イサベル・コイシェの新作「Elisa y Marcela 」*ベルリン映画祭20192019年02月11日 20:40

             スペイン初となったレズビアン夫婦エリサとマルセラの遍歴

 

        

★第69回ベルリン映画祭201927日(~17日)開幕しました。18年間ベルリン映画祭を率いてきたヘッド・ディレクター、ディーター・コスリック最後の年ということで世代交代がここでもあるようでした。コンペティション部門のスペイン語映画は、イサベル・コイシェElisa y Marcela1作だけ、次のパノラマ部門には、ラテンアメリカ諸国、例えばデビュー作『火の山のマリア』が幸運にも公開されたグアテマラのハイロ・ブスタマンテ、アルゼンチンのマテオ・ベンデスキイの家族をテーマにした第2作目など、何本か目に止まりましたが、いずれご紹介できたらと思います。

 

      

          (コイシェの新作Elisa y Marcela」のポスター

 

★コンペティション17作品のなかにはにはフランソワ・オゾンファティ・アキン、ワン・シャオシュアイなどベルリナーレに縁の深いライバルが金熊賞を狙って目白押しです。審査委員長はフランスで最も輝いている女優の一人ジュリエット・ビノシュです。彼女はコイシェのNobody Wants the Nightで、1909年初めて北極点に達したと言われるアメリカの探検家ロバート・ピアリーの妻を演じ、コイシェを「こんな過酷な役を引き受けてくれるぶっ飛んだ女優は彼女しかいない」と感嘆させた演技派女優。

    

        

 (審査委員長ジュリエット・ビノシュとディーター・コスリック、201827日開幕式にて)

 

★コイシェ監督の新作については既に1年前にアナウンスがあり、当時のキャストはエリサに最初からの候補だったナタリア・デ・モリーナ(ハエン近郊リナレス1990年)、マルセラにマリア・バルベルデでしたので、そのようにご紹介しております(201828)。しかしバルベルデのスケジュール調整がつかず、急遽グレタ・フェルナンデス(バルセロナ1995年)に変更になりました。演技派として評価の高いエドゥアルド・フェルナンデス(『スモーク・アンド・ミラーズ』)が父親、1995年バルセロナ生れだが、子役時代から映画やTVシリーズに出演しており芸歴は長い。コイシェ監督も「グレタが8歳のときから知っていた。女優になるために生まれてきたような女性」と語っている。イサキ・ラクエスタの『記憶の行方』の脇役、思わせぶりな邦題が不人気だったエステバン・クレスポの『禁じられた二人』ほか、ラモン・サラサールの『日曜日の憂鬱』でスシ・サンチェスの義理の娘になった。偶然かもしれないが3作ともNetflixで配信された。

 

 Elisa y Marcela(「Elisa and Marcela」)2019

製作:Rodar y Rodar / Lanube Peliculas / Netflix España / Zenit / Film Factiry /

    TV3(カタルーニャテレビ)/ Canal Sur  

監督・脚本:イサベル・コイシェ

原作:ナルシソ・デ・ガブリエル「Elisa y Marcela, Más allá de los hombres2010刊

撮影:ジェニファー・コックス

編集:ベルナ・アラゴネス

音楽:ソフィア・アリアナ・インファンテ

製作者:ホセ・カルモナ、ササ・セバリョス、ジョアキン・パドロ、マル・タルガロナ、他

 

データ・映画祭:スペイン、スペイン語・ポルトガル語、2019年、伝記ドラマ、129分、モノクロ。撮影地:ガリシアのセラノバ、オレンセ(ガリシア語オウレンセ)、バルセロナなど、201857日クランクイン。第66回サンセバスチャン映画祭2018に参加して編集の過程を撮った5分間の予告編を上映。第69回ベルリン映画祭2019正式出品(213日上映)、Netflixオリジナル作品(2019年ストリーミング配信予定)、OUTshine 映画祭2019 観客賞受賞。

 

キャスト:ナタリア・デ・モリーナ(エリサ・サンチェス・ロリガ/マリオ)、グレタ・フェルナンデス(マルセラ・グラシア・イベアス)、サラ・カサスノバス(マルセラの娘アナ)、タマル・ノバス(マルセラの求婚者アンドレス)、マリア・プファルテ(マルセラの母親)、フランセスク・オレーリャ(マルセラの父親)、リュイス・オマール(ポルト県知事)、ホルヘ・スケト(コウソの医師)、マノロ・ソロ(ポルトの刑務所長)、ミロ・タボアダ、マヌエル・ロウレンソ(ドゥンブリア教区の主任司祭ビクトル・コルティエリャ)、エレナ・セイホ、ルイサ・メレラス、ロベルト・レアル(コウソの司祭)、アンパロ・モレノ、タニア・ラマタ、コバドンガ・ベルディニャス、他ガリシアのエキストラ多数

 

ストーリー1885年、教師のエリサとマルセラは、働いていたア・コルーニャのドゥンブリアの小学校で知り合った。互いに惹かれあい、やがて隠れて生きねばならない恋愛関係に陥っていった。マルセラの両親の支えもあったが、両親は冷却期間をおくようマルセラを外国に送り出した。数年後マルセラが帰国してエリサと再会する。社会的な圧力にも屈せず二人は共に人生を歩もうと決心するが、口さがない巷の噂を封じるための計画を練らねばならなかった。それはエリサが一時的に村を離れて、数年後に英国生まれのマリオ・サンチェスとなって戻ってくることだった。190168日、ドゥンブリア教区のサンホルヘ教会でビクトル・コルティエリャ主任司祭の司式で挙式した。教会によって公式に通知されたスペイン最初の同性婚であった。しかし「男なしの夫婦」という噂がたちまち広まり、二人はポルトガルに逃亡、816日港湾都市ポルトで逮捕されるも、13日後に釈放された。190216日、マルセラは父親を明かさないまま女の子を出産、二人は新天地アルゼンチンを目指してスペインを後にする。                           (文責:管理人)

       

          

           (マルセラと男装のエリサ、教会で挙式した190168日の写真)

 

      20世紀初頭、逆境のなかでも愛を貫いた二人の女性の勇気に魅了される

 

★続きは端折るとしてこんなお話です。エリサがどうやって男性になることが可能だったかというと、彼女の死亡した従兄弟の偽造身分証明書を利用して男装し、ア・コルーニャの教会を騙したからであった。二人の愛を貫くためにはこうするしか方法がなかった時代でした。20世紀初頭の北スペインのガリシア地方ドゥンブリアでは、女同士の愛など許されるはずがなかった。敵意に満ちた雰囲気の中で主任司祭を騙して挙式するわけですから、二人はかなり思い切った大胆な女性だったと想像できます。伝わっている数字が正しければ、7ヵ月後にマルセラは出産するわけですから切羽詰まっていたとも考えられます。移住したブエノスアイレスでは、今度はエリサが60代のデンマーク人と結婚するが、これはいわゆる打算的な偽装結婚だったことが発覚して、その後二人はいずこともなく消息を絶つ。史実と映画がどのくらい重なるのか現時点では分からない。監督の焦点がどこに当てられているのか興味のあるところです。

       

       

        (逃亡先のポルトで撮ったマルセラとエリサ=マリオ、1902年)

 

★原作者のナルシソ・デ・ガブリエルは、1955年ガリシアのルゴ市近郊のカダボ生れの教育学者、ア・コルーニャ(スペイン語ラ・コルーニャ)大学で教育学の理論と歴史を教えている。ガリシア語とスペイン語で執筆、本作のベースになったElisa y Marcela, Más allá de los hombresのオリジナル版は、2008年ガリシア語で執筆され、2年後にスペイン語に翻訳されている。ア・コルーニャ出身の作家マヌエル・リバス(代表作『蝶の舌』)のプロローグが付いている。小説ではなく雌雄同体現象、女性同性愛、異性装者、フェミニズムなどについての考察、前半がエリサとマルセラに費やされているようです。コイシェ監督は著者とは友人関係にあり、直ぐに映画化を構想したがなかなか実現できなかったということです。

 

        

    (ガリシア語のオリジナル版を手にしたナルシソ・デ・ガブリエル)

 

★「二人の結婚式の写真を見たときから、これはシロクロで撮りたいと思った。それでジェニファー・コックス撮影監督)と1930年代の映画を見ていった。そこで目に留まったのがエリッヒ・フォン・シュトロハイムの『「クィーン・ケリー』(29)だった」という。ウィキペディアによると、完全主義者として知られる監督とヒロインのグロリア・スワンソンが衝突して撮影中止になった作品のようです。多分未完成作品が残っているということでしょう。「レズビアンのカップルが主役でも、パルム・ドールを受賞したアブデラティフ・ケシシュの『アデル、ブルーは熱い色』のような女性の性感を描くものではない。現在世界の73ヵ国では同性愛は違法で収監され、13ヵ国は死刑です」。「私を魅了するのは、愛の物語というだけでなく、社会の偏見にもめげず、危険に晒されながらも別れずに、逆境に生きた女性の勇気です」と監督。

   

    

        (サンセバスチャン映画祭2018でのプレス会見、右端が監督)

 

★一般公開をせずにダイレクトにNetflixで配信する方法を選んだことについては「私だって映画館を観客でいっぱいにしたい。しかし190ヵ国に配信される魅力」には勝てないと。キャスチングについては「ナタリア・デ・モリーナ)には、まだプロジェクトが具体化していなかった3年前に、何時になるか分からないがと但し書き付きでオファーをかけていた。デ・モリーナはダビ・トゥルエバの『「ぼくの戦争」を探して』でゴヤ賞2014新人女優賞、フアン・ミゲル・デル・カスティージョの「Techo y comida」で同2016主演女優賞を受賞しているシンデレラ女優。グレタは8歳のときから知っていた。ある日、鏡の前で泣いているので、何があったのと訊くと、どうやったら上手に泣けるか練習していたと。「この子はもう女優だと思った」と監督。

 

      

 

             

 (ナタリア・デ・モリーナとグレタ・フェルナンデス)

 

★度々ガリシアを訪れて撮影地を探した結果、20世紀初頭の面影を残しているセラノバで201858日にクランクインした。俳優以外のエキストラ140名にも参加してもらった。ガリシアとバルセロナの半々で撮影したということです。主演の二人はアンダルシアとバルセロナ生れだが、脇役陣には、マルセラの求婚者アンドレス役のタマル・ノバス(『夢を飛ぶ夢』)、アナ役のサラ・カサスノバス、主任司祭のマヌエル・ロウレンソなどガリシア生れの俳優が目立つ。

   

    

 

   

 (20世紀初頭の雰囲気が残るセラノバでの撮影風景)

 

★「『エリサとマルセラ』を携えてベルリンに行くことは、私にとって大きな意味があります。それというのもこの映画は長年培ってきた仕事の頂点の一つであり、根気強く突き進んできた頑張りへのご褒美でもあるからです。世界で一つしかないこの物語を国際的な映画祭の観客に見てもらえる幸運、エリサとマルセラを演じたナタリア・デ・モリーナとグレタ・フェルナンデスの二人の女優がベルリンの観客を魅了することを願っています」とコイシェ監督。果たしてベルリンの審査員や観客を虜にきるでしょうか。ビエンナーレは監督にとって特に思い入れの深い映画祭、過去にはデビュー作『あなたに言えなかったこと』(96)、『死ぬまでにしたい10のこと』(03)、『あなたになら言える秘密のこと』(05)、『エレジー』(08)、オープニング上映作品に選ばれた「Nadie quiere la noche」(15)、間もなく3月に公開される『マイ・ブックショップ』もここで特別上映されたのでした。

 

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Nadie quiere la noche」の紹介記事は、コチラ20150301

『マイ・ブックショップ』の紹介記事は、コチラ20180107


ピノチェト時代の闇を描くTVシリーズ放映始まる*ベルリン映画祭番外編2018年03月04日 21:01

            エリート諜報員「メアリとマイク」――ベルリン映画祭番外編

 

★ベルリン映画祭2018は閉幕いたしましたが、「ドラマ・シリーズ・デイ」で上映された6話構成のミニドラマMary y Mike(チリ、アルゼンチン合作)を番外編としてご紹介したい。このセクションは賞に絡みませんが、ベルリンで紹介される初めてのチリTVドラマになりました。チリ放映開始(313日、アルゼンチン同)より一足早くベルリンでプレミアされました。このドラマは1970年代ピノチェト軍事独裁時代に組織されたDINA(チリ国家情報局)のエリート諜報員マリアナ・カジェハス=マイケル・タウンリー夫婦が暗躍する物語です。アメリカCIAの協力のもとに二人が関わった重要な殺害事件、ブエノスアイレスでのカルロス・プラッツと妻ソフィア殺害、ローマでのベルナルド・レイトン殺害、ワシントンでの駐米チリ大使オルランド・レテリエル殺害が語られるようです。

DINADirección de Inteligencia Nacional

  

 

 

Mary y MikeTVシリーズ、ミニドラマ6エピソード構成 

製作:Invercine & Wood / ChileVisión / Tuner / SPACE

監督:フリオ・コルテス、エステバン・ラライン

撮影:エンリケ・Stindt

編集:カミロ・カンピ、アルバロ・ソラル

音楽:Miranda and Tobar

製作者:パトリシオ・ペレイラ、マカレナ・カルドネ、(エグゼクティブ)マティアス・カルドネ、アンドレス・ウッド、マリア・エレナ・ウッド、他

 

データ:製作国チリ=アルゼンチン、言語スペイン語・英語・イタリア語、実話、スリラードラマ、ベルリン映画祭2018ドラマ・シリーズ・デイ」部門上映、2018313日放映開始

 

キャスト:マリアナ・ロヨラ(メアリ、マリアナ・カジェハス)、アンドレス・リジョン(マイク、マイケル・タウンリー)、コンスエロ・カレーニョ(長女コニー)、エリアス・コジャド(長男シモン)、パブロ・セルダ(ウルティア大佐)、オティリオ・カストロ(サルミエント将軍)、アグスティン・シルバ(ハビエル)、フアン・ファルコン(オメロ)、アレクサンデル・ソロルサノ(ラミロ)、他多数

 

プロット:メアリとマイクは、チリの秘密警察DINA(国家情報局)のエリート諜報員、彼らの仕事はピノチェト政権に反対するリーダーたちの抹殺であった。夫婦の表の顔は、メアリは作家、マイクは有能な電子工学の<グリンゴ>としてチリのセレブ階級に溶け込んでいた。首都サンティアゴの高級住宅街ロ・クーロにある彼らの屋敷で二人の子供を育て、メアリは執筆をしたりパーティを開いたりしていた。一方で拷問や殺害、大規模な破壊兵器サリンガスなどの実験場でもある「恐怖の館」であった。次第に多くの人々が滞在する奥まった部屋は、DINAの強制収容所としての役割も果たすようになっていった。アメリカCIAの協力のもと、1974年ブエノスアイレスでのカルロス・プラッツ将軍と妻ソフィア殺害、1975年ローマでのベルナルド・レイトン殺害、1976年ワシントンでの駐米チリ大使オルランド・レテリエル、その秘書ロニー・モフィット殺害を軸にドラマは展開されるだろう。                             (文責:管理人)

 

      

 (ロ・クーロの「恐怖の館」をバックに幸せを満喫しているカジェハス=タウンリーの一家)

 

★実話とはいえフィクションの部分もあるようです。メアリことマリアナ・カジェハス1932モンテ・パトリア~2016サンティアゴ、享年84歳)は、CIAのヒットマンであったマイケル・タウンリーと再婚したとき前夫との間に3人の子供がいた。タウンリーとの間にも2人の男児が生まれている。従ってドラマでのコニーとシモン姉弟はフィクションである。200612月のピノチェト死去を受けて、2008630日、1974年のカルロス・プラッツ将軍夫妻殺害により禁固20年の刑が言い渡された。しかし翌年1月に上告、2010年に最高裁判所はたったの5年に減刑、それも収監無しという恩恵を与えた。これが民主化されたチリの現状である。カジェハスを演じたマリアナ・ロヨラ1975、サンティアゴ)は、フェルナンド・トゥルエバの「El baile de la Victoria」(08、『泥棒と踊り子』スペイン映画祭2009上映)、セバスチャン・シルバの「Nana」(2009、『家政婦ラケルの反乱』ラテンビート上映)、ほか最近では受賞歴の多いTVシリーズでの活躍が目立っている。

 

(マリアナ・カジェハス)

         

 

  

(マリアナ・ロヨラとアンドレス・リジョン、映画から)

 

★マリアナ・カジェハスは非常に複雑な人格で、これまでにもウルグアイ出身の監督エステバン・シュレーダーが彼女を主人公にした「Matar a todos」(2007、アルゼンチン・チリ・独・ウルグアイ)を撮っている(小説の映画化)。チリ女優マリア・エスキエルドが演じた。彼女はアンドレス・ウッド映画の常連だったが、今回のドラマには出演していない。カジェハスを分析した書籍も多数出版されております。チリ出身の作家ロベルト・ボラーニョの中編小説「Nocturno de Chile」(1999)のなかでは、マリア・カナレスの名前で登場しますが、ピノチェトとかネルーダなどは実名で現れます。邦題『チリ夜想曲』として翻訳書も出ています(ボラーニョ・コレクション全8巻、白水社)。

   

   

                   (ロベルト・ボラーニョ「Nocturno de Chile」から)

 

★妻より10歳年下のマイクことマイケル・タウンリー1942、アイオア州ワーテルロー)は、米国のプロのシカリオ、元CIA諜報員、その後チリに派遣されDINAの諜報員となる。75歳になる現在は米国連邦証人保護プログラムの監視下に置かれている。この人物も既にドラマ化されており、今回マイケルを演じることになったアンドレス・リジョン(チリの有名な俳優でコメディアンだった母方の祖父と同姓同名)は現在31歳と当時のタウンリーと同じ年齢である。カトリック大学で演技を学んだアンドレス・リジョンによれば「マイケルは冷酷で打算的、じっくり観察し、ミッションを忠実に守る服従タイプの人間、自分の考えを口に出さない複雑な人格で、演じるのはとても難しかった」と語っている。

 

(マイケル・タウンリー)

   

 

   

     (マイケル・タウンリーとマリアナ・カジェハスのツーショット)

 

★製作の軸を担ったInvercine & Woodのプロデューサーアンドレス・ウッド1965、サンティアゴ)、「Machuca」(04、『マチュカ―僕らと革命―』)、「La buena vida」(08、『サンティアゴの光』ラテンビート、ゴヤ賞2009イスパノアメリカ映画賞)、「Violeta se fue a los cielos」(11、『ヴィオレータ、天国へ』ラテンビート)などの監督、脚本家としてのほうが有名でしょうか。『サンティアゴの光』がラテンビートで上映された折り来日しています。監督としては『ヴィオレータ、天国へ』を最後に、現在はもっぱらTVシリーズに力を注いでいるようです。本作をTVドラマにした理由について「チリの政治史を交差した個人的な物語ですが、映画ではなく何故あの時代に軍事クーデタが成功したのか、別の視点で軍事独裁時代を描きたかった」と語っています。

 

(アンドレス・ウッド)

   

 

  

(『マチュカ―僕らと革命―』オリジナルポスター)

  

★シリーズのプロデューサーの一人マティアス・カルドネは「プロジェクトを立ち上げてから完成まで4年の歳月を要した」。脚本執筆のための事実確認の作業は挑戦でもあったようです。まだ関係者が生存しているからでしょうか。ウッドがベルリナーレ参加の準備や手配、また国際的なプロモーションなどを担い、マリア・エレナ・ウッドが文化芸術国家評議会の援助を受けてヨーロッパ・フィルム・マーケットに馳せ参じるなど、それぞれ役割分担をして宣伝に努めているようです。Netflix あたりが配信してくれると嬉しいのですが、どうでしょうか。

  

1970年代のピノチェト軍事独裁時代を切り取った映画は、既に何作も製作され、なかには公開作品もありますが、大体が犠牲者側の視点に立っています。当ブログでもパトリシオ・グスマンのドキュメンタリー『光のノスタルジア』や『真珠のボタン』、パブロ・ララインの「ピノチェト政権三部作」(『トニー・マネロ』「Post morten」『No』)など紹介しています。続く『ザ・クラブ』も広義ではその延長線上にあるでしょう。本作のようにピノチェト政権側からの目線のものは紹介されておりません。アルゼンチン映画ではパブロ・トラペロが実話をもとに撮った『エル・クラン』(15)が公開されましたが、こちらの軍事独裁も全容はまだ明らかでなく、チリは軍事独裁が17年間と長期間続いたことで闇はより深く、解明は始まったばかりです。

  

パラグアイの「Las herederas」が2個の銀熊賞*ベルリン映画祭2018 ⑤2018年02月27日 19:11

         マルティネシ監督がアルフレッド・バウアー賞、アナ・ブルンが女優賞

  

       

★ベルリナーレ初参加のパラグアイ映画Las herederasが銀熊トロフィーを2個ゲットしました。マルセロ・マルティネシ監督の「アルフレッド・バウアー賞」(銀熊)FIPRESCI国際映画批評家連盟賞、アナ・ブルン女優賞(銀熊)、更にLGBTをテーマの一つにしたテディー賞、貰いすぎではないでしょうか。ベルリナーレは映画発展途上国の振興に寄与するという意図をもつ映画祭、かつてはウルグアイ、チリ、コロンビアなどの事例があります。アカデミー賞外国語映画賞でもそういう傾向を最近感じていますが。個人的には作品紹介が無駄にならなくてよかった。秋開催のラテンビート2018に期待したい。

Las herederas」の紹介記事は、コチラ2018216

 

       

              (バウアー賞のトロフィーを手にしたマルセロ・マルティネシ)

 

          

 (女優賞のトロフィーを手にスピーチするアナ・ブルン)

 

    

   (監督と主演女優、アナ・イヴァノヴァ、マルガリータ・イルン、アナ・ブルン)

 

    メキシコからもアロンソ・ルイスパラシオスの「Museo」が脚本賞(銀熊)を受賞

 

★コンペティション部門のもう1作、メキシコのアロンソ・ルイスパラシオスMuseo脚本賞(銀熊)を受賞しました。マヌエル・アルカラとの共同執筆、二人で登壇しました。プレゼンターは審査員の一人スペイン・フィルモテカのディレクター、ホセ・マリア(チェマ)・プラドからトロフィーが手渡されました。下馬評は中くらいでしたが、G.G.ガエルが主演ということで字幕入りで観られるかな。最初プレス会見に姿がなかったので主役不在かと思っていたら、遅れて出席、すると会場の雰囲気ががらりと変わった。メキシコを代表する俳優になりました。

Museo」の紹介記事は、コチラ2018219

 

         

                       (抱き合って喜ぶ脚本賞受賞の二人)

 

       

     (ガエル・ガルシア・ベルナル)

 

◎金熊賞は、ルーマニアの女性監督アディナ・ピンティリエTouch Me Not(ルーマニア、独、チェコ、ブルガリア、仏)でした。星取表は最下位とは言わないが下から数えたほうが早かった。他に初監督作品賞も受賞した。ロシアのDovlatov」を予想していた批評家たちからはどよめきが起きたとか。カルロス・レイガダスの『闇のあとの光』(12)がカンヌ映画祭で監督賞を受賞したときはブーイングだったのでした。

 

       

            (金熊賞受賞のアディナ・ピンティリエ)

  

       

   (出演者トーマス・レマルキス、車椅子に乗っているのが Christian Bayerlein

 

◎芸術貢献賞(銀熊)衣装デザインは、ロシアのエレナ・オコプナヤ Elena Okopnaya が受賞した。金熊賞受賞の予想の大方はこのアレクセイ・ゲルマンJr. Dovlatov(ロシア、ポーランド、セルビア)でしたが、こればかりは蓋を開けてみないと分からない。ロシアの作家セルゲイ・ドヴラートフ(194190)のビオピック、1971年レニングラード(現サンクトペテルブルク)の数日間を描いている。これは金熊賞を逃しましたが公開されますね。

     

         

             (芸術貢献賞のエレナ・オコプナヤ)

 

       

        (アレクセイ・ゲルマン・ジュニア監督とエレナ・オコプナヤ)

 

2席となる審査員グランプリ(銀熊)は、マウゴシュカ・シュモフスカMalgorzata Szumowska別名マウゴジャタ・シュモフスカ、1973年クラクフ)のMug(ポーランド)が受賞した。ベルリン映画祭2015の『君はひとりじゃない』で監督賞を受賞している。ということで今年の大賞は二人の女性監督の手に落ちた。

 

    

         (審査員グランプリ受賞のマウゴシュカ・シュモフスカ)

 

   

◎監督賞(銀熊)は、今春公開が決定しているアニメーション、オープニング作品でもあったウェス・アンダーソン『犬ヶ島』が受賞した。既に本作のヨーロッパ・プロモーション活動のためベルリンを後にしており、犬のボイスを担当したビル・マーレイが例によって冗談を飛ばしながら代理で受け取った。

 

     

           (代理でトロフィーを受け取ったビル・マーレイ)

 

◎男優賞(銀熊)は、セドリック・カーンThe Prayer(フランス)出演のアントニー・バジョン、以上が銀熊賞の受賞者でした。

 

 

              (男優賞アントニー・バジョン)

 

 

★「パノラマ」部門で少しご紹介した、アルムデナ・カラセドロバート・バハーのフランコ時代のドキュメンタリーEl silencio de los otros(「The Silence of Others」米・西)が、ピース賞とドキュメンタリー観客賞を受賞しました。

 

    

      (ロバート・バハー、アルムデナ・カラセド、プレゼンターのアナ・ダビ)

 

★「フォーラム」部門ノミネーション、話題になっていたチリのストップモーション・アニメ、ホアキン・コシーニャ&クリストバル・レオンLa casa lobo(「The Wolf House」)がカリガリ賞を受賞しました。他にご紹介しませんでしたが、マルビナス(フォークランド)戦争をテーマにしたロラ・アリアスTeatro de guerra(「Theatre of War」アルゼンチン、西)が、エキュメニカル審査員賞とCICAEConfederacion Internacional de Cines de Arte y Ensayo)賞を受賞しました。

 

   

                                         (アニメーションLa casa lobo」から

  

       

(眼鏡がホアキン・コシーニャ、クリストバル・レオンの両監督)

 

     

                                          (Teatro de guerra」の監督ロラ・アリアス)

 

★スペインのラモン・サラサールの「La enfermedad del domingo」は残念でした。


パノラマ部門にチリとアルゼンチン映画*ベルリン映画祭2018 ④2018年02月25日 17:46

      アルゼンチンからサンティアゴ・ロサの「Malambo, el hombre bueno

 

     

★アルゼンチンからはサンティアゴ・ロサMalambo, el hombre bueno(「Malambo, the Good Man」)が単独でノミネートされている。「Malamboマランボ」というのはアルゼンチン伝統の男性だけのフォルクローレ、発祥はガウチョのタップ・ダンス、従ってすべてではないがガウチョの衣装とブーツを着て踊り、毎年チャンピオンを選ぶマランボ大会が開催されている。本作はドキュメンタリーの手法で撮っているがドラマです。主役のマランボ・ダンサーにガスパル・ホフレJofreが初出演する。監督のサンティアゴ・ロサは、1971年アルゼンチンのコルドバ生れ、過去にはExtraño03、ロッテルダム映画祭タイガー賞他)、Los labios10BAFICI映画祭監督賞、カンヌ映画祭「ある視点」出品)、La Paz13BAFICI映画祭作品賞)などのほか受賞歴多数のベテラン監督。ベルリナーレでは216日上映されました。

 

     

                (サンティアゴ・ロサ監督)

 

      チリからマルティン・ロドリゲス・レドンドのデビュー作「Marilyn

 

    

★ご紹介したいのはマルティン・ロドリゲス・レドンド1979のデビュー作Marilyn17、アルゼンチンとの合作)、前回のベルリナーレでは、チリの『ナチュラルウーマン』(セバスティアン・レリオ、224日公開)が気を吐きましたが、今回はコンペティションにノミネーションがなく、パノラマにも本作のみです。初監督作品賞、テディー賞対象作品です。監督については詳細が入手できていませんが、ブエノスアイレスにある映画研究センターCICEl Centro de Investigación Cinematográfica)で映画製作を学んだアルゼンチンの監督のようです。脚本がINCAAのオペラ・プリマ賞を受賞、共同製作イベルメディアの援助、2014年サンセバスチャン映画基金、2013年メキシコのオアハカ脚本ラボ、その他の資金で製作された。2016年の短編Las liebresが、BAFICI映画祭、ハバナ映画祭、BFI Flare ロンドンLGBT映画祭で上映されている。

  

             

            (マルティン・ロドリゲス・レドンド監督)

 

データ:製作国チリ=アルゼンチン、スペイン語、2017年、実話、90分。

製作:Quijote Films(チリ)、Maravillacine(アルゼンチン)

監督:マルティン・ロドリゲス・レドンド

脚本:マルティン・ロドリゲス・レドンド、マリアナ・ドカンポ

編集:フェリペ・ガルベス

撮影:ギジェルモ・サポスニク

 

キャスト:ヴァルター(ウォールター)・ロドリゲス(マルコス、綽名マリリン)、カタリナ・サアベドラ(母オルガ)、ヘルマン・デ・シルバ(父カルロス)、イグナシオ・ヒメネス(兄カルリート)、ほか

 

物語:高校を優秀な成績で卒業した青年マルコは地方の農場で暮らす両親と兄のもとに帰ってくる。兄カルリートは牛の乳しぼりやパトロンが盗んできた牧牛の世話をしており、母オルガは婦人服仕立てで得たわずかなお金を暮らしにあてていた。父カルロスが亡くなると、さらに困難の日々が待っていた。ある同性愛者の集まりで自身のホモセクシュアルに目覚める。マルコスは農園の仕事が好きになれず、隠れて化粧をしたり女装をすることで息をついていた。この内気な若者も仲間からマリリンと呼ばれるようになる。カーニバルの季節がやってくると、踊りのステップを踏むことで自身の体を解き放ち喜びに酔いしれる。世間の冷たい目の中で窮地に立たされるマルコス、苦痛を和らげてくれる若者とのつかの間の愛の行方は・・・小さな村社会の差別と不寛容が語られる。

 

              

                       (カーニバルで自身を解き放つマルコス=マリリン、映画から)

         

  

  (恋人とマルコス、映画から)

 

★実話に基づいているそうです。「チリ社会は保守的な人が多い。都会では年々LGBT(レスビアン・ゲイ・両性愛・性転換)に対する理解が得られるようになったが、地方では差別や不寛容に晒されている」とチリのプロデューサーのジャンカルロ・ナッシ。母オルガを演じたカタリナ・サアベドラは、セバスティアン・シルバLa nana2009『家政婦ラケルの反乱』)で異才を放った女優。このシルバ監督も同性愛者で、不寛容なチリを嫌って脱出、現在はブルックリンでパートナーと暮らして英語で映画製作をしている。才能流出の一人です。

 

セバスチャン・レリオの『ナチュラルウーマン』のテーマもLGBT、今回コンペティション部門にノミネートされたパラグアイのマルセロ・マルティネシLas herederasLGBTでした。こちらは評価も高く、観客の受けもまずまずだった。監督以下スタッフ、主演女優3人もプレス会見に臨み、各自パラグアイ社会の女性蔑視、性差別の風潮を吐露していました。初参加のパラグアイ映画に勝利の女神が微笑むことを祈りたい。いよいよ今夜受賞結果が発表になり、ベルリナーレ2018も終幕します。

 

      

   (女優賞に絡めるか、アナ・ブルンとアナ・イヴァノヴァ、「Las herederas」から)

 

フォーラム部門にノミネートされたチリのアニメーション、クリストバル・レオンホアキン・コシーニャLa casa lobo(「The Wolf House222日上映)が評判になっています。おとぎ話に見せかけているが、実はピノチェト時代にナチスと手を組んで作った、宗教を隠れ蓑にした拷問施設コロニア・ディグニダが背景にあるようです。賞に絡んだらアップしたいアニメーションです。

 

パノラマ部門にスペインから3作*ベルリン映画祭2018 ③2018年02月22日 18:22

         『靴に恋して』のラモン・サラサールの新作「La enfermedad del domingo

 

     

★コンペティション部門の次に重要なセクションが「パノラマ部門」、後にヒットする作品が多く含まれております。スペインからは、ラモン・サラサールの第4作めLa enfermedad del domingoと、アルムデナ・カラセドロバート・バハーのフランコ独裁時代に起きた事件についてのドキュメンタリーEl silencio de los otros(「The Silence of Others」)、ディアナ・トウセドのガリシアの神話と人々を語るために現実と虚構をミックスさせた初監督作品Trinta Lumes3作がノミネートされました。なかで少しは知名度のあるサラサール監督の新作をご紹介します。主役は『マジカル・ガール』でファンを増やしたバルバラ・レニー、『ジュリエッタ』でヒロインの母親を演じたスシ・サンチェスです。

 

        

      (スシ・サンチェス、監督、バルバラ・レニー、ベルリン映画祭2018にて)   

     

La enfermedad del domingo(「Sunday's Illness」)

製作:ICEC(文化事業カタルーニャ協会)、ICOInstituto de Credito Oficial)、ICAA

監督・脚本:ラモン・サラサール

撮影:リカルド・デ・グラシア

音楽:ニコ・カサル

編集:テレサ・フォント

キャスティング:アナ・サインス・トラパガ、パトリシア・アルバレス・デ・ミランダ

衣装デザイン:クララ・ビルバオ

特殊効果:エンリク・マシプ

視覚効果:イニャキ・ビルバオ、ビクトル・パラシオス・ロペス、パブロ・ロマン、

     クーロ・ムニョス、他

製作者:ラファエル・ロペス・マンサナラ(エグゼクティブ)、フランシスコ・ラモス

 

データ:製作国スペイン、スペイン語・フランス語、2018年、113分、ドラマ、撮影地バルセロナ、ベルリン映画祭(パノラマ・スペシャル)上映220日、スペイン公開223

 

キャスト:バルバラ・レニー(キアラ)、スシ・サンチェス(アナベル)、ミゲル・アンヘル・ソラ(アナベルの夫ベルナベ)、グレタ・フェルナンデス(グレタ)、フレッド・アデニス(トビアス)、ブルナ・ゴンサレス(少女時代のキアラ)、リシャール・ボーランジェ(アナベルの先夫マチュー)、デイビット・カメノス(若いときのマチュー)、Abdelatif Hwidar(町の青年)、マヌエル・カスティーリョ、カルラ・リナレス、イバン・モラレス、他

 

プロット8歳のときに母親アナベルに捨てられたキアラと呼ばれる少女の物語。35年後、キアラは変わった願い事をもって突然母親のもとを訪れてくる。理由は言わずに10日間だけ一緒に過ごしてほしいと。アナベルは娘との関係修復ができるかもしれないと思って受け入れる。しかし、キアラには隠された意図があったのである。ある日曜日に起こったことが、あたかも不治の病いのように人生を左右する。長い不在の重み、地下を流れる水脈のような罪の意識、決して消えることのない永続する感情が、静謐なピレネーの森の湖をバックに語られる。      (文責:管理人)               

    


    

          (母親に本当の願いを耳打ちするキアラ、映画から)

 

★物語からは暗いイメージしか伝わってこない。主役の娘役バルバラ・レニーは、『マジカル・ガール』(14、カルロス・ベルムト)以来日本に紹介された映画、例えば『インビジブル・ゲスト悪魔の証明』(16、オリオル・パウロ)、『家族のように』(17、ディエゴ・レルマン)と、問題を抱えこんだ女性役が多い。サラサール作品は初めてだが、コメディも演れる今後が楽しみな女優である。本作では彼女が着る普段着に或る意味をもたせているようです。母親アナベルの豪華な衣装は、母娘の対照的な生き方を象徴している。衣装デザイナー、クララ・ビルバオのセンスが光っている。

バルバラ・レニーのキャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ2015327

 

★母親を演じたスシ・サンチェス1955、バレンシア)は、今まで脇役専門のような印象でしたが、本作では何故8歳になる娘を放棄したのかという謎めいた過去をもつ難役に挑戦した。日本初登場は今は亡きビセンテ・アランダの『女王フアナ』(01)のイサベル女王役だと思いますが、他にもアランダの『カルメン』(04)や、ベルリン映画祭2009金熊賞を受賞したクラウディア・リョサの『悲しみのミルク』(スペイン映画祭09)、ベニト・サンブラノの『スリーピング・ボイス~沈黙の叫び』(11)、アルモドバルの『私が、生きる肌』(11)、『アイム・ソー・エキサイテッド!』(13)、『ジュリエッタ』など、セスク・ゲイの『しあわせな人生の選択』(16)に出演している。 

        

                  (スシ・サンチェスとバルバラ・レニー、映画から)

      

      

    (撮影中のスシ・サンチェス、バルバラ・レニー、サラサール監督)

 

★サラサール作品では、『靴に恋して』以下、「10.000 noches en ninguna parte」(12)でゴヤ賞助演女優賞にノミネートされた他、俳優組合賞の助演女優賞を受賞した。TVシリーズは勿論のこと舞台女優としても活躍、演劇賞としては最高のマックス賞2014の助演女優賞を受賞している。その他の共演者についてはアルゼンチンからミゲル・アンヘル・ソラ、フランスからリシャール・ボーランジェなど、国際色豊かです。グレタ・フェルナンデスフレッド・アデニスは、イサキ・ラクエスタ&イサ・カンポの『記憶の行方』(16)に出演している。

 

     

       (プレス会見をするサラサール監督、ベルリン映画祭2018にて)

 

 監督フィルモグラフィー

ラモン・サラサールRamón Salazarは、1973年マラガ生れの監督、脚本家、俳優。アンダルシア出身だがバルセロナでの仕事が多い。1999年に撮った短編Hongosが、短編映画祭として有名なアルカラ・デ・エナーレスとバルセロナ短編映画祭で観客賞を受賞した。長編デビュー作Piedrasがベルリン映画祭2002に正式出品され、ゴヤ賞2003新人監督賞にもノミネートされたことで、邦題『靴に恋して』として公開された。問題を抱えた年齢も職業も異なる5人の女性が登場する。オムニバスの体裁をとっているが、お互いつながりあって、いわゆるバルセロナ派の監督が得意とする合唱劇といわれるジャンルに近い。原題の意味は石の複数形、邦題には苦労したろうと思います。「石」はしっかり抱えている大切なものを指すようです。女性それぞれがその置き場所が見つからないでいる。登場人物の描き方は極端だが、観客は5人の誰かに自分の姿を重ねて見ることになる。 

      

            (ベルリナーレの『靴に恋して』のポスター)

 

★その他200520 centimetrosは、ロカルノ映画祭に正式出品、マラガ映画祭批評家賞、マイアミ・ゲイ&レスビアン映画祭スペシャル審査員賞などを受賞した。201310.000 noches en ninguna parteはセビーリャ(ヨーロッパ)映画祭でアセカン賞を受賞している。2017年の短編El domingo12分)が本作の習作のようです。キアラと父親は森の中の湖にピクニックに出かける。ママは一緒にいかない。帰宅すると家の様子が一変している。キアラは窓辺でママの帰りをずっと待ちわびている。キャストはキアラの少女時代を演じたブルナ・ゴンサレスとキアラの父親役のデイビット・カメノスの二人だけ、スタッフはすべてLa enfermedad del domingoと同じメンバーが手掛けている。

 

     

 (ママの帰りを待ちわびるキアラ役のブルナ・ゴンサレス、El domingo」から

 

   

                  (ブルナ・ゴンサレスと父親役のデイビット・カメノス)

    

『グエロス』の監督がコンペティションに登場*ベルリン映画祭2018 ②2018年02月19日 17:55

       アロンソ・ルイスパラシオス、パノラマ部門からコンペティション部門へ昇格

 

アロンソ・ルイスパラシオスは、デビュー作『グエロス』がベルリン映画祭2014「パノラマ」部門で初監督作品賞を受賞したメキシコの監督。今回Museoが初めてコンペティション部門にノミネートされた。メキシコの人気俳優ガエル・ガルシア・ベルナル、『グエロス』出演のレオナルド・オルティスグリス、チリの名優アルフレッド・カストロ、イギリスの舞台俳優サイモン・ラッセル・ビール、監督夫人でもあるイルセ・サラスなど演技派を揃えて金熊賞を競います。1985年クリスマスの日に起きた実話の映画化、メキシコ国立人類学博物館に展示されていた140点にものぼるテオティワカン、マヤ、アステカなど、スペインが到達する前の文化遺産盗難事件をテーマにしている。G.G.ベルナルが犯人の一人を主演するということで、クランクイン前から話題になっていた作品。映画祭上映は222日と後半なので、現地での下馬評はまだ聞こえてきません。

『グエロス』とルイスパラシオス監督の紹介記事は、コチラ2014103

 

  

 

Museo(「Museum」)

製作:Detalle Films / Distant Horizon / Panorama Global

監督:アロンソ・ルイスパラシオス

脚本:マヌエル・アルカラ、アロンソ・ルイスパラシオス

撮影:ダミアン・ガルシア

編集:Yibran Asuad

キャスティング:ベルナルド・ベラスコ

プロダクション・デザイン:サンドラ・カブリアダ

衣装デザイン:マレーナ・デ・ラ・リバ

プロダクション・マネージメント:バネッサ・エルナンデス、カルロス・A・モラレス

録音:イサベル・ムニョス

視覚効果:ラウル・プラド

製作者:(エグゼクティブ)モイセス・コジオ、ブライアン・コックス、ガエル・ガルシア・ベルナル、ロバート・ラントス、(プロデューサー)マヌエル・アルカラ、アナント・シン、ヘラルド・ガティカ、ラミロ・ルイス、アルベルトMuffelmann、他多数

 

データ:製作国メキシコ、スペイン語、2018年、犯罪ドラマ、撮影地メキシコシティ、パレンケ、アカプルコ、ゲレーロ、チアパス、国立人類博物館を再現したスタジオ・チュルブスコ、クランクイン20173月。ベルリナーレ2018の上映は222日~25日の5回、メキシコ公開2018年が決定している。

 

キャスト:ガエル・ガルシア・ベルナル(フアン・ヌニェス)、レオナルド・オルティスグリス(ベンハミン・ウィルソン)、サイモン・ラッセル・ビール(フランク・グラベス)、アルフレッド・カストロ(ドクター・ヌニェス)、イルセ・サラス(シルビア)、リサ・オーウェン(ヌニェス夫人)、リン・ギルマーティン(ジェンマ)、レティシア・ブレディセ(シェレサダ)、ベルナルド・ベラスコ(ブスコ)、マイテ・スアレス・ディエス(ヒメナ)、他

 

プロット・解説19851225日クリスマスの明け方、メキシコ国立人類学博物館の堅固なセキュリティーを突破して、スペインが到達する前の文化遺産およそ140点がショーケースから盗まれた。テオティワカン、アステカ、マヤなどの遺跡から収集された重要な文化財であり、なかにはマヤ室に展示されていたパレンケのパカル王が被ったと言われる「翡翠の仮面」も含まれていた。当初大掛りな国際窃盗団によるものと思われていたが、メキシコ「世紀の盗難事件」の犯人は、プロではなく意外にも行き先を見失った二人の青年であった。主犯格の青年フアンにガエル・ガルシア・ベルナル、ベンハミンにレオナルド・オルティスグリスが扮する。実際に起きた犯罪事件にインスパイヤーされて製作されたフィクション、登場人物は仮名で登場している。(文責:管理人)

 

   

   (ガエル・ガルシア・ベルナルとレオナルド・オルティスグリス、映画から)

 

トレビア

アロンソ・ルイスパラシオス監督がG.G.ベルナルに「物語構成のための逸話を取材をしていたとき、突然ドキュメンタリー風ではない別のバージョンつまりフィクションのほうが、ある一部の地域で起こった事件としてではなく、世界のどこででも起きるように描いたほうがインパクトが得られるのではないか」と語ったそうです。監督は「本作は事件の正確なプロセスの再現ではなく、若者たちのアイデンティティ探しや自分たちの存在理由を求める寓話を描こうとしたら、この世紀の盗難事件が頭にひらめいた」と語っている。どうやらテーマは、生きる方向を見失った大学生たちを描いた、第1作『グエロス』と同じようである。

 

    

(本作にも出演するイルセ・サラスとレオナルド・オルティスグリス右端、『グエロス』から)

 

★実際の盗難事件は19851225日の明け方に起き、4年半後の1989610日に逮捕された。盗品は売却目的ではなくそのまま保管されていて大部分が返却された(現在マヤ室に展示されている「翡翠の仮面」はレプリカだそうです)。何が動機だったのかがメインテーマのようです。仮名にしたというフアン・ヌニェスの実名はカルロス・ペルチェス・トレビーニョ、ベンハミン・ウィルソンはラモン・サルディナ・ガルシアである。二人は獣医学専攻の大学生だった。フアンを演じるG.G.ベルナルは「登場人物の人格はとても複雑で、どうして二人があれほど窃盗に固執したのか」とコメントしている。撮影監督のダミアン・ガルシアも「二人の若者は盗みのためにプロの窃盗団に入り込むにはあまりに無邪気すぎた。私には窃盗をする動機が何だったのか言い当てられない」と。

 

       

    (犯人カルロス・ペルチェス・トレビーニョとラモン・サルディナ・ガルシア)

 

     

  (展示品を見るG.G.ベルナルと.オルティスグリス、アステカの黒曜石製の「猿の壺」か)

 

★作家カルロス・モンシバイスが分析したように、二人は単に考古学の遺品を大事に保存して賛美したかっただけかもしれない。窃盗事件の後、皮肉にも空っぽになったショーケースを見るために文化人類学博物館の参観者が急に増加したそうです。盗まれるまでそんなに美しい遺物が博物館に展示されていることなど、人々は知らなかったわけです。

  

  

      

  

(翡翠の仮面を見つめるフアン、映画から)

 

★製作者は、Detalle Filmsのモイセス・コジオ、Distant Horizonのアナント・シン、ブライアン・コックス、 Panorama Globalのヘラルド・ガティカ、他『グエロス』の製作者ラミロ・ルイス、G.G.ベルナルなど多数。『カイトKite』(米メキシコ合作2014)を手掛けたDistant Horizonが国際販売も兼ねる由。監督フィルモグラフィーなどは『グエロス』で。

   

        

        (クランクインしたときの監督とエキストラたち、20173月)

    

初めてパラグアイ映画が金熊賞を競う*ベルリン映画祭2018 ①2018年02月16日 16:16

     マルセロ・マルティネシの長編第1作「Las herederas」がノミネーション

   

    

★第68回ベルリナーレ2018215日から25日)のコンペティション部門に、初めてパラグアイからマルセロ・マルティネシLas herederasがノミネートされました。コンペティション部門は19作、スペイン語映画はパラグアイの本作と、メキシコのアロンソ・ルイスパラシオスMuseo2作品です。次回アップいたしますが、モノクロで撮ったデビュー作『グエロス』(14)はパノラマ部門で初監督作品賞を受賞しています。Las herederas」は、パラグアイの首都アスンシオンに暮らす上流階級出身の60代の二人の女性が主人公です。金熊賞以外の国際映画批評家連盟賞、初監督作品賞、テディ賞などの対象作品のようです。コンペティション以外のパノラマ、フォーラム各部門にスペインやアルゼンチンからも何作か気になる作品が選ばれています。

 

      

 

   Las herederas(「The Heiresses」)

製作:La Babosa Cine(パラグアイ)/ Pandara Films(独)/ Mutante Cine(ウルグアイ)/

   Esquina Filmes(ブラジル)/ Norksfilm(ノルウェー)/ La Fábrica Nocturna(仏)

監督・脚本・製作者:マルセロ・マルティネシ

撮影:ルイス・アルマンド・アルテアガ

編集:フェルナンド・エプスタイン

プロダクション・デザイン:カルロス・スパトゥッザSpatuzza

衣装デザイン:タニア・シンブロン

メイクアップ:ルチアナ・ディアス

プロダクション・マネージメント:カレン・フラエンケル

助監督:フラビア・ビレラ

製作者:セバスティアン・ペーニャ・エスコバル、他共同製作者多数

 

データ:製作国パラグアイ・独・ウルグアイ・ブラジル・ノルウェー・仏、言語スペイン語・グアラニー語(パラグアイの公用語)、2018年、ドラマ、95分、撮影地首都アスンシオン、製作費約514.000ユーロ、ベルリン映画祭上映は216

 

キャスト:アナ・ブルン(チェラ)、マルガリータ・イルン(チキータ)、アナ・イヴァノーヴァ(アンジー)、ニルダ・ゴンサレス(家政婦パティ)、マリア・マルティンス(ピトゥカ)、アリシア・ゲーラ(カルメラ)、イベラ、ノルマ・コダス、マリッサ・モヌッティ、アナ・バンクス、他多数

 

プロット:裕福な家柄の生れのチェラとチキータの物語。内気だが誇り高いチェラ、外交的なチキータ、居心地よく暮らすに充分な資産を相続した二人はアスンシオンで30年間も一緒に暮らしていた。しかし60代になり時とともに経済状態は悪くなる一方だった。いずれこのままでは相続した多くの資産を売らざるを得なくなるだろう。そんな折も折、チキータが詐欺で逮捕されてしまうと、チェラは予想もしなかった現実に直面する。初めて車の運転を習い、ひょんなことから裕福なご婦人方のグループ専用の白タクの無免許ドライバーになる。新しい人生が始まるなかで、チェラはやがて若いアンジーと出会い絆を強めていく。このようにして孤独のなかにもチェラの親密で個人的な革命が始まることになるだろう。                  (文責:管理人)

 

   

         (チキータ役マルガリータ・イルンとチェラ役アナ・ブルン、映画から)

     

     

       (アンジー役アナ・イヴァノーヴァとチェラ、映画から)

   

  監督フィルモグラフィー      

マルセロ・マルティネシMarcelo Martinessiは、1973年アスンシオン生れの監督、脚本家。アスンシオンのカトリック大学でコミュニケーション学を学び、その後ニューヨーク、ロンドン、マドリードで映画を学んだ。社会的なテーマ、アイデンティティを模索する短編やドキュメンタリーを撮る。2009年にモノクロで撮った短編Karai Norteは、パラグアイの詩人カルロス・ビリャグラ・マルサルの作品をもとにしている。1947年に起きたパラグアイ内戦中に偶然出会った男と女の物語。ベルリナーレの短編部門に初めて出品されたパラグアイ映画である。他にグアダラハラ映画祭2009イベロアメリカ短編作品賞受賞、グラウベル・ローシャ賞、AXN映画祭2010短編作品賞を受賞、5000米ドルの副賞を貰った。フィルモグラフィーは以下の通り:

 

2009Karai NorteMan of the North)短編19分グアラニー語、監督・脚本・編集

2010Calle última Ultima Street)短編20分グアラニー語、監督

   ベルリナーレ2011ジェネレーション部門、ウエルバ・イベロアメリカ映画祭2011

        短編映画賞、ビアリッツ映画祭ラテンアメリアシネマ部門出品

2012El Baldio、短編10

2016La voz perdida The Lost Voice)短編ドキュメンタリー12分、監督・脚本・編集・製作

2018Las herederas 省略

 

           

         (短編ドキュメンタリー「La voz perdida」のポスター)

 

★第73回ベネチア映画祭2016オリゾンティ部門の短編作品賞を受賞したドキュメンタリーLa voz perdidaが最も有名。クルグアティCuruguatyの農民大虐殺について、インタビューで構成されたドキュメンタリー、パラグアイ現代史の負の部分を描いた。予想外の受賞と述べた監督、海外暮らしが長いが子供のときから聞きなれた言葉でパラグアイの暗黒の政治を描きたいとインタビューに応えている。 

        

         (トロフィーを手に喜びの監督、ベネチア映画祭2016にて)

       

★コンペティション部門は初めてながら以上のようにベルリナーレの常連の一人、初監督作品が金熊賞に輝く例は皆無ではない。何かの賞に絡むことは間違いないと予想します。キャストの殆どが女優、主役のチェラ役アナ・ブルンは、映画は初出演だが舞台女優としてのキャリアは長いということです。チキータ役のマルガリータ・イルンも舞台が長く映画は2作目、若い女性アンジー役のアナ・イヴァノヴァ、この3人が絡みあってドラマは進行する。

 

      

                 (本作撮影中の監督)

 

★今年の審査委員長は、ドイツの監督トム・ティクヴァ(『ラン・ローラ・ラン』1998)、他スペイン・フィルモテカのディレクターであるホセ・マリア(チェマ)・プラド(マリサ・パレデスの夫君)は、スペインの顔として各国際映画祭に出席している。日本からは坂本龍一が審査員に選ばれている。当ブログではパラグアイ映画はアラミ・ウジョンのドキュメンタリー「El tiempo nublado」(20151作だけという寂しさです。本作が金熊賞以外でも何かの賞に絡んだら、秋のラテンビートも視野に入れて改めてアップいたします。

パラグアイ映画の紹介記事は、コチラ⇒2015年12月13日

追記: 『相続人』 の邦題でラテンビート2018上映が決定しました。

『苺とチョコレート』の続編?*フェルナンド・ぺレスの新作2017年03月08日 17:21

        トマス・グティエレス・アレアに捧げる―ディエゴのその後

 

★ディエゴとは、トマス・グティエレス・アレア『苺とチョコレート』の中で造形した主人公、ホルヘ・ぺルゴリアが演じた。こちらのディエゴは亡命許可証を入手して間もなく愛するキューバを後にするだろうアーティスト。片やフェルナンド・ぺレスの新作Últimos días en La Habanaの中のディエゴは、ハバナの古びたアパートのベッドに横たわっている。エイズに体をむしばまれ、もはや亡命の夢は潰えている。やつれたディエゴの傍らには同世代のミゲルが付き添っている。レストランの皿洗いをしながらアメリカへのビザが届くのを待っている。もはやイデオロギー論争にはうんざりした、ただ生き残りを賭けて暮らす庶民で溢れた「ハバナ」での「最後の日々」を性格の異なった二人の男は送っている。アレア監督の下で映画を学んだペレス監督が恩師に捧げる最新作。

 

   

   Últimos días en La Habana(「Last Days in Havana」)2016

製作:ICAIC (キューバ) / WANDA VISIÓN S.A. (スペイン) / Besa Films

監督・脚本:フェルナンド・ぺレス

脚本(共):アベル・ロドリゲス

撮影:ラウル・ペレス・ウレタ

編集:セルヒオ・サヌス

録音:エベリオ・マンフレッド・ガイ・サリナス

美術:セリア・レドン

製作者:ダニロ・レオン、ホセ・マリア・モラレス

 

データ:製作国キューバ=スペイン、スペイン語、2016年、ドラマ、93分、撮影地ハバナ

映画祭・受賞歴:第38回ハバナ映画祭2016審査員特別賞受賞(12月)、ベルリン映画祭2017ベルリナーレ・スペシャル部門出品(2月)、マラガ映画祭2017コンペティション正式出品(3月)、他

 

キャスト:ホルヘ・マルティネス(ディエゴ)、パトリシオ・ウード(ミゲル)、ガブリエラ・ラモン(ディエゴの姪)、クリスティアン・ヘスス、ジャイレネ・シエラ、コラリタ・ベロス、アナ・グロリア・ブドゥエン、カルメン・ソラル、他

 

プロット:現代のハバナを舞台に繰り広げられる友情と犠牲の物語。ディエゴはゲイの45歳、エイズに冒され、もはや夢を描くことができない。同世代のミゲルは「北」に脱出することを夢見て、来る日も来る日もアメリカの地図を眺めている。決して届くことのないビザを待ち続けて、レストランの皿洗いの仕事をこなしながら英語の独学に励んでいる。二人を取り巻く魅力溢れた人々がディエゴの部屋を訪れる。ある日、届くはずのないビザが届けられてくる。このただ事でない運命を前にして二人は突然岐路に立たされる。二人はどんな決断をするのだろうか。大きな変化が予感される小さな「島」を舞台に、友情、それに伴う犠牲、憂鬱、痛み、パッション、貧困、ユーモアに富んだダイヤローグが見る人を魅了する。

 

     

  (審査員特別賞のトロフィーを手に、監督とホルヘ・マルティネス、ハバナ映画祭2016

 

フェルナンド・ぺレス1944年ハバナ生れ)はキューバの監督、脚本家。既に何本か字幕入りで見ることができるが、2003年の異色の無声ドキュメンタリー『永遠のハバナ』(「Suite Habana」)しか公開されていない。1987年の長編デビュー作「Clandestino」が『危険に生きて』の邦題でキューバ映画祭2004で上映されているほか、『ハロー ヘミングウェイ』1990、東京国際映画祭上映)、『口笛高らかに』98NHKBS放映)も、20世紀のキューバ映画を特集したミニ映画祭などで何回か上映されている。そもそもキューバ映画は今世紀に入ってからは本数も少なく、かつての輝きを失っている。従ってキューバ映画祭を開催しようとすれば、いきおい20世紀の映画を選ぶことになる。キューバを舞台にしているが、例えばアグスティ・ビリャロンガの『ザ・キング・オブ・ハバナ』15、スペイン)やパディ・ブレスナックの『ビバ』15、アイルランド)などは、製作国も監督もキューバではない。当ブログで紹介したマリリン・ソラヤのVestido de novia14)、カルロス・レチュガのSanta & Andres16)などは公開はおろか映画祭上映さえ難しい。

 

                  (ハバナの中心街を歩くミゲル役のパトリシオ・ウード)


 

(ディエゴ役のホルヘ・マルティネスと姪役のガブリエラ・ラモス)

 

  

           (扇風機がないので常にうちわを動かしているディエゴとジャイレネ・シエラ)

 

★本作は長編映画8作目となる。製作者にホセ・マリア・モラレス、撮影監督にラウル・ペレス・ウレタなど長年映画作りを共にしてきた仲間とタッグを組んでいる。キャスト選考はかなり難航したとベルリンで語っていた。上記したようにベルリン映画祭のベルリナーレ・スペシャル部門での上映、因みにこのセクションではフェルナンド・トゥルエバのLa reina de España16、西)やアムネスティ国際映画賞受賞したメキシコのエベラルド・ゴンサレスのドキュメンタリーLa libertad del diabloもエントリーされていた)、これから始まるマラガ映画祭コンペ上映などで何らかの賞に絡めば、日本での知名度の高さ、または山形国際ドキュメンタリー映画祭2011の審査員としての来日などを勘案すれば、映画祭上映は期待できるのではないか。

 

 

             (フェルナンド・ぺレス監督)

 

★『永遠のハバナ』以降のフィルモグラフィー、2010José Martí: el ojo del canario2014La pared de las palabras2作、前者はキューバのどちら側からも尊敬されているホセ・マルティの物語、後者は進行性筋萎縮症になって書くことはおろか話すこともできなくなっていく息子とその家族、母親、兄弟、祖母との闘いの物語、原題の「言葉の壁」はそこからきている。息子に初めての起用となるホルヘ・ぺルゴリア、母親に『危険に生きて』や『口笛高らかに』出演のイサベル・サントスが扮した。監督によると実話にインスパイアーされて制作したということです。 

   

    (ホルヘ・ぺルゴリアとイサベル・サントス「La pared de las palabras」から)

  

デ・ラ・イグレシア、新作ホラー・コメディを語る*「シネ・エスパニョーラ2017」2017年02月26日 18:06

       「信用できる唯一の武器は笑いである」とアレックス

 

★ベルリン映画祭も閉幕しました。アレックス・デ・ラ・イグレシアの新作『クローズド・バル 街角の狙撃手と8人の標的』はコンペティション外でしたから賞には絡みませんでしたが、監督はベルリン入りしてプロモーション活動に努めました。スリラーなのかホラーなのか、またはその両方なのか分かりませんが、「死の恐怖」についてのかなりシリアスなコメディ群集劇であるようです。彼はデビュー作以来オーディオビジュアルの致命的な退屈に反旗を翻して終わりなき闘いを続けています。ベルリン映画祭の後、第20マラガ映画祭317日~26日)のオープニング上映が内定しています(ベルリンと同じコンペティション外)。スペイン公開は324日、これは「シネ・エスパニョーラ2017と時差を考えると同日になります。マラガ映画祭については後日大枠をアップいたします。ベルリンの第1回作品賞受賞のカルラ・シモンVerano 1993はセクション・オフィシャルでジャスミン賞を狙います。

 

  

  (エレガントな黒の背広姿のアレックス・デ・ラ・イグレシア、ベルリンFF 211日)

 

1965年ビルバオ生れの監督は、子供時代に一度もサッカーボールを蹴ったことがなかったという変り種、社会学教授の父親、肖像画家で活動的な母親のもと自由で国家主義的でない家庭環境のなかで育った。政治的な不安は感じなかったが、街路での小競り合いや警官の銃声のなかで、つまりテロリストたちと隣り合って暮らしていた。当時のバスクの流行語は「何かあったのだろう」という一言、何が起ころうとも誰かがそう話すことで終わりだった。フランコ体制が名目上終わるのは10年後の1975年末のこと、しかし同じような思考停止は今でも続いていると監督。

 

★監督によれば、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』やスティーヴン・キングの『ミスト』、または『皆殺しの天使』からヒントを得ている。「ブニュエルの『皆殺しの天使』は、形而上学的な結末になる。知識などはどこかへ行ってしまって、閉じ込められて抜け出せないという苦痛だけを話し合っている。自分を取り巻く現実を前にして思考停止に陥ってしまっている。現実というのは時には殻のようなもので中身がよく分からない。私たちが度々経験するショーウィンドー越しの商品と同じです」と。登場人物が監禁される場所は、アガサ・クリスティーのは離れ小島、スティーヴン・キングはスーパーマーケット、ブニュエルのは或るブルジョワジーの大邸宅の居間、いわゆる「クローズド・サークル」の代表作品と言われる。邦題が「クローズド・バル」となった延線上には、これがあったかもしれない。

 

★本作ではマドリードのバルが舞台になった。どうしてバルにしたのか、バルは監督にとってどんな意味をもつのか。彼と脚本家のホルヘ・ゲリカエチェバリアは、毎朝9時にマドリードの「エル・パレンティノ」というバルで朝食を摂りながら執筆している。「バルは他人と一緒に居心地のいい時間を過ごせる空間でもあるが、反対に突然人を怯えさせるようなことが起こる場所でもある。隣に座っている客が暗殺者である可能性もあるし、反対に自分が抱えている問題を解決してくれる人かもしれない。あるとき、浮浪者入ってきて、店の女主人が平手打ちを食わせるまで皆を罵りはじめた。一人の客が『何か食べるものを与えるべきだった』と言うと、彼女は『そうしたくなった人に与える』と応酬した。そして彼にコーヒーをついだ。それでみんな黙り込んで固まってしまった」のがアイディアの発端だったそうです。映画にも浮浪者が登場する。

 

  

 

 

 (バルに監禁状態になったマリオ・カサス、ブランカ・スアレス、カルメン・マチ、他)

 

★「現実逃避は映画人として死を意味します。それぞれみんな頭の中に手本があるが、一歩家を出たら身体的強さをもたねばならない」とも。「私たちが暮らしている社会は恐怖が支配しているが、これは現実でなく悪い夢を見ているんだ、と思いたい。しかし実際は悪夢でなく現実、あるとき人生は突然ひっくり返る」と。諺にあるように「男(女も)は敷居を跨げば七人の敵あり」というわけです。「社会的問題を描くのが第一の目的ではないが、背景にそれなくして私の映画は成立しない。私を不安にさせる密室に登場人物を閉じ込める話は魅力的、現実には起こらないことを通して真実を浮き上がらせたい」と。人間は憎しみで出来上がっている。グロテスクを排除せず、死の恐怖、本能的な衝動、アイデンティティについて語ったホラー・コメディ。

 

★既に次回作Perfectos desconocidosの撮影も終了して今年公開が決定しているようです。イタリア映画『おとなの事情』(2016、パオロ・ジェノベーゼ)のリメイク。イタリアのアカデミー賞ドナテッロ賞を受賞した話題作、間もなく3月公開されます。イネス・パリスの悲喜劇「La noche que tu madre mató a mi padre」(16、マラガ映画祭正式出品)でコメディ女優としての力量を発揮したベレン・ルエダ、『スモーク・アンド・ミラー』のエドゥアルド・フェルナンデス、他にエドゥアルド・ノリエガペポン・ニエトエルネスト・アルテリオダフネ・フェルナンデスフアナ・アコスタなど7人の芸達者が顔を揃えている。ちなみに「La noche que tu madre mató a mi padre」では、ルエダとフェルナンデスは息の合った夫婦役を演じていた。ペポン・ニエト以外はデ・ラ・イグレシア作品は初めての出演かもしれない。こちらはラテンビートに間に合うだろうか。

   

   

                    (監督を挟んで7人の出演者たち)

 

 

 (演技を指導中の監督とベレン・ルエダ)

 

イネス・パリスの悲喜劇の紹介記事は、コチラ2016425

  

ベルリン映画祭2017*結果発表2017年02月22日 21:35

         セバスティアン・レリオの新作、銀熊脚本賞を受賞

 

★この映画祭はやたらカテゴリーが多くて(コンペ、パノラマ、フォーラム、ゼネレーション、他)、イベロアメリカ映画だけに絞っているのに漏れが避けられない。コンペティション部門は、セバスティアン・レリオUna mujer fantástica(チリ独米西)だけだったから、さすがに漏れは避けられた。下馬評が高得点だったので何かの賞に絡んで欲しいと思っていた。思いが通じたか監督とゴンサロ・マサが共同執筆した「銀熊脚本賞」とエキュメニカル審査員賞スペシャルメンション、テディー賞を受賞した。

 

  

    (左から、主役のダニエラ・ベガ、監督、共同執筆者ゴンサロ・マサ)

 

 

        (テディ賞のトロフィーを手にしたダニエラ・ベガ)

 

★前作『グロリアの青春』13)ではグロリアに扮したパウリナ・ガルシアが女優賞を受賞、監督にとってベルリン映画祭は相性がいい。ラテンビート上映後公開される幸運に恵まれました。本作もラテンビートあるいは2016年から「レインボー・リール東京~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」と名称が変わった映画祭などを期待していいでしょう。ダニエラ・ベガが扮するマリナ・ビダルはトランスジェンダーの女性、テーマとしては抵抗ないですね。現在27歳になるベガ自身も偏見の根強いチリにもかかわらず、両親や祖父母の理解のもと10代の半ばに女性として生きることを決心した。

 

     

      (プレス会見に臨んだセバスティアン・レリオ、ベルリン映画祭より)

 

    カルラ・シモンのデビュー作、第1回作品賞オペラ・プリマ賞を受賞

 

★スペインからはジェネレーション部門出品のカルラ・シモンVerano 1993(原題「Estiu 1993」、「Summer 1993」)が、第1回監督作品賞、国際審査員賞を受賞した。母親の死にあって親戚の家に養女に出される6歳の少女フリーダの物語。友達やバルセロナともさよならして、新しい家族となった養父母と一緒に最初の夏を過ごす。少女は悲しみを抱えたまま新しい世界に溶け込むことを学んでいく。両親をエイズで亡くした監督の子供時代がもとになっている。フリーダをライア・アルティガス、養母をブルナ・クシ、養父をダビ・ベルダゲルが演じる。各紙誌ともこぞってポジティブ評価で、今年のスペイン映画の目玉になりそうです。田園の美しい映像、情感豊かで細やかな描写は予告編を見るだけで伝わってきます。子役とアニマルが出る映画には勝てないと言われるが、どうやらハンカチが必需品のようだ。

 

 

   

 (フリーダのライア・アルティガス

                             

 ★カルラ・シモンは、1986年バルセロナ生れの監督、脚本家。2009年バルセロナ自治大学オーディオビジュアル・コミュニケーション科を卒業、その後カリフォルニア大学で脚本と監督演出を学び、試験的な短編「Women」と「Lovers」を制作する。2011年、ロンドン・フィルム学校に入り、ドキュメンタリーやドラマを撮っている。アルベルト・ロドリゲス監督の強い後押しのお蔭で製作できたと語っている。いずれ詳細をご紹介したい作品です。

 

           

   (カルラ・シモン、ベルリン映画祭にて)

 

     エベラルド・ゴンサレスのドキュメンタリー、アムネスティ映画賞を受賞

 

★ベルリナーレ・スペシャル部門のアムネスティ国際映画賞受賞作品は、メキシコのエベラルド・ゴンサレスのドキュメンタリーLa libertad del diablo(「Devil's Freedom」)。ベルリンの観客を身動きできなくさせたと報道された暴力と悪事が主人公のドキュメンタリー。現在のメキシコで起きている地獄の暴力が描かれており、同情は皆無、犠牲者、殺し屋、警察官、軍人などの証言で綴られている。

 

 

★昨年のモレリア映画祭の受賞作品、ベルリンがワールド・プレミア。「残虐な行為はいとも簡単に行われる」とゴンサレス監督。

 

     

 (エベラルド・ゴンサレス監督、ベルリン映画祭にて)

 

★今年の金熊賞はハンガリーのIldiko Enyediイルディコ・エニェディOn Body and Soulが受賞した。他に国際批評家連盟賞FIPRESCIもゲット、寡作ですがカンヌやベネチアでも受賞しているベテラン、1955年ハンガリーのブダペスト生れの監督、脚本家。監督賞に甘んじたフィンランドのアキ・カウリスマキを推す審査員もいたのではないでしょうか。グランプリ審査員賞はセネガル、アルフレッド・バウアー賞はポーランド、男優賞はドイツ、女優賞は韓国など、受賞者がばらけて閉幕しました。

 

   

         (大賞を射止め満面に笑みのイルディコ・エニェディ監督)