オリベル・ラセの新作が「ある視点」に*カンヌ映画祭2019 ④ ― 2019年04月28日 16:16
予告通り新作はガリシア地方の山村が舞台
★2010年のデビュー作「Todos vós sodes capitáns」(「You All Are Captains」)から第2作「Mimosas」まで資金不足で6年かかりましたが、新作「O que arde」までは半分の3年に短縮できました。2016年、さいわいなことに「Mimosas」がカンヌ映画祭併催の「批評家週間」でグランプリをとったことで資金調達が順調だったことが理由です。オリベル・ラセ(ガリシア語読みならオリベル・ラシェか)の新作は、予告通り北スペインのガリシア地方の山村が舞台です。アルベルト・セラの「Liberté」よりは若干多めの情報が入手できました。

(2016年「批評家週間」グランプリ作品「Mimosas」のポスター)
★ラセ監督は37年前の1982年にパリで生れた、監督、脚本家、製作者、俳優。5~6歳ごろガリシア州ア・コルーニャ(ラ・コルーニャ)に戻り、大西洋に面した貿易都市ポンテべドラ、内陸部のルゴなどに住み、映画はバルセロナにあるポンペウ・ファブラ大学で学んだ後、ロンドンでもキャリアを積んだ。10年ほど毎年モロッコで暮らしていたことが評価の高かった「Mimosas」を生み出した。今回はガリシアに戻って長年構想を練っていた「O que arde」を完成させた。キャリア&フィルモグラフィーについては、既に以下にアップしております。
*「Mimosas」と主な監督紹介記事は、コチラ⇒2016年05月22日
「O que arde」(「Viendo le feu」「A Sun That Never Sets」)
製作:Miramemira(西)、4A4 Productions(仏)、Tarantula Luxenbourg、Kowalski Films、
Pyramide international 協賛ガリシアTV(TVG)他
監督:オリベル・ラセ
脚本:オリベル・ラセ、サンティアゴ・フィジョル Fillor
撮影:マウロ・エルセ Mauro Herce
編集:クリストバル・フェルナンデス
衣装デザイン:ナディア・アシミ
プロダクション・デザイン:サムエル・レナ
製作者:Mani Mortazavi(仏)、Donato Rotunno(ルクセンブルク)、他
データ:スペイン=フランス=ルクセンブルク、ガリシア語、2019年、90分、ドラマ、撮影地ナビア・デ・スアルナ、モンテロソ、セルバンテス、ルゴ、ビベイロなどガリシア州で約6週間。カンヌ映画祭及びルクセンブルク映画基金、ルゴ市などからの資金提供を受けた。
映画祭・受賞歴:カンヌ映画祭2019「ある視点」部門ノミネーション
キャスト:アマドール・アリアス(アマドール・コロ)、ベネディクタ・サンチェス(母ベネディクタ)、イナシオ・アブラオ(イナシオ)、エレナ・フェルナンデス(獣医エレナ)、イバン・ヤニェス、ルイス・マヌエル・ゲレロ・サンチェス(消防士ルイス)、ヌリア・ソテロ、アルバロ・デ・バサル、ダビ・デ・ペソ、ナンド・バスケス、ルベン・ゴメス・コエリョ、他
ストーリー:放火の罪で収監されていたアマドール・コロが2年間の刑期を終えて出所してきたとき、出迎えには誰も現れなかった。故郷である鄙びた山村に戻ると、老いてはいるが思慮深い母親ベネディクタと三頭の牛が待っていた。母と息子は自然のゆったりとしたリズムに合わせて時を刻んでいた。しかしそれも新たな山火事が起きる夜までのことだった。

(アマドールと母親ベネディクタ)
★紹介記事からはサスペンスの要素も感じられますが、予告編もまだアップされていない段階での予測は控えます。アイデアは2006年に体験した大火事がベースになっている。2007年には既に映画化の構想を固めていたようですから、「Mimosas」と同時進行だった。悪者に仕立て上げられ蔑まれている人間を救済するために、寛容、許し、慈悲、愛、家族が語られる。「涙を含んだ辛口メロドラマ」と監督自身が語っている。撮影地をガリシアのルゴ県に選んだのは、ルゴ市からの援助があったことも一因と推測しますが、メインとなったナビア・デ・スアルナの山村は、監督にとって忘れがたい場所でもあったからのようです。カンタブリア海に面したビベイロでも撮影したようで、正式の予告編が待たれます。

(ナビア・デ・スアルナのトレードマークの石橋をバックにした監督)

(ナビア・デ・スアルナで撮影準備をする監督)
★キャストは土地の人を起用、2017年に60代の女性(母役)と40代の男性(息子役)探しから始まった。その他なぜ映画を作るのか、制作の動機は何か、いつも自問しているようです。作家性の強い監督だと思いますが、自身は必ずしも商業映画を否定しているわけではなく、いずれにも優れたものとそうでないものがあると語っている。オーソドックスなタイプの監督、資金集めに苦労していることから、Netflix についての質問には「ネットフリックスで自由に作れるのか確信が持てない」と消極的、映画がお茶の間だけで消費されることへの抵抗もあるようだ。世の中の変化のスピードが早いのも問題、現在では映画館をいっぱいにするのはミステリーだと語っている。

(監督とアマドール役のアマドール・アリアス)

(オーレンセの山火事のシーンを撮る撮影班)
★IMDbのストーリー紹介では、アマドールではなくラモンとなっておりますが、フランスやルクセンブルクの制作会社の紹介記事によって一応アマドールとしておきます。ラモンの愛称はモンチョでガリシアには多い名前です。間違っている場合には訂正いたします。
★『ザ・ニューヨーカー』によると、第2作「Mimosas」は2017年アメリカで上映された映画35作に選ばれ、米国でも受け入れられたことが分かります。カンヌ以外ではアルメリア、ブエノスアイレス・インディペンデント、カイロ、ミンスク、台北、各映画祭で受賞している。スペインではどうかというと、管理人が期待したほどではなく、セビーリャ・ヨーロッパ映画祭2016審査委員特別賞を受賞しましたが、言語がアラビア語ということもあってゴヤ賞ノミネートはありませんでした。新作は4つあるスペイン公用語のガリシア語映画です。
*セビーリャ・ヨーロッパ映画祭2016の記事は、コチラ⇒2016年11月25日
追加情報:ラテンビート2019で『ファイアー・ウィル・カム』の邦題で上映決定。
東京国際映画祭2019ワールド・フォーカス部門共催作品です。
最近のコメント