イサベル・コイシェの新作「エリサとマルセラ」*ベルリン映画祭2019 ― 2019年02月15日 19:08
脚本を小脇に抱えて苦戦した10年間

★今年のベルリナーレのコンペティション部門は、前回アップのイサベル・コイシェの「Elisa y Marcela」だけで、去る13日上映されました。プレス会見には監督以下主演のナタリア・デ・モリーナとグレタ・フェルナンデスも出席しました。ちょっと金熊受賞は厳しそうですね。前回とダブりますが、エリサとマルセラは1901年6月8日に挙式したが、女性同士だったことが分かった後も記録を削除しなかった。だから残っているわけです。二人が教えていた村コウソではゴシップが絶えなかったので、隣国ポルトガルのポルトに逃亡しなければならなかった。しかしたちまち8月16日に逮捕され二人は収監されてしまう。マルセラは翌年1月6日に生まれる娘をお腹に抱えて刑務所に入れられたわけです。父親が誰かは分からないそうで、同じ年に赤ん坊を連れずに渡ったアルゼンチンでの生活もよく分かっていないらしい。

(「もっと女性にチャンスを」と書かれた扇子を手にナタリアとグレタ、監督)
★なかなか制作会社が見つからなかった理由の一つが「モノクロで撮る」ということだった。殆どのプロデューサーが「難色を示した」と監督。今ではアルフォンソ・キュアロンの『ROMA/ローマ』やパヴェウ・パヴリコフスキの「Cold War」の成功で製作者の態度にも変化があるようです。そして第二の理由がテーマ、「こんなありそうもない奇妙としか言えない物語を誰に語りかけるのかと、ガリシアでもフランスでも何人ものプロデューサーから言われた」と。それでもう自分でやるしかないと覚悟を決めて走り出した。そんなとき制作会社「Rodar y Rodar」を通じてNetflixが「シロクロでもいいし、テーマも悪くない」と打診してきてくれた。今まで誰も資金を出してやろうとは言ってくれなかったし、誰も興味を示してくれなかった。断る理由なんてないですよね。これはキュアロンの『ROMA/ローマ』のケースと同じだ。「Rodar y Rodar」はバヨナの『永遠のこどもたち』やギリェム・モラレスの『ロスト・アイズ』を手掛けている制作会社です。

(イサベル・コイシェ監督、プレス会見)
★Netflix作品がビエンナーレにエントリーされるのは、公開できないドイツの劇場主にとっては嬉しくない。それで160館が映画祭とドイツ文化省にエントリーしないよう公開書簡を出したということです。スペインでは何時かはまだ分からないが劇場公開できるようです。Netflix問題はこれからも引きずるのは明らかです。監督は「作品は当然スクリーンで観られることを想定して撮っているから、タブレットで私の作品を見ている人を見かけると悲しい」と語っています。だからドイツの劇場主の要求には痛みを覚えるとも。監督だったら誰だって映画館で観てもらいたいですよね。『ROMA/ローマ』がオスカーで成功すれば起爆剤になるかもしれない。「ビエンナーレは大画面を守って、一方Netflixは小画面を守る」と棲み分けすればいい。将来的にはどちらでも観ることができるようになることを期待したい。
★「政治的なメッセージを込めて撮ったのか」という質問には、「個人的には婚姻関係には反対です。しかしそのほうがいいという人はすればいい。(映画の中の)マルセラが司祭や医者や隣人たちに向かって『どうして私たちの人生に首を突っ込むの?』というセリフが重要なんです。これは映画であってマニフェストではない」と。「私が物語を探すのではなく、物語が私を呼ぶのです」。コイシェはスペインでも飛び切り強い女性、そしてエリサやマルセラのように闘う女性が好きなんです。4週間で登場人物に変身したナタリア・デ・モリーナとグレタ・フェルナンデスにも拍手、ナタリアは女優賞候補になっているようです。娘グレタが心配でパパもベルリンに駆けつけてきたようです。

(女優賞候補のナタリア・デ・モリーナを真ん中にした監督とグレタ・フェルナンデス)

(赤絨毯の父エドゥアルド・フェルナンデスとグレタ)
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