『エルヴィス、我が心の歌』 *アルマンド・ボー ②2016年06月26日 12:56

           根っこのない人間、インパーソネーターの危機

 

A: 誰でもある程度は他人を真似て生きているわけですが、主人公カルロスのようにピッタリ重なってしまうと救済できない。恐ろしい社会派ドラマです。自分で拵えた壁だから壊すこともできたのだが、愛が壊れると残るのは喪失感だけです。孤独には幻滅も付いてくるから、現実は地獄と化す。

B: アイデンティティーの喪失とか自己否定とかではすまない。「そっくりさん」をやっているうちに誇大妄想に陥り、コチラとアチラの境界が消滅してしまう。

 

A: かろじてコチラに踏みとどまっていられたのは、妻や娘への愛だった。最初カルロスは、エルヴィスとして自分を完結させるか家族を選ぶか、二つの間で揺れていた。しかし家族が壊れてしまえばコチラに未練はない。プレスリーは妻プリシラが娘のリサ・マリーを連れて新しい男に走ってから急激に崩れていった。

B: 監督はモデルの人生に、そっくりさんの人生を重ねていく。

A: モデルは妻が新しい男に走ったことで苦しむが、そっくりさんの方は、妄想にとり憑かれ現実を受け入れない夫に同情しながらも一緒に暮らすことができなくなった妻の方が苦しむ。ここが二人の大きな違いです。

 

B: 自分に根っこがないと境界は無きが如しだから、行き来している自覚もやがて消えてしまうことになる。

A: 自分も含めて周りはそういう人が溢れている。アルマンド・ボー監督もこの映画は「狂気のメタファー」だと語っています。

 

B: インパーソネーターはただの「そっくりさん」ではなく、モデルの内面に深く入り込み、完全一体化していかなければならない。カルロスはそれを実践した。

A: スペイン語映画ファンなら、『トニー・マネロ』08)を思い出す観客が多かったはず、主役を演じたアルフレッド・カストロの狂気にショックをうけた。パブロ・ララインの「ピノチェト政権三部作」の第一部を飾った作品、監督、俳優とも二人をおいて現代チリ映画は語れない。

B: 大抵の方はハーモニー・コリンの『ミスター・ロンリー』07)でしょうか。パリに住むアメリカ青年役にディエゴ・ルナが扮し、マイケル・ジャクソンのそっくりさんを演じた。マリリン・モンロー、マドンナ、ジュームス・ディーンなどのそっくりさんも登場する。結末は本作とは異なりますが。 

  

               (『トニー・マネロ』のポスター)

 

A: マイケル・ジャクソンのインパーソネーターNo.1NAVIは、マイケル自身のお墨付きをもらっていた。本人没後はツアーを組んで大忙しだとか。しかしエルヴィスにしろマイケルにしろ、若くして亡くなっているから、モデルの享年が近づくにつれインパーソネーターに危機がやってくる。

B: まさにカルロスがそうでした。カルロスにとって42歳の誕生日は、41歳とはまるで違う。

 

        ちりばめられた伏線の貼り方、メタファーとしての選曲

 

A: 昼は「お前の代わりなんか直ぐ見つかる」と馘首をちらつかせ、カルロスの誇りをズタズタにする現場主任のもとで働いている。ここは自分の居場所ではない。夜はエルヴィスのトリビュート・アーティストとして取替不可能な存在、大きな野心が生れてくる。

B: ここでは自分を〈エルヴィス〉と呼ばせ、音響設備が悪いとぶちギレしてステージを下りてしまう。「俺は神様から素晴らしい声を授けられたエルヴィス」なのだから。

A: このとき歌っていたのが最後のシーンに流れる「アメリカの祈り」、だからゆめ疎かにできないのです。それが最後に分かる。しかし出演料は安く、おまけに滞りがち、これでは間に合わない。映画の早い段階で帰宅途中に飛行場の側を通るシーンが映りますが、これもいずれメンフィスにあるエルヴィスの聖地に飛ぶ伏線でしょう。

 

    

             (「ザ・キング」エルヴィス・プレスリー)

 

B: 老母が入所しているケアハウスでギターを手に弾き語る「オールウェイズ・オン・マイ・マインド」は、喪失感を象徴する曲、母に最後の別れを告げる伏線になっている。

A: シンガーの田中タケル氏が「カタログ」に寄せた紹介文によると、カルロスが決行前夜クラブでピアノの弾き語りをしながら熱唱する「アンチェインド・メロディ」は、死別を象徴する曲、カルロスが着ていた衣装もエルヴィスにとっては死装束だそうです。

B: エルヴィス・ファンには、選曲のすべてがメタファー、伏線だと分かる仕掛けになっている。勿論、そんな知識がなくてもジョン・マキナニーの歌に酔うことができます。

 

         奇跡は結構起きる、ジョン・マキナニーとの出会い

 

A: 工場の制服を焼却し、スケート場で親子三人の最後の時を過ごす。準備万端整ったところで、妻が交通事故で意識不明の重体となる。ここから実は本当のドラマが始まると思う。

B: これ以前は予想通りの筋書き、しかし疎遠だった娘との距離が次第に縮まるにつれ、もしかして娘の愛の力で正気に戻るのか。不安で眠れない娘に子守唄代わりにカルロスが歌った「ハワイアン・ウェディング・ソング」は心に沁みた。

 

  

           (妻アレハンドラ、娘リサ・マリー、カルロス)

  

A: プレスリーが主演した『ブルー・ハワイ』で歌われた曲、娘との距離の縮め方は自然でとてもよかった。奇跡的にアレハンドラの意識が戻り、二人で面会にいくシーンでは、監督は二人に手を繋がせていた。奇跡はめったに起こらないと言いますが、結構起きるのです(笑)。

 

B: プレスリーの音源は一切使用されていない、すべてジョン・マキナニーが歌っている。

A: ボー監督がトリビュート・バンド「エルビス・ビベ」のジョン・マキナニーに接触したのは、当時構想していた主役の演技指導を打診するためだった。ところが会った瞬間、主役が目の前に立っていた、というわけです。奇跡は起こるのですね。

B: しかし、この逸話は眉唾だね。マキナニーはエルヴィスのトリビュートとして有名だったから、最初から彼に白羽の矢を立てていたにちがいない。声や体型は言わずもがな、マイクを握る太い指、歌唱中に吹きでる汗までそっくりだった。

 

    

     (トリビュート・バンド「エルビス・ビベ」で歌うジョン・マキナニー)

 

A: どちらにしろ彼の人生は変わってしまった。テレビのトーク番組のゲストに呼ばれたり、ガストン・ポルタルが監督したTVミニシリーズ“Babylon”(12)に1話だけですが出演した。

B: エルヴィスとはまったく関係ない刑事ドラマでした。

 

              親の「七光り」もラクではない

 

A: 前回アルマンド・ボーのキャリアについては簡単にご紹介しましたが、祖父と姓名が同じのため二人はごちゃまぜに紹介されています。父親のビクトルがミドルネームを付けなかったせい、アルゼンチンでは「nieto孫」を付けて区別しています。ミューズだったイサベル・サルリが出演している作品は祖父の監督作品です

 

B: ボー監督は現在6歳になる長男にも同じアルマンドを付けた。日本では戸籍法があるからこういう自体はあり得ない(笑)。

A: 有名人の「○○の子供」「××の孫」は七光りの反面重荷になることもある。彼は勉強嫌いだったらしく、特に数学がダメだった。16歳から広告業界で働き始めたのもそれがあるね。ニューヨーク・フィルム・アカデミーも父親に行かされたと語っている。たったの4ヶ月在籍しただけ、縛られるのが嫌いなのでしょう。

B: 本作を共同執筆したニコラス・ヒアコボーネはエルサルバドル大学で学んでいる。アルマンド・ボーの長女の子供、というわけで従兄弟同士です。

 

A: 前回も書きましたが、現在はロスアンゼルスの閑静なベニス地区に転居している。理由はコマーシャルの仕事にはアメリカのほうがいいから。それもあるでしょうが、何につけ祖父や父親と比較されるのが重荷になっているのかもしれない。

B: 脚本を共同執筆した『バードマン』がアカデミー賞を受賞したことも大きい。ガラではジョージ・クルーニーと一緒にコーヒーを飲み、ミック・ジャガーと歓談し、ベッカムが「見たなかではバードマンが一番面白かったよ」と言うために近寄ってきたとか。

A: 「受賞したから言うわけじゃないが、息子を誇りに思う」父親も我が子の晴れ舞台にアルゼンチンから駆けつけた。「私の父も私も成し遂げなかった快挙」と興奮気味のビクトル、妻ルチアナともどもボー一家は興奮の渦に巻き込まれた。たかが映画ですが、これがオスカーなのです。

 

B 他にも祖父のミューズだったイサベル・サルリの逆鱗が理由の一つだったのでは?

A: 「私のことを祖父のアマンテだったと言ったけど、私は彼の祖父のアモールだったのよ。彼の祖父が死んだとき、孫は赤ん坊だった。私についてよくも知らず、あんな発言をするのは恩知らずの碌でなしがすること。ボー一族について話すのは気分が良くない。私にはボーという姓はアルマンドの死とともに終わったの。まったく○×△☆・・・」

B: もう女優は引退していると思うが意気軒昂、やはりボー一族とは確執があったようですね。

A: 孫も悪気があって言ったわけではないが、口は禍いの門、狭い世界です。

 

         映画だけでは食べていけない―今後の活躍

 

B: 一生制作するとは思わないが、コマーシャルを制作するのは映画だけでは食べていけないから。映画は34年かかる。両方やってみて分かったことだが、映画とコマーシャルを同時に進行させるのは無理だと語っている。

A: 広告と映画はとても異なった世界、素晴らしい広告を制作できたからといって素晴らしい映画が作れるわけではない。すべての映画監督に当てはまるわけではないけど、その逆も同じ、とインタビューに答えている。

 

B: 家では映画があふれていたけど、若い時は映画を見なかった。見ていたのはサッカーだったとか。アルゼンチンの普通の若者像です。

A: 無意識のうちに祖父や父の重圧に反発していたのかも。好きだった映画は196070年代のハリウッドやヨーロッパ映画、コッポラの『ゴッド・ファーザー』、キューブリックの『2001年宇宙の旅』や『時計じかけのオレンジ』、キューブリックは今でも無敵を誇る存在とか。

B: 『2001年宇宙の旅』に使用されたリヒャルト・シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」が本作にも登場していた。

 

A: より若い監督作品では、ポール・トーマス・アンダーソンの群像劇『マグノリア』、スパイク・ジョーンズ『マルコヴィッチの穴』、スティーブン・ソダーバーグ『セックスと嘘とビデオテープ』を挙げている。ベン・スティーラーが自作自演した『ズーランダー』も大好きだそうです。

B: 自国の映画はお呼びでないようです。

 

A: 新作Lifeline16)は30分の中短編、来年には『バードマン』のスタッフが再びチームを組んで10話構成のTVミニ・シリーズThe One Percent(“1%”)が始まる。エド・ハリスやエド・ヘルムズ、ヒラリー・スワンクなどが出演する。ボー監督は脚本と製作の一翼を担うことになる。

  

『女体蟻地獄』(1958El trueno entre las hojas”、1962公開)、脚本をアウグスト・ロア・バストスが執筆したもので高評価だった。またミス・ユニヴァースのアルゼンチン代表、セックス・シンボルだったイサベル・サルリ(1935~)のデビュー作でもある。『裸の誘惑』(1966Naked Temtation”、1967公開)はイギリス映画、『獣欲魔地獄責め』(1973Furia infernal”、1974公開)には、息子ビクトルが初めて出演した。祖父の映画はセックスを売り物にしたploitation映画と言われ、邦題もそれに準じて付けられておりますが、かなり表層的な見方と思います。最後の作品となる“Una viuda descocada”(仮題「厚かましい未亡人」80)は、エロティック・コメディながら裏に皮肉な社会批判が込められている。豊かな胸を武器に次々にエロおやじを餌食にして墓石のコレクターになる未亡人にサルリが扮した。当時のアルゼンチンは「恐怖の文化」が支配した軍事独裁政権時代、こういう映画を見ると複雑です。翌年脳腫瘍のため67歳で没したとき、孫アルマンドは未だ2歳でした。

 

『エルヴィス、我が心の歌』*模倣の人生を生きる ①2016年06月22日 18:29

       エルヴィスのトリビュート・アーティスト、カルロスの生き方

 

      

2012年と大分前のアルゼンチン映画『エルヴィス、我が心の歌』が劇場公開された。これも偏にアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『バードマン』2015年アカデミー作品賞を受賞したお陰です。アルマンド・ボー監督が脚本の共同執筆者の一人だったからです。『エルヴィス、我が心の歌』がサンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ」部門のグランプリ、トゥールーズ映画祭「シネラティノ」部門の批評家賞、UNASUR映画祭の脚本賞などなどを受賞しただけでは公開されなかったでしょう。それと同胞ダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』が後押ししてくれたかもしれない。

 

     『エルヴィス、我が心の歌』(原題“El ultimo Elvis”、英題“The Last Elvis”)2012

製作:Anonymous Content / K&S Films / Rebolucion / Kramer & Sigman Films

      協力:INCAA / Telefe

監督・脚本・編集・製作者:アルマンド・ボー

脚本():ニコラス・ヒアコボーネGiacobone

美術:ダニエル・Gimeleberg

音楽:セバスティアン・エスコフェ

撮影:ハビエル・フリア

録音:マルティン・ポルタ

編集():パトリシオ・ペナ

衣装デザイン:ルチアナ・マルティ

メイクアップ:アルベルト・モッチャMoccia

特殊効果:クラウディオ・ラングサム

製作者:ビクトル・ボー

 

データ:製作国アルゼンチン=米国、スペイン語・英語、201291分、撮影地ブエノスアイレス、公開アルゼンチン2012426日、フランスとスペイン20131月、他ブラジル、オランダ、ポルトガルなど。

映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2012ホライズンズ賞、2012年アルゼンチン・アカデミー賞6部門(作品賞・新人監督賞は逃す)、UNASUR(南米諸国連合)映画祭2012美術・衣装・脚本の3賞、トゥールーズ映画祭シネラティノ批評家賞、チューリッヒ映画祭監督賞、イースト・エンド映画祭作品賞、2013年コンドル賞(アルゼンチン批評家賞)などを受賞。2012年のサンダンス、ビアリッツ「ラテンアメリカシネマ」などの映画祭で上映された。

 

キャスト:ジョン・マキナニー(エルヴィス/カルロス・グティエレス)、グリセルダ・シチリアニ(プリシラ/妻アレハンドラ・オレンブルグ)、マルガリータ・ロペス(娘リサ・マリー・グティエレス)、コリナ・ロメロ(秘書)、ロシオ・ロドリゲス・プレセド(ニナ)、他

 

   

プロット:エルヴィス・プレスリーの幻影を生きたカルロス・グティエレスの人生が語られる。カルロスはブエノスアイレスの貧しい労働者地区の工場で働きながら、夜は〈エルヴィス〉のトリビュート・アーティストとしてステージに立っている。妻アレハンドラをプリシラと呼び、一人娘にはリサ・マリーと名付けた。自分は神から素晴らしい声を授かった特別な人間、エルヴィスの化身なのだ。だからエルヴィスと同じ体型を維持するため彼の好物ピーナッツバター・バナナサンドを毎日食べているのではないか。妻は妄想にとり憑かれた夫の言動に耐えられず、娘を連れて遠の昔に家を出てしまっていた。しかし彼の心を占めているのは、自分が間もなくエルヴィスの旅立った年齢に近づいていること、カルロスに〈その後〉はないのだった。仕事を辞めてグレースランドへの準備を始めた矢先、思わぬ事故が起きて娘を引き取ることになったカルロス、計画は頓挫してしまうのだろうか。自己否定がゆえに他人の人生を選んでしまった男の物語。

 

    

         (ジョン・マキナニー、グリセルダ・シチリアニ、監督)

 

監督紹介アルマンド・ボーArmando Bo/Bó (nieto)1978年ブエノスアイレス生れ、脚本家、監督、製作者、編集者。父親ビクトル・ボーは俳優、製作者、本作の製作者の一人。祖父アルマンド・ボー(191481、脳腫瘍のため死去、享年67歳)は伝説的なシネアスト、俳優、脚本家、監督、作曲家。アルゼンチンで〈アルマンド・ボー〉といえば、1939年にデビューした美男俳優、50年代半ばから監督もした祖父のことを指した。それで「アルマンド・ボーの孫」、またはJr.ジュニアを付けたり、愛称のアルマンディートと呼ばれている。いわゆる親の「七光り」派、未だ10代の終わり、何も発表していない頃からデビュー作の受賞が期待されていた。

 

★ブエノスアイレスのベルグラノ地区の私立高校で学ぶ。俳優デビューは12歳の頃、父ビクトルが製作したコメディ“Ya no hay hombres”(1991、監督アルベルト・Fischerman)に経費節減のため無料で出演した。1997年、アンドレス・ペルシバレ他によって制作したTeleganasのゲーム・プログラムに参加する。

その後、制作会社「La Brea」に入社、多数のコマーシャルに携わる。撮影はぶつ続け30時間と殺人的な作業だったが、ここでの経験が後で役に立った。しかし監督という家業を継ぐのは運命と思い定め、3年ほどで退社、ニューヨークの映画学校で本格的な映画製作の勉強を始める。

 

  

 (お洒落ではないが身だしなみには気をつけているという最近の監督、20161月撮影)

 

2005年、パトリシオ・アルバレス・カサドと一緒にコマーシャル制作会社「Rebolucion」(本部はアルゼンチンとブラジル)を設立、イベロアメリカの優秀なプロデューサーの一人となった。制作した120のコマーシャルのうち、50作近くが国際的な賞を受賞している(これには祖父や父親の「七光」を割り引かねばならないが)。2010年、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『ビューティフル』の脚本をN・ヒアコボーネ、監督と共同執筆し、アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた。2014年、同監督の『バードマン』が第87回アカデミー賞の作品・監督・脚本・撮影の4賞を受賞、脚本の共同執筆者の一人として授賞式に出席した。

 

   

    (左から、N・ヒアコボーネ、AG・イニャリトゥ、アレクサンダー・ディネラリス、

   今宵のために新調したタキシード姿のA・ボー、アカデミー賞2015授賞式にて)

 

★脚本の共同執筆者ニコラス・ヒアコボーネは従兄弟、脚本家、作家、製作者、短編映画も撮っている。A・G・イニャリトゥの最新作『レヴェナント 蘇りし者』の製作にも参加している。衣装デザインを担当したルチアナ・マルティは妻、既に6歳と2歳の息子がいる。20151月よりロスアンゼルスのベニス地区に転居、仕事の本拠地をアメリカに移している。

  

アメリカン・ドリームの挫折を描いた”Callback”*マラガ映画祭2016 ⑨2016年05月03日 15:48

       監督と俳優が合作したスリラーが「金のジャスミン賞」

 

★オリジナル版の言語が英語という映画が作品賞を受賞した。スペイン語のできる英語話者が主人公の映画は珍しくなくなったが、カルレス・トラスCallbackは初めてのケースではないかと思う。10年ほど遡ってみたが該当する作品はなかった。ゴヤ賞を含め数々の賞に輝いたイサベル・コイシェの『あなたになら言える秘密のこと』(05)が同じケースだが、これはマラガでは上映されなかった。マラガは国際映画祭ではなく、スペイン語映画に特化している映画祭なのだが、製作国がスペインならOKという時代になったのでしょう。

 

★今回の金賞は大方の見方とは異なった結果になったようです。エル・パイスのレポートによると、話題の中心イサキ・ラクエスタ&イサ・カンポLa propera pellセバスティアン・ボレンステインKóblic2作品に絞られていたそうです。開幕から観客の大きな輪ができていたのもこの2作品だった。つまり観客の受けはイマイチだったということかな。しかし審査員は結果的に“Callback”を選んだわけです。さて来年は第20回となる節目の年、大きなイベントが計画されているようです。 

       

           (マルティン・バシガルポをあしらったポスター)

 

    Callback2016

製作:Zabriskie Films / Glass Eye Pix

監督・脚本・製作者:カルレス・トラス

脚本(共同):マルティン・バシガルポ

撮影:フアン・セバスティアン・バスケス

編集:エマーヌエル・ティツィアーニ

製作者(共同):マルティン・バシガルポ、ラリー・フェッセンデン、ティモシー・ギブス、他

データ:スペイン=米国、オリジナル言語英語、2016年、スリラー、80分、マラガ映画祭2016上映427日他、バルセロナ映画祭428

 

キャスト:マルティン・バシガルポ(ラリー・デ・チェッコ)、リリー・スタイン(アレクサンドラ)、ラリー・フェッセンデン(ラリーの雇い主ジョー)、ティモシー・ギブス(福音派の牧師)

 

解説:ラリーは熱烈な福音主義のプロテスタント、引越し業者のもとで働いている。彼にはプロフェッショナルな大スターになるという夢があるがチャンスはなかなか巡ってこない。雇い主のジョーとは折り合いが悪く、孤独な一人暮らしを続けている。ある日、アレクサンドラという女性が彼の人生に入ってきたことでラリーの運命に転機が訪れる。運が向き始めたようにみえたが、ことごとく悪い方へ転がり始めてしまう。アメリカン・ドリームを抱いて一か八かやってくるが、ニューヨークのような大都会では多くの移民がフラストレーションと厳しい孤独に苦しむことになる。夢を果たせずに挫折する移民たちの物語。

      

     

        (最優秀男優賞を受賞したマルティン・バシガルポ、映画“Callback”から)

 

監督紹介:カルレス・トラスは、1974年バルセロナ生れ、監督、脚本家、製作者。カタルーニャ映画スタジオ・センター(CECC)で学ぶ。ベルリン映画祭の「Berlinale Talent Campus」の参加資格を得て、リドリー・スコット、スティーヴン・フリアーズ、ウォルター・サレス、クレール・ドニ、撮影監督クリストファー・ドイルなどのセミナーに出席した。長編映画は以下の通り:

2004Jovesラモン・テルメンスとの共同監督、バルセロナ映画賞新人監督賞受賞、他

2009Trashガウディ賞監督賞ノミネーション、他

2011Open 24H監督・製作者、ガウディ賞監督賞ノミネーション、他

2016Callback 

   

            (マラガ映画祭でのカルレス・トラス監督)

 

キャスト紹介マルティン・バシガルポはチリ生れ、1975年からニューヨーク在住の俳優、脚本家、製作者。ロンドン、ベラルーシ共倭国の首都ミンスクの芸術アカデミー、ニューヨークの名門演劇学校ステラ・アドラー・スタジオなどで演劇を学ぶ。舞台デビューは2003年の『ハムレット』、2008年『セールスマンの死』、ほか昨年2015は『三人姉妹』など。アメリカン・ルネッサンス・シアター・カンパニーのメンバー。

 

★映画、TVは、マーリー・エルナンデスの短編“La Reclusa”(2013USA、スペイン語、12分)でデビュー、アメリカのTVドラ“The Hunt with John Walsh”(2014,第4Victim 1話)に出演、本作が本格的な長編映画デビューとなる。初長編で最優秀男優賞受賞が決して棚ボタでないことは経歴が証明している。脚本には彼の体験が色濃く反映されている。

 

       

        (最優秀男優賞のトロフィーを掲げて、マルティン・バシガルポ)

 

リリー・スタインは本作アレクサンドラ役がデビュー作、ラリー・フェッセンデン1963年ニューヨーク生れ、ホラー映画でお目にかかっている。風貌がホラー映画『シャイニング』に出てくる太めのジャック・ニコルソンに似ている(笑)。ティモシー・ギブスは、1967年カリフォルニアのカラバサス生れ、劇場公開作品はないようだが、ダーレン・リン・バウズマンのサスペンス・ホラー『111111』(米西、20111111日にアメリカで公開、DVD)で主役を演じた。ほかにハイメ・ファレロのホラー・アクション『バンカー/地底要塞』(西、2015DVD)にも出演している。 

   

               (リリー・スタイン、映画から)

 

 

    

           (ラリー・フェッセンデン右側、映画から)

 

 

    

             (マラガ映画祭でのティモシー・ギブス)

アレハンドロ・G・イニャリトゥ、アカデミー賞連続監督賞受賞2016年03月02日 15:49

         3人目の連続受賞者となったメキシコ出身監督

 

★下馬評通りだったのかサプライズだったのか知りませんが、アレハンドロ・G・イニャリトゥ2回連続監督賞受賞『レヴェナント 蘇えりし者』)には驚きました。ジョン・フォードとジョセフ・L・マンキーウィッツに次ぐ「3人目」といっても、大昔のことだから記憶を辿れる人は現在では少数派です。後者についてはF・トゥルエバ新作の記事中、「スペインでロケされた」映画『去年の夏 突然に』(59)を紹介したばかりでした。テネシー・ウィリアムズの戯曲の映画化ですね。アルモドバルの『オール・アバウト・マイ・マザー』は、彼の『イヴの総て』(1950All about Eve、監督・脚本賞受賞)へのオマージュとして題名が付けられた話は有名です。昨年の『バードマン』は作品賞・監督賞・脚本賞のトリプル受賞、手は2本しかないから3個同時に持てなかったが、今年は片手で持てます。

 

       

          (お互い1個だから片手で十分です。レオ様と監督)

 

★もっとびっくりするのは、撮影監督のエマニュエル・ルベッキの3回連続受賞ではないでしょうか。こういう事例が過去にあるのかどうか調べる気にはなりませんが。彼もメキシコ出身、「メキシカン黄金時代の到来」は大げさでしょうか。本国メキシコでは「あれはハリウッド映画だから」と、逆に国民は冷めているのかもしれません。海外からの観光客には魅力的な国でも、そこでずっと生きていくのは大変な国ですから。

 

★三度目じゃなく六度目の正直、レオナルド・ディカブリオもやっとオスカー像を手にいたしました。「もう上げるべきだよ」と思ったアカデミー会員が多かったということです。シャーリー・マクレーン同様「遅ずぎました」。マーティン・スコセッシの『アビエイター』(04)で受賞できなかったのが実に不思議でした。1974年ハリウッド生れの41歳、5歳でテレビショーに出演したというから芸歴は長い。個人的には声が高いので好きになれないタイプの俳優、一番好きな映画はラッセ・ハルストレムの『ギルバート・グレイプ』93)、知的障害をもつ少年を演じた。少年役だから高い声が気にならなかったが、実際には20歳に近かった。すごい才能が現れたと思いました。これがアカデミー賞と関わりをもった最初の映画、兄ギルバートを好演したジョニー・デップも評価された。大ヒット『タイタニック』以前の映画のほうが好もしい。大ヒットがアダになって長年苦汁を強いられたが、本作では本当の大人の演技が見られるというわけです。

 

  

     (ヒュー・グラスに扮したディカブリオ、『レヴェナント 蘇えりし者』から)

 

アレハンドロ・G・イニャリトゥは、代表作5作がすべて日本語で鑑賞できる数少ない監督の一人。これを足すと6作になる。メキシコの監督とはいえ母国語のみはデビュー作『アモーレス・ペロス』だけ、このカンヌ映画祭2000での成功がアメリカ行きの切符を可能にしたわけだが、どうやら復路の切符は失くしてしまったらしい。ストーリーは実在した毛皮取りのワナ猟師ヒュー・グラス17801833)を主人公にした伝記小説の映画化。息子を殺された父親の復讐劇の一面をもつ。舞台は19世紀初頭のアメリカ、しかしカナダの雪原で自然光を使って撮影された(劇場公開422日予定)。

 

★外国語映画賞は、ハンガリー映画34年ぶり、2回めの受賞となった『サウルの息子』でした。コロンビア映画(ベネズエラ、アルゼンチン合作)、チノ・ゲーラの『大河の抱擁』は残念でした。しかし「ノミネートに意味がある」と思いたい。エル・デセオが手掛けた『人生スイッチ』が昨年ノミネートされたときのアグスティン・アルモドバルの言葉です。

 

『バードマン』オスカー賞3冠、監督キャリアなどの紹介記事は、コチラ⇒201536


アカデミー賞外国語映画プレセレクションにコロンビア代表作品が選ばれた2015年12月19日 15:54

     チロ・ゲーラの新作“El abrazo de la serpiente

 

★ゴヤ賞2016イベロアメリカ映画賞にもノミネーションされず、チロ・ゲーラの不運を嘆いておりましたが、アカデミー賞プレセレクション9作品の仲間入りを果たしました(英題Embrace of the Serpent”)。製作国は他にベネズエラとアルゼンチンが参加しています。後者のパブロ・トラペロの「ザ・クラン」は落選、アルゼンチンは昨年ダミアン・ジフロンの『人生スイッチ』が選ばれたので可能性は低かったかもしれません。1960年から70年代にかけては参加国も限られていたから、フランス、イタリア、北欧諸国が2年連続受賞ということもありましたが、21世紀に入ってからは流石にないようだ。他に中南米からはハイロ・ブスタマンテの『火の山のマリア』(グアテマラ)、初めて代表作品を送り込んだパラグアイのドキュメンタリー“El tiempo nublado”、スペインの『フラワーズ』は残れませんでした。

 

   

            (“El abrazo de la serpiente”のポスター)

 

★この9作品の中から最終的にノミネーション5作品が選ばれますが、もう受賞作はハンガリーの『サウルの息子』に決定しているとか。昨年はポーランドの『イーダ』が下馬評通り受賞しましたから、多分そうなるのでしょう、白けます。しかしノミネーションを受けるだけでも大変なこと、昨年ジフロンに付き添って現地入りしていたアグスティン・アルモドバルも「ノミネーションだけでも名誉なことだ」と語っていた。興行的にプラスになることが借金返済や次回作の資金集めに大いに寄与してくれるからです。

 

★チロ・ゲーラがコロンビア代表作品に選ばれるのは3回目、前回は2009年の“Los viajes del viento”(英題“The Wind Jouneys”)、コロンビアのノミネーションはまだゼロ、もし三度目の正直で残ったら初となる。本作はカンヌ映画祭と並行して開催される「監督週間」に正式出品された。その折、監督キャリア&フィルモグラフィー、並びに本作紹介記事をアップしております。

コチラ⇒2015524 

第7回「京都ヒストリカ国際映画祭」(10月31日~11月8日)で『大河の抱擁』の放題で上映されました。 

 

     アイルランド代表作品“Viva”は異色のスペイン語映画

 

★パディ・ブレスナックの新作“Viva”はアイルランド映画だが、キャストはキューバ人、舞台はハバナ、言語はスペイン語と異色づくめ。キューバは今年代表作を送らなかったが、アイルランドの代表作品がプレセレクションに選ばれた。キューバ映画の顔みたいなホルヘ・ペルゴリアが、主人公ヘススの父親アンヘル役で出演しています。18歳の主人公にエクトル・メディナ、15年の刑期を終えて出所してくる元ボクサーの父親にペルゴリア、脇をベテランが固めています。本作についても既に簡単ながら記事をアップしております。

コチラ⇒2015103  

 

  

          (ドラッグ・クイーンのエクトル・メディナ、映画から

 

アルモドバル、新作タイトル”Silencio”を”Julieta”に変更2015年11月21日 14:32

        スコセッシの新作“Silence”との「将来的な混乱」を避けるため

   

1119日、製作会社「エル・デセオ」を通して正式に発表された。予てから、同年公開、同タイトルではややこしいなと思っていたので、タイトル変更は歓迎です。両作とも劇場公開は100パーセントですから。新タイトルはヒロインの名前「フリエタ」から採られた。日本メディアはヒロイン名を「ジュリエッタ」と紹介しているので、どうなるかは不明です。既にクランクアップしており、音楽担当のアルベルト・イグレシアスもすべての作曲を終了した由、2016318日スペイン公開が決定しております。

 

  

          (二人のフリエタ、左からエンマ・スアレス、アドリアナ・ウガルテ)

 

★アルモドバルによると、タイトルは「沈黙」と同じでも、‘Silencio’と‘Silence’と違うし、物語や製作国はまったく異なるから問題なしと考えていたようです。しかし将来的には混乱が起きる可能性無きにしも非ずと思い直したようです。スコセッシの方は遠藤周作の同名小説の映画化だから、改題はありえないと考えたのかもしれません。

 

★アルモドバルは、13日に起きたパリ同時多発テロに言及、「エル・デセオの仲間は13日以来喪に服している」と、犠牲者の家族とパリを愛する多くの人々への連帯を表明した。

 

            マーティン・スコセッシ念願の“Silence

   

★マーティン・スコセッシの「Silence沈黙」は、ご存じ遠藤周作(192396)の同名小説の映画化、1966年、谷崎潤一郎賞ほかを受賞したベストセラー歴史小説。監督が企画してから数年経ち、スケジュールの関係でキャストも二転三転、やっと陽の目を見るとこになった監督念願の大作。江戸時代初めのキリシタン弾圧下の日本に潜伏して布教するポルトガル青年司祭ロドリゴが主人公、懐疑と内面的な救いにもがく姿を描いた。「沈黙」とは「神の沈黙」です。1971年、篠田正浩監督が『沈黙 SILENCE』のタイトルで映画化している。今回はロドリゴにアンドリュー・ガーフィールド、師フェレイラ神父にリーアム・ニーソン、通詞に浅野忠信(前は渡辺謙だった)、塚本晋也監督もモキチ役で登場します。台湾で撮影中セットが崩れて死者一人が出るなどの不幸もあったが、撮影終了、来年公開です。 

 ◎関連記事*管理人覚え

Silencio”製作発表の記事は、コチラ⇒2015315

エンマ・スアレスとアドリアナ・ウガルテの紹介記事は、コチラ⇒201545

クランクアップの記事は、コチラ⇒2015818



オスカー賞2016のスペイン代表はバスク語映画『フラワーズ』2015年10月03日 13:39

            決定しても米国では未公開、プレセレクションへの道は遠い

 

グラシア・ケレヘタ(“Felices 140”)とカルロス・ベルムト(“Magical girl”)は残念でした。“Magical girl”はアカデミー会員の年々上がる平均年齢から判断して、まず選ばれないと考えていました。こういうオタクっぽいミステリーは好まれない傾向にあるからです。“Felices 140”はかなりスペイン的なシリアス・コメディだから無理かなと。消去法と言ってはなんですが、結局ジョン・ガラーニョ&ホセ・マリ・ゴエナガ『フラワーズ』が残ったのではないでしょうか。しかし、選ばれてもアメリカでは映画祭上映だけで、目下一般公開のメドが立っていません。最終候補に残るには、少なくともロスで1週間以上の一般公開が必要条件です。アメリカでの映画祭上映、映画祭で受賞してもダメです。本作はパーム・スプリングス映画祭のラテン部門で受賞していますが、これは条件を満たしたことになりません。

 


12月中頃に9作品のプレセレクション発表、ノミネーションは年明け114日です。短期間の勝負だから多くの国はプロモーションの人手は足りても資金が続かない。二人の監督はスペイン映画アカデミーに感謝の言葉を述べていますが、ちょっと神経質になっているようです。何しろゴヤ賞でさえビビっていたのですから。反対にプロデューサーのハビエル・ベルソサは意気軒高、初のバスク語映画、この稀少言語を逆手にとって、他との差別化を図りたい。以前モンチョ・アルメンダリスの『心の秘密』(1997)がノミネートされ、舞台がバスクだったので若干バスク語が入っていたが、本作は全編バスク語だ。「この特異性は強いカードだ」と言う。「目下新作を製作中だが一時中断してプロモーションに出掛ける」そうです。

 


★バスク自治州政府も後押ししている。スペインで一人当りの平均収入が最も高い豊かな州だが、過去に起きたETAの暴力テロで国際的にはイメージがよいとは言えない。またバスク語は放置すれば消滅してしまう言語ですから、バスク語映画が代表作品に選ばれたのをチャンスととらえ、バスク語普及に力を入れているバスク政府の言語政策のキャンペーンにも利用したい、あわよくば観光客も呼び込みたいと一石二鳥どころか三鳥、四鳥も狙っているようです。ま、頑張って下さい。

 

★昨年、ラテンビートと東京国際映画祭で共催上映されたから、ご覧になった方は、鋭い人間洞察、ちょっとしたユーモア、雨に濡れた森の緑の映像美、バックに流れる音楽、見事な伏線の張り方、何はおいてもテーマになった、老いや孤独、突然の死が織りなすドラマに魅了されたことでしょう。

 

★スペイン以外で決定しているラテンアメリカ諸国のうち、アルゼンチン、チリ、グアテマラなど、当ブログに度々登場させた映画も選ばれています。以下はその一例:

 

アルゼンチンEl clan 「ザ・クラン」パブロ・トラペロ、ベネチア映画祭監督賞受賞

チリEl Club”『ザ・クラブ』パブロ・ラライン、ベルリン映画祭グランプリ審査員賞受賞

コロンビアEl abrazo de la serpienteチロ・ゲーラ、カンヌ映画祭「監督週間」作品賞受賞

グアテマラIXCANUL”『火の山のマリア』ハイロ・ブスタマンテ

ベルリン映画祭アルフレッド・バウアー賞受賞

メキシコ600 Millasガブリエル・リプスタイン

ベルリン映画祭2015「パノラマ」部門で初監督作品賞受賞

ベネズエラDauna. Lo que lleva el río(“Gone With The River”)マリオ・クレスポ

パラグアイEl tiempo nublado(“Cloudy Times”)ドキュメンタリー、アラミ・ウジョン

ドミニカ共和国Dólares de arena(“Sand Dollars2014

ラウラ・アメリア・グスマン&イスラエル・カルデナ

 

★ベネズエラはベネチア映画祭で金獅子賞を受賞したばかりのロレンソ・ビガスDesde allá(「フロム・アファー」)を当然予想していましたが外れました。多分受賞前に決定していたのではないかと思います。まったくノーマークだったマリオ・クレスポの作品が選ばれましたが、ベネズエラのTVドラを数多く手掛けている監督です。

 

★パラグアイのEl tiempo nubladoは、近年増加しているというパーキンソン病に罹ったウジョン監督自身の母親を追ったドキュメンタリー、車椅子生活となった母と娘が向き合う映画、これは是非見たい映画です。下の写真は監督と母親、映画から。

 



★ドミニカ共和国の“Dólares de arenaは、2014年の作品で、主演のジュラルディン・チャップリンが第2回プラチナ賞の候補になったときご紹介した作品です。二人の監督はメキシコで知り合い結婚しています。本作は二人で撮った長編3作目になります。いずれドミニカ共和国を代表する監督になるでしょう。アグスティ・ビリャロンガの『ザ・キング・オブ・ハバナ』でも書いたことですが、若いシネアストたちのレベルは高い。

 



★奇妙なことに外交的な雪解けにも拘わらず、キューバ映画芸術産業庁は今回代表作品を送らないことに決定したそうです。送らないのか送れないのか、どちらでしょうか。2016年のゴヤ賞やアリエル賞も参加しないようです。面白いことにアイルランド代表作品Vivaは、キューバの俳優を起用してハバナで撮影、言語はスペイン語、ハバナで暮らすドラッグ・クイーンの若者が主人公のアイルランド映画。当ブログはスペイン語映画のあれこれをご紹介していますが、こういう映画は想定外でした。18歳の若者に長編デビューのエクトル・メディナ、刑務所を出所したばかりの父親に名優ホルヘ・ペルゴリア、他ルイス・アルベルト・ガルシアなどベテランが脇を固めています。「父帰る」で対立の深まる父と子の物語。

 


                       (エクトル・メディナ、映画から)

★監督は1964年ダブリン生れのパディ・ブレスナック、すべて未公開作品ですが、DVD化されたホラー映画2作とファミリー映画1作があるようです。トロント映画祭やコロラド州のテルライド映画祭(9月開催)でも上映された。テルライド映画祭は歴史も古く審査員が毎年変わる。今年はグアテマラ代表作品IXCANULも上映された。アイルランド映画委員会が資金を出して映画振興に力を注いでいるようで、本作のような海外撮影を可能にしたようです。

 

★アイルランドの公用語は勿論アイルランド語ですが、400年にも及ぶイギリス支配で、国民の多数は英語を使用しています。国家がアイルランド人としてのアイデンティティ教育の一環として学校で学ぶこと義務づけられています。しかし学ぶには学ぶが、日常的には英語だそうです。最近EUの公用語に指定された。支配下にあった時代のスウィフトの『ガリヴァー旅行記』、オスカー・ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』も英語で書かれた。

 

 

オスカー賞2016*スペイン代表映画の候補3作品2015年09月09日 17:36

          バスク映画『Flowers / フラワーズ』が驚きの候補に

 


★アカデミー賞のガラは来年228日、まだラテンビートも始まらないのにオスカー賞の話は早すぎますが、昨年のラテンビートと東京国際映画祭で共催上映されたホセ・マリ・ゴエナガ & ジョン・ガラーニョのFlowers / フラワーズ』が一つに選ばれました。2014年作と少し古いですがスペイン公開が遅かったので選ばれたのでしょう。他はガルシア・ケレヘタのFelices 1402015Happy 140”)とカルロス・ベルムトのMagical girl2014)の2作です。3作とも既にご紹介しています。

 

Magical girlは、年初には夏公開とアナウンスされましたが、今もって未定です。配給元(ビターズ・エンド)との打ち合せかと思いますが、7月にベルムト監督は来日したようです。話題にもなりませんでしたが、「どうかお蔵入りになりませんように」と祈るばかりです()。今回選ばれなくても公開時には改めて記事にいたします。監督はもともとの出発がコミックのデッサンを描いていた。大変なマンガ好き、子供の頃は映画などに興味なかったそうです。映画のストーリーは、日本のテレビアニメ「マジカル・ガール Yukiko」が好きな病弱な美少女をめぐる奇妙なミステリーです。サンセバスチャン映画祭2014金貝賞監督賞(銀貝賞)ダブル受賞の映画です。監督、キャストは以下で紹介しています。バルバラ・レニーがゴヤ賞主演女優賞を受賞など、他にも盛りだくさんな受賞歴です。


Magical girl”の記事は、コチラ⇒20149162015年0121

バルバラ・レニーの記事は、コチラ⇒2015年0327

 


 (左から金貝賞受賞の製作者ペドロ・エルナンデス、銀貝監督賞受賞のカルロス・ベルムト

 

 

Felices 140のガルシア・ケレヘタは、現在スペイン映画アカデミーの副会長の一人。エンリケ・ゴンサレス・マチョ前会長がゴヤ賞授賞式後に任期半ばで突如辞任を表明、改選されてアントニオ・レシネスが会長、彼女とバルセロナ派のプロデューサーエドモン・ロチが副会長に就任した。本作はマリベル・ベルドゥを主役にしたシリアス・コメディ、興行成績もよく選ばれる可能性が高いか。今年は決定打がなく3作のうちどれが選ばれてもプレセレクションには残れない気がします。

Felices 140”の記事は、コチラ⇒2015年01月07/同04月03

 


          
          (本作撮影中のマリベル・ベルドゥとケレヘタ監督)

 

 

Flowers / フラワーズ』は、サンセバスチャン2014で「初のバスク語映画がコンペティションに」と話題になった作品。ゴヤ賞2015の作品賞にもノミネートされ、無冠でしたが画期的な出来事でした。作品も良かったから、スペイン映画界にとっても大きな収穫でした。以下のように何回か記事にいたしましたが、セルバンテス文化センターのニューズレターによると、共同監督のデビュー作80 egunean2010、英題“Por 80 Days”)が上映されるようです。残念ながら「バスク語スペイン語字幕」ということですが、映像の力で楽しめるのではないかと思います。『フラワーズ』で名演技を見せたイジアル・アイツプルが主演の一人アスンに扮し、もう一人マイテには本作でデビューしたマリアスン・パゴアゴが扮しました。当ブログで紹介した簡単なストーリーを再録すると、大体こんなオハナシです。


     

80 egunean:少女だった遠い昔、親友だったアスンとマイテの二人はひょんなことから50年ぶりに邂逅する。アスンは農場をやっているフアン・マリと結婚するため引っ越して以来田舎暮らしをしていた。両親と距離を置きたい娘は離婚を機にカリフォルニアに移り住んでいる。レズビアンのマイテはピアニストとして世界を飛び回ってキャリアを積んでいたが既に引退して故郷サンセバスチャンに戻ってきた。別々の人生を歩んだ二人も既に70歳、不思議な運命の糸に手繰り寄せられて再び遭遇する。この偶然の再会はアスンに微妙な変化をもたらすことになる、自分の結婚生活は果たして幸せだったのだろうか。マイテにサンタ・クララ島への旅を誘われると、アスンは自分探しの旅に出る決心をする。

 


    (アスン役のアイツプルとマイテ役のパゴアゴ、映画から

 

★受賞歴:「トゥールーズ・シネ・エスパニャ2011で二人揃って女優賞を受賞した。年輪を重ねた知性豊かな二人の女性のナチュラルな演技が観客賞にも繋がった。

 


       (左から、ジョン・ガラーニョ監督とホセ・マリ・ゴエナガ監督)

 

上映作品80日間』 (80 egunean) とシネフォーラム

日時:20151018日(金曜日) 1900

場所:セルバンテス文化センター地下1階「オーディトリアム」

入場無料、予約不要、先着順、バスク語スペイン語字幕入り

講師アインゲル・アロス/ホセ・マリ・ゴエナガ監督のビデオでの挨拶

 

Flowers / フラワーズ』の記事は、コチラ⇒2014年092211月092015年0116

 

『しあわせへのまわり道』本日公開*イサベル・コイシェ2015年08月29日 17:29

   コイシェとパトリシア・クラークソンがタッグを組んで「しあわせ探し」

 

★英語映画ですが、以前当ブログでご紹介したコイシェの新作と言いたいところですが、元新作です()。コイシェは出身こそスペインですが、映画をアメリカで学んだせいか、アメリカやイギリスで仕事をしていることが多い。デビュー作“Demasiado viejo peara morir joven”(89)はスペイン語で撮りましたが、2作“Cosas que nunca te dije”(1995、米≂西『あなたに言えなかったこと』ラテンビート2004上映)以来、ドキュメンタリー以外英語映画が殆どです。今春、本拠地をニューヨークはブルックリンに移して精力的に作品を発表しており、イザベル・コヘットと表記されていた頃がウソのようです。

 


★トロント映画祭2014スペシャル・プレゼンテーション」部門上映がワールド・プレミア、コイシェ映画というより、クラークソン映画かもしれない。グレン・クローズが長年映画化に執念を燃やし、ロドリゴ・ガルシアが監督した『アルバート・ノッブス』(11)の関係に似ているかもしれない。ダルワーン役のベン・キングズレーは、ペネロペ・クスルと共演した『エレジー』08)に出演して、コイシェ映画は経験済み。東京を舞台にした『ナイト・トーキョー・デイ』09)で堪らず中途退席した方も、こちらは楽しめるのではないかな。個人的にはベルリン映画祭2015でオープニング上映された(初体験)ジュリエット・ビノシュ主演のNobody Wants the Nightの公開を待っていますが。

 

Learning to drive 米国 英語 2014 

監督:イサベル・コイシェ

脚本・原作:サラ・ケルノチャン

撮影:マネル・ルイス

製作者:ダナ・フリードマン

キャストパトリシア・クラークソン(ウェンディ)、ベン・キングズレー(教官ダルワーン)、グレース・ガマー(娘ターシャ)、ジェイク・ウェバー(夫テッド)、サリター・チョウドリー(ジャスリーン)他

 

プロット:ウェンディはマンハッタンで活躍するベテラン書評家で、最近結婚生活が破綻してしまった。夫の浮気にも気づかなかった本の虫、いや仕事の虫。常に夫の車に頼っていたが、これからは自分で運転しなければならない。教習所の教官ダルワーンはシーク教徒で彼自身の結婚も暗雲が漂っていた。やがて二人の人生が交差し、予期しないかたちで転機が訪れる。人生も車も上手に運転するのは難しいという大人のラブロマンス。             (文責:管理人)

 



トレビア
「ニューヨーカー」誌に掲載されたサラ・ケルノチャンのエッセイの映画化。ケルノチャンはロバート・ゼメキスが監督した『ホワット・ライズ・ビニース』(2000)の原作者、ハリソン・フォードとミシェル・ファイファーが主演したサスペンス・スリラーでした。911以後、ニューヨークを舞台に映画を撮るのが夢だったという監督の夢が叶った。「大人のラブロマンス」には違いないが、911後アメリカに吹き荒れた人種的差別問題、21世紀の結婚のかたちなどが背景にある。映画では教習所教官ダーワンをシーク教徒のインド系アメリカ人に設定していますが、エッセイはフィリピン人のようです。ウェンディの娘を演じたグレース・ガマーはテレビでの仕事が多い。「女の40歳は90歳」と言われるハリウッドで、今なおバリバリの現役女優メリル・ストリープがお母さんです。 


★最近の「エル・パイス」のインタビューで「どんな映画があなたを笑わせてくれる?」と訊かれて、「『ホームパーティ』のピーター・セラーズ、それにへとへとになるまで笑わせてくれたのが『ズーランダー』よ」と即答、後者は大勢の有名人がカメオ出演して話題になったコメディでした。ジュリエット・ビノシュ、ベン・キングズレー、ティム・ロビンスなど国際級の俳優を誘惑して映画を撮ってしまう監督は、スペインではコイシェぐらいでしょうか。

 

最近のコイシェのフィルモグラフィー(ドキュメンタリー、短編を除く)

2015Nobody Wants the Night”(西題“Nadie quiere la noche”)

コチラ⇒201531(ベルリン映画祭2015

2014『しあわせへのまわり道』コチラ⇒2014813(トロント映画祭2014

2013Another Me”(西題Mi otro yo”)コチラ⇒2014727

2013Yesterday Never Ends

2009『ナイト・トーキョー・デイ』

2008『エレジー』

 

IMDbにタイトルだけアップされているのが、新作The Bookshopです。“Nobody Wants the Night”の記事で触れたことですが、これは英国のペネロピ・フィッツジェラルドの“The Bookshop”(1978、“La libreria”)の映画化。現在これ以外にも2本執筆中で、その一つがダーウィンの玄孫を主人公にした脚本を英国出身の監督・脚本家マシュー・チャップマンと共同で執筆している。

メキシコのミシェル・フランコが脚本賞*カンヌ映画祭2015 ⑨2015年05月28日 11:55

           ミシェル・フランコの第4作目はアメリカ映画

 

メキシコのミシェル・フランコの第4Chronicは残念ながら英語映画、製作国はアメリカ、キャストもアメリカ人なら撮影もロスアンゼルスでした。そんなわけでメキシコとの関わりは監督だけなのですが、脚本賞を受賞しましたので、少しご紹介。1979年メキシコ・シティ生れの監督、脚本家。2009Daniel & Anaでデビュー、「監督週間」で上映されました。第2『父の秘密』2011Después de Lucía”)が、カンヌ本体の「ある視点」部門のグランプリを手にしたこともあって劇場公開されました。

 

★『父の秘密』は、娘をいじめたクラスメートへの親の一種の復讐劇ですが、父親は怒りのあまりある一線を越えてしまう。本当のイジメはあんな生易しいものではないのかもしれませんが、観客は不愉快さで爆発しそうになる。復讐がテーマではないのですが、最後の5秒ぐらいで観客は唖然となる。このシーンのために撮ったのではないかと思ったくらいでした。当ブログでも記事をアップしております。『父の秘密』の記事はコチラ⇒20131120

 

       

             (脚本賞を受賞したミシェル・フランコ)

 

★第3A los ojos2013)はストリート・チルドレンを巻き込む臓器売買の物語。モニカは路上生活者を援助する団体で働くソーシャル・ワーカー、臓器移植をしないと命がない眼病の息子を抱えている。それがタイトルになっている。本作は姉妹のビクトリア・フランコとの共同監督、子供の臓器売買というショッキングなテーマだけに2年に及ぶ丁寧な取材、撮影にもじっくり1年半もかけて撮ったという。今メキシコにあるメキシコの現実を描いているようです。老舗グアダラハラ映画祭を凌ぐようになったと言われるモレリア映画祭2013で上映されました。モニカ役にモニカ・デル・カルメン、『父の秘密』で教師を演じてましたが、マイケル・ロウ監督にカメラドールをもたらした”Año Bisiesto / Leap Year” 2010のヒロインを演じた女優。カンヌに衝撃を与えた本作は、うるう年の秘め事の邦題でラテンビート2011で上映されました。ヒロインを演じたということで映画館に出向いた母親が娘のすっぽんぽんにショックを受けて寝込んだという映画。

 

Chronicは、フランコ監督がティム・ロスを主演に迎えて、初めて英語で撮った映画。自宅での終末医療が題材になっており、テーマとしては万国共通。アイデアは2010年に鬼籍入りした祖母と数ヵ月間、一緒に過ごした体験から生まれた。「なるべく死のことを考えないようとしていました。しかし死は身近にあり、誰でもいつかは向き合わねばならない。映画は死を深化させるにはアートとして優れているということが分かりました」と監督。本作もコロンビアのセサル・アセベドの“La tierra y la sombra”同様個人的な痛みが動機、死は人間を思索的にしますね。「最初、看護師は女性に設定しましたが男性に変えました」。男性看護師と言えばポール・トーマス・アンダーソンの群集劇『マグノリア』のフィリップ・シーモア・ホフマン。こちらも自宅療養中の末期ガン患者の看護師でした。

 

            

                       (カンヌでのティム・ロスとフランコ監督)

 

★医学の進歩とともに自分の最期を選べる時代になりつつある。別の世界に入ろうとしている人の介護は孤独な仕事かもしれない。患者を怯えさせることなく細心の注意をはらって恐怖心を和らげてやることが求められる。『父の秘密』同様、フィナーレに衝撃が待っているようです。脚本賞受賞、英語映画とくれば、多分来年あたり公開されるのではないでしょうか。

 

                 

                                   (“Chronic”から)

 

★カンヌでのメキシコ映画は、最近ではカルロス・レイガダスに始まってアマ・エスカランテと、好き嫌いは別として話題を提供している。今年はコロンビアが目立った年でしたが、国際舞台でのラテンアメリカ諸国の活躍は歓迎すべきことです。今回は米国映画でしたが、フランコ監督は気になる存在、こんなに早く英語で撮るとは思っていませんでしたが。アカデミー賞2015の外国語映画賞にノミネートされたアルゼンチンのダミアン・ジフロンの次回作は英語、A・アメナバルJA・バヨナも英語です。イサベル・コイシェにいたってはずっと英語だし、そのうち若手中堅を問わず英語一色になるかもしれない。英語だと「商談」がやりやすいから。

 

A・アメナバルのスリラーRegressionの記事はコチラ⇒201513

 出演:エマ・ワトソン、イーサン・ホーク他。
 配給はユニバーサル・ピクチャーズ、アメリカ公開8月28日、スペイン公開10月2日。
 公開前にサンセバスチャン映画祭で上映が決定。

JA・バヨナの『怪物はささやく』(仮題)の記事はコチラ20141213

 出演:リーアム・ニーソン、シガニー・ウィーバー他