『列車旅行のすすめ』*ラテンビート2019 ③ ― 2019年10月14日 16:49
アリッツ・モレノのデビュー作『列車旅行のすすめ』はサイコ・スリラー
★今年のラテンビートLBFFは東京国際映画祭TIFF(10月28日~11月5日)との共催上映が3作あるようです。TIFFワールド・フォーカス部門に、アレハンドロ・アメナバルの『戦争のさなかで』とオリヴァー・ラクセの『ファイアー・ウィル・カム』の2作、コンペティション部門にはアリッツ・モレノのデビュー作『列車旅行のすすめ』が入っています(LBFFでは共催作品としていないが、とにかく両方で上映される)。TIFFでは他にハイロ・ブスタマンテの『ラ・ヨローナ伝説』(サンセバスチャン映画祭「ホライズンズ・ラティノ」のコンペ外作品)もエントリーされている。LBFFはまだ全作が発表になっておらず途中経過です。
★さて、『列車旅行のすすめ』はジャンル分けが不可能な映画、一応サイコ・スリラーとしましたが、ブラックコメディでもあり、ホラーの要素もあり、一風変わったラブロマンスも絡まって、まるでロシアの民芸品マトリョーシカ人形のように入れ子になっています。アントニオ・オレフド・ウトリジャOrejudo Utrilla(マドリード1963)のベストセラー小説 ”Ventajas de viajar en tren”(2000年刊)の映画化、アンダルシア小説賞を受賞、ハードカバーの他、ソフトカバー、Kindleキンドルでも読めます。160ページほどの中編、翻訳書は出てないようです。映画は閉幕したばかりのシッチェス(・カタルーニャ)映画祭2019でプレミアされました(10月5日)。
(作家、文芸評論家、大学教授のアントニオ・オレフド・ウトリジャ)
(”Ventajas de viajar en tren” 2015年刊のソフトカバー)
『列車旅行のすすめ』「Ventajas de viajar en tren」
製作:Morena Films / Logical Pictures / Consejería de Cultura Gobierno Vasco /
Movister+/ EITB 他
監督:アリッツ・モレノ
脚本:ハビエル・グジョンGullón (原作)アントニオ・オレフド・ウトリジャ
撮影:ハビエル・アギーレ・エラウソ
音楽:クリストバル・タピア・デ・ベール
編集:ラウル・ロペス
プロダクション・デザイン:ミケル・セラーノ
衣装デザイン:ヴィルジニー・アルバ
メイクアップ&ヘアー:セシリア・エスコ、カルメレ・ソレル、ルベン・サモス(メイク)、オルガ・クルス、(ヘアー)、他
プロダクション・マネージメント:イツィアル・オチョア、ペドロ・サンス、他
録音:アラスネ・アメストイAlazne Ameztoy、イニャーキ・ディエス
特殊効果:マリアノ・ガルシア、ジョン・セラーノ
視覚効果:セリーヌ・ゴリオCeline Goriot
製作者:レイレ・アペジャニス、メリー・コロメル、フアン・ゴードン、他
データ:製作国スペイン=フランス、スペイン語、2019年、サイコ・スリラー、103分、撮影2018年秋クランイン、公開スペイン11月8日、ロシア2020年1月9日、配給Filmax
映画祭・受賞歴:シッチェス映画祭2019コンペティション部門、ラテンビートFF上映、東京国際映画祭コンペティション部門出品
キャスト:ルイス・トサール(マルティン・ウラレス・デ・ウベダ)、ピラール・カストロ(編集者エルガ・パト)、エルネスト・アルテリオ(精神科医アンヘル・サナグスティン)、ベレン・クエスタ(アメリア・ウラレス・デ・ウベダ)、キム・グティエレス(エミリオ)、マカレナ・ガルシア(ロサ)、ハビエル・ボテット(ガラテ)、アルベルト・サン・フアン(W)、ハビエル・ゴディノ(クリストバル・デ・ラ・ホス)、ジルベール・メルキ(レアンドロ・カブレラ)、ラモン・バレラ(マルティンの父親)、ステファニー・マグニン・ベリャ(ドクター・リナレス)、イニィゴ・アランブル(兵士)、他
(4人の主演者、アルテリオ、カストロ、クエスタ、トサール)
ストーリー:編集者エルガ・パトは、心を病んでいる夫をスペイン北部の精神科クリニックに入院させ、列車でマドリードへ戻る途中だった。アンヘル・サナグスティンと名乗る見知らぬ乗客、人格障害を分析するという精神科医と同じ車両に偶然隣り合わせた。膝の上に赤表紙の紙ばさみを載せた精神科医は、自分が扱った特異な患者の症例、ゴミに執着する非常に危険なパラノイア患者の例を饒舌に語った。アンヘルとの偶然の出会いが、エルガの人生を、いや登場人物全員の人生を取り返しのつかないものにしていく。強迫観念、妄想、倒錯、精神錯乱、凝り性などが何層にも重なり合う一連の予測不可能なプロット、不気味な話を聞けるのが「列車で旅する利点の一つ」、お薦めする次第です。
(精神分析医アンヘル・サナグスティンの話を怪しむエルガ・パト)
(饒舌男アンヘル・サナグスティン医師)
★本作にはいわゆるフツウの人間は登場しない。精神科医が語る患者はフラッシュバックで挿入され、症例も多いから場面展開が目まぐるしいということです。下のポスターからはホラーがイメージされ、予告編では、可笑しな登場人物からブラックコメディが連想できる。エルネスト・アルテリオ演ずるアンヘルは、エルガが夫を入院させたクリニックの医師らしく偶然を装っていたようだ。小説だとピラール・カストロ演ずるエルガが軸になっているようだが、映画ではコソボ戦争に従軍して左腕を失って帰還したパラノイア患者マルティンを怪演するルイス・トサールのようだ。彼のこんなヘアー・スタイルは見たことがない。その妹になるのが演技に磨きのかかったベレン・クエスタ、父親がバスク映画の重鎮ラモン・バレラ、役柄が分からない、アルベルト・サン・フアン、マカレナ・ガルシア、キム・グティエレスなど何かの作品で既にご紹介しています。ホラー映画で活躍するハビエル・ボテット、フランスからはジルベール・メルキが出演している。
(上段左から、ルイス・トサール、ピラール・カストロ、エルネスト・アルテリオ
下段左から、ベレン・クエスタ、キム・グティエレス、マカレナ・ガルシア)
(ゴミの山に思案するアンヘル・サナグスティン医師)
(マカレナ・ガルシアとハビエル・ボテット)
(役回りが目下分からないアルベルト・サン・フアン)
★監督アリッツ・モレノ(TIFFアリツ)Aritz Morenoは、1980年サンセバスティアン生れ、監督、脚本家、編集者、製作者、カメラと何でもこなす39歳。2004年、短編デビュー作「Portal mortal」(9分)が、アルメリア・ショートFFでビデオ賞を受賞、2009年ファンタジー「Cotton Candy」(11分)、2010年「¿Por que te vas ?」(8分)、犯罪スリラー「Cólera / Cholera」(7分)がシッチェスFF 2003短編ファンタジック部門に正式出品、MADホラー・フェスでは審査員賞を受賞、ルイス・トサールが主演している。長編デビュー作「Ventajas de viajar en tren」は、2回目のシッチェスFF出品作となった。
(アリッツ・モレノ監督)
(左から、マカレナ・ガルシア、ルイス・トサール、アリッツ・モレノ監督、
エルネスト・アルテリオ、ベレン・クエスタ、シッチェスFF 2019フォトコール)
★モレノ監督談によると「こういうお気に入りの小説を映画化することが夢だった。映画の絶対的な狂気、独創的な脚本を得て、テクニック面でも素晴らしいクルー、自分のデビュー作にこれ以上はないと考えるキャスト陣にも恵まれ、自分の夢を叶えることが出来た」と語った。キャスト陣を一瞥すれば、あながち大袈裟とは言えない。脚本のハビエル・グジョンは、ダニエル・カルパルソロの『インベーダー・ミッション』(12)を共同執筆している。撮影監督のハビエル・アギーレ・エラウソは、「Cólera / Cholera」を手掛けている。
(ルイス・トサールと監督)
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