ポルトガル映画 『モラル・オーダー』*ラテンビート2020 ⑧2020年11月01日 22:37

       ポルトガル映画――マリオ・バローゾの第3作目『モラル・オーダー』

 

      

 

『モラル・オーダー』は、東京国際映画祭TIFFTOKYOプレミア2020」部門でスクリーン上映される作品。マリオ・バローゾ1947年リスボン生れ、マノエル・ド・オリヴェイラジョアン・セーザル・モンテイロの撮影監督として知られている。本作は20世紀初頭に実在した大新聞社の相続人マリア・アデライデ・コエーリョ・ダ・クーニャがヒロイン、ポルトガル映画ではないがフィリップ・カウフマンの『ヘンリー&ジェーン/私が愛した男と女』(90)や、クエンティン・タランティーノの『パルプ・フィクション』(94)に出演したマリア・デ・メディロスが扮する。特に後者はカンヌ映画祭でパルムドールを受賞したこともあって脇役ながら注目された。ポルトガル語のほか幼少期をウィーンで過ごしたことからドイツ語、更にフランス語、英語、スペイン語、イタリア語と6ヵ国語を駆使して120本もの映画に出演、活躍の舞台は広い。フィルモグラフィーについては後述します。

  

      

 

『モラル・オーダー』(「Ordem Moral」)

製作:APMAna Pinhão Moura Produções / Alfama Films / Leopardo Films 

監督・撮影:マリオ・バローゾ

脚本:カルロス・サボーガ

音楽:マリオ・ラジーニャ

編集:パウロ・MilHomens

美術:パウラ・Szabo

衣装デザイン:Rucha Orey

プロダクション・マネージメント:フィリペ・フェレイラ

製作者:パウロ・ブランコ、(エグゼクティブ)Ana Pinhão Mouraアナ・ピニャン・モウラ?

 

データ:製作国ポルトガル、ポルトガル語、2020年、実話、101分、撮影地リスボン、公開ポルトガル99日、フランス930日、スペイン10

映画祭・受賞歴:バレンシア映画祭202010月)、サンパウロ映画祭(1022日)、東京国際映画祭(11月)、ラテンビート(オンライン上映11月)

 

キャスト:マリア・デ・メディロス(マリア・アデライデ・コエーリョ・ダ・クーニャ)、マルセロ・ウルジェージェ(アルフレド・ダ・クーニャ)、ジョアン・ペドロ・マメーデ(マヌエル・クラロ)、ジョアン・アライス(ジョゼ・エドゥアルド)、アルバノ・ジェロニモ、他多数

 

ストーリー19181113日、日刊紙「ディアリオ・デ・ノティシアス」の相続人マリア・アデライデは、何の前触れもなく22歳年下の家族お抱えの運転手マヌエル・クラロと姿を消す。マヌエルの生れ故郷に隠れ住んでいたが、間もなく夫アルフレドによって探し出される。第一次世界大戦後の混乱期、愛を貫徹するために精神病院に入れられても闘い続け信念を貫き通した女性の物語。大スキャンダル事件として歴史に残る。

 

★ポルトガル社交界の一大スキャンダルだったこの失踪事件は、かなり詳細な史実が書き残されている。しかしどれくらいお化粧直しされて映画化されているかは、実際に鑑賞してみないと分からない。これは愛ゆえの単なる駆け落ち事件ではなく、当時のポルトガルで女性がおかれていた社会的地位の低さを糾弾した勇気ある女性の物語です。続きは鑑賞後に回したい。下の写真は実際の登場人物。

 

      

    (左から、一人息子ジョゼ、マリア・アデライデ、夫アルフレド・ダ・クーニャ)

    

   

           (マリア・アデライデの恋人マヌエル・クラロ)

  

               マノエル・ド・オリヴェイラとの初仕事は俳優でした

 

マリオ・バローゾMário Barroso は、1947年リスボン生れ、監督、脚本家、撮影監督、俳優。バローゾの他、バーローゾ、バロッソなどに表記されるため解説書によってはマリオ・バロッソの表記もある。1968年ベルギーで舞台演出、1973年からパリの映画高等学院IDHECで演出と撮影技術を学び、1967年ポルトガルに帰国した。当時のポルトガルはカーネーション革命(19744月)と称される無血革命後の混乱期であったが、48年間に及ぶ独裁体制が倒れて民主主義に移行した新しい時代だった。もっぱらTVドラマの撮影を担当している。TVドラマの監督デビューは2000年、長編映画デビューは2004年のO Milagre segundo Salomé(ポルトガルのゴールデングローブ賞2005ノミネート)だった。2008年に撮った第2作目Um Amor de Perdiçãoでは、同ゴールデングローブ賞2010作品賞を受賞した。第3作目が本作である。4作手掛けているTVドラマでは撮影は担当していないが、映画は3作とも撮影を兼ねている。現在はIDHECで後進の指導にも当たっている。

   

               

          (ポルトガル・ゴールデングローブ賞2010受賞の第2作)

  

   

                    (最近のマリオ・バローゾ監督)

 

マノエル・ド・オリヴェイラ(ポルト19082015)の作品に出演していた女優マリア・バローゾが叔母ということで、早くから監督とは面識があった。撮影監督を希望していたが、初仕事は『フランシスカ』81)に俳優として起用された。それは登場人物の19世紀ロマン派の大作家カミーロ・カステーロ・ブランコに顔が似ていたからだそうです。撮影監督としてオリヴェイラ作品には合計6作を手掛けています。俳優としては作家の晩年を描いた第3作目『絶望の日』92)と、2014年の短編O Velho do Resteloに同じカミロ役で出演しています。以下にオリヴェイラ作品を羅列しておきますが、本格的な監督デビューが遅いと言っても、普通なら引退していてもおかしくない年齢の1992年から95年まで、毎年1作ずつ送り出していたオリヴェイラの執念に圧倒されます。

 

             

 (カミーロ・カステーロ・ブランコを演じた『絶望の日』から)

   

         

                          (撮影監督マリオ・バローゾ)

  

 *マノエル・ド・オリヴェイラ作品*

1981年『フランシスカ』俳優、1993年ポルトガル映画祭上映

1986年『私の場合』初撮影監督、未公開

1988年『カニバイシュ』撮影監督第2作目、1993年ポルトガル映画祭上映

1992年『絶望の日』撮影監督第3作目、俳優、未公開

1993年『アブラハム渓谷』撮影監督第4作目、語り手、1994年公開

1994年『階段通りの人々』撮影監督第5作目、俳優、1995年公開

1995年『メフィストの誘い』撮影監督第6作目、1996年公開

    

★第4作目の『アブラハム渓谷』はカンヌ映画祭併催の「監督週間」に出品され審査員特別賞を受賞した作品。本作ではナレーターにも起用されている。バローゾによると「子供のころ詩の朗読をしたおかげで一語一語はっきり発音する訓練をしたから」オリヴェイラが気に入ったのではないかと語っている。オリヴェイラは厳しい人だったが寛容な人で、信条の人、理念の人でもあったとも語っている。

   

          

       (話題作『アブラハム渓谷』から主演のレオノール・シルヴェイラ)

 

                   ジョアン・セーザル・モンテイロの撮影監督時代

 

★オリヴェイラ作品の以後タッグを組んだのがジョアン・セーザル・モンテイロ(コインブラ県フィゲイラ・ダ・フォス1939~リスボン2003)で、モンテイロの「ジョアン・デ・ゼウス」三部作、シリーズの第2作目『神の喜劇』と3作目『神の結婚』を手掛けている。このシリーズでは監督自身がポルトガル生れの聖人ジョアン・デ・ゼウスを演じている。モンテイロは200323日癌に倒れたから、結果的には彼の晩年の作品すべてを手掛けたことになる。マリオ・バローゾはポルトガルでも実に個性的な二人の監督とタッグを組んだことになる。それはショットとかフレーミングのとり方、または照明などに強く影響をうけていることが分かる。

 

        

     (ジョアン・セーザル・モンテイロ、『神の喜劇 / ジェラートの天国』から)

   

 *ジョアン・セーザル・モンテイロ作品*

1995年『神の喜劇』撮影監督、「ジョアン・デ・ゼウス」シリーズ第2作目。

   ベネチア映画祭出品、シネフィル・イマジカで『ジェラートの天国』の邦題で放映

1997年『J..の腰つき』撮影監督、ポルトガル映画講座1999上映

1999年『神の結婚』撮影監督、「ジョアン・デ・ゼウス」シリーズ第3作目。

    カンヌ映画祭「ある視点」出品、ポルトガル映画祭2000上映

2000年『白雪姫』撮影監督、ベネチア映画祭出品、未公開

2003年「Vai e Vem 」(行ったり来たり)遺作、撮影監督、カンヌ映画祭出品

 

★製作者のパウロ・ブランコ(リスボン1950)は、1981年の『フランシスカ』からオリヴェイラの長編をプロデュースしており、バローズとは彼の長編第1作、2作に続いて今回も担当した。第1O Milagre segundo Salomé」では、バローゾ自身は監督賞を逃したが、ブランコがポルトガル・ゴールデン・グローブ作品賞を受賞した。エグゼクティブ・プロデューサーのAna Pinhão Mouraは、第1作ではライン・プロデューサーとして参画している。

   

★脚本家のカルロス・サボーガは、1936年モンテイロと同郷のコインブラ県フィゲイラ・ダ・フォス生れの監督、脚本家。国内外の受賞を多数手にしたラウル・ルイス『ミステリーズ 運命のリスボン』10、仏=ポルトガル)、チリ出身の監督バレリア・サルミエント『ナポレオンに勝ち続けた男~皇帝と公爵』12DVDタイトル)、両作ともパウロ・ブランコが製作、サルミエントは前者で編集を手掛けている。監督自身も73歳と決して若いといえないが、スタッフ陣ではベテランに支えられていることが分かる。

   

      ファシズムの復活は一種の国際的な錯乱――マリア・デ・メディロス

 

★キャスト紹介:マリア・デ・メディロスは、1965年リスボン生れ、監督、脚本家、女優(LB公式サイトに合わせてりますが、Medeiros メデイロスではないかと思います)。フランスで演技を学ぶ。映画デビューは1981年ジョアン・セーザル・モンテイロのSilvestre主役シルビア/シルヴェストレに抜擢された。当時15歳だったから既に40年のキャリアがある。今でもポルトガル映画が公開されることは稀なことだが、当時はより珍しいことだった。彼女の公開作品の多くがフランス映画ということもあってフランス女優と思われている。上述したように6ヵ国語に精通していることから海外からのオファーが顕著です。公式サイトにあるようにフィリップ・カウフマン『ヘンリー&ジェーン 私が愛した男と女』アナイス・ニン役、クエンティン・タランティーノ『パルプ・フィクション』のファビアン役は、彼女の紹介文では必ず引用される映画です。

 

  

 (ヘンリー・ミラー夫人ジェーン役のユマ・サーマンとマリア、『ヘンリー&ジェーン』から)

 

フィルモグラフィー紹介120本以上になるので、公開、または映画祭上映になった作品に絞って列挙しておきます。必ずしも代表作品ではありません。

監督名、製作国、主要言語を補足しました。

1990『ヘンリー&ジェーン 私が愛した男と女』(アメリカ)フィリップ・カウフマン、英語

1991年『神曲』(ポルトガル)マノエル・ド・オリヴェイラ、ポルトガル語

   ポルトガル映画祭1993上映

1993年『ゴールデン・ボールズ』(スペイン)ビガス・ルナ、西語

1994年『パルプ・フィクション』(アメリカ)クエンティン・タランティーノ、英語

1996年『私家版』(フランス)ベルナール・ラップ、仏語

2002年『死ぬまでにしたい10のこと』(スペイン=カナダ)イサベル・コイシェ、英語

2003年『ぼくセザール 10歳半1m39cm』(フランス)リシャール・ベリ、仏語

2007年『あたたかな場所』(フランス=イタリア)マルコ・S・プッチオーニ、伊語

   大阪ヨーロッパ映画祭2007、東京国際レズビアン&ゲイ映画祭2008上映

2011年『チキンとプラム あるバイオリン弾き、最後の夢』(フランス=ドイツ=ベルギー)

    マルジャン・サトラピ&バンサン・パロノー、仏語

2017年『荒野の殺し屋』(ブラジル)マルセロ・ガルヴァオン、ポルトガル語、Netflix配信中

2020年『モラル・オーダー』省略

 

      

 (マリアとマチュー・アマルリック、『チキンとプラム~』から)

    

   

                         (『モラル・オーダー』から)

 

★第51回ベネチア映画祭1994の最優秀女優賞ボルピ杯をテレサ・ビリャベルデTres Irmãos(ポルトガル=フランス=ドイツ合作、ポルトガル語・スペイン語)で受賞している。バレンシア映画祭2020棕櫚栄誉賞を受賞したばかりです。当映画祭でのインタビューでは、「ファシズムの復活は一種の国際的な錯乱、映画をつくるのは闘いです」と語っている。クエンティン・タランティーノの『パルプ・フィクション』で監督に同行してカンヌ入りしたときの逸話、監督作品Aos Nossos Filhos19)などは鑑賞後にアップしたい。

   

                   

               (バレンシア映画祭2020にて)

コロンビアから短編 『15の夏』*ラテンビート2020 ⑨2020年11月04日 16:57

         ベネチア映画祭オリゾンティ短編映画賞受賞作品――マリアナ・サフォン監督

 

      

 

★ラテンビート2020上映最後の作品は、コロンビアはボゴタ生れでメデジン育ちの若手監督マリアナ・サフォンの短編第3Entre tú y Milagros(「Between You and Milagros」)、15の夏』の邦題でオンライン上映されます。今年のベネチア映画祭(92日~12日)でコロンビアから唯一ノミネートされた作品として、コロンビアでは話題になっていました。まだ母親の愛情と関心を求めている15歳のミラグロスと母との関係、対立ではない緊張などが綴られていますが、ママが母親だけでなく一人の女性であることも語られているようです。デジタルではない16mmで撮影されておりますが、何故高額な16mmで撮ったかは、監督の映画への情熱が始まったときに見た映画がセルロイドで撮られていたことに関係があるようです。

 

      

  (短編映画賞のトロフィーを手にしたマリアナ・サフォン、ベネチアFF2020912日)

 

 15の夏』Entre tú y Milagros短編20分)2020

監督:マリアナ・サフォン

脚本:マリアナ・サフォン、ナタリエ・アルバレス・メセン

撮影:アルフォンソ・エレーラ・サルセド

編集:アンドリュー・ステファン・リー

音楽:ジェームス・ケニー

美術:ディエゴ・ガルシア

メイクアップ:カロリナ・ウリベ

製作者:ディアナ・パティーニョ・マルティネス、マリアナ・サフォン、ホルヘ・グラナドス・ロス(メキシコ)、他

 

データ:製作国コロンビア、スペイン語、2020年、短編ドラマ、20分、撮影地アンティオキア県シウダ・ボリバルとラ・ピンタダ、撮影期間20195月の5日間、アメリカのミロス・フォルマン奨学基金ほかを獲得。

映画祭・受賞歴:ベネチア映画祭2020オリゾンティ短編部門、作品賞受賞、レイキャビック映画祭(9月)短編部門スペシャル・メンション、ハンプトンズ映画祭(10月、バーチャル・シネマ)ゴールデン・スターフィッシュ賞、ピーター・マクレガー・スコット・メモリアル賞受賞など

 

キャスト:ソフィア・パス(ミラグロス)、マルセラ・マル(母ロレンサ)、オルガ・ルシア・タボルダ(バシリア)、マリア・フェルナンダ・ヒラルド(ラウラ)、アレハンドロ・ハラミーリョ(ミゲル)、ペドロ・フェルナンデス(バイロン)、他多数

 

ストーリー:ミラグロスはまだ母親の愛情と関心を求めている15歳。今夏、予期せぬ死との出会いがミラグロスの中でカタルシスを引き起こし、母との関係と自分自身の存在に疑問を抱くようになる。「映画の世界は私の世界であり、自身が持っている特権の解体を明白に探求しています」と語るサフォン監督、かなり個人色の強い作品。

    

       

       

              (母ロレンサ役のマルセラ・マル、ミラグロス役のソフィア・パス)

    

 

          

                       (16mmで撮影中のマリアナ・サフォン)

 

 

      女性監督作品が44パーセント――活躍の目立った第77回ベネチア映画祭

 

監督紹介マリアナ・サフォンは、ボゴタ生れの監督、脚本家、製作者。ハベリアナ大学で情報学とオーディオビジュアル制作を専攻する。その後映画のスクリプトとして2年間働いたのち、ニューヨークに渡る。コロンビア大学の映画科で演出と脚本の修士号を取得、学位論文が本作Entre tú y Milagros」だった。2014年、短編デビュー作Al otro lado de la montaña18分)は、ダニエラ・カマチョとの共同監督、共同執筆、第2Bajo el agua(英題Submerged14分)は、脚本を第3作同様ナタリエ・アルバレス・メセンと共同執筆した。コロンビア、メキシコ、米国でコマーシャルを制作、現在は長編デビュー作La Botero」をメデジンで撮るための準備をしている。

 

          

                         (短編第2作「Bajo el agua」のポスター)

 

★監督によると「自分の母親との関係に基づいているわけではないが、1年半前30歳になったとき気づいたのは、私の母は2歳の女の子を抱えて既に離婚しており、その女の子というのが私です。それまで私は母を母以外の存在として認識していなかったことに気づいたのです。女性に子供ができると社会は唯一の役割が母親であることを要求します。彼女たちに母性以外にやりたいものが他にあるとは考えない。それで母との関係や過去全体を再考するようになった」と語っている。これは世界共通で日本社会にも少なからず当てはまります。

 

ベネチアFFノミネートの報せはニューヨーク滞在中に知ったという監督は、「自分の作品が認められるだけでなく、ベネチア映画祭に参加することは夢でした」と。映画祭では「ベネチアのような伝統ある重要な映画祭は、非常に厳しいキュレーターシップがあります」と。今年は44パーセントが女性監督作品が選ばれていますが、これは強力なメッセージでしょう。「短編映画を撮るのは長編を作る資金がないからですが、短編映画をスクリーンで上映してくれる映画祭の存在」も理由の一つのようです。

 

★製作者のディアナ・パティーニョ・マルティネスは、当ブログでアップしたシモン・メサ・ソトLeidi14)を手掛けています。これはカンヌ映画祭2014「短編映画」部門のパルムドールを受賞した作品、その後国際映画祭巡りをして幾つもの受賞を手にした。

Leidi」の作品紹介は、コチラ20140530

 

      

             

     

                          (撮影中のディアナとサフォン監督)

 

★母親ロレンザを演じたマルセラ・マルは、1979年ボゴタ生れ、女優。最近はTVシリーズ出演が多く、Netflixで配信された『エル・チャボ』(1812話出演)にベルタ・アビラ役で出演、映画ではラテンビート2013上映のアンドレス・バイスのデビュー作『ある殺人者の記録』07Satanás)に出演しています。実話をもとにした同名小説の映画化、こちらでキャリア紹介しております。

『ある殺人者の記録』の紹介記事は、コチラ20131007

 

   

 

   

  

          (アンドレス・バイスの『ある殺人者の記録』ポスター、中央がマルセラ)

 

★一方、娘ミラグロスにソフィア・パスルベン・メンドサNiña errante18Wandering Girl」)で12歳になる主役アンヘラを演じた。アンヘラと3人の異母姉妹の物語。マラガ映画祭2019に出品され、ソフィアは賞を逃したが共演者の長女役を演じたカロリナ・ラミレスが銀のビスナガ助演女優賞を受賞した。評価はこれからです。コロンビアは南米随一の美人国と言われますがキャストだけでなくスタッフも美人揃いです。

 

     

               (ルベン・メンドサのNiña errante」出演のソフィア・パス

 

      

         (右からカロリナ・ラミレス、ソフィア・パスの4人姉妹をあしらったポスター)

 

『マリアの旅』のペトラ・マルティネスが女優賞*セビーリャ・ヨーロッパFF2020年11月19日 13:50

              ルーマニア映画「Malmkrog」が金のヒラルディージョ賞を受賞

 

         

            (金のヒラルディージョ受賞作のポスター)

 

★去る1114日、第17セビーリャ・ヨーロッパ映画祭2020116日~)がルーマニアの監督・脚本家クリスティ・プイウMalmkrog20201分)金のヒラルディージョ賞に選んで閉幕しました。監督は脚本賞とのW受賞でした。「偉大な監督の可能性と19世紀のロシアを舞台にしたストーリーの展開に感銘を受けた。本作はパンデミックの時代に生きている私たちについて語ってもいる」が授賞理由。前作『シエラネバダ』(173分、東京国際映画祭2016上映)や公開もされたブラック・コメディ『ラザレスク氏の最期』(05151分)などルーマニアの<ニュー・ウェーブ>を代表する監督、受賞作は3時間21分と長尺、長すぎてスペインでの配給元が見つからないと嘆いていましたが、本邦も同じでしょうか? なんとか滑り込みセーフで開催できたベルリン映画祭2020の「Encounters部門」でワールドプレミアされ、監督賞を受賞しています。

 

       

     

    (ベルリン映画祭の監督賞受賞で登壇したときのフォト、20202月)

 

 

★セビーリャ・ヨーロッパ映画祭は、「空白の年があってはならない」という、セビーリャ市長フアン・エスパダスの意向で、他の映画祭がオンライン上映に切りかわるなか、午後6時には上映終了という過酷な条件のもとで開催されました。スペインの午後6時は子供の時間、これから大人の時間が始まる時刻ですから、スケジュールが大変、それでも300作を上映できたということです。欧米のコロナの脅威は留まることがありません。関係者の現地入りは難しく、クリスティ・プイウもビデオ出演でした。

 

     

(中央がフアン・エスパダス市長、右端が映画祭ディレクターのホセ・ルイス・シエンフエゴス)

 

★第2席に当たる審査員大賞グランプリは、スペインのルイス・ロペス・カラスコの2作目ドキュメンタリーEl año del descubrimiento200)、こちらも3時間以上に及ぶ長尺でした。スペインの過去、現在、未来に関する壮大なドキュメンタリー <スペイン発見の年> は、バルセロナ・オリンピック、セビーリャ万博、新大陸発見500周年の1992年、スペイン南東部地中海に面したムルシア州の軍港カルタヘナの労働者たちのインタビューによる証言、夢と無力感で綴られている。ロッテルダム映画祭でプレミア、マル・デル・プラタFF、ボゴタFFでは作品賞を受賞している。 スペインでは既に公開が始まって絶賛されている。ゴヤ賞2021ドキュメンタリー部門の先頭を走っている。

 

         

            

         (ルイス・ロペス・カラスコ、ロッテルダム映画祭2020にて)

 

★監督賞はドイツのクリスティアン・ペツォールトOndine(「Undine」)、さらに編集賞を受賞した。『東ベルリンから来た女』でベルリン映画祭2012の銀熊監督賞を受賞している。ほかに公開作品も多い。撮影賞はイタリア映画Notturnoジャンフランコ・ロージ、エリトリア出身の監督、脚本家、製作者でもあり、ドキュメンタリー『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』は、ベネチア映画祭2013で金獅子賞を受賞しているベテラン。マルガリタ・レドのドキュメンタリーNaciónがスペイン映画監督特別賞を受賞した。初めて目にする監督なので検索して驚きました。1951年ガリシア州ルゴ生れ、サンティアゴ・デ・コンポステラ大学で哲学を専攻した作家、詩人、ジャーナリスト、大学教授、王立アカデミー会員になった最初のガリシア女性、映画の本数は少ないが監督、脚本の他プロデューサーでもある。いずれきちんとご紹介したいドキュメンタリーです。

 

     

                     (OndineUndineのポスター

 



     

 

   

    

          (マルガリタ・レド、Nación」のポスター)

 

★男優賞はフランス映画Gagarineアルセニー・バティリー、女優賞は『マリアの旅』ペトラ・マルティネスの手に渡りました。昨年はロドリゴ・ソロゴジェンの「Madre」のマルタ・ニエトが受賞しているので連続スペイン女優が受賞したことになる。本邦では『おもかげ』という思わせぶりな邦題で公開された。ラテンビート・オンライン上映作品『マリアの旅』は、1126日から配信が開始されます。

 

(アルセニー・バティリー)

   

   

        

                 (ペトラ・マルティネス)

 

マイテ・アルベルディの 『老人スパイ』 鑑賞記*ラテンビート2020 ⑩2020年11月22日 16:47

                   愛すべき諜報員セルヒオなくして傑作は生まれなかった!

    

   

 

★いよいよ1120日からオンライン上映が始まりました。東京国際映画祭TIFFで好感を与えた『老人スパイ』から鑑賞、愛すべき老人スパイ、セルヒオの人間味あふれる活躍なくしてこの傑作は生まれなかったでしょう。人間は老いようがボケようが死ぬまで生きがいと尊厳が必要だと泣かされました。作品紹介でも書いたことですが、「フィクションとドキュメンタリーの区別はない、あるのは映画だけ」というマイテ・アルベルディの言葉通りの傑作でした。老いとはいずれ我も行く道なのでした。若干ネタバレしています。便宜上、加筆訂正して出演者とストーリーを再録しました。

作品紹介&監督キャリアは、コチラ20201022

 

出演者:セルヒオ・チャミー(スイ)、ロムロ・エイトケンA&Aエイトケン探偵事務所所長)、(以下主な入居者)マルタ・オリバーレス、ベルタ・ウレタ、ソイラ・ゴンサレス、ペトロニタ・アバルカ(ペティータ)、ルビラ・オリバーレス、にセルヒオの娘ダラルとその家族、サンフランシスコ介護施設長、介護士など多数

 

ストーリーA&Aエイトケン私立探偵事務所に、サンティアゴの或る老人ホームに入居している母親が適切な介護を受けているかどうか調査して欲しいという娘からの依頼が舞い込んだ。元犯罪捜査官だったロムロ所長は、ホームに入居してターゲットをスパイしてくれる80歳から90歳までの求人広告を新聞にうつ。スパイとは露知らず応募して臨時雇用されたのが、最近妻に先立たれ元気のなかった御年83歳という好奇心旺盛なセルヒオ・チャミーだった。ロムロはスパイ経験ゼロのセルヒオに探偵のイロハを特訓する。隠しカメラを装備したペンや眼鏡のハイテクはともかく、二人を最も悩ませたのが現代のオモチャ、スマートフォンの扱い方だった。その理解に充分な時間を費やすことになる。というのもミッションを成功させるには使いこなすことが欠かせないからだなんとかクリアーしていざ出陣、ジェームズ・ボンドのようにはいかないが、誠実さや責任感の強さでは引けを取らない。3ヵ月の契約でホームに送り込まれた俄かスパイは、果たしてどんな報告書を書くのだろうか。                          (文責:管理人)

 

 

          老人ホームのオーナーに真相を明かさなかった!

 

A チリのドキュメンタリー作家といえば、「ピノチェト三部作」を撮った大先輩パトリシオ・グスマンが直ぐ思い起こされます。『光のノスタルジア』や『真珠のボタン』は、ドキュメンタリーにも拘わらず公開されました。

B: 当ブログではパブロ・ラライン兄弟やセバスティアン・レリオなどのドラマ作品をご紹介していますが、今世紀に入ってから特に活躍目覚ましいのがチリ映画です。

    

A 本作を見ると、裾野の広がりを実感します。どこの国にも当てはまりますがドキュメンタリーは分が悪い。そんな中でドキュメンタリーとフィクションの垣根を取っ払っている監督の一人がマイテ・アルベルディです。『老人スパイ』が長編第4作目になります。

 

         

        (老人スパイのセルヒオ・チャミーとマイテ・アルベルディ監督)

 

B: 「或る老人ホーム」というのは、チリ中央部に位置するサンティアゴ大都市圏タラガンテ県のコミューン、エル・モンテにある「サンフランシスコ介護施設」というカトリック系の中規模の老人ホームです。まずアイディア誕生、監督とA&Aの接点、介護施設との折衝などの謎解きから入りましょう。

 

A 本作はTIFFワールド・フォーカス部門共催作品ですが、来日できない海外の監督とのオンライン・インタビュー「トーク・サロン」が上映後にもたれました。それによると「最初は探偵事務所をめぐるフィルムノワールを撮りたいと、あちこちの探偵事務所に掛け合ったがどこにも断られた。最後に辿りついたのがA&Aだった」と。折よく施設の入居者の娘から「母親がきちんと介護を受けているかどうか調査して欲しい」という依頼がきていた。当てにしていた人物が腰骨を折ったとかで身動きできない。

B: それで例の新聞広告を出すことになった。

 

A 監督はもともと介護施設に関心があって、これは渡りに船ではないかと思った。つまり採用されたチャーミングなセルヒオの魅力に参ってテーマを変更したわけです。

B: セルヒオがトレーニングを受けてるシーンに監督の姿がチラリと映っていました。パブロ・バルデスが指揮を執る撮影班は、セルヒオが入居してくるシーンから撮っていたが。

 

A ホーム側とは前もって伝統的な手法でドキュメンタリーを撮るという許可を受けていたが、真相は伏せていた。つまりオーナーを騙していたわけです。撮影のガイドラインを決め、ホームのルールに従った。撮影班は今か今かとセルヒオの登場を待っていたのでした。冷や冷やしながら見ていたが、最後までバレなかったというから可笑しい。

B: 変化の少ないホームでは、新入居者は格好の被写体だったから、カメラがセルヒオを追いかけても怪しまれない。それに83歳の新入居者がスパイとして潜入してくると誰が想像しますか。 

 

         入居者に必要なのは人間としての尊厳、最大の敵は孤独

 

A このドキュメンタリーを見たら老人に対する考え方が変わるかもしれない。観客はセルヒオのお蔭で先入観をもって他人を判断してはいけないことに気づくでしょう。常にチャーミングで寛大、人生に前向き、苦しいときでも笑いは必要というのが本作のメッセージです。

B: バルデスも完成した「映画を見たら泣けたが、撮影中は笑うことのほうが多かった」と。前半と後半ではテーマも微妙に変化していきました。

 

A 報告書の合言葉は <小包>、依頼人の母親ソニア・ぺレス <標的> とか、QTHやらQSLやらのスパイ暗号で四苦八苦するセルヒオにやきもきするロムロだが、後半になると逆に老人の知恵に押され気味になっていくのが痛快だった。

B: ロムロ・エイトケンはインターポール・チリ支部の責任者ですね。人生を重ねていけば誰でもセルヒオのようになれるわけではない。他人に優しくできるには自分に余裕がないとできない。

        

     

      (セルヒオにスパイのイロハを伝授するA&A所長ロムロ・エイトケン)

  

A 4ヵ月前に亡くなったという奥さんは、さぞかし幸せな人生を送っただったろうと思った。違法なスパイ行為をしようとする父親の身を案ずる娘のダラル、幾つになっても人間には生きがいが必要、頭は疲れるが自由になったような気がする、心配するなと説得する父親、このシーンを入れたのもよかった。

B: 反対に <標的> ソニア・ぺレスの娘、クライアントの姿は一度も出さなかった。この判断もよかった。依頼者とは守秘義務の契約を結んでいたと思いますが、結構な金額だったのではないですか。

   

A 母親に会いにくればどんな介護を受けているか、ある程度分かること、わざわざ探偵事務所に調査を依頼することはない。娘も病いを得ているのかもしれないが、信頼しあっていた母と娘とは少なくとも思えなかった。

B: 母親の移動は車椅子、単独歩行が無理で自由に出歩けない。気難しく、他人を寄せ付けないどころか、体が触れるのさえ嫌がる。怒りを溜めこんでいるのか、観客は遂に彼女の笑顔を見ることはなかった。

A: セルヒオがなかなか <標的> を見つけられなかったのも、<小包> がロムロに届かなかったのも、理由はソニア側にあった。進行と共にテーマが変化していくのは自然の成り行きでしょう。お蔭で私たちは人生勉強がたくさんできたわけです。老人スパイがどんな報告書を書くかは進行とともに想像できましたね。 

 

          辛い人生を受け入れることの難しさ、人生を愉しむテクニック

 

B: 本作は入居者の一人、セルヒオに愛を告白する85歳のセニョリータ・ベルタと、4人の子供を育て、自作の詩を諳んじるペティータ、それにメノ・ブーレマ3人に捧げられている。

A ブーレマはアムステルダム出身の映画編集者、監督が2016年に発表した長編ドキュメンタリー第3作めThe Grown-Ups、スペイン題Los niñosを手掛けている。本作撮影中の20196月に61歳の若さで亡くなった。

 

B: 一生懸命育てた4人の子供たちからは忘れられ、「人生とは残酷なもの」と呟くペティータも、セルヒオがいる間に神に召されてしまった。お別れの日に読み上げられた彼女の詩は、本作の大きな見せ場でした。

A: 韻を踏んでいるようですが、字幕は英語なので分かりません。「母親が生きているなら、神の愛に感謝しなさい」と始まる詩でした。ペティータが「恩知らず」と嘆いていた4人の子供たちは参列していたのでしょうか。これもターゲットと無関係なエピソードですが、105日の開所記念日のユーモア溢れるシーンなど、名場面の数々は皮肉にも標的とは無関係なのでした。

 

     

                 (セルヒオとペティータ) 

 

B: 彼らの青春時代に流行したザ・プラターズの「オンリー・ユー」のメロディーにのってダンスをする入居者たちも忘れられない。

A: 今年のキングに選ばれたセルヒオのパートナーを、施設長がさりげないしぐさで次々と変えていく。皆でお祝いすることが重要、独り占めは御法度です。ターゲットも参加していたのだろうか。 

 

B: 最初のパートナー、セルヒオに恋を告白したセニョリータ・ベルタは、入所して25年ということですから、入居は60歳からになる。ホームでは広場を見渡せる日当たりのいい5つ星の部屋にいてお洒落さん、人生に前向きでソニアとは対照的な女性。セルヒオにお付き合いを断られても直ぐに立ち直る。

A: 心の内は分からないが孤独ともうまく折り合っている。信仰心が支えになって今の人生を受け入れている。女性の入居者は約40人ほどだが目立つ存在でした。

 

      

                  (ベルタとセルヒオ)

 

B: 認知症がグレーゾーンのルビラ、今は白髪だが若い頃はさぞかし美しかったろう。3人いる子供たちは1年以上会いに来ていない。だから次第に娘の顔もあやふやになってくる。孤独が入居者たちの最大の敵なのです。

 

          

          (記憶を失う恐怖に怯えるルビラを支えるセルヒオ)

 

A: マルタは小さい女の子に戻ってしまい母親が迎えに来てくれる日を待っている。不安定になると偽の電話を掛けてやり落ち着かせる。手癖が悪く皆の持ち物を盗んでいるが、直ぐそれも忘れてしまう。

B: マルタの傍にいるソイラは、夫に辛く扱われていたらしくセルヒオの優しさに救われている。男性の友達は今まで一人もいなかったと。

 

       

                (ソイラ、セルヒオ、マルタ)

 

A: セルヒオの退所の日の3人の会話に胸が熱くなった。どんな状況に置かれても愛は絶大です。エンディング曲はホセ・ルイス・ペラレスのオリジナル曲「Te quiero」(アイ・ラブ・ユー)をチリのシンガー・ソングライター、マヌエル・ガルシアがカヴァーしている。セルヒオのラスト・リポートは言わずもがなでしょう。ゴヤ賞2021イベロアメリカ映画賞部門のチリ代表作品に選ばれました

                 

フェルナンダ・バラデスの 『息子の面影』 鑑賞記*ラテンビート2020 ⑪2020年11月26日 10:20

            豊かなアメリカに一番近い国メキシコの苦悩――メタファーを読みとく

 

    

 

フェルナンダ・バラデス『息子の面影』は、北の豊かな大国アメリカに一番近い国メキシコの不幸と苦悩を静かに訴えている。バラデス監督が主役マグダレナにメルセデス・エルナンデスを念頭に脚本を書きすすめていき、メルセデスも台本を見ることなしにオーケーしたという信頼関係が伝わってくる秀作でした。自然の静寂と人間の暴力のコントラスト、秩序の崩壊、自分探しの若者たち、麻薬密売カルテルの恐怖、母親の揺るぎない子供への愛、苦悩するメキシコから届いた苦いクリスマス・プレゼント。2014926日の夜に起きた、メキシコ南部ゲレロ州イグアラ市アヨツィナパ教員養成学校の学生たち43名の謎の失踪事件や、20186月に起きたオカンポ市長選挙候補者の射殺事件などが背景にあるようです。本日から配信が開始されたアイ・ウェイウェイのドキュメンタリー『ビボス~奪われた未来』は前者がテーマ、この世界の注目を集めた未解決事件の不条理が今日のメキシコを象徴している。

 

 

 『息子の面影』(原題Sin señas particulares、英題「Identifying Features」)

製作:Corpulenta Producciones / Avanti Pictures

監督:フェルナンダ・バラデス

脚本:フェルナンダ・バラデス、アストリッド・ロンデロ

撮影:クラウディア・べセリル・ブロス

美術:ダリア・レイェス

編集:フェルナンダ・バラデス、アストリッド・ロンデロ、スーザン・コルダ

録音:ミサエル・エルナンデス、(サウンド・デザイン)オマル・フアレス

音楽:クラリス・ジェンセン(オリジナル・ミュージック)

製作者:フェルナンダ・バラデス、アストリッド・ロンデロ、ジャック・サガ・カバビエ、ヨシー・サガ・カバビエ、ほか

 

データ:製作国メキシコ=スペイン、スペイン語・サポテコ語・英語、2020年、ドラマ、97分、公開スペイン1127日、ドイツ1210日、フランス1216

   

映画祭・受賞歴SSIFF2019「シネ・エン・コンストルクシオン36」受賞、サンダンス映画祭2020ワールド・シネマ部門観客賞特別審査員脚本賞、トゥールーズFFシネラテン部門オフィシャル・セレクション、MOOOVE映画祭(ベルギー)ユース賞、カルロヴィ・ヴァリFFオフィシャル・セレクション、平昌ピョンチャンFFグランプリ、サンセバスチャンFFホライズンズ・ラティノ部門オリソンテス・ラティノス賞スペイン協力賞、ロンドンFF、東京国際FFワールド・フォーカス部門、チューリッヒFF作品賞ゴールデン・アイ賞、モレリアFF観客賞女優賞作品賞、テッサロニキFFコンペティション部門、ストックホルムFFコンペティション部門、トリノFFオープニング作品、他インターネット、バーチャルシネマ多数

 

    

   (オリソンテス・ラティノス賞&スペイン協力賞の賞状を手にした監督、SSIFF2020授賞式

 

キャスト:メルセデス・エルナンデス(マグダレナ)、ダビ・イジェスカス(ミゲル)、フアン・ヘスス・バレラ(メルセデスの息子ヘスス)、アナ・ラウラ・ロドリゲス(オリビア)、アルマンド・ガルシア(リゴ)、ラウラ・エレナ・イバラ(リゴの母チュヤ)、シコテンカティ・ウジョア(リゴの父ペドロ)、ジェシカ・マルティネス・ガルシア(看護師)、リカルド・ルナ(国家公務員)、フリエタ・ロドリゲス(検視官)、ベルタ・デントン・カシーリャス(レヒス)、カルメン・ラモス(レヒスのボイス)、マヌエル・カンポス(アルベルト・マテオ)、アルカディオ・マルティネス・オルテガ(マテオのボイス)、ナルダ・リバス(マテオの孫)、ほか宿泊施設やバス会社の職員、麻薬カルテルのシカリオなどエキストラ多数

 

ストーリー:マグダレナは2ヵ月前、国境行きのバスに乗ってアメリカに向かったまま連絡の途絶えた息子を探す旅に出る。一緒に出掛けた友人が無言の帰宅をしたからだ。メキシコの寂れた町や静かな自然の中を旅するなかでミゲルと名乗る青年に出会う。アメリカから強制退去されたばかりの青年は、長い不在のあと、母親との再会を求めて故郷オカンポを目指していた。道連れになった二人、一人は愛する息子を探す母親マグダレナ、もう一人は故郷の母親に許しを求めたい青年ミゲル、二人の犠牲者は危険な加害者たちが蔓延している危険地帯を一緒にさまようことになる。たとえ罪びとになろうとも母の深い愛に変わりはない。                      (文責:管理人)

  

★監督紹介:フェルナンダ・バラデス1981年グアナフアト生れ、監督、脚本、製作、編集。2006年メキシコの映画養成センターCCCに入学、既に26歳とかなり遅い出発だった。2014年、アストリッド・ロンデロと制作会社EnAguas Cineを設立する。ロンデロは本作の共同脚本家・編集者、また美術を手掛けたダリア・レイェスChulada Films ともコラボしている。製作者としては自身の3作を含めて7作ほどプロデュースしている。代表作がアストリッド・ロンデロのデビュー作Los días más oscuros de nosotras17)である。ボゴタ映画祭2018の作品賞、ロス・カボス映画祭2017のメキシコ賞を受賞している。ロンデロもバルデスの長編デビュー作や短編2作をプロデュースしている。女性作家輩出の胎動を予感させる。現在はメキシコシティに住んでいる。

  

     

   (バラデス監督と脚本&編集を手掛けた盟友ロンデロ監督、サンダンス映画祭2020にて)

 

★短編映画デビューは、2010De este mundo26分)監督、脚本、製作、編集。長編デビュー作のもとになった短編第2作目400 Maletas1423分、CCC製作)でも監督、脚本、製作、編集を担当、サンティアゴ短編映画祭、サンパウロ・ラテンアメリカ映画祭に出品された。メルセデス・エルナンデスが母親マグダレナ、長編で合衆国から退去させられるミゲルを演じたダビ・イジェスカスが行方不明になるマグダレナの息子に扮している。短編完成後に起きたアヨツィナパ失踪事件に着想を得て脚本を推敲、完成させたのが長編デビュー作である。

 

               

                 (本作とリンクする短編2作目400 Maletas」のポスター

 

メルセデス・エルナンデスは舞台女優と二足の草鞋を履いている。ラテンビートで上映されたフランシスコ・バルガスの『バイオリン』05)、ホルヘ・ペレス・ソラノのLa tirisiaではアリエル賞2015の助演女優賞ノミネート、本作でモレリア映画祭2020女優賞を受賞している。ほかTVシリーズ出演、アニメのボイス出演もしている。ダビ・イジェスカスは、ビューティフル・ロードムービーと言われた、ディエゴ・ルナの『ミスター・ピッグ』16)に出ている。これからの俳優です。  

   

               (ある決心をしてミゲルの家に戻ろうと帰路を急ぐマグダレナ)

    

        

            (ミゲルの家の前に佇むマグダレナ、窓際にミゲルの姿、本作から)

  

 

             2014年のアヨツィナパの謎の集団失踪事件が背景にある

 

A: 本作はスクリーンで見たい映画、多分印象がかなり変わると感じました。裏で繰り広げられている暴力を無視したように進行のテンポはゆったり、荒涼としたグアナフアトの自然は、母親マグダレナの心象風景のようでした。彼女を取りまく空虚感に胸が塞がる。

B: 静寂そのもののオカンポのダム湖を飛び立つ自由な鳥、風にそよぐ木々や草、人間の不自由さや愚かさが迫ってきます。

  

A: 本作には上記したように2014926日に突発したアヨツィナパ教員養成学校の学生43名の失踪事件が絡んでいます。真相と称されるものが一転二転して、謎は深まるばかり今もって未解決の事件、政府は解決済みとしたいところだが、犠牲者の家族のみならず国民の大半は納得していない。

B: 配信開始のドキュメンタリー『ビボス~奪われた未来』と合わせてご覧になると、現代メキシコの傷痕の深さが浮き彫りになります。

 

A: もう一つ、20186月のメキシコ中西部ミチョアカン州オカンポ市長選挙中に候補者が射殺された事件もヒントになっている。オカンポという地名は何か所かあり、ミゲルの故郷のオカンポとは別のようです。本作には何本もの柱があって、中心は母親の息子への変わらぬ愛ですが、メキシコが抱える苦悩を背景にしている。

 

B: 母親は生死が分からなくては生きていくことができない。生きているなら連絡があり、連絡がないならば死んでいると当局は言うが、証拠がなくては受け入れられない。息子ヘススと一緒に国境に向かったリゴは無言の帰宅をした。一緒に死んだなら遺体があるはずだ。ないならどこかで生きてるはず。

 

A: リゴの父親ペドロは、暮しに困っていたわけでもないのに「自分の人生を探し」に北に行きたいという息子に激怒して、親身に話し合わなかった自分を責める。息子を探しに行くマグダレナを車で国境まで送ってくれる。

B: 母親チュヤは、マグダレナに必要なら使ってとお金を渡す。麻薬密売組織の残虐性と対照的に、市井の人々の優しさが丁寧に挿入されていて、希望のほのかな明かりを感じさせた。

  

   

                       (アリゾナ行を母親に告げるヘスス)

     

      

 (母親に別れの手を振るヘススとリゴ)

   

      

                   (軽トラで国境までメルセデスを送っていくペドロ)

 

A: メキシコ人の連帯感は強い。バス会社の受付の年配の男性、移民用の宿泊施設の係官、ボートでダムの対岸まで運んでくれた漁師など、記憶に残る人物を多々登場させている。

B: それに対して若者たちはどうでしょうか。北に向かう理由は経済的理由だけでない、今より少しでも良くなりたい、自分には違う人生があるはずだ、という若者が抱く願望が不幸を呼び込んでいる。常に危険が待ち受けていることを無視している。

  

A: 最初は身の危険を感じてマグダレナを故郷に帰そうとする人々も、結局は情報を与えてマグダレナを助ける。例えばヘススと同じバスに乗り合わせて生き残った老人マテオの居場所を教えるレヒナの例、カメラは後ろ姿を映すだけで会話は声だけでした。レヒナもさりげなくお茶をすすめるなどゲイが細かい。

B: 風景描写だけでなく室内シーンでも、撮影監督クラウディア・べセリル・ブロスのフレームは素晴らしかった。ボイスにしたのは「壁に耳あり障子に目あり」で、職務上知りえた事実も知らなかったことにする。他言は直ちに危険が身に及ぶという事実を示唆している。

 

A: 国境地帯では他人を信用してはならないのです。マグダレナはレヒナにとって他人です。次々に身元不明の遺体が運び込まれてくるのが現状です。因みにレヒナのボイス出演をしたカルメン・ラモスは、短編400 Maletas」に出演、他に当ブログでご紹介したアロンソ・ルイスパラシオスのデビュー作『グエロス』(16)に出ている。

 

        マグダレナ、チュヤ、オリビア、息子を探す3人の母親と父親の不在

 

B: 冒頭部分で白内障の手術をしているシーンがあり、思わずブニュエルの『アンダルシアの犬』を思い出してしまった。この眼科医が4年前にモンテレイの友人を訪ねると言い残したまま行方不明になった息子ディエゴの母親であることが分かってくる。

A: 眼科医オリビアを演じたアナ・ラウラ・ロドリゲスについては、本作では重要な役柄ですが、IMDbにも載っていなかった。冒頭の45分で行方不明の息子を探す3人の母親が出揃う。白内障手術のメタファーは、国民が目を覚ましてほしいという願望がこめられているようだが、シカリオの残虐をとどめるのは、利害が複雑に絡まって絶望的です。

 

        

           (字の読めないマグダレナを手助けするオリビア)

 

B: 政治家と警察がカルテルから雁字搦めにされている。アヨツィナパ然り、オカンポ市長候補者殺害然り、調査に入った世界も沈黙させられてしまっている。隣国の大国が絡んでいるから複雑です。

A: ディエゴのように何かの事件に巻き込まれて突然姿を消すことは、ここメキシコでは珍しくない。消息不明のケースもさまざま、合衆国への越境だけが理由ではない。

 

B: オリビアは、検視官から「2週間前のバス襲撃事件の犠牲者の一人」と説明されるが、焼け焦げた息子の遺体からは識別は難しい。

A: しかしDNA判定が一致したことで自身を納得させるしかない。そうしないと息子を弔うことすらできないからです。マグダレナにもオリビアにも、夫の存在が希薄でした。最後にマグダレナが法的に独身だった事実を観客は知るのですが。

B: ヘスス、ディエゴ、さらにいえばミゲルにも父親が不在だった。父親不在はラテンアメリカ映画の特徴の一つです。

   

       

              (米国からメキシコに帰国するミゲル)

 

A: マグダレナが非識字者なのは早い段階で観客に知らされるが、襲撃されたバスに乗り合わせた老人マテオはスペイン語を解さなかった。先住民の言語サポテコ語しか分からない。

B: 主にオアハカ州で話されている言語のようですが地理的には離れている。スペイン語を解さない人口が3%以上いるということですから、相当な数です。

A: ナワトル、マヤ、ミシュテカなどが有名ですが、時間とともに消滅していく言語もある。サポテコ語は国民同士の意思疎通の困難さのメタファーとして挿入されている。

 

B: 本作では森の中で死体を焼く炎の中から現れる悪魔のシルエットなどメタファーが多い。悪魔は悪の象徴として登場させているのでしょうが、残虐性、秩序の崩壊のシンボルでもある。最後にマグダレナが見る悪魔はどう理解したらよいか、観客に委ねられる。

A: 映画のなかで暴力をただの暴力として描くのは避けたい。私たちはあまりに多くの暴力を目にしていますからストレートな暴力は見たくない。勢い観客の想像力に頼ることになる。

 

B: 本作では焚火の炎、蝋燭の炎、暖房の炎、車のライトや懐中電灯の灯り、月光などが効果的に使われていました。全体が暗い色調なのでコントラストが際立っていた。半月から満月に移り変わることで時間の流れを表現しているなど、本作は見る人によって感想が違うかもしれない。

 

         

         (炎の中から立ち現れる悪魔は何を意味しているのか?)

 

A: 衝撃の結末については、配信中ですからさすがに書けない。しかし注意深くダイヤローグに耳澄ませば、伏線が張ってあるので想像できなくはありません。

 

 

ダビ・マルティンの 『マリアの旅』 鑑賞記*ラテンビート2020 ⑫2020年11月29日 17:39

           ペトラ・マルティネスの魅力を引き出した佳品

 

       

 

ダビ・マルティン・デ・ロス・サントス『マリアの旅』は、監督の母親の世代、フランコ時代の価値観に縛られた女性たちへのオマージュ、一見自由に見えながら自分の居場所が見つからない、夢が叶えられそうで敗れてしまう若い世代の女性たちへの哀歌でした。主人公マリアを演ずるペトラ・マルティネスが見せる表情の微妙な変化、アンナ・カスティーリョ扮するベロニカの表面からはうかがい知れない深い孤独と無念が悲しい。ペトラは先日閉幕したセビーリャ・ヨーロッパ映画祭女優賞を受賞に続いて、メリダ映画祭でミラダス賞2020を受賞、来年のゴヤ賞ノミネートは間違いないでしょう。監督並びにスタッフ、主演者のペトラとアンナのキャリアについては、以下にアップしております。

『マリアの旅』作品&キャリア紹介は、コチラ20201027

 

      

     (ミラダス賞2020のトロフィーを手に喜びのペトラ・マルティネス、1125日)

 

キャスト:ペトラ・マルティネス(マリア)、アンナ・カスティーリョ(ベロニカ)、ラモン・バレア(マリアの夫ホセ)、フローリン・ピエルジク・Jr.(バルのオーナー、ルカ)、ダニエル・モリリャ(ベロニカの元恋人フアン)、ピラール・ゴメス(美容室経営コンチ)、マリア・イサベル・ディアス・ラゴ(イロベニー)、アリナ・ナスタセ(クリスティナ)、ジョルディ・ヒメナ(看護師)、クリストフ・ミラバル(マリアの長男ペドロ)、Annick Weerts(ペドロの妻エリサ)、マールテン・ダンネンベルク(同次男フリオ

 

ストーリー:世代の異なる二人のスペイン女性マリアとベロニカは、ベルギーの病院で偶然同室となる。マリアは若い頃に家族とベルギーに移住してきた。ベロニカは故国では決して手に入れることのできないチャンスを求めて最近来たばかりであった。ここで二人は友情と親密な関係を結んでいくが、ある予期せぬ出来事が、ベロニカのルーツを探す旅にマリアをスペイン南部のアルメリアに誘い出す。それは彼女自身の世界を開くと同時に、人生の信条としてきた確かな土台を揺るがすことにもなるだろう

 

 

         「女は三界に家なし」世代、このまま人生を終わらせたくない

 

A: ペトラ・マルティネスのキャリア紹介で触れたことですが、彼女の代表作の一つ、ハイメ・ロサーレスの『ソリチュード 孤独のかけら』に出てくる母親の造形に似ていた。あちらは三人娘の母親で、テーマも同じではありませんでしたが。

B: 室内のシーンなどフレームの取り方も似ているところがあり、時間がゆっくり流れていて何事も起きそうにないのに、実は起きている。

 

A: マリアの夫ホセも別段マチスタの人ではなく、あの年代ならどこにでもいそうな男性です。しかし年配の主婦ならこうあるべきという確信をもっている。マリアは若いときに故郷のレオンを離れたというが、何歳ころだったか分からない。

B: 移住して48年経つということから彼女の齢を想像するしかない。結婚していたのか否かもはっきり語られない。

A: ベルギー暮らしが長いのに母語がスペイン語であること、住んでいたレオンの家がダム建設で沈んだということくらいしか情報はない。レオンといってもステンドグラスが美しい大聖堂のある都市部ではないようだ。

 

B: 長男ペドロにはスペイン語を解さないベルギー人の妻とアントワープとフランス風の名前の子供がいて、こちらも親思いのようだが有無を言わせぬ強引さを垣間見せる。

A: 息子も結婚すれば他人になる。マリアが心を許しているのは独身の次男フリオだが、別の地方か国外か分からないが出ていくという設定。マリアの世代はフランコ政権の良妻賢母の教育を受け、仕事の選択権や自由は制限されても結婚までの居場所はあった。家族という形がまだ存在していた。

 

        

         (マリアの微妙な変化を訝しむ夫ホセ役のラモン・バレア)

 

B: ただ離婚は許されなかったし、夫に先立たれても結婚は一度だけという禁止事項はあった。フランコ以降の教育を受けた20代のベロニカには度し難いことで目を丸くする。

A: 価値観があまりに違いすぎて、最初二人は波長が合わない。しかし実はそんなに違っていないことが次第に分かってくる。身なりや印象だけで他人を判断することの危うさを示唆している。

 

B: ベロニカは梨農園の季節労働者として1年前くらいにベルギーにきた。しかし現在はカメラの魅力に取りつかれカメラマンを目指している。留学ではなく、一人で国外に働きに出るにはそれなりの度胸が必要だが、肩を押したのは家族の崩壊らしいことが匂ってくる。

A: 親にも恋人にもさようならするのは相当の決断がいる。職業の選択権や自由はあってもベロニカには居場所がなかったのだ。前半でスクリーンから姿を消すが、自身の病名を知る前と後のコントラストを演じ分け、デビュー作ボリャインの『オリーブの樹は呼んでいる』や、ロス・ハビの『ホーリーキャンプ!』には見られなかった成長ぶりが、今後の活躍を期待させる。

 

              

 

     

        (カメラマン志望だったベロニカ役のアンナ・カスティーリョ)

 

B: 「植木に水をやってください」というメモを残して出立したマリア、直ぐ帰宅しますと追記しますが、ベルギーからフランスを通りこしてピレネー越え、行ったことのないアンダルシアのアルメリアまで陸路を辿っての旅では直ぐには帰宅できない(笑)。

A: 発作を起こしたばかりのステントが入ったポンコツ心臓を抱えての一人旅、夫との障りのない会話でぷつんと糸が切れた。溜め込んだ怒りを吐き出すような出立だったが、多分家族には何が不満か到底理解できない。それが帰宅後の家族の食事会ではっきりする。ペドロが母親にカウンセリングを薦めるのは妻エリサの意向で、世代の違う夫婦像も浮き彫りになる。

 

B: マリアの解放への決断は揺るぎない。行くと決めたら行く、そう決心してからのマリアの行動は素早く、何かを解き放つような生き生きとした表情に変化する。

A: ベロニカは母親の名前ファティマをカタカナで腕に刺青している。上手くいかない母親であっても愛している。名前からアラブ系の血が入っていることが暗示され、アルメリアとモハカのあいだの町から来たというが、主に住んでいたのはバルセロナやタラゴナだという。

B: 時代の変化に翻弄されながら渡り歩いている父親不在の母娘像が浮かび上がってくる。母親にも安住できる居場所はなかったのだ。

 

        砂漠と火山のアルメリアはかつてのマカロニ・ウエスタンの聖地

 

A: 舞台となったアルメリアは、現在では映画に見られるように閑散とした寂寥感の漂う場所だが、かつて1960年代はマカロニ・ウエスタンを撮影した<聖地>としてにぎわっていた。『荒野の用心棒』、正続『夕陽のガンマン』のような西部劇だけでなく、『アラビアのロレンス』の一部、『ドクトル・ジバゴ』、『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』など、トータルで400本も撮られたというから驚く。

B: もう一つの格安ハリウッドだった。西部劇にドンピシャの土地、安い労働力が魅力だった。一方、失業者で溢れていたフランコ政府にとって外貨の流入は願ったり叶ったり、官民一体となって推進した。

   

    

   (ダビ・マルティン・デ・ロス・サントス監督、撮影地カボ・デ・ガタの浜辺にて)

    

A: アルメリアで撮影技法を学んだスペイン監督も多く、アレックス・デ・ラ・イグレシアの『マカロニウエスタン800発の銃弾』は、かつての映画村の栄光に捧げられている。これには夫を演じたラモン・バレアも出演していた。

B: 地元に残って製塩所で働いていたベロニカの元カレは、機械化のせいで多くの住民が失業したとマリアに語る。最初はベロニカの死を秘密にしていたマリアも、彼が未だに彼女を想っていることが分かって、旅の目的を打ち明ける。

 

A: 母親ファティマの消息は生死も分からず切れたまま、誰にベロニカの遺灰を託したらいいのか。今でも想っていてくれるフアンの傍がふさわしい。ベルギーでゴミ箱に捨てられる運命だったベロニカの居場所は、ザクロの実がなるここしかない。

B: 海が見え、ヨーロッパ唯一の砂漠、起伏に富んだ自然に囲まれたアルメリア、こうしてマリアのミッションは終りに近づく。

 

           マリアの固定観念を壊す、よそ者ルカの魅力

 

A: この土地を愛するがゆえに儲けを度外視してバルを経営しているルカはよそ者の設定、元はトラック運転手だったが気に入って住みついた。フローリン・ピエルジクJr. 自身も1968年ブカレスト生れのルーマニア人、監督、ライター、俳優。名前から分かるように俳優フローリン・ピエルジクが父親、ルーマニア映画Killing Time11)を監督、俳優としてヒットマンを演じた。ほかにアメリカのアクション、ホラー映画に出演している。

 

B: 本作ではマリアを一人の女性として解放する偏見のない男性として描かれる。マリアのセクシュアリティを呼び起こす重要な役柄でした。

A: ベルギーでは能面のようだったマリアの表情が豊かになっていく。人間は幾つになっても輝けるということです。

 

   

    (ルカのバルで自分で料理したケーキを食べながら歓談するマリア)

   

   

          (マリアを女性として接するルカ、地中海の波がしらを眺める二人)

 

B: ホームドラマのように食べるシーンの多い作品でしたが、ルカがマリアと飲むコルヌネッチ、ベシナタ、ツイカなど、初めて耳にする飲み物が出てきた。

A: スペインでは聞きなれないアルコール類なので調べてみたら、コルヌネッチは分かりませんでしたが、ベシナタはチェリー、ツイカはプラムのアルコール度数の高い、ルーマニアのお酒でした。これでルカの生れ故郷が分かった。よそ者のルカも居場所を見つけられた。