グスタボ・ファジャス*モントリオール国際映画祭①2013年09月05日 14:23

★日本でも田中光敏の『利休にたずねよ』の芸術貢献賞受賞で盛り上がったモントリオール国際映画祭、スペイン語映画も収穫がありました。グスタボ・ファジャスのデビュー作“Puerto padre”(2013、コスタリカ/メキシコ、英題“Port Father”)が「ファースト・フィルム」部門の銀賞を獲得いたしました。

★グスタボ・ファジャスGustavo Fallasはコスタリカ出身。カナダのケベック大学で映画と脚本を学んだ。受賞にはこれが幸いしたかもしれない。本作は監督が長年あたためていた脚本をPrograma Ibermediaからの資金援助($150,000)をもとに、最終的には概算で$550,000の援助を受けて実現させた。コスタリカではプンタレナス州の州都プンタレナスでの撮影開始から話題になっていた。古びたLas Hamacasホテルを舞台に4人の登場人物が繰り広げるドラマ。監督によるとこのホテルに出会うことで構想が生まれたそうです。どうやらホテルも重要な役割を担っているらしい。

★漁師のダニエル(ジェイソン・ペレス)に両親はなく祖母とチラ島で暮らしていた。16歳になったダニエルはこの小島に希望はないと、プンタレナスにいるという自分の名付け親ミゲルを頼って故郷を後にする。しかし母の行きつけだったホテルの支配人チコ(ガブリエル・レテス)から既にミゲルは死んだと素っ気なく告げられる。しかしチコはダニエルに仕事を世話してくれ、ダニエルは調理場で働く若いシングルマザーのソレダ(アドリアナ・アルバレス)に想いを寄せていく。チコの父親でもあるホテルのオーナーのパト(アルバロ・マレンコ)は、今や衰弱して見捨てられたようにベッドに臥せっていた・・・

★このホテルには何やら秘密がありそうです。ハリケーンの目の中に巻き込まれてしまったダニエル役のジェイソン・ペレスはこれがデビュー作、西アフリカのリベリア出身、マリンバが得意とか。チラ島での撮影が短期間ではあったが役の掘り下げに役立ったと。ソレダ役のアドリアナ・アルバレスはコスタリカ出身、既にエステバン・ラミレスの第2作“Gestacion”(2009、英題“Gestation”)の演技で高い評価をうけている。

★チコ役のガブリエル・レテスはメキシコからの参加、メキシコ映画ファンならお馴染みの監督にして俳優のベテラン、“Flores de papel”(1977、英題“Paper Flowers”)がベルリン映画祭1978のコンペに選ばれている。また“El bulto”(1992)、2008年の“Arresto domiciliario”が代表作。彼はファジャスの才能に惚れこんで出演したというから楽しみです。パト役のアルバロ・マレンコはコスタリカでは有名なベテラン俳優ということですが、1作も見ておりません。出演した作品のIMDb(インターネット・ムービー・データベース)評価は高いですね。そういえば、本作のIMDbは今のところアップされておりません。
(写真:ダニエル役のペレスとソレダ役のアルバレス)

クラウディア・ピント*モントリオール国祭映画祭②2013年09月05日 17:48

★クラウディア・ピントのデビュー作“La distancia más larga”(2013、ベネズエラ/スペイン、英題“The Longest Distance”)が、ラテンアメリカ映画にシフトした「グラウベル・ローシャ賞」を受賞しました。そう、ブラジルのニューシネマ「シネマ・ノーヴォ」の旗手ローシャの名前を冠した賞です。受賞が分かった時点でカラカスは大騒ぎのようです。ノミネートの段階でもしかしたらと期待していた作品でしたので嬉しい。もう予告編だけでも舞台となるグラン・サバナの景色、滝の美しさにドキドキします。

★60代のマルティナ(カルメ・エリアス)がスペインからベネズエラ南西部にあるグラン・サバナ(生れ故郷)に人生最後の旅にやってくる。ここロライマ山(2800m)の麓には彼女のかつての幸福が詰まっていたからである。ところが予期せぬ孫ルーカス(オマール・モヤ)の訪問で次第に最初の計画が狂っていく。家族の出会いとすれ違い、過去の自分に向き合うことになる。

★マルティナを演じるカルメ・エリアスは「ラテンビート2009」の目玉だった『カミーノ』の母役をした人。それ以前にもアルモドバルの『私の秘密の花』に出てましたが。スペインの大女優エリアスがグラン・サバナに撮影に来るという新聞報道もされた。神秘的な雰囲気がこのマルティナ役にはぴったりです。

★オマール・モヤは初出演、脇役のアウレック・ワイート(1990、カラカス生れ)も映画は初出演だがキャリアのある俳優らしい。暗い過去を持つミステリアスなカジェモ役にうってつけ、公開されたら若い女性ファンはほっとかないと思います。

★スペイン語映画が大好きなテーマの一つがこの<移動>です。それは“Puerto padre”のダニエルのような未来に向かう旅であったり、マルティナのような死出の旅であったりするが移動に変わりない。メキシコのレイガーダスの第1作『ハポン』も最新作『闇の後の光』も主人公は移動する。自分を未知の世界に連れていくことはそれだけでドラマですから。
(写真:グラン・サバナ、遠くにロライマ山が見える)