元警備員が偶然遭遇してしまった強盗初犯の若者の自立を手助けするというサスペンス仕立てのドラマです。
*CACI(Conferencia de Autoridades Cinematográficas Iberoamericanas)イベロアメリカ映画作品会議。

“La educación del Rey” 2017
製作:13 Conejos
監督・編集:サンティアゴ・エステベス
脚本(共):サンティアゴ・エステベス、フアン・マヌエル・ボンドン
撮影:セシリア・マドルノ
美術:アレハンドラ・マスカレーニョ
録音;パトリシア・ミラネシ
視覚効果:ラモン・ダサ、ビクトル・パラシオス・ロペス
音楽:マリオ・ガルバン、マルティン・サンチェス
助監督:エセキエル・ピエリ
プロデューサー:サンティアゴ・エステベス、(エグゼクティブ)バルバラ・エレーラ、
(アシスタント)セシリア・マドルノ、ダマリス・レンドン
データ:アルゼンチン、スペイン語、2017年、撮影地メンドサ、2015年10月。「Cine en Construcción 30」出品作品(作品賞受賞)、「CACI-Ibermedia TV」賞受賞、サンセバスチャン映画祭2017「ホライズンズ・ラティノ」正式出品、フランス公開2017年11月22日予定
キャスト:ヘルマン・デ・シルバ(カルロス・バルガス)、マティアス・エンシナス(レイナルド・ガリンデス、綽名レイ)、エステバン・ラモチェ(ビエイテス)、ウォルター・ヤコブ(アランシビア)、ホルヘ・プラド、マルティン・アロージョ、エレナ・シュネル(カルロス妻)、マリオ・ハラ、マウリシオ・ミネティ、マルセロ・ラセルナ、他
プロット:16歳のレイナルド・ガリンデス、綽名はレイと警備会社を定年退職したばかりのカルロス・バルガスの物語。レイは仲間と初めて強盗に入るが見つかり警察に追われ逃走する。道路を走り塀を乗り越え飛びおりた先がバルガス家の中庭だった。バルガスはレイにある提案をする。飛び降りたときに壊した庭を修繕するなら警察に引き渡さないと。それが始まりだった。老いた元ガードマンは、古くからの言い伝えに倣って若者の<君主教育>を始める。しかしこの協定は、レイナルドが犯した未解決の問題に近づこうとしたとき、二人の信頼関係に亀裂が走るだろう。
一躍スターになったメンドサ生れの新人マティアス・エンシナス
★「君主教育」というタイトルは、レイナルドReynaldoの綽名レイReyと王reyを掛けている。タイトルのRey が大文字と小文字の2通りある理由です。当ブログではIMDbを採用しました。同じキャストでTVミニ・シリーズ化(8話)されて、お茶の間にも登場することになった。レイナルド・ガリンデス役のマティアス・エンシナスはメンドサ生れのニューフェイス、撮影時には主人公とほぼ同じ17歳だった。TVドラ化されたことでメンドサでは有名になったということです。

(マティアス・エンシナス、映画から)
★カルロス・バルガス役のヘルマン・デ・シルバは、ダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』(第5話「愚息」)の庭師役を演じたベテラン。資産家の愚息の轢逃げ犯の身代わりを50万ドルで請け負うが、値段を釣り上げて資産家を逆に強請るという、笑うに笑えないコメディだった。本作でアルゼンチン映画アカデミー2014の助演男優賞受賞している。他にカンヌやサンセバスチャン映画祭2011の「ホライズンズ・ラティノ」作品賞を受賞したパブロ・ジョルジェッリの “Las acacias” で主役の長距離トラック・ドライバーを演じて、アルゼンチン映画アカデミー新人男優賞やコンドル賞にノミネートされている。

(レイナルドに<君主教育>をするカルロス・バルガス、映画から)
★今回あまり出番はなさそうなエステバン・ラモチェは、サンティアゴ・ミトレのデビュー作『エストゥディアンテ』の政治活動に目覚めていく主役を演じてカルタヘナ映画祭男優賞をもらった。カンヌ映画祭2015併催「批評家週間」のグランプリ受賞作品『パウリーナ』ではパウリーナの恋人役、前回アップしたアドリアン・ビニエスの “El 5 de Talleres” では主役を演じた。ホルヘ・プラドは、映画、舞台、TVと活躍しているベテランのようです。アドリアン・カエタノの『キリング・ファミリー』やフランシスコ・マルケス&アンドレア・テスタの “La larga noche de Francisco Sanctis” に脇役で出演している。

(エステバン・ラモチェとヘルマン・デ・シルバに指示を与える監督、撮影2015年10月)

(ホルヘ・プラド、右はマティアス・エンシナス、TVミニシリーズから)
★ウォルター・ヤコブは、1975年ブエノスアイレス生れ、主に舞台俳優、演出家として活躍している。パブロ・トラペロのブエノスアイレスのスラム街を舞台にした社会派ドラマ『ホワイト・エレファント』に出演している。リカルド・ダリンやベルギーの若手ジェレミー・レニエ、トラペロ夫人のマルティナ・グスマンなどと共演した。マルセロ・ラセルナやエレナ・シュネルも舞台俳優らしく二人は同じ舞台に立っている演劇仲間。

(右ウォルター・ヤコブ、ジェレミー・レニエと共演した『ホワイト・エレファント』から)
★サンティアゴ・エステベスはメンドサ生れ、監督、脚本家、編集者。本作が長編デビュー作ですが、編集者としては長いキャリアの持ち主。ベテランを揃えられたのもこのキャリアの賜物かもしれない。オムニバス映画『セブン・デイズ・イン・ハバナ』(12)のパブロ・トラペロが監督した「ジャムセッション/火曜日」を手掛けている。2011年、エステバン・ラモチェを起用して短編 “Los crimenes”(19分)、ほか ”Un sueño recurrente”(13、22分)の2作がある。

(本作撮影中の監督、左側)

(エセキエル・ピエリと監督、SSIFF2016「Cine en Construcción 30」にて)
*『人生スイッチ』の主な記事は、コチラ⇒2015年7月29日
*『パウリーナ』の主な記事は、コチラ⇒2015年5月21日
*『キリング・ファミリー 殺し合う一家』の記事は、コチラ⇒2017年4月9日
* “La larga noche de Francisco Sanctis” の記事は、コチラ⇒2016年5月11日
サンティアゴ・ミトレの『サミット』などが追加発表*ラテンビート2017 ③ ― 2017年09月17日 17:19
やっと上映作品の全体像が見えてきました!
★タイムテーブルはまだ穴あき状態で不完全ですが、これで上映作品はほぼ決定したのでしょうか。新たに追加されたなかに、サンティアゴ・ミトレの第3作 “La cordillera” が、英題のカタカナ起こし『サミット』の邦題で上映されることになりました。カンヌ映画祭2017「ある視点」に正式出品された折りに、当ブログでは作品紹介をしております。リカルド・ダリンがアルゼンチン大統領に扮して「ラテンアメリカ・サミット」に出席、チリ大統領には『グロリアの青春』のパウリナ・ガルシア、メキシコ大統領には『ブランカニエベス』のダニエル・ヒメネス=カチョ、ダリンの娘に『パウリーナ』のドロレス・フォンシ、他にエレナ・アナヤ(『私が、生きる肌』)、エリカ・リバス(『人生スイッチ』)などなど、見た顔が勢揃いしています。
* “La cordillera” の作品紹介の記事は、コチラ⇒2017年5月18日

(サンティアゴ・ミトレ監督とアルゼンチン大統領のリカルド・ダリン)
★主役のリカルド・ダリンが今年のドノスティア賞(栄誉賞)を受賞するので、スペシャル・プロジェクションとして『サミット』が上映されことになっています。ほかにドノスティア賞の受賞者は、イタリア女優のモニカ・ベルッチと、ベルギー出身だが第二次世界大戦中フランスに避難、フランス国籍の若々しい89歳のアニエス・ヴァルダです。ベルッチは代表作ジュゼッペ・トルナトーレの『マレーナ』(2000)、ヴァルダはカンヌ映画祭2017(コンペティション外)の観客を沸かせたドキュメンタリー「Faces Places (Visages, Villages)」が上映されます。ヴァルダと孫ほど年の違う若い写真家でアーティストのJRが、フランスの田舎を旅してまわるお可笑しくて哀しい上質のドキュメンタリー。カンヌ上映後のオベーションが永遠に続いたとか。日本ではいつ劇場公開されるのでしょうか。第65回ということもあってドノスティア賞には以上3人が受賞します。

(ベルッチの代表作『マレーナ』のポスター)

★他に、ハビエル・アンブロッシ&ハビエル・カルボの “La llamada” が、英題のカタカナ起こし『ホーリー・キャンプ』の邦題で上映されます。『ブランカニエベス』のマカレナ・ガルシア、『オリーブの樹は呼んでいる』のアンナ・カスティーリョ、『KIKI~恋のトライ&エラー』のベレン・クエスタなどのぴちぴちガールズが出演します。2013年に30万人の観客を集めたという大ヒット・ミュージカルの映画化。監督は二人ともTVシリーズに出演している俳優出身、今回、揃って監督デビューしました。ハビエル・アンブロッシ(1984年マドリード)、ハビエル・カルボ(1991年マドリード)の若い監督、グラシア・オラヨ(『気狂いピエロの決闘』)やセクン・デ・ラ・ロサ(『クローズド・バル』)などアレックス・デ・ラ・イグレシア映画のメンバーが脇を固めています。サンセバスチャン映画祭2017「Gala TVE」部門で上映される。

(ベレン・クエスタ、アンナ・カスティーリョ、マカレナ・ガルシア、グラシア・オラヨ)

(左から、マカレナ・ガルシア、ハビエル・カルボ監督、アンナ・カスティーリョ、
ベレン・クエスタ、グラシア・オラヨ、ハビエル・アンブロッシ監督)
★サンセバスチャン映画祭関連では、エドゥアルド・カサノバの『スキン』、カルラ・シモンの『1993、夏』が、「メイド・イン・スペイン」部門で上映されます。このセクションは既にスペインで公開されて人気の高かった作品が選ばれるようです。ラテンビートではエントリーされませんでしたが、当ブログで作品紹介をしたなかに、スペイン公開と同時だったアレックス・デ・ラ・イグレシアの『クローズド・バル』、マラガ映画祭でリノ・エスカレラが審査員特別賞と脚本賞を受賞した “No sé decir adiós” や、同映画祭の「ZonaZine」部門の作品賞・監督賞をダブル受賞した新人エレナ・マルティンの “Júlia ist” などが選ばれています。
* “No sé decir adiós” の記事は、コチラ⇒2017年06月25日
* “Júlia ist” の記事は、コチラ⇒2017年07月10日
"El autor" トロント映画祭でFIPRESCI賞*サンセバスチャン映画祭2017 ⑩ ― 2017年09月18日 16:42
マヌエル・マルティン・クエンカ、三度目の挑戦で国際批評家連盟賞受賞
★去る9月17日トロント映画祭tiff 2017は、マーティン・マクドナーの “Three Billboards Outside Ebbing, Missouri”(米=英)を観客賞(最高賞)に選んで閉幕しました。開催期間がベネチア映画祭と重なる部分もあり、作品もかなりダブっています。とにかくtiffは合計300本ぐらいあるからチェックするのも面倒くさくなります。本作もベネチア映画祭のコンペティション部門に出品されていました。隣国だから授賞式まで残っていたのか、あるいは直前に呼び戻されたのか、「本当に観客に受け入れられるかどうか全く分からなかった」と、監督は受賞の驚きを隠さなかったようです。

(主演のフランシス・マクドーマンド、“Three Billboards Outside Ebbing, Missouri”から)
★サンセバスチャン映画祭のコンペティションにも出品されているマヌエル・マルティン・クエンカの新作 “El autor”(The Motive)がスペシャル・プレゼンテーション部門の国際批評家連盟FIPRESCI賞を受賞しました。過去には彼の2作品 “La mitad de Oscar” と “Canibal” が出品されておりますが、今回三度目の挑戦で大賞を手にしました。他にはベネチア映画祭の金獅子賞をとったギレルモ・デル・トロの “The Shape of Water”、同じくベネチア映画祭正式出品のジョージ・クルーニーの “Suburbicon” や、ダーレン・アロノフスキーの “Mother!” を押しのけて、彼らからすれば知名度的には低いマルティン・クエンカが受賞するなんて予想もしませんでした。幸先良いニュースですが、果たしてサンセバスチャンでは賞に絡めるでしょうか。

(アントニオ・デ・ラ・トーレとハビエル・グティエレス、“El autor” から)
★サンセバスチャン映画祭2017のドノスティア賞受賞者のアニエス・ヴァルダと、写真家でアーティストのJRのドキュメンタリー映画 “Visages Villages”(Faces Places)がドキュメンタリー観客賞を受賞しました。アニエス・ヴァルダは89歳、JRは34歳、祖母と孫ほど年の違う二人連れが、町の人々と触れあいながらフランスの田舎をめぐります。これは今年観たい映画5本に入れたいです。

(アニエス・ヴァルダとJR)

(ベロドロモ部門のポスター)
★サンセバスチャン映画祭では3000人が収容できる大型スクリーンで上映されるベロドロモ部門(コンクール外)で上映されるのが、ハビエル・バルデムとペネロペ・クルスが出演することで話題になっている、フェルナンド・レオン・デ・アラノアの “Loving Pablo” です。tiffではスペシャル・プレゼンテーション部門に出品されていましたが、残念でした。ベネチア映画祭はコンペティション外の出品でした。

(パブロ・エスコバルを演じたハビエル・バルデム)
★このベロドロモでは、スペイン語映画はボルハ・コベアガのキツいブラック・ユーモア満載のコメディ “Fe de etarras”、ハビエル・カマラ、フリアン・ロペス、ラモン・バレア、ゴルカ・オチョアなどが出演します。10月12日Netfix放映が決定しています。コベアガはスペイン映画史上最高の興行成績を誇る「8アペジードス・バスコス」の脚本を共同で手掛けています。もう1作がアントニオ・クアドリの “Operación concha”(西=メキシコ)、ジョルディ・モリャ、カラ・エレハルデ、ウナックス・ウガルデ、ラモン・アギーレ、バルバラ・モリ他、お馴染みの役者が出演して笑わせます。どうやら今年のベロドロモ上映3作品は、字幕入りで観られそうです。


(アントニオ・クアドリの “Operación concha” から)
★ベロドロモVelódromoは、英語のvelodromeと同じくスペイン語でも「競輪場」を指します。作品は3~5作品と少なく娯楽アクションものが多い。かつてアレックス・デ・ラ・イグレシアの『スガラムルディの魔女』や、ダニ・デ・ラ・トーレの『暴走車 ランナウェイ・カー』がここで上映された。
コスタリカから女性監督デビュー*サンセバスチャン映画祭2017 ⑪ ― 2017年09月22日 16:08
「ホライズンズ・ラティノ」にコスタリカの新人アレクサンドラ・ラティシェフ
★「ホライズンズ・ラティノ」の出品作品は、例年8月前半に開催されるリマ映画祭と同じ顔触れになります。コスタリカの新人アレクサンドラ・ラティシェフの長編第1作 “Medea” は、リマ映画祭2017の審査員特別メンション受賞作品です。今年はラテンアメリカ10ヵ国17作品が上映され、作品賞にグスタボ・ロンドン・コルドバの “La familia”(ベネズエラ他)、審査員特別賞にセバスティアン・レリオの “La mujer fantástica”(チリ他)と、ホライズンズ・ラティノの出品作が選ばれています。 “Medea” からは主演女優のリリアナ・ビアモンテが審査員特別メンション女優賞を受賞していました。ペルーはコスタリカ同様映画産業は盛んとは言えませんが、本映画祭も今年21回目を迎えています。

“Medea” 2016
製作;La Linterna Films / Temporal Film / Grita Medios / CyanProds
監督・脚本:アレクサンドラ・ラティシェフ
撮影:オスカル・メディナ、アルバロ・トーレス
音楽:スーザン・カンポス
編集:ソレダ・サルファテ
プロダクションデザイン・美術:カロリナ・レテ
製作者:パス・ファブレガ、ルイス・スモク、アレクサンドラ・ラティシェフ、(エグゼクティブ)シンシア・ガルシア・カルボ、(アシスタント)バレンティナ・マウレル
データ:コスタリカ=アルゼンチン=チリ、スペイン語、2016年、70分。2016「Cine en Construcción 30」、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭2017正式出品、第21回リマ映画祭2017正式出品(リリアナ・ビアモンテ審査員特別メンション女優賞)、サンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ」正式出品。
キャスト:リリアナ・ビアモンテ(マリア・ホセ)、エリック・カルデロン(カルロス)、ハビエル・モンテネグロ(ハビエル)、マリアネイジャ・プロッティ、アーノルド・ラモス、他
プロット:マリア・ホセの人生は、単調な大学生活、日頃疎遠な両親、ラグビーのトレーニング、そしてゲイの友人カルロスとの間を動きまわっている。しかしハビエルと知り合い彼と交際しはじめたことで、周囲との連絡を絶つ。<普通の>人生を送るための努力をなにもせずに受け入れるが、誰も考えもしなかった秘密を抱えこンでしまう、彼女は数か月の身重になっていた。
★これだけの情報では、タイトルから想像するギリシャ神話のメデイア、またはエウリピデスのギリシャ悲劇「女王メディア」に辿りつけない。夫イアソンの裏切りに怒り、復讐を果たす強い女性像とヒロインのマリア・ホセ像とが結びつかない。マリア・ホセは25歳になるのに未だ大学生、内面的には何かが起こるのを待っているモラトリアム人間にも見える。表面的にはラクビー選手という設定だが、メディアのように本当に強い女性なのか。エウリピデスのメディアは二人の息子も殺害するが、ヒロインが妊娠数か月というのが暗示的だ。女性の<女らしさ>を嫌悪するミソジニーと関係があるのかないのか。ギリシャ悲劇の規範でいえば、英雄は最後には降格する宿命にある。マリア・ホセの最後がどうなるのか全く予想がつかない。

(マリア・ホセ役のリリアナ・ビアモンテ、映画から)
★アレクサンドラ・ラティシェフAlexandra Latishev は、コスタリカのベリタス大学で映画とTV学校で学ぶ。監督、脚本家、編集者、製作者、女優。2011年、短編 “L’Enfante Fatale” を撮る。短編 “Irene”(14)は、トゥールーズ映画祭、アルカラ・デ・エナレス映画祭(作品賞)、フランドル・ラテンアメリカ映画祭(審査員メンション)、ハバナ映画祭(審査員メンション)など多数受賞する。 “Medea” は長編第1作である。


(リリアナ・ビアモンテ出演の “Irene” のポスター)
★監督によれば、「自分自身とは感じられない体で生きているせいで、自分の所属場所がないという人物を登場させたかった。不可能なリミットまで描きたかった。世間は矛盾で溢れているが、他人と調和して生きたいと考えています。しかし私たちにはそれとは対立した<その他>も居座っています。この映画の中心課題は、社会的に積み上げられてきた<女らしさ>の概念についてのマリア・ホセの闘いです」ということです。これで少しテーマが見えてきました。

(製作者シンシア・ガルシア・カルボと監督右、2016「Cine en Construcción 30」にて)
★リリアナ・ビアモンテLiliana Biamonteは、アレクサンドラ・ラティシェフの短編 “Irene” に主人公のイレネ役で出演、他にユルゲン・ウレニャの “Muñecas rusas”(14)、アレホ・クリソストモの “Nina y Laura”(15)、アリエル・エスカランテの “El Sonido de las Cosas”(16)などコスタリカ映画に主役級で出演している。本作 “Medea” でリマ映画祭2017審査員特別メンション女優賞を受賞している。

(看護師役のリリアナ・ビアモンテ、“El Sonido de las Cosas” から)
ヴィム・ヴェンダースの新作で開幕*サンセバスチャン映画祭2017 ⑫ ― 2017年09月26日 13:12
アリシア・ヴィカンダー、サンセバスチャンに到着
★まずまずの天候に恵まれ開幕しました。続々と内外のシネアストが現地入りして国際映画祭ならではの雰囲気がただよってきました。オープニング作品 “Submergence” の監督ヴィム・ヴェンダースのグループ、アントニオ・バンデラス、パス・ベガ、審査委員長ジョン・マルコヴィッチ以下の審査員一同(ホルヘ・ゲリカエチェバリア、エンマ・スアレス、ドロレス・フォンシ、ウィリアム・オールドロイド、アンドレ・ザンコウスキ、パウラ・ヴァカロ)、カルロス・サウラ、アニエス・ヴァルダ、アキ・カウリスマキなどのスーパー・シニア組も元気な姿で到着しました。ホライズンズ・ラティノの有力候補、チリのセバスチャン・レリオ監督とヒロインのダニエラ・ベガも早々と姿を見せ意気込みを印象づけました。

(審査員一同、中央がマルコヴィッチ審査委員長)
★オープニング作品はヴィム・ヴェンダースの最新作 “Submergence”(スペイン題 “Inmersión”)、先日閉幕したトロント映画祭のスペシャル・プレゼンテーション部門でも上映され、監督は第4回「ゴールデン・サム」賞を受賞したばかりです。監督、ヒロインのスウェーデン出身だが現在はハリウッドで活躍しているアリシア・ヴィカンダー(ヴィキャンデル)、トロントにも来ていたケリン・ジョーンズが現地入りしたようです。

(サンセバスチャンには姿を見せなかったジェームズ・マカヴォイ入りのポスター)

(ケリン・ジョーンズ、ヴィム・ヴェンダース監督、アリシア・ヴィカンダー)

「サンセバスチャンは Netflix 作品を拒みません」と総監督ホセ・ルイス・レボルディノス
★ベネチア映画祭のディレクターもネットフリックス制作の映画は「大歓迎」と、カンヌとは違う路線をアナウンスしましたが、サンセバスチャンの今年7回目を総指揮するホセ・ルイス・レボルディノスも早くから「Netflix 作品を拒みません」と明言していました。規模も格も段違いですから、存続のためにもきれいごとなど言ってられません。だからではないでしょうが、ベロドロモ部門上映のボルハ・コベアガの “Fe de etarras” の以下のような大垂れ幕がビル全体を被いました。レボルディノスも56歳、63歳で引退をちらつかせていますが、大分先の話です。

(ネットフリックス制作“Fe de etarras” のプロモーション用の大ポスター)
★マヌエル・マルティン・クエンカの “El autor” の面々も勢揃いしています。スペイン語映画では賞レースの先頭を走っている印象です。大歓迎を受けて、ハビエル・グティエレスもマリア・レオンも上機嫌のようです。ハビエルは2014年に『マーシュランド』(アルベルト・ロドリゲス)で男優賞を受賞していますが、授賞式には欠席して相棒のラウル・アレバロがスピーチを代読した。アルベルト・ロドリゲス監督は作品は、コンペティション外でTVシリーズ “La peste”(2回分)が上映されます。

(マヌエル・マルティン・クエンカ監督)

(一人だと小柄が目立たない主役アルバロのハビエル・グティエレス)

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