イサベル・コイシェの新作「Elisa y Marcela 」*ベルリン映画祭20192019年02月11日 20:40

             スペイン初となったレズビアン夫婦エリサとマルセラの遍歴

 

        

★第69回ベルリン映画祭201927日(~17日)開幕しました。18年間ベルリン映画祭を率いてきたヘッド・ディレクター、ディーター・コスリック最後の年ということで世代交代がここでもあるようでした。コンペティション部門のスペイン語映画は、イサベル・コイシェElisa y Marcela1作だけ、次のパノラマ部門には、ラテンアメリカ諸国、例えばデビュー作『火の山のマリア』が幸運にも公開されたグアテマラのハイロ・ブスタマンテ、アルゼンチンのマテオ・ベンデスキイの家族をテーマにした第2作目など、何本か目に止まりましたが、いずれご紹介できたらと思います。

 

      

          (コイシェの新作Elisa y Marcela」のポスター

 

★コンペティション17作品のなかにはにはフランソワ・オゾンファティ・アキン、ワン・シャオシュアイなどベルリナーレに縁の深いライバルが金熊賞を狙って目白押しです。審査委員長はフランスで最も輝いている女優の一人ジュリエット・ビノシュです。彼女はコイシェのNobody Wants the Nightで、1909年初めて北極点に達したと言われるアメリカの探検家ロバート・ピアリーの妻を演じ、コイシェを「こんな過酷な役を引き受けてくれるぶっ飛んだ女優は彼女しかいない」と感嘆させた演技派女優。

    

        

 (審査委員長ジュリエット・ビノシュとディーター・コスリック、201827日開幕式にて)

 

★コイシェ監督の新作については既に1年前にアナウンスがあり、当時のキャストはエリサに最初からの候補だったナタリア・デ・モリーナ(ハエン近郊リナレス1990年)、マルセラにマリア・バルベルデでしたので、そのようにご紹介しております(201828)。しかしバルベルデのスケジュール調整がつかず、急遽グレタ・フェルナンデス(バルセロナ1995年)に変更になりました。演技派として評価の高いエドゥアルド・フェルナンデス(『スモーク・アンド・ミラーズ』)が父親、1995年バルセロナ生れだが、子役時代から映画やTVシリーズに出演しており芸歴は長い。コイシェ監督も「グレタが8歳のときから知っていた。女優になるために生まれてきたような女性」と語っている。イサキ・ラクエスタの『記憶の行方』の脇役、思わせぶりな邦題が不人気だったエステバン・クレスポの『禁じられた二人』ほか、ラモン・サラサールの『日曜日の憂鬱』でスシ・サンチェスの義理の娘になった。偶然かもしれないが3作ともNetflixで配信された。

 

 Elisa y Marcela(「Elisa and Marcela」)2019

製作:Rodar y Rodar / Lanube Peliculas / Netflix España / Zenit / Film Factiry /

    TV3(カタルーニャテレビ)/ Canal Sur  

監督・脚本:イサベル・コイシェ

原作:ナルシソ・デ・ガブリエル「Elisa y Marcela, Más allá de los hombres2010刊

撮影:ジェニファー・コックス

編集:ベルナ・アラゴネス

音楽:ソフィア・アリアナ・インファンテ

製作者:ホセ・カルモナ、ササ・セバリョス、ジョアキン・パドロ、マル・タルガロナ、他

 

データ・映画祭:スペイン、スペイン語・ポルトガル語、2019年、伝記ドラマ、129分、モノクロ。撮影地:ガリシアのセラノバ、オレンセ(ガリシア語オウレンセ)、バルセロナなど、201857日クランクイン。第66回サンセバスチャン映画祭2018に参加して編集の過程を撮った5分間の予告編を上映。第69回ベルリン映画祭2019正式出品(213日上映)、Netflixオリジナル作品(2019年ストリーミング配信予定)、OUTshine 映画祭2019 観客賞受賞。

 

キャスト:ナタリア・デ・モリーナ(エリサ・サンチェス・ロリガ/マリオ)、グレタ・フェルナンデス(マルセラ・グラシア・イベアス)、サラ・カサスノバス(マルセラの娘アナ)、タマル・ノバス(マルセラの求婚者アンドレス)、マリア・プファルテ(マルセラの母親)、フランセスク・オレーリャ(マルセラの父親)、リュイス・オマール(ポルト県知事)、ホルヘ・スケト(コウソの医師)、マノロ・ソロ(ポルトの刑務所長)、ミロ・タボアダ、マヌエル・ロウレンソ(ドゥンブリア教区の主任司祭ビクトル・コルティエリャ)、エレナ・セイホ、ルイサ・メレラス、ロベルト・レアル(コウソの司祭)、アンパロ・モレノ、タニア・ラマタ、コバドンガ・ベルディニャス、他ガリシアのエキストラ多数

 

ストーリー1885年、教師のエリサとマルセラは、働いていたア・コルーニャのドゥンブリアの小学校で知り合った。互いに惹かれあい、やがて隠れて生きねばならない恋愛関係に陥っていった。マルセラの両親の支えもあったが、両親は冷却期間をおくようマルセラを外国に送り出した。数年後マルセラが帰国してエリサと再会する。社会的な圧力にも屈せず二人は共に人生を歩もうと決心するが、口さがない巷の噂を封じるための計画を練らねばならなかった。それはエリサが一時的に村を離れて、数年後に英国生まれのマリオ・サンチェスとなって戻ってくることだった。190168日、ドゥンブリア教区のサンホルヘ教会でビクトル・コルティエリャ主任司祭の司式で挙式した。教会によって公式に通知されたスペイン最初の同性婚であった。しかし「男なしの夫婦」という噂がたちまち広まり、二人はポルトガルに逃亡、816日港湾都市ポルトで逮捕されるも、13日後に釈放された。190216日、マルセラは父親を明かさないまま女の子を出産、二人は新天地アルゼンチンを目指してスペインを後にする。                           (文責:管理人)

       

          

           (マルセラと男装のエリサ、教会で挙式した190168日の写真)

 

      20世紀初頭、逆境のなかでも愛を貫いた二人の女性の勇気に魅了される

 

★続きは端折るとしてこんなお話です。エリサがどうやって男性になることが可能だったかというと、彼女の死亡した従兄弟の偽造身分証明書を利用して男装し、ア・コルーニャの教会を騙したからであった。二人の愛を貫くためにはこうするしか方法がなかった時代でした。20世紀初頭の北スペインのガリシア地方ドゥンブリアでは、女同士の愛など許されるはずがなかった。敵意に満ちた雰囲気の中で主任司祭を騙して挙式するわけですから、二人はかなり思い切った大胆な女性だったと想像できます。伝わっている数字が正しければ、7ヵ月後にマルセラは出産するわけですから切羽詰まっていたとも考えられます。移住したブエノスアイレスでは、今度はエリサが60代のデンマーク人と結婚するが、これはいわゆる打算的な偽装結婚だったことが発覚して、その後二人はいずこともなく消息を絶つ。史実と映画がどのくらい重なるのか現時点では分からない。監督の焦点がどこに当てられているのか興味のあるところです。

       

       

        (逃亡先のポルトで撮ったマルセラとエリサ=マリオ、1902年)

 

★原作者のナルシソ・デ・ガブリエルは、1955年ガリシアのルゴ市近郊のカダボ生れの教育学者、ア・コルーニャ(スペイン語ラ・コルーニャ)大学で教育学の理論と歴史を教えている。ガリシア語とスペイン語で執筆、本作のベースになったElisa y Marcela, Más allá de los hombresのオリジナル版は、2008年ガリシア語で執筆され、2年後にスペイン語に翻訳されている。ア・コルーニャ出身の作家マヌエル・リバス(代表作『蝶の舌』)のプロローグが付いている。小説ではなく雌雄同体現象、女性同性愛、異性装者、フェミニズムなどについての考察、前半がエリサとマルセラに費やされているようです。コイシェ監督は著者とは友人関係にあり、直ぐに映画化を構想したがなかなか実現できなかったということです。

 

        

    (ガリシア語のオリジナル版を手にしたナルシソ・デ・ガブリエル)

 

★「二人の結婚式の写真を見たときから、これはシロクロで撮りたいと思った。それでジェニファー・コックス撮影監督)と1930年代の映画を見ていった。そこで目に留まったのがエリッヒ・フォン・シュトロハイムの『「クィーン・ケリー』(29)だった」という。ウィキペディアによると、完全主義者として知られる監督とヒロインのグロリア・スワンソンが衝突して撮影中止になった作品のようです。多分未完成作品が残っているということでしょう。「レズビアンのカップルが主役でも、パルム・ドールを受賞したアブデラティフ・ケシシュの『アデル、ブルーは熱い色』のような女性の性感を描くものではない。現在世界の73ヵ国では同性愛は違法で収監され、13ヵ国は死刑です」。「私を魅了するのは、愛の物語というだけでなく、社会の偏見にもめげず、危険に晒されながらも別れずに、逆境に生きた女性の勇気です」と監督。

   

    

        (サンセバスチャン映画祭2018でのプレス会見、右端が監督)

 

★一般公開をせずにダイレクトにNetflixで配信する方法を選んだことについては「私だって映画館を観客でいっぱいにしたい。しかし190ヵ国に配信される魅力」には勝てないと。キャスチングについては「ナタリア・デ・モリーナ)には、まだプロジェクトが具体化していなかった3年前に、何時になるか分からないがと但し書き付きでオファーをかけていた。デ・モリーナはダビ・トゥルエバの『「ぼくの戦争」を探して』でゴヤ賞2014新人女優賞、フアン・ミゲル・デル・カスティージョの「Techo y comida」で同2016主演女優賞を受賞しているシンデレラ女優。グレタは8歳のときから知っていた。ある日、鏡の前で泣いているので、何があったのと訊くと、どうやったら上手に泣けるか練習していたと。「この子はもう女優だと思った」と監督。

 

      

 

             

 (ナタリア・デ・モリーナとグレタ・フェルナンデス)

 

★度々ガリシアを訪れて撮影地を探した結果、20世紀初頭の面影を残しているセラノバで201858日にクランクインした。俳優以外のエキストラ140名にも参加してもらった。ガリシアとバルセロナの半々で撮影したということです。主演の二人はアンダルシアとバルセロナ生れだが、脇役陣には、マルセラの求婚者アンドレス役のタマル・ノバス(『夢を飛ぶ夢』)、アナ役のサラ・カサスノバス、主任司祭のマヌエル・ロウレンソなどガリシア生れの俳優が目立つ。

   

    

 

   

 (20世紀初頭の雰囲気が残るセラノバでの撮影風景)

 

★「『エリサとマルセラ』を携えてベルリンに行くことは、私にとって大きな意味があります。それというのもこの映画は長年培ってきた仕事の頂点の一つであり、根気強く突き進んできた頑張りへのご褒美でもあるからです。世界で一つしかないこの物語を国際的な映画祭の観客に見てもらえる幸運、エリサとマルセラを演じたナタリア・デ・モリーナとグレタ・フェルナンデスの二人の女優がベルリンの観客を魅了することを願っています」とコイシェ監督。果たしてベルリンの審査員や観客を虜にきるでしょうか。ビエンナーレは監督にとって特に思い入れの深い映画祭、過去にはデビュー作『あなたに言えなかったこと』(96)、『死ぬまでにしたい10のこと』(03)、『あなたになら言える秘密のこと』(05)、『エレジー』(08)、オープニング上映作品に選ばれた「Nadie quiere la noche」(15)、間もなく3月に公開される『マイ・ブックショップ』もここで特別上映されたのでした。

 

 関連記事

『「ぼくの戦争」を探して』の紹介記事は、コチラ20140130/11月21日

Techo y comida」の紹介記事は、コチラ20160116

Nadie quiere la noche」の紹介記事は、コチラ20150301

『マイ・ブックショップ』の紹介記事は、コチラ20180107


コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://aribaba39.asablo.jp/blog/2019/02/11/9035088/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。