『名誉市民』 アルゼンチン*ラテンビート2016 ⑦2016年10月13日 11:17

         『ル・コルビュジエの家』の監督コンビが笑わせます!

 

 

★ベネチア映画祭2016正式出品、ガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーン『名誉市民』原タイトルは、El ciudadano ilustre”、〈名誉市民〉を演じるオスカル・マルティネス男優賞を受賞しました。東京国際FF「ワールド・フォーカス」部門と共催上映(3回)作品です。『ル・コルビュジエの家』の監督コンビが放つブラック・ユーモア満載ながら、果たしてコメディといえるかどうか。アルゼンチン人には、引きつる笑いに居心地が悪くなるようなコメディでしょうか。

 

   

   (男優賞のトロフィーを手に喜びのオスカル・マルティネス、ベネチア映画祭にて

 

  『名誉市民』El ciudadano ilustre”“The Distinguished Citizen

製作:Aleph Media / Televisión Abierta / A Contracorriente Films / Magma Cine

     参画ICAA / TVE 協賛INCAA 

監督・製作者・撮影:ガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーン

脚本:アンドレス・ドゥプラット

音楽:トニ・M・ミル

美術:マリア・エウヘニア・スエイロ

編集:ヘロニモ・カランサ

録音:アドリアン・デ・ミチェーレ

衣装デザイン:ラウラ・ドナリ

製作者:(エグゼクティブ)フェルナンド・リエラ、ヴィクトリア・アイゼンシュタット、エドゥアルド・エスクデロ他、(プロデューサー)フェルナンド・ソコロビッチ、フアン・パブロ・グリオッタ他

 

データ:アルゼンチン=スペイン、スペイン語、2016年、118分、シリアス・コメディ、撮影地バルセロナ他、配給元Buena Vista、公開:アルゼンチン・パラグアイ9月、ウルグアイ10月、スペイン11

映画祭・受賞歴:ベネチア映画祭2016正式出品、オスカル・マルティネス男優賞受賞、釜山映画祭、ワルシャワ映画祭、ラテンビート、東京国際映画祭

 

キャストオスカル・マルティネス(ダニエル・マントバーニ)、ダディ・ブリエバ(アントニオ)、アンドレア・フリヘリオ(イレネ)、ベレン・チャバンネ(フリア)、ノラ・ナバス(ヌリア)、ニコラス・デ・トレシー(ロケ)、マルセロ・ダンドレア(フロレンシオ・ロメロ)、マヌエル・ビセンテ(市長)、他

 

解説:人間嫌いのダニエル・マントバーニがノーベル文学賞を受賞した。40年前にアルゼンチンの小さな町を出てからはずっとヨーロッパで暮らしている。受賞を機にバルセロナの豪華な邸宅には招待状が山のように届くが、シニカルな作家はどれにも興味を示さない。しかし、その中に生れ故郷サラスの「名誉市民」に選ばれたものが含まれていた。ダニエルは自分の小説の原点がサラスにあることや新しい小説の着想を求めて帰郷を決心する。しかしそれはタテマエであって、ホンネは優越感に後押しされたノスタルジーだったろう。幼な友達アントニオ、その友人と結婚した少年時代の恋人イレネ、町の有力者などなどが待ちかまえるサラスへ飛びたった。「預言者故郷に容れられず」の諺どおり、時の人ダニエルも「ただの人」だった?

 

    

          (ノーベル文学賞授賞式のスピーチをするダニエル)

 

   

           (サラスの人々に温かく迎え入れられたダニエル)

 

     

           (幼友達アントニオと旧交を温めるダニエル)

 

★ベネチア映画祭では上映後に10分間のオベーションを受けたという。56分ならエチケット・オベーションと考えてもいいが、10分間は本物だったのだろう。「故郷では有名人もただの人」なのは万国共通だから、アルゼンチンの閉鎖的な小さな町を笑いながら、我が身と変わらない現実に苦笑するという分かりやすい構図が観客に受けたのだろう。勿論オスカル・マルティネスの洒脱な演技も成功のカギ、アルゼンチンはシネアストの「石切場」、リカルド・ダリンだけじゃない。人を食った奥行きのあるシリアス・コメディ。

 

  

    (左から、ガストン・ドゥプラット、マリアノ・コーン、ベネチア映画祭にて)

 

2度の国家破産にもかかわらず、気位ばかり高くて近隣諸国を見下すことから、とかく嫌われ者のアルゼンチン、平和賞2、生理学・医学賞2,科学賞1と合計でも5個しかなく、文学賞はゼロ個、あまりノーベル賞には縁のないお国柄です。ホルヘ・ルイス・ボルヘスやフリオ・コルタサル以下、有名な作家を輩出している割には寂しい。経済では負けるが文化では勝っていると思っている隣国チリでは、「ガブリエラ・ミストラル(1945)にパブロ・ネルーダ(1971)と2個も貰っているではないか」と憤懣やるかたない。アルゼンチン人のプライドが許さないのだ。そういう屈折した感情抜きにはこの映画の面白さは伝わらないかもしれない。ボルヘスは毎年候補に挙げられたが、スウェーデン・アカデミーは選ばなかった。それは隣国チリの独裁者ピノチェトが「ベルナルド・オイギンス大十字勲章」をあげると言えば貰いに出掛けたり、独裁者ビデラ将軍と昼食を共にするような作家を決して許さなかったのです。これはボルヘスの誤算だったのだが、ノーベル賞は文学賞といえども極めて政治的な賞なのです。

 

オスカル・マルティネス1949年ブエノスアイレス生れ。ダニエル・ブルマンのEl nido vacío08)の主役でサンセバスチャン映画祭「男優賞」を受賞、カンヌ映画祭2015「批評家週間」グランプリ受賞のサンティアゴ・ミトレの『パウリーナ』(ラテンビート)、公開作品ではダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』(エピソード5「愚息」)に出演しているベテラン。ベネチアのインタビューでは、「30代から40代の若い監督は、おしなべてとても素晴らしい」と、若い監督コンビに花を持たせていた。

 

     

            (撮影中のドゥプラット監督とマルティネス)