ビクトル・エリセにドノスティア栄誉賞*サンセバスチャン映画祭2023 ⑫ ― 2023年09月02日 16:27
二人目の受賞者がビクトル・エリセにびっくり
★8月22日、第71回サンセバスチャン映画祭事務局は、二人目のドノスティア栄誉賞受賞者がビクトル・エリセ(ビスカヤ県カランサ1940)監督とアナウンスしました。一人目が5月12日に発表された俳優のハビエル・バルデム、第71回の顔になっています。順序が逆のような印象を受けますが、SSIFFの栄誉賞受賞者の公式サイトには、エリセ、バルデムの順になっており、先輩エリセに敬意をはらったようです。
*ハビエル・バルデムのドノスティア栄誉賞受賞記事は、コチラ⇒2023年06月09日
★授賞式は9月29日、メイン会場クルサールではなく、最新作「Cerrar los ojos / Close Your Eyes」(スペイン=アルゼンチン合作)が上映されるビクトリア・エウヘニア劇場、50年前に長編デビュー作『ミツバチのささやき』(73)が上映された劇場です。本作はSSIFFの金貝賞受賞作品、2003年には『ミツバチのささやき』金貝賞受賞30周年記念上映会が開催されています。プレゼンターは撮影時7歳だったアナ・トレント、長編4作目となる新作にも出演しています。本祭上映後に、スペインでは一般公開が確定しています。
(左から、製作者エリアス・ケレヘタ、アナ・トレント、姉役イサベル・テリェリア、
エリセ監督、サンセバスチャン映画祭2003年)
★1986年に新設されたドノスティア栄誉賞は、第1回に俳優グレゴリー・ペックを選出、以来演技者の受賞者が続き監督にも光があたるようになったのは、アグネス・ヴァルダ(17)、是枝裕和(18)、コスタ・ガブラス(19)、クローネンバーグ(22)など最近のことです。エリセで受賞者はトータル69人となり、スペイン人の受賞者は今回の2人を含めて7人です。フェルナンド・フェルナン=ゴメス(99)、パコ・ラバル(01)、アントニオ・バンデラス(08)、カルメン・マウラ(13)、ペネロペ・クルス(19)、ハビエル・バルデム、監督一筋の受賞者はビクトル・エリセが初めてでしょう。
★授賞理由は書くまでもないのか公式のコメントはありませんし、当ブログでも監督キャリア&フィルモグラフィーは「Cerrar los ojos」で最近アップしたばかり、カンヌ映画祭2023欠席の経緯も紹介済みです。以下の写真は、3つのエピソードで構成されたオムニバス「Los desafíos」(DVD邦題『挑戦』)がサンセバスチャン映画祭1969の監督賞を受賞したときの、エリセ他、ホセ・ルイス・エヘア、クラウディオ・ゲリンの新人3人です。今は亡き大物プロデューサーであったエリアス・ケレヘタのお眼鏡にかなった3人です。4年後にエリセは『ミツバチのささやき』で金貝賞に輝いたことは上述の通りです。
(エリセ、ホセ・ルイス・エヘア、クラウディオ・ゲリン、
本祭の招待客宿泊ホテルである、マリア・クリスティナ、1969年)
*「Cerrar los ojos」の撮影予告、短編の紹介記事は、コチラ⇒2022年07月15日
* 全フィルモグラフィーの紹介記事は、コチラ⇒2022年07月25日
*「Cerrar los ojos」内容紹介記事は、コチラ⇒2023年04月29日
*カンヌ映画祭2023レッドカーペット欠席のニュースは、コチラ⇒2023年05月25日
*「カンヌ映画祭欠席についての公開書簡」の記事は、コチラ⇒2023年05月30日
開幕・閉幕のガラチケット販売開始*サンセバスチャン映画祭2023 ⑬ ― 2023年09月05日 18:53
開幕閉幕のガラチケット販売開始、各80ユーロは高いのか安いのか
★目下映画関連の話題と言えば、スペインでも8月30日に始まった第80回ベネチア映画祭、イタリア勢のほか、スキャンダル疑惑の渦中にあるウディ・アレンの50作目「Coup de Chance」(仏語、コンペ外)プレミアに抗議が起こったり、アジア勢で唯一選ばれた浜口竜介の新作『悪は存在しない』がコンペ入りしている。スペイン語映画ではチリのパブロ・ララインが独裁者ピノチェトをバンパイアに仕立てて撮った「El Conde」、言語は英語だがメキシコのミシェル・フランコの「Memory」、アウト・オブ・コンペティションだが、クロージングを飾るJ・A・バヨナの「La sociedad de la nieve」など、ハリウッドのWストライキの影響を受けて、スター不在で盛り上がりに欠けているようですが、やはり豪華版です。バヨナの新作は、1972年ウルグアイのアンデス航空事故に材を取っており、今年中に『雪山の絆』としてNetflix配信が決定しています。
★さてサンセバスチャン映画祭も開催月9月に入ってから、オープニング&クロージングのチケット販売が開始されました。開幕の全体を統率するのは、女優で監督、脚本家でもあるミレイア・ガビロンドと作家で批評家のボブ・ポップ。進行は女優エバ・アチェと俳優ゴルカ・オチョアが開幕を、エバ・アチェは女優のロレト・マウレオンと組んで閉幕も担当するということです。
★オープニング作品は、アウト・オブ・コンペティションの宮崎駿の『君たちはどう生きるか』上映のほか、Gran Premio FIPRESCIが授与されるアキ・カウリスマキの「Kuolleet ledhet / Fallen Leaves」(22、フィンランド=ドイツ合作、当ブログ未紹介)も上映される。本賞は国際映画批評家連盟のメンバー669名の投票で選出される賞で、本作はカンヌ映画祭2023審査員賞受賞作品です。その他、セクション・オフィシアルの審査員紹介も含まれているということですから80ユーロも高くないでしょうか。
★9月4日10:00から、開幕(9月22日20:30)、閉幕(9月30日21:00)、クルサール・ホールにて開催のチケット代各80ユーロ(約12,000円)が発売になりました。またビクトル・エリセのドノスティア栄誉賞(9月29日22:00)のガラチケット(20ユーロ)も入手できるそうです。
メイド・イン・スペイン部門19作*サンセバスチャン映画祭2023 ⑭ ― 2023年09月11日 17:53
ワールドプレミアが5作、クラウディア・ピントのドキュメンタリー
★8月29日、今年1年の話題作が一挙に鑑賞できるのが「メイド・イン・スペイン」(MS)です。マラガ映画祭ノミネート、または受賞作などで当ブログでご紹介済みの作品が目につくのもこのセクションです。今年は19作、うち5作がワールドプレミアです。新型コロナ以前のラテンビート映画祭(LBFF)の上映作品の多くが、このセクションから選ばれていました。
★マラガ映画祭関連では、ヘラルド・エレーロの「Bajo terapia / Under Therapy」(審査員特別賞受賞)、フアン・ゴンサレス&フェルナンド・マルティネスの「El fantástico caso del Golem / The Fantastic Golem Affairs」(95分)、エレナ・トラぺの「Els encantats / Los encantados」(カタルーニャ語、108分、脚本賞受賞)、アルバロ・ガゴの「Matria」(99分、マリア・バスケスが女優賞受賞)、カルラ・スビラナの「Sica」、アレハンドロ・ロハス&フアン・セバスティアン・バスケスの「Upon Entry / La llegada」(74分、アルベルト・アンマンが銀のビスナガ男優賞受賞)、エレナ・マルティン・ヒメノの「Creatura」は、カンヌ映画祭と併催の「監督週間」にノミネートされ、最優秀ヨーロッパ映画賞を受賞しています。各作品紹介と監督キャリアなど長短ありますが既にアップしております。
(アルベルト・アンマンが男優賞を受賞した「Upon Entry / La llegada」ポスター)
クラウディア・ピント監督と女優カルメ・エリアスの共同作品
★ワールドプレミア5作のうち、ぜひご紹介したかったのが、クラウディア・ピント・エンペラドールのドキュメンタリー「Mientras seas tú / While You’re Still You」(仮題「あなたが未だあなたでいるうちに」)です。監督は1977年ベネズエラのカラカス生れですが、スペインで映画製作をしている、いわゆる才能流出組の一人です。アルツハイマー病の診断を受けた後の女優カルメ・エリアスの「ここ、今」を4年前から追っているドキュメンタリー。カルメ・エリアス(バルセロナ1951)と言えば、ハビエル・フェセルの『カミーノ』の頑迷なオプス・デイ信者の母親役(ゴヤ賞2009主演女優賞受賞)が有名ですが、クラウディア・ピントのデビュー作「La distancia más larga」(13)のヒロインだったことも記憶に残っています。数多の国際映画祭を駆け巡り、二人に大きな賞を多数もたらした作品でもありました。
(クラウディア・ピントの新作「Mientras seas tú / While You’re Still You」)
★他にピントの第2作「Las consecuencias」は、マラガ映画祭2021の批評家審査員特別賞受賞作ですが、主役フアナ・アコスタの母親役で出演しています。2021年というのはカルメがガウディ栄誉賞を受賞した年でもあり、当時はまったく知りませんでしたが、既にアルツハイマー病の診断を受けていたことになり、本当に驚きを隠せません。
(カルメ・エリアス、第13回ガウディ栄誉賞2021の授賞式から)
★「Mientras seas tú / While You’re Still You」は、クラウディア・ピントとカルメ・エリアス、二人の親密な共同作品として、アルツハイマー病の診断の無気力と闘う方法として4年前に始まりました。寛大で勇気があり、活力に富んだ証言である。アルツハイマー病についての教育を意図しておらず、良心の喪失に圧倒的な明快さで直面する女優の旅に同行することを目的としている。「私の最後の意識的な旅」とカルメ。進行中のユニークな作品であるため、サンセバスチャン映画祭で見られる作品と、いずれ公開される作品とは同じものではないということです。カルメが追求する「ここ、今」は、愛と友情、映画と演技を前提としており、不確実性への創造的な旅、ネットのない空虚への飛躍です。
★舞台演出家フアン・カルロス・コラッサが最後のリハーサルに同行する。女優を手放すことを拒否する映画監督クラウディア・ピント、自身の痕跡を残すことを熱望する女優。ピントは「映画のメイキングは映画の一部であり、カルメ同様、私たちも絶対的な現在に生きています。創造的なプロセスでの疑問、適切な判断、または誤りを節度を超えて共有しています」と語っている。現在を生きるための説得力のある招待となっている。
(ゴヤの胸像を手に、ゴヤ賞2009主演女優賞のガラにて)
★また監督は、「今まで作ったなかで最も難しい映画です。今回はフィクションという逃げ場がありません。カルメはキャラクターを演じているわけではありません。私たちを現実から切り離すアクッションもカットもありません」と製作の困難さを語っている。予告編を鑑賞できますが、これがドラマだったらと思わずにいられません、少し辛いですね。ジュリアン・ムーアにアカデミー主演女優賞以下、数えきれないほどのトロフィーをもたらした『アリスのままで』(14)に、いま思いを馳せています。
(クラウディア・ピント監督、マラガ映画祭2021)
*カルメ・エリアスの第13回ガウディ栄誉賞受賞の記事、キャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2021年03月29日
*クラウディア・ピントの「Las consecuencias」の作品紹介、監督キャリア&フィルモグラフィーは、コチラ⇒2021年07月01日
宮崎駿監督にドノスティア栄誉賞*サンセバスチャン映画祭2023 ⑮ ― 2023年09月14日 16:47
3人目となるドノスティア栄誉賞に宮崎駿監督
(ドノスティア栄誉賞のトロフィー)
★9月8日、第71回サンセバスチャン映画祭の3人目となるドノスティア栄誉賞に宮崎駿監督が選ばれました。同時に今年のサンセバスチャン映画祭の顔になっていたハビエル・バルデムの現地入りがなくなり、彼のドノスティア栄誉賞も来たる2024年に持ち越しという爆弾発表もあり、映画祭の顔が登場しないという異例の事態になりました。俳優の欠席理由は、5月2日から始まった全米脚本家組合のストライキと、ハリウッドで7月14日から始まった全米俳優組合のストライキに呼応するためです。受賞そのものを辞退するわけでなく、来年に延期するということです。マスメディアへの対応にも応じないし、感謝のビデオテープも録画しないという徹底ぶりです。
(映画祭の顔でなくなったが、今さら変更できない公式ポスター)
★2018年の是枝監督に次いで、アジアで2人目の受賞者となった宮崎駿監督は、長編アニメから引退する意向を表明していたが、新作『君たちはどう生きるか』で復帰した。2013年の『風立ちぬ』から10年ぶりとなる新作は、今回のオープニング作品、期間中6回の上映がアナウンスされている。22日にメイン会場クルサール1で3回、2回目(20:30~)と3回目(21:40~)のインターバルで授与式が予定されているようだが、高齢を理由にガラには出席せずオンラインで受けとると、現地メディアは報道している。スペイン公開は10月27日の予定。バルデムは延期となり、結局のところ出席は29日のビクトル・エリセ一人となり、異例ずくめとなりました。
セクション・オフィシアルの審査員発表*サンセバスチャン映画祭2023 ⑯ ― 2023年09月18日 08:44
審査委員長はフランスのクレール・ドニ監督
★9月8日、セクション・オフィシアルの審査員7名が発表になりました。審査委員長はヨーロッパを代表する監督の一人、フランスのクレール・ドニ監督以下、中国の女優ファン・ビンビン、コロンビアの製作者で監督のクリスティナ・ガジェゴ、フランス出身だがニューヨークで活躍している写真家ブリジット・ラコンブ、スペインの女優ヴィッキー・ルエンゴ、ハンガリーはブダペスト生れだがカナダで主に活躍しているロバート・ラントス、ドイツの監督&脚本家のクリスティアン・ペツォールト、以上女性5名、男性2名となりました。
★審査委員長のクレール・ドニ(ドゥニとも表記、パリ1946)は、1988年『ショコラ』でデビュー、『パリ、18区、夜。』がカンヌ映画祭1994「ある視点」にノミネート、1996年の『ネネットとボニ』はロカルノ映画祭金豹賞を受賞した。ベルリン映画祭2022で銀熊監督賞を受賞した『愛と激しさをもって』は、昨年のSSIFFで特別上映されている。その他、『ホワイト・マテリアル』(09)、SFスリラー『ハイ・ライフ』(18)など。本邦ではミニ映画祭が企画されるなどファンも多く、代表作が字幕入りで鑑賞できる監督。
★審査員ファン・ビンビン(中国1981)は女優、本祭との関りでは第64回SSIFF 2016に、フォン・シャオガンの「I Am Not Madame Bovary」(「わたしは潘金蓮じゃない」)で銀貝女優賞を受賞している。脱税疑惑、消息不明など、映画以外で話題を振りまいた過去がある。
★審査員クリスティナ・ガジェゴ(コロンビアのボゴタ1978)は、製作者、監督。チロ・ゲーラの『彷徨える河』(15)を製作、大成功をおさめた後、ゲーラと共同監督した『夏の鳥』(18)で監督デビュー、カンヌ映画祭併催の「監督週間」のオープニング作品に選ばれた。ガジェゴについてはキャリア&フィルモグラフィーを紹介している。ゲーラとは彼の数人に及ぶ女性セクハラ問題で結婚を解消している。
*『彷徨える河』の作品紹介ほかキャリアについては、コチラ⇒2016年12月01日
*『夏の鳥』の作品紹介は、コチラ⇒2018年05月18日
★審査員ブリジット・ラコンブ(フランス1950)は、ニューヨークで活躍する写真家。スパイク・ジョーンズのデビュー作『マルコヴィッチの穴』(99)、スコセッシの『ギャング・オブ・ニューヨーク』、『マリリン 7日間の恋』などのカメラ部門、スチール写真を手掛けている。写真集多数出版。
★審査員ヴィッキー・ルエンゴ(スペイン1999)は女優、ミケル・グレアがSSIFFでFIPRESCI賞を受賞したスリラー「Suro」(カタルーニャ語)でゴヤ賞2023主演女優賞にノミネートされている。
★審査員ロバート・ラントス(ブダペスト1949)は、ハンガリー出身だがカナダで活躍している製作者。クローネンバーグとタッグを組んだ『イースタン・プロミス』(08)、同最新作の『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』は目下公開中。
★審査員クリスティアン・ペツォールト(ドイツ1960)は、監督、脚本家。ベルリン映画祭2012にノミネートされた『東ベルリンから来た女』で、銀熊監督賞を受賞した。
★ヨルゴス・ランティモスの『哀れなるものたち』を金獅子に選んで閉会したばかりのベネチア映画祭、ハリウッドの全米俳優組合のストライキに賛同した豪華スターの欠席で、レッドカーペットは例年のような盛り上がりがなく、淋しかったとメディアは伝えていた。ベネチアでさえそうなら、サンセバスチャンはもっと淋しいことでしょう。銀獅子の脚本賞を受賞したパブロ・ララインの吸血鬼ホラー・コメディ『伯爵』もネットフリックスで既に配信が始まっています。出だしは結構笑えますが、いずれアップしする予定です。
★現地入りが予定されている海外勢では、昨年のドノスティア栄誉賞受賞者ジュリエット・ビノシュ、アイルランドのガブリエル・バーン、『パリ、18区、夜。』の主役フランソワ・クリュゼ、フランスのエマニュエル・ドゥヴォス、米国のグリフィン・ダン、デンマークのマッツ・ミケルセン、イギリスのジェームズ・ノートンやドミニク・ウェストの俳優、監督や製作者としては新作「イオ・カピターノ」で銀獅子監督賞を受賞したマッティオ・ガローネ、カンヌFF2023で『アナトミー・オブ・フォール』がパルムドールに輝いたジュスティーヌ・トリエ、ベトナム出身だがパリ育ちのトラン・アン・ユン、ロバン・カンピヨ、オーストラリアのクレイグ・ガレスピー、カンヌのグランプリやパルムドールを受賞しているジョナサン・グレイザーなど、日本でも知名度のあるシネアストたちの来西がアナウンスされています。
国際映画祭の受賞作が並ぶペルラク部門17作*サンセバスチャン映画祭2023 ⑰ ― 2023年09月22日 10:32
ペルラク部門オープニングはカンヌのグランプリ「The Zone of Interest」
★今年のペルラク部門のオープニング作品は、ジョナサン・グレイザーの「The Zone of Interest」(La zona de interés アメリカ=イギリス=ポーランド)、カンヌ映画祭2023の目玉でパルムドールが期待されていましたが、第2席にあたる審査員グランプリを受賞しています。強制収容所アウシュビッツ・ビルケナウの有刺鉄線の向こう側で贅沢三昧を満喫しているルドルフ・ヘス司令官一家の幸せな日常と収容所の阿鼻叫喚が交互に描かれる。ホロコーストの恐怖を描いた作品は数えきれないほど鑑賞してきているが、こちら側とあちら側が同時進行する映画は衝撃的ではなかろうか。12月8日アメリカ公開、来年早々日本の映画館にも登場するようです。グレイザー監督の現地入りも予定されている。
(オープニング作品「The Zone of Interest」から)
★クロージング作品は最初、トロント映画祭でワールド・プレミアされた、ラジ・リの「Les Indésirables」(Los indeseables フランス)がノミネートされていましたが、どうも上映されないようです。どういう事情なのか目下情報は未入手です。彼のデビュー作『レ・ミゼラブル』(19)はオスカー賞ノミネート以下、ゴヤ賞2020のヨーロッパ映画賞受賞作、国際映画祭の賞荒らしでした。
(ラジ・リの「Los indeseables」から)
★ペルラク部門は金貝賞には絡みませんが、サン・セバスティアン市がオーナーであるドノスティア市観客賞の対象になります。観客の投票数で2作品が選ばれます。作品賞には50.000ユーロ、ヨーロッパ作品賞には20.000ユーロが副賞として授与される。またビクトリア・エウヘニア劇場で上映される作品のうちアルマーニ・ビューティがパトロンの賞の対象作品になっています。クロージングに発表され、トロフィーが授与される。
★昨年の作品賞は、アルゼンチンのサンティアゴ・ミトレの『アルゼンチン1985』、ヨーロッパ作品賞にはスペインのロドリゴ・ソロゴジェンの『ザ・ビースト』が受賞、前者はプライムビデオ配信、後者は東京国際映画祭2022の東京グランプリ受賞作と、共に字幕入りで鑑賞できました。
★また今回、サン・セバスティアン市の選挙人名簿登録者(18歳以上)のうち失業者を対象に、メイン会場クルサール、あるいは3000人収容のベロドロモで上映される映画のチケット1000枚が既に配布されたと報じています。日本ではちょっと考えられないですね。本祭のホセ・ルイス・レボルディノス総ディレクターは、サン・セバスティアン市に感謝の辞を述べている。
(手前がホセ・ルイス・レボルディノス、後方がドノスティア市長エネコ・ゴイア氏)
★本祭に限らずアジア勢は日本以外は閑散としている。日本関連作品は、サンセバスチャンとは相性のいい浜口竜介の『悪は存在しない』(ベネチアFF 銀獅子審査員賞)、是枝裕和の『怪物』(カンヌFF クィア・パルム賞・坂元裕二脚本賞)、ドイツとの合作映画だがヴィム・ヴェンダースの『Perfect Days』(カンヌFF 役所広司男優賞、12月22日公開)の3作がノミネートされています。韓国出身でカナダで活躍するセリーヌ・ソンのラブストーリー『Past Livesパスト・ライブス』(サンダンスFF、ベルリンFF)の製作国は米国です。今年は合作を含めると最多の4作が選ばれている。
(浜口竜介の『悪は存在しない』から)
(是枝裕和の『怪物』から)
(ヴィム・ヴェンダースの『Perfect Days』から)
(セリーヌ・ソンの『Past Livesパスト・ライブス』から)
★いよいよ開幕が近づいて(9月22日20:30現地時間)、招待客の現地入り報道も活発になってきました。他の映画祭同様、映画祭関係者も含めて、もうマスク着用姿はみられません。「La sociedad de la nieve / Society of the Snow」(邦題『雪山の絆』でNetflix配信が予告されている)のJ.A. バヨナも既に現地入りして、出迎えのホセ・ルイス・レボルディノスとハグ、ファンとの撮影にも応じていました。他セクション・オフィシアルの審査員のクリスティアン・ペツォールト、彼の最新作「Roter Himmel / Afire / El cielo rojo」はペルラクにノミネートされている。ヴィッキー・ルエンゴ、ファン・ビンビンも到着しましたが、しかしこれからが本番です。ペルラク部門のうちスペイン語映画をピックアップして時間の許す限り紹介する予定です。
雨のオープニング*サンセバスチャン映画祭2023 ⑱ ― 2023年09月25日 10:29
雨の中でもファンサービスを怠らない招待客
★9月22日(金)、満席とはなりませんでしたが第71回サンセバスチャン映画祭2023が開幕しました。あいにくの小雨が降りそそぐなか、ペルラク部門オープニング作品「The Zone of Interest」のジョナサン・グレイザー監督、アルフォンソ・ロハ、ペルラク部門「May December / Secretos de un Escándalo」のトッド・ヘインズ監督、セクション・オフィシアルの審査委員長クレール・ドニ監督、スペイン勢では2023年の映画国民賞を受賞するカルラ・シモン、セクション・オフィシアル「They Shot the Piano Player」のフェルナンド・トゥルエバ、開幕式でプレゼンターを予定されているカジェタナ・ギジェン≂クエルボ、などが次々に宿泊ホテルであるマリア・クリスティナに吸い込まれていきました。北スペインは既に秋の気配が濃厚です。
★今宵のガラの総合司会は、既にご紹介したように女優のエバ・アチェと俳優のゴルカ・オチョア、前者がスペイン語、後者がバスク語で進行しました。イベントのシナリオはボブ・ポップ、演出はミレイア・ガビロンドでした。
(総合司会のエバ・アチェとゴルカ・オチョア)
★オープニング・ガラのハイライトは、宮崎駿監督のドノスティア栄誉賞の授与式でありましたが、監督は東京からオープニング作品に選ばれた『君たちはどう生きるか』を楽しんでいただきたい、また栄誉賞受賞に感謝の辞を述べるだけに終わった。本祭の総ディレクターであるホセ・ルイス・レボルディノスは、「ミヤザキのビデオを録画しなかったのは監督の強い要望であった」と観客に伝えた。
(舞台のスクリーンに映し出された感謝の辞を淡々と述べる監督)
★イギリスの俳優ドミニク・ウェストによって今年のFIPRESCI賞が「Fallen Leaves」のアキ・カウリスマキ監督に授与された。こちらも本人は登場せず制作会社アバロンの総ディレクター、製作者のステファン・シュミッツが代理で受けとった。プレゼンターはリタ・ディ・サント。
(FIPRESCI賞を代理で受けとったステファン・シュミッツ)
★他にニューディレクターズ部門の作品賞には50,000ユーロ、ネスト部門には10,000ユーロ、サバルテギ-タバカレア部門には20,000ユーロの副賞が授与されることがアナウンスされた。それぞれノミネートされている作品の紹介があった。ニューディレクターズはアネ・ガバライン、ケパ・エラスティ、ソフィア・オテロなどが担当した。
(ケパ・エラスティ、ソフィア・オテロ、アネ・ガバライン)
★オリソンテス・ラティノス部門に自らも監督デビューした、アルゼンチンのドロレス・フォンシが登場、ガストロノミア部門、オリソンテス・ラティノス部門の作品紹介をした。レッドカーペットにはパートナーのサンティアゴ・ミトレがエスコートしていた。
(ドロレス・フォンシ)
★ボブ・ポップとゴヤ賞2023の新人賞を受賞したテルモ・イルレタが揃って車椅子で登場、ジネミラ部門、メイド・イン・スペイン部門、などの作品紹介をした。
(テルモ・イルレタ、ボブ・ポップ)
★ウィットに富んだプレゼンターとして本祭には欠かせないカエタナ・ギジェルモ≂クエルボが登場、ペルラク部門の作品紹介で会場を沸かせていた。セクション・オフィシアル、審査委員長クレール・ドニ監督以下の審査員(ヴィッキー・ルエンゴ、ファン・ビンビン、ブリジット・ラコンブ、クリスティアン・ペツォールト、クリスティナ・ガジェゴ、ロバート・ラントス)の紹介があった。
(クレール・ドニ監督)
(セクション・オフィシアルの審査員7名、フォトコールから)
★歌手のマリア・ベラサルテがルイス・エドゥアルド・アウテ(新型コロナ感染で2020年没)の ‘Al alba’ を熱唱した。サンセバスチャン映画祭の元総ディレクターであったマヌエル・ぺレス・エストレメラ(1944~2023)のようなシネアストの点鬼簿が次々にスクリーンショットされた。彼はサンセバスチャン映画祭のみならず、TVE、ICAAなどのディレクターでもあり、9月6日に鬼籍入りしたばかりでした。大した盛り上がりもなく粛々と推移したオープニングでした。
(カエタナ・ギジェルモ≂クエルボ)
(マリア・ベラサルテ)
(ホセ・ルイス・レボルディノス)
(左から、ゴルカ・オチョア、ギジェルモ≂クエルボ、ボブ・ポップ、エバ・アチェ)
現地入りしたシネアストたち*サンセバスチャン映画祭2023 ⑲ ― 2023年09月27日 14:37
ラテンアメリカの懐かしいシネアストたちがやって来ました
★9月22日のオープニングから24日までのフォト集です。日本からも若いシネアストが現地入りしていますが、セクション・オフィシアルの審査員、当ブログにアップしているラテンアメリカ諸国やスペインの監督や俳優に絞ってアップしました。オープニングはあいにくの雨でしたが、23日から天候も回復、野外でのフォトコールが増えてきています。
★フアン・アントニオ・バヨナ監督の「La sociedad de la nieve」(邦題『雪山の絆』)は、第96回アカデミー賞国際長編映画賞2024のスペイン代表作品に決まったこともあり、多くのメディアの取材を受けています。後日作品紹介を予定していますが、まず12月21日に発表されるプレセレクション15作に残れるかどうかです。他の2作はエスティバリス・ウレソラ監督の「20,000 especies de abejas」(マラガFF金のビスナガ賞)、ビクトル・エリセの「Cerrar los ojos」でした。
(舞台挨拶するバヨナ監督とキャスト、スタッフ)
(バヨナ監督と主演のEnzo Vogrincic、9月22日)
(エスティバリス・ウレソラ監督と主演のソフィア・オテロ、22日)
★2023年の映画国民賞を受賞したカルラ・シモンの授与式は、23日でした。この賞はスペイン文化スポーツ省が選考母体、従ってプレゼンターは時の文化スポーツ相、今年はミケル・イセタ大臣でした。
(映画国民賞2023を受賞したカルラ・シモン、9月23日)
(ジョナサン・グレイザー、ペルラク部門「La zona de interés」舞台挨拶9月22日)
(左から、アルフレッド・カストロ、監督、アルムデナ・ゴンサレス、セルジ・ロペス
パウラ・エルナンデスの「El viento que arrasa」はオリソンテス・ラティノス部門
オープニング作品、22日)
(メキシコのダビ・ソナナ、「Heroico」オリソンテス・ラティノス部門、23日)
(ダビ・ソナナ監督とミシェル・フランコ監督、23日)
(クリスティナ・ウエテ、製作者)
(フェルナンド・トゥルエバ、ハビエル・マリスカル、アニメーション
「They Shot the Piano Player」セクション・オフィシアル、23日)
(マイテ・アルベルディ「La memoria infinita」ペルラク部門、24日)
(ピント監督、カルメ・エリアス、ジョアン・エリアス)
(クラウディア・ピント「Mientras seas tú」メイド・イン・スペイン部門、24日)
(クリスティナ・ガジェゴ、セクション・オフィシアルの審査員、24日)
(ヴィッキー・ルエンゴ、セクション・オフィシアル審査員、22日)
(ファン・ビンビン、セクション・オフィシアル審査員、22日)
(サンティアゴ・ミトレ&ドロレス・フォンシ、主演のトト・ロビト、22日)
(チリのフェリペ・ガルベス監督、アルフレッド・カストロ
「Los colonos」オリソンテス・ラティノス部門、23日)
(ハビエル・ルイス・カルデラ監督、アルベルト・デ・トロと共同監督、
TVミニシリーズ「El otro lado」 ベロドロモ部門)
(左から出演者、ナチョ・ビガロンド、エバ・ウガルテ、ベルト・ロメロ、
マリア・ボット、アンドレウ・ブエナフエンテ、24日)
アンドレス・サンタナにエリアス・ケレヘタ賞*サンセバスチャン映画祭2023 ⑳ ― 2023年09月30日 09:58
第1回受賞者はアンドレス・サンタナ・キンタナに
(受賞者アンドレス・サンタナ・キンタナ、9月25日)
★9月25日、今年のゴヤ賞2023で新設がアナウンスされていたエリアス・ケレヘタ賞の授与式が本日のハイライトの一つでした。第1回の受賞者は予告通り製作者アンドレス・サンタナ・キンタナに贈られました。選考母体はスペイン映画アカデミー、従ってプレゼンターはフェルナンド・メンデス=レイテ会長でした。ケレヘタ没後10周年を記念して設けられた賞です。エリアス・ケレヘタ(1934~2013、享年78歳)は、20世紀の名プロデューサーとして、多くの才能を育てた製作者、脚本家、ドキュメンタリー監督でした。
(エリアス・ケレヘタ)
★例えば、29日にドノスティア栄誉賞を受賞するビクトル・エリセ、まだ国立映画研究所の学生だったエリセの才能を見いだし、サンセバスチャン映画祭1969にオムニバス映画『挑戦』で新人監督3人に監督賞をもたらしたプロデューサーです。次いで1973年『ミツバチのささやき』、10年後の『エル・スール』と、寡作な映画作家の名作を世に送り出した。他に1987年スペイン映画国民賞、1998年ゴヤ栄誉賞、2004年ホセ・マリア・フォルケ賞などを受賞している。
(フェルナンド・メンデス≂レイテ、アンドレス・サンタナ・キンタナ)
★また無名に近かったカルロス・サウラとの出会いは象徴的でした。それは『狩り』(65)がベルリン映画祭監督賞受賞作品である以上に、サウラのシンボリックなリアリズムというスタイルを確立した作品でもあったからです。以来サウラの代表作と言われる『ペパ―ミント・フラッペ』、『従妹アンヘリカ』、『カラスの飼育』、『愛しのエリサ』、『ママは百歳』と快進撃を続けたが、ベルリン映画祭1980の『急げ、急げ』を最後に、金熊賞を受賞しながら袂を分かつことになった。路線の違いもあったようですが、主役の青年二人が隠れてヘロインを摂取していたことを監督が黙認していたこともコンビ解消の一つとされています。勿論監督は否定していましたが真相は闇の中ですが、若者たちのその後をみれば一目瞭然でしょう。
(左から、サウラ、ケレヘタ、エリセ)
★その後、モンチョ・アルメンダリス(『タシオ』『27時間』『アロウの手紙』「Historias del Kronen」)、フェルナンド・レオン・デ・アラノア(『カット!(ファミリア)』『バリオBarrio』、ゴヤ作品賞『月曜日にひなたぼっこ』)、一人娘のグラシア・ケレヘタの諸作品(「Una estación de paso」「Siete mesas de biller francés」、リカルド・フランコの『パスクアル・ドゥアルテ』、マヌエル・グティエレス・アラゴンの『激しい』などの話題作を手掛け、監督たちをカンヌやベルリン、ベネチアなどの国際舞台に連れ出すことに貢献した。
(ケレヘタ、ハビエル・バルデム、レオン・デ・アラノア、ゴヤ賞2003ガラ)
★アンドレス・サンタナ・キンタナは、1940年カナリア諸島のグランカナリア生れの製作者、ケレヘタ同様、製作者というのは縁の下の力持ちということもあって、監督や俳優と比較すると知名度は高くない。しかし公開、映画祭、DVDなどで紹介された作品をみればその凄さが納得できます。例えばケレヘタと重なるモンチョ・アルメンダリスの『心の秘密』(97)、マリオ・カムスの『無垢なる聖者』(84)、ペドロ・アルモドバルの『セクシリア』(82)、特筆すべきはバスクの監督イマノル・ウリベの「El rey pasmado」(92)、『キャロルの初恋』(02)、ゴヤ作品賞の『時間切れの愛』(94)、「Plenilunio / Full Moon」(99)などです。サンタナは南スペイン出身ですが北の映像作家とのタッグが特徴的です。
(ゴヤ賞1995作品賞『時間切れの愛』のポスター)
★カミロ・ホセ・セラの同名小説『パスクアル・ドゥアルテの家族』を映画化したことで有名なリカルド・フランコのドキュメンタリー「Después de tantos años」(94)、東京国際映画祭1998のコンペティション入りを果たしたカナリア諸島の火山島ランサロテを舞台にしたアントニオ・ベタンコルの『マラリア』、21世紀に入ってからは、マヌエル・グティエレス・アラゴンの「Visionarios」(01)、マテオ・ヒルの『ブッチ・キャシディ 最後のガンマン』(10)、イサベル・コイシェの「Nadie quiere la noche」(15)など、字幕入りで鑑賞できた作品を多数手掛けています。
★授賞式には、モンチョ・アルメンダリス、エンリケ・ゴンサレス・マチョ、プイ・オリア、マリアノ・バロッソ、クリスティナ・スマラガ、マルタ・ミロなどが登壇、イマノル・ウリベ、マヌエル・グティエレス・アラゴン、グラシア・ケレヘタ、イサベル・コイシェ、マテオ・ヒル、『マラリア』の主役ゴヤ・トレドなどは、ビデオで祝辞を述べました。
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