ダニ・デ・ラ・オルデンの「Casa en flames」*ゴヤ賞2025 ⑤2025年01月08日 22:15

          カタルーニャ語映画「Casa en flames」はシリアスコメディ

   

       

                (スペイン語版ポスター)

 

★ゴヤ賞作品賞ノミネートのダニ・デ・ラ・オルデンのシリアスコメディ「Casa en flames」の言語はカタルーニャ語、前回アップしたマルセル・バレナの「El 47」も主要言語はカタルーニャ語でした。カルラ・シモンのデビュー作『悲しみに、こんにちは』(17)の成功以来、じりじり増えている印象です。カタルーニャ語映画の興行成績ナンバーワンは、シモンの2作め「Alcars」(22)の240万ユーロでしたが、628日に本作が公開されると尻上がりに数字を更新しつづけ、9月末には270万ユーロとなり、わずか3ヵ月で抜いてしまいました。製作に途中から参加したNetflix の配信が、1023日から始まっているので投票には有利になるでしょう。残念ながら日本語字幕入りの配信は目下ありません。

     

    

      (インタビューを受けるダニ・デ・ラ・オルデンとホセ・ペレス・オカーニャ

 

★セレブな離婚女性モンセが、地中海に面したコスタ・ブラバのカダケスの家に2人の子供を呼び寄せて週末を過ごそうと計画する。建物の売却やら、まだ引きずっている恨みやら、いろいろあるにはあるが、それはさておき、何者にも週末を台無しにさせないと決心しています。どこの家庭にも少しの利己主義や秘密はありますが、なんとも嫌味な登場人物がモンセの家に集合することになる。

 

★ゴヤ賞ノミネートは8カテゴリー、うち5部門をキャスト陣が占めている。モンセにエンマ・ビララサウ(主演女優)、息子ダビにエンリク・アウケル(助演男優)、娘フリアにマリア・ロドリゲス・ソト(助演女優)、元夫カルレスにアルベルト・サン・フアン(主演男優)、さらに助演女優賞に息子のガールフレンドらしきマルタ役のマカレナ・ガルシアという布陣です。ほかのノミネートは、作品賞、オリジナル脚本賞(エドゥアルド・ソラ、プロダクション賞(ライア・ゴメス3部門です。

 

Casa en flames(西題「Casa en llamas」、英題「A House on Fire」)

製作:3Cat / Atresmedia Cine / Eliofilm(伊)/ Sábado Pliculas(西)

            Playtime Movies(西)ICEC / ICAA / Netflix

監督:ダニ・デ・ラ・オルデン

脚本:エドゥアルド・ソラ

音楽:マリア・キアラ・カサ 

撮影:ペペ・ゲイ・デ・リエバナ

編集:アルベルト・グティエレス

プロダクション・マネージメント:ライア・ゴメス

キャスティング:アナ・サインス・トラパガ、パトリシア・アルバレス・デ・ミランダ

美術:ヌリア・グアルディア

衣装デザイン:イシス・ベラスコ

メイクアップ&ヘアー:アンナ・アルバレス・デ・サルディ、エンマ・ラモス、(ヘアー)マリベル・ベルナレス

製作者:アルベルト・アランダ、アナ・エイラス、ダニ・デ・ラ・オルデン、キケ・マイジョ、アリエンス・ダムシ、ハイメ・オルティス・デ・アルティニャノ、トニ・カリソサ、ベルナト・サウメル

 

データ:製作国スペイン=イタリア、2024年、カタルーニャ語80%、スペイン語20%、シリアスコメディ、105分、撮影地カタルーニャ州ジローナ(ヘローナ)、公開スペイン628日、Netflix配信1023日(日本語なし)

映画祭・受賞歴:バルセロナ・サンジョルディ映画祭 BCNFF 2024でワールド・プレミア、モンテカルロ・コメディFF2024作品賞受賞、ホセ・マリア・フォルケ賞2024観客賞受賞、ディアス・デ・シネ賞(エンマ・ビララサウ)、他にゴヤ賞20258部門、フェロス賞20258部門、ガウディ賞202514部門にノミネートされている。

 

キャスト:エンマ・ビララサウ(モンセ)、エンリク・アウケル(息子ダビ)、マリア・ロドリゲス・ソト(娘フリア)、アルベルト・サン・フアン(元夫カルレス)、クララ・セグラ(ブランカ)、マカレナ・ガルシア(マルタ)、ホセ・ペレス・オカーニャ(トニ)、フィリッポ・コントリ(リカルド)、ゾエ・ミリャン(ジョアナ)、他多数

  

ストーリー:離婚した裕福な女性モンセは、長いあいだ母親を無視してきた2人の子供をカダケスの自宅に呼び寄せ、最後の週末を過ごす計画を立てる。自宅売却の可能性やら、恨みつらみの数々やら、どこの家族にも口に出してはいけない秘密はあるけれど、それはさておき、この週末は誰にも台無しにさせないと決心している。しかし、元夫も登場して・・・家族再会劇の行方は?

 

         カタルーニャのブルジョア階級の欺瞞をやんわり批判

 

★批評家と観客の評価が分かれるのは珍しくありませんが、前者の80パーセント以上が好意的、フォルケ賞では観客賞を受賞するなど、双方に齟齬がない。キャストの演技をカンペキと褒める批評家が多数を占める。1作品で俳優賞5個ノミネートは珍しい。カタルーニャのブルジョア階級の痛烈なパロディではありますが、笑ってばかりはいられない。何しろ火の手が上がって燃えさかっている家なので本当は怖い話なのです。ダニ・デ・ラ・オルデン映画としてはレベルが高そうですが監督賞に選ばれていませんので、今回はノミネートされているキャスト陣を中心に紹介しておきます。

      

    

          (モンセ役のエンマ・ビララサウ、フレームから)

 

★カダケスで直ぐ思い出されるのがサルバドール・ダリ、彼はユニークな建物で有名なダリ美術館のあるフィゲラス出身ですがカダケスに別荘を所有しており、夏期にはここで過ごすことが多かった。詩人のガルシア・ロルカもひと夏を過ごしている。後にダリと結婚することになるポール・エリュアールの妻ガラとの出会いもカダケスのこの別荘でした。カタルーニャのお金持ちの別荘地というわけです。撮影場所にはバルセロナのカネ・デ・マルにあるホセ・アントニオ・コデルチが設計した建物カサ・ロビラも含まれている。邸内から地中海が見渡せる豪邸が舞台なのが観客を惹きつけているのかもしれません。

 

      

                 (カサ・ロビラ邸)

 

   

          (息子ダビと娘フリア、カサ・ロビラの室内)

 

★モンセ役のエンマ・ビララサウ・トマスは、1959年バルセロナ生れ、映画、テレビ、舞台女優。1913年バルセロナ州議会によって設立された演劇研究所で演技を学ぶ。1980年カタルーニャTVのミニシリーズでキャリアをスタートさせ、テレビ界での活躍が続いた。長編映画デビューはジャウマ・バラゲロのホラー『ネイムレス無名恐怖』(99)、本作はシッチェス映画祭でプレミアされ、初出演で女優賞を受賞した他、ブタカ賞2000のカタルーニャ映画部門の女優賞も受賞した。次いでカンヌでワールド・プレミアされたお蔭で公開されたマリア・リポルの『ユートピア』(03)では、ナイワ・ニムリやアルゼンチンのレオナルド・スバラリアやエクトル・アルテリオと共演した。

 

★評価が定まったのは、パトリシア・フェレイラの「Para que no me olvides」(05)出演でした。三世代の家族関係を描いた力強いストーリー、建築科の学生、その母親と祖父、そして恋人、家族は交通事故で息子を失い、試練に立たされる。母親役で初めてゴヤ賞2006の主演女優賞にノミネートされた。受賞には至らなかったがトゥリア賞2006の女優賞、サンジョルディ賞2006のスペイン女優賞を受賞した。カタルーニャ語とスペイン語の他、フランス語もできるのが強みです。

         

     

★新作では結果が発表になったフォルケ賞はノミネートに終わり、これから始まるゴヤ賞、ガウディ賞、フェロス賞に期待がかかっている。ゴヤ賞に関しては、候補者ティルダ・スウィントンとジュリアン・ムーアが受賞する可能性は低く、ライバルはフォルケ賞を受賞したカロリナ・ジュステでしょうか。パトリシア・ロペス・アルナイスは、最近受賞が続いているのでないと予想します。ガウディ賞は堅いでしょうがゴヤは微妙です。しかしTVシリーズ出演でお茶の間での知名度も高く、バルセロナ派の会員も増えているから蓋を開けてみないことには分からない。舞台女優としても活躍、モンジュイックのリウレ劇場で初演された、アーサー・ミラーの戯曲 "All My Sons" 主演で、2023年のブタカ賞女優賞を受賞した。  

       

  

    (ブタカ賞2023女優賞の受賞スピーチをするエンマ・ビララサウ)

 

★娘フリア役のマリア・ロドリゲス・ソトは、1986年バルセロナ生れ、映画、舞台女優。マラガ映画祭2019の作品賞である金のビスナガ賞を受賞したカルロス・マルケス=マルセの「Els dies que vindran」で長編映画デビュー、銀のビスナガ女優賞を受賞、ガウディ賞2020でも主演女優賞を受賞した。共演したダビ・ベルダゲルと結婚している。作品とキャリア紹介を受賞作にアップしております。

Els dies que vindran」作品紹介は、コチラ20190411

    

     

         (銀のビスナガ女優賞を受賞、マラガFF2019ガラにて)


★デビュー作以降のフィルモグラフィーは、カルレス・トラスの『パラメディック―闇の救急救命士』(20)の理学療法士役、クララ・ロケの『リベルタード』(21)、TVシリーズだがNetflixで視聴可能なダニエル・サンチェス・アレバロの『最後列ガールズ』(226話)、リリアナ・トーレスのコメディ「Mamífera」(24)ではエンリク・アウケルと夫婦役で共演している。彼女は母親になることに抵抗している妻、エンリクは父親になりたい夫を演じている。SXSW映画祭2024特別審査員賞他を受賞している。ガウディ賞2025には二人揃って、こちらは主演俳優賞にノミネートされている。フェロス賞2025では本作で助演女優賞にノミネートです。

   

    

              (母親モンセと、フレームから)

 

★元夫カルレス役のアルベルト・サン・フアンは、1968年マドリード生れ、俳優、脚本家。マドリードのコンプルテンセ大学でジャーナリズムを学ぶ。日刊紙「ディアリオ16」で2年間働く。一纏めの紹介はしていないが、作品ごとにアップしている。長編映画デビューは1997年、フアンマ・バホ・ウジョアのハチャメチャ・コメディ「Airbag」、公開時は批評家から酷評されたが観客は大喜び、1997年の興行成績ナンバーワンになった。次いでビデオが発売されたマヌエル・ゴメス・ペレイラの『スカートの奥で』(99)、同年ミゲル・バルデムの『世界で一番醜い女』、今世紀に入るとエミリオ・マルティネス=ラサロの『ベッドの向こう側』(02)、続編『ベッドサイド物語』(05)、ラモン・デ・エスパーニャの『優しく殺して』(03)、ジャウマ・バラゲロの長たらしい邦題が笑えるサスペンス『スリーピング タイト~白肌の美女の異常な夜』(11)、主役のルイス・トサールの妄想ぶりでブレイクした。

Airbag」紹介記事は、コチラ20210218

   

     

       (元夫カルレス役のアルベルト・サン・フアン、フレームから)

  

★ゴヤ賞関連では、マラガ映画祭2007でフェリックス・ビスカレットの「Bajo las estrellas」(金のビスナガ受賞作)に主演、男優賞を受賞した。そのまま人気が持続して翌年のゴヤ賞主演男優賞も受賞した。ほかフォトグラマス・デ・プラタ2008もゲットし、未公開なのが残念だったコメディドラマです。もう1作がセスク・ゲイの「Sentimental」で、2021年のゴヤ賞とガウディ賞の助演男優賞を受賞している。最新ニュースによると、『リトル・ミス・サンシャイン』のジョナサン・デイトが英語版でリメイクするということです。ダニ・デ・ラ・オルデン映画では、本作の他、Netflix配信『クレイジーなくらい君に夢中』(21)、「El test」(22)などがある。

ビスカレットの「Bajo las estrellas」の紹介記事は、コチラ20171111

セスク・ゲイのSentimental」の紹介記事は、コチラ20210201

     

  

              (ゴヤ賞2008主演男優賞を受賞)

     

★息子ダビ役のエンリク・アウケル1988年ジローナ生れ、俳優、脚本家。2009年ホアキン・オリストレルの『地中海式 人生のレシピ』で長編デビュー、その後TVシリーズ出演で知名度を上げ、パコ・プラサのガリシアの麻薬密売がらみの「Quien a hierro mata」(19)でルイス・トサールと共演、中央のマドリードで注目されるようになった。数々の受賞歴を誇り、例えばゴヤ賞とシネマ・ライターズ・サークル賞2020では新人男優賞、ガウディ賞とフェロス賞では助演男優賞など。タイトルの意味は「剣を使う者は剣に倒れる」という格言の一部、因果応報、目には目をに近い復讐劇。以後、毎年のようにノミネート、受賞が続いている。

 

   

          (マルタ役のマカレナ・ガルシアと、フレームから)

 

★マラガ映画祭2021短編部門のアレックス・サルダの「Fuga」で銀のビスナガ主演男優賞受賞、2022TVシリーズ「Vida perfecta」でフェロス賞助演男優賞、オンダス賞男優賞、2024年パトリシア・フォントの「El maestro que prometió el mar」は、スペイン内戦時代の実話をもとに映画化された。理想主義的な若い教師を演じて、ゴヤ賞以下ガウディ賞、フェロス賞、サンジョルディ賞などにノミネートされた。賞には絡みませんが、ホアキン・マソンのコメディ「La vida padre」(22)では、記憶喪失の父親役カラ・エレハルデとタッグを組んでシェフ役に挑戦している。イサキ・ラクエスタの「Un año, una noche」(22)など話題作に引っ張り凧です。以上の作品はどれも字幕入りでは観られませんが、Netflixシリーズの『鉄の手』(248話)では脇役ですが目下配信中です。

     

     

     (予期せぬ新人男優賞受賞に舞い上がるアウケル、ゴヤ賞2020ガラにて)

 

★マリア・ロドリゲス・ソトで紹介したように、リリアナ・トーレスの「Mamífera」では、ガウディ賞2025の主演男優賞にノミネートされている。今年も映画賞ガラで忙しいことになりそうです。コメディもドラマも演じ分けられる才能は貴重です。

 

★助演女優賞にマリア・ロドリゲスとダブルでノミネートされたマルタ役のマカレナ・ガルシア(マドリード1988年)は、パブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』で鮮烈デビュー、ゴヤ賞2013新人女優賞を受賞した。他、ロス・ハビスの『ホーリー・キャンプ!』(17)などでキャリア紹介をしています。

マカレナ・ガルシアの紹介記事は、コチラ20130818

『ホーリー・キャンプ!』の紹介記事は、コチラ20171007

   

    

        (マリア・ロドリゲスとマカレナ・ガルシア、フレームから)

    

     

   (『ブランカニエベス』で新人女優賞に涙の止まらないマカレナ、ゴヤ賞2013ガラ)


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