最多ノミネーションの「El 47」*ゴヤ賞2025 ④ ― 2024年12月28日 16:59
マルセル・バレナとエドゥアルド・フェルナンデスの再タッグ!
★作品賞最有力候補「El 47」のマルセル・バレナは、前作「Mediterráneo」(21)の監督です。オスカル・カンプスというライフガードをモデルにした実話、地中海を横断するアフリカ難民を救助する人道支援組織NGOオープン・アームズの設立者、カンプスにエドゥアルド・フェルナンデスが扮した。バレナは新作にもフェルナンデスを起用している。舞台は1970年代のバルセロナ郊外トーレ・バロ、1950年代~60年代から移住が始まった地区、スペインでも最も貧しい州といわれるエストレマドゥーラやアンダルシアからの移住者が多いバリオである。彼らの家には水道も電気もありません。バルセロナ当局は市の一部と認めていないのでした。市の対応にうんざりした勇気ある住民たちの怒りが発端でした。前世紀の草の根運動の物語ながら今日的なテーマでもある。
★前作「Mediterráneo」はゴヤ賞とフォルケ賞の作品賞、男優賞にノミネートされましたが、ゴヤ賞はプロダクション・撮影・オリジナル歌曲賞の3賞、フォルケ賞は受賞できなかった。新作「El 47」は、去る12月14に既に結果発表のあったフォルケ賞で作品賞に輝いた。他に映画と価値観教育賞もゲット、男優賞にエドゥアルド・フェルナンデスが受賞したが、こちらはアイトル・アレギ&ジョン・ガラーニョの「Marco」出演でした。
*「Mediterráneo」の作品&監督キャリア紹介は、コチラ⇒2021年12月13日
(作品賞受賞スピーチをするマルセル・バレナ、フォルケ賞2024ガラ、12月14日)
「El 47」
製作: MediaPro Studio / 3Cat / ICEC / ICO / Movistar Plus+ / RTVE / Triodos Bank
監督:マルセル・バレナ
脚本:マルセル・バレナ、アルベルト(ベト)・マリニ
音楽:アルナウ・バタリェル(作曲)、バレリア・カストロ(歌曲)
撮影:アイザック・ビラ
編集:ナチョ・ルイス・カピリャス
美術:マルタ・バザコ、クララ・ロセル・アベリョ
衣装デザイン:オルガ・ロダル、イランツェ・オルテス
メイクアップ&ヘアー:カルロ・トルナリア
視覚効果:ラウラ・カナルス、イバン・ロペス・エルナンデス
キャスティング:アンドレス・クエンカ、ルイス・サン・ナルシソ
プロダクション:カルロス・アポリナリオ
製作者:ハビエル・メンデス、ラウラ・フェルナンデス・エスペソ、(エグゼクティブ)コンシャ・オレア、オリオル・サラ=パタウ(3Cat)、エバ・ガリード、他多数
データ;製作国スペイン、2024年、カタルーニャ語、スペイン語、ドラマ、実話、110分、撮影地バルセロナのカタルーニャ広場、バルセロナ市庁舎、トーレ・バロ近郊、期間2023年6月末~7月、配給A Coontracorriente Films、公開2024年9月6日、封切り1週間で€240.000を超えるヒット作、海外を含めた興行成績は、IMDb情報で3,278,603ドル
映画祭・受賞歴:第30回ホセ・マリア・フォルケ賞2024、作品賞(フィクション長編映画)、映画と価値観教育賞を受賞、第17回ガウディ賞2025、作品賞(カタルーニャ語映画)、監督・脚本・俳優賞など18部門ノミネート、第12回フェロス賞2025、脚本・助演女優(クララ・セグラ)・オリジナル・サウンドトラック賞の3部門ノミネート、第4回カルメン賞2025、作品賞(ノン・アンダルシア・プロダクション部門)ノミネート、第39回ゴヤ賞2025、作品賞以下14部門ノミネート
キャスト:エドゥアルド・フェルナンデス(マノロ・ビタル)、クララ・セグラ(妻カルメン)、ゾエ・ボナフォンテ(娘ジョアナ)、サルバ・レイナ(フェリピン)、オスカル・デ・ラ・フエンテ(アントニオ)、カルロス・クエバス(パスクアル)、ベッツィ・トゥルネス(アウロラ)、ビセンテ・ロメロ(オルテガ)、ダビ・ベルダゲル(セラ)、ボルハ・エスピノサ(エル・ルビオ)、カルメ・サンサ(ビラ夫人)、アイマル・ベガ(ジョセップ)、フランセスク・フェレル(弁護士)、ロロ・エレーロ(マティアス)、エバ・アリアス(フェリ)、マリア・モレラ(マル)、エレナ・フォルチュニー(合唱団指導者)、カルロス・オビエド(ペドリート)、フアン・オリバーレス(エレナ神父)、他トーレ・バロ地区のエキストラなど多数
ストーリー:バルセロナ1978年、トーレ・バロ地区のコミュニティ住民は、水道も電気もない生活にうんざりしている。バルセロナ市議会は公共交通機関の運行はできない、何故なら道路があまりに狭すぎる坂道て安全運行ができないと主張する。彼らの隣人の一人でバルセロナ交通局のバス運転手マノロ・ビタルは、当局の主張はウソで間違っていると、路線バス47番の車両をハイジャックしてデモを行おうとする。トーレ・バロはスペイン内戦を経て故郷を離れざるを得なかったエストレマドゥーラやアンダルシアの移民たちが作ったコミュニティ、彼らが受けた侮蔑と差別に激怒した男マノロ、ハイジャックした47番バス、そしてバリオの住民たちの運命や如何に? 実話にインスパイアされた市民参加型の草の根運動が語られる。
★2023年5月、制作会社メディアプロがバルセロナ近郊のトーレ・バロで、マルセル・バレナの「El 47」のエキストラ募集をすると発表した。6月末にクランクイン、7月中に撮影は終了した。約半世紀前の話とはいえ、現在世界中で起きている移民問題を考えると、きわめて今日的なテーマとも言えます。暗いニュースの多かったスペインでは庶民は元気のでるポジティブな映画を求めている。そういう意味ではプラスにはたらくだろう。ただエモーショナルな作品には違いないが結末は想定内だから、それがどう評価されるかです。下馬評では演技力のあるキャスト陣を揃えたこともあって評価は高い。
★事の発端は1978年5月7日に起きた。マノロ・ビタル(1923~2010)は路線バス47番をトーレ・バロ地区まで走らせた。1978年という年は、フランコ将軍の死去(1975年11月)にともない、約40年間に及ぶ独裁体制が終わりを告げた民主主義移行期にあたる。スアレス率いる民主中道連合UCA政権時代で、1982年ゴンサレス率いる社会労働党PSOEが政権をとる4年前にあたる。本作に出演するカルロス・クエバス扮するパスクアルは、1982年から1997年までバルセロナ市長を務めたパスクアル・マラガル(バルセロナ1941)、カタルーニャ労働者戦線の活動家にして反フランコ運動の人民解放戦線に参加している人物。本作を観たマラガルの家族は感動したと語っている。クエバスの演技は称賛されているが、残念ながらノミネートされなかった。
(カルロス・クエバス扮するパスクアル)
(左から、エドゥアルド・フェルナンデス、カルロス・クエバス、バレナ監督)
★マルセル・バレナ監督のキャリア&フィルモグラフィーは、前作「Mediterráneo」に譲ります。ゴヤ賞2025のノミネートは14カテゴリーと多数のためスタッフ陣については受賞発表後に予定し、キャストのうちマノロ・ビタルの妻カルメン役のクララ・セグラ(助演女優賞)と娘ジョアナ役のゾエ・ボナフォンテ(新人女優賞)を紹介しておきます。
(モデルになったマノロ・ビタル)
★マノロ・ビタル役のエドゥアルド・フェルナンデスは本作でのノミネートはなく、別作品「Marco」でのノミネートです。先述した通りフォルケ賞を受賞したばかりです。ゴヤ賞ノミネートは14回という常連さん、うちアレックス・オレの「Faust 5.0」で2002主演男優賞、セスク・ゲイの『イン・ザ・シティ』で2004助演男優賞、アメナバルの『戦争のさなかで』で2020助演男優賞と3賞している。ほかにアルベルト・ロドリゲスの『スモーク・アンド・ミラーズ』ではサンセバスチャン映画祭2016の銀貝男優賞を受賞している。ノミネート作品を列挙すると21世紀のスペイン映画史になるほどです。タッグを組んだ監督には上記の他、マリアノ・バロッソ、ビガス・ルナ、マヌエル・ゴメス・ペレイラ、アルモドバル、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、マルセロ・ピニェイロ、ダニエル・モンソンなどなどです。
*「Marco」紹介記事は、コチラ⇒2024年09月03日
*『スモーク・アンド・ミラーズ』紹介記事は、コチラ⇒2016年09月24日
*『戦争のさなかで』の主な紹介記事は、コチラ⇒2019年11月26日
(路線バス47番の運転手マノロ・ビタル、フレームから)
(トロフィーを手にしたフェルナンデス、フォルケ賞2024男優賞ガラ)
★クララ・セグラ・クレスポ:1974年バルセロナ生れ、映画、TV ,舞台女優、脚本家。アメナバルの『海を飛ぶ夢』(04)で初登場、尊厳死を法的に支援する尊厳死協会の職員ジュネ役だった。脇役だが字幕入りで見ることのできる作品が結構多い。例えば東京国際映画祭2008ナチュラルTIFF部門で上映された『フェデリコ親父とサクラの木』(原題「Cenizas del cielo」)、ギレム・モラレスの『ロスト・アイズ』(10)、ガウディ賞2017助演女優賞ノミネートのマルセル・バレナの『100メートル』、同じくガウディ賞ノミネートのオリオル・パウロの『嵐の中で』(18)、ダニ・デ・ラ・オルデンの『クレイジーなくらい君に夢中』(21)など。
★ほかにフォルケ賞2021の映画と価値観教育賞を受賞したダビ・イルンダインの「Uno para todos」(20)に出演、本作でもクレジットされているダビ・ベルダゲルやベッツィ・トゥルネスと共演している。最近ではエレナ・マルティンの「Creatura」でガウディ賞2024助演女優賞を受賞している。ガウディ賞ではマル・コルの「Tots volem el millor per a ella」(13)にノラ・ナバスと共演、ナバスが主演女優賞、セグラが助演女優賞を受賞している。
(夫婦役を演じたフェルナンデスとセグラ、フレームから)
★ゴヤ賞は、昨年の「Creatura」でノミネートされているので今回が2回目になります。そのほかガウディ賞とフェロス賞にノミネートされている。さらにゴヤ賞2025作品賞にノミネートされている、ダニ・デ・ラ・オルデンのカタルーニャ語映画「Casa en Flames / Casa en llamas」に再び起用されている。こちらの作品もガラまでには紹介記事を予定しています。
*「Creatura」の作品紹介は、コチラ⇒2023年05月22日
*「Uno para todos」の作品紹介は、コチラ⇒2020年04月16日
* ダビ・ベルダゲルとベッツィ・トゥルネスのキャリア紹介記事は、コチラ⇒2020年04月16日
(ノラ・ナバスとクララ・セグラ、ガウディ賞2014ガラ)
★ゾエ・ボナフォンテ:2004年バルセロナ生れ、女優。長寿TVシリーズ「Amar es para siempre」(2013~24)でスタートを切る。2022年に42話出演している。ほかに「Escándalo, relato de una obsesión」(23、8話)に出演、本作で映画デビュー、ゴヤ賞のほかガウディ賞にもノミネートされているシンデレラガール。来年にはオルガ・オソリオの「El secreto del orfebre」でマリオ・カサスやミシェル・ジェンナーと共演する。評価はこれからです。
(ジョアナ役のゾエ・ボナフォンテ、フレームから)
(フェルナンデスやセグラと一緒にインタビューを受けるボナフォンテ、9月5日)
★数ある秋の映画祭のどこにも出品せず、いきなり劇場公開という珍しいケースがゴヤ賞でどこまで票を集められるか興味がわきます。上記のように第17回ガウディ賞はカタルーニャ語部門18カテゴリー、フェロス賞は3部門がノミネートされています。ガウディ賞は受賞間違いなしですが、ゴヤ賞はバルセロナ派のアカデミー会員は少ないのでフォルケ賞のようにはいかないか。
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