「監督週間」ラテンアメリカから2作*カンヌ映画祭2015 ⑥ ― 2015年05月24日 11:27
チロ・ゲーラの第3作目“El abrazo de la serpiente”
★「監督週間」ではスペインからはフェルナンド・レオン・デ・アラノアの“A Perfect Day”1作だけということで、言語が英語にもかかわらず簡単に紹介しています。今年はコロンビア映画が意気盛ん、裾野の広がりを実感しています。これからご紹介するチロ・ゲーラは2009年の第2作“Los viajes del viento”がカンヌ本体の「ある視点」に選ばれ、「ローマ市賞」を受賞しています。今回は2度目のカンヌ、主人公の老若2人のシャーマン、カラマカテKaramakateとプロデューサーのクリスティナ・ガジェゴたちと一緒にカンヌ入りしています。
(左から、ゲーラ監督、ニルビオ・トーレス、ドン・アントニオ、クリスティナ・ガジェゴ、
アントワーヌ・セビレ在仏コロンビア大使)
“El abrazo de la serpiente”(2015“Embrace
of the Serpent”)
製作:Buffalo Producciones / Caracol
Televisión / Ciudad Lunar Producciones 他
監督・脚本:チロ・ゲーラ
脚本(共同):ジャック・トゥールモンド・ビダル
撮影:ダビ・ガジェゴ
音楽:ナスクイ・リナレス
編集:エチエンヌ・ブサック
データ:コロンビア≂ベネズエラ≂アルゼンチン、スペイン語他、アドベンチャー・ミステリー、モノクロ、125分、撮影地バウペスVaupésの密林ほか、コロンビア5月21日公開
キャスト:ニルビオ・トーレス(青年カラマカテ)、アントニオ・ボリバル(老年期のカラマカテ)、ヤン・バイヴート、ブリオンヌ・デイビス(エヴァンズ)、ヤウエンク・ミゲ(マンドゥカ)、ミゲル・ディオニシオ、ニコラス・カンシノ(救世主・アニゼット)、ルイジ・スシアマンナ(ガスパー)、ほか
(青年カラマカテ役のニルビオ・トーレスとドイツ人民族学者役のヤン・バイヴート)
プロット:アマゾン川流液に暮らすシャーマンのカラマカテと、聖なる薬草を求めて40年の時を隔てて訪れてきた二人の科学者との遭遇、友好、誠実、意見の食い違い、背信などが語られる叙事詩。カラマカテは自分自身の文明からも離れて一人ジャングルの奥深く隠棲して数年が経った。自然と調和して無の存在「チュジャチャキ」になろうとしていた彼の人生は、幻覚を誘発する聖なる樹木「ヤクルナ」を探しにやってきたアメリカ人植物学者エヴァンズの到着で一変する。悠久の大河アマゾン、文明と野蛮、聖と俗、シンクレティスモ、異文化ショック、ラテンアメリカに特徴的な<移動>も語られるであろう。
*監督キャリア・フィルモグラフィー*
★チロ・ゲーラCiro Guerraは、1981年セサル州リオ・デ・オロ生れ、監督・脚本家。コロンビア国立大学の映画テレビを専攻する。長編デビュー作“La sombra del caminante”(2004)は、トゥールーズ・ラテンアメリカ映画祭2005で観客賞を受賞。第2作“Los viajes del viento”(2009)がカンヌ映画祭での高評価をうけ、多くの国際映画祭で上映された。ボゴタ映画祭2009監督賞、カルタヘナ映画祭2010作品賞・監督賞及びサンセバスチャン映画祭2010スペイン語映画賞などを受賞。(写真下“Los viajes del viento”から)
*解説・トレビア*
★「本作のアイデアは、20世紀初頭コロンビアのアマゾン川流液を踏査したドイツの民族学者テオドール・コッホ≂グリュンベルクとアメリカの生物学者リチャード・エヴァンズ・シュルテスについての新聞記事に触発されて生れた」とゲーラ監督。「二人が残してくれた記録があったからこそできた映画、そういう意味で先人たちへのオマージュが込められている。コロンビアの国土の半分はアメゾン川流域、しかし現代のコロンビア人の多くは、そこがどういうところか、どんな文化があるのか、どういう人が住んでいるのか、何にも知らない」とも。
★先に訪れたドイツ人コッホ≂グリュンベルク*を造形した役にはベルギー(アントワープ)出身のヤン・バイヴートが扮する。ちょっと雰囲気が本人に似ている。東京国際映画祭2013で上映されたアレックス・ファン・ヴァーメルダムの『ボーグマン』で主役になった俳優。なんとも人を食った神経がザワザワする映画でした。40年後にやってくるエヴァンズには米国の俳優ブリオンヌ・デービスが扮した。リチャード・エヴァンズ・シュルテス**を造形しているようだ。
(左から、マンドゥカ、テオドール、青年カラマカテ、映画から)
*テオドール・コッホ≂グリュンベルクTheodor
Koch-Grünberg(1872~1924)は、ドイツの グリュンベルクに生れ、20世紀の初め南米熱帯低地を踏査した民族学者。第1回目(1903~05)がアマゾン川流域北西部のベネズエラと国境を接するジャプラYapuraとネグロ川上流域の探検をおこない、地理、先住民の言語などを収集、報告書としてまとめた。第2回目は(1911~13)ブラジルとベネズエラの国境近くブランコ川、オリノコ川上流域、ベネズエラのロライマ山まで踏査し、先住民の言語、宗教、神話や伝説を詳細に調査し写真も持ち帰った。ドイツに帰国して「ロライマからオリノコへ」を1917年に上梓した。1924年、アメリカのハミルトン・ライス他と研究調査団を組みブラジルのブランコ川中流域を踏査中マラリアに罹り死去。
**リチャード・エヴァンズ・シュルテスRichard Evans Schultes(1915~2001)は、マサチューセッツ州ボストン生れ、ハーバード大学卒の米国の生物学・民族植物学者。ハーバード大学卒、1941年にアマゾン川高地を踏査している。著書『図説快楽植物大全』が2007年に東洋書林から出版されている。多分聖なる樹木ヤクルナyakrunaも載っているのではないか。
★「チュジャチャキchullachaqui」という語は一種の分身らしく、語源はケチュア語で感情や記憶をなくした空っぽの無の存在になることのようです。言語は予告編からはスペイン語以外のカラマカテのセリフはちんぷんかんぷん、先住民の言語でしょう。当然ドイツ語、英語も混じっているはずです。二人のカラマカテはネイティブ・アメリカンです。
(監督とプロデューサーのクリスティナ・ガジェゴ、カンヌにて)
*** *** ***
★この「監督週間」には、チリのマルシア・タンブッチ・アジェンデのドキュメンタリー“Allende, mi abuelo Allende”も選ばれていますが、これは今春「我が祖父、アジェンデ」の仮題でアップしたばかりなので割愛いたします。「もう一つの9・11といわれるチリの軍事クーデタ」で自ら生を絶ったサルバドール・アジェンデ大統領の遺族のその後を辿ったドキュメンタリー。監督は大統領の孫娘です。作品紹介並びに監督紹介もしております。写真下は祖父アジェンデに抱かれた監督(左)と従姉マヤ、アジェンデ夫人。
チロ・ゲーラ最優秀作品賞を受賞*カンヌ映画祭2015 ⑦ ― 2015年05月24日 17:28
このような瞬間を夢見ていた!
★午前中チロ・ゲーラの“El abrazo de la serpiente”の記事をアップしたばかりですが、「監督週間」の最優秀作品賞受賞のニュースが飛び込んできました。日本は「ある視点」部門の黒沢清の『岸辺の旅』が監督賞受賞で沸いていますが(沸いていない?)、コロンビアでは「批評家週間」の“La tierra y la sombra”に続いての受賞、それも作品賞受賞に沸いています。上映後のプレス会見、マイクを持って話しているのが老カラマカテ役のドン・アントニオ、右が監督(写真下)。
★上映後のオベーションが「10分」という記事に、「もしかしたら」が本当になりました。一週間前からカンヌ入りしていた監督以下出演者ともども、夢みたいでしょうね。既にヨーロッパ、米国、アフリカ、ラテンアメリカなど、関連映画館3000館の配給が決まったようです。個人的にも今年のカンヌ上映作品で一番見たい作品がコレ、秋の映画祭でどこかが拾ってくれないかしら。
(アマゾン川で撮影中のスタッフ)
★「主人公カラマカテの役を演れるのは、この二人以外に考えられなかった」とニルビオ・トーレスとアントニオ・ボリバルを讃える監督。壮年期のカラマカテを演じたドン・アントニオは、現在生き残っている最後の先住民の一つといわれるオカリナ族ということです。
(素晴らしい演技をしたというアントニオ・ボリバル、ポスターから)
★前回も書いたことですが、「コロンビアの国土の半分はアマゾン川地域、しかし私たちはアマゾンに背を向けてその存在を無視してきた。彼らの考え、彼らの文化や歴史を何も知らないのです」と繰り返しています。コロンビアでもすでに公開されていますが、現代のコロンビア人は何を感じるのでしょうか。
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