オリベル・ラセの 「O que arde」 が審査員賞*カンヌ映画祭2019 ⑬2019年05月29日 11:58

           スペイン映画は「ある視点」部門でも評価されました!

 

      

                (英語タイトルのポスター)

    

オリベル・ラシェO que arde(英題「Fire Will Come」)が「ある視点」部門の第2席に当たる審査員賞を受賞した。主役を演じたアマドール・アリアス、その老親役のベネディクタ・サンチェスなども現地入りした。521日の上映前のフォトコールでは、御年81歳(!)という遅咲きの新人ベネディクタ・サンチェスも最初こそたくさんのカメラマンに取り囲まれ緊張していたが、彼らの要望に応えてダンスまで披露するにいたった(!)。母親をフォローアップした息子アマドール・アリアスも、共に今回で俳優デビュー、監督はかなり上背がありバランスをとるため台の後ろでは膝を曲げていた。

   

      

 (膝を曲げた監督とベネディクタ・サンチェス&アマドール・アリアス、21日のフォトコール)

 

    

 (カメラマンの求めに応じてダンスを披露するお茶目なベネディクタ・サンチェス)

 

★上映後の各紙誌の評判はオール・ポジティブ評価、結果発表を待つまでもなく何かの賞に絡むのは想定されていた。「こんな小品が受賞できるなんて」と監督、ご謙遜でしょう。「現在のスペインでは、作家性の強い映画作りは何かしら問題を抱えている。この状況を変えていくためにも賞を勝ち取ろう」と監督。モロッコに10年ほど暮らした後、長年構想を練っていた新作をガリシアで撮るためにルゴ近郊の山村の我が家に帰ってきた。「我が家であると同時に我が家でもないのです。というのもシネアストは常に外国人だから、映画作りには距離をおくべきと思っています」と数日前に語っていた。

 

          

       (カンヌ入りしたオリベル・ラセ以下スタッフ、キャスト一同)

 

オリベル・ラシェ(パリ198237歳)はカンヌに縁の深い監督、デビュー作Todos vosotros sois capitanes10)は、監督週間に出品され国際映画批評家連盟賞FIPRESCI を受賞、第2Mimosas16)は批評家週間のグランプリ、第3作が本作である。本作について、「家族をめぐる物語性のある映画にした・・・自身は放火魔を正当化していないが、現実には痛みの鎖を断ち切りたい困難な世界が存在している。それで弁証法的ではないが、観客はすべてを理解しようと試みるだろう」と語っていた。アマドールの内面は複雑で、とくに新しい火事が起きてからの反応が見どころとなる。

 

★本作では溢れんばかりのビジュアルな力が強いが、音、音楽も入念に練ったという。例えばカナダのシンガーソング・ライター、吟遊詩人とも言われたレナード・コーエン「スザンヌ」を一例に上げている。歌詞は分からないがとても気に入っており、好きになるのに意味など分からなくてもいい。「それは映画についても同じことが言えます。私たちはとても合理主義者で、すべてを理解したがりますが、それは意味がありません」ときっぱり。吟遊詩人は2016年ロサンゼルスの自宅で急死、享年82歳だった。癌を患っていたそうだが新作を発表しつづけていたから、訃報のニュースは世界を駆けめぐった。しかし日本での扱いは小さく、もっと評価されるべきとファンは急逝を惜しんだ。     

     

                 (山火事のシーンから)

 

★自分は「映像重視の監督だが、新作はよりクラシックに、と同時に前衛的に撮ったと思う。さまざまな二分法、例えば明暗、単純で複雑、円熟と未熟というようにです」と。ルゴ近郊の山村ナビア・デ・スアルナを撮影地に選んだのは、ここが監督の母親の生れ故郷だったから。フランスから56歳のころ戻ったとき、「ここには道路がなく、今思うとまるで中世に戻ったようだった。祖父母たちはいい人たちだったが、素っ気なくて自分たちの不運を嘆いていた。現実を受け入れ、質素に暮らし、自分たちは取るに足りない存在と感じていた」と語る監督、1980年代後半のガリシアの山村はマドリードやバルセロナとはかなり差があったということです。時間が経ってもガリシア人の複雑で屈折した気質は変わらない。それが作品に織り込まれているようです。

   

(21日のフォトコールで)

      

★今は映画から少し距離をおきたいということです。ここガリシアに腰を落ち着けて考えたいことがあるという。するべきことは何か、「ここのコミュニティのためにしたいことがある。映画は神経症を理解したり、人がどうして愛を必要とするのか理解するのに役立つが・・・円熟とは愛が必要でないと気づくときです。それは既に愛に囲まれているからなのです。所詮、私は愚か者でありつづけている。今よりひどい映画を作るくらいなら愚かでいるほうが好きなんだ」。じゃ第4作は何時になるのか?

   

★レバノンの監督ナディーヌ・ラバキ審査委員長以下、アルゼンチンの監督リサンドロ・アロンソ(『約束の地』15)他の審査員に感謝です。字幕入り上映を期待します。

 

2Mimosas」とキャリア紹介は、コチラ20160522

O que arde」の作品紹介は、コチラ20190428

 

追加情報:ラテンビート2019で『ファイアー・ウィル・カム』の邦題で上映が決定しました。東京国際映画祭との共催です。

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