ゴヤ賞2013 予想と結果①2013年08月18日 13:40

スペイン語映画の動向を知るのに有効なのが世界各地で開催される映画祭。スペインでは春のアンダルシアは太陽海岸に位置するマラガに始まり、秋のサンセバスチャン、地中海に面した高級リゾート地シッチェス、カスティーリャ王国の首都だったバリャドリードなどが代表的な映画祭です。なかでもサンセバスチャンは国際映画祭としての歴史も古く、2012年に第60回を盛大に祝ったばかりです。

しかしスペイン映画界に大きな影響を与えるお祭りと言えば矢張り「ゴヤ賞」でしょう。いわゆる「スペインのアカデミー賞」です。セザール賞(仏)、バフタ賞(英)、ドナテッロ賞(伊)と立ち位置が同じです。ゴヤ賞は1987年に始まり、2011年の第25回の節目に全体を見渡せる冊子も発売されました。現在ゴヤ賞は合計28部門にもふくれあがる最大の映画イベントとなっています。ジャンルは大別するとドラマとドキュメンタリー、長編と短編、実写とアニメ、監督・新人監督、主演・助演・新人、脚本・脚色、音楽・美術、録音・特殊効果、撮影、衣装デザイン、メイクなどの他、イベロアメリカ映画とヨーロッパ映画部門があります。

例年ノミネート発表が1月初旬(2013年は1月8日)に発表され、“Blancanieves”が最多の19部門、洩れたのは録音賞だけでした。以下“Grupo 7”(16)、“Lo imposible”(14)、“El artista y la modelo”(13)という具合に話題作だけに集中していました。作品賞、監督賞、製作賞が重なるのは分かるとして、今年は上記の4作品が同じ9部門を仲良く制しました。これではスペイン映画の危機どころか末期症状と杞憂したファンも多かったのではないでしょうか。授賞式は2月中旬、今年は17日でした。

今年はスクリーンでの鑑賞済み作品が多く大いに盛り上がりたいところでしたが、この一極集中が癇に障ったこともあって逆に冷めてしまいました。しかし日本での映画祭上映、公開などが次々にアナウンスされましたので、以前Cabinaブログにコメントした予測記事を加筆訂正したものから当ブログをスタートさせることに致しました。

作品賞:まず一押しは、“Torremolinos73”(2003)以来沈黙していたパブロ・ベルヘルの“Blancanieves”でした。グリム兄弟の『白雪姫』を題材に1920年代のアンダルシアに時空間を旅しています。サイレントだがミュージカル、モノクロ、闘牛、フラメンコ、個性的に描き分けられた小人、何はおいてもエモーショナルな愛の物語、その独創性において他の追随を許さない。2012年は他にも『白雪姫』に材をとった力作、ルパート・サンダーズの『スノーホワイト』(継母シャーリーズ・セロン)、ターセム・シンの『白雪姫と鏡の女王』(継母ジュリア・ロバーツ)などが劇場公開になりましたが、贔屓目を差し引いてもスペイン版が一番見応えがありました。サンセバスチャン映画祭コンペ部門の特別審査員賞受賞。2013年アカデミー賞スペイン代表作品に選ばれましたが最終候補には残れませんでした。結果は予想通りにゴヤの胸像はベルヘル監督の手に。『ブランカニーヴス』の邦題で12月より新宿武蔵野館を皮きりに全国展開。第10回を迎えるラテンビートで先行上映も決定したようです。

昨年の東京国際映画祭ワールド部門で上映されたフアン・アントニオ・バヨナの『インポッシブル』の可能性もありかと予想しましたが、主役にナオミ・ワッツ、その夫にユアン・マクレガーとハリウッド俳優起用の映画でしたので確率は低かった。しかしスペイン公開1週間の観客動員数135万人、11週間で580万人、興行成績も4050万ユーロを叩きだし、長きにわたって危機に瀕しているスペイン映画界の救世主となりました。昨年のサンチャゴ・セグラの『トレンテ4』で実証済みのように「じゃ、ゴヤの胸像を差し上げましょう」とはなりませんでした。2004年タイ旅行中にスマトラ沖地震による津波に遭遇したスペイン一家の実話に基づいた映画、テーマは家族愛、つまりバヨナの第1作『永遠のこどもたち』の変奏曲ですね。第25回東京国際映画祭上映、今年6月に既に劇場公開、11月にはDVDも発売されます。

16部門ノミネートのアルベルト・ロドリゲスの“Grupo 7”は若者の支持を獲得していましたがライバルが強すぎた。麻薬壊滅作戦を意図して組織され、非合法すれすれの何でもありの捜査をする警察スリラーもの。その通称「グループ7」がタイトルになってます。倫理観クソ食らえのアクション、ウソとマコトが捩れてウラ社会相手に奮闘する男たちの重厚なドラマに仕上がっています。1992年のセビーリャ世界万博を前にしての麻薬密売組織掃討作戦、いわば警察官は町をきれいに掃除する清掃員役を担わされていた。タイトルになった「グループ7」は存在しませんが、当時実在した「グループ6」とか「グループ10」のリーダーたちが投影されているということです。テレビのイケメンを返上したマリオ・カサス、お馴染みのアントニオ・デ・ラ・トーレ、インマ・クエスタなど、登場人物の人格描写も優れています。既にバレンシアの映画祭でTuria特別賞を受賞しています。日本でのDVDが期待できる作品。

最後が13部門ノミネートのフェルナンド・トゥルエバの“El artista y la modelo”、時間をかけてよく練られた作品ですが、自信をもって「受賞はありません」と予測しました。制作意欲を失った有名な老彫刻家が妻の連れてきた若い女性に触発されて人生最後の作品に挑む。こんな筋書き聞いても平凡すぎて魅力を感じませんが、これがなかなか一筋縄ではいかない出来栄えです。製作・キャストともにインターナショナルで芸達者な役者たち(彫刻家:フランス人ジャン・ロシュフォール、モデル:スペイン人アイダ・フォルチ、彫刻家の妻:イタリア人クラウディア・カルディナーレ、お手伝い:スペイン人チュス・ランプレアヴェ)も魅力なら、1943年夏フランスのロセリョンと時代舞台背景も巧みに計算されているのです。言語は仏語・西語、モノクロ映像が素晴らしい。サンセバスチャン映画祭では仏語のセリフに西語の字幕入りで上映、同映画祭の銀貝賞の監督部門で受賞。無冠に終わりましたが、2013年公開が決定していますが邦題は決まっていない(配給:アルシネテラン)。

監督賞:第2作“Blancanieves”のパブロ・ベルヘルを推しました。第1作“Torremolinos 73”から数えて早や十年近く「一体ナニしてたんだい」、5年の歳月をかけて本作完成に命をかけていたそうです。デビュー作の恐怖とブラックユーモアが気に入った方、期待を裏切りません。この映画はウィーン生れだがハリウッドで活躍した怪物監督エリッヒ・フォン・シュトロハイムの『Greed』(グリード、1924、サイレント・モノクロ)へのオマージュでもあるそうです。スペイン題は“Avaricia”(貪欲)。ゴヤ賞の前哨戦と言われるフォルケ賞(例年1月下旬)にも下馬評通り選ばれていおり、頭一つ抜け出した感じでした。ゴヤ賞歴は第1作が2004年新人監督賞にノミネートされています。1964年ビルバオ生れ。同郷のエンリケ・ウルビス(1962生れ) やアレックス・デ・ラ・イグレシア(1965生れ)が、1980年代後半から90年代にデビューしたのに比べ大分遅い。どの監督にも当てはまることですが、成功には製作者との幸運な出会いがカギとなります。結果は『インポッシブル』のバヨナがゲット、作品賞とのダブル受賞とはなりませんでした。

フアン・アントニオ・バヨナの『インポッシブル』“Lo imposible”も長編第2作目です。ヒット作『永遠のこどもたち』が2007年だから5年振りになります。験担ぎか偶然か前作と同じ10月11日に封切られ、その後の健闘ぶりは上記の通り。ゴヤ賞歴は前作が新人監督賞、脚本賞以下7部門に受賞しています。最初の短編“Mis vacaciones”(1999)が評価され、数多くの短編、ビデオを手掛けています。第2作で監督賞受賞、大賞をベルヘルと分かち合いました。1975年バルセロナ生れ、将来のスペイン映画界を担う若手の注目株。

アルベルト・ロドリーゲスは“7 virgenes”(2005)が翌年のゴヤ作品賞、監督賞、脚本賞受賞で話題をさらった監督。『7人のバージン』の邦題で第3回ラテンビート映画祭で早速上映されました。子供から否応なく大人にならざるをえない少年を演じたフアン・ホセ・バジェスタの成長ぶりに、子役だけで終わらないと感じたファンも多かったのではないか。 それにしても邦題決定には悩んだでしょうね。次回作“After”(2009)はちゃんと大人になれなかった中年たちのドラマ。ローマ映画祭やトゥルーズ映画祭に出品され、それなりに評価されましたが3作の中では一番平凡でした。ゴヤ賞がらみでは脚本賞がノミネートされています。今回の“Grupo 7”は大賞受賞には至りませんでしたが、受賞の有無にかかわらず日本に紹介したい監督であり作品です。1971年セビーリャ生れ、3作とも時代は変われど舞台は同じ生れ故郷です。4候補作のうち『インポッシブル』には到底及びませんが、スペインでは4月封切り以来、DVD発売も含めて興行成績は“Blancanieves”を倍以上引き離し、約240万ユーロと貢献しています。

フェルナンド・トゥルエバは日本でもメジャー入りした監督、特に今回受賞はなかったし、ゴヤの胸像は大分前のことになるが二つ持ってるしで割愛いたします。既に公開が決まっていますので、いずれ紹介記事を書こうと考えております。サンセバスチャン映画祭で銀貝賞の監督部門で受賞しました。それぞれ映画祭も性質の違いがあって、本映画祭はカンヌ映画祭と同じように作品賞、特別審査員賞、監督賞の大賞をダブらせない方針です。それだけに賞の重みもあるわけです。

ゴヤ賞2013 予想と結果②2013年08月18日 13:47

主演男優賞:迷うことなくホセ・サクリスタンを予想、的中しました。ハビエル・レボージョの第3作目“El muerto y ser feliz”は、これ以外ノミネートなしで個人的に大いに不満が残りました。いかに上記の4作に偏っていたかが分かります。2012年のサンセバスチャン映画祭コンペのスペイン代表作品の一つ。彼は2度目の銀貝賞男優賞を受賞、1回目はペドロ・オレアの“Un homble llamado Flor de Otono”(1978)の女装役でした。シラノ・ド・ベルジュラックのようなあの鼻でと言うなかれ。1月末に開催されたフォルケ賞でも男優賞、ただし本作でなくダビド・トゥルエバ(フェルナンドの弟)の“Madrid 1987”(2011)の老ジャーナリスト役のほうでした(2012年4月公開ということで対象作品)。

彼は2005年以来スクリーンから姿を消しており、本作が映画界復帰第1作でした。常に映画と舞台の二足の草鞋人生ですが、もともとの出発は舞台、ここ6年ほどは“Un Picasso”や“Yo soy Don Quijotea de la Mancha”の当り役で舞台に専念していたのでした。またアルゼンチンで最高の映画賞といわれる「銀のコンドル賞」で助演男優賞(“Un lugar en el mundo”1993)、2012年にはコンドル栄誉賞まで受賞しています。

さて、ゴヤ賞歴は第1回ゴヤ賞の“El viaje a ninguna parte”(1986)主演男優賞ノミネートが1回あるだけです(調べてビックリ)。この作品はフェルナンド・フェルナン・ゴメスが作品賞・監督賞・脚本賞を受賞し、更に別作品で主演男優賞までさらってしまい、第1回授賞式は彼のために開催されたようなものでした。半世紀にも及ぶ役者人生、名脇役の誉れ高いサクリスタンにしては信じ難い少なさです。もっとも彼の代表作の一つに挙げられるマリオ・カムスの『蜂の巣』(1982「スペイン新作映画‘85」上映)は、まだゴヤ賞などなかった頃の作品です。レボージョの新作では病いで余命幾ばくもない雇われ殺し屋を飄々と演じています。舞台はアルゼンチンのブエノスアイレス→ロサリオ→サンタフェ→ツクマン→サルタと愛車で北上、ボリビアに至る5000キロに及ぶウエスタン風ロードムーヴィであり、死出の旅であり、しかし紛れもなくジャンルはコメディなのでした。

1937年マドリッドはチンチョン生れ、半分はアルゼンチンは南米のスイスと言われるバリロチェの人。古くからの映画仲間は大方が鬼籍入りしており、貴重な存在になっています。レボージョ監督が頭に描く映画は、ハイメ・ロサーレスのように傍流かもしれません。しかし独創性に富んだ注目の監督です。今年のラテンビートに期待してますが。

主演女優賞:やはりマリベル・ベルドゥが強いと予想、その通りになりました。フォルケ賞もライバルの白雪姫役マカレナ・ガルシアと熟女カルミナ・バリオスを抑えて彼女の手に(二人については新人女優賞の項目で)。マリベルは昨年パウラ・オルティスの“De ventana a la mia”で助演女優賞にノミネートされたばかり。主演女優賞ノミネートは今回で7回目、うちグラシア・ケレヘタの“Siete mesas de billar frances”(2007)で受賞しています。日本公開の映画も多く、フェルナンド・トゥルエバの『ベル・エポック』(1992)、アルフォンソ・キュアロンの『天国の口、終りの楽園』(2001)、デル・トロの『パンズ・ラビリンス』(2006、ゴヤ主演ノミネート)ではメキシコのアカデミー賞と言われるアリエル女優賞を貰っています。1971年マドリード生れ、13歳でテレビ初出演、映画はモンチョ・アルメンダリスの“27 horas”(1986)でデビュー。既に出演本数76本にも驚くが、ノミネート数の割には受賞は少ない印象です。

賞こそ逃しましたが一番の好敵手だったのがハリウッド・スターのナオミ・ワッツ、その迫真の演技と役者根性には感動いたしました。バヨナ監督は主役に彼女を想定してシナリオ作りをしたが、水浸しの連続シーンに女優生命にかかわるようなメイク、果たしてウンと言ってくれるか自信がなかった由。ところが一発でOKしてくれた。オリジナル版言語は英語だし、バヨナ監督自身も海外の映画祭では「私の国籍はスペイン、これはスペイン映画です」と言っても、なかなか納得してもらえなかったそうです。

「もうguapa役には飽きた」という“Volver a nacer”のペネロペ・クルス、今後が期待される“El artista y la modelo”のモデル役アイーダ・フォルチの二人については、いずれ映画が公開された折りに触れることに致します。

助演男優賞:ダニエル・カルパルソロ監督の“Invasor”でノミネートされたアントニオ・デ・ラ・トーレに取って欲しかったが、彼自身主演男優賞ノミネートの“Grupo7”のフリアン・ビリャグランの手に。主演男優賞に続いてこちらも涙を飲む結果になり、ちょっと意外な展開でした。“Invasor”はフェルナンド・マリアスの同名小説の映画化。『インベーダー』の邦題で2014年全国ロードショー(配給:ブロードメディア・スタジオ)。
デ・ラ・トーレの出演本数は脇役が多いとはいえ88本と物凄い。名無しの新聞記者、トラック運転手、タクシー運転手、パーキング店員などなど、彼と気づかずに何度も目にしているようです。アルモドバルの『ボルベール』(2006)でペネロペの夫になり義理の娘に早々と殺されてしまう役者といっても「えっ?」となる。ダニエル・サンチェス・アルバロの『漆黒のような深い青』(06「ラテンビート‘07」上映)あたりでやっと顔を覚えてもらえた。その後の快進撃はもう書く必要ありません。カメレオン俳優の代表格。

助演女優賞:これは混線が予想されました。誰が取ってもおかしくない顔ぶれでしたから。カンデラ・ペーニャがセスク・ガイの“Una pistola en cada mano”で唯一ノミネートされた。ノミネートが「これきりとはアンマリだ」と外野席からはブーイングしきりでしたが、結局彼女の手に渡りました。セスク・ガイは、かつてのシネフィル・イマジカ(イマジカBSに変更)で「ニコとダニの夏」の邦題で放映された“Krampack”(2000)、“En la ciudad”(2003)など緻密なストーリーや場面展開が見事な監督。
新作も6つのエピソードで構成された群集劇、ペーニャの他、スバラグリア、エドゥアルド・フェルナンデス、ハビエル・カマラ、ノリエガ、トサール、ダリン、ワトリング、カエタナ・ギジェン・クエルボ等など名前を列挙するだけで、中年にさしかかった人気演技派たちが網羅されてしまいます。中で際立っているのがカンデラ・ペーニャというわけです。彼女はゴヤ賞に限ってもボジャインの『テイク・マイ・アイズ』(2003、助演)とフェルナンド・レオンの“Princesas”(2005、主演)で2度受賞しています。衝撃デビュー作、イマノル・ウリベの『時間切れの愛』(1994)で新人と助演に同時ノミネート、これは異例のことでした。

ライバルは“El artista y la modelo”のチュス・ランプレアベ、トゥルエバやアルモドバルに愛され、コンチャ・ベラスコに先を越されましたが栄誉賞に選ばれてもおかしくないベテラン、その存在感は揺るぎない。脇役に徹しゴヤ賞はオール助演で受賞が『ベル・エポック』(1992)、ノミネート4回。
次が“Blancanieves”の祖母役アンヘラ・モリーナ、映画だけでなく昨年8月末にお孫さんが誕生した。ゴヤ賞は主演助演含めて4回のノミネートがあるだけで「まさか」と驚いている。海外での活躍が背景にあるのかもしれない。ベルヘル監督の“Torremolinos 73”を見て以来、彼の映画に出たかったそうです。歌手アントニオ・モリーナの長女、1955年マドリッド生れ。 
最後がパコ・レオンの“Carmina o revienta”のマリア・レオン、昨年ベニト・サンブラノの“La voz dormida”(2011)で新人女優賞に輝く。御年59歳で「新人」女優賞にノミネートのカルミナ・バリオスは実母、新人監督賞ノミネートのパコ・レオンが兄、親子トリプル受賞は夢に終わりました。                          
                     
新人監督賞:アニメ“Las aventuras de Tadeo Jones”のエンリケ・ガトとコメディ“Carmina o revienta”のパコ・レオンの一騎打ちになると予測しました。前者エンリケ・ガトは予告編を見ただけでもワクワクする(時に面白いのは予告編だけということもあるが)。スペイン公開17週の興行成績が1800万ユーロ(製作費500万ユーロを楽々回収できた)、観客動員数200万人もハンパじゃない。ディズニーの二番煎じや子供にせがまれて大人がしぶしぶ付き添う数字ではない。アニメも子供騙しでは通用しなくなったのですね。結果はエンリケ・ガトが受賞しました。本作は長編アニメーション部門、脚色賞、作曲賞、歌曲賞などにノミネート、長編アニメと脚色の2部門で受賞しました。初めて中国で公開されるスペイン映画だそうで、中国向けコピーを約2000部(!)製作、人口14億人の大国ですからね。日本上陸も期待したい。1977年バリャドリード生れ、若いね。

後者のパコ・レオン、この人の才能もハンパじゃない。「カルミナ」というのは母親の実名、これがモウレツに傑作なお母さんなのです。息子パコと娘マリアが誇りにしている母親のために作った映画だそうで実話とフィクションが半々。アルモドバルの『オール・アバウト・マイ・マザー』がラ・マンチャ版なら、こちらはセビーリャ版というところ。監督、脚本、出演、製作費4万ユーロも自前で調達、親子3人が中心になって作った家族映画だそうです。マラガ映画祭のグランプリ受賞作品、7月公開以来実に楽しい話題を提供しつづけています。パコ自身は監督というより長寿テレドラ・シリーズ“Aida”のカリスマ的な主人公Luisma Garcia Garcia役、その他で認知度バツグン。1974年セビーリャ生れ。「ようこそ、ミスター・パコ・レオン!」
今秋カルミナ第2弾として“CarminaⅡ”(多分このタイトルになる由)の撮影がセビーリャを舞台に始まるようです。前作よりコメディ仕立てながらずっとシリアス、つまりフィクション性が強いということでしょうか。

ゴヤ賞2013 予想と結果③2013年08月18日 13:50

新人男優賞:これは見当つかない。そうは言っても『インポッシブル』で三人兄弟の長男役を演じたトム・ホランドは選ばれないか。イギリスの舞台子役として活躍しているせいかその演技力に感心したが、今後に期待したい。予告編しか見ていないパトリシア・フェレイラの“Els nens salvatges”(Los ninos salvajes)の主人公アレックス・モネールは、先だって開催された第5回ガウディ賞で最優秀男優賞を受賞した。エミリオ・ガビラ(“Blancanieves”)の出発はバリトン歌手。日本でも公開されたハビエル・フェセルの『モルタデロとフィレモン』やラテンビート上映の『カミーノ』などに脇役出演、今ではテレビに舞台にと忙しい。1964年生れの経験豊富な「新人」というわけです。最後がホアキン・ヌニェス(“Grupo 7”)、本作が認められて人気テレドラ・シリーズ“Aida”にも出演。この二人のどちらかになると予想しましたが、ホアキン・ヌニェスがゲットしました。

新人女優賞:カルミナ・バリオス(“Carmina o revienta”)かマカレナ・ガルシア(“Blancanieves”)のどちらかが受賞しますと宣言しました。二人はマリベル・ベルドゥとフォルケ賞を争いましたが、マリベルに軍杯が上がったことは先述しました。7歳のときから喫煙しているというカルミナ・バリオスは、もう実物をYouTubeで見て頂くのが一番いい。誇りに思う息子と娘のために出演を承諾したと語る。演技でなく地でやってるんでしょと言われるが「自分自身を演じるのは結構難しいもんですよ、まだ出演料を貰ってないの」と(笑)。フォルケ賞授賞式に親子3人揃って出席、司会者から「カルミナ、タバコ15分ぐらい我慢できる?」と聞かれて、「大丈夫よ」とにっこり。マラガ映画祭で最優秀女優賞を貰った時には感極まって大泣きしたとか。ゴヤ賞でも再び見られるかと予想しましたがライバルの白雪姫に渡ってしまいました。1954年セビーリャはトリアナ地区の生れ、59歳の新人にしては大変な貫禄です(笑)。

マカレナ・ガルシア、またしてもスター誕生です。本作が映画デビュー、テレビ出演も2010年からというから女優歴は3年足らず。しかしサンセバスチャン映画祭の銀貝賞女優賞に選ばれるという文字通りのシンデレラ・ガール。フォルケ賞は逃しましたが欲しかったのはコチラでした。1988年生れのマドリっ子。今年6月に、’Premio Un Futuro de Cine’ という若い俳優に与えられる賞を受賞しました。その短い経歴にもかかわらず審査員たちの惜しみない賞讃を受けたようです。いずれラテンビート上映、劇場公開などのタイミングを見計らってアップしたい。

長編ドキュメンタリー賞:例年片隅に追いやられがちなセクションですが、今年は個人的に気になる作品があるので触れました。昨年からノミネートが確実視されていたのがエリアス・レオン・シミニアニの“Mapa”。彼は数々の受賞歴もある短編を手掛けており、昨年も“El premio”(2010)が短編ドキュメンタリー賞にノミネートされました。初の長編となる本作は既に「セビーリャ・ヨーロッパ映画祭‘12」でベスト・ドキュメンタリー賞、タラゴナ映画祭でもデビュー作に贈られるオペラ・プリマ賞を受賞しています。
最近4年間の自分自身の日常を語ったもので文学で使用される新語オートフィクションのジャンルにあたります。「厳密な事実をもとにした虚構」とでも言えばいいでしょうか。彼によればパワー・ポップの分野で活躍しているシンガーソングライターの「マシュー・スウィートの“Walk out”が映画の真意」とか。‘When you look into a mirror’という歌詞で始まるところから鏡がキイポイント、そしてつまらなかったら途中退場もオーケーなんでしょう。じゃあ、自作自演のフィクションですか?「いいえ、ここで語られていることは100%現実です」ときっぱり。オリジナル・メーキングをYouTubeで覗くなら一目瞭然、そのユニークさに飲み込まれます。
1971年サンタンデール生れのカンタブリアっ子、ムルシアで文献学を学んだ後、フルブライト奨学金を得てコロンビア大学でも学んだ。日本で紹介されているイサキ・ラクエスタとかダニエル・サンチェス・アレバロなど一癖も二癖もある監督が仲間。後者は本作の製作者の一人でもあり出演者でもある。

受賞したのは、まったく対照的な社会派ドキュメンタリーアルバロ・ロンゴリアの“Hijos de las nubes, La ultima colonia”でした。ハビエル・バルデムを道案内人にしてヨーロッパの国々から見捨てられた西サハラ砂漠の人々の苦しみを描いたもの。2012年ベルリン映画祭がプレミア、マラガ上映作品。重いテーマ、エモーショナルな映像は魅力的。他にハビエルの兄カルロス・バルデム、エレナ・アナヤなど出演しています。サプライズはその道案内人ハビエルがロンゴリア応援に授賞式に馳せつけたことでした。1968年サンタンデール生れ。初監督作品だが製作者歴は長く、公開作品では『チェ28歳の革命』『チェ38歳別れの手紙』、『セブン・デイズ・イン・ハバナ』などに携わっています。地味ながら本作も日本公開が決定しています(配給:コムストック・グループ)。

イベロアメリカ映画賞:大外れだったのがこの部門、まさかこのキューバ作品“Juan de los muertos”(2011)が受賞するとは思わなかった。製作年も1年前だからノミネート自体にビックリしたほど。ラテンビート2012で『ゾンビ革命フアン・オブ・ザ・デッド』の邦題で早々と上映、公開もされました。ホラー・コメディですが、ゾンビとは誰のことかと考えて切なかった観客もいたのではないか。ゾンビ映画大好き人間アレハンドロ・ブルゲス監督によると、皆がゾンビになりたがって、ゾンビ学校でそれらしい歩き方を猛練習した(笑)。さぞかしメイクアップに長時間かかって撮影は大わらわだったでしょう。フアン役には最初からアレクシス・ディアス・デ・ビジェガスを念頭において脚本を書き、ドン・キホーテにはサンチョ・パンサが必要と友人ラサロにホルヘ・モリナを抜擢したとか。『ドン・キホーテ』キューバ版でもあるのかな。1976年ブエノスアイレス生れのボリビア系キューバ人。脚本家として出発、こちらには映画祭上映の作品もあるが、監督としては“Personal belongings”(2006)が『恋人たちのハバナ』の邦題でキューバ映画祭2009で上映されました。本作が2作目になる。

本命はパラグアイの“7 cajas”が貰うと予想しましたが空振り三振でした。社会から疎外された少年グループが複雑な闇社会に翻弄されるスリラー。フアン・カルロス・Maneglia(マネグリア?)とタナ・Schembori(シェンボリ?)という二人の監督が撮った。2011年サンセバスチャンの「Cine en Construccion賞」という新人監督に与えられる賞をもらい、翌年の同映画祭で「Euskatel de la Juventud賞」(ユース賞)を獲得した話題作。今年27回目を迎えるゴヤ賞でもパラグアイ作品ノミネートは初めてのことでした。軍事独裁制(1959~84)が長く続いたパラグアイでは映画はまだ黎明期を迎えたばかり、本国での盛り上がりも頷けます。資金集めは言わずもがな、キャスト陣も初出演がほとんどだから演技指導もゼロから始め忍耐の日々だったとか。モントリオール(カナダ)、マル・デル・プラタ(アルゼンチン)などの各映画祭で上映、パルマ・スプリング国際映画祭(カリフォルニア)New Visionsセクションで特別賞を受賞しました(賞金5000$)。
フアン・カルロス・マネグリアは1966年首都アスンシオン生れ、タナ・シェンボリは1970年同アスンシオン生れ。1990年代にテレビのミニシリーズでコンビを組んだのがコラボの始まり。予告編、メーキングがネットで見られますが、公開が待たれる作品。(苗字の表記がはっきりしないが、一応サンセバスチャン授賞式での司会者に従った。)

ゴヤ賞常連国から選ばれたベンハミン・アビラの“Infancia clandestina”(アルゼンチン他)、マイケル・フランコの“Despues de Lucia”(メキシコ他)、ともにサンセバスチャンで上映された力作。特に前者はHorizontes Latinos部門のオープニング作品。同映画祭での評価も高かったし、観客の反応もよかった。個人的には後者のほうが気に入っているが、いずれご紹介する機会を作りたい。

フアン・アントニオ・バヨナ国民映画賞受賞2013年08月20日 09:23

★フアン・アントニオ・バヨナ国民賞受賞
当ブログ開設前のニュースですが(7月22日)、『インポッシブル』の「フアン・アントニオ・バヨナ、2013年国民賞(映画部門)受賞」が報じられました。監督・俳優・製作者・脚本家・音楽家など、本年度活躍したシネアストに贈られる栄誉賞です。賞金は30.000ユーロと多くないのですが格式のある賞です。古くは2人受賞もありましたが1995年からは1人です。因みに1980年第1回目の受賞者がカルロス・サウラでした。最近の受賞者をピックアップしますと、監督では2011アグスティ・ビリャロンガ(『ブラック・ブレッド』)、2010アレックス・デ・ラ・イグレシア(『ラスト・サーカス』)、俳優では2009マリベル・ベルドゥ(『パンズ・ラビリンス』『テトロ』)、2008ハビエル・バルデム(『ノーカントリー』)など。

「もう驚いて信じられませんでしたが、今は幸せいっぱいです」と語るバヨナは38歳。世代交代が顕著なスペイン映画界でも監督受賞者としては最年少でしょう。海外での活躍、年がら年中危機が叫ばれるスペイン映画界の救世主、観客は言うまでもなく口うるさい批評家からの評価も高く、第1作『永遠のこどもたち』の成功も加味されたか。最も期待される若手監督の一人であることは確かです。(写真:フアン・アントニオ・バヨナ)


★アルベルト・ロドリーゲス新作発表
「ゴヤ賞2013予想と結果①」でもご紹介した“Grupo 7”(“Unit 7”)のアルベルト・ロドリーゲスの第6作目“La isla minima”が今秋クランクインすることになりました。セビーリャ南方約30キロ、グアダルキビル川の低湿地にあるミニマ島がタイトルになっています。この島で起きた若い女性の行方不明事件は遺体の発見を機に殺人事件に発展していくというスリラー。「生と死と救い」の要素がミックスされているとのこと。脚本は前回同様ラファエル・コボスと監督自身、キャストは目下選考中ということです。最近42歳になったばかりの監督、『7人のバージン』や“After”を撮ったときのようなプレッシャーは感じていない由。

ボラーニョの小説、初めて映画化2013年08月23日 08:41

ボラーニョの小説、初めて映画化
★残念ながら話題の長編大作『2666』でも『野生の探偵たち』でもありませんが、ボラーニョの小説“Una novelita lumpen”が“Il futuro”(El futuro)のタイトルで映画化されました。映画祭は364日どこかで開催されているのではと錯覚するほど多い。今年2013年もサンダンス映画祭で幕開けいたしました。英題“The Future”の世界プレミアはこのサンダンス、続くロッテルダム映画祭ではKNF作品賞を受賞いたしました。監督はボラーニョの生れ故郷チリのアリシア・シェルソン。チリ、イタリアでは6月に劇場公開も果たし、アメリカとドイツでも9月公開が決まっています。

*アリシア・シェルソンといえば、長編第1作『プレイ/Play』(2005)で才能を開花させた新世代の監督。こちらの映画は本当に掘出し物でした。埼玉県川口市で開催された「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2006」で新人監督賞を受賞した作品。好評につき東京国際映画祭2006でも上映され、さらに2008年6月にはセルバンテス文化センター土曜映画会でも上映されました。躍進目覚ましいチリ映画界、なかでもクールな新世代の活躍は目を見張るものがあります。

*シェルソンの第4作目になる本作は、製作国がチリ、イタリア、ドイツ、スペインの4カ国、言語がイタリア語、スペイン語、英語と複雑なのも話題になっています。主役のビアンカ役に『マチェカ』や『サンチャゴの光』出演のマヌエラ・マルテッリ(1983年サンティアゴ生れ。名字からも分かるように両親はイタリア系移民なので、西伊のバイリンガル。イタリア映画祭2009上映のサルヴァトーレ・メレウの『ソネタウラ・樹の音』にも主演しているから認知度は高い)。相手役にリドリー・スコットのヒット作『ブレード・ランナー』でレプリカントに扮したルトガー・ハウアーという異色の顔合わせ、ワクワクせずにはいられません。YouTubeで予告編が覗けます。いずれ鑑賞できたら感想をアップします。
(写真:アリシア・シェルソン)

★ロベルト・ボラーニョの原作”Una novelita lumpen”(2002)は、同郷のホセ・ドノソの小説”Tres novelitas burguesas”へのオマージュとして付けられた由。ボラーニョ生前最後の単行本、没後出版の『2666』同様幼い二人の愛児ラウタロとアレクサンドラに捧げられています。因みにホセ・ドノソの小説は、木村榮一訳『三つのブルジョワ物語』として集英社文庫に入っています。これに倣えばさしずめ「あるルンペン物語」とでも訳せましょうか。
*「チリの作家」と紹介されるボラーニョですが、彼自身は生前「チリ人でもメキシコ人でもスペイン人でもなく南米の作家、ラテンアメリカの作家です。スペインのカタルーニャの小村ブラネスにずっと住みつづけていたいと思うけど」と語っています。今年7月15日はボラーニョ没後10周年(1953~2003)、生きていれば還暦を迎えていたのかと感無量です。当時13歳だったラウタロも大人になり、2歳足らずだったアレクサンドラもローティーンだ。そういえば、謎の作家アルチンボルディを追う長編『2666』のハンスとロッテのライター兄妹も10歳違いでした。

アルベルト・セラ、ロカルノ映画祭で金豹賞に輝く2013年08月25日 14:18

★スペインの受賞者としては初めての快挙。受賞作は彼の長編7作目になる“Historia de la meva mort”2013、西仏合作、原題はカタルーニャ語です(西題“Historia de mi muerte”、英題“Story of My Death”)。7作も撮っているのに日本には紹介されていないけど、シネマニアの間ではコアなファンが多い。ロカルノは実験的な映画にシフトしている映画祭だと思うが、日本での受賞者が小林政宏の『愛の予感』(2007)だと聞けば納得していただけるかな。本作の前評判は★★★★☆と上々で受賞の予感がありました。

★プロットの前にAlbert Serraの経歴をちょっと。1975年カタルーニャ州ジローナ県のバニョラス生れ。1992年バルセロナ・オリンピックの際にバニョラス湖が漕艇競技の会場になったところ。バルセロナ大学では哲学と比較文学を専攻。“Crespia, the Film not the Village”(2002)でデビュー。第2作“Honour of the Knights (Quixotic)”(2006、西題“Honor de cavalleria”、つまり騎士物語ドン・キホーテがテーマ。こちらは2007年『カイエ・デュ・シネマ』のベストテン入りを果たしました。最も話題になったのが“El cant dels ocells”(2008、英題“Bard Song”、西題“El canto de los pajaros”)、カンヌがワールド・プレミア、受賞こそしなかったがロカルノのコンペにも選ばれた。だから今回受賞の下地は出来ていたのかもしれない。また2009年から始まった「ガウディ賞」の最優秀作品賞にも選ばれたのでした。

★ストーリー:18世紀のヴェネツィア人、女性遍歴によって知られるジャコモ・カサノヴァの人生最後の日々が語られる。合理主義者のカサノヴァが新しい召使を雇い、放蕩の限りを尽くした18世紀風のシャトーを後に旅に出る。永遠のパワーをもつドラキュラ伯爵のロマン主義的、暴力的、秘教的な新しい力に直面してカサノヴァのハイソサエティな世界は破綻する。抽象的で哲学的な要素がミックスされたプロットのようですね。カサノヴァの旅は148分にもおよぶ長尺なもの、勿論タイトルはカサノヴァの『我が生涯の物語』(“Histoire de Ma Vie”邦題『カサノヴァ回想録』)に合わせたのでしょうね。

★セラによると、18世紀の合理主義的な啓蒙運動の時代は、合理主義的な考えが幅を利かしている今のヨーロッパ社会に似ているという。ヨーロッパはますますドラキュラ的な暗い方向に向かって行くと感じるとも。こういう大賞を貰うと次回作は、「行儀がよくなって高額な大作になりがちだけど、皆さんご心配なく、次回作はこれ以上にクレイジーなものになるはずだから」ですと。
(写真:金豹を手にしたアルベルト・セラ)

新喜劇の旗手ダニエル・サンチェス・アレバロ2013年08月25日 14:27

★ジャンルとしてスペインのコメディは成功例が多い。彼の場合、名前よりデビュー作『漆黒のような深い青』(2006)とか、近くは第3作『マルティナの住む町』(2011)を撮った監督と言ったほうが分かりやすいかもしれない。二つともラテンビートで上映され、2作目となる『デブたち』も「2009スペイン映画祭」で紹介されたから、かなり幸運な人です。第1作はゴヤ賞新人監督賞受賞を筆頭に、国内のマラガに止まらず世界の映画祭ヴェネチア、シカゴ、ストックフォルム、トゥールーズと、高い評価を受けた作品でした。

★次回作は、“Paracuellos”というカルロス・ヒメネスの人気コミックの映画化がアナウンスされていましたが違いました。製作もヒット作を量産しているフェルナンド・ボバイラが責任者のMad Produccionesに決定していたのにね。コミックはスペインでも下降線を描いていますから頓挫したのかもしれません。

★第4作となる“La gran familia espanol”(英題“Family United”)の本国公開が9月13日と目前に迫り話題になっています。負け組5人兄弟(一人は欝病、もう一人は身体障害者、ほかの一人は知恵遅れ・・・)のミクロな世界を描きながら、今やEUのお荷物となっているスペインの、嘘でかためた社会が抱えるマクロな問題にメスを入れているようです。彼自身16年間も精神分析を受けている思惑の人だから、書くことで克服しようとしたようです。1970年生れということは年齢的に難しい時期に差しかかっているのかもしれません。背景にはハリウッドの古典、ブロードウェイでもロングランしたスタンリー・ドーネンの『掠奪された七人の花嫁』(1954)への目配せがあるということです。

★キャストは、今年4月惜しくも鬼籍入りしたビガス・ルナの『女が男を捨てるとき』(2006)やイシアル・ボジャインの“Katmandu”で主役を演じたベロニカ・エチェギ(カトマンズ入りしての過酷な条件下の撮影にカルチャーショックを受けた由)。ビガス・ルナのは日本ではクソミソだったが理解されにくいのが残念です。こちらは劇場未公開作品ですが、2012年セルバンテス文化センター土曜映画会で上映されました。男性陣は監督が「義兄ちゃん」と呼んで義兄弟同然のアントニオ・デ・ラ・トーレ(4作オール出演)、『デブたち』以外出演したキム・グティエレス、今年スクリーンで見られたら嬉しい映画の一つ。
(写真:ダニエル・サンチェス・アレバロ)

ボラーニョのドキュメンタリー上映とトーク2013年08月27日 23:10

ボラーニョのドキュメンタリー上映とトークのお知らせ
★「ロベルト・ボラーニョに捧ぐ」
場所:セルバンテス文化センター地下1階オーディトリアム
日時:『2666』に因んで9月26日(木)19:00~
*日本語字幕付・トーク日本語・入場無料・要予約
  ↓
 http://reservas.palabras.jp/ja/

上映されるのはYouTube でも見られるスペイン国営テレビが制作した
コチラだと思います。”El ultimo maldito” (Docmental TVE)
  ↓
http://www.youtube.com/watch?v=J8OvU9SmxhI

★コンパクトながらボラーニョ理解に役立ちます。
ボラーニョ自身へのインタビュー、バルガス=リョサ、フアン・ビジョロ(メキシコ)など作家、長編『2666』『野生の探偵たち』を出版したアナグラマ社の編集者ホルヘ・エラルデ他、17年間過ごしたブラネス(ジローナ県)の友人、ボラーニョ一家の珍しい写真なども。
ボラーニョだけでなくスペイン、ラテンアメリカの作家にも言及していて、見てから作品を読むと2倍楽しめます。

コルタサル『石蹴り遊び』刊行50周年2013年08月27日 23:35

コルタサル『石蹴り遊び』刊行50周年
★恒例のマドリード・コンプルテンセ大学の夏期講座が、今年もサン・ロレンソ・デ・エル・エスコリアル市で開催されました(7月1日~26日)。第26回目を迎えるこの講座に「コルタサルとラテンアメリカ文学ブーム」というタイトルで、アウロラ・ベルナルデスとバルガス=リョサの対談形式の企画が登場して話題になりました。アウロラさんというのは最初のコルタサル夫人(1953~67)で、作家の著作権所有者です。というのも晩年に再婚した娘ほども年の違うキャロル・ダンロップがコルタサルより先に鬼籍入りしたからです。今年は『石蹴り遊び』刊行50年にあたるのでスポットが当てられたようです。

★来年の生誕100年、没後30年の先行企画かもしれませんが、個人的には生誕や没後より『石蹴り』刊行50年のほうが意味深いと思っています。昨年は『クロノピオとファマの物語』(未訳)刊行50周年、あまり表面に出ることをしなかった<クロノピア>・アウロラも、残された時間をコルタサルの未発表書簡の刊行に注いでいるようです。

★会場に現れた二人の御髪はともに真っ白、それはそうです、御年93歳と76歳ですから。アウロラさんはセルバンテス文化センターで開催された写真展、講演会(2008)に来日が予定されながら体調不良で叶いませんでした。しかし今回は白地にピンクの可愛い蝶々や傘マークを散らした若々しいブラウス姿、ウィットに富んだ受け答えから100周年も元気に迎えられるだろうと推測致しました。

★コルタサル夫妻とノーベル賞作家の出会いは1958年、当時二人が住んでいたパリの家だそうです*。時代を感じますが、家の玄関口は新聞の切り抜きなど雑多なものが崩れんばかりに積んであった由。御存じの通り当時二人はユネスコの翻訳官をしており、アウロラさんはサルトル、発売されたばかりのロレンス・ダレルの『アレキサンドリア四重奏』(1957)、イタロ・カルヴィーノなどを訳していたそうです。その他フロベール、フォークナー、ナボコフ等々、母語のスペイン語以外に英仏伊に堪能な女性、才色兼備というのはこういう人を言うんですね。勿論『石蹴り』の最初の読者でした。

★因みにダレルの『アレキサンドリア四重奏』第1部「ジュスティーヌ」はジョージ・キューカーによって映画化されました(1969)。ジュスティーヌにアヌーク・エーメ、僕ダーリーにマイケル・ヨーク、メリッサにアンナ・カリーナと異色のキャスティングでしたね。同年『アレキサンドリア物語』の邦題で劇場公開されました。

★『石蹴り』に話を戻すと、成功はまさに衝撃的だったそうで、同時に多くのライバルを持つことにもなった。当時、アウロラさんは読者から「ラ・マーガのモデルはあなたか」とよく質問されたそうです。バルガス=リョサも「あなたでしょ?」と質問、「いいえ」と頬笑みながらもやんわり否定。「でも、あなたに似てますよ」と執拗に食い下がるも、やはり「No です、とんでもありませんわ」。それでも当時コルタサルを取りまいていた「ある女性からインスピレーションを受けたのは確か、でも本人は気を悪くしたの」と悪戯っぽく答えた由。

★プラトニックに終わった「ラ・マーガ」ことエディット・アロンのことを指しているんですね。知ってて聞いたとしたらペルーの作家も人が悪い。アウロラが言うように「感情を害した」と本人もきっぱり否定しています。この三角関係はちょっと興味深い。その後アロンは結婚して娘も生れ、三十年以上前からロンドン暮らしです。面食い<頭食い>だったフリオを取りまく女性の共通点は、<クロノピア>だったこと、フランス女性じゃなかったことです。

★最後に『石蹴り』が古典として残ると思うかの質問には、「もう50年待たないと」が答えでした。老いてますます冷静です。

(*バルガス=リョサが、「1960年代にパリで出会った」と話したことがあるようですが、1958年に夫妻と一緒にギリシャ旅行に出かけたときの写真がありますから勘違いですね。破局の時期を1968年ごろと推定しておりますが、二人の結婚は1953年8月22日パリ、アウロラの友人夫妻を介添え人として市民婚。正式離婚は1967年ですが、感情のちぐはぐはかなり前から始まっていたようです。ガリマール社の超美人編集者ウグネ・カルヴェリスの出現が破局の理由という説もあるのですが、既に壊れていたのかもしれません。アウロラはパリを離れてブエノスアイレスで翻訳してはパリに届けに戻るという二重生活だったようです(ユネスコの翻訳官を1983年までしていた)。カルヴェリスとは正式に入籍しませんでしたが、キャロル・ダンロップ(カナダ出身の作家・写真家)が登場するまでのパートナーでした。コルタサルだけでなくネルーダ、カルペンティエル、パスなどラテンアメリカの作家たち以外にもミラン・クンデラなどの編集者でした。1970年、アジェンデの招待でチリのサンチャゴに同行した女性でもあり、コルタサルの左傾化に影響を与えたといわれる女性です。このリトアニア出身の女性闘士はアウロラとは対照的な強さと行動力のある才媛、惜しむらくは極端な嫉妬心や飲酒癖があり、二人は1979年に関係を解消しています。2002年に死去しています。コルタサルが「疲れを知らない旅人」として1970年代を世界行脚に費やしたのは、もしかして逃避旅行でもあったか。)