エドゥアルド・クレスポの「Nosotros nunca moriremos」*サンセバスチャン映画祭2020 ⑰ ― 2020年10月04日 10:30
セクション・オフィシアル部門にノミネートされたアルゼンチン映画
★ラテンアメリカ諸国からコンペティション部門に唯一ノミネートされた、エドゥアルド・クレスポの第3作目「Nosotros nunca moriremos」は、賞には絡めませんでしたが評価の高かった作品でした。上質のロードムービーのようで、主役の母親を演じたロミナ・エスコバルがトランスセクシュアルということも話題のようでした。クレスポは撮影監督でもあり、昨年のホライズンズ・ラティノ部門のオリソンテス受賞作品ロミナ・パウラの「De nuevo otra vez」を手掛けています。新作はラテンアメリカ映画の登竜門的セクションであるホライズンズ・ラティノではなくコンペティション部門ということで、コロナ禍の状況下にしては監督以下大勢が現地入りしていました。今年は中止と諦めかけていたラテンビート2020がオンラインで開催されるということで、もしかしたらと期待してアップしておきます。
*「De nuevo otra vez」の作品紹介は、コチラ⇒2019年09月10日
(ロミナ・エスコバルとエドゥアルド・クレスポ、9月23日のフォトコール)
「Nosotros nunca moriremos」(「We Well Never Die」)2020
製作:SANTIAGO LOZA / RITA CINE / PRIMERA CASA / EDUARDO CRESPO
監督:エドゥアルド・クレスポ
脚本:エドゥアルド・クレスポ、サンティアゴ・ロサ、リオネル・ブラベルマン
撮影:イネス・ドゥアカステージャ
音楽:ディエゴ・バイネル
編集:ロレナ・モリコーニ
製作者:サンティアゴ・ロサ、エドゥアルド・クレスポ、ラウラ・マラ・タブロン
データ:製作国アルゼンチン、スペイン語、ドラマ、83分、スペイン公開2021年3月予定
映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2020セクション・オフィシアル部門正式出品、スペイン協力賞ノミネート
キャスト:ロミナ・エスコバル(母)、ロドリゴ・サンタナ(次男ロドリゴ)、ジェシカ・フリッケル(消防士)、ジョヴァンニ・ぺリツァーリ(消防士)、ブライアン・アルバ(長男)、セバスティアン・サンタナ、他
ストーリー:母親はロドリゴを連れて、22歳になる長男が死んだばかりという小さな町を訪れている。息子の遺体を確認し埋葬するためである。この穏やかな土地で服喪の最初の時間が流れる。次男ロドリゴは大人たちの痛みを垣間見ながら、それとは気づかれずに子供時代に別れを告げるだろう。母親は息子の死の謎を明らかにしたいと思っているが、それは彼の過去の人生を辿ることでもあった。この透明な映画は、愛を捧げようとする孤独な人々のメランコリックで控えめなユーモアに溢れている。家族間で露わになる記憶の合流をパラレルに描くことで、それぞれが自身と向き合うことになるだろう。時が止まったような忘れられた土地を彷徨う上質のロードムービー。
★エドゥアルド・クレスポ紹介、1983年アルゼンチンのエントレ・リオス州クレスポ生れ、監督、脚本家、撮影監督、製作者。2012年、長編「Tan cerca como pueda」(マル・デル・プラタ映画祭正式出品)、2016年、生れ故郷クレスポについてのドキュメンタリー「Crespo(La continuidad de la memoria)」、サンティアゴ・ロサと共同監督したTVシリーズ「Doce casas : historia de mujeres devotas」(14)は、マルティン・フィエロ賞ほかを受賞した。撮影監督としては上記の「De nuevo otra vez」の他、サンティアゴ・ロサの「Breve historia del planeta verde」(19)、イバン・フンドの「Hoy no tuve miedo」(11)などが挙げられる。
★主役のロミナ・エスコバルとサンセバスチャンの散策も楽しんだ監督、「ここに来られることが夢でした」。その理由を言う必要はありませんね。ロミナのほうが注目されても彼女の傍らで静かに見守りながらにこやかに対応する監督、映画と同じように静謐で控えめな監督は、アルゼンチンの農村部で暮らす人々に敬意を表する映画を撮った。
(クルサール会場近辺を散策するクレスポ監督とロミナ・エスコバル)
★ロミナ・エスコバル(ブエノスアイレス1974)は、主役の母親に抜擢された。昨年のベルリン映画祭2019パノラマ部門に出品された「Breve historia del planeta verde」は、ロサ監督がテディー賞とテディー・リーダー賞の2冠を受賞した作品。本作ではロミナ・エスコバルはトランスセクシュアルのDJ役になった。アルゼンチンではかなり注目されているスターのようで、TVシリーズ「Pequeña Victoria」(19、49話)出演で人気があるようです。新作ではトランスセクシュアルでない役柄に抜擢され「トランスセクシュアルの役柄ばかりでうんざりしていました。今回の母親役で、私が尊敬し、人生で私を支えてくれたアルゼンチンのすべての女性に敬意を表します」と、サンセバスティアンで語っている。アルゼンチンのTV局ともスカイプでインタビューを受けるほどの人気ぶりです。2006年のドノスティア栄誉賞受賞者マット・デイモンのツーショットや大ファンのヴィゴ・モーテンセンにも会え、大いに映画祭を楽しんだようです。
*「Breve historia del planeta verde」の作品紹介は、コチラ⇒2019年02月19日
(母親役のロミナ・エスコバル、映画から)
(ロドリゴ役のロドリゴ・サンタナ)
(消防士に扮するなるジョヴァンニ・ぺリツァーリとジェシカ・フリッケル)
(母親とロドリゴ)
(「Breve historia del planeta verde」のポスター)
★映画祭はとっくに終了してしまいましたが、気になりながら割愛していた作品を、11月19日から開催されるラテンビートを視野に入れてアップできたらと思っています。
F・トゥルエバの新作はコロンビア映画*サンセバスチャン映画祭2020 ⑱ ― 2020年10月10日 10:25
クロージングに選ばれたコロンビア映画「El olvido que seremos」
★カンヌ映画祭2020のコンペティション部門にノミネートされた作品「El olvido que seremos」は、コロンビアの医師で人権活動家のエクトル・アバド・ゴメスの伝記映画、1987年8月25日、メデジンの中心街でパラミリタールの凶弾に倒れた。アバド・ゴメスの息子エクトル・アバド・ファシオリンセの同名小説の映画化。カンヌFFはパンデミックのせいで開催できなかった。その時点でサンセバスチャン映画祭上映が視野に入っていたのだが、結果は予想通りになった。既に本国で公開されていたことも考慮されたのかアウト・オブ・コンペティションながらクロージング作品に選ばれた。コロンビア映画なのに監督も主役も脚本もスペイン人になった経緯は、カンヌFFの紹介記事で既にアップしています。他に小説家アバド・ファシオリンセのキャリア、ボルヘスのソネットから採られたという原題の経緯なども紹介しています。部分的に重なりますが、ラテンビート一押しの作品として再度アップすることにしました。フェルナンド・トゥルエバ監督もハビエル・カマラも、ラテンビートが縁で来日したシネアストですから脈があるかもしれない。
*「El olvido que seremos」の作品紹介は、コチラ⇒2020年06月14日
(エクトル・アバド・ファシオリンセ)
「El olvido que seremos」(「Forgotten We'll Be」)2020
製作:Dago García Producciones / Caracol Televisión
監督:フェルナンド・トゥルエバ
脚本:エクトル・アバド・ファシオリンセ(原作)、ダビ・トゥルエバ
撮影:セルヒオ・イバン・カスターニョ
音楽:ズビグニエフ・プレイスネル
編集:マルタ・ベラスコ・ディアス
美術:カルロ・オスピナ
衣装デザイン:アナ・マリア・ウレア
メイクアップ:ラウラ・コポ
プロダクション・マネジメント:マルコ・ミラニ(イタリア)
助監督:ロレナ・エルナンデス・トゥデラ(マドリード)
録音:ヌリア・アスカニオ
視覚効果:ブライアン・リナレス
スタント:ミゲル・アレギ、ジョン・モラレス
製作者:マリア・イサベル・パラモ(エグゼクティブ)、ダゴ・ガルシア、クリスティナ・ウエテ
データ:製作国コロンビア、スペイン語、2020年、136分、カラー&モノクロ、伝記、撮影地メデジン、ボゴタ、マドリード、トリノ。公開コロンビア2020年8月22日、スペイン2021年3月予定
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2020コンペティション部門正式出品(パンデミックで上映なし)、サンセバスチャン映画祭2020クロージング作品(9月26日)
キャスト:ハビエル・カマラ(エクトル・アバド・ゴメス)、パトリシア・タマヨ(妻セシリア・ファシオリンセ・デ・ゴメス)、フアン・パブロ・ウレゴ(長男エクトル・アバド・ファシオリンセ)、セバスティアン・ヒラルド(アルフォンソ・ベルナル)、ダニエラ・アバド、アイダ・モラレス、ホイット・スティルマン(ドクター・リチャード・サンダース)、他多数
ストーリー:1987年8月25日メデジンの中心街、医師でカリスマ的な人権活動家のエクトル・アバド・ゴメスは、二人組のパラミリタールのシカリオの凶弾に倒れた。アバドが撃たれた日は、子供たちが最愛の父親を、妻が善き夫であり優れた同志を奪われた日でもあった。1980年代、暴力が吹き荒れたメデジンで、アバドは医師として家族の長として、また大学教授として後進を育てていた。我が子たちは教育を受け寛容と愛に包まれていたが、恵まれない階級の子供たちのことが常に心に重くのしかかっていた。悲劇が顔を覗かせていた。
(ハビエル・カマラ扮する父と息子、映画から)
カラーとモノクロで描く暗殺された父に捧げる永遠の愛
★原作はベストセラーだったが、映画化までの道のりは長かった。一つには複雑なコロンビアの社会状況と無縁ではなく、およそ3年前、コロンビアのカラコルTV社長ゴンサロ・コルドバ(2012~)の発案で映画化が企画され、オスカー監督フェルナンド・トゥルエバに白羽の矢が立った。交渉に当たったのは副社長ダゴ・ガルシアで、長い紆余曲折の後、本格的に始動したのは2019年だった。紆余曲折については、後ほど監督に語ってもらいます。本作では女優として出演しているダニエラ・アバドは、主人公の孫娘、つまり作家エクトル・アバドの娘です。彼女は映画監督として祖父暗殺をめぐるアバド家の証言集「Carta a una sombra」(15)というドキュメンタリーを撮っています。
(エクトル・アバド・ゴメスと娘たち)
★予告編から推測するに、本作は作家アバド・ファシオリンセ(メデジン1958)がまだ少年だった1970年代前半はカラーで、成人した80年代はモノクロで撮るという2部構成になっているようです。下の家族写真によれば、作家は6人姉弟の第5子にあたる。
(父親役のハビエル、一人置いて母親セシリア役のパトリシア・タマヨ)
(就寝前に父親に絵本を読んでもらうエクトルと妹)
(80年代の父とフアン・パブロ・ウレゴ扮する息子)
(息子とその恋人か)
★エクトル・アバド・ファシオリンセの小説「El olvido que seremos」が上梓されたのは2005年11月、年内に3版したというベストセラー、スペインでの発売は2006年だった。サンセバスチャン映画祭上映に合わせて現地入りしたトゥルエバ監督と主人公アバドを演じたハビエル・カマラにインタビューしたエルパイス紙の記事によると、「何年ものあいだ、私はこの本に敬意を表してきた。私の人生に贈られてきたと思っていた」、しかし「ハビエル・カマラを主人公にした映画化の依頼には最初は断りました」と監督。依頼を受けて監督するという経験はなく、「私は個人的な映画をつくるだけで、というのも映画は第三者を介しないのが一番いいからです。もし外部から提案がきた場合、内面化できるなら引き受けるだけです。小説については視覚化できると感じていました」と説明する。
(監督とハビエル・カマラ、マリア・クリスティナ・ホテル、9月26日)
★「小説は私的な絆が感じられるアングルを多く持っている。例えば家族物語、父と息子の関係などが語られている。私にとってこの映画は、幸福について、愛について、素晴らしいあわだちについて語っており、そして現実がいかにしてフィエスタを台無しにしてしまうかを伝えている。更に5人の姉妹や母親、メイドやシスターなど女性ばかりに囲まれて育つ男の子エクトルの魅力の虜になった。私が好きな映画や本をいくつも思い出させた」。にもかかわらずコロンビアのプロデューサーの提案をできるだけかわそうとした。それは「映画館に連れ出すのは難しそうに思えたからです。私の母が人生で再読した2冊のうちの1冊だったのですが」と苦笑する。幾度となく会合がもたれたが、ありがたいことだがその都度お断りした。
(撮影中の監督とカマラ)
★彼の背中を押したのは製作者の妻クリスティナ・ウエテだった。彼女はたった一日で再読してしまうと、同意してしまった。それで彼も受け入れることにした。「不可能もここで受け入れるなら可能になるかもしれない。クリスティナはいつも不意を衝く」と思ったそうです。コロンビア行きが決定した。斯くのごとくこのカップルは夫唱婦随ならぬ婦唱夫随なのでした。クリスティナ・ウエテについては、本作の脚色を手掛けた義弟ダビ・トゥルエバが、ゴヤ賞2014を総なめにした「『ぼくの戦争』を探して」でご紹介しています。主役のハビエル・カマラと監督が宿願のゴヤの胸像を初めて手にした映画です。ウエテはスペインの女性プロデューサーの草分け的存在であり牽引役を担っている。
*「『ぼくの戦争』を探して」の主な紹介記事は、コチラ⇒2014年01月30日/同11月21日
*クリスティナ・ウエテについては、コチラ⇒2014年01月12日
(監督とカマラ、サンセバスチャンFFフォトコール、9月26日)
(上映後のプレス会見、同上)
★実話を題材にするということはデリケートさが求められる。「二人(監督とカマラ)にとって資料集めをするのは興味あることだったが、私は映画を撮るためにここに来て、現実は既に滑走路で待機していた」と監督。「最初に私が考えた心配の種は、カマラがコロンビア人でないことでした。そのとき作家アバドから監督を引き受けてくれた感謝と、父親そっくりの俳優ハビエル・カマラは理想的だというメールが届いた」。父親を演じる俳優はコロンビア人から探すのが理想だと返事した。カマラはコロンビア訛りも分からないしメデジンもよく知らない。それだけでなくエクトル・アバド・ゴメスとは違いが大きすぎる。しかしハビエルは多くの好条件を兼ね備えていた。例えば非常に優秀な役者であることに加えて、アバド・ゴメスのように人生を愛し、生きることを謳歌している。これは上手く化けられるかもしれない。
★当のカマラはアバドの人格を「アメリカ人がよく口にする、実際より大きい」と定義した。また「ほとんど捉えどころのない」驚きの人だったとも。資料集めの段階でコロンビアにはアバドも載っていた脅威のリストというのがあるのを知った。このリストに載っている人は急いでコロンビアから出ていった。このリストに載っていたある人物から、例えばもしシンボリックな存在で親切で良心的な人なら残ってはいけなかった、とカマラは聞かされた。「そのとき、現実のアバドという人間の重みを感じ、撮影からは切り離そうと思った」。「とても興味深いのは、それぞれがエクトルに親切にしてもらったとか、娘たちは娘たちで父は優しいパパだったとか口にした。どうも彼は感動を演出する才に長けていたようだ」とカマラ。
(現地入りしたハビエル・カマラ、マリア・クリスティナ・ホテル玄関前、9月23日)
★作家が脚本を辞退したのは「小説を書いていたときの苦しみを二度と味わいたくなかった」からだと監督。それに脚本執筆の経験がなかったからとも語っているが、作家は娘ダニエラのドキュメンタリーの脚本を手掛けていた。撮影が始まると邪魔をしたくないと、ヨーロッパへ旅立ってしまった。「しかし最終的にはお会いできた」とカマラ。「3年前に監督に頂いた小説にサインしてもらいたかった。そして彼は彼で姉妹たちに渡したい私の写真を撮った。私が彼に映画は見たかと尋ねると、『いや、あなたが私のお父さんと同じだと思ったら興奮してしまうだろうね』と返事した。これ以上の褒め言葉はなかったでしょう」とカマラは述懐した。
マジックリアリズムが今でも浮遊するコロンビア
★撮影中は実際のドクター・アバドの逸話が溢れていたとご両人。「脇役の俳優が背広を着てやってくると、私はアバド先生に2度お会いしています。2度目のときこの背広を着ていました。もし映画で着ることができたらと思ってと話した。ある女優さんは私の夫はアバド先生に命を助けてもらいました」など。カマラは「こういうことが次々に起こったのです」と強調する。通りで行き会う人々は、彼があたかも実際のドクターであるかのように接した。「マジックリアリズムはここコロンビアでは実際に存在しています。本の中だけでなく人々の中に存在し、彼らの視線を通してそれに気づかされます」。同じように憎しみも感じます。例えば埋葬のシーンを撮るための建物が必要だったが、教会はどこも拒絶したのです。
★トゥルエバ監督は「コロンビアはまだ闘いが終わっていないのです」と力をこめる。「アバドと妻セシリアが最後の会話をするシーンを撮ろうとした日、いくつかの道路が通行止めになった。そのニュースをラジオで聞いたセシリアは、直ぐタクシーで現場に駆けつけ、警察のバリアの前に立っていた。彼らから『どこに行くつもりだ』と尋問されると、『うるさいわね、通しなさい、私が主人公よ!』」ww。おそらく90歳はとうに過ぎていると思うが、かつての闘士の面目躍如。
(セシリア・ファシオリンセ・デ・ゴメス、息子とのツーショット、2017年11月)
オンライン上映作品6作が発表になりました*ラテンビート2020 ② ― 2020年10月13日 15:31
東京国際映画祭共催3作はサンセバスチャン映画祭上映作品
★6作の内訳は、今のところドラマ1作、ドキュメンタリー5作とややアンバランス、第1弾として東京国際映画祭TIFF(ワールド・フォーカス部門)共催3作が発表になり、3作とも終了したばかりのサンセバスチャン映画祭SSIFF上映作品です。うち2作は当ブログで紹介しています。続いて第2弾としてドキュメンタリー3作がアップされています。以下の通りです。
①『家庭裁判所 第3H法廷』(「Courtroom 3H」「Sala del Juzgado 3H」)ドキュメンタリー
(米国、スペイン)
監督アントニオ・メンデス・エスパルサ
★サンセバスチャン映画祭2020セクション・オフィシアル部門上映。アントニオ・メンデス・エスパルサ(マドリード1976)の第3作目、デビュー作『ヒア・アンド・ゼア』(12)、第2作『ライフ・アンド・ナッシング・モア』(17)は共にTIFFで上映された。現在はフロリダ在住。
*「Courtroom 3H」「Sala del Juzgado 3H」の紹介記事は、コチラ⇒2020年08月05日
(アントニオ・メンデス・エスパルサ監督、SSIFF2020フォトコール)
②『息子の面影』(「Sin señas palticulares」)ドラマ(メキシコ、スペイン)
監督フェルナンダ・バラデス
★サンセバスチャン映画祭2019「シネ・エン・コンストルクシオン36」の受賞作、サンダンス映画祭2020ワールド・シネマ部門観客賞&審査員特別脚本賞受賞、サンセバスチャン映画祭2020ホライズンズ・ラティノ部門上映、オリソンテス賞&スペイン協力賞受賞作品。フェルナンダ・バラデス(グアナフアト1981)の長編デビュー作。
*「Sin señas palticulares」の作品紹介は、コチラ⇒2020年09月09日
(オリソンテス賞とスペイン協力賞受賞のバラデス監督、SSIFF2020授賞式9月26日)
③『老人スパイ』(「El agente topo」「The Mole Agent」)ドキュメンタリー
(チリ、米国、ドイツ、オランダ、スペイン)
監督マイテ・アルベルディ
★サンダンス映画祭2020ワールドシネマ・ドキュメンタリー部門観客賞受賞作品、サンセバスチャン映画祭ペルラス(パール)部門観客賞受賞、この部門は本映画祭に先立つ国際映画祭の受賞作品から選ばれる。マイテ・アルベルティ(サンティアゴ1983)は、チリのドキュメンタリー作家、脚本家、製作者。「フィクション、ノンフィクションの区別はなく、あるのは映画だけ」という立場をとっている。本作も両方がミックスされたカクテルになっている。当ブログでは、2014年に撮った第2作目、コメディ仕立ての「La Once」をご紹介しています。ゴヤ賞2016イベロアメリカ映画賞ノミネート作品。作品紹介を予定しています。
*「La Once」の作品&キャリア紹介は、コチラ⇒2016年01月25日
(老人ホームに潜入するセルヒオ・チャミーと探偵事務所所長ロムロ・エイトケン)
(マイテ・アルベルディ監督、サンダンス映画祭)
★以上3作が東京国際映画祭共催の作品です。第2弾ドキュメンタリー3作は次回にします。
第2弾ドキュメンタリー3作*ラテンビート2020 ③ ― 2020年10月14日 18:25
ラテンアメリカの姿を映す3本のドキュメンタリー
★メキシコからは2014年9月26日、ゲレロ州イグアラ市で起きたアヨツィナパ教員養成学校の学生43名の集団失踪事件をめぐる、中国出身の監督アイ・ウェイウェイの『ビボス~奪われた未来』(ドイツ)、キューバからはオーストリア出身の監督フーベルト・ザウパー監督の『エピセントロ~ヴォイス・フロム・ハバナ』(オーストリア、仏)、ベネズエラからはアナベル・ロドリゲス・リオスの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ベネズエラ』(ベネズエラ、英、ブラジル、オーストリア)、3作とも2020年製作です。「ビボス」はパコ・イグナシオ・タイボ二世が2019年に撮った『アヨツィナパの43人』(2部構成、Netflix配信)と同じ事件をテーマにしています。『ダーウィンの悪夢』のフーベルト・ザウパーがアフリカを離れてキューバで撮った「エピセントロ」のテーマは何でしょうか。
④『ビボス~奪われた未来』(「Vivos」)ドキュメンタリー
(ドイツ。スペイン語・英語、112分)
監督アイ・ウェイウェイ
★サンダンス映画祭2020ドキュメンタリー・プレミア部門上映、ベルゲン(ノルウェー)映画祭、CPH:DOXコペンハーゲン・ドキュメンタリー映画祭、ミュンヘン・ドキュメンタリー映画祭、各ノミネーション。2014年9月26日の夜、メキシコのゲレロ州イグアラ市アヨツィナパ教員養成学校の学生43人の集団失踪事件が起きた。上記したパコ・イグナシオ・タイボ二世の『アヨツィナパの43人』(19、Netflix配信)は、事件の真相を追うドキュメンタリーだったが、本作は犠牲者の遺族や生存者へのインタビューで、メキシコの麻薬まみれの政治汚職の闇を掘り下げているようです。前者を見た限りでは、あまりの不条理な事件に言葉が見つからないのですが、中国政府から北京の自宅監禁を余儀なくされた経験をもつ、人権活動家でもあるアイ・ウェイウェイ監督の視点に興味がわく。
(アイ・ウェイウェイ監督とサンダンスFFのプログラマーAnia Trzebiatowska)
⑤『エピセントロ~ヴォイス・フロム・ハバナ』(「Epicentro」)ドキュメンタリー
(オーストリア=フランス=米。スペイン語、108分)
監督フーベルト・ザウパー
★サンダンス映画祭2020ワールドシネマ・ドキュメンタリー部門審査員大賞受賞、CPH:DOXコペンハーゲン・ドキュメンタリー映画祭ノミネート、フランス、米国で公開されている。フーベルト・ザウパー監督といえば、78回米アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされた『ダーウィンの悪夢』(04)があまりにも有名だが、タンザニアの事実を伝えていないとして毀誉褒貶相半ばした作品でした。10年後のサンダンスFFに現れた南スーダン独立をテーマにした「We Come as Friends」は特別審査員賞を受賞しています。そしてアフリカを離れてキューバ、1898年はアメリカ大陸におけるスペイン植民地支配の終焉とアメリカ帝国主義時代の始まりの年ですが、プロパガンダとしての映画が誕生した時代でもありました。さて、ザウパーは新作で何を語るのでしょうか。
*トレビア:予告編を覗くと、どういうわけかウーナ・カスティーリャ・チャップリン(チャーリー・チャップリンの孫)が出演しており、オリジナル・ソングを披露しています。
(キューバ国旗を手にしたフーベルト・ザウパー、サンダンスFF2020年1月24日)
(ウーナ・カスティーリャ・チャップリン、映画から)
⑥『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ベネズエラ』(「Once Apon a Time in Venezuera」)
(ベネズエラ=イギリス=ブラジル=オーストリア。スペイン語・英語、99分)
監督アナベル・ロドリゲス・リオス
★サンダンス映画祭2020ワールドシネマ・ドキュメンタリー部門、ヒューストン・ラテン映画祭、サンディエゴ・ラテン映画祭、アトランタ映画祭、セーレム映画祭など、米国の映画祭のオフィシャル・セレクションで上映されている。23回マラガ映画祭2020長編ドキュメンタリー部門では、「Érase una vez en Venezuela, Congo Mirador」のタイトルで上映された。
*マラカイボ湖の南、コンゴ・ミラドールと呼ばれる水の村がある。ベネズエラの大油田があり、住民たちは近づく議会選挙の準備に追われている。チャビスタ政府のコーディネーターであるタマラ、タマラと対立する学校教師ナタリ、少女ジョアイニは増え続ける汚泥でコミュニティが泥まみれになるのを見ている。漁業で生計を立てている村民は、汚職や環境汚染、政治的荒廃をどうやって生きぬけばいいのか。それぞれの視点でベネズエラの現状を切りとっている。アナベル・ロドリゲス・リオスの長編デビュー作、日本では短編「El galón」(14)が上映されている。本作については監督紹介を含めて作品紹介を予定しています。
(アナベル・ロドリゲス・リオス監督、サンダンスFFにて)
★以上3作は、サンダンス映画祭2020で上映された作品です。
ベネズエラのアナベル・ロドリゲスのドキュメンタリー*ラテンビート2020 ④ ― 2020年10月17日 18:32
宿命論的諦観には反対するベネズエラのドキュメンタリー
(スペイン語タイトルのポスター)
★今年のオンライン上映作品6作のうち、一番興味をそそられたのがベネズエラの政治的二極化で沈降しそうなマラカイボ湖の水の村<コンゴ・ミラドール>の現状を切りとったドキュメンタリーでした。アナベル・ロドリゲス・リオス(カラカス1976)の初長編ドキュメンタリー『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ベネズエラ』は、サンダンス映画祭2020ワールドシネマ・ドキュメンタリー部門に正式出品された。コロナ禍をかいくぐって国際映画祭で次々に上映されている。なかで政治的二極化が国民を分断している米国からのオファーが群を抜いている。前回のリストアップ段階では触れられなかった作品誕生の経緯、監督が寄せるベネズエラへの思いを追加したい。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ベネズエラ』
(西題「Érase una vez en Venezuela, Congo Mirador」)
製作:Sancocho Público / Spiraleye Productions / Golden Giirs Filmproduktion / TRES Cinematogrefía
協賛 Sundance Film Festival
監督:アナベル・ロドリゲス・リオス
脚本:アナベル・ロドリゲス・リオス、マリアネラ・マルドナド、リカルド・アコスタ、
セップ・ブルダーマン、他
撮影:ジョン・マルケス
編集:セップ・R・ブルダーマンSepp R. Brudermann
音楽:ナスクイ・リナレス
製作者:セップ・R・ブルダーマン、カルメン・リバス・アルバレス、マルコ・ムンダライン、
(エグゼクティブ)クラウディア・レパへ、他
データ:製作国ベネズエラ=イギリス=ブラジル=オーストリア、スペイン語・英語、ドキュメンタリー、99分、撮影地コンゴ・ミラドール、撮影期間2013~18年
映画祭・受賞歴:サンダンス映画祭2020ワールドシネマ・ドキュメンタリー部門、マイアミ、カルタヘナ、HotDocsホットドックス、ヒューストン・ラテン、サンディエゴ・ラテン、アトランタ、セーレム(マサチューセッツ州)、CPH:DOXコペンハーゲン、マラガ、リマ、各映画祭のドキュメンタリー部門で上映された。
出演:タマラ・ビジャスミル(チャビスタ政府の代表者タマラ)、ナタリエ・サンチェス(野党支持者の小学校教師ナタリ)、ジョアニイ・ナバロ(少女ジョアニイ)他
ストーリー:カタトゥンボの<無音>の稲妻が出る南米最大の塩湖マラカイボの南にコンゴ・ミラドールと呼ばれる水の村がある。ベネズエラを変貌させた大油田が眠っている。基礎杭の上に建てられた家で暮らす極貧の村落であり、当面、村民は近づく議会選挙の準備に追われている。村のチャビスタ支持者の代表タマラは、できるだけ多くの投票用紙を集めるために奔走する。野党を支持する小学校教師のナタリにとって、タマラと政治的に対立することは職を失う恐れがあった。一方、少女ジョアニイは堆積する汚泥のためにコミュニティが泥まみれになるのを見ている。村民は気候変動による自然現象や湖に堆積する汚泥がもたらす沈降に脅かされており、地元の漁師たちの生活も破壊されている。汚職や環境汚染、政治的荒廃をどうやって生き延び、<自分自身の存在>を救済すればいいのだろうか。
(マラカイボ湖の浅瀬に基礎杭を打って建ち並ぶ家々とボートで移動する村民)
ベネズエラを荒廃させている政治的二極化、腐敗は価値を生み出す
★アナベル・ロドリゲス・リオスのキャリア&フィルモグラフィー。カラカス出身のドキュメンタリー監督、脚本家、製作者。ロンドン・フィルム・スクールの映画製作の修士号取得、シリーズ「Why Poverty」に含まれた短編ドキュメンタリー「The Barrel(12)」や「El galón」(13)は、50以上の国際映画祭で上映された。例えばHotDocsや、アムステルダム・ドキュメンタリー映画祭IDFAなどが挙げられ、トライベッカ映画祭の奨学金を得ている。貧困層と富裕層を対置しながら、子供の目をとしてベネズエラの石油工業を描いた短編。他に「Letter to Lobo」(13)やシリーズ「Somos terra fertil」(14)がある。
★『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ベネズエラ』が初の長編ドキュメンタリー。2012年10月、治安悪化、経済的困難のため、息子を連れてウィーンに移住している。本作は両国を行ったり来たりして進行、ベネズエラの非営利人権団体PROVEAの協力を得て5年掛かりで完成させた。
(撮影中のアナベル・ロドリゲス・リオス監督)
★本作は8月下旬に開催された第23回マラガ映画祭2020長編ドキュメンタリー部門でも上映されました。監督がAFP通信のインタビューで語ったところによると、本作のアイディアは2008年に「カタトゥンボの<無音>の稲妻」のTVドキュメンタリーを撮ったころに遡るという。南アメリカ大陸最大のマラカイボ湖に注ぐカタトゥンボ川河口上空に現れる気象現象です*。取材中にコンゴ・ミラドールの人々と知り合ったときから構想していた由。20世紀初頭に発見されたマラカイボ湖の大油田は、ベネズエラに大きな富と腐敗をもたらした。石油産出にともなう周辺の地盤沈下も引き起こしている。
(マラカイボ湖はベネズエラ湾からカリブ海に繋がっているから海ともいえる)
(原因が解明されていないマラカイボ湖の超常現象、カタトゥンボの<無音>の稲妻)
★国を分断している最近の政治の二極化は、監督の目には1998年の大統領選挙で、如何にしてウーゴ・チャベスに投票させたかを思い出させるという。腐敗は<価値>を生み出すとも。この映画は、腐敗、汚職について、または食物や金銭と引き換えに票をかき集めるタマラに象徴されるような登場人物について語っている。それはロムロ・ガジェゴスの小説『ドニャ・バルバラ』**の人格と重なり、「一部は盲目的信仰から、一部は日和見主義から、自分たちの責任と全権限を軍人と地方政治ボスのガウディリョに手渡してしまう」と付け加えた。タマラは抜け目のない地方の実業家とチャビスタ党の代表者、彼女はあらゆる手段を講じて票集めに精を出す。
(チャビスタの代表者タマラ・ビジャスミル、映画から)
★対する野党を支持するナタリエ・サンチェスにとって、政治に深入りし対立することは教師という職業を失う危険がある。タマラとナタリという二人の女性を軸に、堆積する汚泥はコンゴ・ミラドールのコミュニティを沈める。「この映画を撮ることで学んだのは苦痛です。しかし政治的腐敗が価値を生み出すことに気づかせてくれた。国の再建において私たちに大きな影響を与えています。理由はさまざまですが、何百万もの国民が国を出てしまいましたが、尊厳を取り戻す方法があるという盲信に支えられています」と微笑する監督。ベネズエラに止まって活動する制作会社のお蔭で完成させることができたし、彼らがベネズエラにいるという事実が力を与えてくれている。問題解決に立ち上がる組織だった政党は見当たらないが、独裁政権でも人生は続くわけだから、活動のスペースを作りだしたいとも。
(ナタリエ・サンチェス、映画から)
★スペインでは10月中の公開が予定されており、ベネズエラでも映画館での上映がアナウンスされたが「これは大きな賭け」になる。7月1日、全国選挙評議会(日本の選挙管理委員会)が野党が過半数を占める国会の議員選挙を12月6日に実施すると発表した。勿論野党は反対しているが、「政治的議論のきっかけ」として、議会選挙前の上映を期待しているようです。
(アナベル・ロドリゲス・リオス、後方に見えるのはマラガ大聖堂でしょうか)
*ウイキペディア情報の英語版とスペイン語版の記述は異なっており、スペイン語版では年間およそ260夜、一晩に10時間ほど続き、1分当たり60回も発生する無音の稲妻、つまり他の雷と違ってピカッだけでゴロゴロがない。原因は地形とか気候のほかにメタンの発生が考えられているが、どうも決定打は未だのようです。危険だがこの超常現象はオーロラ・ツアーのような観光資源になっている。本作とは直接関係ないが2014年、この<無音>の稲妻はギネスブックにも登録された。日本語版は英語版によっている。
**ベネズエラを代表する小説家にして政治家のロムロ・ガジェゴス(1884~1969)の代表作。1947年大統領選挙に出馬、当選するもクーデタで失脚、1958年に帰国するまでキューバ、メキシコに亡命していた。『ドニャ・バルバラ』は翻訳書が出版されている。
チリから届いた心温まるスパイ映画 『老人スパイ』*ラテンビート2020 ⑤ ― 2020年10月22日 11:55
ジェームズ・ボンドのようにタフではありませんが・・・
★マイテ・アルベルディの長編第4作目『老人スパイ』(「El agente topo」)のご紹介。ある老人ホームに送り込まれた俄か探偵セルヒオの御年は83歳、仕事は入居者たちが適切に介護されているかどうかスパイするのが目的、ドキュメンタリーといってもドラマ性が強い。ジャンル的にはドキュメンタリーとドラマがミックスされたいわゆるドクドラのようです。まだ新型コロナが対岸の火事だった頃のサンダンス映画祭2020ワールドシネマ・ドキュメンタリー部門でプレミアされたが、もともとは2017年サンセバスチャン映画祭SSIFFヨーロッパ・ラテンアメリカ共同製作フォーラム作品。というわけで今年のSSIFFペルラス(パール)部門にノミネートされ観客賞を受賞しました。監督紹介は「La Once」でアップしています。
*「La Once」の作品紹介は、コチラ⇒2016年01月25日
(観客賞の証書を手にしたマイテ・アルベルディ、SSIFF2020授賞式、9月26日)
『老人スパイ』(「El agente topo」、「The Mole Agent」)東京国際映画祭共催作品
製作:Micromundo Producciones(チリ)/ Motto Pictures(米)/ Sutor Kolonko / Volya Films
/ Malvalanda
監督・脚本:マイテ・アルベルディ
撮影:パブロ・バルデス(チリ)
音楽:ヴィンセント・フォン・ヴァーメルダム(オランダ)
編集:カロリナ・シラキアン?(Siraqyan、Syraquian、チリ)
製作者:マルセラ・サンティバネス、(エグゼクティブ)ジュリー・ゴールドマン、クリストファー・クレメンツ、キャロリン・ヘップバーン、クリス・ホワイト、他共同製作者多数
データ:製作国チリ=米国=ドイツ=オランダ=スペイン、スペイン語、2020年、ドキュメンタリー、90分、公開オランダ12月10日、カナダはインターネット上映。
映画祭・受賞歴:サンダンス映画祭2020(1月25日)、ヨーロッパ・フィルム・マーケット(独)、カルロヴィ・ヴァリ、マイアミ、サンセバスティアン(ペルラス部門観客賞)、チューリッヒ、ワルシャワ、など各映画祭で上映された。SSIFF 2017ヨーロッパ・ラテンアメリカ共同製作フォーラムのEFADs-CAACI賞受賞。
出演者:セルヒオ・チャミー(スパイ)、ロムロ(A&Aエイトケン探偵事務所所長)、(以下入居者)マルタ・オリバーレス、ベルタ・ウレタ、ソイラ・ゴンサレス、ペトロニタ・アバルカ(ペティータ)、ルビラ・オリバーレス、他
ストーリー:A&Aエイトケン探偵事務所に、サンティアゴの或る老人ホームに入居している母親が適切な介護を受けているかどうか調査して欲しいという娘からの依頼が舞い込んだ。元犯罪捜査官だった所長ロムロは、ホームに潜入してスパイする80歳から90歳までの求人広告を新聞にうつ。スパイとは知らずに応募して臨時雇用されたのが、最近妻に先立たれて元気のなかった御年83歳という好奇心旺盛なセルヒオ・チャミーだった。ロムロはスパイ経験ゼロのセルヒオに探偵のイロハを特訓する。隠しカメラを装備したペンや眼鏡の扱い方、しかし二人を悩ませたのが現代のオモチャ、スマートフォン。その要点の理解に時間がかかるが、ミッションを成功させるには使いこなすことが欠かせない。老人はジェームズ・ボンドのようにはいかないが、誠実さや責任感の強さでは引けを取らない。3ヵ月の契約でホームに送り込まれた俄かスパイは、どんな報告書を書くのだろうか。一方、撮影スタッフは表面上はホームの伝統的なドキュメンタリーを撮るという名目でセルヒオの後を追うことになる。
(ロムロ所長からスパイの特訓を受けるセルヒオ・チャミー)
フィクションとノンフィクションの垣根はありません、あるのは映画だけ
★ジャンルは一応ドキュメンタリーに区分けされていますが、マイテ・アルベルディによれば「あるのは映画だけ」ということです。上記のように第2作「La Once」(14)でキャリア紹介をしておりますが、以後の活躍も追加して紹介すると、1983年サンティアゴ生れ、監督、脚本家、作家。チリのカトリック大学で社会情報学を専攻、オーディオビジュアルと美学を学ぶ。現在複数の大学で教鞭をとっている。共著だが ”Teorias del cine documental en Chile 1957-1973” という著書がある。長編ドキュメンタリー第1作「El salvavidas」は、チリのバルディビアFF観客賞賞、グアダラハラFF審査員特別賞、バルセロナ・ドキュメンタリーFF新人賞他を受賞している。主な作品は以下の通りです。
2007年「Las peluqueras」(短編ドラマ)監督、脚本
2011年「El salvavidas」(長編ドキュメンタリー、デビュー作)監督、脚本
2014年「La Once」(長編ドキュメンタリー、第2作)監督、脚本
2014年「Propaganda」(長編ドキュメンタリー)脚本
2016年「Yo no soy de aquí」(短編ドキュメンタリー)
2016年「The Grown-Ups」(チリ「Los niños」長編ドキュメンタリー、第3作)監督、脚本
2020年「El agente topo」(長編ドキュメンタリー)本作
★長編第3作「The Grown-Ups」は、アムステルダム映画祭を皮切りに国際映画祭巡りをした。子供時代を一緒に過ごし仲間、今は中年になったダウン症のグループの愛と友情が語られる。興味本位でない彼らの可能性を探るドキュメンタリー。グラマド映画祭特別審査員賞、マイアミ映画祭Zeno Mountain賞、オスロ・フィルム・サウスフェスティバルDOC:サウス賞など受賞歴多数。
(「The Grown-Ups」のスペイン語版ポスター)
★セルヒオが選ばれたのは好奇心は強いがおよそスパイには見えないその無邪気さだったか。先ずはクライアントの母親ソニア・ぺレスを探しあて親しくならねばならない。このカトリック系のホームは入居者の9割40名ほどが女性だから結構大変です。セルヒオのように誠実で魅力的な男性は歓迎され、彼に恋する女性も現れる。一方ロムロはセルヒオの娘の心配も和らげなくてはならない、なにしろ父親はスパイなんだから。そしてセルヒオを追いかけてカメラを回したのが、パブロ・バルデス撮影監督、「La Once」と「The Grown-Ups」を手掛けている。完成して公けになれば潜入がバレてしまうわけだから、介護施設とはどういう取り決めをしていたのだろうか。
(学習に専念するセルヒオ)
(情報入手に入居者と親しくなるのもスパイの仕事です)
★セルヒオは目指す女性を突き止めるが、果たしてミッションは成功したのでしょうか。老人の孤独、やがて訪れるだろう死、セルヒオから送られてくる報告書はアルベルディ監督を内省的な方向に導いていく。現実に即しているとはいえドキュメンタリーというジャンルでは括れない。
★スタッフに女性シネアストが目立つが、エグゼクティブ・プロデューサーの一人ジュリー・ゴールドマンは、ニューヨーク出身のドキュメンタリーやTVシリーズを手掛けているプロデューサー兼エグゼクティブ・プロデューサー。2009年Motto Pictures を設立、オスカー賞ノミネート2回ほかエミー賞を受賞するなど受賞歴多数のベテラン、手掛けたドキュメンタリーもサンダンスFFで複数回受賞している。もう一人のエグゼクティブ・プロデューサーのキャロリン・ヘップバーンとの共同作品が多い。
(エグゼクティブ・プロデューサーのジュリー・ゴールドマン)
★成功の秘密の一つが製作者マルセラ・サンティバネスとの息の合った進行が挙げられる。監督とは初めてタッグを組んだのだが、マルセラは「マイテとはまるでパートナーになったようだった」とインタビューに応えている。またスマートフォンの特訓が大変だったとも。チリのカトリック大学視聴覚ディレクターのコミュニケーションを専攻(2003~10)。2012年9月から2年間UCLAの修士課程で映画製作を学んだ。ということで母国語の他英語が堪能。サンダンスFFにも監督と参加した。ラテンビート関連ではアンドレ・ウッドの『ヴィオレータ、天国へ』(11)のアシスタント・プロデューサーを務めている。制作会社 Micromundo Producciones 所属。
(監督と製作者マルセラ・サンティバネス、サンダンス映画祭2020)
F・トゥルエバの「Forgotten We'll Be」 が開幕作品*ラテンビート2020 ⑥ ― 2020年10月23日 11:28
オープニング作品「Forgotten We'll Be」は新宿バルト9で特別上映
★当ブログで2回にわたってご紹介してきましたフェルナンド・トゥルエバのコロンビア映画「El olvido que seremos」が、英題「Forgotten We'll Be」でスクリーン上映が発表されました。初日11月19日(木)バルト9(1回のみ)、時間・料金など詳細は後日発表です。ラテンビート一押しと宣伝してきた甲斐がありました。ただ1回上映でオンライン上映はありませんのでチケット入手が心配です。映画はエクトル・アバド・ファシオリンセの同名小説の映画化。主人公は原作者の父親、医師で人権活動家でもあったエクトル・アバド・ゴメス。
(少年エクトル・アバド、その右が母親セシリア・ファシオリンセ、LBFFの公式サイトから)
★コロンビア映画なのにどうして監督と主人公ハビエル・カマラがスペイン人なのか、原作者エクトル・アバド・ファシオリンセの紹介、原題が辿った紆余曲折(アルゼンチンの詩人ボルヘスの詩集から採られた)などについては、コチラ⇒2020年06月14日、第68回サンセバスチャン映画祭2020クロージング作品に選ばれ現地入りしたさい、トゥルエバ監督とハビエル・カマラがエル・パイス紙から受けたインタビュー記事については、コチラ⇒2020年10月10日です。
(監督とハビエル、サンセバスティアンの宿泊ホテル、マリア・クリスティナ、9月26日)
★サンセバスチャン映画祭に続いて第15回ローマ映画祭RIFF(10月15日~25日)のオフィシャル・セレクション(24作)にノミネートされ、10月22日プレミアされました。レッド・カーペットに登場したトゥルエバ監督とハビエル・カマラです。
(レッド・カーペットに現れたフェルナンド・トゥルエバ、ローマ映画祭、10月22日)
ダビ・マルティンのデビュー作 『マリアの旅』*ラテンビート2020 ⑦ ― 2020年10月27日 20:33
ベテラン女優ペトラ・マルティネスを主役に起用した自由への旅
★ラテンビートに新たにドラマ2作が発表になりました。共催作品ではありませんが、両作とも10月31日にオープンするTIFF東京国際映画祭TOKYOプレミア2020部門で上映されます。一つはスペイン映画からダビ・マルティン・デ・ロス・サントスの長編デビュー作『マリアの旅』(「La vida era eso」)、もう一つはポルトガル映画からマリオ・バローゾの『モラル・オーダー』(「Ordem Moral」)です。今回はTIFFがワールド・プレミアの前者のご紹介。監督のダビ・マルティンは短編では国際映画祭の受賞歴が多数あり、デビュー作とはいえ見ごたえのあるドラマになっているようです。
『マリアの旅』(「La vida era eso」英題「Life Was That」)
製作:Lolita Films / Mediaevs / Smiz and Pixel / Canal Sur Televisión / ICAA /
La vida era eso 協賛マドリード市、アルメリア市
監督・脚本:ダビ・マルティン・デ・ロス・サントス
撮影:サンティアゴ・ラカ(『さよならが言えなくて』『悲しみに、こんにちは』)
編集:ミゲル・ドブラド(『さよならが言えなくて』「La zona」)
美術:ハビエル・チャバリア
キャスティング:トヌチャ・ビダル(『さよならが言えなくて』)
録音:エバ・バリニョ(『悲しみに、こんにちは』「Yuli」)
衣装デザイン:ブビ・エスコバル
メイクアップ:マリア・マヌエラ・クルス
サウンドトラック:”LA VIDA ERA ESO”
フェルナンド・バカス&エストレーリャ・モレンテ曲
エストレーリャ・モレンテ歌
製作者:(エグゼクティブ)ダミアン・パリス、マリア・バロッソ、ホセ・カルロス・コンデ、他
データ:製作国スペイン=ベルギー、スペイン語・フランス語、2020年、ドラマ、109分、撮影地アンダルシア州アルメリアのカボ・デ・ガタ(猫岬)、クランクイン2019年5月26日
映画祭・受賞歴:東京国際映画祭TOKYOプレミア2020部門正式出品(11月6日上映)、第17回セビーリャ・ヨーロッパ映画祭セクション・オフィシアル部門(11月6日~14日)、ラテンビート2020オンライン上映
キャスト:ペトラ・マルティネス(マリア)、アンナ・カスティーリョ(ベロニカ)、ラモン・バレア(マリアの夫ホセ)、フローリン・ピエルジク・Jr.(バルのオーナー、ルカ)、ダニエル・モリリャ(ベロニカの元恋人フアン)、ピラール・ゴメス(美容室経営のコンチ)、マリア・イサベル・ディアス・ラゴ(イロベニー)、アリナ・ナスタセ(クリスティナ)、ジョルディ・ヒメネス(看護師)、クリストフ・ミラバル(マリアの長男ペドロ)、マールテン・ダンネンベルク(同次男フリオ)、他
ストーリー:世代の異なる二人のスペイン女性マリアとベロニカは、ベルギーの病院で偶然同室となる。マリアは若い頃に家族とベルギーに移住してきた。ベロニカは故国では決して手に入れることのできないチャンスを求めて最近来たばかりであった。ここで二人は友情と親密な関係を結んでいくが、ある予期せぬ出来事が、ベロニカのルーツを探す旅にマリアをスペイン南部のアルメリアに誘い出す。それは彼女自身の世界を開くと同時に、人生の信条としてきた確かな土台を揺るがすことにもなるだろう。 (文責:管理人)
(マリア役のペトラ・マルティネス、ベロニカ役のアンナ・カスティーリョ)
自由と欲求に目覚めた女性の未知への遭遇
★監督キャリア&フィルモグラフィー:ダビ・マルティン・デ・ロス・サントスは、監督、脚本家、製作者。短編やドキュメンタリーを手掛け、2004年の短編「Llévame a otro sitio」は、アルメリア短編FFのナショナル・プロダクション賞、ニューヨーク市短編FF観客賞ノミネート、2015年の「Mañana no es otro día」は、アルカラ・デ・エナレス短編FFのマドリード市賞・脚本賞を受賞、続く2016年の短編ドキュメンタリー「23 de mayo」は、メディナ映画祭の作品賞・撮影賞を受賞した。今回の「La vida era eso」が長編映画デビュー作。セビーリャ・ヨーロッパFFの上映日がまだ発表されていないようで東京国際映画祭がワールド・プレミアのようです。スペインはコロナ禍第2波の関係でカナリア諸島を除いて夜間外出禁止のニュースも飛び込んできているので、今後スペインで開催される映画祭の行方が懸念されます。
(短編「Llévame a otro sitio」のポスター)
★本作について、アルメリアのカボ・デ・ガタでクランクインしたときの監督インタビューで「マリアは家族つまり夫や子供たちや両親を優先するような教育を受けた世代に属している。自分自身の欲求は二の次、抑圧されることに甘んじていた。マリアのエロティシズムを目覚めさせることを含めて、観客は自由と友情を通して、マリアの未知への遭遇に沈思するだろう」とコメントしている。さしずめマリアは良妻賢母教育を受けた世代の代表者という設定です。いくつになっても人生の転機はやってくる、勇気をもらいましょう。
(自作を語るダビ・マルティン監督)
(ペトラ・マルティネスとアンナ・カスティーリョと打ち合わせをする監督)
★キャスト紹介:ペトラ・マルティネス(ハエン県リナレス1944)は、舞台、映画、TVの女優。父親がスペイン内戦で共和派で戦ったことで亡命、その後逮捕されてビルバオのタバカレア刑務所に収監された。3歳のときマドリードに移住、16歳のときロンドンに旅行して舞台女優になる決心をする。米国からスペインに移住した劇作家ウィリアム・レイトンが設立したTeatro Estudio de Madrid(TEM)に入学、そこで後に夫となる舞台演出家で俳優のフアン・マルガーリョと知り合う。演劇グループ Tábano に参加、フランコ末期の1970年代は国内では検閲のため上演ができなかったこともあって、米国やヨーロッパ諸国の国際演劇祭に参加している。1985年マルガーリョとUroc Teatro を設立、スペイン国内に限らずヨーロッパやラテンアメリカ諸国を巡業した。フアン・マルガーリョは、俳優としてハビエル・フェセルの『だれもが愛しいチャンピオン』(18)に出演、ゴヤ賞2019助演男優賞にノミネートされている。
(ペトラ・マルティネス)
★映画出演は、公開、TV放映作品ではマテオ・ヒルの長編デビュー作『パズル』(99)、アルモドバルの『バッド・エデュケーション』(04)の母親役、ハイメ・ロサーレスの『ソリチュード~孤独のかけら』(07、スペイン俳優連合主演女優賞)や『ペトラは静かに対峙する』(18)、ジャウマ・バラゲロの『スリーピング・タイト』(11、スペイン俳優連合助演女優賞)など上げられる。未公開作だが代表作に選ばれているのがミゲル・アルバラデホの「Nacidas para sufrir」(09)で、シネマ・ライターズ・サークル賞女優賞を受賞した。一見地味な辛口コメディだが、女性が置かれている社会的地位の低さや男性による不寛容、女性の不屈の精神を描いて訴えるものがあった。これは『マリアの旅』に繋がるものがあり、TIFF のスクリーン上映、並びに LBFF オンライン上映が待たれる。
(「Nacidas para sufrir」のポスター)
★ラテンビートの作品紹介にあるように、もう一人の主役ベロニカ役のアンナ・カスティーリョ(バルセロナ1993)は、イシアル・ボリャインの『オリーブの樹は呼んでいる』(16)でゴヤ賞新人女優賞を受賞している。共演のハビエル・グティエレスは「女優になるべくして生まれてきた」と。他にハビエル・カルボ&ハビエル・アンブロッシの『ホーリー・キャンプ!』(17)に出演している。両作ともLBFF 上映作品です。
(ゴヤ賞2017新人女優賞のトロフィーを手に喜びのアンナ)
★他に評価の高かったセリア・リコ・クラベリーノの「Viaje al cuarto de una madre」(18)では、ロラ・ドゥエニャスと母娘を演じて成長ぶりを披露した。ガウディ賞、フェロス賞、シネマ・ライターズ・サークル賞の助演女優賞を受賞、ゴヤ賞は逃した。次回作はハイメ・ロサーレスの新作に起用されている。『オリーブの樹は呼んでいる』と「Viaje al cuarto de una madre」の作品紹介でキャリア紹介をしています。共演者にロラ・ドゥエニャスにしろペトラ・マルティネスにしろ、演技派の先輩女優に恵まれている。今後が楽しみな若手女優の一人。
*「Viaje al cuarto de una madre」は、コチラ⇒2019年01月06日
*『オリーブの樹は呼んでいる』は、コチラ⇒2016年07月19日
(ロラ・ドゥエニャスとアンナ、サンセバスチャン映画祭2018にて)
★エグゼクティブ・プロデューサーのダミアン・パリスは、制作会社 Lolita Films をハビエル・レボーリョとロラ・マヨと設立、リノ・エスカレラの『さよならが言えなくて』でASECAN賞2018を受賞、同監督の「Australia」(14分)はゴヤ賞短編ドラマ部門にノミネートされた。ハビエル・レボーリョの「La mujer sin piano」(09、カルメン・マチが主演)や「El muerto y ser feliz」(12、ホセ・サクリスタンが主演)など高評価の作品を手掛けている。
(左から、ダミアン・パリス、ダビ・マルティン、フェルナンド・ヒメネス)
★次回はマリオ・バローゾの『モラル・オーダー』の予定。
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