カルロヴィ・ヴァリ映画祭2019にホナス・トゥルエバの新作2019年06月03日 16:20

  ホナス・トゥルエバの「La virgen de agosto」がカルロヴィ・ヴァリ映画祭へ

 

      

   

★第54回カルロヴィ・ヴァリ映画祭2019628日~76日)のセクション・オフィシアルにホナス・トゥルエバの新作La virgen de agostoがノミネートされました。当ブログではフェルナンド・トゥルエバを父親にもつ新鋭ということで、Los exiliados románticos15)とLa Reconquista16)を紹介しております。後者は後にNetflix 『再会』という邦題で配信されました。英語題「The Reunion」の直訳がそのまま採用されました。オリジナルの「La Reconquista」にはもう少し深い意味が込められていたのですが、作品紹介記事もあらかた表層的で活かされませんでした。  

Los exiliados románticos」の作品紹介は、コチラ20150423

La Reconquista」(『再会』)の作品紹介は、コチラ20160811

 

      

         (新作La virgen de agosto」のイチャソ・アラナ

 

カルロヴィ・ヴァリ映画祭ノミネーションのLa virgen de agosto」は、昨年の盛夏、暑さにうだるマドリードの数ヵ所、サン・カジェタノ、サン・ロレンソ、ラ・パロマなどで撮影開始、それなりにメディアに宣伝してもらっていました。特にナバラ・ニュースでは、主人公エバを演じたイチャソ・アラナ1985)がナバラ州タファリャ出身ということもあって詳細を報じていた。前作『再会』で主役を演じたイチャソ・アラナを今回も起用、本作で脚本を監督と共同執筆、脚本家デビューも果たした。本人談によると、演劇では脚本も演出も既に体験済みだそうですが、映画の脚本は全く別の経験で、チャンスをくれたトゥルエバ監督に感謝している。日記体で語られる映画のようです。

   

   

 (ホナス・トゥルエバとイチャソ・アラナ

 

 

La virgen de agosto(「The August Virgin」)

製作:Los Ilusos Films

監督:ホナス・トゥルエバ

脚本:ホナス・トゥルエバ、イチャソ・アラナ

撮影:サンティアゴ・ラカ(『再会』、カルラ・シモン『悲しみに、こんにちは』他)

編集:マルタ・ベラスコ(『再会』、カルロス・ベルムト『シークレット・ヴォイス』他)

美術:ミゲル・アンヘル・レボリョ(『再会』)

プロダクション・マネージメント:ペレ・カポティリョ

助監督:ロレナ・エルナンデス・ツデラ(『再会』)

 

データ・映画祭:製作国スペイン、スペイン語、2019年、ドラマ、撮影地マドリードのサン・カジェタノ、サン・ロレンソ、ラ・パロマなど。第54回カルロヴィ・ヴァリ映画祭コンペティション部門出品、スペイン公開2019816日決定、配給BTeam Pictures

 

キャスト:イチャソ・アラナ(エバ)、ビト・サンス(アゴス)、ジョー・マンホン Joe Manjón(ジョー)、イサベル・ストフェル(オルカ)、ルイス・エラス(ルイス)、ミケレ・ウロス(ソフィア)、フランセスコ・カリル(フランセスコ)、ソレア・モレンテ(自身)他

 

プロット:間もなく33歳になろうとしているエバは、自分の人生が期待したようにいかないことを知っていた。エバには他のやり方で物事を感じる必要があり、それには暑いマドリードの夏をチャンスの時と考えた。8月にマドリードに留まる決心は、信仰の行為「信徳」なのだ。盛夏のマドリードは「ロメリア」の季節、昼も夜もフィエスタや夏祭りが盛りだくさんだから、出会いや偶然が待っている。もう青春時代は過ぎてしまったけれど、8月の満月の夜には何かが起きるだろう。エバにはまだ時間があるんだし、好運が訪れることだろう。         (文責:管理人)                            

★ホナス・トゥルエバによると「ここ数年前から夏が来ると、暑いマドリードを避けて友人や家族は避暑に出かけてしまう。しかし私はここに残ることを選択し、本作の構想を温めてきた」。「気の置けないチームだけで撮りたいと思っていた」ということですが、スタッフ、キャスト欄を見れば一目瞭然、前作『再会』のスタッフメンバーが多くを占めている。「旧知の友人あるいは新しい人々に出会うと、会話は別のリズムやトーンが生まれ、すべてが変わって特別な魔法にかかる」と監督。

 

★共演者のビト・サンスは、モノクロで撮った第2作目Los ilusos13)出演をきっかけに、先述の「Los exiliados románticos」、監督の父親フェルナンド・トゥルエバのLa reina de España16)や叔父ダビ・トゥルエバCasi 4018)などトゥルエバ一家の作品の他、エミリオ・マルティネス=ラサロMi amor perdido18)、マテオ・ヒル『熱力学の法則』18 Netflix)では主役を演じている。

マテオ・ヒルの『熱力学の法則』作品紹介は、コチラ20180402

 

      

       (「Los ilusos」のビト・サンスとフランセスコ・カリル)

 

★「Los ilusos」には、ビト・サンスの他、イサベル・ストフェルミケレ・ウロスも共演した。トゥールーズ・シネエスパーニャでは作品賞に当たる「金のバイオレット」を受賞した。『再会』の主人公オルモに扮したトゥルエバ常連の一人フランセスコ・カリルも男優賞を受賞するなど、海外でも評価された作品である。ミケレ・ウロスはイチャソ・アラナと同郷のナバラ出身、彼女は今回共演できることを喜んでいる。

 

      

     (新作「La virgen de agosto」のイチャソ・アラナとルイス・エラス)

 

         

        (前作『再会』のイチャソ・アラナとフランセスコ・カリル)

   

追加情報:ラテンビート2019で『8月のエバ』の邦題で上映が決定しました。 

      

スペイン映画祭2019開催*インスティトゥト・セルバンテス東京 ①2019年06月06日 14:14

           ハビエル・フェセル『チャンピオンズ』ほか、話題の最新作9

    

      

★6月下旬、スペイン映画祭2019がインスティトゥト・セルバンテス東京にて開催がアナウンスされました。うち当ブログにてご紹介しておりました最新作を含む9作がエントリーされておりました。ラテンビート2018上映作品(『アナザー・デイ・オブ・ライフ』)や既にインスティトゥト・セルバンテス東京で上映された作品(『フリア・イスト』)の他、中編ドキュメンタリー(『イン・ビトゥイーン・デイズ』)も含みますが、日本語字幕入りでこれだけ纏め見できる機会はこれまでなかったことです。作品により早い時間帯もありますが、入場料は無料、申込みが必要です。トークなど詳細は、ゲストの都合で変更になることも考えられますので、インスティトゥト・セルバンテス東京のサイトをご確認ください。また当ブログではオリジナル・タイトルでのご紹介になっています。

 

 

開催日:625日(火)~72日(火)

場所:インスティトゥト・セルバンテス東京、地下1階オーディトリアム

入場料無料・申込み先着順

 

625日(火)1700

『二筋の川』Entre dos aguas2018年、ドラマ、監督イサキ・ラクエスタ

当ブログ紹介記事は、コチラ20180725

   

    

 

626日(水)1700

『フリア・イスト』(「Julia ist」)2017年、ドラマ、監督エレナ・マルティン

当ブログ紹介記事は、コチラ20170710

 

      

 

626日(水)1900~ (トーク予定アナ・シュルツ)

『内通者』(「Mudar la piel」)2018年、ドキュメンタリー、89

  監督クリストバル・フェルナンデスアナ・シュルツ

 

   

 

627日(木)1700~  (トーク予定イサキ・ラクエスタ)

『イン・ビトゥイーン・デイズ』(「Correspondencia fílmica」)2011年、

  ドキュメンタリー、44分、監督イサキ・ラクエスタ河瀨直美

   

    

627日(木)1900

『チャンピオンズ』Campeones2018年、ドラマ、監督ハビエル・フェセル

当ブログ紹介記事は、コチラ20180612

   

      

 

628日(金)1600

マリアとその家族』María (y los demás)2016年、ドラマ、監督ネリー・レゲラ

当ブログ紹介記事は、コチラ20160814

   

     

 

628日(金)1830

『さよならが言えなくて』No sé decir adiós2017年、ドラマ、監督リノ・エスカレラ

当ブログ紹介記事は、コチラ20170625

    

   

 

71日(月)1830

『サウラ家の人々』Saura (s)2017年、ドキュメンタリー、監督フェリックス・ビスカレト

当ブログ紹介記事は、コチラ20171111

    

      

 

 

72日(火)1830~ (トーク予定コバヤシ・オサム

『アナザー・デイ・オブ・ライフ』(「Another Day of Life」)2018年、アニメーション&

  実写、監督ラウル・デ・ラ・フエンテダミアン・ネノウ

当ブログ紹介記事は、コチラ201810081119

    

     

 

★『内通者』と『イン・ビトゥイーン・デイズ』は未紹介、うち前者は共同監督のアナ・シュルツの父親フアン・グティエレスが主人公のドキュメンタリー。彼は1990年代、ETAとスペイン政府の和平交渉を忍耐強く仲介した物静かな碩学として尊敬されている。脚本アナ・シュルツ、撮影クリストバル・フェルナンデス。ロカルノ映画祭2018、サンセバスチャン映画祭2018出品作品、フェロス賞2019ドキュメンタリー部門ノミネーション。

 

      

   (左から、アナ・シュルツ、クリストバル・フェルナンデス、フアン・グティエレス)

 

     

              (サンセバスチャン映画祭2018にて)

 

イサベル・コイシェの『エリサ&マルセラ』*Netflix 配信開始2019年06月12日 21:27

            実話に着想を得たフィクション色が強い『エリサ&マルセラ』

 

   

 

予告通り67日からイサベル・コイシェの「Elisa y Marcela」が『エリサ&マルセラ』邦題で Netflix ストリーミング配信が始まりました。ベルリン映画祭2019に正式出品された折りに作品紹介&キャスト紹介、監督の製作意図と熱い思いを2回にわたってアップしております。記録に残る挙式日、出産日などに齟齬はありませんでしたが、伝記映画というより実話に着想を得たフィクションと考えたほうがよさそうです。脚本のベースになったナルシソ・デ・ガブリエルElisa y Marcela, Más allá de los hombres2008刊)は、小説ではなく雌雄同体現象、女性同性愛、異性装者、フェミニズムなどを考察した学術書で、それをもとにコイシェ監督が脚本を執筆しました。身分証明書偽造をしてまで教会で挙式するというセンセーショナルな事案だったせいか、あるいは教会が保身のため誤謬を認めたくなかったのか、今日まで記録は破棄されずに残っていたのでした。

 

         

           (本作を語るイサベル・コイシェ監督)

 

★最近の「エル・ムンド」電子版に、アルゼンチンに渡ったマルセラのその後を曾孫ノルマ・ガブリエルが語った記事が載りました。深入りしませんがマルセラの娘(映画ではアナとして登場する)つまり祖母の名前はマリア・エンリケタ・サンチェス、祖母はバスク系アルゼンチン人と結婚してたくさん子供を生んだそうです。その一人が母親のアウロラで、彼女から曾祖母たちの話を聞いていたと語っています。ただ伝聞を多く含む内容だから検証が必要と思われます。映画化を機に不明だったという詳細が明らかになってきて「事実は小説よりも奇なり」の様相を呈しています。

    

       

(曾祖母マルセラとエリサの結婚式の写真を手にノルマ・ガブリエル、ブエノスアイレス)

 

Netflix 配信を機にIMDbのキャスト名にかなり追加がありました。またベルリン映画祭でアップした紹介記事と映画には差異がみられましたので、以下に訂正加筆したストーリーを再録します。

Elisa y Marcela」の紹介記事は、コチラ201902110215

 

     

(ビエンナーレ2019での監督、主演者ナタリア・デ・モリーナとグレタ・フェルナンデス

 

キャストナタリア・デ・モリーナ(エリサ・サンチェス・ロリガ/マリオ)、グレタ・フェルナンデス(マルセラ・グラシア・イベアス)、サラ・カサスノバス(マルセラの娘アナ)、タマル・ノバス(マルセラの求婚者アンドレス)、マリア・プルテ(マルセラの母親)、フランセスク・オレーリャ(マルセラの父親)、マノロ・ソロ(ポルトの刑務所長)、ケリー・ルア(刑務所長の妻フロール)、リュイス・オマール(ポルト知事)、マヌエル・ロウレンソ(ドゥンブリア教区の主任司祭ビクトル・コルティエリャ)、ホルヘ・スケト(コウソ*の医師)、ロベルト・レアル(コウソ*の司祭)、マリアナ・カルバリャル(修道女の歴史教師)、ルイサ・メレラス(盲目の校長)、アンパロ・モレノ(ポルトの料理長)、エレナ・セイホ、ミロ・タボアダタニア・ラマタ、コバドンガ・ベルディニャス、マルタ・リベイロ、他ガリシアのエキストラ多数

*映画はコウソだが、IMDbは事実のドゥンブリアになっています。

 

ストーリー:1898ア・コルーニャ伯母が校長をしている女子修道院付設の学校でエリサマルセラは運命の出会いをした。互いに惹かれあい、やがて一目を忍ぶ関係に陥っていった。噂を怖れたマルセラの両親は冷却期間をおくようマルセラをマドリードの寄宿学校へ送り出した。3年後マルセラが帰郷してエリサと再会する。社会的な圧力にも屈せず二人は共に人生を歩もうと決心するが、口さがない巷の噂を封じるための計画を練らねばならなかった。それはエリサが一時的に村を離れ、最近溺死した英国生れの従兄弟マリオ・サンチェスに生まれ変わって戻ってくることでした。190168日、二人はドゥンブリア教区のサンホルヘ教会でビクトル・コルティエリャ主任司祭の司式で挙式した。教会によって公式に通知されたスペイン最初の同性婚であった。しかし「男なしの夫婦」という噂がたちまち広まり、二人はポルトガルに逃亡するも港湾都市ポルトで逮捕される190216日、主の御公現の祝日にマルセラは父親を明かさないまま女の子を出産、釈放後二人はアルゼンチンを目指してスペインを後にする。          (文責:管理人)

 

  最初に物語の語り手が明かされる――監督は社会不正と闘う勇敢な女性が好き

 

A: 本作のベースとなったナルシソ・デ・ガブリエルの著書とは、特に後半部分はかなり違っているという印象でした。Netflixでは小説の映画化とありましたが、上述したようにそうではありません。もっとも《エリサとマルセラ》の部分を独立させたガリシア語版が、商魂たくましく今年出版されましたが、映画『エリサ&マルセラ』は、エリサとマルセラの伝記ではないということです。

B: 釈放後赤ん坊を連れずにアルゼンチンに渡ったことは事実ですが、その後二人が辿った人生はよく分かっていない。

 

A: そこで監督は25年前に養女に出した娘アナのルーツ探しという手に出ました。サラ・カサスノバス扮する娘を冒頭に登場させ、「私は誰?」「どこから来たの?」「あの女性たちは誰?」という独白で観客を物語に誘い込んでいきました。これは伝記映画ではなく《実話に着想を得たフィクション》です。

B: 最初に物語の語り手が明かされるという手法は、2017年の前作マイ・ブックショップとは正反対でした。

 

     

   (娘役のサラ・カサスノバスと母役のグレタ・フェルナンデス、映画から

 

A: コイシェ・フィーバーを起こした『あなたになら言える秘密のこと』も確か最後でした。グレタ・フェルナンデス演ずるマルセラの記憶を時系列に追っていくので観客は混乱しない。記憶の途切れを一つのエピソードとして暗転させ、次のエピソードにつなげていく。記憶は年月とともに曖昧に変化し、同時に美化もされるから、この手法は本作の場合とても都合がよかった。

B: 90パーセントがフラッシュバックとも言えます。モノクロの映像は全体的にみて素晴らしいのですが、フィナーレ部分の手綱を手にしたナタリア・デ・モリーナ扮するエリサは記憶に残る美しいシーンでした。男装したマリオはメイクアップにもう一工夫欲しかったけれど。

 

        

      (アルゼンチンに馬に乗って海を渡ることが夢だったエリサ)

 

A: 冒頭部分はロングショットとクローズアップを交互に使い、登場人物を列車や荷馬車に乗せ、ゆっくりと1世紀前に観客を誘導していく。撮影を手掛けたジェニファー・コックス1930年代の映画を見て参考にしたという。映画は1925年アルゼンチン南部のチュブト州から始まり、一気に1898年のア・コルーニャへと遡る。このスペイン北西部に位置するア・コルーニャは、ガリシア州でも現在の州都サンティアゴ・デ・コンポステラを含む重要な県名でもあり県都名でもあるが、映画では「ア・コルーニャ」と大雑把に網をかけていた。

B: 二人が挙式したのは190168ドゥンブリア教区のサン・ホルヘ教会ですが、字幕は「聖ジョージア教会」とあるだけでドゥンブリア教区と敢えて特定しなかった。

 

      

    (サン・ホルヘ教会での結婚式のシーン、マルセラとエリサ=マリオ)

 

A: 地名を特定したのは二人が再会したコウソ Cousoという小さな山村だけでした。ア・コルーニャ県ではなく、ガリシアでもポルトガルに近接するオーレンセ県の山村アルデア・コウソ・ルラルのようです。現在は隠れた観光地になっていますが、こんな鄙びた山村では密告が当然予想されたはずですから、隠れ住むには最も危険な場所だったでしょう。

B: 自分たちのことを何も知らないアルゼンチンに渡る計画でしたから、船出するポルトガルに近いほうがよかった。結局、村人の密告から計画を早めて急遽港湾都市ポルトに逃亡する。

 

      ポルトガル人は声高に自己主張するスペイン人が好きではない

 

A: 隣国同士は利害が相反することが多いからどこでも仲が悪い。スペインとポルトガルもその例に漏れない。実際の二人が逃亡先のポルトで逮捕されたのは1901816で結婚後約2ヵ月しか経っていない。13日後に釈放されているので、映画と事実は大分ズレているようです。

B: 映画では190112月にポルトで逮捕、マルセラは翌年16に獄中で女の子を出産する。出産日付は事実に揃えている。

 

A: 釈放の理由は、映画のように高慢な「スペイン政府の引き渡し要求には応じたくない」であったかもしれない。ポルトガルはスペインに対して屈折した感情を抱いている。

B: ポルト知事役のリュイス・オマール刑務所長役のマノロ・ソロの掛け合いは、ユーモアに富んだ危なげのない笑みのこぼれるシーンだった。両国は犬猿の仲というほどではないが、ポルトガル人は声高に自己主張するスペイン人が好きではない。

 

     女性の置かれていた低い地位――早く男を見つけて嫁に行け!

 

A: エリサの伯母(叔母)が校長をしている修道院付設の学校で二人は知り合う。エリサは「私は3年生でここで仕事もしているの、おばが校長をしているから」と自己紹介するが、字幕は前部分が抜け落ちていた。それでエリサの立ち位置がはっきりしなかった。

B: 二人が同級生ではなくエリサが年長者であることが、後半意味をもってくる。

 

A: 女性だけでなく男性でも字が読めないのが珍しくなかった時代に、マルセラの母親はエミリア・パルド・バサンの評論『今日的問題』を父親に内緒で娘に薦めている。母親も字が読めたということは、かなり裕福な家庭でないとあり得ない設定です。それもロマン小説でなく今日的な問題を話題にした本ですから、母親自身も教養の高い女性だった設定です。当時は何をやるにも「女だてらに・・・」と非難される時代でした。

B: パルド・バサンはア・コルーニャの貴族出身の作家、評論家、女性の啓蒙活動に従事した先駆的な女性の一人。代表作である小説『ウリョーアの館』は翻訳書が刊行されています**

 

A: これは1985年に4話からなるTVシリーズとしてドラマ化もされました***。母親を演じたマリア・プルテは、ほかの出演者と同じくア・コルーニャ出身のコメディを得意とするベテラン、出番は少なくても存在感があった。老け役が似合う年齢になった。

B: 父親役のフランセスク・オレーリャは、監督と同じバルセロナ出身、娘に複雑な感情を抱く、世間体ばかりを重視する気難しい父親像を好演した。自分を大きく見せるため父権を振り回す典型的な父親像でした。

 

      

(父役 F・オレーリャ、フェルナンデス、デ・モリーナ、母役マリア・プハルテ)

 

 

      女性から母親へ――微妙に変化するマルセラの成長

 

A: エリサに頼り切っていたマルセラは、子供を身ごもってからセリフやしぐさに微妙な変化を見せる。賢く逞しく、悪く言えば図々しくなる。夫マリオがキューバに移住したというエリサではないかと村人に問い詰められると「なんで他人の生活に嘴を入れるの」と凄む。これは本作の重要なテーマの一つです。

B: 自分とは無関係な他人を嗅ぎまわって不幸を楽しむ卑しさを監督は批判している。

 

A: 将来を悲観するマルセラに、エリサが親切にしてくれるポルトの刑務所長を「いい人だから助けてくれる」と慰めると、マルセラは「いい人だけでは足りない」とエリサの楽天主義を批判する。実際のマルセラも、芯の強い勇敢な女性だったそうです。

B: そうでないとこの結婚はあり得ない。後半エリサとマルセラの関係を逆転させている。

 

A: ベルリン映画祭のインタビューで、監督は「これは映画であってマニフェストではない」と語っていましたが、今もって同性婚が罰せられる国が多数あることを考慮すると、一種のマニフェストであってもいい。

B: 最後に流れる同性婚禁止の数字は年々変化していくと思いますが、死刑になる国があるというのは怖ろしい。罰金だの鞭打ち刑だの懲役刑だのは予想の範囲ですが、死刑になる国があるとは!

A: 先進国で同性婚が正式に認められていないのは、日本とイタリアだけだそうです。

B: 当時のスペインとポルトガルの力関係、国民性の違いなどが丁寧に描かれていた。声高に捲くしたてるスペイン人を困らせたいポルトガル人の屈折した心情なども楽しめた。

 

A: コイシェ監督は、1998年にガリシアを舞台にしたA los que aman(西仏合作)という作品を撮っている。スタンダールの作品をベースにした19世紀初頭の三角関係を描いたロマンスで、時代的には重ならない。今回再びガリシアに戻って今度は実話に着想を得たフィクションを撮った。撮りたい映画があれば国や言語を問わずに行動する。そのバイタリティーは敬服に値する。コイシェ監督が Netflix を利用した理由などについて異論があるかもしれないが、この件に関してはベルリン映画祭2019でご紹介しています。スペインではストリーミング配信に先立つ524日から2週間限定で劇場公開されました。これはネットフリックスのオリジナル製作を考えるうえで、一つの指針になるかもしれません。

                   

『今日的問題』の原題は「La cuestión palpitante1883年マドリードで発行されていた日刊紙「La Ëpoca」に週1回連載していた記事をセレクトして纏めたもので、クラリンの序文付きで出版された。3年後にはフランス語にも翻訳された、パルド・バサンの代表作の一つ。

**『ウリョーアの館』の原題は「Los pazos de Ulloa1986年刊、邦訳は現代企画室、2016年刊

***Los pazos de Ulloa4話(1985)スペイン国営テレビ。ホセ・ルイス・ゴメス、イタリアのオメロ・アントヌッティ、ビクトリア・アブリル、チャロ・ロペス、フェルナンド・レイなど、当時の人気俳優が出演している。80年代のTVドラマは文芸路線に力を入れていた。


ペドロ・アルモドバル 「栄誉金獅子賞」 受賞*ベネチア映画祭2019 ①2019年06月15日 17:50

        76回ベネチア映画祭「栄誉金獅子賞」にペドロ・アルモドバル

 

614日、映画祭主催者から第76回ベネチア映画祭2019「栄誉金獅子賞」ペドロ・アルモドバルに授賞するとの発表がありました。今年は828日から97まで開催されます。新作Dolor y gloriaのスペインでの入場者チケットが92万枚、イタリアでも封切り4週間め調べで45万枚と好調です。だからというわけではないでしょうが、アルモドバルは「ルイス・ブニュエル以来スペインで最も影響力の大きい監督」、国際映画祭でも非常にエモーショナルな作品を製作していることが授賞理由のようです。因みにルイス・ブニュエルは、1969年から始まった栄誉金獅子賞の1回受賞者でした。

 

     

  (主な出演者に囲まれてファンに挨拶するアルモドバル監督、カンヌ映画祭20195

 

★最近の受賞者は複数が続いているので、この後もう一人アナウンスされるかもしれません。2018年はイギリスの女優ヴァネッサ・レッドグレーヴとデイヴィッド・クローネンバーグ監督、2017年はリテーシュ・バトラが監督した『夜が明けるまで』に共演したロバート・レッドフォードとジェーン・フォンダ、2016年はジャン=ポール・ベルモンドとイエジー・スコリモフスキ監督でした。

 

★アルモドバルは授賞の知らせに「この栄誉賞という贈り物に感激と栄誉でいっぱいです。ベネチアには良い思い出しかありません。私が国際舞台にデビューしたのがベネチアで、1983年の『バチ当たり修道院の最期』、1988年の『神経衰弱ぎりぎりの女たち』もベネチアでした。この栄誉賞は私のお守りにいたします。このような賞を与えてくれた映画祭に心から感謝いたします」と喜びを語った。

   

    

               (新作「Dolor y gloria」ポスター)

 

★そろそろ秋の映画祭のニュースが飛び込むようになってきました。


『誰もがそれを知っている』*アスガー・ファルハディ2019年06月23日 17:40

 

                  

★故国イラン、フランス、スペインと、社会のひずみと家族の不幸を描き続けているアスガー・ファルハディ監督、今回はマドリード近郊の小さな町を舞台に少女誘拐事件を絡ませたサスペンス仕立てにした。監督は『彼女が消えた浜辺』2009About Elly」)のようにミステリアスなテーマを織り込むのが好きだ。邦題は英題「エブリバディ・ノウズ」を予想していましたが、『誰もがそれを知っている』と若干長いタイトルになりました。そんなこと「みんな知ってるよ」という劇中のセリフが題名になりました。主な関連記事と登場人物が多いので、以下にキャスト名を再録しておきます。

            

     

      (アスガー・ファルハディ監督と出演者、カンヌ映画祭2018にて)

 

 本作の主な関連記事

作品の内容・監督キャリア・キャストの紹介記事は、コチラ20180508

ペネロペ・クルスのセザール名誉賞受賞の記事は、コチラ20180308

ペネロペ・クルス近況紹介記事は、コチラ⇒20190520

ハビエル・バルデム出演の経緯と近況の記事は、コチラ20181017

 

 主な登場人物

ペネロペ・クルス(ラウラ)

ハビエル・バルデム(ラウラの元恋人パコ)

リカルド・ダリン(ラウラの夫アレハンドロ、アルゼンチン人)

バルバラ・レニー(パコの妻ベア)

エルビラ・ミンゲス(ラウラの姉マリアナ)

インマ・クエスタ(ラウラの妹アナ)

エドゥアルド・フェルナンデス(マリアナの夫フェルナンド)

ラモン・バレア(ラウラ三姉妹の父アントニオ

ジェール・カザマジョール(アナの結婚相手ジョアン、カタルーニャ人

カルラ・カンプラ(ラウラの娘イレネ)

サラ・サラモ(マリアナの娘ロシオ)

イバン・チャベロ(ラウラの幼い息子ディエゴ)

ホセ・アンヘル・エヒド(フェルナンドの友人、退職した元警官ホルヘ)

セルヒオ・カステジャーノス(パコの甥フェリペ)

パコ・パストル・ゴメス(ロシオの夫ガブリエル、出稼ぎ中

ハイメ・ロレンテ(ルイス)

トマス・デル・エスタル(パコのワイナリー共同経営者アンドレス)

その他、インマ・サンチョ、マル・デル・コラル、多数

 

       突然ひらめく一つのシーン――テーマは後から着いてくる

       

A: 監督によると「本作のアイデアは2005年、4歳になる娘を連れてスペインを旅行していたときに目にとまった<少女失踪>の張り紙だった」と語っています。最初からテーマを決めてストーリーを組み立てていくのではなく、「あるシーンが頭に浮かぶと、そこを起点にしてストーリーを語りたくなる。テーマが具体化するのはずっと後です」とも語っています。

B: 『彼女が消えた浜辺』のインタビューでも同じようなことを語っていた。今度はスペイン旅行中だったから、ここを舞台に撮ろうと思った?

 

A: というか、もともとスペインにシンパシーがあったので、スペインの俳優を使ってスペイン語で撮りたいと考え準備していたということでしょう。スペイン映画をたくさん観たうちからペネロペ・クルスに白羽の矢を立てた。彼女を念頭に執筆開始、何回も書き直しを繰り返して本人にオファーをかけたそうです。

B: ペルシャ語で執筆、それを翻訳してもらって、書き直して、を繰り返した。このやり方は2013年に公開されたフランス語で撮った『ある過去の行方』で既に体験済みでしたね。

 

A: スペイン語はフランス語よりずっと易しい。クランクインしたときにはスペイン語を完全にマスターしていたとハビエル・バルデムがエル・パイス紙に語っていたが、やはり通訳を介していたらしい。自分へのオファーが直ぐこなくてやきもきしたとジョークを飛ばしていた。当然パコ役は自分が演ると思っていた()

 

       脚本の曖昧さともつれ方――犯人が誰であるかは重要ではない

 

B: 冒頭のシーンは古ぼけた教会の鐘楼で始まる。どうもデジャヴの印象でした。

A: ハトが窓から逃げようとして騒ぎはじめる。数秒後にこれから起こるだろう事件を暗示するかのように、手袋をはめた手が古新聞の切り抜きをしている。「カルメン・エレーロ・ブランコ誘拐事件」と読める。誰かが閉じ込められ、それは過去の事件と関係していると知らせている。

B: ラウラの久しぶりの帰郷に家族や隣人を挨拶に登場させることで、これから始まる劇のメンバー全員が次々に紹介される。導入部としては合格点でしょうか。

 

        

  (かつての恋人同士だったラウラとパコ、ラウラの娘イレネとパコの甥フェリペ)

 

A: この鐘楼に早速意気投合したイレネとフェリペが昇ってくる。ハトのメタファーがそれとなく分かるような仕掛けがしてある。その後ハトが飛び立つことから事件が解決に向かうことを観客は理解する。

B: 謎解きや犯人捜しを楽しむ複雑なストーリーのスリラー映画ではないということです。

A: 冒頭からの数ある伏線を見落とさずに見ていれば、かなり早い段階で誘拐犯人の当たりがついてくる。しかし本作では犯人が誰であるかは重要ではない。アスガー・ファルハディの狙いは謎解きではない。どんな平凡な家庭にも人に知られたくない秘密があり、知らないほうが却って幸せなこともある。

 

B: 秘密を守るためには嘘をついてでも隠し続けなければならない。しかし娘の命にかかわることとなれば、それは別の話になるだろう。 

A: ところが万事休す暴露すれば、そんなこと本人以外「みんな知ってたよ」となってしまう。物語を動かすために犯人追及は重要だが、犯人の身元は重要ではない。つまり誘拐犯が分かっても、それはいずれ誰もが知っているのに誰も口にしない新たな秘密になるだけです。「沈黙は金」なのである。

 

B: 図らずも母の秘密を知ることになるだろう娘、更には娘の秘密を偶然にも知ってしまう母親が秘密の重さに耐えかねて共犯者を求めるシーンで幕を閉じる。それぞれ秘密を墓場まで持って行くことができるだろうか。

 

A: フィナーレの総括で、フラストレーションを引き起こした観客が多かっただろうと思います。娘を救い出し、家族や知人の亀裂を残したままラウラ一家は早々に引き揚げるが、全財産を失い不信を募らせる妻ベアとの関係も崩壊したパコの過失は、いったい何だったのだろうか。

B: 少し理不尽な気分が残った。しかしバルデム自身はパコの陰影のある実直さがえらく気に入ったようだ。もっとも本当にパコがすべてを失ったかどうかは、観客に委ねられた。

 

A: 多くの批評家が脚本を褒めているけれども、個人的には支離滅裂とまでは言わないがストレスを感じた。男としての責任感だけで今までの苦労を水の泡にできるものだろうか。

B: 作中での常識ある人間はパコの連れ合いベアだけだ。

A: 豪華なキャスト陣を動かすためだろうが、ほかにも脚本の曖昧さやもつれ方が気になった。過去のラウラとパコの関係はある程度想像できますが、ラウラが町を出たかったのは分かるとして何故アルゼンチンだったのかの必然性が感じられなかった。

 

B: 多分リカルド・ダリンを起用したかったからじゃないの ()。コメディが得意なダリンがずっと苦虫を噛み潰していた。かつては会社を経営していたという夫アレハンドロは、会社が倒産して2年前から失業中という設定でした。今時「神のご加護」に縋っている人間がいるなんて。

A: 誘拐犯に疑われるにいたっては馬鹿げすぎている。犯人が誰かは重要ではないけれど、土地勘のない異国の土地でいくら金欠でも単独では無理でしょう。

     

          

      (ラウラと夫アレハンドロ、ペネロペ・クルスとリカルド・ダリン)

 

         経済危機を背景にエゴがむき出しになる村社会       

 

A: 本作ではスペインとアルゼンチン両国の長引く経済危機、失業問題が背景にある。加えて不法移民による格安の季節労働者の急増が土地の労働者を圧迫している。元の地主と小作間の土地紛争と相続問題、資産格差を打ち破る下剋上的な新旧の世代交代などテーマを詰め込みすぎだ。更にこれらを解決するのがテーマじゃないから、ただ並べただけで最後までほったらかしだった。

 

B: 時代が変わり没落していくかつての地主、夫婦の危機、兄弟姉妹間の口に出せない不平等感などもテーマの一つだった。他人の不幸は蜜の味は国を問わない。

A: 脇を固めた俳優たちに触れると、三姉妹の長女マリアナを好演したエルビラ・ミンゲス、本作でスペイン俳優連盟2019の助演女優賞を受賞しているベテラン。酒に溺れ頑迷でただのろくでなしになった老人アントニオの面倒を、夫フェルナンドとみている。美人の妹たちとは年もかなり離れ、幸せそうでない娘ロシオと孫を同居させている。隣人の陰口どおり貧乏くじを引いてしまっている。

 

           

       (我慢強いマリアナと責任を取りたくないフェルナンドの夫婦)

 

B: 父役のラモン・バレアは、ビルバオ生れ(1949)の脚本家、舞台監督でもあり皆の尊敬を集めている。未公開作品ですがボルハ・コベアガの「Negociador」では主役も演じています。公開作品で他に何かありますか。

A: TVシリーズや短編を含めると160作ぐらいに出ていますが、本作のパンフレットは不親切で出演作はゼロ紹介でした。まず同郷の監督パブロ・ベルヘルの『ブランカニエベス』や『アブラカダブラ』、Netflixでは先述のボルハ・コベアガの『となりのテロリスト』、サム・フエンテスの『オオカミの皮をまとう男』、未公開ですがアナ・ムルガレンの「La higuera de los bastardes」など結構あり、当ブログでも何回かご登場願っています。

 

       

       (尊敬を失った老いた父親アントニオ役ラモン・バレアとラウラ)

         

B: 娘婿フェルナンドに扮したエドゥアルド・フェルナンデスは、ご紹介不要でしょうか。バルデムと共演した『ビューティフル』、ダリンと共演した邦題が最悪だった『しあわせな人生の選択』など。

A: サンセバスチャン映画祭男優賞受賞の『スモーク・アンド・ミラー』に、ゴヤ賞助演男優賞を受賞した『エル・ニーニョ』など、当ブログでのご紹介記事も枚挙に暇がありません。

 

B: 枚挙に暇がないもう一人が、パコの妻ベア役のバルバラ・レニー、アルゼンチン出身だが今やスペインを代表する女優の一人です。クルスもレニーも出演本数はかなりあるほうですが、初めての美人スター対決、さぞかし火花が散ったことでしょう。

A: 二人ともギャラが高そうだから共演は難しい。バルバラが主演したハイメ・ロサーレスの新作『ペトラは静かに対峙する』が間もなく公開されます。ペネロペ・クルスはスクリーンの4分の3ほど苦しんでいましたが ()、シーンごとに表情の陰影が異なり、確実に演技は進化している。今が人生でいちばん油が乗っているというか充実しているのではないか。

 

        

         (パコとベア、ハビエル・バルデムとバルバラ・レニー)

 

B: バルデムとダリンの共演も初めて。そもそもダリンはスペイン映画にはあまり出演していないし、バルデムも軸足をアメリカに置いていた時期が長いから当然です。

A: 三女アナ役のインマ・クエスタはコメディもこなす演技派、クエスタはクルスともバルデムとも初顔合わせです。2011ダニエル・サンチェス・アレバロの『マルティナの住む街』で登場、脇役ながら存在感を示した。予想を裏切らずその後の活躍は『スリーピング・ボイス』『ブランカニエベス』『ジュリエッタ』と、いい作品に恵まれている。

 

B: 本作では前の交際相手と別れて金持ちらしいカタルーニャ人を結婚相手に選ぶ。二人の出会いは語られませんが、ラウラから「賢明な選択だった」と褒められたので「おや?」と思った。

A: 精神的な意味なのか経済的なものか推測するしかないのだが、花嫁側の経済的困窮を考えると後者かなと感じた。前半と後半の明暗を印象づけるためかもしれないが、困窮している花嫁側があれほど派手な披露宴をするのは不自然かな。

 

B: バルデムは「スペインの風習が正確に描写され」ていると語っているが、監督は常にイランとスペインの制度の違いを気にかけ「これはスペインでも可能なことか」と確認していたという。

A: 特にイスラム社会の婚姻制度は欧米とは異なっており、「婚姻は契約」であり、花婿は花嫁と家族に身支度金をいくら支払うか、離婚に至った場合の慰謝料をいくら払うか契約書に明記しなければならない。ここに精神的なものは含まれない。勿論離婚の権利は夫側にしかなく、妻が要求した場合は慰謝料は受け取れない。これは初めてアカデミー賞を手にした、2011年の『別離』でも描かれていた。

 

B: アナの結婚相手ジョアン役のロジェール・カザマジョールは、デル・トロのダーク・ファンタジー『パンズ・ラビリンス』に出演、ビダル大尉と対決するゲリラの闘士役を演じた。

A: 有名なのはゴヤ賞2011で作品賞以下9部門を制したアグスティ・ビリャロンガ『ブラック・ブレッド』で少年の父親になった。オリジナル版はカタルーニャ語、母語もカタルーニャ語です。ゴヤ賞は逃したがガウディ賞助演男優賞を受賞している。カタルーニャTVのシリーズの出演が多く、演技の幅は広い。実際もリェイダ生れのカタルーニャ人です。

 

       

       (花嫁と花婿、インマ・クエスタとロジェール・カザマジョール)

 

B: 他ルイス役のハイメ・ロレンは、シーズン3の配信が始まる『ペーパー・ハウス』のデンバー役、『ガン・シティ~動乱のバルセロナ』や『無人島につれていくなら誰にする?』など、最近の活躍が目立つ若手。

A: ラウラの幼い息子ディエゴ役のイバン・チャベロは、パコ・プラサのホラー『エクリプス』で主人公ベロニカの弟役でデビュー、若干背が伸びました。メガネは伊達ではないようだ。

   

B: 筋運びにもやもやがあるにしても、俳優たちの演技はよかったのではないか。

A: 演技派をこれだけ集められたのもオスカー監督ならではの威光でしょう。

 

        撮影監督ホセ・ルイス・アルカイネの光と闇の拘り方

 

B: 最後になったが撮影監督のホセ・ルイス・アルカイネのバイタリティーには驚く。1938年生れだから既に80代に突入している。バルデム=クルス夫婦の初顔合わせとなったビガス・ルナの『ハモンハモン』他ルナ作品の専属だった。

A: アルモドバルの『バッド・エデュケーション』『ボルベール』『私が、生きる肌』ほか、ビクトル・エリセカルロス・サウラビセンテ・アランダフェルナンド・トゥルエバなどスペインを代表する監督とタッグを組んでいる。ブライアン・デ・パルマなど海外の監督ともコラボして挑戦を止めない。

 

      

              (ケーキカットのシーンから)

 

B: 本作では光と闇、雨または水が物語を動かす役目をもたされている。突然降り出す雨、ろうそくの明かりのなかでのケーキカット、土砂降りの闇夜のなかを走る車のヘッドライト、まぶしい陽光を遮るようにホースからほとばしる水しぶきなど、印象深いシーンが多かった。

A: その一つ一つに繋がりがあり、特にフィナーレのホースでプラサの汚れを洗い流す飛沫は、ベールで二人の共犯者を覆い隠すように幕状になっていく。こうして誰もが知っているが誰も口に出さない新たな秘密が誕生する。

  

ベネチア映画祭の審査委員長にルクレシア・マルテル*ベネチア映画祭2019 ②2019年06月27日 13:24

          『サマ』のルクレシア・マルテルがコンペティションの審査委員長に

 

★第76回ベネチア映画祭は、828日から97日まで開催されます。先日アルモドバル監督の「栄誉金獅子賞」の受賞をアップしたばかりですが、今回はアルゼンチンを代表する女性監督ルクレシア・マルテル(サルタ1966審査委員長就任のニュースです。昨年はメキシコのギレルモ・デル・トロ、ラテンアメリカから連続で選ばれたことになります。マルテルは2年前のベネチア映画祭2017にコンペティション外でしたが『サマ』のプレミア上映で来ベネチア、今回は審査委員長の重責を果たすためにやってきます。他の審査員8名の発表はまだのようですね。

   

『サマ』の作品&監督キャリア紹介は、コチラ20171013

『サマ』のラテンビート映画祭の記事は、コチラ20171020

        

            

           (メガネが印象的なルクレシア・マルテル監督)

 

★「これは名誉なことです。そしてこのような映画の祭典に、自らを理解したいという人間が本来もっている大きい望みに参加できる喜びと責任を感じています」とマルテル監督。映画祭ディレクターのアルベルト・バルベラは「20年間という期間に、4作の長編作と短編を発表しただけで、ラテンアメリカに止まらず世界を代表する重要な監督になりました。彼女の作品は、スタイル探求の独創性、映像化の厳しさ、女性性のミステリアス、グループや階級のバイタリティの探索に専念した曖昧さのない世界のビジョンに貢献している」という、いささか難しいコメントの文書を発表した。

 

★「4作の長編作」とは、サルタ三部作と言われる出身地サルタを舞台にした、2001年の『沼地という名の町』2004年の『ラ・ニーニャ・サンタ』2008年の『頭のない女』、上述の『サマ』のことです。『ラ・ニーニャ・サンタ』以下は、ラテンビートで上映された。