サンティアゴ・ミトレの「アルゼンチン1985」*サンセバスチャン映画祭2022 ⑫2022年09月06日 14:13

          再びタッグを組むサンティアゴ・ミトレとリカルド・ダリン

 

   

 

★ペルラス部門上映のサンティアゴ・ミトレの「Argentina, 1985」は、既にベネチア映画祭コンペティション部門でワールドプレミアされ、口コミのお蔭もあってか好発進したようです。本作の主役は、2017年ラテンアメリカ初のドノスティア栄誉賞受賞者のリカルド・ダリンです。今年のペルラス部門は長尺映画が多く、本作も2時間を超える。アマゾンプライムビデオ配給のニュースに驚愕したが、どうやら採算は充分取れそうです。というのも本作は1976年の軍事クーデタ勃発から1983年の終結までのあいだに、推定30,000人とも称される民間人が誘拐殺害された、いわゆる汚い戦争を背景にしているからです。CIAの指導のもとに吹き荒れた南米の軍事独裁時代の知識が不可欠でしょう。この歴史的政治的背景を監督 & 脚本家並びにフィルム編集者が、政治闘争の縦糸と人間の横糸をどのように織り合わせることができたかが鍵です。長尺140分を長く感じたか、短く感じたが試される。

 

 「Argentina, 1985」アルゼンチン

製作:La Unión de los Ríos / Kenya Films / Infinity Hill

監督:サンティアゴ・ミトレ

脚本:サンティアゴ・ミトレ、マリアノ・リナス(ジナス)

撮影:ハビエル・フリア

編集:アンドレス・ペペ・エストラダ

音楽:ペドロ・オスナ

プロダクション・デザイン:ミカエラ・Saiegh

衣装:モニカ・トスキ Toschi

メイクアップ&ヘアー:(メイクアップ)アンヘラ・ガラシハ、(ヘアー)ディノ・バランツィノBaranzino

製作者:アクセル・クシェヴァツキー(Infinity Hill)、ビクトリア・アロンソ、サンティアゴ・カラバンテ、リカルド・ダリン、チノ・ダリン、サンティアゴ・ミトレ、フェデリコ・ポステルナク、アグスティナ・ランビ=キャンベル(アマゾン幹部)、(エグゼクティブ)シンディ・テパーマン & フィン・グリン(制作会社 Infinity Hill)、ステファニー・ボーシェフBeauchef

 

データ:製作国アルゼンチン=米国、2022年、スペイン語、政治、歴史、法廷ドラマ、140分、撮影地ブエノスアイレス、配給アルゼンチンDigicine、米国プライムビデオ。公開アルゼンチン、ウルグアイ929日、米国930日、プライムビデオのストリーミング配信1021

 

映画祭・受賞歴:第79回ベネチア映画祭2022コンペティション部門ノミネーション(93日上映)、第70回サンセバスチャン映画祭ペルラス部門正式出品

 

キャスト:リカルド・ダリン(フリオ・ストラッセラ)、ピーター・ランサニ(ルイス・モレノ・オカンポ)、ノーマン・ブリスキ(ルソ)、アレハンドラ・フレヒナー(フリオの妻シルビア)、サンティアゴ・アルマス・エステバレナ(フリオの息子ハビエル)、クラウディオ・ダ・パッサノ(作家カルロス・ソミリアナ)、エクトル・ディアス(バシレ)、アレホ・ガルシア・ピントス、カルロス・ポルタルッピ(裁判長)、ブリアン・シチェルSichel(フェデリコ・コラレス)、他多数

 

ストーリー:本作は検察官フリオ・ストラッセラとその同僚ルイス・モレノ・オカンポの実話にインスパイアされて製作された司法ドラマ。1985年、アルゼンチン史でも最も血が流されたという軍事独裁政権の指導者たちを拉致・拷問・殺害による大量殺戮の罪で裁くため大胆にも挑戦した二人の検事の戦略が語られる。民主化とは名ばかり、国民が軍人支配の恐怖に怯えていた1985年、ストラッセラとモレノ・オカンポは、ゴリアテに立ち向かうダビデの闘いのために若く知的な法律捜査官を招集してチームを結成、老獪な首謀者たちを被告席に座らせるべく調査追及に乗り出す。

   

     

           (リカルド・ダリンとピーター・ランサニ、フレームから)

 

サンティアゴ・ミトレ監督紹介:1980年ブエノスアイレス生れ、監督、脚本家、製作者。サンセバスチャン映画祭2015で第2作「Paulina」(15、邦題『パウリーナ』)がホライズンズ賞を受賞、新作「Argentina, 1985」で戻ってきました。本作は上記したようにベネチア映画祭コンペティション部門にノミネートされている。単独での長編デビュー作「El estudiante」(11、邦題『エストゥディアンテ』)は政治的寓話、3作目「La Cordillera」(17『サミット』)、4作目「Petite fleur」(22)、5作目が本作。『パウリーナ』で主役を演じたドロレス・フォンシがパートナー。以下に監督キャリア&フィルモグラフィーを紹介しています。

『パウリーナ』作品紹介は、コチラ20150521

『サミット』作品紹介は、コチラ20170518同年1025

    

     

    (ドロレス・フォンシと監督、ベネチア映画祭2022レッド・カーペット、93日)

 

★本作は、脆弱ながら民主化されたアルゼンチンの司法部門が、1976年から1983年まで続いた軍事独裁政権の3人の大統領を含む9人の軍人を起訴したときに何が起きたかを描いたものです。7年間に推定30,000人と言われる民間人が「行方不明者」となった大量殺害を文民が裁く世紀の裁判でした。その主任検事に選ばれたのがフリオ・ストラッセラ1933~2015)、彼は軍政下では二流の弁護士でした。経験豊かな一流は権力の中枢に繋がっていたため火中の栗を拾いたくなかったからでした。そして副検事に選ばれた、当時法務長官の弁護士であった若いルイス・モレノ・オカンポ1952~)とタッグを組むことになる。この人選に被告も被告側弁護士たちも呵々大笑したのでした。チームは首謀者の軍人9人に絞り、約600人に及んだ警察官を断念して除外することになった。

 

★裁判は1985422日に始まり、5ヵ月間にわたる裁判で839人の証人審問、同年129日に結審、元大統領ホルヘ・ビデラ(陸軍総司令官)、ビデラの腹心エドゥアルド・マセラ(海軍大将)の2人が終身刑と軍の等級剥奪、ビデラの後を継いで短期間大統領だったロベルト・ビオラ(禁固17年)、アルマンド・ランブルスキーニ提督(禁固8年)、オルランド・アゴスティ(陸軍准将、禁固4年半)の3人が有罪判決を受け、3人目の大統領だったレオポルド・ガルティエリ(陸軍総司令官)など残る4人は証拠不十分で無罪となった。がっかりした人が多かったでしょう。

 

★裁判をナンセンスな茶番劇と思っていた被告たちは、直ぐに解放されるだろうと自信をもっていた。民政化とはいえ彼らの影響力はすべての官僚機構に浸透していたからです。彼らが見誤っていたことは、アルゼンチンの未来を求める検事チームの若い情熱とエネルギーでした。チームは徹夜でファイルを読み、証人を求めて地方に飛び、一日中働くことができたからです。


★公開、または映画祭上映になった汚い戦争をテーマにした作品は、オスカー像を初めてアルゼンチンにもたらしたルイス・プエンソの『オフィシャル・ストーリー』(86)、エクトル・オリベラの『ミッドナイトミッシング』(86)、フィト・パエスの『ブエノスアイレスの夜』(01)、トリスタン・バウエルの『火に照らされて』(05)、ダニエル・ブスタマンテの『瞳は静かに』(09)、ディエゴ・レルマンの『隠れた瞳』(10)、またパブロ・トラペロの『エル・クラン』(15)を含めてもいいかもしれない。アルゼンチンの現代史に不慣れな観客のために、少し時代背景を述べておきました。

 

 

      9分間のスタンディング・オベーションに涙で抱き合うダリンとミトレ

 

★アルゼンチンの日刊紙「クラリン」情報によると、キャスト、スタッフ〈全員集合〉で現地に飛んだらしくその意気込みの凄さに呆気にとられています。コンペティション部門とオリゾンティ部門の格の違いを見せつけた印象です。アルゼンチン映画でこれほどプロデューサーの数が多いのも珍しいのだが、アルゼンチンサイドのほとんどが出席している。ベネチアといってもリド島は歩いていけないわけでローマのように簡単ではない。マスク姿は少なくコロナ感染など、どこ吹く風の感ありです。140分以上も座っていたからか上映後のスタンディング・オベーションは9分間、今まで上映されたなかでの最長記録をマーク、ダリンもミトレも涙なみだで抱き合ったと、クラリン記者も舞い上がっています。

    

     

     (リカルド・ダリンとサンティアゴ・ミトレ、プレス会見前のフォトコール)

  

    

    (ベネチアのリド島に乗り込んだ代表団、93日、レッド・カーペット)

 

リカルド・ダリンもパフォーマンス賞のVolpi Cup ヴォルピ杯(男優賞)の候補になったようで、既に受賞したかのような書きぶりでした(発表は910日)。昨年ペネロペ・クルスがスペイン女優としては初めて『パラレル・マザーズ』で受賞しています。良くも悪くもリカルド抜きでは成功できなかったろうというのが、各紙誌の論評でした。理想主義者ですが、ユーモアに富み、皮肉やで心配性な年輩検事ストラッセラに扮します。フアン・ホセ・カンパネラの『瞳の奥の秘密』(09)でヨーロッパに紹介され知名度もありますから、あながち夢ではないでしょう。ミトレとタッグを組むのは『サミット』以来の2度目となります。相思相愛の夫人フロレンシア・バスと、今回製作者の一人となっている息子チノ・ダリン、家族揃って現地入りしていました。

   

          

   (ヴォルピ杯候補となったリカルド・ダリン)

      

          

           (フロレンシア、リカルド、チノのリカルド一家)

 

★もう一人の主役ルイス・モレノ・オカンポに扮するピーター・ランサニも「魅力的で好感のもてる演技」と高評価です。トラペロの「El cran」(15、『エル・クラン』)以来、2度目のベネチアFFです。トラペロが銀獅子監督賞を受賞した作品。1980年代の初め、軍事独裁政権時代に裕福だった一家が、民主化移行にともなって失業、悪いのは民主化とばかり誘拐ビジネスに手を染める一家の長男役でした。

 

   

            (モレノ・オカンポ役のピーター・ランサニ)

 

★ストラッセラの妻役アレハンドラ・フレヒナーは、TVシリーズ出演が多いが、イスラエル・アドリアン・カエタノの「El otro hermano」(17、『キリング・ファミリー 殺し合う一家』)や実話に着想を得たマルコス・カルネバレの「Inseparables」(16)が代表作、後者は第73回ベネチアFFに出品されている。

 


       (フリオ・ストラッセラの妻役アレハンドラ・フレヒナー)

 

★セクション・オフィシアルの追加発表に続く審査員の発表(審査委員長はアメリカの女優グレン・クローズ)、メイド・イン・スペイン部門の作品、タイム・テーブルも発表になり慌ただしくなってきました。次回は、メキシコのアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの「Brado, Falsa crónica de unas cuantas verdades」です。

 

ホライズンズ・ラティノ部門12作*サンセバスチャン映画祭2022 ⑦2022年08月18日 10:58

           ラテンアメリカ諸国から選ばれた12作が発表になりました

    

       

 

811日、ホライズンズ・ラティノ部門12作(2021年は10作)が例年より遅れて発表になりました。オープニング作品はチリのドキュメンタリー作家パトリシオ・グスマンの「Mi país imaginario」、クロージングはエクアドルのアナ・クリスティナ・バラガンの「La piel pulpo」となりました。スペイン語、ポルトガル語に特化したセクションです。新人の登龍門的役割もあり、今回も多くは1980年代生れの監督で占められています。作品名、監督名、本祭との関りをアップしておきます。あまり選出されることのないエクアドル、コスタリカ、久しぶりにキューバの2作がノミネートされています。3分割して紹介、時間の許す限りですが、賞に絡みそうな作品紹介を別個予定しています。


   

            ホライズンズ・ラティノ部門

 

1)La piel pulpo / Octopus Skin」エクアドル=ギリシャ=メキシコ=独=仏

クロージング作品WIP Latam 2021作品、2022年、スペイン語、ドラマ、94分、脚本アナ・クリスティナ・バラガン。撮影地プンタ・ブランカ

監督アナ・クリスティナ・バラガン(エクアドル、キト1987)、2021年、エリアス・ケレヘタ・シネ・エスコラの大学院課程で学ぶ。本祭との関りは、2016年のデビュー作「Alba」がホライズンズ審査員スペシャル・メンションを受賞しています。最新の「La hiedra」は、Ikusmira Berriakイクスミラ・ベリアク・レジデンス2022に選出されている。

Alba」の紹介記事は、コチラ⇒2016年09月09日

  

    

 

キャスト:イサドラ・チャベス(イリス)、フアン・フランシスコ・ビヌエサ(アリエル)、Hazel Powell、クリスティナ・マルチャン(母親)、アンドレス・クレスポ、マカレナ・アリアス、カルロス・キント

ストーリー:双子のイリスとアリエルは17歳、母親と姉のリアと一緒に、軟体動物や小鳥、爬虫類が棲息する島のビーチに住んでいます。10代の姉弟たちは大陸から孤立して育ち、普通の親密さの限界を超えた関係のなかで、自然との結びつきは超越的です。海のはるか向こうにかすかに見えるものを求めて、イリスは島を出て町に行こうと決心します。町のショッピングセンター、騒音、不在の父親探し、弟との別れ、母親の不在は、姉弟への愛と自然の中でのアイデンティティの重要性を明らかにしていく。

    
  

                   (イサドラ・チャベス、フレームから)

 

 

2)Sublime」アルゼンチン

データ:ベルリン映画祭2022ジェネレーション14プラスのプレミア作品、製作国アルゼンチン、2022年、スペイン語、ドラマ、100分、音楽エミリオ・チェルヴィーニ、製作Tarea Fina / Verdadera Imagen、撮影地ブエノスアイレス

監督マリアノ・ビアシン(ブエノスアイレス1980)のデビュー作、脚本、製作を手掛けている。本作は第10Sebastiane Latino 受賞ほかが決定しており、別途に作品紹介を予定しています。

   

    

 

キャスト:マルティン・ミラー(マヌエル)、テオ・イナマ・チアブランド(フェリペ)、アスル・マッゼオ(アスル)、ホアキン・アラナ(フラン)、ファクンド・トロトンダ(マウロ)、ハビエル・ドロラス(マヌエルの父)、カロリナ・テヘダ(マヌエルの母)、ほか多数

ストーリー:マヌエルは16歳、海岸沿いの小さな町に住んでいる。彼は親友たちとバンドを組み、ベースギターを弾いている。特にフェリペとは小さい頃からの固い友情で結びついている。マヌエルがフェリペとの友情以外の何かを感じ始めたとき、二人の関係はどうなりますか、友情を危険に晒さず別の局面を手に入れられますか。二人は他者との絆が失われる可能性や他者からの拒絶に直面したときの怖れを共有しています。思春期をむかえた若者たちの揺れる心を繊細に描いた秀作。

   

     

 

 

3)「Ruido / Noise」メキシコ

データ:製作国メキシコ=アルゼンチン、スペイン語、2022年、ドラマ、105分、脚本ナタリア・ベリスタイン&ディエゴ・エンリケ・オソルノ、製作Woo Films

監督ナタリア・ベリスタイン(メキシコシティ1981)、長編3作目、デビュー作「No quiero dormir sola」は、ベネチア映画祭2012「批評家週間」に正式出品され、同年モレリア映画祭のベスト・ヒューチャーフィルム賞を受賞、アリエル賞2014のオペラプリマ他にノミネート、俳優の父アルトゥーロ・ベリスタインが出演している。2作目は「Los adioses」は、マラガ映画祭2017に正式出品されている。他TVミニシリーズ、短編多数。新作は行方不明の娘を探し続ける母親の視点を通して、現代メキシコの負の連鎖を断ち切れない暴力を描いている。母親を演じるフリエタ・エグロラは実母、アルトゥーロ・リプスタインの『深紅の愛』に出演している。

   

   

              (ナタリア・ベリスタイン監督)

 

キャスト:フリエタ・エグロラ(フリア)、テレサ・ルイス(アブリル・エスコベド)、エリック・イスラエル・コンスエロ(検事アシスタント)

ストーリー:フリアは母親である、いやむしろ、女性たちとの闘いをくり広げている、この国では珍しくもない暴力によって人生をずたずたに引き裂かれた多くの母親たち、姉妹たち、娘たち、女友達の一人と言ったほうがよい。フリアは娘のヘルを探している。彼女は捜索のなかで知り合った他の女性たちの物語と闘いを語ることになるだろう。

  

      

          (フリア役のフリエタ・エグロラ、フレームから)

 

 

4)「El caso Padilla / The Padilla Affair」キューバ

データ:製作国スペイン=キューバ、スペイン語、フランス語、英語、ノンフィクション、モノクロ、78分、脚本監督、製作Ventu Productions、(エグゼクティブプロデューサー)アレハンドロ・エルナンデス

   


      

監督パベル・ジルー Giroud (ハバナ1973)は、サンセバスチャン映画祭2008「バスク映画の日」に「Omertá」が上映された。同じく「El acompañante」がヨーロッパ=ラテンアメリカ共同製作フォーラム賞を受賞した他、マラガFF、マイアミFF 2016で観客賞、ハバナFF(ニューヨーク)でスター賞を受賞している。新作は1971年春、キューバで起きたエベルト・パディーリャ事件を扱ったノンフィクション。

    

    

                (エベルト・パディーリャ)

     

解説1971年の春ハバナ、詩人のエベルト・パディーリャが、ある条件付きで釈放された。彼は約束を果たすためキューバ作家芸術家連盟のホールに現れ、彼自身の言葉で「心からの自己批判」を吐きだした。彼は反革命分子であったことを認め、彼の詩人の妻ベルキス・クサ=マレを含む、会場に参集した同僚の多くを名指しで共犯者であると非難した。1ヵ月ほど前、パディーリャはキューバ国家の安全を脅かしたとして告発され妻と一緒に逮捕された。これは全世界の革命に賛同していたインテリゲンチャを驚かせた。革命の指導者フィデル・カストロへの最初の書簡で、パディーリャの自由を要求した。彼の唯一の罪は、詩的な作品を通して異議を唱えたことでした。作家の過失の録画が初めて一般に公開される。ガブリエル・ガルシア・マルケス、フリオ・コルタサル、マリオ・バルガス=リョサ、ジャン=ポール・サルトル、ホルヘ・エドワーズ、そしてフィデル・カストロの証言があらわれる。表現の自由の欠如や入手のための文化集団の闘争は、現在に反響する。キューバの過去を探求する驚くべきドキュメンタリー。

 

「パディーリャ事件」の紹介記事は既にアップしておりますので割愛します。

 コチラ20170720

  

   


 (アナ・C.・バラガン、マリアノ・ビアシン、ナタリア・ベリスタイン、パベル・ジルー)

   

追加情報:ナタリア・ベリスタイン監督のRuido / Noiseが、2023年1月11日より邦題『ざわめき』でNetflix配信が開始されました。

 

セクション・オフィシアル追加作品*サンセバスチャン映画祭2022 ⑤2022年08月09日 16:27

          70回セクション・オフィシアル追加作品

   

★セクション・オフィシアルの追加4作、2017年の『家族のように』以来、久々の登場となったアルゼンチンのディエゴ・レルマンの「El suplente / The Substitute」、カンヌ・シネフォンダシオン・レジデンスに選ばれて製作したアメリカのマリアン・マタイアスのデビュー作「Runner」、ポルトガルのマルコ・マルティンスがイギリスを舞台にポルトガル出稼ぎ労働者をテーマにした「Great Yarmouth-Provisional Figures」、コロンビアのラウラ・モラがメデジンの10代のアマチュア5人を起用して撮った第2作目「Los reyes del mundo / The Kings of the World」、以上4作のご紹介。

         

9)El suplente / The Substitute」 アルゼンチン

ヨーロッパ-ラテンアメリカ共同製作2019 

監督:ディエゴ・レルマン(ブエノスアイレス1976)は、監督、脚本家、製作者、舞台監督。新作は6作目になる。本祭との関りは、2014年、ホライズンズ・ラティノ部門に4作目「Refugiado」がノミネート、2017年、5作目となる「Una especie de Familia」がコンペティション部門に正式出品され、新作でも共同執筆者であるマリア・メイラと脚本賞を受賞した。ラテンビート2017で『家族のように』の邦題で上映されている。2010年、3作目の「La mirada invisible」が国際東京映画祭で『隠れた瞳』として上映された折り、ヒロインのフリエタ・シルベルベルクと来日している。

 

データ:製作国アルゼンチン=伊=仏=西=メキシコ、スペイン語、ドラマ、110分、脚本マリア・メイラ、レルマン監督、ルチアナ・デ・メロ、フアン・ベラ、製作Arcadiaスペイン / Bord Cadre Films / El Campo Cine アルゼンチン/ Esperanto Kinoメキシコ / Pimienta Filma / Vivo Filmイタリア、製作者ニコラス・アブル(エグゼクティブ)、ディエゴ・レルマン、他多数、撮影ヴォイテク・スタロン、編集アレハンドロ・ブロダーソンBrodersohn、美術マルコス・ペドロソ、主要スタッフは前作と同じメンバーが多い。トロント映画祭202298日~18日)でワールドプレミアム。

 

キャスト:フアン・ミヌヒン(ルシオ)、アルフレッド・カストロ(エル・チレノ)、バルバラ・レニー(マリエラ)、マリア・メルリノ(クララ)、レナータ・レルマン(ルシオの娘ソル)、リタ・コルテセ(アマリア)、他

ストーリー:ルシオは名門ブエノスアイレス大学の文学教授ですが、このアカデミックな生活に倦んでいる。自分の生れ育ったブエノスアイレスのバリオの学校で自分の知識を活用させたいと思っている。彼は復讐のため地域の麻薬組織のボスに追いまわされている学生ディランを救おうとして事件に巻き込まれていく。

代行教師の邦題で Netflix 配信されました

 

  

                 (ルシオ役のフアン・ミヌヒン、フレームから)

 

   

         (フアン・ミヌヒン、監督、バルバラ・レニー)

 

 

10)「Runner」アメリカ

監督マリアン・マタイアス Marian Mathias(シカゴ1988)監督、脚本家、デビュー作。ニューヨークのブルックリン在住。カンヌ・シネフォンダシオン・レジデンス2018に選出されたほか、トリノ・ヒューチャーラボ201950.000ユーロ)、ベネチア映画祭プロダクション・ブリッジ・プログラム2020、ニューヨーク芸術財団などの資金援助を受けて製作されている。

データ:製作国アメリカ=ドイツ=フランス、2022年、英語、ドラマ、製作 Killjoy Films ドイツ / Man Alive アメリカ / Easy Riders フランス、脚本マリアン・マタイアス、撮影ジョモ・フレイ、製作者ジョイ・ヨルゲンセン、音楽Para One、キャスティングはケイト・アントニート、衣装スージー・フォード、撮影地ミシシッピー、イリノイ。トロント映画祭ディスカバリー部門でプレミアされ、ヨーロッパは本祭がプレミアとなる。

 

     

      (製作者ジョイ・ヨルゲンセンとマタイアス監督、トリノ・ラボ2019

 

キャスト:ハンナ・シラー(ハース)、ダレン・ホーレ(ウィル)、ジーン・ジョーンズ、ジョナサン・アイズリー

ストーリー18歳になるハースは、ミズリー州の孤立した町で父親に育てられた。突然父親が亡くなり一人残された。ミシシッピー川沿いの生れ故郷に埋葬して欲しいという父親のかつての願いを叶えるため出立する。厳しい気候や不景気と闘っているコミュニティで芸術的な魂を持っているウィルと出会う。彼は家族を養うため遠く離れた土地から出稼ぎに来ていた。彼はハースに引き寄せられ、彼女はウィルに引き寄せられる。彼はハースに生きることを教え、彼女はウィルに感じることを教え、お互いを発見します。ハースの愛と喪失、ふたりの友情と別れが語られる。

   

         

             (ハースとウィル、フレームから)

 

 

11)「Great Yarmouth-Provisional Figures」ポルトガル マルティンス?

監督マルコ・マルティンス Marco Martins (リスボン1972)監督、脚本家。本祭との関りは今回が初めてだが、2005年製作の「Alice」がカンヌ映画祭「ある視点」部門の作品賞を受賞した他、ラス・パルマスFF(新人監督)、マル・デル・プラタFF(監督・FIPRESCI)、ポルトガルのゴールデン・グローブ賞などを受賞している。他ベネチアFFのオリゾンティ部門にノミネートされた「Sao Jorge」(16)では、新作でも主演しているヌノ・ロペスが男優賞を受賞、ほかに「How to Draw a Perfect Circle」(09)が代表作。

 

    

     (中央が監督、右ヌノ・ロペス、第73回ベネチア映画祭フォトコールにて)

 

データ:製作ポルトガル=フランス=イギリス、ポルトガル語・英語、2022年、ドラマ、113分。製作Damned Films / Les Films de IApres-Midi / Uma Pedra no Sapato、脚本リカルド・アドルフォと監督の共同執筆、製作者カミラ・ホドル、フィリパ・レイス、(エグゼクティブ)イアン・ハッチンソン、サスキア・トーマスほか、撮影ジョアン・リベイロ、衣装イザベル・カルモナ、撮影地イギリスのグレート・ヤーマス

 

キャスト:ベアトリス・バタルダ(タニア)、ヌノ・ロペス、クリス・ヒッチェン、ボブ・エリオット、ヴィクトル・ローレンソ、リタ・カバソ、ロメウ・ルナ、ピーター・コールドフィールド(ジョー)、ウゴ・ベンテス(カルドソ)、アキレス・Fuzier(ロマの少年)、セリア・ウィリアムズ(看護師)、ほか

 

ストーリー201910月、ブレグジットの3ヵ月前、英国ノーフォーク州グレート・ヤーマスに何百人ものポルトガル人出稼ぎ労働者が、地元の七面鳥工場での仕事を求めて押しよせてきた。タニアはこれらの養鶏場で働いていたが、現在はイギリス人のホテルの経営者と結婚している。彼女はポルトガルの労働者にとって頼りになる人だったが、今では英国の市民権も取り、夫所有の使われていないホテルを高齢者向け施設に改装して、このやりがいのない仕事を辞めたいと夢見ていた。

 

     

                (フレームから)

 

 

12)「Los reyes del mundo / The Kings of the World」 コロンビア

監督ラウラ・モラ(メデジン1981)は監督、脚本家。新作は第2作目。メルボルン・フィルムスクールRMITで映画制作と監督を専攻する。本祭との関りは、2017年ニューディレクターズ部門に出品されたデビュー作「Matar a Jesús / Killing Jesús」がクチャバンク賞スペシャル・メンション、ユース賞、Fedeora 賞、SIGNIS 賞を受賞している。2002年に殺害された父親の実体験から構想された力作。カイロ映画祭で銀のピラミッド監督賞以下、コロンビアのマコンド賞、カルタヘナFF観客賞、フェニックス賞、シカゴ、パナマ、パーム・スプリングス、各映画祭受賞歴多数。他にTVシリーズ「Pablo Escobar: El Patrón del Mal」(12120話のうち83話を監督する。これは『パブロ・エスコバル 悪魔に守られた男』の邦題でNetflix 配信されている。

新作はプロフェッショナルな女性スタッフの協力と、演技経験のないアマチュアの15歳から22歳の若者5人とのトークを重ねながらクランクインできた。モラ監督は「この映画は男らしさを反映した映画ですが、撮影、録音以外は女性が手掛けています」と。本祭プレミアが決定した折りには「遂に映画をリリースできて、とても嬉しいです。非常に長く厳しいプロセスでしたから。それにサンセバスチャンの公式コンペティションで、私たちが深く尊敬している監督たちに囲まれて初演できることを光栄に思います」と語っている。

 

    

             (新作について語るラウラ・モラ)

 

データ:製作国コロンビア=ルクセンブルク=フランス=メキシコ=ノルウェー、スペイン語、2022年、ドラマ、脚本は『夏の鳥』(18)の脚本を執筆したマリア・カミラ・アリアスと監督との共同執筆、製作 Ciudad Lunar Productions / La Selva Cine、製作者は『彷徨える河』(15)のプロデューサー、『夏の鳥』の監督兼製作者のクリスティナ・ガジェゴと、TVシリーズを数多く手掛けているミルランダ・トーレス資金提供メデジン市。撮影地メデジン、配給 Film Factory Entertainment、公開コロンビア106

キャスト:カルロス・アンドレス・カスタニェダ、ダビッドソン・アンドレス・フロレス、ブライアン・スティーブン・アセベド、クリスティアン・カミロ・ダビ・モラ

 

   

 

  (5人の王たち、フレームから)

 

ストーリー:メデジンのストリートチルドレン、ラー、クレブロ、セレ、ウィニー、ナノの5人の若者の不服従、友情、誇りについての物語。5人の王たちには王国も法律も家族もなく、本当の名前すら知らない。最年長のラーは、かつて民兵組織が祖母から押収した土地に関する政府からの手紙を受け取った。彼と仲間は約束の地を求めて旅の準備に着手する。破壊的な物語は荒々しいが深遠なグループを通して現実と妄想が交錯する。すべてが生じた無に向かっての旅が語られる。


 

       

      (左から、ディエゴ・レルマン、マリアン・マタイアス、

       マルコ・マルティンス、ラウラ・モラ)

『燃やされた現ナマ』出版講演&『逃走のレクイエム』上映会2022年06月16日 14:49

           マルセロ・ピニェイロの旧作『逃走のレクイエム』上映会

 

   

 

★劇場公開というわけではありませんが、インスティトゥト・セルバンテス東京の文化イベントとして、マルセロ・ピニェイロの旧作「Plata quemada」(00)が日本語字幕入りで上映されます。本作はリカルド・ピグリアの同名小説を映画化したもので、1965年ブエノスアイレスで起きた現金輸送車襲撃事件の実話に触発されたフィクションです。今回原作が『燃やされた現ナマ』の邦題で水声社より出版されたことで、訳者の大西亮法政大学国際文化学部教授を迎えて講演&上映会が企画されたようです。

 

  『燃やされた現ナマ』出版講演&『逃走のレクイエム』上映会

日時:202276日(水曜日)1800

会場:インスティトゥト・セルバンテス東京地下1階オーディトリアム

   入場無料、要予約、オンライン配信はありません

言語:講演会(日本語)、映画(スペイン語、日本語字幕付)

主催:インスティトゥト・セルバンテス東京、アルゼンチン大使館

協力:NPO法人レインボー・リール東京、水声社

   


      

1997年のプラネタ賞受賞作品ということで、アルゼンチンでの公開当時の評判は、「映画より小説のほうが数倍面白い」というものでしたが、映画もなかなか面白いものでした。脇道になりますが、プラネタ賞受賞については、作家が出版社にもっていた深いコネクションが後々訴訟問題にまで発展しました。裁判所は作家がコンテストを操作したと認め、以後コンテストの明朗化が進みました。話を戻すと日本では第10回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭2001『逃走のレクイエム』の邦題で上映されました(現レインボー・リール東京、2016年に改名)。その後2004より始まったラテンビート(ヒスパニックビートFF2004)では『炎のレクイエム』と改題されています。今回はレインボー・リール東京のタイトルが採用されての上映です。

 

『燃やされた現ナマ』(水声社、2022225日刊、2400円+税)

著者リカルド・ピグリア1940)は筋萎縮症のため2017年に既に鬼籍入りしている。翻訳者は他にピグリアの『人工呼吸』(2015年刊)やビオイ・カサーレスの『英雄たちの夢』(2021年刊)を翻訳しています。

   

           

             (リカルド・ピグリアと原作の表紙

 

           暴力的なフィナーレに魅了される

 

20年以上前の映画なので少し作品紹介をしておきます。映画より面白いという小説は未読ですが、大筋は同じでも、当然のことながら人名、プロットは若干異なるということです。製作国はアルゼンチン、スペイン、ウルグアイ合作、ブエノスアイレス、ウルグアイのモンテビデオで撮影された。アレハンドロ・アメナバルの『テシス 次は私が殺される』でブレイクしたエドゥアルド・ノリエガ、フアン・カルロス・フレスナディーリョの『10億分の1の男』のレオナルド・スバラーリア、マルセロ・ピニェイロの「El método」や『木曜日の未亡人』パブロ・エチャリ、本作がデビュー作のドロレス・フォンシなど、彼らの若い時代の演技が楽しめます。

 

 

Plata quemada」(邦題『逃走のレクイエム』、英題「Burning Money

製作:Oscar Kramer S. A. / Cuatro Cabezas / Mandarin Films S. A. / Tornasol Films / INCAA 他多数

監督:マルセロ・ピニェイロ

脚本:マルセロ・フィゲラス、マルセロ・ピニェイロ

原作:リカルド・ピグリア

撮影:アルフレッド・マヨ

編集:フアン・カルロス・マシアス

録音:カルロス・アバテ、ホセ・ルイス・ディアス

音楽:オスバルド・モンテス

製作:ディアナ・フレイ、オスカル・クラメル、(スペイン)マリエラ・ベスイエブスキ、ヘラルド・エレーロ、(エグゼクティブ)エディイ・ワルター、他多数

 

データ:製作国アルゼンチン、スペイン、ウルグアイ、スペイン語、2000年、犯罪サスペンス、ロマンス、117分、撮影地ブエノスアイレス、モンテビデオ、公開アルゼンチン(2000511日)、ウルグアイ(62日)、スペイン(91日)

映画祭・受賞歴:トロント映画祭、パームスプリングス、ベルリン、マイアミ、サンフランシスコ、フィラデルフィア、ロスアンゼルス、アムステルダム・ゲイ&レズビアン、ハバナ、他国際映画祭正式出品、アルゼンチン映画批評家連盟賞2001脚色賞、ゴヤ賞2001スペイン語外国映画賞、ハバナ映画祭2000撮影賞・録音賞、各受賞、ノミネート多数

 

主なキャスト:エドゥアルド・ノリエガ(アンヘル)、レオナルド・スバラーリア(エル・ネネ)、パブロ・エチャリ(エル・クエルボ)、ドロレス・フォンシ(ビビ)、レティシア・ブレディチェ(ジゼル)、リカルド・バルティス(犯罪グループのボス、フォンタナ)、カルロス・ロフェ(弁護士ナンド)、エクトル・アルテリオ(ロサルド)、他多数

 

ストーリー1965ブエノスアイレス郊外サンフェルナンド、アンヘル、エル・ネネ、エル・クエルボは現金輸送車を襲撃する。ブエノスアイレス警察は大規模な捜索を開始する。700万ペソの〈現ナマ手にした強盗団は警察の追っ手を逃れ国境を越えウルグアイに逃走、モンテビデオのアパートの一室に立てこもる。幼年時代の想い出、娼婦との出会い、セックスとドラッグへの耽溺など、トリオの過去をフラッシュバックで描き出す。クエルボの恋人ビビ、ネネが出会った娼婦ジゼル、若者を牛耳るグループのボス、悪徳弁護士などを絡ませて「社会を震撼させた衝撃的事件をフィクションの力で描き出した傑作。

       

   

  (左から、エドゥアルド・ノリエガ、パブロ・エチャリ、レオナルド・スバラーリア)

 

★小説は実話にインスピレーションを得て書かれているうえに、脚本では更にいくつかの変更が加えられている。映画のほうが実話に近いということです。エル・ネネは実際には裁判官になるための教育を受けていたそうです。包囲戦で死亡したトリオはモンテビデオの北墓地に匿名で埋葬されたが、その後ネネの遺体だけが家族によって引き取られ故国に戻っているそうです。クエルボは包囲戦で死亡したのではなく、警察官に唾を吐いたことで暴力を受け、病院に移送された数時間後に息を引き取った。

 

         

   
   
       

★作家ピグリアと出版社プラネタは、後にいくつかの訴訟を起されている。その一つがラ・ネナ(映画ではビビとして登場した)として知られているブランカ・ロサ・ガレアノ、当時エル・クエルボのガールフレンドで彼の子供を収監された刑務所内で出産している。息子には父親の身元を伏せ過去を封印してきたが小説が出版されたことで多大な苦痛を受けたとして100万ペソの損害賠償を要求した。しかし内容は当時の新聞に掲載されていた周知の事実であり、賠償請求額は彼女が被った損害に対して過度であるとして却下されている。言論の自由が優先されたわけだが、自業自得とはいえ現在なら違ったかもしれない。

    

   

         (本作でデビューしたドロレス・フォンシ、フレームから)

 

  関連記事&キャスト紹介

マルセロ・ピニェイロ監督の紹介記事は、コチラ20131219

レオナルド・スバラーリア(スバラグリア)キャリア紹介は、

 コチラ2020011120170313

パブロ・エチャリの出演作はコチラ20131219

エドゥアルド・ノリエガの出演作は、コチラ20131219

ドロレス・フォンシのキャリア紹介は、コチラ2017051820150521

  

続セクション・オフィシアル作品*マラガ映画祭2022 ②2022年03月14日 15:25

       セクション・オフィシアル作品ノミネーション続

 

3年ぶりに3月開催となったマラガ映画祭、ソーシャルディスタンスを守って責任ある準備をして臨むと、総ディレクターのフアン・アントニオ・ビガルは挨拶した。セルバンテス劇場のレッドカーペットにお越しの節は、「必ずマスク着用を」とも付け加えた。記者会見の会場はアルベニス館、開催資金は200万ユーロだそうです。

 

13Llegaron de noche スペイン、2021年、107

監督:イマノル・ウリベ(エルサルバドール1950)、製作:Nunca digas nunca AIE / Bowfinger International Picturas SL / Tornasol SL / 64 A Films SL 脚本:ダニエル・セブリアン、撮影:カロ・べリディ、音楽:バネッサ・ガルデ、編集:テレサ・フォント

キャスト:フアナ・アコスタ、カラ・エレハルデ、カルメロ・ゴメス、フアン・カルロス・マルティネス、アンヘル・ボナニー、エルネスト・コリャソ、ベン・テンプル、ほか多数

 

      

      

 

14Lo invisible  エクアドル、フランス、2021年、85

監督:ハビエル・アンドラーデ、製作:Punk SA / La Maquinita / Promenades Films、脚本:Anahi Hoeneisen & ハビエル・アンドラーデ、撮影:ダニエル・アンドラーデ、音楽:マウロ・サマニエゴ & パオラ・ナバレテ、編集:フェルナンド・エプスタイン

キャスト:アナイ・ヘーナイゼンAnahi Hoeneisen、マティルデ・ラゴス、ジェルソン・ゲーラ、パオラ・ナバレテ、フアン・ロレンソ・バラガン、レイディ・ゴメス・ロルダン

  

     

    

 

15)Mensajes privados チリ、2021年、77

監督:マティアス・ビセ、製作:Ceneca Producciones、脚本:マティアス・ビセ、ニコラス・ポブレテ、ネストル・カンティジャナ、ビセンタ・ウドンゴ、ベロニカ・インティル、撮影;アントニア・セヘルス、ニコラス・ポブレテ、ネストル・カンティジャナ、アレックス・ブレンデミュール、ほか多数、音楽:[Me llamo] セバスティアン&ロドリゴ・ハルケ、編集:ロドリゴ・サケ

キャスト:アントニア・セヘルス、ニコラス・ポブレテ、ネストル・カンティジャナ、ブランカ・レウィン、ビセンタ・ウドンゴ、アレックス・ブレンデミュール、、ベロニカ・インティル、[Me llamo] セバスティアン

 

  

  


 

 

16Mi vacío y yo スペイン、2022年、89

監督・編集:アドリアン・シルベストレ、製作:Testamento / PromalfiFuturo / AlbaSotorra SL脚本:アドリアン・シルベストレ、ラファエレ・ぺレス、カルロス・マルケス=マルセ、撮影:ラウラ・エレロ・ガルバン

キャスト:ラファエレ・ペレス、アルベルト・ディアス、マルク・リベラ、イサベル・ロカティ、カルメン・モレノ、カルロス・フェルナンデス・ジュアGiua

 

 

  

  

17)Nosaltres no ens matarem amb pistoles Nosotros no nos mataremos con pistolas)(字幕) スペイン、2022年、85 

監督:マリア・リポル、製作:Un Capricho de Producciones / Turanga Films、脚本:ビクトル・サンチェス&アントニオ・エスカメス、撮影:ジョアン・ボルデラ、音楽:シモン・スミス、編集:フリアナ・モンタニェス

キャスト:イングリッド・ガルシア=ジョンソン、エレナ・マルティン、ロレナ・ロペス、ジョー・マンジョン、カルロス・トロヤ

 

     

 

    

18The Gigantes  メキシコ、米国、2021年、94 (字幕)

監督:ベアトリス・サンチス、製作:Animal de Luz Films / Cazador Solitario Films / Cebolla Films / Godius Films / Índice、脚本:ベアトリス・サンチス&マーティ・ミニッチ、撮影:ニコラス・ウォン・ディアス、音楽:アーロン・ルクス、編集:ベアトリス・サンチス、セルヒオ・ソラレス・アルバレス

キャスト:サマンサ・ジェーン・スミス、アンドレア・サット、レヒナ・オロスコ、アナ・ライェブスカ、ペドロ・デ・タビラ・エグロラ

  

      

    

 

19Utama ウルグアイ、2022年、87分、デビュー作

監督脚本:アレハンドロ・ロアイサ・グリシ(ボリビア1985)、製作:Alma Films、撮影:バルバラ・アルバレス、音楽:セルシオ・プルデンシオ、編集:フェルナンド・エプスタイン 

キャスト:ホセ・カルシナ、サントス・チョケ、ルイサ・キスペ 

  

        

  

 

★以上7作のうちには、イマノル・ウリベマリア・リポルのようなベテラン監督が新人監督に混じってノミネートされている。女性監督は5人でした。アウト・オブ・コンペティション部門の2作は次回にまわします。ロベルト・ブエソの「Llenos de gracia」はクロージング作品、カルラ・シモンの「Alcarràs」はベルリン映画祭コンペティション正式出品作品

 

『笑う故郷』のデュオ監督のコメディ*サンセバスチャン映画祭2021 ⑳2021年09月10日 14:18

    ペルラス部門の開幕作品「Competencia oficial」はベネチアでプレミア

    

     

               (ペルラス部門のポスター)

 

★アルゼンチンのガストン・ドゥプラットマリアノ・コーンCompetencia oficialは、ベネチア映画祭コンペティション部門でワールドプレミアされ、サンセバスチャン映画祭では「ペルラス」部門のオープニング作品に選ばれたブラック・コメディ。キャストにスペインを代表するアントニオ・バンデラスペネロペ・クルス、両人ともドノスティア栄誉賞受賞者、アルゼンチンからはベネチアFF2016男優賞ヴォルピ杯の受賞者オスカル・マルティネスと豪華版、大ヒットした『笑う故郷』を超えられたでしょうか。ベネチアでは既に上映され、緊張と皮肉がミックスされた不愉快なコメディは、概ねポジティブな評価のようでした。かつて見たことのないバンデラスやクルスを目にすることができるか楽しみです。

『笑う故郷』(「名誉市民」)関連記事は、コチラ201610131023

   

          

      (カンヌ映画祭を揶揄した?「Competencia oficial」のポスター)

   

        

    (赤絨毯に現れたクルスをエスコートするバンデラス、ベネチアFF2021

   

    

    (勢揃いした左から、マリアノ・コーン監督、アントニオ・バンデラス、

   ペネロペ・クルス、オスカル・マルティネス、ガストン・ドゥプラット監督)

 

ペルラス部門はスペイン未公開に限定されますが、既に他の国際映画祭での受賞作品、評価の高かい作品が対象です。従って本作に見られるようにベネチア、カンヌ、ベルリン、トロント各映画祭の作品が散見されます。日本からはカンヌ映画祭で脚本賞を受賞した濱口竜介『ドライブ・マイ・カー』がアウト・オブ・コンペティションで特別上映、ベルリン映画祭で審査員大賞を受賞した『偶然と想像』がコンペティションに選ばれています。ドノスティア(サンセバスチャン)市観客賞に5万ユーロ、ヨーロッパ映画賞に2万ユーロの副賞が出る。

 

 Competencia oficial / Oficial Competition

製作:The MediaPro Studio

監督:ガストン・ドゥプラット、マリアノ・コーン

脚本:アンドレス・ドゥプラット、ガストン・ドゥプラット、マリアノ・コーン

撮影:アルナウ・バルス・コロメル

編集:アルベルト・デル・カンポ

プロダクション・デザイン:アライン・バイネ

美術:サラ・ナティビダ

セットデコレーション:クラウディア・ゴンサレス・カルボネル、ソル・サバン、パウラ・サントス・サントルム

衣装デザイン:ワンだ・モラレス

メイクアップ&ヘアー:マリロ・オスナ、エリ・アダネス、アルバ・コボス、パブロ・イグレシアス、(ヘアー)セルヒオ・ぺレス・ベルベル、他

プロダクション・マネージメント:ジョセップ・アモロス、アレックス・ミヤタ、他

録音:アイトル・ベレンゲル

製作者:ジャウマ・ロウレス、(エグゼクティブ)ハビエル・メンデス、エバ・ガリド、他

 

データ:製作国スペイン=アルゼンチン、スペイン語、2021年、ブラックコメディ、114分、撮影地スペイン、配給ブエナビスタ・インターナショナル・スペイン、公開スペイン2022114日、アルゼンチン120日、ロシア310

映画祭・受賞歴:ベネチア映画祭2021コンペティション94日、トロント映画祭914日、サンセバスチャン映画祭ペルラス部門オープニング作品917

 

キャスト:ペネロペ・クルス(映画監督ロラ・クエバス)、アントニオ・バンデラス(ハリウッド俳優フェリックス・リベロ)、オスカル・マルティネス(舞台俳優イバン・トレス)、ホセ・ルイス・ゴメス(製薬業界の大物)、イレネ・エスコラル(大物の娘)、ナゴレ・アランブル、マノロ・ソロ、ピラール・カストロ、コルド・オラバリ、カルロス・イポリト、フアン・グランディネッティ、ケン・アプルドーン、他

 

ストーリー:超越と社会的名声を求めて、大富豪の実業家は自分の足跡を残すため映画製作に乗り出します。それを実行するため最高のものを雇います。監督には有名なロラ・クエバス、俳優にはこれまた超有名で才能あふれる2人を選びます。しかしハリウッドスターのフェリックス・リベロと過激な舞台俳優イバン・トレスはエゴの塊り、二人ともレジェンドになっていますが、正直のところ友人同士とは言い難いのです。クエバス監督によって設定され、どんどんエキセントリックになっていく一連の試練を通して、フェリックスとイバンはお互いだけでなく、自分自身の過去とも直面することになる。誇大妄想狂の億万長者から傑作を依頼されるロラの冒険物語であり、映画産業の危険性についての妄想的な解説でもある。

 


    (数トンもあるダモクレスの剣ならぬ岩の下で危険に命をかけている3人)

 

 

     映画産業についての少し悪意のこもったコメディ

 

★今年のベネチアのペネロペ・クルスは、アルモドバルのオープニング作品に選ばれたMadres paralelasと本作の主役で大忙し、よく働くと感心する。彼女が扮するロラは、非凡な才能をもっているがノイローゼ気味の独裁者、アーティストでプリマドンナだが壊れやすい。そしてこれ以上のキャスティングはないと思われる2人の俳優を選ぶが、二人は共演したことがない。アントニオ・バンデラス扮するフェリックス・リベロはハリウッド映画界きっての大スター、軽薄なファンに囲まれたセレブ、インターナショナルな商業映画では水を得た魚のように泳げるが・・・。片やオスカル・マルティネス扮するイバン・トレスは、スタニスラフスキー演技法を学んだ演劇界の大御所、インテレクチュアルなマエストロである。ただし揃いもそろってエゴの塊だ。

 

  

      (打ち合せ中のバンデラス、クルス、マルティネスとデュオ監督)

 

★脚本家のアンドレス・ドゥプラットは、ガストン・ドゥプラットの実兄、『笑う故郷』の執筆者、彼は建築家でアート・キュレーター、その経験を活かして執筆したのが『ル・コルビュジエの家』(09)、2012年に公開されたとき来日している。アンドレスは「最良の意味で、詐欺がアートにとって優れており不可欠なもの。無駄で利己的であることは、普通の人が行かないところへアーティストを行かせる」とラ・ナシオン紙のインタビューに語っている。マルティネスは「自我がなければ映画や本、政治的なものさえ存在しない。勿論、それをマスターしなければならない」と主張する。エゴはロバと同じで飼いならさなければならない。クルスは「虚栄心は飼いならさなければただの野生動物です」と。バンデラスは慎重に「エゴは金庫に入れておかねばならない」と。ロラ・クエバスのモデルはアルゼンチンの「サルタ三部作」や『サマ』の監督ルクレシア・マルテルの分身と言うのだが・・・

   

     

     (フェリックスとライオン・ヘアーの鬘がトレードマークのロラ)

 

★大富豪だが映画産業には精通しているとは思えないプロデューサーの野望のまえで危険に晒される。80歳になる依頼主は、イレネ・エスコラル扮する娘を主役にする条件で歴史に残る傑作を要求する。ホセ・ルイス・ゴメスは、アルモドバルの『抱擁のかけら』で若い愛人P.P.を繋ぎとめるために映画出演させる実業家に扮した俳優、誇大妄想狂な実業家ということで目配せがありそうです。この映画のプロットはいただけませんでしたが、過去の映画やシネアストたちへのオマージュ満載で大いに楽しめた。デュオ監督の新作にも期待していいでしょうか。

    

      

(カンヌらしき映画祭の赤絨毯に現れたロラ、フェリックス、大富豪の娘、大富豪、

ロラの衣装はSSIFF2020開幕司会者カエタナ・ギジェン・クエルボの衣装と同じか?)

 

★ガストン・ドゥプラット監督によると、クランクインはスペインで2020年の2月、しかしパンデミックで7ヵ月間中断してしまった。しかしその期間に創造性を推敲する時間がもてたと述べている。アルゼンチンとイタリアを行き来するには10日間の隔離期間をクリアーしなければならないから、合間に仕事をするのは難しいとも語っている。アドリア海に浮かぶリド島には、『笑う故郷』(当ブログでは原題の『名誉市民』)で訪れている。主役のオスカル・マルティネスが男優賞ヴォルピ杯を受賞している。デュオ監督はヤング・ベネチア賞スペシャル・メンション他を受賞している。

 

     

       (男優賞受賞のオスカル・マルティネス、ベネチアFF2016

 

ジャウマ・ロウレス(バルセロナ1950)は、制作会社メディアプロのCEO、バルセロナ派を代表する製作者、昨年のSSIFF開幕作品、ウディ・アレンRifkins Festivalほか、『それでも恋するバルセロナ』、『ミッドナイト・イン・パリ』などを手掛けている。フェルナンド・レオン・デ・アラノアの『月曜日にひなたぼっこ』でスタート、ハビエル・バルデムを主役にセクション・オフィシアルにノミートされているEl buena patrón、最後のガローテ刑の犠牲者サルバドール・プッチ・アンティックを主人公にしたマヌエル・ウエルガの『サルバドールの明日』、ハビエル・フェセル『カミーノ』ゴヤ賞2009作品賞を受賞している。アレックス・デ・ラ・イグレシアのドキュメンタリー『メッシ』、ドゥプラット作品ではMi obra maestra18)をプロデュースしている。バルセロナに彼の名前を冠した通りがあるとかで、本作の大富豪と何やら共通点がありそうなのでアップしました。

   

      

         (ドゥプラットの「Mi obra maestra」のポスター)

 

★劇中ではいがみ合った3人も、撮影中は笑いが絶えなかったという主演者、「こんなに笑ったことはないし、笑いは体制をも転覆させる。演技中も楽しかった」とバンデラス、「ロラは解放者で滑稽、魅力的な精神病質者、素晴らしいアイディアのインテリ、ただしおバカで自己中心的」とクルス。サンセバスチャン映画祭出席のリストにクルスと、「El buena patrón」主演のハビエル・バルデムの出席はアナウンスされています。ペルラス部門はメインでないからアルゼンチン組の現地入りの可能性は少ない。いずれにしても本作は字幕入りで鑑賞できますね。


◎追加情報:『コンペティション』の邦題で、2023年3月17日公開されました。

 

開幕作品はアルゼンチンの「Jesús López」*サンセバスチャン映画祭2021 ⑯2021年08月30日 13:41

       4弾――マキシミリアノ・シェーンフェルドの「Jesús López

 

      

 

★ホライズンズ・ラティノ部門オープニング作品に選ばれたJesús Lópezは、アルゼンチンのマキシミリアノ・シェーンフェルドの長編第3作目、サンセバスチャン映画祭がワールドプレミアです。他に長編ドキュメンタリー2作、短編を数本撮っている。アルゼンチンのエントレリオス州クレスポ生れの監督、脚本家、作家。新作はレーシングドライバーだった従兄ヘスス・ロペスのアイデンティティを引き継ぎたい10代の若者アベルの物語。WIP Latam 2020作品。

 

Jesús López(アルゼンチン=フランス)

製作:Murillo Cine(アルゼンチン)/ Luz Verde(フランス)

監督:マキシミリアノ・シェーンフェルド

脚本:マキシミリアノ・シェーンフェルド、(原作)セルバ・アルマダのChicas Muertas

撮影:フェデリコ・ラストラ

音楽:ハビエル・ディス

編集:アナ・レモン

録音:ソフィア・ストラフェイス

製作者:ヘオルヒナ・Baish、セシリア・サリム(Murillo Cine)、マキシミリアノ・シェーンフェルド、ルセロ・ガルソン(Luz Verde

 

データ:製作国アルゼンチン=フランス、スペイン語、2021年、ドラマ、90分、WIP Latam 2020作品、撮影地エントレリオス州バジェ・マリア、期間20192月~202012月。エントレリオス地域基金、メトロポリタン基金、フランスのシネ・ナショナル・センターCNC基金、INCAA他の協力を得ている。販売代理店Pluto Film

映画祭・受賞歴:第69回サンセバスチャン映画祭2021ホライズンズ・ラティノ部門ノミネート、オープニング作品。

 

キャストルカス・シェル、ホアキン・スパン、ソフィア・パロミノ、イア・アルテタ、アルフレッド・セノビ、パウラ・ランゼンベルク、ロミナ・ピント、ベニグノ・レル、他

 

ストーリー:若いレーシングドライバーのヘスス・ロペスが交通事故で亡くなり、町はショック状態に陥った。目的のないティーンエイジャーであるヘススの従弟アベルは、彼の身代りになりたいと次第に思うようになった。ヘススの両親の家に落ちつき、彼の服を着て友人や元のガールフレンドと一緒に出かけたりした。最初は町の人もそれを受け入れ、アベル自身もこの役が気に入っていた。しかし従兄とそっくりであることが彼を不安にさせ、ヘスス・ロペスに変身するほどまでになる。町ではヘススに敬意を表してレースが企画され、アベルは従兄の精神に勇気づけられ故人の車を走らせる。このレースの結果は、変身が本物だったのかどうかを決定するだろう。

 

      

          (アベル役のルカス・シェル、フレームから)


      

   

 

★監督紹介:マキシミリアノ・シェーンフェルドSchonfeld (アルゼンチン、エントレリオス州クレスポ1982)は、監督、脚本家、製作者。コルドバ国立大学で映画とTVの制作を3年間学んだ後、国立映画実験制作学校ENERCを卒業。2007年短編数本を撮った後、2011年にTVシリーズ「Ander Egg」、2012TVミニシリーズ「El lobo」で高い評価を得る。長編劇映画デビュー作Germaniaがブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭BAFICI 2012特別審査員賞とFEISAL賞を受賞、同年ハンブルク映画祭で初監督作品に贈られるヤング・タレント賞を受賞、リオやハバナなど国際舞台にデビューした。コペンハーゲン・ドキュメンタリー映画祭から招聘され、カドリー・コーサールと中編Auster14)を共同監督する。

 

★ミステリアスな長編2作目La helada negraがマル・デル・プラタ映画祭2015、次いでベルリン映画祭2016パノラマ部門にノミネート、トゥールーズ、ハバナ、香港、ハイファなどの映画祭に正式出品された。第3作にも起用されたルカス・シェルベニグノ・レルがクレジットされている。長編3作目が本作「Jesús López」である。国内外の映画祭審査員を選ばれるなど活躍の場を広げている。

     

       

     (主演のアイリン・サラスを配したLa helada negra」のポスター)

 

2016年、初めてドキュメンタリーLa siesta del tigreがドク・リスボア映画祭にノミネート、コスキン音楽祭ドキュメンタリー賞を受賞した。2019年ドキュメンタリーLuminumを撮っている。

       

    

           (マキシミリアノ・シェーンフェルド)

 

セルバ・アルマダ(エントレリオス1973の恐怖のクロニクル Chicas Muertas2014年刊)がベースになっているということでしたが、原作はアルゼンチンで1980年代にそれぞれ別の州(チャコ、コルドバ、エントレリオス)で実際に起きた若い3人の女性殺害事件のノンフィクション。作家が初めてノンフィクションに挑戦して、当時ヒホンのノンフィクション賞などを受賞している話題の作品。テーマはジェンダー差別にもとづく暴力が無処罰に終わることへの怒りが原動力になっている。本作「Jesús López」とどのようにリンクするのか分かりません。アベルの物語とありますが、タイトルになった事故死したヘスス・ロペスの物語かもしれません。

 

   

       (セルバ・アルマダと Chicas Muertas の表紙

 

★本作はエントレリオス州バジェ・マリアで20192月にクランクイン、翌年の3月まで間隔をおいてバジェ・マリアとその近郊で撮影された。しかしコロナウイリス感染拡大で中断、再開されたのは202012月、1ヵ月で終了させた。従ってWIP Latam 202063分)で上映されたのは最終部分が含まれていないことになる。バジェ・マリア市は前作La helada negraの撮影地でもあり今回が2度目になる。19世紀末にドイツ移民によって開拓され、現在は観光地になっているが、小さな市町村にとってロケ地になることの経済効果は大きい。エキストラ募集、輸送、ケータリング、宿泊施設の提供、更にはバジェ・マリアの景観や文化を世界に紹介して貰えることで、監督以下クルーに感謝状のオマケがついた。

 

        

             (バジェ・マリアでの撮影風景)

  

アルゼンチンのイネス・マリア・バリオヌエボの新作*サンセバスチャン映画祭2021 ⑦2021年08月02日 16:58

       コンペティションにイネス・バリオヌエバの「Camila saldrá esta noche

 

     

               (主人公のカミラ)

 

★セクション・オフィシアルの第一陣としてアナウンスされたイネス・バリオヌエバの第4作目Camila saldrá esta nocheは、サンセバスチャン映画祭 SSIFF コンペティション部門に初参加した3作の一つです。この朗報は「目が眩むほどでした。部屋の中をスキップして走り回りしました。Julia y el zorro  SSIFF に行ったことはありますが、魅了されているテレンス・デイビスと同じセクションだなんて、もうクレージーよ」と、アルゼンチンはコルドバ生れの監督は喜びを隠さない。どんな映画なのでしょうか。

 

Camila saldrá esta noche / Camila Comes Out Tonight

製作:Aeroplano Cine / Gale Cine

監督:イネス・マリア・バリオヌエボ

脚本:アンドレス・アロイ(オリジナル脚本)、イネス・マリア・バリオヌエボ

撮影:コンスタンサ・サンドバル

編集:セバスティアン・シュヤーSchjaer

音楽:リベラ・ムシカRivera Música

製作者:セバスティアン・アロイ(Aeroplano Cine)、ルイス・フェルナンド・ブスタマンテ(Gale Cine)、マルティン・ブルリッヒ

   

データ:製作国アルゼンチン、スペイン語、2021年、ドラマ、100分、製作費65万ドル(推定)

映画祭・受賞歴:第69回サンセバスチャン映画祭2021セクション・オフィシアル正式出品

 

キャスト:ニナ・ジエンブロウスキーDziembrowski(カミラ)、アドリアナ・フェレール(ビクトリア)、カロリナ・ロハス(マルティナ)、マイテ・バレロ(クララ)、フェデリコ・サック(パブロ)、ディエゴ・サンチェス

 

ストーリー:未熟だが激しい気性の少女カミラの物語。ブエノスアイレスで暮らす祖母が重病になり、一人娘である母親が介護することになった。カミラはラプラタのリベラルな公立高校から魅力的なレコレタ地区にある私立の伝統的なカトリック校に転校する。突然の友人たちとの別れ、シングルマザーの家庭に起きる問題に巻き込まれる。カミラの未熟だが激しい気性は、状況の急激な変化に試練を受けるが、大都会で彼女を待ち受けていた可能性と体験が組になって彼女を魅惑する。

 

      

              (公立高校の友人たち、映画から)

 

イネス・マリア・バリオヌエボ(コルドバ1980)は、監督、脚本家。マラガ映画祭2020ZonaZineソナチネ部門に出品されたガブリエラ・ビダルと共同監督した3作目Lxs chicxs de las motitos20)が、イベロアメリカ映画賞銀のビスナガを受賞、主演のカルラ・グソルフィノが同女優賞を受賞している。長編デビュー作Atlántidaは、ベルリン映画祭2014年のジェネレーション14plus部門と初監督作品賞にノミネート、アルゼンチン映画批評家連盟2015(銀のコンドル)のオペラ・プリマ賞にノミネートを受けている。第2作目「Julia y el zorro」はSSIFF2018(ニューディレクターズ部門)とアトランタ映画祭2019にノミネートされ、後者では撮影監督エセキエル・サリナスが特別審査員賞を受賞した。「未だコロナウイリスがなかった時だったが、今回も皆で出かけられ、一緒に映画を見られますように」と監督。

   

    

           (撮影中のイネス・マリア・バリオヌエボ監督)

   

    

            (デビュー作「Atlántida」のポスター)

 

★サンセバスチャン映画祭の朗報は715日にもたらされ、正式には19日に発表された。アルゼンチンのフリア・モンテソロのインタビューに「カミラはラプラタで暮らす17歳の高校生、フェミニストで行動派に設定した。オリジナル脚本はアンドレス・アロイだが、私の視点を加えて完成させた。アンドレスと一緒に猛スピードで働き、撮影は2020年の1月にクランクイン、3月に終了したときには私はへとへとでした」と応えている。思春期にある若者たちの混沌に魅了されているとも語っている。デビュー作の「Atlántida」も同じ思春期がテーマだった。

  

      

   (SSIFFニューディレクターズ部門ノミネートの「Julia y el zorro」のポスター)

 

アルゼンチン映画 『明日に向かって笑え!』*8月6日公開2021年07月17日 16:26

           ダリン父子がドラマでも父子を共演したコメディ

     

          

                             (スペイン語版ポスター)

 

セバスティアン・ボレンステインLa odisea de los giles(英題「Heroic Losers」)が明日に向かって笑え!の邦題で劇場公開されることになりました。いつものことながら邦題から原題に辿りつくのは至難のわざ、直訳すると「おバカたちの長い冒険旅行」ですが、無責任国家や支配階級に騙されつづけている庶民のリベンジ・アドベンチャー。リカルド・ダリンとアルゼンチン映画界の重鎮ルイス・ブランドニが主演のコメディ、2年前の2019815日に公開されるや興行成績の記録を連日塗り替えつづけた作品。本当は笑ってる場合じゃない。公開後ということで、9月にトロント映画祭特別上映、サンセバスチャン映画祭ではアウト・オブ・コンペティション枠で特別上映された。ダリンの息チノ・ダリンがドラマでも息子役を演じ、今回は二人とも製作者として参画しています。

 

      

         (ドラマでも親子共演のリカルド・ダリンとチノ・ダリン)

 

La odisea de los giles」の作品紹介は、コチラ20200118

ボレンステイン監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ20160430

リカルド・ダリンの主な紹介記事は、コチラ20171025

チノ・ダリンの紹介記事は、コチラ20190115

 

★公式サイトと当ブログでは、固有名詞のカタカナ起しに違いがありますが(長音を入れるかどうかは好みです)、大きな違いはありません。リカルド演じるフェルミンの友人、自称アナーキストのバクーニン信奉者ルイス・ブランドニ、フェルミンの妻ベロニカ・リナス(ジナス)、実業家カルメン・ロルヒオ役のリタ・コルテセ、などのキャリアについては作品紹介でアップしています。悪徳弁護士フォルトゥナト・マンツィ役アンドレス・パラ、銀行の支店長アルバラド役ルチアノ・カゾー、駅長ロロ・ベラウンデ役ダニエル・アラオスなど、いずれご紹介したい。

 

     

            (監督と打ち合わせ中のおバカちゃんトリオ)

 

★原作(La noche de la Usina)と脚本を手掛けたエドゥアルド・サチェリは、大ヒット作『瞳の奥の秘密』09)でフアン・ホセ・カンパネラとタッグを組んだ脚本家、ボレンステイン監督とは初顔合せです。大学では歴史を専攻しているので時代背景のウラはきちんととれている。

『瞳の奥の秘密』の作品紹介は、コチラ20140809

 

★作品紹介の段階では、受賞歴は未発表でしたが、おもな受賞はアルゼンチンアカデミー賞2019(助演女優賞ベロニカ・リナス)、ゴヤ賞2020イベロアメリカ映画賞、ホセ・マリア・フォルケ賞2020ラテンアメリカ映画賞、シネマ・ブラジル・グランプリ受賞、ハバナ映画祭2019、アリエル賞2020以下ノミネート多数。

 

      

     (ゴヤ賞2020イベロアメリカ映画賞のトロフィーを手にした製作者たち)

 

ネット配信、ミニ映画祭、劇場公開、いずれかで日本上陸を予測しましたが、一番可能性が低いと思われた公開になり、2年後とはいえ驚いています。公式サイトもアップされています。当ブログでは原題でご紹介しています。

  

13県の公開日202186日から順次全国展開、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネマカリテ、ほか。新型コロナウイリスの感染拡大で変更あり、お確かめを。

アルゼンチン映画「Karnawal」*マラガ映画祭2021 ⑱2021年06月13日 18:38

      フアン・パブロ・フェリックスのデビュー作「Karnawal

 

      

 

フアン・パブロ・フェリックスのデビュー作Karnawalは、昨年トロント、グアダラハラ、オスロなど既に国際映画祭巡りをしてマラガにやってきました。アルゼンチン映画とはいえブラジル、チリ、メキシコ、ボリビア、ノルウェーとの合作。キャストにチリのベテラン俳優アルフレッド・カストロ、ガウチョ起源のタップダンス「マランボ」のダンサーに、マランボ・ワールドチャンピオンを連覇しているマルティン・ロペス・ラッチを起用、二人は複雑な父子関係を演じます。ボリビアと国境を接するアルゼンチン最北西部の州フフイで撮影された。マラガFFでは3日めの65日に上映され、監督以下主演演者二人も来マラガしてプレス会見に臨んだ。特に過去の暗部に縛られた父親を演じたカストロは、同じセクション・オフィシアルにノミネートされているクラウディア・ピントLas consecuenciasにも主演していることから、メディアのインタビューに追われているようでした。

   


      

     

   (マルティン・ロペス・ラッチ、監督、アルフレッド・カストロ、65日)

 

Karnawal2020

製作:Bikini Films(アルゼンチン)/ Moinhos Produçoes Artisticas(ブラジル)/

   Picardia Films(チリ)/ Phottaxia Pictures(メキシコ)/

   Londra Films(ボリビア)/ Norsk Filmproduksjon(ノルウェー)

監督・脚本:フアン・パブロ・フェリックス

音楽:レオナルド・マルティネリ、Tremor

撮影:ラミロ・シビタ

編集:エドゥアルド・セラーノ、ルス・ロペス・マニェ

キャスティング:マリア・ラウラ・ベルチ

プロダクション・デザイン:セサル・モロン

美術:ダニエラ・ヴィレラ

衣装デザイン:レジナ・カルボ、ガブリエラ・バレラ・ラシアル

メイクアップ:ナンシー・マリグナク

プロダクション・マネージメント:マリア・カルカグノCalcagno

製作者:アレクシス・ロディル、フリーダ・トレスブランコ、(エグゼクティブ)エドソン・シドニー、ほか多数

 

データ:製作国アルゼンチン、ブラジル、チリ、メキシコ、ボリビア、ノルウェー、スペイン語、2020年、ドラマ、95分、撮影地アルゼンチンのフフイ州、ボリビアのビリャソン、両国の国境地帯ほか

映画祭・受賞歴:トゥールーズ映画際2020正式出品、20216月アルフレッド・カストロ栄誉賞受賞、トロントTIFF、グアダラハラ映画祭、監督賞・男優賞(アルフレッド・カストロ)受賞、オスロ映画祭、サンタバーバラ映画祭2021、マラガ映画祭など

 

キャスト:マルティン・ロペス・ラッチ(カブラ)、アルフレッド・カストロ(カブラの父エル・コルト)、モニカ・ライラナ(母ロサリオ)、ディエゴ・クレモネシ(母の恋人エウセビオ)、他

 

ストーリー:カブラはボリビアの国境近くのアルゼンチン北部で母親と暮らしている。若者の夢はガウチョのフォルクローレのタップダンス、マランボのプロフェッショナルになることである。目前に迫ったカーニバルは、マランボ・ダンサーにとって最も重要な祭り、その準備に余念がない。ところが思いがけず詐欺師の父エル・コルトが数日間の休暇をもらって刑務所から戻ってくる。エル・コルトはカブラとその母親をミステリアスな旅に誘い出す。エル・コルトの真意が分からぬまま、母と息子は既に暴力と犯罪の危険に晒されていることに気づくだろう。カーニバルはディアブロも目覚めさせてしまうのだ。カブラはカーニバルのマランボ・コンクールに間に合うでしょうか。自分の夢を実現するために父を捨てることができるでしょうか。父と息子の境界線、父と母とその恋人との三角関係、アルゼンチンとボリビアの国境線、自由の息吹きとしてのアートの役割を織り交ぜて、ドキュメンタリーの手法を取り入れたロードムービー。

 

        

                 (再会した父と息子

 

 

   自由の息吹きとしての芸術の役割――ガウチョ起源の<マランボ>の魅力

 

★タイトル「Karnawal」は、先住民語のケチュア語とスペイン語の造語でカーニバルを指す。マランボMalamboというのは、アルゼンチン伝統の男性だけのフォルクローレ、もともとはガウチョ起源のタップダンスで、ガウチョの衣装とブーツ姿で踊る。映画に見られるように毎年マランボ・コンテストがあり、カブラを演じたマルティン・ロペス・ラッチはマランボ・チャンピオンを連覇しているプロフェッショナルだそうです。当ブログでは、ベルリン映画祭2018に正式出品されたサンティアゴ・ロサMalambo, el hombre buenoを紹介しています。こちらのダンサーはプロのガスパル・ホフレです。

Malambo, el hombre bueno」の紹介は、コチラ20180225

 

  

            (マランボを踊るマルティン・ロペス・ラッチ、映画から)

 

       

   

(カブラと母ロサリオ役のモニカ・ライラナ)

  

   

       (刑務所から戻ってきたエル・コルト役のアルフレッド・カストロ

 

★監督紹介:フアン・パブロ・フェリックスは、1983年ブエノスアイレスのアレシフェス生まれ、監督、脚本家、製作者。ENERC卒業、学位取得後7年間、FXスタントチームの総プロデューサーとして特殊効果やアクション・デザインを手掛ける。TVシリーズ、短編、コマーシャル(アルゼンチン、スペイン)を製作後、2020年「Karnawal」で長編デビューした。2021年ドキュメンタリーFuerzas vivasを撮る。

 

    

     (第35回グアダラハラ映画祭2020監督賞受賞のフアン・パブロ・フェリックス)

 

★プレス会見で、「カーニバルの重要性は、人々を解放し、変革をもたらす自由の息吹きを秘めているからです。この地域の人々は普段はそっ気なく控えめですが、カーニバルがやってくると、伝統に則った象徴性とメタファーを通して自由奔放になります。それはカーニバルの数日間は悪魔から解放されるからです」と監督。また「レゲトンの商業的攻勢にもかかわらず、世代を超えてこのように文化遺産が守られていることに感動する」ともコメントした。

 

         

               (左から、ロペス・ラッチ、監督、カストロ、プレス会見)

 

★父親エル・コルト役のアルフレッド・カストロは、「この映画は女性の視点から見ると、とても優れた深遠な興味を起させる外観をもっている。この文脈からはほとんど気づかれませんが、男性のマチスモが反映されています。というのも男性は驚くほど何もしません。毎日働くのは女性たち、商いをするのも、国境を越えるのも、すべて女性です」とコメントした。

 

      

    (息子を危険に晒す父親エル・コルト、アルフレッド・カストロ)

 

★授賞発表が迫ってきていますが、カストロの男優賞受賞はかなりの確率でアリでしょうか。最優秀作品賞の金のビスナガは、スペイン映画とイベロアメリカ映画から1作ずつ選ばれます。後者は8作と作品数も少ないから、もしかしたら受賞するかもしれない。