マリリンにアナ・デ・アルマス*『ブロンド Blonde』Netflix 配信 ― 2022年07月10日 11:04
ジョイス・キャロル・オーツの同名小説の映画化――『ブロンド』
★スペインでは自分が目指したような作品に恵まれず焦っていたアナ・デ・アルマスは、数年前にスペインを見限り、英語もままならないのにハリウッドに飛び込んだ。以来着々とキャリアを築いてきたが、遂にこの度マリリン・モンローの伝記映画『ブロンド』(原題「Blonde」)でヒロインのマリリンに命を吹きこむことになりました。2019年の『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』の看護師マルタ役でゴールデン・グローブ賞(コメディミュージカル部門)主演女優賞にノミネートされましたが、本作はダニエル・クレイグ扮する探偵ブランが目玉でした。しかし今度はすべてのシーンに出ずっぱりの正真正銘の主役になる。アーサー・ミラーに扮するエイドリアン・ブロディもディマジオ役のボビー・カナヴェイルも脇役に回るでしょう。ハリウッド映画ですが、キューバ出身の頑張り屋さんがヒロインということでご紹介する次第。
★本作はジョイス・キャロル・オーツ(1938)の同名小説の映画化、監督は『ジェシー・ジエームズの暗殺』(07)や『ジャッキー・コーガン』(12)のオーストラリア出身のアンドリュー・ドミニク、脚本は監督と作家が共同執筆、Netflixオリジナル映画として2022年9月23日配信が予告されました。小説は2000年に刊行されるとベストセラーになり、翌年ピュリッツァー賞と全米図書賞にノミネートされた。作家によると「本作と ”Them” が最も記憶に残る」作品ということです。原作は『ブロンド―マリリン・モンローの生涯』(上下巻、2003年刊)として単行本が出版されている。ノーベル文学賞候補の常連のようですが。後者”Them” で1970年の全米図書賞を受賞しています。映画はマリリンの詳細なエピソードとフィクションの要素で構成されています。刊行の翌年、CBSのTVミニシリーズとして放映されたときのマリリン役は、オーストラリア出身のポピー・モンゴメリーでした。
(自作の映画化を「気に入った」と語るジョイス・キャロル・オーツ)
(新作の出来栄えに自信を見せるアンドリュー・ドミニク)
★アナ・デ・アルマスは、1988年ハバナ生れ、キューバとスペインの二重国籍を持っている。2002年キューバ国立演劇学校に入学、在学中に「まだ演技が未熟」という学校側の反対を押し切って、マヌエル・グティエレス・アラゴンの『カリブの白い薔薇』(06、製作スペイン)に出演した。その後、本校を自主退学してスペイン在住の祖父母を頼ってキューバを脱出、マドリードに移住した。スペイン時代の出演作には、ラテンビート映画祭2009上映のお茶の間アイドル総出演の『セックスとパーティーと嘘』(アルフォンソ・アルバセテ&ダビ・メンケス共同監督)に主演した。原題「Mentiras y gordas」には、「これはあり得ない」という意味があるようですが、英語タイトルがそのまま翻訳された。さらにコメディと紹介されたが、居場所を見つけられない若者たちの〈痛い〉ドラマでした。
(居場所が見つけられない若者たちの群像劇「Mentiras y gordas」から)
★2014年にはダビ・メンケスの『秘密のキッス』(14)やTVシリーズで人気を得ていたが、それでは満足できない女優は、オスカー女優を夢見てロスアンゼルスに飛び立った。そこからの快進撃は日本語ウイキペディアに詳しい。先述の作品以外でイーライ・ロスの『ノック・ノック』(15)、『ブレードランナー 2049』(19)では主役レプリカントに抜擢され、当ブログでもアップしたオリヴィエ・アサイヤスの『WASP ネットワーク』では、WASPのメンバーの一人をスパイと知らずに結婚する役柄だった。また今年公開されたダニエル・クレイグが最後のボンドを演じる007シリーズ『ノー・タイム・トゥ・ダイ』(21)では、華麗なアクションを披露した。女優はキューバ訛りの英語の特訓を受けて矯正したということですが、ノーマ・ジーンとマリリン・モンローという二つの人格に引き裂かれたダークな人生を演じるのは冒険だったことでしょう。とにかくオスカー像を狙えるスタートラインに立ったわけですが、マリリンの壊れた内面を演じられたかどうかが評価の鍵になる。
*『WASP ネットワーク』の作品紹介は、コチラ⇒2020年06月29日
★「Blonde」のプロジェクトの企画はおよそ12年前、紆余曲折の連続だった。2019年にアナ・デ・アルマスに最終的に決定するまで、ナオミ・ワッツやジェシカ・チャスティンなどベテランの名前が候補に挙がっていた。最終的にブラッド・ピットの独立系制作会社であるPlan B Entertainment の資金提供をうけ、『ノック・ノック』のアナ・デ・アルマスの演技を記憶していたドミニクが決心したということです。この映画は、カンヌ、トロント、ベネチアなどの各映画祭で上映される予定でした。カンヌの主任ディレクターであるティエリー・フレモーがアウト・オブ・コンペティション上映を提案したが、Netflix は断ったということです。真偽のほどは分かりませんが、両者の過去の確執を考えると、まんざら嘘でもないでしょうか。ノーカットの代わりにNC-17指定、子供は見られません。
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