パトリシオ・グスマン脚本賞受賞*ベルリン映画祭2015 ②2015年02月26日 18:18

         El botón de nácar”を受賞

★アカデミー賞の結果発表でベルリン映画祭のことなどかき消されてしまいました。今年のTV視聴率は昨年より一気に約14%ほど下がった。作品賞受賞作のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『バードマン』でさえ全米規模では未公開らしく、独立系の地味な作品が多かったことが数字に現れてしまった。英語映画ですが『アモーレス・ペロス』で世界の注目を集めたメキシコ出身の監督ということ、下馬評通り『イーダ』が受賞した外国語映画賞ノミネーションの“Relatos salvajes”のダミアン・シフロン(アルゼンチン)の動静なども含めていずれアップしたい。

 


★さて、パトリシオ・グスマンのドキュメンタリーEl botón de nácar(“The Pearl Button”)が脚本賞を受賞しています。チリ、フランス、スペイン合作、スペイン語、2015年、82分、公開はフランスの10月が決まっている。チリ人による植民地時代のジェノサイドとピノチェト政権時代のマタンサを告発するドキュメンタリー。1973911日、もう一つの「911」と言われるピノチェトの軍事クーデタもテーマの一つ。前半は北のアタカマ砂漠、後半は永久凍土のパタゴニア地方、ピノチェトに虐殺された犠牲者の遺体の痕跡がある場所です。彼らのプロフィールが次々に語られていく。タイトルの「真珠貝のボタン」はメタファーのようで、先住民が買われてイギリスで教育されるために受け取った真珠貝のボタン、もう一つは海底から見つかった貝殻付きのレール、これはピノチェトが犠牲者を海に放り込む前に浮き上がってこないよう体を縛りつけたレール。前作Nostalgia de la luz”で始まったチリ人の地理学的彷徨はEl botón de nácar”において閉じられる。 

      (銀熊脚本賞のトロフィーを手にした監督とプロデューサーの監督夫人)

 

★アタカマ砂漠は標高が高く空気が乾燥しているので天文観測には適している。従って世界の天文台が設置されていることでも有名、日本のなんてん天文台、ヨーロッパのパラナル天文台などが建っている。樹木も小鳥も生息できないが、砂漠の下には多くの犠牲者が眠っている。天文台では星の歴史が観測できるが、地下にはチリの悲惨な歴史が掘り起こされるのを待っている。チリの人々の健忘症と無関心が問われているドキュメンタリー。グスマンはずっとチリの社会政治問題に拘って撮りつづけている監督。「チリは先の大戦には参戦しなかったが、大量虐殺はした」と監督。前回ご紹介したパブロ・ララインの大先輩ですが、ドラマでなく多くがドキュメンタリー。

「ドキュメンタリー映画を持たない国は家族写真のない家族のようなもの」が持論。

 

パトリシオ・グスマン1941年サンティアゴ生れ、監督、脚本家、フィルム編集、撮影、俳優。1965年短編“Viva la libertad”(18分)でデビュー、短編を毎年1作ずつ撮りつづけ、長編三部作La batalla de Chile19757679)を撮る。軍事クーデタでアジェンデ政権が崩壊するまでを描く。アジェンデとピノチェト両政権を体験した映画監督。他の代表作“En nombre de Dios”(1987)、“El caso Pinochet”(2001)、“Salvador Allende”(2004)、2010年のNostalgia de la luzなど、すべてドキュメンタリーです。現在はプロヂューサーのRenate Sachse夫人とパリ在住。 

                   (受賞作El botón de nácarを撮影中の監督)

 

★評価の高かった前作“Nostalgia de la luz”は受賞作と主題がダブっています。「私のテーマは過去にある」と語る監督。これは2010年にカンヌ、トロント、サンセバスチャン、サンパウロ、リオデジャネイロ、ビアリッツ、ポートランドなど、2011年からは香港、サンフランシスコ、テッサロニキなど数多くのの映画祭で上映されている。フランス、ドイツ、米国、イギリス、スペイン、イタリアでは公開されたが、肝心のチリでは今もって未公開。「国営テレビも共同出資しているが未だに放映なし、その気もないようだ」とグスマン監督。ピノチェトはかつて「ずっと昔の話じゃないか」とうそぶいていたが、軍事独裁時代はそんなに昔のことではない。チリ国民の記憶、時間、宇宙についての詩的で哲学的な熟考をうながすドキュメンタリー。静かなナレーション、犠牲者の家族、特に妻や姉妹の言葉に感動する。

 

   (“Nostalgia de la luz”のポスター、中央の男性は遺骨を探し続ける家族)

 

ラテンアメリカ映画が評価された年だった

アルフレッド・バウアー賞にグアテマラのハイロ・ブスタマンテIxcanal(“Ixcanal Volcano”)が受賞と、今回はラテンアメリカの受賞が目立ちました。日本から現地に飛んだ関係者からも「今年は優れた作品が多かった」と中南米映画を評価する声が聞かれた。この賞は若手監督が受賞することが多いのだが、昨年は91歳のアラン・レネの『愛して飲んで歌って』が「常に刷新的で新しい境地を開拓している」として受賞した。受賞後まもない31日パリで死去、結局これが遺作となった。