初めてパラグアイ映画が金熊賞を競う*ベルリン映画祭2018 ① ― 2018年02月16日 16:16
マルセロ・マルティネシの長編第1作「Las herederas」がノミネーション
★第68回ベルリナーレ2018(2月15日から25日)のコンペティション部門に、初めてパラグアイからマルセロ・マルティネシの「Las herederas」がノミネートされました。コンペティション部門は19作、スペイン語映画はパラグアイの本作と、メキシコのアロンソ・ルイスパラシオスの「Museo」の2作品です。次回アップいたしますが、モノクロで撮ったデビュー作『グエロス』(14)はパノラマ部門で初監督作品賞を受賞しています。「Las herederas」は、パラグアイの首都アスンシオンに暮らす上流階級出身の60代の二人の女性が主人公です。金熊賞以外の国際映画批評家連盟賞、初監督作品賞、テディ賞などの対象作品のようです。コンペティション以外のパノラマ、フォーラム各部門にスペインやアルゼンチンからも何作か気になる作品が選ばれています。
「Las herederas」(「The Heiresses」)
製作:La Babosa Cine(パラグアイ)/ Pandara Films(独)/ Mutante Cine(ウルグアイ)/
Esquina Filmes(ブラジル)/ Norksfilm(ノルウェー)/ La Fábrica Nocturna(仏)
監督・脚本・製作者:マルセロ・マルティネシ
撮影:ルイス・アルマンド・アルテアガ
編集:フェルナンド・エプスタイン
プロダクション・デザイン:カルロス・スパトゥッザSpatuzza
衣装デザイン:タニア・シンブロン
メイクアップ:ルチアナ・ディアス
プロダクション・マネージメント:カレン・フラエンケル
助監督:フラビア・ビレラ
製作者:セバスティアン・ペーニャ・エスコバル、他共同製作者多数
データ:製作国パラグアイ・独・ウルグアイ・ブラジル・ノルウェー・仏、言語スペイン語・グアラニー語(パラグアイの公用語)、2018年、ドラマ、95分、撮影地首都アスンシオン、製作費約514.000ユーロ、ベルリン映画祭上映は2月16日
キャスト:アナ・ブルン(チェラ)、マルガリータ・イルン(チキータ)、アナ・イヴァノーヴァ(アンジー)、ニルダ・ゴンサレス(家政婦パティ)、マリア・マルティンス(ピトゥカ)、アリシア・ゲーラ(カルメラ)、イベラ、ノルマ・コダス、マリッサ・モヌッティ、アナ・バンクス、他多数
プロット:裕福な家柄の生れのチェラとチキータの物語。内気だが誇り高いチェラ、外交的なチキータ、居心地よく暮らすに充分な資産を相続した二人はアスンシオンで30年間も一緒に暮らしていた。しかし60代になり時とともに経済状態は悪くなる一方だった。いずれこのままでは相続した多くの資産を売らざるを得なくなるだろう。そんな折も折、チキータが詐欺で逮捕されてしまうと、チェラは予想もしなかった現実に直面する。初めて車の運転を習い、ひょんなことから裕福なご婦人方のグループ専用の白タクの無免許ドライバーになる。新しい人生が始まるなかで、チェラはやがて若いアンジーと出会い絆を強めていく。このようにして孤独のなかにもチェラの親密で個人的な革命が始まることになるだろう。 (文責:管理人)
(チキータ役マルガリータ・イルンとチェラ役アナ・ブルン、映画から)
(アンジー役アナ・イヴァノーヴァとチェラ、映画から)
*監督フィルモグラフィー*
★マルセロ・マルティネシMarcelo Martinessiは、1973年アスンシオン生れの監督、脚本家。アスンシオンのカトリック大学でコミュニケーション学を学び、その後ニューヨーク、ロンドン、マドリードで映画を学んだ。社会的なテーマ、アイデンティティを模索する短編やドキュメンタリーを撮る。2009年にモノクロで撮った短編「Karai Norte」は、パラグアイの詩人カルロス・ビリャグラ・マルサルの作品をもとにしている。1947年に起きたパラグアイ内戦中に偶然出会った男と女の物語。ベルリナーレの短編部門に初めて出品されたパラグアイ映画である。他にグアダラハラ映画祭2009イベロアメリカ短編作品賞受賞、グラウベル・ローシャ賞、AXN映画祭2010短編作品賞を受賞、5000米ドルの副賞を貰った。フィルモグラフィーは以下の通り:
2009年Karai Norte(Man of the North)短編19分グアラニー語、監督・脚本・編集
2010年Calle última (Ultima Street)短編20分グアラニー語、監督
ベルリナーレ2011ジェネレーション部門、ウエルバ・イベロアメリカ映画祭2011
短編映画賞、ビアリッツ映画祭ラテンアメリアシネマ部門出品
2012年El Baldio、短編10分
2016年La voz perdida (The Lost Voice)短編ドキュメンタリー12分、監督・脚本・編集・製作
2018年Las herederas 省略
(短編ドキュメンタリー「La voz perdida」のポスター)
★第73回ベネチア映画祭2016オリゾンティ部門の短編作品賞を受賞したドキュメンタリー「La voz perdida」が最も有名。クルグアティCuruguatyの農民大虐殺について、インタビューで構成されたドキュメンタリー、パラグアイ現代史の負の部分を描いた。予想外の受賞と述べた監督、海外暮らしが長いが子供のときから聞きなれた言葉でパラグアイの暗黒の政治を描きたいとインタビューに応えている。
(トロフィーを手に喜びの監督、ベネチア映画祭2016にて)
★コンペティション部門は初めてながら以上のようにベルリナーレの常連の一人、初監督作品が金熊賞に輝く例は皆無ではない。何かの賞に絡むことは間違いないと予想します。キャストの殆どが女優、主役のチェラ役アナ・ブルンは、映画は初出演だが舞台女優としてのキャリアは長いということです。チキータ役のマルガリータ・イルンも舞台が長く映画は2作目、若い女性アンジー役のアナ・イヴァノヴァ、この3人が絡みあってドラマは進行する。
(本作撮影中の監督)
★今年の審査委員長は、ドイツの監督トム・ティクヴァ(『ラン・ローラ・ラン』1998)、他スペイン・フィルモテカのディレクターであるホセ・マリア(チェマ)・プラド(マリサ・パレデスの夫君)は、スペインの顔として各国際映画祭に出席している。日本からは坂本龍一が審査員に選ばれている。当ブログではパラグアイ映画はアラミ・ウジョンのドキュメンタリー「El tiempo nublado」(2015)1作だけという寂しさです。本作が金熊賞以外でも何かの賞に絡んだら、秋のラテンビートも視野に入れて改めてアップいたします。
*パラグアイ映画の紹介記事は、コチラ⇒2015年12月13日
*追記: 『相続人』 の邦題でラテンビート2018上映が決定しました。
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