作品賞ノミネーション監督が語る映画の現在と未来*ゴヤ賞2018 ⑦ ― 2018年02月01日 14:32
恒例のガラ直前の監督座談会
★ゴヤ賞授賞式1週間前の1月26日(金)、恒例になっている作品賞5作にノミネートされた監督のうち4名の座談会が、エル・パイス紙の編集室で催されました。監督賞ノミネーションは、マヌエル・マルティン=クエンカ(「El autor」)、アイトル・アレギ&ジョン・ガラーニョ(「Handia」)、イサベル・コイシェ(「La librería」)、パコ・プラサ(「Verónica」『エクリプス』)の5名、因みに新人監督賞は、カルラ・シモン(「Verano 1993」『夏、1993』)他、セルヒオ・G・サンチェス、ハビエル・カルボ&ハビエル・アンブロッシ、リノ・エスカランテの5名です。今年はマルティン=クエンカが「パブロ・イバル事件」のドキュメンタリーのためマイアミで撮影中で不参加、ジョン・ガラーニョも現在米国に滞在していて出席しておりません。「パブロ・イバル事件」については、いずれドキュメンタリー完成後に触れることになるでしょう。
(左から、イサベル・コイシェ、パコ・プラサ、カルラ・シモン、アイトル・アレギ)
★本座談会は前回アップしたガウディ賞発表前に行われたものです。ガウディ賞独り占めの感があったカルラ・シモンもゴヤ賞となると話は別です。今年はことのほかバルセロナとマドリードには深い溝ができているうえに、選挙権のあるメンバー数もガウディとゴヤでは比較になりませんし、マドリード派が断然多い。結構根回しも重要とか、「映画は面白かったが監督は嫌い」という会員もあるようです。
★最終候補に残った作品は、例年とはかなり違った印象を受けます。それは使用言語の多様性だけでなくホラー映画が選ばれたことも一つかもしれない。パコ・プラサの「Verónica」は、既に『エクリプス』の邦題で公開されているが、日本の観客にはB級ホラーと評価はイマイチでした。二人の女性監督が残ったことも異例、うちカルラ・シモンの『夏、1993』はデビュー作、監督自身のビオピックというのも珍しいことです。
「枠組みの変化はなかった」と出席者たち
★まず口火を切ったのは、他の監督より1回り2回り年長のベテラン監督イサベル・コイシェ(1960、バルセロナ)。「枠組みが変わったとは思いません。単に偶然の産物、これらの作品がここまで到達できたのは良い映画だからです。またこの古風な現代ホラーにも驚きました・・・」という発言にを受けて、パコ・プラサ(1973、バレンシア)「そうですね、枠組みの変化ではないですね。しかし現在のスペイン映画の多様性を反映したさまざまな変化があるように思われます。例えば以前だったらスリラーといえば、アントニオ・デ・ラ・トーレが演じた痛ましい男、怒りに満ちたルイス・トサールの3本の映画とか、ね。でも今回はカルラ・シモンの愛情のこもった物語、バスクの巨人の話、他にも火星で作られた「Abracadabra」、あるいは『ホーリー・キャンプ!』のようなミュージカル・・・今年は子供っぽいマッチョな男が出てくるスリラーは現れなかった。5作品のうち3作は女性が主役・・・多分これはより若い人々を取り込もうとするアカデミーの意図に基づくのではないか」。
*デ・ラ・トーレが演じた痛ましい男とは、2017年作品賞のラウル・アレバロの『物静かな男の復讐』でしょうか。トサールの3作とは具体的にどれを指すのか分かりませんが、2010年作品賞の『プリズン211』、『暴走車 ランナウェイ・カー』または『クリミナル・プラン』でしょうか。
★アイトル・アレギ(1977、ギプスコア)「私も枠組みの変化はないという意見です。来年は元に戻ると思います。時には今年のような不思議な調和が、それがどうしてか分からないが起きる・・・アカデミーのメンバーが真面目に投票してくれるかどうか、最後にならないと分からない・・・確かなのは若い会員たちのモチベーション次第です」と弱気、コイシェ監督から「もっと期待して」と慰められていました。
使用言語の多様性について
★カルラ・シモン(1986、バルセロナ)「アカデミーは年長者が組織しているので、若い人々の加入はとてもポジティブです。私はアカデミー会員ではないので、今年の投票はついていないでしょう。どうやって候補作を比較するんですか」。コイシェ監督が使用言語について、受賞作『あなたになら言える秘密のこと』を例にして「アカデミーは常に観客のことを先に考えている。製作者の観点からいえば、登場人物たちが話している言語はそんなに重要ではない。少なくとも私の場合は、無国籍です」
★「私たちの映画では、バスク語は強制的でした。農民たちは古いバスク語を話していたのです。それで愛とか皮肉についてのたとえ話を語るためにもことば遊びが必要だった」とアレギ監督。「最初のプランはスペイン語で撮ることでした。しかし上手くいかなかった。つまり私は子供の頃カタルーニャ語を喋っていたからです。それでカタルーニャ語に変更しました。登場人物たちもカタルーニャ特有の性格をもっていたからです。他に商業的な経過について言うと、最初6月にカタルーニャ語で公開しました。9月にはスペイン語版を作りました。字幕付きのコピーを拒絶する映画館が出たためでした」とシモン監督。これに対してアレギ監督は、バスク州以外でもマドリードやバルセロナでは、どちらかというとバスク語が受け入れられ、「映画ファンはスペイン語よりオリジナル言語で見たがった」と述べた。
★これは観客層の違いもあるでしょう。『夏、1993』は子供が主役で、小学生くらいだとまだ字幕は充分追えない。「Handia」は小学生の観客はまず想定外、そのうえバスク語はスペイン語、カタルーニャ語のどちらとも似ていないし、大方のスペイン人には外国語のようなものです。吹き替え版が主流だったスペインでもオリジナル版で観たい観客が増えており、それで反対の結果になったのだと思います。
★製作会社の思惑の違い、撮影日数の少なさ、キャスト選考の困難さなどが各自語られたが、それは映画を作るうえで避けられない。コイシェ監督によれば「新しい『ショコラ』のような映画を望んでいた海外の共同製作者とやり合ったが、私の映画はそれとは別ですよ」という。『ショコラ』(2000、ラッセ・ハルストレム)とは、ジュリエット・ビノシュが主役を演じてヨーロッパ映画賞主演女優賞を受賞した作品のこと。知らない土地でチョコレートのお店を開く女性の話です。
★シモン監督は女の子のキャスティングが決まらず、脇役を交えての撮影は6週間だけだったという。6週間あればそれは贅沢というもので、「私は5週間でした」とコイシェ監督。5~6週間は普通になっている。パコ・プラサ監督は、ベロニカ役に14歳の女の子起用を製作者が認めてくれ、「16歳以下は1週間に2日4時間しか使えない決りです。しかし製作者はこの効率の悪い条件を受け入れてくれた」と感謝していた。
(『エクリプス』撮影当時14歳だったベロニカ役のサンドラ・エスカセナ)
「女性が撮った映画のバランスの取れた品質の良さにびっくりさせられる」
★司会者から作今のセクハラの事例が次々に明るみに出されたことについて質問がとんだ。モンスター製作者ワインスタインに対するローズ・マッゴーワンやサルマ・ハエックの声明には賛同するが「ゴールデングローブ賞授賞式での黒装束強要はやりすぎ、私が好感したのは、ナタリー・ポートマンが『ここにお集まりの監督賞候補者全員が男性です』とスピーチしたときです」とコイシェ監督、どの業界にも言えることですが、映画界でもシネアストの性別が云々されない時代が来ることを願っているとも。シモン監督は「映画を作っている女性は少数派、とても男性が多数派です。だから声高に主張し続けねばならない」と。
★男性のパコ・プラサ「私はフェミニストに囲まれて暮らしています。私の一番の戒めは、女性の声を重視するなら我々男性は沈黙すべきで、実際そうしています。男性監督93%に対して女性は7%を決まり悪く思っています。クォータシステムはまだ幾つか問題があり、不公平だからです。じゃ現実が公平かというと<No>でしょ。仮に93%の女性が監督だとしたら、それはもう男性にとってはSFの世界です。スペイン映画がマッチョなのではなく、私たちは男性優位で女嫌いの社会に暮らしているということです」。ある女性監督のプロデューサーをしたときの個人的体験から多くを学んだこと、低い「パーセンテージにもかかわらず、女性が撮った映画のバランスの取れた品質の良さにびっくりさせられる。クォータシステムに問題があっても、勿論必要です」と語ったようです。
★「ある女性監督」とは女優・監督・脚本家、パートナーのレティシア・ドレラと推測します。本作にも出演しておりますが、マラガ映画祭2015で新人脚本賞を受賞した「Requisitos para ser una persona normal」で監督デビューした。そのときの共同エグゼクティブ・プロデューサーの一人がプラサ監督です。他にも彼女の短編をプロデュースしている。
受賞者は誰の手に?
★「私は怖がりやでパコの映画は観ていない。多分『夏、1993』か「La libreria」のどちらか」とアレギ監督、「すみません、どれも観ておりません」とシモン監督、「フォルケ賞の結果から『El autor』でしょ。私は12カテゴリーにノミネーションされたことで充分満足しています」とコイシェ監督。授賞式は間もなくの2月3日です。
★欠席のマヌエル・マルティン=クエンカ(1964、アルメリア)とは、スカイプでやり取りがあったようです。かなり若返りしたせいか「私は若いのかベテランなのか」と、気になるようでした。「たくさん撮ってるわけではないし、前進中だ。今年の4言語は異例だが素晴らしい。これが一時的なものに終わらないことを願っている」。映画界のみならず社会全体の男女平等の機運については「格差を是正するためにずっと闘っている。クォータシステムについては全面的に支持するが・・・社会の意識化のプロセスにかかっている。アメリカからの波が届いたとき、問題をもっと掘り下げるべきだった。私たちの両親の世代も闘っているが、それはすべての人間が平等でないからです。本質と行程を示すこと、感情的なメディア・リンチは社会変革から切り離すべきです」が、つまみ訳です。
★管理人が一番驚いたのは、カルラ・シモンがノミネーションされた他作品をどれも観ていなかったこと、スペイン映画アカデミー会員でなかったことでした。会員でなくても候補者にはなれるわけです。投票権は会員だけ、それに会費を滞らせていると貰えないと聞いている。フォルケ賞は「El autor」と「La libreria」の2作、フェロス賞は『夏、1993』と結果は分かれました。ガウディ賞はあまり参考になりません。
ゴヤ賞ガラ直前のあれやこれや*ゴヤ賞2018 ⑧ ― 2018年02月03日 21:05
ペネロペ・クルスに「セザール賞栄誉賞」とは!
★ゴヤ賞ガラに出席するため戻っていたマドリードの自宅の電話で知らされたという。前もってバルデム=クルス夫妻の不参加が伝えられていたのですが変更したようです。今回で10回目のノミネーション、受賞の可能性はゼロではないが下馬評の点数は低い。今年3度目の風邪をひいていたということですが、「セザール賞栄誉賞」のビッグ・ニュースで吹き飛んだことでしょう。2月3日のガラには予定通り出席ということです。フェルナンド・レオン・デ・アラノアの「Loving Pablo」(西・ブルガリア)で夫婦揃って主演男優・女優にノミネートされています。久しぶりのスペイン人監督と母語で、コロンビアの麻薬王ペドロ・エスコバルのビオピックを撮るという触れ込みでしたが、出来上がってみれば英語なのでした。どうしてなのか理由は想像できますが、スペイン人の賛同は得られない。
(ベネチア映画祭2017に出席したときのペネロペ・クルス、9月6日)
★フランスの「セザール賞」については説明不要と思いますが、この「栄誉または名誉賞」は「ゴヤ賞栄誉賞」と異なってインターナショナルな人選です。一応フランス映画に寄与したシネアストが対象でしたが現在はなし崩しになっています。初期こそフランス人が目立ちましたが、最近では外国勢、特にハリウッドで活躍するシネアストに与えられる傾向があります。フランス人の現役俳優では男優賞・女優賞にノミネートされるから栄誉賞は後回しにしているのかもしれない。受賞者によっては「なんだ、もう引退しろということか」とすねる人もいるらしい。
★女優に限るとダニエル・ダリュー、アヌーク・エーメ、ジャンヌ・モロー(2回)などは晩年になってから受賞しています。銀幕で活躍中のカトリーヌ・ドヌーヴ、イザベル・アジャーニ、イザベル・ユペール、ジュリエット・ビノシュは、まだ手にしていません。それに対して海外勢は、シャーロット・ランプリング、メリル・ストリープ、若いところではケイト・ウィンスレット、2014年の受賞者にいたっては30歳にもなっていないスカーレット・ヨハンソン(1984)だった。
★43歳の受賞者ペネロペ・クルス(1974、マドリード近郊アルコベンダス)は、スペイン人の受賞者としてはペドロ・アルモドバル(1999年受賞)に次いで2人目です。ハリウッドでの成功と活躍が長かったせいか、妬み深い同胞からは「PPってスペイン人だったのね?」と嫌味を言われたりしたが、正真正銘のスペイン人なのでした(笑)。「とても驚いていますが、やはり嬉しいです。少し心配なのは受賞スピーチを書かなければならないこと。楽しんでもらえるよう準備したい。予想もしないことでしたが、自身にとっても家族にとっても、大いに夢がかなったということです。・・・15歳のときにこの世界に入り多くの経験を積み重ねながら、どうやって生きてきたか。これからも学びながら夢を追い続けます」と、エル・パイス紙のインタビューに答えていました。43歳とは言え、既に30年近いキャリアの持ち主なのでした。長編映画デビューは今は亡きビガス・ルナの『ハモンハモン』(92)でした。
★小さい子供が2人いるから25歳とか30歳のときのように仕事はできない。撮影、撮影の連続でセット暮らしが多い。家族と過ごせるように配慮してもらいながらバランスをとって仕事をしている。ブレーキをかけて、からだの声を聞きながらです。イランのアスガー・ファルハーディ監督の新作「Todos lo saben」(「Everybody Knows」西語・英語、2018年スペイン公開の予定)では撮影に4ヵ月かかりましたが、家族とは離れずにすみました。いつも仲間とは一緒で、自身もコマーシャルに出演しているランコムの化粧品も手放さないとか。自分にとって母親としての役割はとても重要だときっぱり。
(リカルド・ダリン、監督、ペネロペ・クルス、ハビエル・バルデム、「Todos lo saben」)
★ゴヤ賞の候補に選ばれたことはとても幸運だったこと、つまりどれが選ばれるかは宝くじみたいなものだから。勿論受賞したら嬉しいが、一緒に仕事をした仲間の努力が反映されたと思って、今回は泣きました。しかしスペインでは「Loving Pablo」は未公開、DVDも届かず、投票のためのネット配信もできてない。アカデミー会員の方々には是非観てほしいと思っています。主演女優賞の予測を訊かれて「みんな望んでいるわよ。でも今回は無理かなと思っている。全員貰っていい仕事をしたわけで、具体的に名前を挙げるのは差し控えたい」と。インタビュー者は「ナタリエ・ポサはどう?」と訊いていたが、いくらエル・パイス紙のベテラン批評家でも失礼な質問だよ。
(パブロ役のハビエル・バルデム、愛人役のペネロペ・クルス、「Loving Pablo」)
★社会現象になっているセクハラ糾弾運動「Time's Up」については、賛同して寄付したと答えていた。現在のところ世界で1700万ドルが集まったという。ちょっと行きすぎかなと思われる告発も気になるが、今まで沈黙していたことが異常だったわけです。
★次回作も決まっていて、資金は準備できており、今年の夏にはクランクインするようです。新しい映画は、トッド・ソロンズの「Love Child」(米、英語)、ブロードウェイのスターに憧れる自分勝手な男ナチョは父親を殺すことを画策している。彼を溺愛している母親と関係がある。ナチョにエドガー・ラミレス、クルスは母親を演ずる。ソロンズの過去の作品同様タブー視されるテーマを扱っているようだ。IMDbではコメディ・ドラマとあり、目下捉えどころがない。
★ノミネートされた作品の興行成績のトップは、新人監督賞候補者セルヒオ・G・サンチェスの「El secreto de Marrowbone」、2位パコ・プラサ『エクリプス』、3位ハビエル・カルボ&ハビエル・アンブロッシ『ホーリー・キャンプ!』、イサベル・コイシェ「La libreria」、カルラ・シモン『夏、1993』、マヌエル・マルティン=クエンカ「El autor」、最多ノミネーションの「Handia」と続きます・・・。
(「El secreto de Marrowbone」撮影中のセルヒオ・G・サンチェス監督)
★授賞式は現地時間3日22:00スタートですが、RTVEでは19:00から、出席者の赤絨毯登場は20:25から見られます。日本との時差は8時間、こちらは寝ている時間帯です。
(巨大ゴヤ胸像を挟んで司会者のホアキン・レイェスとエルネスト・セビーリャ)
第32回ゴヤ賞結果発表*ゴヤ賞2018 ⑨ ― 2018年02月04日 23:27
フェミニズムの夕べ、パンドラの箱が空きました!
(スペイン映画アカデミーの代表者)
★2月3日22:00、マドリードのマリオット・オーディトリアム・ホテルで開催、約4時間近い長丁場でした。第32回ゴヤ賞授賞式は初めてスペイン映画アカデミー会長不在で開催され、世界のフェミニズムの流れにそって、映画産業界の平等の欠如に警鐘を鳴らす授賞式になりました。「もっと女性にチャンス」という赤い扇子1800本が用意され出席者に配布されました。勿論断るのも自由ということですね。黒が目立つようですが、濃いブルーが写真では黒に見えるのでゴールデングローブ賞のような強制はなかった。ベストドレッサーNo1に選ばれたペネロペ・クルスは白、いつも通りベルサーチでした。レオノール・ワトリングはエレガントな朱色のドレス、ベレン・ルエダはあでやかな紫紅色のドレスでした。
(栄誉賞のマリサ・パレデス)
★総合司会者は3年連続のダニ・ロビラから、スペイン南東部アルバセテ出身のホアキン・レイェスとエルネスト・セビーリャという二人の喜劇俳優にバトンタッチ、評判のほどはどうだったのでしょうか。ガラあれこれは次回に回すとして取りあえず受賞結果をアップしておきます。主演男優・女優賞のように予想通りの受賞と、「La librería」の作品賞受賞のように外れが混在したのも、例年通りでした。それにしても「Handia」のノミネーション13個のうち受賞が10個には驚きました。興行成績はノミネーション作品では下位でした。
(総合司会者のホアキン・レイェスとエルネスト・セビーリャ)
★ゴヤ賞2018の受賞結果は以下の通りです。(ゴチック体は当ブログ紹介作品)
◎作品賞
「El autor」 ノミネーション9個(受賞2個)
「Verano 1993」(『夏、1993』) 同8個(3個)
「Handia」 同13個(10個)
◎「La librería」 同12個(3個)
「Verónica」『エクリプス』 同7個(1個)
(プレゼンターは、カルロス・サウラとペネロペ・クルス)
◎監督賞
マヌエル・マルティン・クエンカ 「El autor」
アイトル・アレギ&ジョン・ガラーニョ 「Handia」
◎イサベル・コイシェ 「La librería」
パコ・プラサ 「Verónica」
(プレゼンターは、フアン・アントニオ・バヨナとグラシア・ケレヘタ)
◎新人監督賞
セルヒオ・G・サンチェス 「El secreto de Marrowbone」
◎カルラ・シモン「Verano 1993」『夏、1993』
ハビエル・カルボ&ハビエル・アンブロッシ 「La llamada」『ホーリー・キャンプ!』
リノ・エスカランテ 「No sé decir adiós」
(赤い扇子を広げて感激のカルラ・シモン)
◎オリジナル脚本賞
パブロ・ベルヘル 「Abracadabra」監督パブロ・ベルヘル
カルラ・シモン 「Verano 1993」
◎アイトル・アレギ、ジョン・ガラーニョ、ホセ・マリ・ゴエナガ、アンドニ・デ・カルロス「Handia」
フェルナンド・ナバロ&パコ・プラサ 『エクリプス』
(トロフィーを手にしているのがジョン・ガラーニョ)
(ホセ・マリ・ゴエナガとアンドニ・デ・カルロス)
◎脚色賞
ハビエル・セルカス、アレハンドロ・エルナンデス、マヌエル・マルティン=クエンカ 「El autor」
コラル・クルス、ジョアン・サレス、アグスティ・ビラリョンガ 「Incerta gloria」
◎イサベル・コイシェ 「La librería」
ハビエル・カルボ&ハビエル・アンブロッシ 「La llamada」『ホーリー・キャンプ!』
◎オリジナル作曲賞
◎パスカル・ゲーニュ 「Handia」
アルベルト・イグレシアス 「La cordillera」『サミット』監督サンティアゴ・ミトレ
アルフォンソ・デ・ビラリョンガ 「La librería」
カルロス・アルガラ&トマス・ネポムセノ 『エクリプス』
(フェロス賞に続いての受賞)
◎オリジナル歌曲賞
「Algunas veces」ホセ・ルイス・ペラレス 「El autor」
「Feeling lonely on the Sunday aftermoon」アルフォンソ・デ・ビラリョンガ 「La librería」
◎「La llamada」Leiva(ホセ・ミゲル・コホネス) 「La llamada」『ホーリー・キャンプ!』
「Rap zona hostil」ロケ・バニョス「Zona hostil」 監督アドルフォ・マルティネス・ペレス
(ホセ・ミゲル・コホネス Leiva)
◎主演男優賞
アントニオ・デ・ラ・トーレ 「Abracadabra」
◎ハビエル・グティエレス 「El autor」
ハビエル・バルデム 「Loving Pablo」監督フェルナンド・レオン・デ・アラノア
アンドレス・ヘルトルディス 「Morir」監督フェルナンド・フランコ
(フォルケ賞、フェロス賞も受賞、『マーシュランド』に続いて2個目をゲット)
◎主演女優賞
マリベル・ベルドゥ 「Abracadabra」
エミリー・モーティマー 「La librería」
ペネロペ・クルス 「Loving Pablo」
◎ナタリエ・ポサ 「No sé decir adiós」
(フォルケ賞、フェロス賞も受賞、初めてのゴヤ賞主演女優賞、プレゼンターは
ホセ・サクリスタンとルイス・トサールでした)
◎助演男優賞
ホセ・モタ 「Abracadabra」
アントニオ・デ・ラ・トーレ 「El autor」
◎ダビ・ベルダゲル 「Verano 1993」
ビル・ナイ 「La librería」
◎助演女優賞
◎アデルファ・カルボ 「El autor」
アンナ・カスティーリョ 「La llamada」『ホーリー・キャンプ!』
ベレン・クエスタ 「La llamada」『ホーリー・キャンプ!』
ロラ・ドゥエニャス 「No sé decir adiós」
(フェロス賞に続いての受賞、ゴヤ賞は初めて)
◎新人男優賞
ポル・モネン 「Amar」 監督エステバン・ガルシア
◎エネコ・サガルドイ 「Handia」
エロイ・コスタ 「Pieles」『スキン あなたに触らせて』
サンティアゴ・アルベル 「Serfi」 監督ビクトル・ガルシア・レオン
◎新人女優賞
アドリアナ・パス 「El autor」
◎ブルナ・クシ 「Verano 1993」
イツィアル・カストロ 「Pieles」『スキン あなたに触らせて』監督エドゥアルド・カサノバ
サンドラ・エスカセナ 『エクリプス』
(ガウディ賞に続いての受賞)
◎プロダクション賞
ミレイア・グラエル・ビバンコス 「Verano 1993」
◎アンデル・システィアガ 「Handia」
アレックス・ボイド&ジョルディ・べレンゲル 「La librería」
ルイス・フェルナンデス・ラゴ 「Oro」 監督アグスティン・ディアス・ヤネス
◎撮影賞
サンティアゴ・ラカRacaj 「Verano 1993」
◎ハビエル・アギーレ・エラウソ 「Handia」
ジャン・クロード・ラリュー 「La librería」
パコ・フェルナンデス 「Oro」
◎編集賞
ダビ・Gallart 「Abracadabra」
アナ・Pfaff プファフ& Didac Palou 「Verano 1993」
◎ Laurent Dufreche &ラウル・ロペス 「Handia」
ベルナ・アラゴネス 「La librería」
◎美術賞(アートディレクター)
アライン・バイネー 「Abracadabra」
◎ミケル・セラーノ 「Handia」
リョレンス・ミケル 「La librería」
ハビエル・フェルナンデス 「Oro」
(『フラワーズ』も手掛けたアートディレクター)
◎衣装デザイン賞
パコ・デルガド 「Abracadabra」
◎サイオア・ララ 「Handia」
メルセ・パロマ 「La librería」
タティアナ・エルナンデス 「Oro」
(『フラワーズ』の衣装も手掛けたビルバオ生れのデザイナー)
◎メイクアップ&ヘアー賞
シルビエ・インベルト&パコ・ロドリゲス 「Abracadabra」
◎アイノア・エスキサベル、オルガ・クルス、ゴルカ・アギーレ 「Handia」
エリ・アダネス、セルヒオ・ぺレス・ベルナル、ペドロ・デ・ディエゴ 「Oro」
ロラ・ゴメス、ヘスス・ジル、オスカル・デル・モンテ 「Pieles」『スキンあなたに触らせて』
(ゴルカ・アギーレ、アイノア・エスキサベル、オルガ・クルス)
◎録音賞
ダニエル・デ・サヤス、ペラヨ・グティエレス、アルベルト・オベヘロ 「El autor」
セルヒオ・ブルマン、ダビ・ロドリゲス、ニコラス・デ・ポウルピケ 「El bar」
『クローズド・バル 街角の狙撃手と8人の標的』監督アレックス・デ・ラ・イグレシア
イニャーキ・ディエス&サンティ・サルバドル 「Handia」
◎アイトル・ベレンゲル、ガブリエル・グティエレス、ニコラス・デ・ポウルピケ
『エクリプス』
(録音賞1個で終わった『エクリプス』)
◎特殊効果賞
◎ジョン・セラーノ、ダビ・エラス 「Handia」
レイェス・アバデス&イシドロ・ヒメネス 「Oro」
ラウル・ロマニリョス&ダビ・エラス 「Verónica」
レイェス・アバデス&クーロ・ムニョス 「Zona hostil」
◎ドキュメンタリー賞
「Cantábrico」 監督ジョアキン・グティエレス・アチャ
「Dancing Beethoven」 同アランチャ・アギーレ
◎「Muchos hijos, un mono y castillo」 同グスタボ・サルメロン
「Saura(s)」 同フェリックス・ビスカレット
(フォルケ賞に続いての受賞、親孝行できた監督と母親フリータ、フリア・サルメロン)
◎イベロアメリカ映画賞
「Amazona」(ドキュメンタリー)コロンビア、監督Clare Weiskopt & Nicolas van Hemelryck)
「Tempestad」(ドキュメンタリー)メキシコ、同タティアナ・ウエソ
◎「Una mujer fantástica」(『ナチュラルウーマン』)チリ、同セバスティアン・レリオ
「Zama」(『サマ』)アルゼンチン、同ルクレシア・マルテル
*フォルケ賞に続いて予想通りの受賞、自信をもってチリからやってきました。
(ヒロインのダニエラ・ベガと監督)
★以下は受賞作だけのアップです。
◎ヨーロッパ映画賞
◎『ザ・スクエア 思いやりの聖域』監督リューベン・オストルンド(スウェーデン・独仏ほか)
◎アニメーション賞
◎「Tadeo Jones 2. El secreto del Rey Midas」監督エンリケ・ガト&ダビ・アロンソ
◎短編アニメーション
◎「Woody and Woody」 監督ジャウマ・カリオ
(中央がカリオ監督、スタッフ)
◎短編映画賞
◎「Madre」 監督ロドリゴ・ソロゴジェン
(フォルケ賞に続いて下馬評通りの受賞)
◎短編ドキュメンタリー
◎「Los desheredados」 監督ラウラ・フェレス
(父親と一緒のラウラ・フェレス)
トロフィーを母親に捧げたコイシェ監督*ゴヤ賞2018 ⑩ ― 2018年02月08日 12:55
母親たちに感謝の言葉が捧げられたゴヤ賞の夕べ
★2月3日の午後10時から翌日の午前2時近くに及ぶ受賞式、大騒ぎに飽きて途中で寝てしまった人も多かったでしょうか。視聴率はここ数年の最低ラインの19.9%、ダニ・ロビラが司会した前3回は23.1%、25.8%、24.7%と平均すれば24%を超えていたから、かなりの落ち込みといえます。司会者の力量だけでなくノミネートされた作品にもよるから一概に比較できないのは当然です。ネットの書き込みも批判が目立ったようです。かつて自らも受けた攻撃でくさっていたダニ・ロビラが「気にするほどのことはないよ」とツイートしていた。人の口には戸を立てられないからね。
(スペイン映画アカデミー副会長、マリアノ・バロッソとノラ・ナバス)
★スペイン映画アカデミー会長空席で開催された第32回は、副会長の脚本家マリアノ・バロッソと女優のノラ・ナバスが取り仕切った。「もっと女性にチャンスを」と書かれた赤い扇子の波にうんざりした人も中にはいたはずです。個人的には現在のままでいいとは全く考えていないので、クオーター制の促進に反対ではありませんが、急ごしらえの硬直した制度には疑問をもたざるを得ません。何はともあれ一歩踏み出したことを祝福したい。しかし改革は「賢く緩やかに」、なぜなら急激な意識改革は成功しないからです。
(真っ赤な扇子には「もっと女性にチャンスを」と書かれている)
★作品賞の予想は個人的には外れました。脚色賞はありかなと予想していましたが、まさかイサベル・コイシェの英語映画「La librería」(原題「The Bookshop」)が受賞するとは思いませんでした。興行成績の順位はパコ・プラサのホラー『エクリプス』に次ぐ2位だったのでしたが。作品賞と監督賞は連動しているから受賞は当然として、結果本作は大賞3個をゲットしました。これで監督自身のゴヤ賞は『あなたになら言える秘密のこと』に次ぐ2個目の監督賞、同作と『死ぬまでにしたい10のこと』を合わせて3個目の脚本賞、ドキュメンタリー賞2個、合計7個となりました。
(大賞3個を受賞した「La librería」の多過ぎるプロデューサー)
★壇上にはイギリスからマドリード入りした、主演女優賞ノミネートのエミリー・モーティマーと助演男優賞ノミネートのビル・ナイの姿もありました。二人とも受賞は叶いませんでしたが、作品賞受賞には二人の好演、特にモーティマーの繊細ななかにも意志の強さを秘めた気品のある演技が無視できなかった。詳細は分かりませんが、2018年に劇場公開が決定しているようです。
(ベスト・ドレッサーだったエミリー・モーティマー)
★スペインでは、母親への感謝が述べられるのが仕来り化しているスピーチも、栄誉賞以外は祖父母、子供、兄弟などは時間が掛かりすぎるとストップがかかるとか。監督のスピーチは「母親にお礼を言いたい、なぜかと言うと私は子供だったとき、家のことはほっぽり出してサボってばかりいた。それで父親に叱られてばかりいたのだが、母親が『本を読んでいるんだから、そのうち役に立つこともあるわよ』と取りなしてくれた」と。庇ってくれた母親ビクトリア・カスティーリョも会場にいたのでした。両親は本好きな子供だったイサベルに単行本だけでなく漫画雑誌も買ってくれた。さらに父親も母親も父方の祖母もシネマニアで、よくディズニーの映画を観に連れて行ってくれた。「最初の映画は『ピノキオ』で、ピノキオがクジラに飲み込まれると娘は泣きだして、私たちは映画館を出なければならなかったのよ」と母親。繊細な少女だったのだ。いわば映画に行くことはコイシェ一家のホビーだったわけです。
(受賞スピーチをするコイシェ監督)
★84歳になる母親はサラマンカ出身、仕事のためにバルセロナに移住、FECSAというカタルーニャの電力会社で働いていた父親フアン・コイシェと結婚した。つまり「私の両親は文化の重要性を信じていた労働者階級の人でした」。風変わりではあったが「娘はけっして問題児ではなく、知識欲が旺盛だっただけ」と母親。初聖体のプレゼントは、スーパー8ミリのカメラ、プレゼントとしては高価だったと思うが、シネマニア一家のコイシェ家らしい贈り物でした。
(2個のトロフィーを手にした監督の母親ビクトリア・カスティーリョ)
★コイシェ監督の次回作は、「Elisa y Marcela」、1901年に結婚したスペイン最初のレスビアン夫婦の多難な人生が語られる。ガリシア出身のエリサ・サンチェス(マリオ・サンチェスとして)とマルセラ・ガルシアは共に教師同士、教区の主任司祭から拒絶されたのでイギリスで結婚した。ナルシソ・デ・ガブリエルの『Elisa y Marcela, Más allá de los hombres』(2010刊)の映画化のようです。キャストもナタリア・デ・モリナとマリア・バルベルデに決定、5月にガリシアとバルセロナでクランクインする。ネットフリックスです。
女性に光が当たった授賞式*ゴヤ賞2018 ⑪ ― 2018年02月10日 17:57
「すべての母親たちに、すべての女性たちに」に捧げる
★前回はイサベル・コイシェ監督の「母親への感謝のスピーチ」について述べたが、今年は母親を語った受賞者が多かったようです。例えば新人監督賞を受賞したカルラ・シモン(『夏、1993』)も、6歳のときエイズで亡くなった両親の思い出を語った。両親亡き後、叔父の家族と暮らすことになった映画の主人公フリーダが監督自身だった。カタルーニャ語で少女の揺れ動く心を繊細に描いた映画は、地味ながら子供から大人まで多くのスペイン人の心を掴んだ。ラテンビート2017での上映がアナウンスされながら土壇場でキャンセルになった(邦題はそのときのものだが、公開はどうなっているのだろうか)。
(カルラ・シモン)
★「Madre」(「Mother」)というそのものずばりのタイトルをつけたたロドリゴ・ソロゴジェンの最新作は、下馬評通り短編映画賞を受賞した。国内外の短編賞を立て続けに受賞、最後のゴヤ賞まで独走してきた。我が子誘拐の悪夢をテーマにした「Madre」企画のきっかけは、「母親から掛かってきた1本の電話だった」と会場の母親に語りかけた。コイシェ監督の母親同様、ソロゴジェンの母親も出席していたのでした。父親とフランスに遊びに出かけていたはずの6歳の息子から突然電話がかかってくる。「ぼく一人で海岸にいるの」と。こうして1本の電話から穏やかな日常が悪夢化する。
(トロフィーを手に母親に感謝の言葉をかけるソロゴジェン監督)
★「ゴヤ賞のガラはフリータが君臨した」と、その誰も予測できないようなユーモア、比類のない上品さ、いささか規格外れのシュールさで、会場を沸かせ、魅了した。フリータとは、「Muchos hijos, un mono y un castillo」で長編ドキュメンタリー賞を受賞したグスタボ・サルメロンの母親フリア・サルメロンのことである。この作品については受賞を確信して既にアップ済みであるが、ドキュメンタリーとはいえ、フリータの演技の部分も混じっているのだろうが、まさに「スター誕生」の感がある。
(ドキュメンタリー「Muchos hijos, un mono y un castillo」から)
★サルメロン監督「私がここに立っていられるのはあなたのお蔭、このトロフィーをすべての母親たちに捧げます」と、すかさずマイクを母親の手に。「何を言えばいいかしら、ごめんなさい、アントニオ、あなたの次にもっとも素敵な男性はハビエル・バルデムよ」と会場の夫に告白する。アントニオとは夫君アントニオ・ガルシアのこと。これにはバルデム=クルス夫妻ともども大爆笑。夫妻の後列に監督のパートナーで本作の編集者でもあるベアトリス・モンタニェスと座っていた夫君も苦笑い。やはり「これはあなたのものよ」とトロフィーを息子グスタボに返していた。
(母親フリータのスピーチを見守るサルメロン監督)
★このカリスマ的な妻を忍耐強く長年支えてきた夫こそ殊勲者でしょう。たくさんの子供に恵まれること、1匹のサルを飼うこと、そしてお城に住むことがフリータの願いだった。リーマンショックの負債で一時は手に入れた城を手放した。「最後の夢は叶わなかったけれど」、それ以上の幸福を味わったはずです。82歳になるというフリータ、スペイン内戦を体験し、40年の長きフランコ体制、民主主義移行期、そして現在まで激動のスペインを肩の力をぬいて生きてきた。他人を傷つけずに生きられることを実践してきたスペインの母親に光が当たった夕べでした。
*「Muchos hijos, un mono y un castillo」の紹介記事は、コチラ⇒2018年1月13日
(欠席が噂されていたバルデム、ベスト・ドレッサーNo1に選ばれたクルス)
★他に今宵、圧巻の貫禄を示したスターの一人が、歌手・女優・バラエティショーのスター、ペパ・チャロ(1970マドリード)、どちらかというとラ・テレモト・デ・アルコルコンのほうが有名か。フェミニストとして女性の権利獲得に尽力しているアーティスト。「私はペパ・チャロ、女性です。そう思われていると信じてるが、一応はっきりさせておく。私の声は男性の声よりほんの少し高く聞こえる・・・」で始まったスピーチは、女性シネアストに対する映画界にはびこる不平等を具体的な数字を上げて告発した。リングでは決してタオルを投げない女性の迫力を見せつけた。
(スピーチするペパ・チャロ「ラ・テレモト・デ・アルコルコン」の貫禄)
★まだ全部見ているわけではないが、個人的に素晴らしく感じたのはレオノール・ワトリング、最優秀歌曲賞のプレゼンターを務めた。受賞作は『ホーリー・キャンプ!』の中で歌われたLeivaの「La llamada」だったが、4候補作を歌手としても活躍しているレオノール自身が歌って紹介した。ステラ・マッカートニーがデザインしたエレガントな朱色のドレスで赤絨毯に現れたが、ここではステージ用の黒のドレスに着替えていた。ステラ・マッカートニーの父親がポール・マッカートニーということで、顧客にはミュージシャンのセレブが目立つ。今回はノミネーションなしの授賞式だったが、来年は女優候補者として戻ってきて欲しい。
*『ホーリー・キャンプ!』の紹介記事は、コチラ⇒2017年10月7日
(ノミネーション曲を歌いながら紹介するレオノール・ワトリング)
(朱色のドレスでレッドカーペットを踏んだレオノール)
★観客を魅了したアレックス・デ・ラ・イグレシアのブラック・コメディ「Perfectos desconocidos」がノミネーション0個と、不可解な選考に個人的には不満が残ります。1万ユーロで撮ったというビクトル・ガルシア・レオンのコメディ「Selfie」も、サンティアゴ・アルベルが新人男優賞にノミネートされただけでした。
*「Perfectos desconocidos」の紹介記事は、コチラ⇒2017年12月17日
*レッドカーペットに現れたベストドレッサーたち*
(ゴヤ賞栄誉賞受賞のマリサ・パレデス、デザインはシビラ)
(マリンブルーのドレスのマリベル・ベルドゥ、デザインはディオール)
(紫紅色のドレスのベレン・ルエダ、デザインはカロリナ・エレーナ)
(助演女優賞ノミネートのベレン・クエスタ、デザインはペドロ・デル・イエーロ)
(若手で評判のよかったマカレナ・ガルシア)
(清楚なサンドラ・エスカセナ、『エクリプス』のヒロイン)
(ハイヒールを履いたエドゥアルド・カサノバ、『スキンあなたに触らせて』の監督)
(ハビエル・カルボ&ハビエル・アンブロッシ、『ホーリー・キャンプ!』の監督)
★好みは人それぞれですが、黒一色でなかったのを幸いといたしましょう。これをもってゴヤ賞2018はお開きといたします。
『ナチュラルウーマン』 ほか、お薦め公開作品 ― 2018年02月12日 18:09
フェルナンド・レオン・デ・アラノア『ロープ 戦場の生命線』が公開
★フェルナンド・レオン・デ・アラノア「A Perfect Day」(「Un dia perfecto」2015)が『ロープ 戦場の生命線』という邦題で既に劇場公開されています。主な言語は英語ですがゴヤ賞2016の最優秀脚色賞を受賞した作品です。パウラ・ファリアスの小説 ”Dejarse llover”(仮訳「雨は降ったままで」)の映画化です。オリジナル・タイトルの“A perfect Day” は、1995年のボスニア紛争中に作られたブルックリン出身のルー・リード(1942~2013)の歌詞から採られているそうです。監督の最新作「Loving Pablo」に出演したハビエル・バルデムとペネロペ・クルスの二人は、ゴヤ賞2018の主演男優・女優賞にノミネートされました。こちらも英語映画ですから公開されるでしょうか。
★カンヌ映画祭と併催される「監督週間」でワールド・プレミアされた折りと、ゴヤ賞2016でノミネートされたときに作品紹介をしております。1995年、停戦直後のバルカン半島の紛争地が舞台、国際支援活動家 5人の動機もさまざまです。モラトリアムの冴えない中年男ティム・ロビンス、もう嫌気がさしているベニチオ・デル・トロ、デル・トロの元カノオルガ・キュリレンコ、住民の役に立ちたいメラニー・ティエリー、早く終わりにしたいフェジャ・ストゥカンと、キャスト陣も個性豊かです。放り込まれた死体で飲めなくなった井戸と1本のロープをめぐって奔走する。目立ちたがり屋だが当てにできない国連職員をからませて、可笑しくても笑えない戦争コメディドラマ。
*「A Perfect Day」の作品紹介・監督キャリアの記事は、コチラ⇒2016年1月14日
(死体が投げ込まれている井戸を覗く5人の活動家)
◎公開2018年2月10日、新宿武蔵野館、渋谷シネパレス、他。
ゴヤ賞2018イベロアメリカ映画賞受賞の『ナチュラルウーマン』
★これから公開が予定されている映画がセバスチャン・レリオの『ナチュラルウーマン』、自身トランスジェンダーのダニエラ・ベガがヒロインのマリナ・ビダルを演じる。既に詳細な公式サイトも立ち上がっております。3月4日に結果発表のあるアカデミー賞外国語映画賞5作品に踏みとどまることができました。チリとしてはパブロ・ララインの『No』以来です。受賞すれば初めてとなります。製作会社はラライン兄弟の「Fabula」が中心、『No』のときの経験を生かしてプロモーションに力を入れていることでしょうが、対抗馬には『ザ・スクエア 思いやりの聖域』など話題作が顔を揃えています。当ブログでは原題の「Una mujer fantástica」でご紹介しています。
(ダニエラ・ベガ、映画から)
★監督とベガはゴヤ賞のガラ(2月3日)に出席してトロフィーを受け取ったばかりですが、2月5日に行われたアカデミー賞の候補者招待昼食会にも姿を見せていました。実話を元にしたスピールバーグの『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』に出演、主演女優賞ノミネートのメリル・ストリープと歓談しているフォトなども配信されていました。今年はフェミニズムが脚光を浴びているから、もしかしたら・・・期待したい。
*『ナチュラルウーマン』(「Una mujer fantástica」)の主な記事は、コチラ⇒2017年1月26日
(ダニエラ・ベガとレリオ監督、2月3日のゴヤ賞ガラにて)
◎公開2018年2月24日、シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、恵比寿ガーデンシネマ、順次全国ロードショー。
*映画新情報*
★ルクレシア・マルテルの『サマ』が、ロッテルダム映画祭2018(1月24日~2月4日)の優れたオランダとの共同製作作品に贈られるKNF 賞を受賞しました。ベネチア映画祭2017でワールドプレミアして以来、出品した国際映画祭は多数に上りますが、審査員の意見が割れるのか、なかなか受賞には結びつかないようです。
★ゴヤ賞助演女優賞にノミネートされ、授賞式には出席するとアナウンスされながら、次回作撮影のためパスしたロラ・ドゥエニャスですが、次回作のアウトラインが見えてきました。短編作家として活躍しているセリア・リコ・クラベリーノの長編デビュー作「Viaje alrededor del cuarto de una madre」です。同じゴヤ賞助演女優賞にノミネートされたアンナ・カスティーリョと母娘を演じる。他の共演者は助演女優賞受賞のアデルファ・カルボ、ペドロ・カサブランクなど実力者が脇を固めています。
(左から、アンナ・カスティーリョ、監督、ロラ・ドゥエニャス)
初めてパラグアイ映画が金熊賞を競う*ベルリン映画祭2018 ① ― 2018年02月16日 16:16
マルセロ・マルティネシの長編第1作「Las herederas」がノミネーション
★第68回ベルリナーレ2018(2月15日から25日)のコンペティション部門に、初めてパラグアイからマルセロ・マルティネシの「Las herederas」がノミネートされました。コンペティション部門は19作、スペイン語映画はパラグアイの本作と、メキシコのアロンソ・ルイスパラシオスの「Museo」の2作品です。次回アップいたしますが、モノクロで撮ったデビュー作『グエロス』(14)はパノラマ部門で初監督作品賞を受賞しています。「Las herederas」は、パラグアイの首都アスンシオンに暮らす上流階級出身の60代の二人の女性が主人公です。金熊賞以外の国際映画批評家連盟賞、初監督作品賞、テディ賞などの対象作品のようです。コンペティション以外のパノラマ、フォーラム各部門にスペインやアルゼンチンからも何作か気になる作品が選ばれています。
「Las herederas」(「The Heiresses」)
製作:La Babosa Cine(パラグアイ)/ Pandara Films(独)/ Mutante Cine(ウルグアイ)/
Esquina Filmes(ブラジル)/ Norksfilm(ノルウェー)/ La Fábrica Nocturna(仏)
監督・脚本・製作者:マルセロ・マルティネシ
撮影:ルイス・アルマンド・アルテアガ
編集:フェルナンド・エプスタイン
プロダクション・デザイン:カルロス・スパトゥッザSpatuzza
衣装デザイン:タニア・シンブロン
メイクアップ:ルチアナ・ディアス
プロダクション・マネージメント:カレン・フラエンケル
助監督:フラビア・ビレラ
製作者:セバスティアン・ペーニャ・エスコバル、他共同製作者多数
データ:製作国パラグアイ・独・ウルグアイ・ブラジル・ノルウェー・仏、言語スペイン語・グアラニー語(パラグアイの公用語)、2018年、ドラマ、95分、撮影地首都アスンシオン、製作費約514.000ユーロ、ベルリン映画祭上映は2月16日
キャスト:アナ・ブルン(チェラ)、マルガリータ・イルン(チキータ)、アナ・イヴァノーヴァ(アンジー)、ニルダ・ゴンサレス(家政婦パティ)、マリア・マルティンス(ピトゥカ)、アリシア・ゲーラ(カルメラ)、イベラ、ノルマ・コダス、マリッサ・モヌッティ、アナ・バンクス、他多数
プロット:裕福な家柄の生れのチェラとチキータの物語。内気だが誇り高いチェラ、外交的なチキータ、居心地よく暮らすに充分な資産を相続した二人はアスンシオンで30年間も一緒に暮らしていた。しかし60代になり時とともに経済状態は悪くなる一方だった。いずれこのままでは相続した多くの資産を売らざるを得なくなるだろう。そんな折も折、チキータが詐欺で逮捕されてしまうと、チェラは予想もしなかった現実に直面する。初めて車の運転を習い、ひょんなことから裕福なご婦人方のグループ専用の白タクの無免許ドライバーになる。新しい人生が始まるなかで、チェラはやがて若いアンジーと出会い絆を強めていく。このようにして孤独のなかにもチェラの親密で個人的な革命が始まることになるだろう。 (文責:管理人)
(チキータ役マルガリータ・イルンとチェラ役アナ・ブルン、映画から)
(アンジー役アナ・イヴァノーヴァとチェラ、映画から)
*監督フィルモグラフィー*
★マルセロ・マルティネシMarcelo Martinessiは、1973年アスンシオン生れの監督、脚本家。アスンシオンのカトリック大学でコミュニケーション学を学び、その後ニューヨーク、ロンドン、マドリードで映画を学んだ。社会的なテーマ、アイデンティティを模索する短編やドキュメンタリーを撮る。2009年にモノクロで撮った短編「Karai Norte」は、パラグアイの詩人カルロス・ビリャグラ・マルサルの作品をもとにしている。1947年に起きたパラグアイ内戦中に偶然出会った男と女の物語。ベルリナーレの短編部門に初めて出品されたパラグアイ映画である。他にグアダラハラ映画祭2009イベロアメリカ短編作品賞受賞、グラウベル・ローシャ賞、AXN映画祭2010短編作品賞を受賞、5000米ドルの副賞を貰った。フィルモグラフィーは以下の通り:
2009年Karai Norte(Man of the North)短編19分グアラニー語、監督・脚本・編集
2010年Calle última (Ultima Street)短編20分グアラニー語、監督
ベルリナーレ2011ジェネレーション部門、ウエルバ・イベロアメリカ映画祭2011
短編映画賞、ビアリッツ映画祭ラテンアメリアシネマ部門出品
2012年El Baldio、短編10分
2016年La voz perdida (The Lost Voice)短編ドキュメンタリー12分、監督・脚本・編集・製作
2018年Las herederas 省略
(短編ドキュメンタリー「La voz perdida」のポスター)
★第73回ベネチア映画祭2016オリゾンティ部門の短編作品賞を受賞したドキュメンタリー「La voz perdida」が最も有名。クルグアティCuruguatyの農民大虐殺について、インタビューで構成されたドキュメンタリー、パラグアイ現代史の負の部分を描いた。予想外の受賞と述べた監督、海外暮らしが長いが子供のときから聞きなれた言葉でパラグアイの暗黒の政治を描きたいとインタビューに応えている。
(トロフィーを手に喜びの監督、ベネチア映画祭2016にて)
★コンペティション部門は初めてながら以上のようにベルリナーレの常連の一人、初監督作品が金熊賞に輝く例は皆無ではない。何かの賞に絡むことは間違いないと予想します。キャストの殆どが女優、主役のチェラ役アナ・ブルンは、映画は初出演だが舞台女優としてのキャリアは長いということです。チキータ役のマルガリータ・イルンも舞台が長く映画は2作目、若い女性アンジー役のアナ・イヴァノヴァ、この3人が絡みあってドラマは進行する。
(本作撮影中の監督)
★今年の審査委員長は、ドイツの監督トム・ティクヴァ(『ラン・ローラ・ラン』1998)、他スペイン・フィルモテカのディレクターであるホセ・マリア(チェマ)・プラド(マリサ・パレデスの夫君)は、スペインの顔として各国際映画祭に出席している。日本からは坂本龍一が審査員に選ばれている。当ブログではパラグアイ映画はアラミ・ウジョンのドキュメンタリー「El tiempo nublado」(2015)1作だけという寂しさです。本作が金熊賞以外でも何かの賞に絡んだら、秋のラテンビートも視野に入れて改めてアップいたします。
*パラグアイ映画の紹介記事は、コチラ⇒2015年12月13日
*追記: 『相続人』 の邦題でラテンビート2018上映が決定しました。
『グエロス』の監督がコンペティションに登場*ベルリン映画祭2018 ② ― 2018年02月19日 17:55
アロンソ・ルイスパラシオス、パノラマ部門からコンペティション部門へ昇格
★アロンソ・ルイスパラシオスは、デビュー作『グエロス』がベルリン映画祭2014「パノラマ」部門で初監督作品賞を受賞したメキシコの監督。今回「Museo」が初めてコンペティション部門にノミネートされた。メキシコの人気俳優ガエル・ガルシア・ベルナル、『グエロス』出演のレオナルド・オルティスグリス、チリの名優アルフレッド・カストロ、イギリスの舞台俳優サイモン・ラッセル・ビール、監督夫人でもあるイルセ・サラスなど演技派を揃えて金熊賞を競います。1985年クリスマスの日に起きた実話の映画化、メキシコ国立人類学博物館に展示されていた140点にものぼるテオティワカン、マヤ、アステカなど、スペインが到達する前の文化遺産盗難事件をテーマにしている。G.G.ベルナルが犯人の一人を主演するということで、クランクイン前から話題になっていた作品。映画祭上映は2月22日と後半なので、現地での下馬評はまだ聞こえてきません。
*『グエロス』とルイスパラシオス監督の紹介記事は、コチラ⇒2014年10月3日他
「Museo」(「Museum」)
製作:Detalle Films / Distant Horizon / Panorama Global
監督:アロンソ・ルイスパラシオス
脚本:マヌエル・アルカラ、アロンソ・ルイスパラシオス
撮影:ダミアン・ガルシア
編集:Yibran Asuad
キャスティング:ベルナルド・ベラスコ
プロダクション・デザイン:サンドラ・カブリアダ
衣装デザイン:マレーナ・デ・ラ・リバ
プロダクション・マネージメント:バネッサ・エルナンデス、カルロス・A・モラレス
録音:イサベル・ムニョス
視覚効果:ラウル・プラド
製作者:(エグゼクティブ)モイセス・コジオ、ブライアン・コックス、ガエル・ガルシア・ベルナル、ロバート・ラントス、(プロデューサー)マヌエル・アルカラ、アナント・シン、ヘラルド・ガティカ、ラミロ・ルイス、アルベルトMuffelmann、他多数
データ:製作国メキシコ、スペイン語、2018年、犯罪ドラマ、撮影地メキシコシティ、パレンケ、アカプルコ、ゲレーロ、チアパス、国立人類博物館を再現したスタジオ・チュルブスコ、クランクイン2017年3月。ベルリナーレ2018の上映は2月22日~25日の5回、メキシコ公開2018年が決定している。
キャスト:ガエル・ガルシア・ベルナル(フアン・ヌニェス)、レオナルド・オルティスグリス(ベンハミン・ウィルソン)、サイモン・ラッセル・ビール(フランク・グラベス)、アルフレッド・カストロ(ドクター・ヌニェス)、イルセ・サラス(シルビア)、リサ・オーウェン(ヌニェス夫人)、リン・ギルマーティン(ジェンマ)、レティシア・ブレディセ(シェレサダ)、ベルナルド・ベラスコ(ブスコ)、マイテ・スアレス・ディエス(ヒメナ)、他
プロット・解説:1985年12月25日クリスマスの明け方、メキシコ国立人類学博物館の堅固なセキュリティーを突破して、スペインが到達する前の文化遺産およそ140点がショーケースから盗まれた。テオティワカン、アステカ、マヤなどの遺跡から収集された重要な文化財であり、なかにはマヤ室に展示されていたパレンケのパカル王が被ったと言われる「翡翠の仮面」も含まれていた。当初大掛りな国際窃盗団によるものと思われていたが、メキシコ「世紀の盗難事件」の犯人は、プロではなく意外にも行き先を見失った二人の青年であった。主犯格の青年フアンにガエル・ガルシア・ベルナル、ベンハミンにレオナルド・オルティスグリスが扮する。実際に起きた犯罪事件にインスパイヤーされて製作されたフィクション、登場人物は仮名で登場している。(文責:管理人)
(ガエル・ガルシア・ベルナルとレオナルド・オルティスグリス、映画から)
*トレビア*
★アロンソ・ルイスパラシオス監督がG.G.ベルナルに「物語構成のための逸話を取材をしていたとき、突然ドキュメンタリー風ではない別のバージョンつまりフィクションのほうが、ある一部の地域で起こった事件としてではなく、世界のどこででも起きるように描いたほうがインパクトが得られるのではないか」と語ったそうです。監督は「本作は事件の正確なプロセスの再現ではなく、若者たちのアイデンティティ探しや自分たちの存在理由を求める寓話を描こうとしたら、この世紀の盗難事件が頭にひらめいた」と語っている。どうやらテーマは、生きる方向を見失った大学生たちを描いた、第1作『グエロス』と同じようである。
(本作にも出演するイルセ・サラスとレオナルド・オルティスグリス右端、『グエロス』から)
★実際の盗難事件は1985年12月25日の明け方に起き、4年半後の1989年6月10日に逮捕された。盗品は売却目的ではなくそのまま保管されていて大部分が返却された(現在マヤ室に展示されている「翡翠の仮面」はレプリカだそうです)。何が動機だったのかがメインテーマのようです。仮名にしたというフアン・ヌニェスの実名はカルロス・ペルチェス・トレビーニョ、ベンハミン・ウィルソンはラモン・サルディナ・ガルシアである。二人は獣医学専攻の大学生だった。フアンを演じるG.G.ベルナルは「登場人物の人格はとても複雑で、どうして二人があれほど窃盗に固執したのか」とコメントしている。撮影監督のダミアン・ガルシアも「二人の若者は盗みのためにプロの窃盗団に入り込むにはあまりに無邪気すぎた。私には窃盗をする動機が何だったのか言い当てられない」と。
(犯人カルロス・ペルチェス・トレビーニョとラモン・サルディナ・ガルシア)
(展示品を見るG.G.ベルナルと.オルティスグリス、アステカの黒曜石製の「猿の壺」か)
★作家カルロス・モンシバイスが分析したように、二人は単に考古学の遺品を大事に保存して賛美したかっただけかもしれない。窃盗事件の後、皮肉にも空っぽになったショーケースを見るために文化人類学博物館の参観者が急に増加したそうです。盗まれるまでそんなに美しい遺物が博物館に展示されていることなど、人々は知らなかったわけです。
(翡翠の仮面を見つめるフアン、映画から)
★製作者は、Detalle Filmsのモイセス・コジオ、Distant Horizonのアナント・シン、ブライアン・コックス、 Panorama Globalのヘラルド・ガティカ、他『グエロス』の製作者ラミロ・ルイス、G.G.ベルナルなど多数。『カイトKite』(米メキシコ合作2014)を手掛けたDistant Horizonが国際販売も兼ねる由。監督フィルモグラフィーなどは『グエロス』で。
(クランクインしたときの監督とエキストラたち、2017年3月)
パノラマ部門にスペインから3作*ベルリン映画祭2018 ③ ― 2018年02月22日 18:22
『靴に恋して』のラモン・サラサールの新作「La enfermedad del domingo」
★コンペティション部門の次に重要なセクションが「パノラマ部門」、後にヒットする作品が多く含まれております。スペインからは、ラモン・サラサールの第4作め「La enfermedad del domingo」と、アルムデナ・カラセドとロバート・バハーのフランコ独裁時代に起きた事件についてのドキュメンタリー「El silencio de los otros」(「The Silence of Others」)、ディアナ・トウセドのガリシアの神話と人々を語るために現実と虚構をミックスさせた初監督作品「Trinta Lumes」の3作がノミネートされました。なかで少しは知名度のあるサラサール監督の新作をご紹介します。主役は『マジカル・ガール』でファンを増やしたバルバラ・レニー、『ジュリエッタ』でヒロインの母親を演じたスシ・サンチェスです。
(スシ・サンチェス、監督、バルバラ・レニー、ベルリン映画祭2018にて)
「La enfermedad del domingo」(「Sunday's Illness」)
製作:ICEC(文化事業カタルーニャ協会)、ICO(Instituto de Credito Oficial)、ICAA
監督・脚本:ラモン・サラサール
撮影:リカルド・デ・グラシア
音楽:ニコ・カサル
編集:テレサ・フォント
キャスティング:アナ・サインス・トラパガ、パトリシア・アルバレス・デ・ミランダ
衣装デザイン:クララ・ビルバオ
特殊効果:エンリク・マシプ
視覚効果:イニャキ・ビルバオ、ビクトル・パラシオス・ロペス、パブロ・ロマン、
クーロ・ムニョス、他
製作者:ラファエル・ロペス・マンサナラ(エグゼクティブ)、フランシスコ・ラモス
データ:製作国スペイン、スペイン語・フランス語、2018年、113分、ドラマ、撮影地バルセロナ、ベルリン映画祭(パノラマ・スペシャル)上映2月20日、スペイン公開2月23日
キャスト:バルバラ・レニー(キアラ)、スシ・サンチェス(アナベル)、ミゲル・アンヘル・ソラ(アナベルの夫ベルナベ)、グレタ・フェルナンデス(グレタ)、フレッド・アデニス(トビアス)、ブルナ・ゴンサレス(少女時代のキアラ)、リシャール・ボーランジェ(アナベルの先夫マチュー)、デイビット・カメノス(若いときのマチュー)、Abdelatif Hwidar(町の青年)、マヌエル・カスティーリョ、カルラ・リナレス、イバン・モラレス、他
プロット:8歳のときに母親アナベルに捨てられたキアラと呼ばれる少女の物語。35年後、キアラは変わった願い事をもって突然母親のもとを訪れてくる。理由は言わずに10日間だけ一緒に過ごしてほしいと。アナベルは娘との関係修復ができるかもしれないと思って受け入れる。しかし、キアラには隠された意図があったのである。ある日曜日に起こったことが、あたかも不治の病いのように人生を左右する。長い不在の重み、地下を流れる水脈のような罪の意識、決して消えることのない永続する感情が、静謐なピレネーの森の湖をバックに語られる。 (文責:管理人)
(母親に本当の願いを耳打ちするキアラ、映画から)
★物語からは暗いイメージしか伝わってこない。主役の娘役バルバラ・レニーは、『マジカル・ガール』(14、カルロス・ベルムト)以来日本に紹介された映画、例えば『インビジブル・ゲスト悪魔の証明』(16、オリオル・パウロ)、『家族のように』(17、ディエゴ・レルマン)と、問題を抱えこんだ女性役が多い。サラサール作品は初めてだが、コメディも演れる今後が楽しみな女優である。本作では彼女が着る普段着に或る意味をもたせているようです。母親アナベルの豪華な衣装は、母娘の対照的な生き方を象徴している。衣装デザイナー、クララ・ビルバオのセンスが光っている。
*バルバラ・レニーのキャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2015年3月27日他
★母親を演じたスシ・サンチェス(1955、バレンシア)は、今まで脇役専門のような印象でしたが、本作では何故8歳になる娘を放棄したのかという謎めいた過去をもつ難役に挑戦した。日本初登場は今は亡きビセンテ・アランダの『女王フアナ』(01)のイサベル女王役だと思いますが、他にもアランダの『カルメン』(04)や、ベルリン映画祭2009金熊賞を受賞したクラウディア・リョサの『悲しみのミルク』(スペイン映画祭’09)、ベニト・サンブラノの『スリーピング・ボイス~沈黙の叫び』(11)、アルモドバルの『私が、生きる肌』(11)、『アイム・ソー・エキサイテッド!』(13)、『ジュリエッタ』など、セスク・ゲイの『しあわせな人生の選択』(16)に出演している。
(スシ・サンチェスとバルバラ・レニー、映画から)
(撮影中のスシ・サンチェス、バルバラ・レニー、サラサール監督)
★サラサール作品では、『靴に恋して』以下、「10.000 noches en ninguna parte」(12)でゴヤ賞助演女優賞にノミネートされた他、俳優組合賞の助演女優賞を受賞した。TVシリーズは勿論のこと舞台女優としても活躍、演劇賞としては最高のマックス賞2014の助演女優賞を受賞している。その他の共演者についてはアルゼンチンからミゲル・アンヘル・ソラ、フランスからリシャール・ボーランジェなど、国際色豊かです。グレタ・フェルナンデスとフレッド・アデニスは、イサキ・ラクエスタ&イサ・カンポの『記憶の行方』(16)に出演している。
(プレス会見をするサラサール監督、ベルリン映画祭2018にて)
*監督フィルモグラフィー*
★ラモン・サラサールRamón Salazarは、1973年マラガ生れの監督、脚本家、俳優。アンダルシア出身だがバルセロナでの仕事が多い。1999年に撮った短編「Hongos」が、短編映画祭として有名なアルカラ・デ・エナーレスとバルセロナ短編映画祭で観客賞を受賞した。長編デビュー作「Piedras」がベルリン映画祭2002に正式出品され、ゴヤ賞2003新人監督賞にもノミネートされたことで、邦題『靴に恋して』として公開された。問題を抱えた年齢も職業も異なる5人の女性が登場する。オムニバスの体裁をとっているが、お互いつながりあって、いわゆるバルセロナ派の監督が得意とする合唱劇といわれるジャンルに近い。原題の意味は石の複数形、邦題には苦労したろうと思います。「石」はしっかり抱えている大切なものを指すようです。女性それぞれがその置き場所が見つからないでいる。登場人物の描き方は極端だが、観客は5人の誰かに自分の姿を重ねて見ることになる。
(ベルリナーレの『靴に恋して』のポスター)
★その他2005年「20 centimetros」は、ロカルノ映画祭に正式出品、マラガ映画祭批評家賞、マイアミ・ゲイ&レスビアン映画祭スペシャル審査員賞などを受賞した。2013年「10.000 noches en ninguna parte」はセビーリャ(ヨーロッパ)映画祭でアセカン賞を受賞している。2017年の短編「El domingo」(12分)が本作の習作のようです。キアラと父親は森の中の湖にピクニックに出かける。ママは一緒にいかない。帰宅すると家の様子が一変している。キアラは窓辺でママの帰りをずっと待ちわびている。キャストはキアラの少女時代を演じたブルナ・ゴンサレスとキアラの父親役のデイビット・カメノスの二人だけ、スタッフはすべて「La enfermedad del domingo」と同じメンバーが手掛けている。
(ママの帰りを待ちわびるキアラ役のブルナ・ゴンサレス、「El domingo」から)
(ブルナ・ゴンサレスと父親役のデイビット・カメノス)
パノラマ部門にチリとアルゼンチン映画*ベルリン映画祭2018 ④ ― 2018年02月25日 17:46
アルゼンチンからサンティアゴ・ロサの「Malambo, el hombre bueno」
★アルゼンチンからはサンティアゴ・ロサの「Malambo, el hombre bueno」(「Malambo, the Good Man」)が単独でノミネートされている。「Malamboマランボ」というのはアルゼンチン伝統の男性だけのフォルクローレ、発祥はガウチョのタップ・ダンス、従ってすべてではないがガウチョの衣装とブーツを着て踊り、毎年チャンピオンを選ぶマランボ大会が開催されている。本作はドキュメンタリーの手法で撮っているがドラマです。主役のマランボ・ダンサーにガスパル・ホフレJofreが初出演する。監督のサンティアゴ・ロサは、1971年アルゼンチンのコルドバ生れ、過去には「Extraño」(03、ロッテルダム映画祭タイガー賞他)、「Los labios」(10、BAFICI映画祭監督賞、カンヌ映画祭「ある視点」出品)、「La Paz」(13、BAFICI映画祭作品賞)などのほか受賞歴多数のベテラン監督。ベルリナーレでは2月16日上映されました。
(サンティアゴ・ロサ監督)
チリからマルティン・ロドリゲス・レドンドのデビュー作「Marilyn」
★ご紹介したいのはマルティン・ロドリゲス・レドンド(1979)のデビュー作「Marilyn」(17、アルゼンチンとの合作)、前回のベルリナーレでは、チリの『ナチュラルウーマン』(セバスティアン・レリオ、2月24日公開)が気を吐きましたが、今回はコンペティションにノミネーションがなく、パノラマにも本作のみです。初監督作品賞、テディー賞対象作品です。監督については詳細が入手できていませんが、ブエノスアイレスにある映画研究センターCIC(El Centro de Investigación Cinematográfica)で映画製作を学んだアルゼンチンの監督のようです。脚本がINCAAのオペラ・プリマ賞を受賞、共同製作イベルメディアの援助、2014年サンセバスチャン映画基金、2013年メキシコのオアハカ脚本ラボ、その他の資金で製作された。2016年の短編「Las liebres」が、BAFICI映画祭、ハバナ映画祭、BFI Flare ロンドンLGBT映画祭で上映されている。
(マルティン・ロドリゲス・レドンド監督)
データ:製作国チリ=アルゼンチン、スペイン語、2017年、実話、90分。
製作:Quijote Films(チリ)、Maravillacine(アルゼンチン)
監督:マルティン・ロドリゲス・レドンド
脚本:マルティン・ロドリゲス・レドンド、マリアナ・ドカンポ
編集:フェリペ・ガルベス
撮影:ギジェルモ・サポスニク
キャスト:ヴァルター(ウォールター)・ロドリゲス(マルコス、綽名マリリン)、カタリナ・サアベドラ(母オルガ)、ヘルマン・デ・シルバ(父カルロス)、イグナシオ・ヒメネス(兄カルリート)、ほか
物語:高校を優秀な成績で卒業した青年マルコは地方の農場で暮らす両親と兄のもとに帰ってくる。兄カルリートは牛の乳しぼりやパトロンが盗んできた牧牛の世話をしており、母オルガは婦人服仕立てで得たわずかなお金を暮らしにあてていた。父カルロスが亡くなると、さらに困難の日々が待っていた。ある同性愛者の集まりで自身のホモセクシュアルに目覚める。マルコスは農園の仕事が好きになれず、隠れて化粧をしたり女装をすることで息をついていた。この内気な若者も仲間からマリリンと呼ばれるようになる。カーニバルの季節がやってくると、踊りのステップを踏むことで自身の体を解き放ち喜びに酔いしれる。世間の冷たい目の中で窮地に立たされるマルコス、苦痛を和らげてくれる若者とのつかの間の愛の行方は・・・小さな村社会の差別と不寛容が語られる。
(カーニバルで自身を解き放つマルコス=マリリン、映画から)
(恋人とマルコス、映画から)
★実話に基づいているそうです。「チリ社会は保守的な人が多い。都会では年々LGBT(レスビアン・ゲイ・両性愛・性転換)に対する理解が得られるようになったが、地方では差別や不寛容に晒されている」とチリのプロデューサーのジャンカルロ・ナッシ。母オルガを演じたカタリナ・サアベドラは、セバスティアン・シルバの「La nana」(2009『家政婦ラケルの反乱』)で異才を放った女優。このシルバ監督も同性愛者で、不寛容なチリを嫌って脱出、現在はブルックリンでパートナーと暮らして英語で映画製作をしている。才能流出の一人です。
★セバスチャン・レリオの『ナチュラルウーマン』のテーマもLGBT、今回コンペティション部門にノミネートされたパラグアイのマルセロ・マルティネシの「Las herederas」もLGBTでした。こちらは評価も高く、観客の受けもまずまずだった。監督以下スタッフ、主演女優3人もプレス会見に臨み、各自パラグアイ社会の女性蔑視、性差別の風潮を吐露していました。初参加のパラグアイ映画に勝利の女神が微笑むことを祈りたい。いよいよ今夜受賞結果が発表になり、ベルリナーレ2018も終幕します。
(女優賞に絡めるか、アナ・ブルンとアナ・イヴァノヴァ、「Las herederas」から)
★フォーラム部門にノミネートされたチリのアニメーション、クリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャの「La casa lobo」(「The Wolf House」2月22日上映)が評判になっています。おとぎ話に見せかけているが、実はピノチェト時代にナチスと手を組んで作った、宗教を隠れ蓑にした拷問施設コロニア・ディグニダが背景にあるようです。賞に絡んだらアップしたいアニメーションです。
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