特別上映作品にG. G.ベルナルの第2作*カンヌ映画祭2019 ⑨ ― 2019年05月13日 15:42
11年ぶりG. G. ガエルの監督第2作めは「Chicuarotes」
★コンペティション部門他、追加作品や特別上映のアナウンスが五月雨式にアナウンスされています。中でスペイン語映画としては、特別上映部門にメキシコのガエル・ガルシア・ベルナルの「Chicuarotes」と、チリのパトリシオ・グスマンの「La Cordillera de los Sueños」の上映が発表されました。ガルシア・ベルナルは自他ともに許す国際的俳優ですが、監督としては2007年の監督デビュー以来ブランクが長く11年ぶりの2作目となります。それにはそれなりの理由があると思います。一つには第1作『太陽のかけら』の失敗が尾を引いていると考えられます。本国では「一体全体、ガエルは何を考えてんの?」と、肝心の若者からそっぽを向かれ、評価はイマイチでした。原タイトルは「DEFICIT」(欠乏・欠如)という邦題のつけにくいものでしたが、選りに選って<太陽のかけら>と意味不明となりました。本邦でもガエル人気をもってしてもファンから歓迎されませんでした。
★デビュー作はカンヌ映画祭併催の「批評家週間」に出品されたのが幸いして、ラテンビート2008で「デフィシット」とカタカナ起こしの題名で上映されました。金も権力も有りあまる政治家の息子クリストバル(G.G.ガエル主演)が、別荘で金持ちぼんぼんを集めてどんちゃん騒ぎをした結果、思いもよらない事件が起こり、息子は一人取り残される。メキシコ社会に根づいてしまった経済文化の二極化、硬直化したメキシコ独特の政治システムに切り込んで、何が<欠如>していたのか、または<欠如>とは何かという重いテーマでした。しかし演出法にも問題があって観客の心を捉えるには至りませんでした。
(デビュー作『太陽のかけら』)
★第2作「Chicuarotes」は、生れ故郷を後にした10代の若者二人が、惨めな現状を打開してリッチになるための方策に着手するが、それは危険な世界に足を踏みだすことだった。今回は監督業に専念し、キャストは2人の青年役にベニー・エマニュエルとガブリエル・カルバハル、ベニーのガールフレンドにレイディ・グティエレス、若い3人を支えるのがダニエル・ヒメネス=カチョ、ドロレス・エレディアなどベテラン勢で脇を固めている。
(本作撮影中のG.G.ガエル監督)
「Chicuarotes」メキシコ、2019
製作:Canana Films / La Corriente del Golfo / Pulse Films
監督:ガエル・ガルシア・ベルナル
脚本:アウグスト・メンドサ
撮影:フアン・パブロ・ラミレス
音楽:レオナルド・Heiblum、ハコボ・Lieberman
編集:セバスティアン・セプルベダ
美術:ロベルト・ピサロ
プロダクション・デザイン:ルイサ・グアラ
キャスティング:ルイス・ロサレス
衣装デザイン:アマンダ・カルカモ
メイクアップ:アントニオ・ガルフィアス
プロダクション・マネージメント:オスカル・エストラダ
製作者:ガエル・ガルシア・ベルナル、ディエゴ・ルナ、マルタ・ヌニェス・プエルト、(ライン・プロデューサー)マリアナ・ロドリゲス・カバルガ
データ・映画祭:製作国メキシコ、スペイン語、2019年、シリアス・コメディ、撮影地ソチミルコのサン・グレゴリオ・アトラプルコ、メキシコシティ、撮影期間2017年12月~2018年1月、公開メキシコ2019年6月28日。カンヌ映画祭2019コンペティション部門の特別上映作品
キャスト:ベニー・エマニュエル(エル・カガレラ)、ガブリエル・カルバハル(エル・モロテコ)、ドロレス・エレディア(トンチ)、ダニエル・ヒメネス=カチョ(チジャミル)、ペドロ・ホアキン(ビクトル)、レイディ・グティエレス(スヘイリ)、サウル・メルカド(カリナ)、他
ストーリー:二人の若者エル・カガレラとエル・モロテコの物語。惨めな現状から抜け出すべく生れ故郷を後にする。友達から電気工シンジケートの中に潜り込める可能性を聞き出した二人は手始めに抜け道に着手する。カガレラのガールフレンドのスヘイリも一緒に、お金と権力をまとめて手に入れようとさまざまな方法を考える。それは犯罪の世界に足を踏みだす危険なアバンチュールでもあった。自由を手に入れようとする貧しい若者たちの姿がコメディタッチで語られる。
(ベニー・エマニュエルとガブリエル・カルバハル)
(エル・カガレラのガールフレンド、レイディ・グティエレス扮するスヘイリ)
(中央ダニエル・ヒメネス=カチョと若者たち)
★タイトルの《Chicuarotes》の意味は二つあり、一つはメキシコ固有のチリトウガラシ、もう一つが「見栄っ張り、または頑固者で扱いにくい」という、映画の舞台となる町サン・グレゴリオ・アトラプルコ出身の住民の特徴を指す単語だそうです。サン・グレゴリオ・アトラプルコ(ナワトル語で泉の湧き出るの意)はメキシコシティ南東部、観光地としても有名なソチミルコに所属、「大きな問題を抱えた美しい町」と称されている。G.G.ガエル監督は、この町の歴史、人類学、観光、社会の成り立ちを調査するために、スタッフと共に6~7年前からしばしば現地の取材に訪れている。脚本家のアウグスト・メンドサはこの町の出身者ということです。
★サン・グレゴリオ・アトラプルコは、2017年9月19日正午すぎ、メキシコを襲ったマグニチュード7.1のメキシコ中部地震で甚大な被害を被った都市の一つだそうです。メキシコ全体で約360名の人命が奪われ、日本からも救助隊が駆けつけるなど大きく報道された、記憶に新しい地震でした。
★表面的にはコメディタッチだが、深層的には「かなりダーク、不本意のコメディ」とエル・カガレラ役のベニー・エマニュエルは語っている。メキシコを代表するG.G.ガエルの監督第2作ということで情報は結構ありますが、コンペではないの簡単なご紹介とします。
最近のコメント