マヌエル・マルティン・クエンカ”Canibal”*トロント国際映画祭①2013年09月08日 21:38


★モントリオールが閉幕したらトロントと秋のカナダは忙しい。カナダ最大の都市で開催されるトロント国際映画祭が
95日から始まりました(15日閉幕)。上映作品約300、入場者30数万人以上という大規模な映画祭(TIFF)です。映画祭のポリシーが「ノン・コンペティション」ということで、観客賞がいわゆるグランプリに当たります。最近は英語圏の作品が受賞することが多いのですが(例えば『英国王のスピーチ』、『スラムドッグ$ミリオネア』)、以前はスペイン語圏でもルイス・プエンソの『オフィシャル・ストーリー』、アルモドバルの『神経衰弱ぎりぎりの女たち』、わが国では北野武の『座頭市』が受賞しています。次の年のアカデミー賞ノミネートへの近道なんだそうです。

 

★部門別に「ガラ・プレゼンテーション」、「スペシャル・プレゼンテーション」がメインセクション。今年はスペインからも10作が選ばれ、「EU域内の重病人」との悪口をはね返して文化省も力を入れているようです。920日から始まるスペイン最大の国際映画祭サンセバスティアン(SIFF)が近づいたらご紹介しようと思っていたのが“Caníbal”(2013英題“Cannibal”)でした。スペイン代表作品としてSIFFのオフィシャル部門に選ばれ、今回TIFFのスペシャル・プレゼンでの上映も決定しました。同じケースがデニス・ビジェネウベの“Enemigo”(同“An Enemy”)ですが、ここでは2011年の製作発表から話題になっていた“Caníbal”に絞ってご紹介します。

 

★監督紹介:1964年アンダルシアのアルメリア生れ。グラナダ大学の文献学、マドリードのコンプルテンセ大学で情報科学を専攻。2001年製作のドキュメンタリー“El juego de Cuba”(英題“The Cuban Game”)がマラガ映画祭ドキュメンタリー部門銀のジャスミン賞」受賞した。長編第1作“La flaquesa del bolchevique”(2003同“The Weakness of the Bolshevik”)もヨーロッパ・ファースト・フィルム映画祭で観客賞を受賞。第4作がウンベルト・アレナルの短編を自由に翻案して映画化したサイコ・スリラー“Caníbal”です。

 

Caníbal  2013

監督:マヌエル・マルティン・クエンカ

 脚本:アレハンドロ・エルナンデス/ラファエル・デ・ラ・ルス

 キャスト:アントニオ・デ・ラ・トーレ(カルロス)/オリンピア・メリンテ(ニナ)/マリア・アルフォンサ・ロッソ(アウロラ)他

 製作国:スペイン/ルーマニア/ロシア/フランス

 ○言語スペイン語、ロケ地グラナダ、カラー、スペイン公開20131011

 

プロット42歳になるカルロスはグラナダでも指折りの仕立屋、彼の日常は物静かに洋服を仕立て食べて寝るという繰り返しであった。しかし彼には罪の意識もなく良心の呵責もなく若い女性を殺害して食すという別の秘密の顔をもっていた。しかしニナというルーマニアからの女性が彼の人生に現れることですべてが変わってしまうだろう。彼は生れて始めて恋を知る・・・

 

★カルロスは精神病質者ではなくホルモン調整不良に苦しむ繊細な人間らしく、彼の主治医の精神分析医は不治の病であると告げている。ニナは突然行方不明になった姉を探し求めているという設定、つまり姉はカルロスの餌食になっているわけです。1年に3人、子供と妊婦は食べないとか彼なりのルールもあり、メタファーが複雑です。ハネケの『ファニー・ゲーム』、ジョナサン・デミの『羊たちの沈黙』のレクター博士、コーエン兄弟の『ノーカントリー』の殺人鬼シガーなどに繋がっている印象です。これらの映画が持っている哲学は人によって解釈が異なると思いますが、本作のテーマは「愛の物語」だと監督は語っているんです。

 

★カルロス役のデ・ラ・トーレは既にちょこちょこご紹介していますが、最近の活躍振りは異例のことです。紹介済みの“Grupo 7”、アルモドバル“Los amantes pasajeros”(ラテンビート上映決定)、ダニエル・カルパルソロの『インベーダー』(2014公開)、サンチェス・アルバロ“La gran familia española”と話題作に顔を出しています。来年のゴヤ賞こそ、と思っています。本作については、「自分のキャリアの中で最も難しかった役の一つだった。カルロスは略奪者であるが、儀礼、生き残り、情動的かつ食への欲望が彼には必要だった」とコメントしています。

(写真:カルロスとニナ、映画のワンシーン)

2014年5月24日、『カニバル』の邦題で劇場公開された。(追記)


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