ロドリゴ・プリエトの『ペドロ・パラモ』④*キャスト紹介2024年12月04日 13:09

                PG13では撮れなかった『ペドロ・パラモ』

   


            

★メキシコで『ペドロ・パラモ』を読むのは大体高校生から、早い子供で中学生くらいから手にする。ネットフリックスからプリエト監督にオファーがきたときは「PG13」だった(担当者は原作を読んでいない?)。それでは殺人、近親相姦、ヌードは撮れない。R指定を条件に引き受けたと監督。こうしてスサナ・サン・フアンを演じたイルセ・サラスのヌードが可能になったようです。

 

★ハリスコ州の架空の田舎町コマラを舞台に、20世紀初頭に起きたメキシコ革命とクリステロ反乱を時代背景にした『ペドロ・パラモ』のキャスト・プロフィール、並びに各登場人物の立ち位置を含めてアップします。映画では採用されなかった語り手の重要なモノローグ、コマラは「去る人には上り坂、来る人には下り坂」(断片1)の町、閉じ込められてもがく人、不幸を予感しながら再び戻る人も描かれる。

 

マヌエル・ガルシア=ルルフォ(ペドロ・パラモ役)

1981年グアダラハラ生れ。初期にはアメリカ映画出演が多いので、ネットフリックス配信を含めると字幕入りで鑑賞できる作品多数。黒澤明の『七人の侍』他のリメイク版『マグニフィセント・セブン』(米、16)、ケネス・ブラナーの『オリエント急行殺人事件』(17)、トム・ハンクスと共演した『オットーという男』(21)、『スイートガール』(21)、最近公開されたカルロス・サウラの『情熱の王国』(西=メキシコ合作、21)で演出家マヌエルを主演、メキシコのマノロ・カーロの『巣窟の祭典』(24)と本作でも主演している。

★ペドロ・パラモ:コマラの繁栄と没落を象徴する権力者にして渇望と絶望の語り手、男性性の賛美、言葉による妻への暴力、家父長制主義の加害者にして犠牲者。荒んだペドロの唯一の救いだったスサナ・サン・フアンへの不毛の愛、彼はスサナを迎え入れるために絶大な権力を求めるが、彼女がどういう世界に住んでいたかを永遠に理解できない不幸な孤独者。ペドロはギリシャ語の pétros「石」より派生、パラモは「荒地」を意味する。

 

      

          (ペドロ・パラモ役のマヌエル・ガルシア=ルルフォ)

 

テノッチ・ウエルタ・メヒア(フアン・プレシアド役、ペドロの息子)

1981年メヒコ州エカテペック生れ、ガエル・ガルシア・ベルナルの『太陽のかけら』(07)、キャリー・フクナガの『闇の列車、光の旅』(09)、エベラルド・ゴウト『クライム・シティ』(11)に主演、エドゥビヘス役のドロレス・エレディアと共演、スペインのマヌエル・マルティン・クエンカの『小説家として』(17)、ベルナルド・アレジャノのホラー『闇に住むもの』(20)、ライアン・サラゴサのホラ―『マードレス、闇に潜む声』(21,米)、再びゴウトに起用されサスペンス・ホラー『フォーエバー・パージ』(21)、ライアン・クーグラーの『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(22)ではタロカン帝国の王に扮した。公開こそされなかったが、東京国際映画祭2014で上映されたアロンソ・ルイスパラシオスのデビュー作『グエロス』に主演、監督夫人であるイルセ・サラスと共演している。本作では出会うことはなかったが父親役のマヌエル・ガルシア=ルルフォと同じ年に生まれている。かつて交際していたマリア・エレナ・リオスへの性的暴行疑惑という残念なニュースも浮上している。

『グエロス』の作品紹介は、コチラ20141003

★フアン・プレシアド:前半の主な語り手、ペドロとドロリータスの息子、赤ん坊のときメディア・ルナを母親と去り、母との約束により父親から略奪された財産の代償を求めるという希望をもって、下るべきでない坂を下りて来る。やがてフアンは、権力と富への渇望が痛みと絶望の遺産を残した父親の正体に近づいていく。幻視と幻聴に悩まされ死者と交流するうち、自分が生きてるのか死んでるのか分からず、やがて絶望に至る。彼の罪は幻を求めて故郷を離れて坂を下ったことである。

   

  

           (フアン・プレシアド役のテノッチ・ウエルタ)

 

ドロレス・エレディア(エドゥビヘス・ディアダ)

1966年、バハ・カリフォルニア・スル州の州都ラパス生れ、UNAMで演劇を学んだ本格派、1990年デビューしている。アレハンドロ・スプリンガル「Santitos」で、アミアンFF1999、カルタヘナFF2000女優賞を受賞、カルロス・キュアロン『ルド and クルシ』(08)でルド&クルシ兄弟の母親役を演じた。ロドリゴ・プラがキルケゴールの日記にインスパイアされた「Decierto adentro」(仮訳「内なる砂漠」)でグアダラハラFF2008主演女優賞を受賞した。クリス・ワイツ『明日を継ぐために』(11)、テノッチ・ウエルタと共演した『クライム・シティ』、エイドリアン・グランバーグの『キック・オーバー』(11)、カール・フランクリン『ウルティマ、ぼくに大地の教えを』(13)、ラシッド・ブシャールの『贖罪の街』(14)はフランス映画『暗黒街の二人』のリメイク版、アレハンドラ・マルケス・アベジャ『虚栄の果て』(22)、GGベルナルの監督2作めシリアスコメディ「Chicuarotes」(19)などTVシリーズ出演も含めて国際的に活躍している。ネット配信中の作品もあるが、受賞歴のある作品は見られない。

Chicuarotes」の作品紹介は、コチラ20190513

エドゥビヘス・ディアダ:コマラで売春宿を兼ねたバルを営んでいた女性、フアンの母ドロリータスの親友。パラモ家の管理人フルゴルに部屋の鍵を渡したことで、図らずも殺人に手を貸してしまう。神の許しを得るために善行を積んだが、耐えきれなくて自ら命をたつ。姉マリアが死後の救済をレンテリア神父に頼むが拒まれ、まだ此の世をさまよって死者と交流する。

  

      

            (エドゥビヘス役のドロレス・エレディア)

 

イルセ・サラス(スサナ・サン・フアン)

1981年メキシコシティ生れ、映画、TV 、舞台女優。国立演劇学校で演技を学ぶ。夫のアロンソ・ルイスパラシオスの『グエロス』でテノッチ・ウエルタと共演、アレハンドラ・マルケス・アベジャの『グッド・ワイフ』に主演、既にキャリア紹介をしています。

『グッド・ワイフ』での紹介記事は、コチラ20190414

スサナ・サン・フアン:ペドロのこども時代からの憧れの人であり、彼が愛した唯一人の女性。肺結核を患っていた母親の死後、父バルトロメ・サン・フアンとコマラを去る。革命前夜、母親の葬儀に誰一人として弔問に訪れなかった大嫌いなコマラに戻ってくる。父親との理不尽な性的関係で死後の救済を諦めている。神父も父も共に「パードレ」、パードレはスサナにとって権力者の象徴である。父とのトラウマ克服のため狂気の世界に逃げ込んでフロレンシオという謎の夫をつくりだしている。トラウマによる想像が記憶となっている。フアンの墓の近くに埋葬されており、二人は死後の世界で繋がっている。

  

    

          (狂気の世界に安住を求めるスサナ・サン・フアン)   

 

エクトル・コツィファキス(フルゴル・セダノ、パラモ家の管理人)

1971年コアウイラ州トレオン生れ、映画、TV ,舞台俳優。UNAMの演劇学校であるCUT(大学演劇センター、1962年設立)で学ぶ(19962000)。TVシリーズ出演が多いが、主な代表作はルイス・エストラダの『メキシコ 地獄の抗争』(10)、ダビ・ミチャンのアクションドラマ「Reacciones adversas」(11)で主演、ディエゴ・コーエンのホラー「Luna de miel」(15)で主演、ベト・ゴメスのコメディ「Me gusta, pero me asusta」(17)と「Bendita Suegra」(23)、ナッシュ・エドガートンのダークコメディ『グリンゴ最強の悪運男』(18)、アレハンドロ・イダルゴのホラー「El exorcismo de Dios」とアクション、ホラー、コメディとこなす。TVシリーズ『ナルコス メキシコ編』に出演している。

フルゴル・セダノ:先代ルカス・パラモ以来の未婚の管理人、ペドロに代替わりしたとき54歳と年齢が分かる悪徳管理人。借金地獄のペドロを大地主にした立役者。彼の視点は重みがある。ペドロの指示によって不動産鑑定士トリビオ・アルドルテをエドゥビヘスの店で縛り首にして殺害する。しかしペドロの土地を貰いに来たという革命軍のリーダーにあっさり射殺される。ペドロからは「役に立つ男だったが、もう老いぼれの用なし」と一顧だにされなかった。

   

  

        (フルゴル・セダノ役のエクトル・コツィファキス)

   

ロベルト・ソサ(レンテリア神父役)

1970年メキシコシティ生れ、俳優、TVシリーズのを監督を手掛けている。1976年に子役としてスタートを切り、TVシリーズ、短編含めると166作に出演。代表作は、セバスティアン・デル・アモのヒット作、ガリシア生れながらキューバに渡り、後にメキシコにやって来てB級映画の巨匠になるフアン・オロルの伝記映画「El fantástico mundo de Juan Orol」に主役を演じ、アリエル賞2013主演男優賞、ACE2014主演男優賞、ドン・ルイス映画祭2013男優賞などを受賞、アレックス・コックスの「El patrullero」(日本との合作、『PNDCエル・パトレイロ』1993公開)でサンセバスチャン映画祭1992男優賞、フランシスコ・アティエの「Lolo」でシカゴ映画祭1993男優賞、他受賞歴多数。

レンテリア神父:コマラの町の唯一人の神父。神父としての誓いを果たせるという希望をもっていたが、ペドロの金貨に負けて彼の愚息ミゲルに祝福を与えてしまう。反対に自死したエドゥビヘスには与えない。父親をミゲルに殺されたうえ、レイプされた姪と暮らしている。クリステロ内戦では反乱軍に身を投じる。本作はメキシコにおける来世に関する一連の信仰を探求しており、彼のモノローグは重要である。

  

     

             (レンテリア神父役のロベルト・ソサ)

 

マイラ・バタジャ(ダミアナ・シスネロス役)

1990年メキシコシティ生れ、女優、短編だが脚本を執筆している。2021年タティアナ・ウエソのデビュー作、もらえる賞をすべて制覇したという問題作「Noche de fuego」で、アリエル賞2022助演女優賞、ソニア・セバスティアンの短編「Above the Desert with No Name」(2317分)で、ロスアンゼルス映画賞2024女優賞を受賞している。TVシリーズのダークコメディ「El Mantequilla」(238話)では女刑事に扮する。これからが楽しみな女優の一人。

Noche de fuego」の作品紹介は、コチラ20210819

ダミアナ・シスネロス:メディア・ルナのパラモ家の女中頭、赤ん坊のフアン・プレシアドを一時育てていた。コマラに戻って来たフアンをメディア・ルナから迎えに来る。ペドロをあの世に招き入れる女性でもある。原作と映画の違いの一つは、原作に登場するサン・フアン家の女中、フスティナ・ディアスを省いていることです。彼女は父娘とずっと行を共にしていて、スサナの育ての親でもあった。メディア・ルナで狂気のスサナを介護していたのは、映画のようにダミアナでなくフスティナである。ジャンルが違うのですから、この程度の変更は問題ありませんが、二人は同じ女中でも本質が異なる。フスティナも幻聴に怯えているが、ダミアナのように生死の境を超えられるわけではない。

   

      

           (ダミアナ・シスネロス役のマイラ・バタジャ)

 

ジョバンナ・サカリアス(ドロテア〈ラ・クアラカ〉)

1976年メキシコシティ生れ、女優、監督。19歳のときクラシックバレエを止め演劇を学び始め、舞台女優としてスタートする。2001年ハイメ・ウンベルト・エルモシージョの「Escrito en el cuerpo de la noche」で映画デビュー。代表作は、2018年アレハンドロ・スプリンガルのウエスタン「Sonora」で主演、ドロレス・エレディアと共演、揃ってアリエル賞にノミネートされた。マーティン・キャンベルの『レジェンド・オブ・ゾロ』(25)でバンデラスと共演、ウォルター・サレスの『オン・ザ・ロード』(12)、ブレッド・ドノフー他「Salvation」でロスアンゼルス映画祭2013の女優賞を受賞している。監督作品としては、2015年コメディ「Ramona」(10分)でアリエル賞2013短編賞、2020年長編デビュー作「Escuela para Seductores」がある。

ドロテア〈ラ・クアラカ〉:コマラにたどり着いたフアンにエドゥビヘスの店を教える語り手。産んでもいない赤ん坊を探してコマラをうろついている。神父は天国の門は閉じられているが、主は許されると諭す。教会の広場で倒れていたフアン・プレシアドを葬り、自分も一緒の墓に眠っており、フアンの語りを聞く。施し物欲しさにミゲル・パラモに売春斡旋をしていた罪人、ミゲル亡き後、神父に懺悔する。

   

       

            (ドロテア役のジョバンナ・サカリアス)

 

イシュベル・バウティスタ(ドロレス・プレシアド)

1994年メキシコシティ生れ、ベラクルサナ大学演劇学部卒、国立美術館演技賞受賞、2018年バニ・コシュヌーディの「Luciernagas」で映画デビュー、2023年ルイス・アレハンドロ・レムスの「El sapo de cristal」でノエ・エルナンデスと共演、TVシリーズでは征服者エルナン・コルテスを主人公にした歴史時代劇「Hernan」(8話、19)にマリンチェ役で出演している。

ドロレス・プレシアド、ドロリータス:メディア・ルナの女あるじ、ペドロの最初の妻、フアンの母親。借金を帳消しにするためのペドロの求婚を愛と錯覚して全財産を失う。夫の言葉によるDVに耐えかね、コリマにいる姉を頼ってコマラを去り、再び戻ることができなかった。露の滴る緑豊かなコマラを息子に言い残して失意のうちに旅立つ。

   

      

           (ドロリータス役のイシュベル・バウティスタ)

 

ノエ・エルナンデス(アブンディオ・マルティネス、ペドロの息子)

1969年イダルゴ生れ、アリエル賞主演男優賞を4回受賞するなど受賞歴多数。ホルヘ・ペレス・ソラノの「La tirisia」(14)、ガブリエル・リプスタインの『600マイルズ』(15)、セルヒオ・ウマンスキー・ブレナーの「Eight Out of Ten」(18)、2020年に製作されたヘラルド・ナランホの「Kokoloko」が大分遅れて今年受賞した他、トライベッカ映画祭2020主演男優賞も受賞している。2018年グアダラハラ映画祭のメスカル賞を受賞している。脇役だが東京国際映画祭2015で上映されたロドリゴ・プラの『モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ』、ラテンビートFF2011で上映されたヘラルド・ナランホの『MISS BALA/銃弾』に出演している。父親ペドロを演じたマヌエル・ガルシア=ルルフォより一回りも年上ということもあって、個人的にはキャスティングに違和感があった。

アブンディオ・マルティネス:ペドロが認知しない大勢の私生児の一人、ロバ追いを生業とする。フアンをコマラに案内する。主な出番は最初と最後に現れるだけと少ないが、父親を殺害する重要人物、事故で耳が不自由になる設定は何を意味するか。アブンディオの造形は、短編集『燃える平原』収録の「コマドレス坂」のレミヒオ・トリコ殺しの語り手を彷彿とさせ、彼の原型は短編にある。

   

  

              (アブンディオ・マルティネス役のノエ・エルナンデス右)

 

サンティアゴ・コロレス(ミゲル・パラモ)

TVシリーズ、チャバ・カルタスの「El gallo de oro」(232420話)レミヒオ役で18話に出演。本作で映画デビューを果たした。

ミゲル・パラモ:ペドロが気まぐれで認知した息子、母親はお産で亡くなる。愛馬コロラドに振り落とされて17歳で死去。レンテリア神父の兄弟を殺害、レイプ魔と父親の悪の部分を受け継いだ愚息。

   

        

         (マルガリータ、ダミアナ・シスネロス、ミゲル・パラモ)

 

★その他、スサナの父親バルトロメ・サン・フアン役のアリ・ブリックマン(チアパス州1975)は俳優、作曲家、代表作はマリアナ・チェニーリョのコメディ「Todo lo invisible」(20)で、主演、音楽、脚本も監督と共同執筆している。同監督のヒット作「Cinco dias sin Nora」にも出演、本作はアリエル賞2010作品賞以下を独占した。フアンの死の恐怖がつくりだした幻覚と思われるドニスの妹役のヨシラ・エスカルレガ1995)は、アマゾンプライムで配信が開始されたばかりの『戦慄ダイアリー 屋根裏の秘密』に出演している。ペドロの祖母を演じたフリエタ・エグロラは、娘ナタリア・ベリスタインが監督した『ざわめき』(22)に主演している。ネットフリックスで配信されている。古くはアルトゥーロ・リプスタインの『深紅の愛』に出演している。

   

          

          (穴だけの母親の写真を見つめるフアン・プレシアド)

    

      

 (コマラを去るサン・フアン父娘を見送るペドロ・パラモ)

  

      

          (エドゥビヘスに初夜の務めを頼むドロリータス)

    

  

                (レンテリア神父にミゲルの許しを金貨で支払うペドロ)

   

    

    (レンテリア神父の姪アナ)

 

        

         (スサナのメディア・ルナ到着を待つペドロとダミアナ)

   


                             (スサナとレンテリア神父)

   

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