『そして彼女は闇を歩く』Netflix 鑑賞記*SSIFF2025 ㉓ ― 2025年11月23日 11:44
アグスティン・ディアス・ヤネスの新作「Un fantasma en la batalla」

★サンセバスチャン映画祭2025アウト・オブ・コンペティションで上映された、アグスティン・ディアス・ヤネスの7年ぶりの新作「Un fantasma en la batalla / She Walks in Darkness」(『そして彼女は闇を歩く』)は政治スリラードラマ、「バスク祖国と自由」ETAの解体のために組織に潜入して無事生還できた唯一人の女性潜入捜査官エレナ・テハダ(偽名アランサス・ベラドレ・マリン)の実話に着想をえて製作されたフィクションです。2024年、アランチャ・エチェバリアが同一人物を主役に据えた「La infiltrada / Undercover」を撮っており、今年のゴヤ賞で作品賞と潜入捜査官を演じたカロリナ・ジュステが主演女優賞を受賞したばかりです。『アンダーカバー 二つの顔を持つ女』の邦題でWOWOWが放映した。両作ともフィクションですが、先行したエチェバリアのほうがエレナ・テハダの伝記に近いようです。基本データは作品紹介記事に譲り、キャスト陣とストーリー紹介だけアップします。本祭には監督、製作者、主要キャストが「ジェノサイド・ストップ」のバッチをつけて参加しました。
*「Un fantasma en la batalla」の紹介記事は、コチラ⇒2025年07月16日
*「La infiltrada」の作品とエレナ・テハダの紹介記事は、コチラ⇒2025年01月15日

(監督と出演キャスト、サンセバスチャン映画祭、9月24日フォトコール)
キャスト:
スサナ・アバイトゥア(偽名アマイア・ロペス・エロセギ/アマヤ・マテオス・ヒネス)
アンドレス・ヘルトルディクス(フリオ・カストロ中佐)
イライア・エリアス(ベゴーニャ・ランダブル、バスク語学校校長)
ラウル・アレバロ(アリエタ/ソリオン)
アリアドナ・ヒル(ギプスコア1961、ソレダード・イパラギレ・ゲネチュア/通称アンボト)
ミケル・ロサダ(ギプスコア1954、イグナシオ・グラシア・アレギ/
筆名イニャキ・デ・レンテリア)
アナルツ・スアスア(サンセバスティアン1961、アンボトのパートナー、ミケル・アルビス・イリアルテ/ミケル・アンツァ)
ハイメ・チャバリ(チキTxiki /エル・ビエホ)
クリス・イグレシアス(治安警備隊員アデラ、アマイアの連絡係)
アンデル・ラカリェ(アンドニ)
ディエゴ・パリス(エスケルティア)
フェルナンド・タト(ビスカヤ1966、フランシスコ・ハビエル・ガルシア・ガステル/
チャポテ)
ミケル・ララニャガ(ダゴキ)
アルフォンソ・ディエス(イスンツァ)
エドゥアルド・レホン(内部告発者)
イニャキ・バルボア(ヨス・ウリベチェベリア・ボリナガ)
エネコ・サンス(チェリス)
アルマグロ・サン・ミゲル(アマイアの恋人アントニオ)、フアナ・マリア(アマイアの偽の母親)、イゴル・スマラベ(ホセ・マリア・ムヒカ、フェルナンド・ムヒカの息)、ほか多数
◎ETA による誘拐&殺害された政府要人など
アルベルト・サンチェス(グレゴリオ・オルドニェス、国民党PPバスク州議会議員、
1995年1月23日、享年36歳)
ホルヘ・ウエルゴ(ホセ・アントニオ・オルテガ・ララ、刑務官、
1996年から532日間幽閉後救出)
フアン・モントーヤ(フェルナンド・ムヒカ、弁護士、活動家、社会労働党PSOE党員、
1996年2月6日、享年62歳)
ホセ・マリア・エルナンデス(フランシスコ・トマス・イ・バリエンテ、法学教授、
元憲法裁判所長官、歴史家、1996年2月14日、享年63歳)
ウィリアム・モンラバル・クック(ミゲル・アンヘル・ブランコ、PP議員、
1997年7月10日誘拐、13日死去、享年29歳)
ベナン・ロレヒ(フェルナンド・ブエサ・ブランコ、政治家、PSOEバスク社会党PSE-EE、
2000年2月22日、享年53歳)
ストーリー:1990年、バスク祖国と自由(ETA)の解体に寄与した潜入捜査官アマイアの恐怖の10年間が語られる。アマイアのミッションは、ETAがフランス南西部バスクに武器弾薬などを隠し持つ重要な秘密のアジト(スロ)を突き止めることであった。フランコ没後激化した実際に起きた要人暗殺、自動車爆破事件の数々を背景に、スペインの歴史的、政治社会的文脈に根ざした捜査官たちに触発されたフィクション。90年代後半から21世紀初頭の治安部隊による「サンクチュアリ作戦」をベースにしている。
生還できた唯一人の女性潜入捜査官の人生に触発されたフィクション
A: まだ進行中の事案ですから評価は別れます。ジャンルとしては実際に起きた殺害事件をドラマ化して挟みこんだドキュメンタリー・フィクションです。ヒロインの潜入捜査官アマイアのモデルは、アランサス・ベラドレ・マリンという偽名をもつ国家警察所属の警官エレナ・テハダと思われますが、ドラマでは治安警備庁の隊員になっています。人物造形もかなり違っていて、アマイアの上司カストロ中佐も当然違うわけです。
B: アマイアは実在しません。冒頭で「これはある捜査員の物語かもしれない」と、フィクションだと予防線を張っています。しかしETA側の主だった登場人物は虚構の人もいますが、多くは同じ名前(通称、あるいはニックネーム)や行動から本人と同定できるケースが多いから混乱します。
A: 先行して製作されたアランチャ・エチェバリアの『アンダーカバー』(「La infiltrada / Undercover」)を視聴した人は混乱するかもしれません。あちらは同じフィクションでもドキュメンタリー・ドラマに近く、よりテハダの実像にそっている。当時の治安警備庁は警察庁と同じ内務省に所属していましたが、どちらかというと国防省所属の三軍統合本部(陸海空)に近い仕事をしており、現在では国防省に所属しています。
B: 実際は二つの組織が手柄を競い合って反目していた部分があった。プライドが高いといえば聞こえがいいが、スペイン人の妬み深さは定評がある。先行作品はゴヤ賞作品賞とカロリナ・ジュステが主演女優賞をゲットしたばかり、まだ余韻が残っているからタイミングが悪かったかもしれない。
A: テロリスト・グループ「コマンド・ドノスティ(サンセバスティアン)」というのは、ETAのなかでも最も過激な集団だったということです。バスク自治州ギプスコアの県都サンセバスティアンの責任者であったアリアドナ・ヒル扮する通称アンボトは実在しており、以下チャポテ、イニャキ・デ・レンテリア、ミケル・アンツァなどのテロリストたちも実在の人物です。
B: チャポテ、本名フランシスコ・ハビエル・ガルシア・ガステルは、劇中でも再現されたグレゴリオ・オルドニェスの暗殺者、ミゲル・アンヘル・ブランコやフェルナンド・ムヒカの暗殺などにも関与している。

(アンボトの沈黙にビビるアマイア)
A: 劇中、数本の短編映画を撮り、脚本家、ミュージシャンでもあるフェルナンド・タト扮するチャポテは、サンセバスティアンの旧市街のレストラン「ラ・セパ」で食事中のオルドニェスを殺害したとき、赤いカッパを着用していたが、実際も赤いカッパだったということです。ミゲル・アンヘル・ブランコ議員誘拐の後に起きたスペイン全土で200万人とも250万人とも言われる抗議デモのシーンも、アーカイブ映像とそっくりでした。
B: 死刑廃止のスペインでは、殺害件数が多すぎて刑期はトータルすると三桁と寿命より長い。ギプスコアの幹部アンボトは冷静沈着、美人で風雅なのも実像に近いとか。

(殺害決行日は雨が降っていたので赤いカッパでも怪しまれなかった)
A: アンボトの通称は1994年秋ごろから使用、スペインとフランスを往復して「血なまぐさい」メンバーの一人と言われ、多くの殺害に積極的に関わっています。ETA中央委員会の二人目となる女性執行委員、軍事作戦を担当する4人のメンバーの一人でもあり、部下にも厳しかったそうです。2004年フランスで、1999年からパートナーだった筆名ミケル・アンツァことミケル・アルビス・イリアルテと共に逮捕された。アンツァはETA の創設者の一人ラファエル・アルビスの長男でETA メンバーでしたが作家でもあり、現在は執筆活動をしている。劇中ではアナルツ・スアスアが扮している。
B: 治安部隊が2004年に決行した「サンクチュアリ作戦」でアンボトとアンツァは逮捕されるのですが、映画はもっと前の印象でした。現実に起きた部分とフィクション部分が入れ子になっています。これはドラマであってドキュメンタリーではない。
A: アマイアが結婚を諦めて現場に復帰するのは、1997年夏のミゲル・アンヘル・ブランコ議員の誘拐、続く殺害の後ですからズレを感じました。商業映画ですから観客サービスも必要です。ただ埋め草的なシーン、ウエディングドレスを着せるなどやりすぎ、諸所に挟みこまれた二人の逢瀬も緊張が途切れて、個人的には残念でした。ただ起こらなかった事件のでっち上げはしていない。
B: 実際に起きたグレゴリオ・オルドニェスやブランコ議員の殺害シーンなどいやにリアルな部分がある半面、アマイアとカストロ中佐の密会シーンもかなり無防備でした。ミケル・ロサダ演じるイニャキ・デ・レンテリアも実在の人ですか。
A: 詳細が分からないようですが、グループのイデオロギー指導者ミケル・アンツァに次ぐリーダーと言われ、アルジェリアでゲリラ訓練を受けた。2000年9月フランス南西部のバスクで逮捕されている。
B: アンボトが二重スパイではないかとアマイアの身元確認を依頼したハイメ・チャバリ扮する「チキ/エル・ビエホ」は架空の人物でしょうか。

(ハイメ・チャバリ、2022年頃)
A: フェロス栄誉賞2025の受賞者チャバリ監督がスクリーンに登場しました。自作にも出演する他、ベルランガやアルモドバル作品にも小さな役ですが出演している。本作の「チキ/エル・ビエホ」は、ETA の象徴的な人物で、フランコ総統が死去する直前の1975年9月、21歳の若さで銃殺刑になったフアン・パレデス・チキ(1954)をシンボライズしているように思いました。他にも同定できない登場人物としてイスンツァがいる。1996年1月、ログローニョの刑務官オルテガ・ララを誘拐してギプスコアのモントラゴンに幽閉、翌年夏に彼が救出されるまでの532日間の監視役を務めた人物でした。
B: イライア・エリアス扮するバスク語学校の校長ベゴーニャは実在しませんね。

(エタ組織に入った理由をアマイアに問い詰めるベゴーニャ)
A: アマイアと同じようにベゴーニャに近いモデルはいるそうです。来年のゴヤ賞助演女優賞ノミネートは期待できます。同じくラウル・アレバロのアリエタも架空の人物に思われますが、指導部の一人に同名の人がいるようです。アリエタはバスク語で「石の多い場所」をさし、慎重で猜疑心のかたまりのような人物造形にぴったりです。しかし隙のないアマイアの身辺を探るため彼女のアパートに同居したのに、盗聴器を発見できないなんてあり得ない。
B: 治安警備隊の上層部がエタの動きを探るため彼を同居させるようアマイアに指示していたわけですから、狐と狸の化かし合いです。アレバロは視聴者を不安にさせることに成功していた。誘拐したブランコ議員の処遇を決める指導部の会議でも、殺害に迷わず挙手したリーダーでした。

(アマイアを監視するアリエタ)
A: アマイアの身辺警護のため多くの治安警備隊員が張り込んでいる。時間稼ぎのためエレベーターを故障に見せかけたり、クリス・イグレシアスのアデラも危険な連絡役を受け持っている。
B: エレベーターを修理するふりをしていたのは仲間ですね。エレナ・テハダを守っていた12人の警察官は「十二使徒」と呼ばれていたそうですが、テハダは顔を知らなかったと語っている。怪しまれないようにわざとそうしていた。
A: 劇中でも空軍大尉の身元がバレて、彼女が運転している車中で射殺されたり、アマイア自身が知らずに同僚を撃ってしまったりなど、用心のため互いに知らされていない。
B: アンドレス・ヘルトルディクスが演じたフリオ・カストロ中佐のモデルは、何人かがミックスされている印象です。

(アマイアの情報を受け取るカストロ中佐)
A: 『アンダーカバー』でルイス・トサールが演じたアンヘル・サルセド警部のモデルは、国家警察のフェルナンド・サインツ・メリノ長官だそうです。1990年初頭にはギプスコアのスペイン警察の指揮を任されていた。取り調べには拷問も辞さなかったそうです。長官は『アンダーカバー』の脚本作成に参加しており、中佐の造形には彼が部分的に取り入られているように感じました。ETAに顔が割れているエレナ・テハダは、1999年3月、任務終了後スペイン内をあちこち移動させられ、最終的にアンドラ公国大使館の治安機関に配属され慎重な活動をしている。
B: 塀の中とはいえ未だほとんどが存命、裁判が続行中ですから、映画にするにはどちら側にも不満が残ります。

(先行作品『アンダーカバー』)
A: スペイン内戦ものとは訳が違う。映画の冒頭部分でフランコ将軍の腹心で後継者だったルイス・カレロ・ブランコ首相暗殺のアーカイブ映像が流れました。1973年12月、ETA が得意とした自動車爆破で即死、彼の乗っていた車は20メートル空中に飛びあがり6階建てのビルを飛び越えて隣りのビルの2階屋根部分のパティオというか3階のバルコニーに落ちた。
B: 凄い破壊力です。1979年、この爆破テロ事件は『アルジェの戦い』で金獅子賞を受賞したジッロ・ポンテコルヴォが「Operación Ogro」(「鬼作戦」)として映画化した。
A: フランコ没後4年足らずの映画化で物議を醸したが、これはフランコ政権時代のテロ事件であり、バスク語使用も自治権も復権した90年代のテロとは区別して考えるべきです。かつて長いあいだ自分たちを容赦なく苦しめたスペイン人を懲らしめる目的のテロに民主化も正義の欠片もないでしょう。監督が冒頭に入れた目的は何かです。
B: 後継者を失ったフランコ政権はETA弾圧の強化に拍車をかけ、犠牲者を増やしていった。彼らは自分たちはバスク人でスペイン人ではないと考えている。
A: 『鬼作戦』以外にも、エタラを描いた作品は量産されている。本作にも挿入された2000年2月22日に起きたPSOEのフェルナンド・ブエサ・ブランコ殺害事件をバスクの監督エテリオ・オルテガがドキュメンタリー「Asesinato en febrero」(01、「2月の暗殺」)のタイトルで撮った。製作者のエリアス・ケレヘタもギプスコア県エルナニ出身(1934)です。カンヌ映画祭併催の「批評家週間」でプレミアされ、マラガ映画祭でドキュメンタリー賞を受賞している。
B: ケレヘタは、カルロス・サウラやビクトル・エリセ、モンチョ・アルメンダリス、レオン・デ・アラノアなどを国際舞台に連れ出したスペインを代表する製作者でした。
A: 監督、脚本家でもあった。当ブログでは、その他ルイス・マリアスの「Fuego」(発砲)、ボルハ・コベアガのコメディ仕立ての「Negociador」(交渉人)、アイトル・ガビロンドのTVミニシリーズ「Patria」(祖国)、イシアル・ボリャインの「Maixabel」(マイシャベル)などをアップしています。
B: ボリャイン映画のモデルになったマイシャベル・ラサは、2000年7月に暗殺された政治家フアン・マリア・ハウレギの未亡人です。どうやらディアス・ヤネスの新作がお気に召さなかったようでした。
A: エタ犠牲者の当事者ですから商業映画は受け入れがたいでしょう。真実も正義もどちらの目線に立つかで意見は別れる。すべて真実、すべて虚偽です。冒頭の「これはある捜査員の物語かもしれない」を空々しく思った人がいて当然です。本作は、自分の身元が割れることへの恐怖、自分が誰であるかを忘れることへの恐怖を描いているわけです。ベゴーニャに組織に入った理由を問い詰められて「居場所探し」と応じていたが、ベゴーニャがそんな理由を納得したとは思われない。
B: 当時の女性の居場所は決まっていた。ミーナの「あまい囁き」(「Parole, parole」)が小道具として使用されていたが、劇中で「パロール、パロール」と歌っていたのはミーナでなく、フランス語版のダリダ&アラン・ドロンのデュエットの「Paroles, paroles」でした。歌うのはダリダでドロンは語りです。
A: 「口先だけの甘い言葉では騙されないわよ」と手強いのは、登場人物の誰でしょうか。
★アグスティン・ディアス・ヤネス監督、スサナ・アバイトゥア、アンドレス・ヘルトルディクス、イライア・エリアスのキャリア紹介はアップしています。以下のフォトは本作がSSIFFでプレミアされたときのもです。






* ハイメ・チャバリのキャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2025年02月02日
*「Fuego」の作品紹介は、コチラ⇒2014年03月20日/同年12月11日
*「Negociador」の作品紹介は、コチラ⇒2015年01月11日
*「Patria」の作品紹介は、コチラ⇒2020年08月12日
*「Maixabel」の作品紹介は、コチラ⇒2021年08月05日
アランチャ・エチェバリアの「La infiltrada」*ゴヤ賞2025 ⑥ ― 2025年01月15日 14:41
実話から生まれたフィクション――女性警察官ETAテログループ潜入記

(主人公アランサスに扮したカロリナ・ジュステを配したポスター)
★アランチャ・エチェバリア(ビルバオ1968)と言えば、同性愛が禁じられていたロマ社会の十代のレズビアンの愛をテーマにしたデビュー作『カルメン&ロラ』でしょうか。2018年カンヌ映画祭併催の「監督週間」に出品され、クィア賞とゴールデンカメラにノミネートされた作品。その後、国際映画祭巡りをして数々の受賞歴を誇り、ラテンビートFF2018でも上映された。ゴヤ賞2019新人監督賞を受賞、当時エチェバリアは50歳になっており、新人監督賞としては最年長の受賞者だった。作品紹介などは以下にアップしています。『カルメン&ロラ』以降のフィルモグラフィーは、監督賞にもノミネートされているので別途紹介を予定しています。
*『カルメン&ロラ』の作品、監督キャリア紹介は、コチラ⇒2018年05月13日

(ルイス・トサール、カロリナ・ジュステ、アランチャ・エチェバリア監督)
★デビュー作に唯一人プロの俳優として出演したのが、新作「La infiltrada」(潜入者)の主人公アランサス・ベラドレ・マリンを熱演したカロリナ・ジュステでした。監督のお気に入り女優、『カルメン&ロラ』でゴヤ賞2019助演女優賞を受賞した。新作でも既にフォルケ賞2024主演女優賞を受賞しています。キャリア紹介は後述します。勿論アランサス・ベラドレ・マリンは偽名、スペイン史上で唯一テロ組織ETA(バスク祖国と自由)への潜入を成功させて生還した女性警察官の実話に基づいて製作された。データ・バンクによると、興行成績は約800万ユーロ(830万ドル)を突破した。
「La infiltrada」(英題「Undercover」)
製作:Beta Fiction Spain / Beta Films / Bowfinger International Pictures /
Infitrada LP AIE / Esto también pasará SLU / Atresmedia Cine / Film Factory Entertainment / Movistar Plus + / ICAA 他
監督:アランチャ・エチェバリア
脚本:アメリア・モラ、アランチャ・エチェバリア
(オリジナル・アイディア)マリア・ルイサ・グティエレス
撮影:ハビエル・サルモネス、ダニエル・サルモネス
音楽:フェルナンド・ベラスケス
編集:ビクトリア・ラメルス
録音:マイテ・カブレラ、ファビオ・ウエテ、ホルヘ・カステーリョ・バリェステロス、
ミリアム・リソン
キャスティング:テレサ・モラ
メイク&ヘアー:パトリシア・ロドリゲス、パトリ・デル・モラル、マルビナ・マリアニ
(ヘアー)トノ・ガルソン
プロダクション・マネージメント:アシエル・ペレス
特殊効果:マリアノ・ガルシア、ジョン・セラーノ、フリアナ・ラスンシオン
製作者:メルセデス・ガメロ(BFS)、マリア・ルイサ・グティエレス(Bowfinger)、パブロ・ノゲロレス、アルバロ・アリサ
(太字がゴヤ賞2025ノミネート者)
データ:製作国スペイン、2024年、スペイン語・バスク語、実話、スリラー、118分、撮影地バスク自治州、配給:Film Factory Entertainment、公開バレンシア、セビーリャ2024年9月30日、サラゴサ10月1日、スペイン一般公開10月11日
映画祭・受賞歴:フォルケ賞2024作品賞・価値ある教育賞ノミネート、主演女優賞受賞(カロリナ・ジュステ)、ASECAN賞2024(アランチャ・エチェバリア)、ゴヤ賞2025ノミネート13部門(作品・監督・オリジナル脚本・オリジナル作曲・主演女優・助演女優、助演男優・プロダクション・撮影・編集・メイク&ヘアー・録音・特殊効果賞)、フェロス賞2025(監督・主演女優・予告編賞ハビエル・モラレス)、シネマ・ライターズ・サークル賞9部門(作品・監督・女優・助演女優・助演男優・脚本・撮影・編集・作曲賞)
キャスト:カロリナ・ジュステ(アランサス・ベラドレ・マリン)、ルイス・トサール(アンヘル)、ディエゴ・アニド(セルヒオ)、イニィゴ・ガステシ(ケパ・エチェバリア)、ナウシカ・ボニン(アンドレア)、ペペ・オシオ(ボディ)、ホルヘ・ルエダ(マリオ)、ビクトル・クラビホ(テルエル)、カルロス・トロヤ(ソイド)、アシエル・エルナンデス(ホセバ)、ペドロ・カサブランク(警察担当班長)、他多数
ストーリー:1990年代のバスクを舞台に、新米警察官アランサス・ベラドレ・マリンは或る難しいミッションを果たすため、ETAバスク愛国主義のテロ組織にスパイとして送り込まれる。それは家族や友人との関係を断ち、人生を一時停止にすることに他ならなかった。数多くのテロ攻撃を準備する2人のテロリストと同じアパートに宿泊する必要があった。時には彼らが殺害した同僚警官の死を祝って乾杯しなければならなかった。常にいつ自分の身元が割れるかという恐怖のなかでの二重生活は8年間の長期に及んだ。

(ルイス・トサールとカロリナ・ジュステ、フレームから)

(潜入者との連絡担当官アンヘルを演じたルイス・トサール)
実在したアランサス・ベラドレ・マリンの肖像
★アランサス・ベラドレ・マリンは偽名(本名エレナ・テハダ)、22歳でアビラの警察アカデミーを卒業後、ETA の潜入部隊のメンバーに選ばれる。家族との関係を断ち、エタのメンバーに彼女が彼らの目的に共鳴してグループに入ったと信じ込ませることに成功する。リオハの県都ログローニュの良心的兵役拒否運動に潜入して、エタメンバーとの緊密な関係を築いた。1998年9月16日、ETAは「停戦協定」を結ぶが、これは組織立て直しの時間稼ぎの休戦であった。停戦中にもかかわらず彼らは秘密裏にテロ活動を継続しながら再武装に従事した。グループ内で特権的な立場にあったアランサスは、将来の重要なテロ計画書と協力者の情報を入手した。これにより、政府と治安部隊はETA の最も活動的なグループの一つである「ドノスティ・コマンド」を解体させるに至った。この情報はETAの内部構造理解にも寄与した。エタ組織への潜入に成功した唯一人のスペイン人警察官。アランサスは、現在国家警察に勤務しているが、スペインを去り、海外の大使館で家族と新しい人生を歩んでいる。
「2017年に警察官の友人を通じて知った」と製作者グティエレス
★エチェバリア監督によると「プロデューサーからアランサスの話を聞いたとき、私の心は直ぐに90年代の無意味な対立で罪のない犠牲者が増え続けていたバスクに戻りました。20歳を越したばかりの未だ経験の浅い女性警官が、たった一つのミスが死を意味する殺人者たちの世界に潜入した事実に驚きました。直ぐに監督したいと言いました。私たちの最近の辛い過去を思い出すために、彼女が現在どこにいようとも、感謝を捧げたいと思ったのです」と語った。
★プロデューサーとはBowfinger International Picturesのマリア・ルイサ・グティエレス、「私たちは、観客がこの匿名の女性の物語を知るに値すると信じています。公の援助なしに一般市民のために命を危険にさらして闘わねばならなかった。ある意味で彼女は人生の過去と未来を犠牲にして任務を果たした。ETA のテロリストのグループを解体し、さらには国家安全保障に貢献した。私は匿名で闘わざるを得なかった人々の視点で語られた映画を見たことがありませんでした。何故ならそれはタブーだったからです。今やっと語ることができる時代になったのです」。そして「潜入捜査をしていた8年間、彼女が抱えていた矛盾、恐怖、前進し続ける理由を観客に伝えたい」とグティエレスは付け加えた。

(ビクトル・クラビホ、助演女優賞ノミネートのナウシカ・ボニン)
★BFSの最高経営責任者CEOメルセデス・ガメロ、「この映画は、複雑な女性の多面的な視点から語られる。それは時代の肖像画にもなり、映画館で壮大な物語を楽しみたいと思う多世代の観客の興味を引くでしょう」と述べた。俳優たちが実在した人物に会うことが、如何に価値があるかを強調した。何故なら「それは作品に真実味を与えるからです」と。
★エチェバリア監督によると、「この作戦に関わった人々と接触し、綿密なリサーチ作業をした。ルイス・トサールが演じた潜入者との連絡担当者であるマニピュレーター、作戦に参加した警察官、テロ・グループを脱退したエタの元メンバーを取材した。本物のアランサスにアクセスする機会もあったが、敢えてしなかった」と。チャンスが訪れたときには、脚本が完成していて「私たちのアランサス」が既に出来上がっていたからのようです。実話から生まれた映画でもフィクションということでしょうか。
潜入することに同意したアランサスの「公共の利益」とは?
★エチェバリア監督がこの作品で追求したテーマの一つは、「何故若い警察官がこのような危険な任務に参加することに同意したのか」であった。家族、友人、ボーイフレンド、フィエスタなどと関係を断ち、ライオンの檻に飛び込むことにしたのか。彼女は「公共の利益」のためにそうしたのだが、「今日の私たちが理解するのは難しい」と監督。「医師として地球上の危険な地域を訪れ、他者を助ける国境なき医師団の仕事は理解できても、彼女のケースは難しい・・・」と。また潜入者が若い女性警官でなく男性だったら映画にしたか、という問いには「男性でも同じですが、彼女がスパイだと気づかれなかったのは、おそらく女性だったからだろう」と答えている。
★ビルバオ出身の監督は、「バスク地方の紛争は、私たちスペイン人がつい最近体験したことなのを忘れないでほしい。何が起こったのかを若い世代に伝える必要があります。この映画は対立が理解されるようにするという意図をもっています。アランサスを通してバスク地方の特に紛争の時代を政治的社会的に描きたかった」と製作意図を語っている。未だフランコ独裁政権だった1968年から2010年までの犠牲者は、829人が殺害され、2018年に解散するまで22,000以上が負傷している。
★当ブログでは、テーマをETAのテロに据えた作品として、イシアル・ボリャインの「Maixabel」(2021年08月05日)、アイトル・ガビロンドのTVシリーズ「Patria」8話(2020年08月12日)、ボルハ・コベアガの「Negociador」(2015年01月11日)、ルイス・マリアスの「Fuego」(2014年12月11日)などを紹介しています。
キャスト紹介:カロリナ・オルテガ・ジュステ、1991年エストレマドゥラ州バダホス生れ、映画、TV、舞台女優、マドリードの王立高等演劇学校RESAD(1831年設立)とラ・マナダ演劇研究センターで演技を学ぶ。2014年、TVシリーズ出演でキャリアをスタートさせる。長編映画デビューはアランチャ・エチェバリアの『カルメン&ロラ』(18)出演でゴヤ賞2019助演女優賞を受賞した。エチェバリア監督の信頼が厚く、引き続き「La familia perfecta」(21)、「Chinas」(23)と4作に起用されている。


(アランサスを演じたカロリナ・ジュステ、「La infiltrada」から)
★他にカルロス・ベルムトの『シークレット・ヴォイス』(「Quién te cantará」18)、ダニエル・カルパルソロのアクション・スリラー『ライジング・スカイハイ』(「Hasta el cielo」20)、セクン・デ・ラ・ロサのデビュー作「El cover」(21)出演でベルランガ賞2021助演女優賞を受賞した。マラガ映画祭2021に正式出品され観客賞を受賞したカロル・ロドリゲス・コラスの「Chavalas」、ハイメ・ロサ―レスの「Girasoles silvestres」(22)、ダビ・トゥルエバが実在したカタルーニャのコメディアン、エウジェニオ・ジョフラを描いた「Saben aquell」は、サンセバスチャン映画祭2023で上映、カタルーニャ語を短期間でマスターして撮影に及んで高評価を得た。ゴヤ賞2024主演女優賞にノミネートされるも受賞できなかったが、ガウディ賞とサンジョルディ賞を受賞した。新作「La infiltrada」では上述したフォルケ賞受賞の他、本命視されているゴヤ賞、フェロス賞の主演女優賞にノミネートされている。

(フォルケ賞のトロフィーを手にしたカロリナ・ジュステ、2024年フォルケ賞ガラ)
★太字のタイトル名は作品紹介をしています。ヒット作のTVシリーズ、舞台出演は割愛します。最近短編映画「Ciao Bambina」(24)を監督している。
*「Saben aquell」の紹介記事は、コチラ⇒2023年12月30日
*「Girasoles silvestres」の紹介記事は、コチラ⇒2022年08月01日
*「El Cover」の紹介記事は、コチラ⇒2021年05月18日
*「Hasta el cielo」の紹介記事は、コチラ⇒2020年08月22日
バスク映画特集として5作品上映*東京国際映画祭2023 ― 2023年10月14日 16:22
金貝賞「O Corno / The Rye Horn」が『ライ麦のツノ』の邦題で上映

★今年の東京国際映画祭2023 TIFF では、ワールド・フォーカス部門にラテンビート共催作品5作、バスク映画特集に5作、コンペティション部門の1作を含めると11作品がエントリーされた。うち先だって閉幕したサンセバスチャン映画祭 SSIFF のセクション・オフィシアル(コンペティション)にノミネートされた女性監督の3作(うち1作が金貝賞)、オリソンテス・ラティノス部門やマラガ映画祭の金のビスナガ賞受賞作を含む2作、カンヌ映画祭の短編を含む3作と、長短はあるもの一応作品紹介をオリジナル・タイトルでアップ済みです。未紹介はチリのクリストファー・マレーの『魔術』(「Sorcery / Brujeria」)とベルタ・ガステルメンディ&ロサ・スフィアの『ディープ・ブレス 女性監督たち』の2作です。
◎コンペティション部門
『開拓者たち』(「Los colonos / The Settlers」)
データ:製作国チリ=アルゼンチン=イギリス=ドイツ、ほか計8ヵ国、2023年、スペイン語・英語、歴史ドラマ、97分、カンヌFF「ある視点」に正式出品、長編デビュー作。
監督フェリペ・ガルベス(サンティアゴ1983)は、監督、脚本家、フィルム編集者。
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2023年05月15日



◎ワールド・フォーカス部門ラテンビート共催作品
『犯罪者たち』「Los delincuentes / The Dlinquents」
データ:製作国アルゼンチン=ブラジル=ルクセンブルク=チリ、2023年、スペイン語、コメディ、90分、カンヌ映画祭「ある視点」正式出品。本作は長編4作目になる。
監督ロドリゴ・モレノ(ブエノスアイレス1972)は、監督、脚本家、製作者。
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2023年05月11日


『ひとつの愛』「Un amor」
データ:製作国スペイン、2023年、スペイン語、140分、サラ・メサのベストセラー小説の映画化、豪華キャストの話題作。SSIFFセクション・オフィシアルにノミネート、フェロス・シネマルディア賞を受賞、ホヴィク・ケウチケリアンが助演俳優賞(銀貝賞)を受賞した。
監督イサベル・コイシェ(バルセロナ1960)、監督、脚本家。
*作品紹介は、コチラ⇒2023年10月27日


『Totem』(原題「Tótem」)
データ:製作国メキシコ=デンマーク=フランス、2023年、スペイン語、ドラマ、95分、ベルリンFFコンペティション部門、エキュメニカル審査員賞受賞、SSIFFオリソンテス・ラティノス部門ノミネート、ほか受賞歴多数。
監督リラ・アビレス(メキシコシティ1982)は、監督、脚本家、製作者。
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2023年08月31日


(アビレス監督と、ベルリンFFにて)
『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』(短編「Strange Way of Life」)
データ:製作国スペイン、2023年、英語、30分、ウエスタン、カンヌ映画祭2023アウト・オブ・コンペティション、特別上映。
監督ペドロ・アルモドバル
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2023年05月04日


『魔術』(「Sorcery / Brujeria」)
データ:製作国チリ=メキシコ=ドイツ、ファンタジードラマ、100分
監督クリストファー・マレー(サンティアゴ1985)は、ラテンビートFF2016で『盲目のキリスト』が上映されており、監督キャリア&フィルモグラフィーを紹介している(表記マーレイで紹介)。パブロ・ラライン兄弟の制作会社「Fabula」が手掛けている。別途作品紹介の予定。
*作品紹介は、コチラ⇒2023年10月16日


◎ワールド・フォーカス部門バスク映画特集
『20,000種のハチ』(仮題「20.000 especies de abejas」)
データ:製作国スペイン、2022年、スペイン語・バスク語・フランス語、ドラマ、129分、ベルリン映画祭プレミア(9歳のソフィア・オテロ銀熊賞)、マラガ映画祭金のビスナガ賞、SSIFF セバスティアン賞受賞など受賞歴多数。
監督:エスティバリス・ウレソラ・ソラグレンのデビュー作
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2023年03月03日


(金のビスナガ賞を受賞したエスティバリス・ウレソラ、マラガFFにて)
『女性たちの中で』(「Las buenas compañías」)
データ:製作国スペイン=フランス、2023年、スペイン語、93分。舞台が1970年代のバスク州のサンセバスティアンで実話に基づいています。
監督シルビア・ムント(バルセロナ1957)、女優、監督、脚本家、舞台演出家。ドキュメンタリー、TVムービー、短編、マラガ映画祭監督賞他、受賞歴多数。
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2023年03月08日


(女優の知名度が高いシルビア・ムント監督)
『ライ麦のツノ』(「O Corno / The Rye Horn」)
データ:製作国スペイン=ポルトガル=ベルギー、2023年、ガリシア語、ポルトガル語、103分。
監督ハイオネ・カンボルダ(サンセバスティアン1983)、監督、脚本家、アートディレクター、長編2作目が、SSIFF コンペティション部門にガリシア語映画として初めてノミネートされ、見事金貝賞を受賞したばかりです。
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2023年07月17日


(金貝賞のトフィーを手にしたカンボルダ監督と製作者、SSIFF 2023 授賞式)
『スルタナの夢』(SF アニメーション「El sueño de la sultana / Sultana’s Dream」)
データ:製作国スペイン=ドイツ、85分、SSIFF コンペティション部門ノミネート、バスク映画部門イリサル賞受賞作品。
監督イサベル・エルゲラ(サンセバスティアン1961)、アニメーション作家、長編デビュー作、短編多数。
*監督キャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2023年07月17日


(イリサル賞受賞スピーチをするエルゲラ監督、SSIFF 2023 授賞式)
『ディープ・ブレス 女性映画監督たち』(ドキュメンタリー)
「Arnasa Betean / A pulmón. Mujeres Cineastas / A Deep Breath,Women Filmmakers」
データ:製作国スペイン(バスク自治州)、2023年、バスク語・スペイン語、75分
監督ベルタ・ガステルメンディ&ロサ・スフィア、海中撮影にはルベン・クレスポが手掛けている。
キャスト:エレア・ロペス、ララ・ララニャガ、アイノア・インコグニート(以上3人はダイバー)、主な映画監督に、来日したこともあるアランチャ・エチェバリア(『カルメン&ロラ』)、イサベル・エルゲラ(『スルタナの夢』)、ゴヤ賞2023の新人監督賞のアラウダ・ルイス・デ・アスア(「Cinco lobitos」)、アナ・ムルガレン(「García y García」)、SSIFF2023 のガラの監督の一人ミレイア・ガビロンド、『20,000種のハチ』をプロデュースしたララ・イサギレ、ほか多数。ここ最近のバスクの女性監督たちが出演している。

(バスクの女性監督たち)


、
★今年の話題作、ベネチアFF金獅子賞を受賞したヨルゴス・ランティモスの『哀れなるものたち』、カンヌFFの監督賞、SSIFF でクリナリー映画賞を受賞したトラン・アン・ユンの『ポトフ』など、公開が決定している映画も上映される。10月14日からチケット発売が始まっている。
ノーチェックの冒険ファンタジー「Irati」5部門ノミネート*ゴヤ賞2023 ⑥ ― 2022年12月22日 17:24
バスク語映画「Irati」の5部門ノミネートにびっくり

★パウル・ウルキホ・アリホのアドベンチャー・ファンタジー「Irati」が、脚色・オリジナル作曲・オリジナル歌曲・衣装デザイン・特殊効果賞の5カテゴリーにノミネートされた。シッチェス映画祭2022でプレミアされ、観客賞、特殊効果賞受賞作品、バスク語映画がノミネートされるのは珍しくなくなったが、エンターテインメントのファンタジーがノミネートされたことに驚きを隠せない。キャストはエネコ・サガルドイ(『アルツォの巨人』)、イツィアル・イトーニョやナゴレ・アランブル(『フラワーズ』)、イニィゴ・アランブル、ラモン・アギーレなど、バスクを代表する俳優が出演している。
「Irati」
製作:Bainet Zinema / Ikusgarri Films / Kilima Media / Irati Zinema
協賛ICAA / RTVE / Triodos Bank
監督・脚本:パウル・ウルキホ・アリホ
音楽:アランサス・カジェハ、マイテ・アロイタハウレギ ’Mursego’
撮影:ゴルカ・ゴメス・アンドリュー
編集:エレナ・ルイス
衣装デザイン:ネレア・トリホス
プロダクション・デザイン:ミケル・セラーノ
美術:ゴルカ・アルノソ、イサスクン・ウルキホ、他
特殊効果:ジョン・セラーノ、(ビジュアル効果)ダビ・エラス、他
製作者:イニャキ・ブルチャガ、パウル・ウルキホ・アリホ、フアンホ・ランダ、(エグゼクティブ)ジョネ・ミレン・ゴエナガ、他
*カラーはゴヤ賞にノミネートされた人。
データ:製作国スペイン=フランス、2022年、バスク語、アドベンチャー、ファンタジー、114分、撮影地アラゴン州ウエスカのロアーレ城、アラバ、ギプスコア、ナバラなど、2021年秋クランクイン。ロアーレ城は保存の良いロマネスク様式の城砦で他作品でも使用されている。
映画祭・受賞歴:シッチェス映画祭2022観客賞・特殊効果賞・メイクアップ賞受賞、第33回サンセバスチャン・ファンタスティック・ホラー映画週間観客賞、テネリフェ・イスラ・カラベラFF 観客賞・特殊効果賞など受賞。公開スペイン2023年2月24日
キャスト:エネコ・サガルドイ(エネコ)、エドゥルネ・アスカラテ(イラティ)、イツィアル・イトーニョ(マリ)、ラモン・アギーレ(ビリラ)、イニィゴ・アランブル(エネコ X)、イニィゴ・アランバリ、ナゴレ・アランブル(オネカ)、他多数
ストーリー:舞台は8世紀のバスク地方、スペイン北部でキリスト教が異教の文化に優位にたったとき、ピレネー山脈を越えようとしていたカール大帝軍の攻撃に直面した、ロンセスバジェス谷のリーダーは古代の女神に助けを求めます。命を捧げるという血の契約によって敵を打ち負かしますが、新しい時代には村の住民を守り導くことを息子のエネコに約束させる前でした。数年後、エネコは使命をはたす約束に直面しています。彼はカール大帝の膨大な宝物のかたわらに異教徒の方法で埋葬されている父親の遺体を取り戻します。自身のキリスト教信仰にもかかわらず、この地域の謎めいた異教の女性イラティの助けが必要になってくる。二人の若者は、「名前をもつすべてが存在する」奇妙で荒れ果てた奥深い森の中に入り込んでいく。カール大帝のロンセスバジェスの戦いに着想を得た冒険ファンタジー。

(フレームから)
★パウル・ウルキホ・アリホ監督紹介:1984年ビトリア生れ、監督、脚本家、製作者、フィルム編集者。2011年「Jugando con la muerte」(18分ミステリーコメディ)で短編デビュー、2012年「Monsters Do Not Exist」(10分)、2015年「El bosque negro」(15分)はエルチェ・ファンタスティックFF特別賞、トランシルバニア短編審査員賞、ほか受賞。

(パウル・ウルキホ・アリホ監督)
★2017年、コメディタッチのファンタジー・ホラー「Errementari」(98分、バスク語)で長編デビュー、アレックス・デ・ラ・イグレシアやカロリナ・バングたちが製作を手掛け、脚本はアシエル・ゲリカエチェバリアが監督と共同執筆、音楽はフランス出身だがバスクに根を下ろして活躍しているパスカル・ゲーニュ、撮影監督に新作と同じゴルカ・ゴメス・アンドリューが参画、キャストは鍛冶屋にカンディド・ウランガ、少女にウマ・ブラカグリアを起用、新作主演のエネコ・サガルドイが悪魔、他にラモン・アギーレ、イツィアル・イトーニョなどがクレジットされている。また新作で特殊効果賞にノミネートされているジョン・セラーノとダビ・エラスがゴヤ賞2019でもノミネートされていた。邦題『エレメンタリ 鍛冶屋と悪魔と少女』で2018年 Netflix で配信されている。

(デビュー作「Errementari」のポスター)
★キャスト紹介:エネコ役のエネコ・サガルドイ(ビスカヤ1994)は、アイトル・アレギ&ジョン・ガラーニョの実話「Handia」(17『アルツォの巨人』)でゴヤ賞2018新人男優賞、スペイン俳優組合新人賞、シネマ・ライターズ・サークル賞を受賞、ほかTVシリーズ「Patria」(20)に出演、ボルハ・デ・ラ・ベガの「Mia y Moi」(21)、ウルキホ・アリホの長編2作に主演している。イラティ役のエドゥルネ・アスカラテは、TVシリーズ「Gutuberrak」(2018~19、5話)でデビュー、ダビ・ペレス・サニュドの短編「Vatios」(22、14分)、今回主役イラティに抜擢された。

(エネコ役のエネコ・サガルドイ、フレームから)

(イラティ役のエドゥルネ・アスカラテ、同)
★マリ役のイツィアル・イトーニョは、TVシリーズ『ペーパー・ハウス』でお馴染みですが、オネカ役のナゴレ・アランブルと、ジョン・ガラーニョ&ホセ・マリ・ゴエナガの『フラワーズ』(14)で共演している。イニィゴ・アランブルは、『アルツォの巨人』、ラモン・アギーレは1986年デビューの大ベテラン、出演作は3桁に達する。TVシリーズ『ペーパー・ハウス』、『エレメンタリ~』、『アルツォの巨人』ではサガルドイの父親役を演じている。バスク語話者は少ないせいか同じ俳優の共演が目立つ。
★スタッフ紹介:オリジナル作曲・オリジナル歌曲賞にノミネートされている、アランサス・カジェハ、マイテ・アロイタハウレギは、パブロ・アグエロの「Akelarre」(20)でタッグを組んでゴヤ賞2021のオリジナル作曲賞、イベロアメリカ・プラチナ賞の音楽賞を受賞している。カジェハはアラウダ・ルイス・デ・アスアの「Cinco lobitos」でフェロス賞2023のオリジナル作曲賞にもノミネート、歌手でもあるマイテ・アロイタハウレギは ’Mursego’ のほうで知られており、フェルナンド・フランコの「La consagración de la primavera」(22)も手掛けている。衣装デザイン賞ノミネートのネレア・トリホスは、「Akelarre」で受賞、「Errementari」、アナ・ムルガレンのコメディ「García y García」(21)、フェリックス・ビスカレットの「No mires a los ojos」(22)などを手掛けている。
*『フラワーズ』、『アルツォの巨人』、「Akelarre」、「La consagración de la primavera」、「Cinco lobitos」、「García y García」、TVシリーズ「Patria」は、当ブログで作品紹介をしています。
イシアル・ボリャインの「Maixabel」*サンセバスチャン映画祭2021 ⑧ ― 2021年08月05日 18:35
ボリャインの4回目の金貝賞を狙う映画はETAの犠牲者の実話

(主役のブランカ・ポルティリョとルイス・トサールを配したポスター)
★セクション・オフィシアルの最初のスペイン映画の紹介は、イシアル・ボリャインが今回で4回目となる金貝賞に挑戦する「Maixabel」です。原題はブランカ・ポルティリョ扮する主人公マイシャベル・ラサからとられている。2000年7月29日トロサのバルで、ETAのテロリストによって暗殺された社会主義政治家フアン・マリア・ハウレギの未亡人である。2019年にはジョン・システィアガ&アルフォンソ・コルテス=カバニリャスによってドキュメンタリー「ETA, el final de silencio: Zubiak」も製作され、第67回サンセバスチャン映画祭で上映された。ETAの犠牲者は854人といわれるが、マイシャベルは他の犠牲者家族とどこが違うのか、物語はスリラーとして始り人間の物語として終わります。

(左から、監督、マイシャベル・ラサ、ブランカ・ポルティリョ、2021年2月)
「Maixabel」
製作:Kowalski Films / FeelGood 参画RTVE / EiTB / Movistar+
協賛ICAA / バスク州政府 / ギプスコア州議会 / ギプスコア・フィルムコミッション
監督:イシアル・ボリャイン
脚本:イシアル・ボリャイン、イサ・カンポ
音楽:アルベルト・イグレシアス、EuskadikoOrkestra
撮影:ハビエル・アギーレ
編集:ナチョ・ルイス・カピリャス
美術:ミケル・セラーノ
音響:アラスネ・アメストイ
衣装デザイン:クララ・ビルバオ
メイクアップ:カルメレ・ソレル、セルヒオ・ぺレス
キャスティング:ミレイア・フアレス
プロダクション・マネージメント:イケル・G・ウレスティ、イツィアル・オチョア
製作者:コルド・スアスア(Kowalski Films)、フアン・モレノ、ギジェルモ・センペレ( FeelGood)、(ラインプロデューサー)グアダルペ・バラゲル・トレジェス
データ:製作国スペイン、スペイン語、2021年、115分、実話、撮影地主にバスク自治州ギプスコア県、アラバ、撮影期間2021年2月~3月、配給ブエナビスタ・インターナショナル、販売フィルムファクトリー。公開SSIFFの第1回上映後の9月24に決定。
映画祭・受賞歴:第69回サンセバスチャン映画祭2021セクション・オフィシアルノミネート、9月17日と25日に上映
キャスト:ブランカ・ポルティリョ(マイシャベル・ラサ)、ルイス・トサール(イボン・エチェサレタ)、マリア・セレスエラ(マイシャベルの娘マリア)、ウルコ・オラサバル(ルイス)、ブルノ・セビリャ(ルイチ)、ミケル・ブスタマンテ(パチ・マカサガ)、パウレ・バルセニリャ(友人)、他
ストーリー:夫が暗殺された11年後、マイシャベルは暗殺者の一人、イボン・エチェサレタから奇妙な要求を受け取る。彼はETAのテロリスト集団と関係を絶ち刑に服していた。服役中のアラバ県はナンクラレス・デ・ラ・オカ刑務所内でのインタビューを受けたいという。マイシャベルは多くの疑念と辛い痛みにも拘わらず、16歳のときから仲間になった自分の人生を終わらせたいという人物の面談を受け入れる。夫を殺害した人間と面と向かって会うことの理由を質問された彼女は「誰でも二度目のチャンスに値する」と答えた。「主人公への敬意をこめて、私たちの最近の過去を伝えたい」とイシアル・ボリャイン。

(2000年7月29日に殺害されたフアン・マリア・ハウレギの葬儀)
バスク自治政府テロ犠牲者事務局長だったマイシャベル・ラサの人生哲学
★バスクではなくマドリード生れの監督がETAのテロリズムをテーマに映画を撮り、サンセバスチャン映画祭4度目の金貝賞に挑戦する。第1回目の『テイク・マイ・アイズ』(Te doy mis ojos、03)では、主演のルイス・トサールが銀貝男優賞、ライア・マルルが銀貝女優賞を受賞した。2回目が2007年の「Mataharis」、2018年「Juli」で脚本審査員賞、そして今回作品賞をローラン・カンテやテレンス・デイビスと金貝賞を競うことになる。監督のキャリア&フィルモグラフィーについては2016年の『オリーブの樹は呼んでいる』、2020年の「La boda de Rosa」で紹介しています。
*『オリーブの樹は呼んでいる』の紹介記事は、コチラ⇒2016年07月19日
*「La boda de Rosa」の紹介記事は、コチラ⇒2020年03月21日

(「Juli」ノミネートでインタビューを受けるボリャイン監督、SSIFF 2018)
★上述したように報道ジャーナリストのジョン・システィアガとアルフォンソ・コルテス=カバニリャス監督のドキュメンタリー「ETA, el final de silencio」(7編)が製作され、2019年10月31日から12月12日まで毎週放映された。第1編がこの「Zubiak」で<橋>という意味です。ルポルタージュとして放映されたのでIMDbには登録されていないようだが、マイシャベル・ラサとイボン・エチェサレタの和解を描いている。システィアガはバスク大学でジャーナリズムを専攻、国際関係学の博士号を取得している。ルワンダ、北アイルランド、コロンビア、コソボ、アフガニスタン他、世界各地の紛争地に赴いてルポルタージュを制作している。


(マイシャベルの家で語り合うマイシャベルとエチェサレタ、ドキュメンタリー)
★ブランカ・ポルティリョ(マドリード1963)が、グラシア・ケレヘタの「Siete mesas de billar francés」(07)で銀貝女優賞を受賞して以来、14年ぶりにSSIFF に戻ってきました。翌年のゴヤ賞主演女優賞はノミネートに終り、目下ゴヤ受賞歴はありません。もともと舞台女優として出発、ギリシャ悲劇、シェイクスピア劇、ロルカ劇に出演、演劇の最高賞といわれるMax賞は5回受賞している。最近ではTVシリーズ出演や監督業に専念していた。「マイシャベルになるのは名誉なことです」とツイートしている。

(マイシャベルに扮したポルティリョ、映画から)
★映画は上述以外では、主な代表作としてマルコス・カルネバルの『エルサ&フレド』、ミロス・フォアマンの『宮廷画家ゴヤ』、ペドロ・アルモドバルの『ボルベール』(カンヌ映画祭グループで女優賞)や『抱擁のかけら』、アグスティン・ディアス・ヤネスの『アラトリステ』では異端審問官役で男性に扮した。他にアレックス・デ・ラ・イグレシアの『刺さった男』、2020年にはグラシア・ケレヘタの「Invisibles」にカメオ出演している。多彩な芸歴で紹介しきれないがアウトラインだけでお茶をにごしておきます。

(二人の主役、ポルティリョとトサール、映画から)
★ルイス・トサール(ルゴ1971)は、フェルナンド・レオン・デ・アラノアの『月曜日にひなたぼっこ』で助演男優賞、ボリャインの『テイク・マイ・アイズ』とダニエル・モンソンの『プリズン211』でゴヤ賞主演男優賞と3回受賞している。脇役時代が長かったので出演作は3桁に及ぶ。何回も登場させているので割愛したいが、本作のように実在しているモデルがいる役柄は多くないのではないか。舞台俳優としても活躍、最近Netflixで配信されたTVシリーズ『ミダスの手先』(6話)では主役のメディア会社の社長を演じていた。製作者デビューも果たしている。最近の当ブログ登場は、アリッツ・モレノのブラック・コメディ『列車旅行のすすめ』、パラノイア患者役の怪演ぶりで楽しませた。
*簡単なキャリア&フィルモグラフィー紹介は、コチラ⇒2016年07月03日
*『列車旅行のすすめ』の紹介記事は、コチラ⇒2019年10月14日

(撮影中の監督とルイス・トサール)
★サウンドトラックは、ゴヤ胸像のコレクター、11個を手にしたアルベルト・イグレシアス、オスカー賞にも3回ノミネートされている。キャスト陣では、マイシャベルの娘に新人マリア・セレスエラ、監督、脚本家のウルコ・オラサバルやミケル・ブスタマンテと、バスクを代表するシネアストを俳優として起用している。ブルーノ・セビリャは、エレナ・トラぺ映画やTVシリーズ、ホラー映画『スウィート・ホーム』に出演している。
パトリシア・ロペス・アルナイス主演の「Ane」*ゴヤ賞2021 ⑦ ― 2021年01月27日 20:37
ダビ・ペレス・サニュドの「Ane」はバスク語映画

(英題「Ane is Missing」のポスター)
★ゴヤ賞の作品賞以下5カテゴリーにノミネートされたダビ・ペレス・サニュドの「Ane」は、昨年のサンセバスチャン映画祭2020のバスク映画イリサル賞受賞作品です。主演のパトリシア・ロペス・アルナイスが、第26回フォルケ賞2021の女優賞を受賞したばかりです。さらに2月8日に発表される第8回フェロス賞(ドラマ部門)では、作品賞、脚本賞、女優賞にノミネートされています。パトリシアは脇役やTV 出演が多かったので紹介が遅れていましたが、気になる女優の一人でした。アメナバルの『戦争のさなかで』(19)でウナムノの次女マリア役で既に登場しているほか、Netflix配信では結構目にします。バスク自治州ビトリアの出身ということもあってバスク語ができる。本作でアネの母親リデに抜擢されて初めて主役を演じています。先ずは映画のアウトラインからスタートします。

(ミケル・ロサダ、パトリシア・ロペス・アルナイス、ペレス・サニュド監督)
「Ane」(英題「Ane is Missing」)
製作:Amania Films / EiTB Euskal Irrati Telebista / 協賛バスク自治州政府、ICAA、他
監督:ダビ・ペレス・サニュド(新人監督賞)
脚本:ダビ・ペレス・サニュド、マリナ・パレス(脚本賞)
撮影:ビクトル・ベナビデス
音楽:ホルヘ・グランダ(作曲)
編集:リュイス・ムルア
美術:イサスクン・ウルキホ
キャスティング:チャベ・アチャ
衣装デザイン:エリサベト・ヌニェス
メイクアップ:エステル・ビリャル
プロダクション・マネージメント:ケビン・イグレシアス
製作者:アグスティン・デルガド、ダビ・ペレス・サニュド、(エグゼクティブ)カティシャ・シルバ、他
データ:製作国スペイン、バスク語、2020年、ドラマ、100分、撮影地アラバ県ビトリア他、公開スペイン2020年10月16日
映画祭・受賞歴:サンセバスチャン映画祭2020「ニューディレクターズ」部門ノミネーション、バスク映画イリサル賞・脚本賞受賞、ワルシャワ映画祭コンペティション部門10月9日上映。フォルケ賞2021女優賞受賞(パトリシア・ロペス・アルナイス)、第8回フェロス賞作品・脚本・女優賞ノミネーション、第35回ゴヤ賞は省略。
キャスト:パトリシア・ロペス・アルナイス(リデ)、ジョネ・ラスピウルJone Laspiur(リデの娘アネ)、ミケル・ロサダ(リデの元夫フェルナンド)、フェルナンド・アルビス(校長)、ナゴレ・アランブル(イサベル)、ルイス・カジェホ(エネコ)、アイア・クルセ(レイレ)、アネ・ピカサ(ミレン)、ダビ・ブランカ(ペイオ)他多数
(*ゴチック体がゴヤ賞ノミネート)
ストーリー:2009年ビトリア、リデは高速列車の工事現場のガードマンとして働いている。17歳のときから育てている年頃の娘アネと暮らしている。仕事から帰宅すると二人分の朝食の準備をする。しかしその日はアネの姿がなかった。翌朝になっても帰ってこなかった。リデは平静を保とうとするが、前日にした激しい口論のせいかもしれないと不安を募らせる。別れた夫フェルナンドとアネの居場所を尋ねまわるが、二人は娘の世界を何も知らなかったことに気づくのだった。娘の失踪によって親子関係の希薄さ、無頓着さ、配慮のなさを突きつけられる。折しもETAに所属しているらしい二人の若者の逮捕が報じられる。 (文責:管理人)

(娘を尋ね歩くリデ、映画「Ane」から)
バスクの対立を背景に親子の断絶と和解が語られる
★ダビ・ペレス・サニュド(ビルバオ1987)は、2010年プロデューサーとしてスタート、10本以上の短編を手掛け、その多くが国際短編映画祭で受賞している。2012年制作会社「Amania Films」をパートナーのルイス・エスピナソと設立、メイン・プロデューサーはエスピナソ。ビルバオとマドリードを拠点にしている。本作がバスク語で撮った長編デビュー作となる。バスクの対立とか労働者階級の闘いなどは、背景の一つであって真のテーマではない。あくまでもコミュニケーションがとれていない親子の断絶と開いた傷口の縫合が語られるようです。英題ポスターに見られるように同じ方向に向かっているが、上下に別れた道路を歩いているので出会えない。

(長編デビュー作のポスターを背にした監督)
★2013年短編第2作目となる「Agur」が評価され、その後「Malas vibraciones」(14、共同)、「Artifitial」(15)、「De-mente」(16)と立て続けに発表、サンセバスチャン映画祭に出品されたミステリー・コメディ「Aprieta pero raramente ahoga」(15分、17)が、ヒホン映画祭で最優秀短編映画賞を受賞した。他にも国内外の映画祭の受賞歴の持ち主である。他に2018年「Ane」という短編を撮っている。ここではアネはETAメンバーのようで、長編の下敷きになっているようです。2018年からはTVシリーズも手掛けており、仕事の幅を広げている。今年のゴヤ新人監督賞は激戦区の一つ、ライバルは「Las ninas」のピラール・パロメロ、『メキシカン・プレッツェル』のヌリア・ヒメネスなど受賞歴を誇る粒揃い、侮れない相手です。

(評価された短編「Aprieta pero raramente ahoga」のポスター)

(イリサル賞受賞のペレス・サニュド監督、SSIFF2020授賞式にて)

(ペイオ役のダビ・ブランカ、製作者カティシャ・デ・シルバ、監督)
「リデはチャンスを求めて闘っている戦士で闘士」とパトリシア
★主演女優賞ノミネートのパトリシア・ロペス・アルナイス(ビトリア1981)は、アラバ県の県都ビトリアの小さな村で幼少期を過ごし、後にマドリードにフリオ・メデムの『ファミリー・ツリー血族の秘密』(17)やフェルナンド・ゴンサレス・モリーナの「バスタン渓谷三部作」の第1部『パサジャウンの影』(17)がNetflixで配信されている。後者は第2部、第3部も日本語字幕はないが、スペイン語、英語なら視聴できます。脇役で出番も限られるので日本の観客には馴染みがない。長寿TVシリーズ「La otra mirada」(18~19、全21話)のテレサ役が評価され、オンダス賞2018とACE賞2019の女優賞を受賞している。TVシリーズでは「La peste」にも出演、スペインでは知名度が高い。

(テレサに扮したパトリシア・ロペス・アルナイス、TVシリーズ「La otra mirada」から)
★上述したようにアメナバルの『戦争のさなかで』でスクリーンに登場していますが、映画デビューは、2010年のホセ・マリ・ゴエナガ&ジョン・ガラーニョ共同監督のバスク語映画「80 egunean」(For 80 Days)でした。当時は必ずしも女優を目指していなかったと語っている。ダビ・ベルダゲルが主演男優賞にノミネートされているダビ・イルンダインの「Uno para todos」にも出演、本作と「Ane」でディアス・デ・シネ2021の女優賞を既に受賞している。最近の2年間で人生に革命が起きたと述懐しているように女優としての転機を迎えている。

(フォルケ賞2021最優秀女優賞のトロフィーを抱きしめるパトリシア、2021年1月16日)
★本作が生れ故郷のビトリアでクランクインしたことも幸いした。また「労働者階級に属しているリデは、チャンスを求めて闘っている戦士で闘士である」ともインタビューに応えている。自身と重なる部分があるということでしょうか。ライバルはイシアル・ボリャインの「La boda de Rosa」のカンデラ・ペーニャ、ゴヤの胸像は既に主演1個(06)、助演2個(04、13)をゲットしているが、そろそろ欲しいところです。
*「Uno para todos」の作品紹介は、コチラ⇒2020年04月16日
*「80 egunean」の作品紹介は、コチラ⇒2015年09月09日

(人生に革命が起きたと語るパトリシア、映画の1シーンから)
新人女優賞にノミネートされた個性派女優ホネ・ラスピウル
★新人女優賞ノミネートのジョネ・ラスピウル(Jone Laspiur サンセバスチャン1995)は、バスク大学で美術を専攻したという変り種、マドリードのコンプルテンセ大学やマセオ・ソシアル・アルヘンティノ大学でも学んでいる。子供のときからピアノを学び、合唱団に所属していた。ミュージック・グループNogenを経て、現在はコバンKobanの合唱団員として舞台に立っている。25歳デビューは遅いほうか。


★映画界入りは、パブロ・アグエロの「Akelarre」の音楽を担当していたミュージシャンのMursego(マイテ・アロタハウレギ)の目にとまりスカウトされた。歌えて踊れる若い女性を探していた。サンセバスチャン映画祭2020オフィシャル・セレクションに正式出品された本作は、ゴヤ賞主演女優賞(アマイア・アベラスツリ)を含めて9カテゴリーにノミネートされている。彼女は魔女アケラーレの一人マイデルに抜擢された。
*「Akelarre」の作品紹介は、コチラ⇒2020年08月02日

(「Akelarre」の魔女アケラーレの一人を演じた、映画から)

(サンセバスチャン映画祭2020のフォトコールにて)
★まだ「Akelarre」と「Ane」の他、バスクTVミニシリーズ「Alardea」(4話)に出演しただけだが、ゴヤの話題作2作に出演している旬の個性派女優として地元のメディアに追いかけられている。日本でも話題になったホセ・マリ・ゴエナガ&ジョン・ガラーニョの『フラワーズ』や『アルツォの巨人』のようなバスク語映画を見ることで新しい道が開けているとインタビューに応えている。第62回ビルバオ・ドキュメンタリー&短編映画祭ZINEBI 2020(1959年設立)のバスク作品賞と脚本賞を受賞したエスティバリス・ウレソラの短編「Polvo Somos」が公開されるほか、コロナ禍の影響でどうなるか分からないが、新しいプロジェクトの撮影も2月クランクインの予定。
フェルナンド・アルビスを筆頭にベテラン勢が脇を固めている
★リデの別れた夫フェルナンドを演じたミケル・ロサダ(ビスカヤ県エルムア1978)は、本作と同じようにパトリシア・ロペス・アルナイスと夫婦役を演じた『パサジャウンの影』のフレディ役、バスク語映画の代表作はアルバル・ゴルデフエラ&ハビエル・レボーリョの「Alaba Zintzoa」(「La buena hija」)、アナ・ムルガレンの「Tres mentiras」や、当ブログ紹介の「La higuera de los bastardos」、同じくルイス・マリアスの「Fuego」など。
*「La higuera de los bastardos」の作品紹介は、コチラ⇒2017年12月03日
*「Fuego」の作品紹介は、コチラ⇒2014年12月11日

(インタビューを受けるパトリシアとミケル・ロサダ)

(リデとフェルナンド、映画から)
★校長役のフェルナンド・アルビス(ビトリア1963)は、ダビ・ペレス・サニュド監督の短編「Agur」出演以来、「Aprieta pero raramente ahoga」や短編「Ane」他に出演している。他にたっぷりした体形を活かしたダニエル・サンチェス・アレバロの『デブたち』で、スペイン俳優ユニオン2010助演男優賞を受賞している。イサベル役のナゴレ・アランブルは、『フラワーズ』で匿名の贈り主から花束を受け取る中年女性役を演じた女優、レイレ役のアイア・クルセは短編「Ane」で主役アネを演じている。

(校長役のフェルナンド・アルビス、映画から)

アイトル・ガビロンドの「Patria」*サンセバスチャン映画祭2020 ⑥ ― 2020年08月12日 15:00
特別上映はアイトル・ガビロンドのTVミニシリーズ「Patria」

★セクション・オフィシアル部門で特別上映される「Patria」は、全8話で構成されたTVミニシリーズ作品、アイトル・ガビロンドがフェルナンド・アランブラの同名小説を脚色した。監督はオスカル・ペドラサとフェリックス・ビスカレトが4話ずつ手掛けている。新型コロナウイリスが猛威を振るう以前の2019年夏から撮影に入り、HBO(Home Box Office 米国の有料ケーブルテレビ放送局)を介して2020年5月17日から放映されているようですが、今回スクリーンに登場することになった。1発の銃弾によって分断されたバスクの2つの家族の目を通して、ETAのテロリスト・グループの30年間にわたる歴史が語られる。

(原作者フェルナンド・アランブラと原作)
「Patria」スペイン、2020、TVミニシリーズ(全8話)
製作:HBO España / Alea Media / Mediaset España
監督:アイトル・ガビロンド(立案)、オスカル・ペドラサ、フェリックス・ビスカレト
脚本:アイトル・ガビロンド、(原作)フェルナンド・アランブラ
撮影:アルバロ・グティエレス、ディエゴ・ドゥセエル
音楽:フェルナンド・ベラスケス
編集:アルベルト・デル・カンポ、ビクトリア・ラメルス
製作者:パトリシア・ニエト、ダビ・オカーニャ、テデイ・ビリャルバ、アイトル・ガビロンド
キャスト:エレナ・イルレタ(ビトリ)、アネ・ガバライン(ミレン)、ロレト・マウレオン(ミレンの娘アランチャ)、スサナ・アバイトゥア(ネレア)、ミケル・ラスクライン(ミレンの夫ジョシィアン)、ホセ・ラモン・ソロイス(ビトリの夫チャト)、エネコ・サガルドイ(ミレンの息子ゴルカ)、ジョン・オリバレス(ミレンの息子ホセ・マリ)、イニィゴ・アランバリ(シャビエル)、他多数
ストーリー:2011年、ETAの戦闘中止のニュースが流れた日、ビトリは夫チャトの墓に報告に行った。テロリストに殺害された夫と人生を共にした生れ故郷へ戻ろうと決心する。しかしビトリの帰郷は町の見せかけの静穏をかき乱すことになる。特に親友だった隣人のミレンには複雑な思いがあった。ミレンはビトリの夫を殺害した廉で収監されているホセ・マリの母親だったからだ。二人の女性の間に何があったのか、何が彼女たちの子供や夫たちの人生を損なったのか。一発の銃弾で分断された二つの家族に横たわるクレーター、忘却の不可能性、許しの必要性を私たちに問いかける。
★アイトル・ガビロンド(サンセバスティアン1972)は、脚本家、TV製作者、オーディオビジュアル・フィクションの企画立案者としてスペインでは抜きんでた存在である。特に本邦でもNetflixで配信されているTVシリーズ『麻薬王の後継者』(18「Vivir sin permiso」)は、その代表的な成功作。アルツハイマーになった麻薬王ネモ・バンデイラにホセ・コロナド、彼の右腕に演技派のルイス・サエラ、人気上昇中のアレックス・ゴンサレス、レオノル・ワトリングなどを配した大掛りなシリーズ。「原作を読みはじめたときは霧雨を浴びたようだったが、だんだん雨脚が強くなり最後にはずぶ濡れになった」と、その原作の魅力を形容している。「暴力と共に生きていた時代があったことを、次の世代に橋渡し、未来に向けての一つの旅」とも語っている。

(二人の主役に挟まれて、両手に花のアイトル・ガビロンド)
★フェリックス・ビスカレト(パンプローナ1975)は、監督、脚本家、製作者。スペイン映画祭2019(インスティトゥト・セルバンテス東京主催)で上映された『サウラ家の人々』(17「Saura(s)」)を監督している。監督キャリアは以下に紹介しています。
*『サウラ家の人々』の作品&監督紹介は、コチラ⇒2017年11月11日
★キャストは、姉妹のように仲良しだったという主役の一人ビトリ役のエレナ・イルレタ(サンセバスティアン1955)は、イシアル・ボリャインの『花嫁のきた村』や『テイク・マイ・アイズ』ほかに出演している。もう一人の主役ミレン役のアネ・ガバライン(サンセバスティアン1963)は、ジョン・ガラーニョ&ホセ・マリ・ゴエナガの『フラワーズ』、古くはアレックス・デ・ラ・イグレシアの『13みんなのしあわせ』や『マカロニ・ウエスタン800発の銃弾』、当ブログでご紹介した本作と同じバスクを舞台にしたアナ・ムルガレンの「La higuera de los bastardos」などに出演しているベテラン。
*「La higuera de los bastardos」の作品紹介は、コチラ⇒2017年12月03日

(ビトリ役エレナ・イルレタとミレン役のアネ・ガバライン)
★ミレンの息子ゴルカ役のエネコ・サガルドイは、ジョン・ガラーニョ&アイトル・アレギの『アルツォの巨人』(17「Handia」)で巨人役になった俳優。ビトリの夫チャトに扮したホセ・ラモン・ソロイス、ミレンの夫ジョシィアンのミケル・ラスクラインの二人は、『フラワーズ』に揃って出演している。バスク語話者は限られているから、結局同じ俳優が出演することになっている。

(サンセバスティアンに勢揃いしたスタッフと出演者たち、中央がアイトル・ガビロンド)
スペイン内戦をバスクを舞台にコメディで*「La higuera de los bastardos」 ― 2017年12月03日 16:28
アナ・ムルガレンの「La higuera de los bastardos」―小説の映画化

★今年のサンセバスチャン映画祭で上映された(9月28日)ボルハ・コベアガの「Fe de etarra」は、カンヌで話題になった『オクジャ』と同じネットフリックスのオリジナル作品だったから、さっそく『となりのテロリスト』の邦題で配信されました。エタETA(バスク祖国と自由)の4人のコマンドが、ワールドカップ2010を時代背景にマドリードで繰り広げる悲喜劇。脚本にディエゴ・サン・ホセと、大当たり「オチョ・アペリード」シリーズ・コンビが、今度は人気のハビエル・カマラを主役に迎えて放つ辛口コメディ。いずれアップしたい。
★今回アップするアナ・ムルガレンの「La higuera de los bastardos」は、スペイン内戦後のビスカヤ県ゲチョGetxoが舞台、時代は大分前になるがスペイン人にとって、特にバスクの人にとっては、そんなに遠い昔のことではない。本作はラミロ・ピニーリャ(ビルバオ1923~ゲチョ2014)の小説 “La higuera”(2006)の映画化。ピニーリャはビスカヤについての歴史に残る作品を書き続けたシンボリックな作家、1960年に “Las ciegas hormigas” でナダル賞、2006年、バスクのような豊かだが複雑な世界についての叙事詩的な「バスク三部作」ほか、彼の全作品に対して文学国民賞が贈られている。ヘンリー・デイヴィッド・ソローの回想録『ウォールデン 森の生活』(1854刊)から採った自宅「ウォールデンの家」で執筆しながら人生のほとんどを過ごした。

(ディケンズの『デイヴィッド・コパフィールド』を手にしたピニーリャ)
★「健康だし未だ頭もはっきりしている。実際のところ私の精神年齢は20歳なんですよ。死は怖くはありませんが、ただ残念に思うだけです。まだそこへ行きたいとは考えていません、何もないのでしょうね。健康が続くかぎり生きていかねばなりません」とインタビューに応えるラミロ・ピニーリャ。若いころは生活のために船員、ガス会社勤務など多くの職業を転々、小説家デビューは1960年と比較的遅かった。以降半世紀以上バスクの物語を書き続けた。インタビューの約1ヵ月後、10月23日老衰のため死去、享年91歳でした。

(「ウォールデンの家」でインタビューに応じるラミロ・ピニーリャ、2014年9月14日)
「La higuera de los bastardos」(The Bastards Fig Tree)2017
製作:The Fig Tree AIE / Blogmedia 協賛Ana Murugarren PC
監督・脚本・編集:アナ・ムルガレン
原作:ラミロ・ピニーリャ “La higuera”
撮影:Josu Inchaustegui(ヨス・インチャウステギ?)
録音:セルヒオ・ロペス=エラニャ
音楽:アドリアン・ガルシア・デ・ロス・オホス、アイツォル・サラチャガ
製作者:ホアキン・トリンカダ(Joaquin Trincada)
データ:製作国スペイン、スペイン語、2017、コメディ・スリラー、103分、2016年夏ビスカヤ県ゲチョで撮影。11月開催のオランダのフリシンゲン市「Film By The Sea」2017に正式出品、スペイン公開11月24日
キャスト:カラ・エレハルデ(ロヘリオ)、エルモ(カルロス・アレセス)、ペパ・アニオルテ(村長の妻シプリアナ)、ジョルディ・サンチェス(村長ベニート)、ミケル・ロサダ(ペドロ・アルベルト)、アンドレス・エレーラ(ルイス)、ラモン・バレア(ドン・エウロヒオ)、イレニア・バグリエット(Ylenia Bagliettoロレト)、マルコス・バルガニョン・サンタマリア(ガビノ)、キケ・ガゴ(ガビノ父シモン・ガルシア)、エンリケタ・ベガ(ガビノ母)、アレン・ロペス(ガビノ兄アントニオ)、アスセナ・トリンカド(ガビノ姉妹)、イツィアル・アイスプル(隣人)他
プロット・解説:市民戦争が終わった。ファランヘ党のロヘリオは、毎晩のこと仲間と連れ立ってアカ狩りに出かけていた。なかにはアカと疑われる人物も含まれていた。ある日のこと、一人のマエストロとその長男を殺害した。下の息子が憎しみを込めた目でロヘリオを睨んでいた。その視線が彼の人生をひっくり返してしまう。少年は父と兄を埋葬し、その墳墓にはイチジクの小さな苗を植えることだろう。やがて大人になれば復讐するにちがいない。ロヘリオは己れを救済するために似非隠者になり、毎朝毎晩イチジクがすくすくと成長するように世話しようと決心する。新しい村長の妻シプリアナは、ロヘリオ似非隠者の名声を利用して、この地を聖地の一大センターに変えようと画策する。そんな折りも折り、家族を捨ててきた告げ口屋の強欲なエルモが現れる。イチジクの木の下に宝物を隠しているにちがいないと確信して、ロヘリオから離れようとしなくなる。10歳の少年ガビノの視点とロヘリオを交錯させながら物語は進んでいく。

(マルコス・バルガニョン・サンタマリアが扮するガビノの視線)

(父親のキケ・ガゴと兄のアレン・ロペス)
(父親と兄を埋葬するガビノ)
寓意を含んだ贖罪の物語、紋切型の市民戦争を避ける
★アナ・ムルガレンの長編第2作。作品数こそ少ないがキャリは長い。2006年刊行の原作を読んだとき、二つの映画のシーンが思い浮かんだという。「一つはブニュエルの『砂漠のシモン』の中で柱に昇ったままのシモン、もう一つがフェリーニの『アマルコルド』の中で大木に登ったままの狂気の伯父さんのシーンでした。その黒さのなかに思いつかないようなアスコナ流のユーモアのセンスに出会って驚いた」と。「本作で製作を手掛けたトリンカドと私は作家と知り合いになった。ピニーリャ自身が映画化するならと薦めてくれたのが本作でした。多分、この小説は突飛でシニカルなユーモアが共存しているからだと思います。コメディとドラマがミックスされている非常にスペイン的な何かがあるのです」とも。
★ステレオタイプ的な市民戦争ではなく、コメディで撮りたかったという監督。コメディを得意とするカラ・エレハルデ、カルロス・アレセス、ペパ・アニオルテを主軸に、常連のミケル・ロサダ、アスセナ・トリンカド、バスク映画に欠かせないラモン・バレアを起用した。資料に忠実すぎて動きが取れなくならないように、演技にはあまり制約をつけなかったようです。

(ファランヘ党員のロヘリオ、カラ・エレハルデ)

★「スペインは対立を克服できなかったヨーロッパで唯一の国、それを現在まで引きずっている。そのため今もってイチジクの木の下で眠っている人は浮かばれない」と語るエレハルデ。「カラ・エレハルデのような優れた俳優に演じてもらえた。ロヘリオの人間性に共感してもらえると思います。このファランヘ党員は隠者になったことを悔やんでいない。はじめは恐怖から始まったことだが、次第にイチジクの木を育てることに寛ぎを感じ始めてくる」と監督。当然「粗野なメタファー満載だ」との声もあり、評価は分かれると予想しますが、コメディで描く内戦の悲痛は、深く心に残るのではないか。

(ポスターを背に、ロヘリオ役のカラ・エレハルデ)
*監督キャリア・フィルモグラフィ*
★アナ・ムルガレンAna Murugarren:1961年ナバラのマルシーリャ生れ、監督、編集者、脚本家。バスク大学の情報科学部卒。1980~90年代に始まったバスクのヌーベルバーグのメンバーとしてビルバオで編集者としてキャリアを出発させる。メンバーには本作で製作を手掛けたホアキン・トリンカド、ルイス・マリアス、『悪人に平穏なし』のエンリケ・ウルビス、『ブランカニエベス』のパブロ・ベルヘル、日本ではお馴染みになったアレックス・デ・ラ・イグレシアなどがいる。
2005年「Esta no es la vida privada de Javier Krahe」ドキュメンタリー、監督・編集
(ヨアキン・トリンカドとの共同監)
2011年「El precio de la libertad」監督・編集(TVミニシリーズ2話)
2012年「La dama guerrera」監督・編集(TV映画)
2014年「Tres mentiras」監督・編集、長編映画デビュー作
2017年 本作割愛
*他にエンリケ・ウルビス、パブロ・ベルヘル、ヨアキン・トリンカドの編集を手掛けている。

(アナ・ムルガレンとホアキン・トリンカド、2016年7月)
★受賞歴:「Tres mentiras」がフィリピンのワールド・フィルム・フェス2015で「グランド・フェスティバル賞」を受賞、他に主役のノラ・ナバスが女優賞を受賞した。他にサラゴサ映画祭2015作品賞、サモラ県のトゥデラ映画祭2014第1回監督賞他を受賞している。エンリケ・ウルビスの「Todo por la pasta」でシネマ・ライターズ・サークル賞1991の最優秀編集賞を受賞している。

(本作撮影中のアナ・ムルガレン監督)
バスク語映画 "Handia"*サンセバスチャン映画祭2017 ⑥ ― 2017年09月06日 15:16
オフィシャル・セレクション第3弾『フラワーズ』の監督が再びやってくる
★世界の映画祭を駆け巡った『フラワーズ』(“Loreak” 14)の監督ジョン・ガラーニョと、その脚本を手掛けたアイトル・アレギが、19世紀ギプスコアに実在したスペイン一背の高い男ミケル・ホアキン・エレイセギ・アルテアガ(1818~61)にインスパイアーされて “Handia” を撮りました。本名よりもGigante de Altzo「アルツォの巨人」という綽名で知られている人物です。前作でジョン・ガラーニョと共同監督したホセ・マリ・ゴエナガは、脚本&エグゼクティブ・プロデューサーとして参画しています。バスク自治州のサンセバスチャンで開催される映画祭ですが、オフィシャル・セレクションに初めてノミネートされたバスク語映画が『フラワーズ』だった。

(ワーキング・タイトルのポスター)
“Handia”(ワーキング・タイトル“Aundiya”、英題 ”Giant”) 2017
製作:Irusoin / Kowaiski Films / Moriarti Produkzioak / 他
監督:アイトル・アレギ、ジョン・ガラーニョ
脚本:アイトル・アレギ、ジョン・ガラーニョ、ホセ・マリ・ゴエナガ、アンド二・デ・カルロス
音楽:パスカル・ゲーニュ
撮影:ハビエル・アギーレ
編集:ラウル・ロペス、Laurent Dufreche
キャスティング:ロイナス・ハウレギ
プロダクション・デザイン:ミケル・セラーノ
メイクアップ&ヘアー:オルガ・クルス、Ainhoa Eskisabel、アンヘラ・モレノ、他
衣装デザイン:サイオア・ララ
プロダクション・マネージメント:アンデル・システィアガ
製作者:ハビエル・ベルソサ、イニャキ・ゴメス、イニィゴ・オベソ、(エグゼクティブ)ホセ・マリ・ゴエナガ、フェルナンド・ラロンド、コルド・スアスア
データ:スペイン、バスク語(スペイン語を含む)、2017年、歴史ドラマ、製作資金約200万ユーロ、サンセバスチャン映画祭2017正式出品、スペイン公開10月20日予定
キャスト:エネコ・サガルドイ(ミゲル・ホアキン・エレイセギ)、ホセバ・ウサビアガ(兄マルティン・エレイセギ)、ラモン・アギーレ(父アントニオ・エレイセギ)、イニィゴ・アランブラ(興行主アルサドゥン)、アイア・クルセ(マリア)、イニィゴ・アスピタルテ(フェルナンド)、ほか
プロット:マルティンは、第一次カルリスタ戦争からギプスコアの集落で暮らす家族のもとに戻ってきた。そこで彼が目にしたものは、出征前には普通だった弟ホアキンの身長が見上げるばかりになっていたことだった。やがて人々がお金を払ってでも、地球上で最も背の高い男を見たがっていることに気づいた二人の兄弟は、野心とお金と名声を求めて、スペインのみならずヨーロッパじゅうを駆けめぐる旅に出立する。家族の運命は永遠に変わってしまうだろう。19世紀に実在した「アルツォの巨人」ことミケル・ホアキン・エレイセギの人生にインスパイアーされて製作された。

スペイン海軍の将軍に扮した巨人ミゲル・ホアキン・エレイセギ
★実際のミゲル・ホアキン・エレイセギ・アルテアガ(バスク語ではMikel Jokin Eleizegi Arteaga)は、1818年12月23日、ギプスコア県のアルツォ村で9人兄弟姉妹の4番目の男の子として生まれた。母親は彼が10歳のころに亡くなっている。20歳で先端巨人症を発症して死ぬまで身長が伸びつづけたということです。記録によると身長が227センチ、両手を広げると242センチ、靴のサイズは36センチだったという(身長には異説がある)。当時のヨーロッパでは最も背が高く「スペインの巨人」として、イサベル2世時代のスペイン、ルイ・フィリップ王時代のフランス、ビクトリア女王時代のイギリスなどを興行して回った。たいていトルコ風の服装、あるいはスペイン海軍の将軍の衣装を身に着けて舞台に立った。1961年11月20日、肺結核のため43歳で死亡、遺体は生れ故郷アルツォAltzoに埋葬されたが、コレクターの手で盗まれてしまっている。映画は史実に基づいているようですが、やはりフィクションでしょうか。

(スペイン海軍の将軍の衣装を着たミゲル・ホアキン)
◎キャスト
★兄弟を演じるエネコ・サガルドイ(1994)もホセバ・ウサビアガも初めての登場、二人ともバスク語TVシリーズ “Goenkale” に出演している。2000年から始まったコメディ長寿ドラマのようで、エネコ・サガルドイは本作で2012年にデビュー、翌年までに57話に出演している。身長が高いことは高いが227センチのミゲル・ホアキンをどうやって演じたのか興味が湧きます。二人ともバスク語の他、スペイン語、英語の映画に出演している。

(ミゲル・ホアキン・エレイセギ役のエネコ・サガルドイ、映画から)

(左端が兄マルティン役のホセバ・ウサビアガ、映画から)

★第一次カルリスタ戦争は1933年に勃発、1939年に一応終息しました。兄マルティンが復員してから物語は始まるから、時代背景は1940年代となります。イニィゴ・アランブラ扮するアルサドゥンは、実在したホセ・アントニオ・アルサドゥンというナバラ在住の男で、ホアキンを見世物にして金儲けしようと父親に掛け合った。なかなか目端の利いた男だったようです。父親役のラモン・アギーレ(1949生れ)は、フェルナンド・フランコがゴヤ賞2014新人監督賞を受賞した “La herida”(13)、公開されたアルモドバルの『ジュリエッタ』、イニャキ・ドロンソロの『クリミナル・プラン~』、ミヒャエル・ハネケの『愛、アムール』(2012パルム・ドール)などに出演しているベテラン。フェルナンド・フランコの新作 “Morir” が、今年の特別プロジェクションにエントリーされているので、時間的余裕があればアップしたい。

(映画の宣伝をするアルサドゥン役のアランブラ、ネパールのプーンヒル標高3310mにて)
◎スタッフ
★製作者は、ラテンビート、東京国際映画祭で上映された『フラワーズ』や ”80 egunean”(”For 80 Days”)に参画したスタッフで構成されており、唯一人エグゼクティブ・プロデューサーのコルド・スアスアが初参加、過去にはフェルナンド・フランコの “La herida”、マルティネス=ラサロのヒット作 “Ocho apellidos vascos”(14)、アメナバルの “Regresión”(15、未公開)などを手掛けている。プロダクション・マネージメントのアンデル・システィアガも初参加、過去にはアレックス・デ・ラ・イグレシア映画『13 みんなのしあわせ』『マカロニ・ウエスタン800発の銃弾』他を手掛けている。音楽はフランス出身、1990年からサンセバスチャンに在住しているパスカル・ゲーニュと同じです。監督キャリア&スタッフ紹介は『フラワーズ』にワープしてください。

(『フラワーズ』のポスター)
★前作の脚本を担当、本作で監督にまわったアイトル・アレギAitor Arregi は、ジョン・ガラーニョとの共同でドキュメンタリー ”Sahara Marathon”(04、55分)を撮っている。他にイニィゴ・ベラサテギとアドベンチャー・アニメーション ”Glup, una aventura sin desperdicio”(04、70分)、“Cristobal Molón”(06、70分)を共同で監督している。また本作では脚本と製作を担ったホセ・マリ・ゴエナガとドキュメンタリー “Lucio”(07、93分)を撮り、グアダラハラ映画祭のドキュメンタリー部門で作品賞を受賞している。

(ジョン・ガラーニョとアイトル・アレギ)

サバルテギ部門ノミネーション*サンセバスチャン映画祭2016 ⑤ ― 2016年08月19日 11:51
長編1作、短編2作と今年は少なめです
★サバルテギZabaltegiは、バスク語で「自由」という意味、というわけで国、言語、ジャンル、長編短編を問わず自由に約30作品ほどが選ばれ、本映画祭がワールド・プレミアでない作品も対象のセクションです。今回スペインからは、バスク出身のコルド・アルマンドスの長編“Sipo phantasma”と短編2作がアナウンスされました。過去にはラテンビートなど映画祭で上映された、パブロ・トラペロ『カランチョ』、ホセ・ルイス・ゲリン『ゲスト』、パブロ・ラライン『No』、ブラジルのカオ・アンブルゲール『シングー』、昨年の話題作は、ロルカの戯曲『血の婚礼』を下敷きにしたパウラ・オルティスの“La novia”などが挙げられます。

*サバルテギ部門*
★“Sipo phantasma”(“Barco fantasma”、“Ghost Ship”)コルド・アルマンドス 2016
観客は約1時間の船旅を体験する。船にまつわる物語、映画、難破船、ゴースト、愛、吸血鬼に出会いながらクルージングを楽しもう。1990年代の終わり頃からユニークな短編を発信し続けているバルクの監督、今回長編デビューを果たしました。しかし一味違った長編のようです。

*コルド・アルマンドスKoldo Almandozhaは、1973年サンセバスチャン生れ、監督、脚本、製作、カメラ、編集と多才、ジャーナリスト出身。ナバラ大学でジャーナリズムを専攻、後ニューヨーク大学で映画を学ぶ。1997年短編“Razielen itzulera”(8分)でデビュー、ドキュメンタリーを含む短編(7分から10分)を撮り続けていたが、今回初めて長編を撮る。言語はスペイン語もあるにはあるが(例“Deus et machina”)、殆どバスク語である。カラー、モノクロ、アニメーション、音楽グループとのコラボと多彩です。なかで“Belarra”(03、10分)が新人の登竜門といわれるロッテルダム映画祭 2003で上映され話題となり、初長編となる本作も同映画祭2016で既にワールド・プレミアされている(2月3日)。シンポジウムで来日した折に撮った、京都が舞台の日西合作“Midori 緑”(06、8分、実写&アニメ)はドキュメンタリー仕立ての短編、タイトルのミドリは修学旅行に来たらしい女学生の名前。短編なので大体YouTubeで楽しむことができ、やはり“Belarra”(草という意味)は素晴らしい作品。

(コルダ・アルマンドス監督、サンセバスチャンにて)
★“Caminan”(“On the Path”)ミケル・ルエダ 短編 2015
*なにもない1本の道路、1台の車、1台の自転車、自分探しをしている独身の男と女が出会う。女役を演じるのは人気女優マリベル・ベルドゥです。バスク出身の8人の監督が参加したオムニバス映画“Bilbao-Bizkaía Ext: Día”の一編。他にはバスク映画の大御所イマノル・ウリベ(『時間切れの愛』)を筆頭に、エンリケ・ウルビス(『悪人に平穏なし』)、ペドロ・オレア、ハビエル・レボージョなどベテランから若手までのオール・バスク監督。

*ミケル・ルエダMikel Rueda は、1980年ビルバオ生れ、監督、脚本家、製作者。2010年長編デビュー作“Izarren argia”(“Estrellas que alcanzar”バスク語)がサンセバスチャン映画祭の「ニューディレクターズ」部門で上映、その後公開された。第2作“A escondidas”(14、バスク語)は、マラガ映画祭2015に正式出品、その後米国、イギリス、フランス、ドイツなど15カ国で上映された。短編“Agua!”(12、16分)もサンセバスチャン映画祭で上映、過干渉の父親、おろおろする母親、フラストレーションを溜め込んだ2人の高校生の日常が語られる。これはYouTubeで見ることができる。目下、長編第3作目を準備中。

(ミケル・ルエダ監督)
★“Gure Hormex / Our Walls”(“Nuestras paredes”)短編 2016 17分
マリア・エロルサ&マイデル・フェルナンデス・イリアルテ
*主婦たちの住む地区、不眠症患者の地区、無名の母親のキオスク、身寄りのない女性たちのアンダーグラウンド、「私たちの壁」は私たちが愛する人々に感謝のしるしを捧げるドキュメンタリー。二人の若いバスクの監督が人生の先達者に賛辞をおくる。

*マリア・エロルサMaría Elorzaは、1988年ビトリア生れ、監督。バルセロナのポンペウ・ファブラ大学でオーディオビジュアル情報学を専攻、その後バスク大学でアート創作科修士課程で学ぶ。2011年からフリーランサーの仕事と並行してドキュメンタリー製作のプロジェクトに参加する。2009年“Hamasei Lehoi”で短編デビュー、2012年ギプスコアの新人アーティストのコンクールに“Antología poética de conversaciones cotidianas”応募する。2014年“Errautsak”(ドキュメンタリー・グループ製作)、マイデル・フェルナンデス・イリアルテと共同監督した“Agosto sin tí”(15)、“El canto de los lujuriosos”(同)、他短編多数。
*マイデル・フェルナンデス・イリアルテMaider Fernandez Iriarteは、1988年サンセバスチャン生れ、監督。祖母についてのドキュメンタリー“Autorretrato”を撮る。タイトル「自画像」は、「祖母は私である」というメッセージが込められている。“Agosto sin tí”がセビーリャのヨーロッパ映画祭2015、ウエスカ映画祭2016などで上映された。“Historia de dos paisajes”がセビーリャ・レジスタンス映画祭2016で上映された後、バスク自治州やフランス側のバスク語地区を巡回している。フランス、ドイツなどヨーロッパ各地は勿論、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、クロアチア、ドミニカ共和国、モザンビークなどへ取材旅行をしている行動派。

(左がマリア・エロルサ、右がマイデル・フェルナンデス・イリアルテ)
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