グアダラハラ映画祭2016*作品賞はコロンビアの新星フェリペ・ゲレーロ2016年03月19日 21:21

        ドキュメンタリー監督の“Oscuro animal”が独占

 

1月下旬から12日間にわたって開催されるオランダのロッテルダム映画祭2016がワールド・プレミアでした。フェリペ・ゲレーロはコロンビアの監督ですが、数年前からアルゼンチンで編集者として活躍、現在はブエノスアイレス在住、本作Oscuro animalはアルゼンチン、オランダ、ドイツとの合作。彼は長編劇映画こそ初監督ですが、既に高い評価を受けたドキュメンタリー“Corta”(2012)や短編“Nelsa”(2014)を発表しています。ロッテルダム映画祭には他にパラグアイのパブロ・ラマルの第1作“La última tierra”と、ブラジルの若手マリリア・ホーシャ(ローシャ)の“A cidade onde envelheco”が出品されていました。

 

         

             (“Oscuro animal”のポスター)

 

      Oscuro animal2016

製作:Viking Film / Sutor Kolonko / Gema Films / Mutokino

監督・脚本:フェリペ・ゲレーロ

撮影:フェルナンド・ロケットLockett

データ:製作国コロンビア=アルゼンチン=オランダ=ドイツ、スペイン語、2016年、予算約58万ドル、テーマはコロンビア内戦が熾烈だった1990年代のビオレンシア、マチスモ、私設軍隊の恐怖など。

映画祭・受賞歴:ロッテルダム映画祭2016正式出品(129日上映)、グアダラハラ映画祭2016イベロアメリカ作品賞・監督賞・撮影賞・女優賞(下記の3女優が分けあった)を受賞。

キャストマルメイダ・ソト(ロシオ)、ルイサ・ビデス・ガリアノ(ネルサ)、ホセリン・メネセス(ラ・モナ)

 

     

                (映画のシーンから)

 

解説:コロンビアの総ての世代にはびこっている暴力「ラ・ビオレンシア」についての物語。ここではコロンビア内戦で暴力の犠牲者になった3人の女性が登場する。それぞれ異なった動機で、武力衝突で土地を奪われた犠牲者として、私設軍隊パラミリタリーの殺人的猛威や普遍的なマチスモを逃れて、大量殺戮や無差別的な不正行為の恐怖から国内難民として都会に逃れて行く女性たちの物語。内戦が沈静化した現在でも知られることもなく深い傷跡を抱えたままの人生、しかしささやかな希望をもって立ち上がろうとする女性たちの物語でもある。

 

     

                 (映画のシーンから)

 

フェリペ・ゲレーロFelipe Guerrero1975年コロンビア生れ、監督、編集、脚本、製作。1995年ボゴタのCine y Fotografía de la Escuela de Cine Unitecで科学技術者の学位を得る。4年後ローマの映画撮影実験センターCSCで編集資格修了証書を取得し、映画界には編集者として出発している。東京国際映画祭2014で上映された同胞オスカル・ルイス・ナビアの『ロス・ホンゴス』(2014)や“El vuelco del cangrejo”(2009)の編集に携わっている。

『ロス・ホンゴス』の記事は、コチラ⇒20141116

 

★監督としては1999年短編Medellínでデビュー、Duende2002)はローマのドキュメンタリー・フェスティバルで審査員佳作賞を受けた。2006年コロンビアの映画振興基金FDCを受けたドキュメンタリーParaísoで、各国際映画祭、マルセーユで特別メンション、バルセロナで実験ドキュメンタリー賞ほか、翌年コロンビア文化省からドキュメンタリー国民賞栄誉メンションを受けている。上記のCortaもコロンビアの FDCを受けて製作されたドキュメンタリー。ロッテルダムFFに出品され、同映画祭のヒューバート・バルス基金も獲得した。続いて国際映画祭マルセーユ、ブエノスアイレス、ロカルノで上映、スペインのMargenes映画祭では審査員特別メンションを受賞している。コロンビアの FDCの他、IBERMEDIAプロジェクト基金も受けている。

 

★短編Nelsaは、カルタヘナ短編映画祭上映、ボゴタ短編映画祭では女優賞・編集賞ポスター賞を受賞した。本作もコロンビアの FDCを受けて製作され、コロンビア政府の経済的援助が成果を生んでいる。このことについてはコロンビア映画躍進を語るおりに当グログでは度々触れてきております。東京国際映画祭2015上映のセサル・アウグスト・アセベドの『土と影』(カンヌFFカメラ・ドール他4賞受賞)、カンヌ映画祭のチロ・ゲーラの『大河の抱擁』(アカデミー賞外国語映画賞ノミネーション)も同基金を受けて製作されました。詳細は以下の関連記事をご参照ください。

セサル・アウグスト・アセベドの『土と影』に関する記事は、コチラ⇒20151031

カンヌ映画祭2015出品のコロンビア映画の記事は、コチラ⇒2015519527

チロ・ゲーラ『大河の抱擁』の記事は、コチラ⇒2015524

 

★「ビオレンシアの意味はここコロンビアでは複雑で一言では説明できない。映画では3人の女性たちに語ってもらった」と監督。しかしセリフは極力おさえた。重要なのはセルバの自然音に語らせることだったからだそうです。このテーマで撮ろうとしたきっかけは、国際アムネスティやヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書を読んで刺激されたこと。現在難民となって国内を流浪している人々に直接インタビューも行った。結果的には観客に多くの痛みを与える辛い仕事になった。しかしスクリーンで語られたことは、コロンビアの1980年代、90年代に実際に起こっていた苦しみであったとロッテルダムで語っていました。

 

   

   (プレス会見でインタビューを受けるゲレーロ監督、ロッテルダム映画祭2016にて)

 

★最優秀撮影賞受賞のフェルナンド・ロケットは、ドキュメンタリー映画を数多く手掛けている撮影監督。劇映画としては、マティアス・ピニェイロ(1982、ブエノスアイレス)とタッグを組み、代表作“Viola”(2012)他、“Todos mienten”(09)、“La princesa de Francia”(14)などアルゼンチン映画を撮っている。

 

 

    (撮影監督フェルナンド・ロケットの映像美)

 

3人の女優賞受賞者のうちマルメイダ・ソトは、『土と影』で嫁のエスペランサを演じた女優、唯一人のプロの女優として起用されていました。ルイサ・ビデス・ガリアノホセリン・メネセスは、IMDbによれば今回が初出演のようです。

 

    

   (最優秀女優賞のトロフィーを手にしたホセリン・メネセス、グアダラハラ映画祭)

 

    *グアダラハラ映画祭の他の受賞作・受賞者

La 4a. Compañía(メキシコ):共同監督アミル・ガルバン&バネッサ・アレオラ、初監督賞、審査員特別賞、男優賞にアドリアン・ラドロン、次のゴールデン・グローブ賞候補に推薦されることが決定された。また本映画祭と並行して行われるプレスが選ぶ「ゲレーロ賞」も受賞した。

 

             

               (“La 4a. Compañía”から)

 

El charro de Toluquilla(メキシコ):監督ホセ・ビリャロボス、最優秀ドキュメンタリー賞。メキシコ映画黄金期のイコンの一人、歌手で俳優のペドロ・インファンテ(191757)の人生を辿るドキュメンタリー。自ら操縦する自家用飛行機事故で死亡、39歳という若さであった。エイズのキャリアであったことが現在では分かっている。1957年ベルリン映画祭出品の“Tizoc”で男優銀熊賞を受賞している。

 

Me estas matando, Susana(メキシコ=スペイン=ブラジル=カナダ合作):監督ロベルト・スネイデル。ホセ・アグスティンの小説の映画化。ガエル・ガルシア・ベルナルとベロニカ・エチェギ出演のコメディ。“La 4a. Compañía”同様、次のゴールデン・グローブ賞候補に推薦されることが決定された。スネイデル監督は、『命を燃やして』がラテンビート2009で上映されたさい来日している。

 

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